弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 本件抗告の趣旨は、原決定を取消す、函館地方裁判所所属執行吏Aは同裁判所昭
和二十三年(ヨ)第九五号仮処分事件につき函館市a町b番地原野二千七十五坪の
地上に在る抗告人所有の木材を右地上から他に搬出してはならない、また抗告人が
右地上に在る木材を使用することを禁止してはならないとの裁判を求めるというに
あり、その抗告理由の要旨は末尾添付別紙記載のとおりであり、本件異議申立の理
由の要旨は原決定記載のとおりである。
 証拠として抗告代理人は甲第一号証の一、二、三、第二、三、四号証を提出し、
当裁判所は相手方Bを審尋した。
 よつてまず原審の訴訟手続に抗告人主張のような手続違背があるかどうかの点
(抗告理由第二点)につき判断する。
 抗告人が原決定記載のような理由で原裁判所に対し執行方法に対する異議の申立
をなしたところ、原裁判所は口頭弁論を開かずして審理をなし、職権をもつて執行
吏Aを審尋の上その供述を証拠として異議申立却<要旨第一>下の裁判をなしたこと
は、執行方法に対する異議申立書、Aに対する審尋調書、原決定の各記載に徴し
かである。およそ裁判所の職権による証拠調は現行民事訴訟法の下に
おいては同法第二百六十一条が廃止された結果原則として許されないところである
から、口頭弁論なさない場合においては第一審裁判所は民事訴訟法第百二十五条第
二項によりただ当事者を審尋することができるだけであつて、当事者以外の者を職
権をもつて審尋することは弁論主義の原則に反し違法であると解すべきである。ま
た、執行吏は強制執行の方法に関する異議事件の当事者に該当しないから、民事訴
訟法第百二十五条第二項により当事者として執行吏を審尋することも違法といわな
ければならない。したがつて原裁判所が執行吏Aを職権をもつて審尋しその供述を
証<要旨第二>拠としたのは明かに訴訟手続違背といわざるをえない。しかしなが
ら、訴訟手続の違背は民事訴訟法第四百十四条によつて準用される同法
第三百八十七条の場合すなわち決定の成立手続そのものが法律に違背した場合を除
いては、常に原決定を取消さなければならないものではたく、ただ訴訟手続の違背
が重大且つ広範囲な部分に亘つて存するため、第一審の審理を一抗告審における審
判の基礎として採用できず、殆んど第一審がなかつたに等しい結果となるので、第
一審から審理をやり直した方が審級制度の趣旨に適合すると認められる場合に限
り、第一審に事件を差戻す前提としてのみ原決定を取消すべきものと解すべきであ
る。したがつて、その他の場合にあつては、たとい第一審の訴訟手続の或る部分に
違背があり、これが原決定の内容に影響を及ぼす可能性があつても、抗告審(控訴
審)においては、違背した手続をやり直しまたは除去して自判すればよく、その結
果原決定の結論を相当とすれば、なお抗告を棄却すべきことは同法第四百十四条、
第三百八十四条第二項の規定に徴し明かである。これを本件についてみるに、原審
における前記のような訴訟手続の違背は決定の成立手続そのものが法律に違背した
場合ではなく、また第一審の審理を抗告審における審判の基礎として採用できない
程重大且つ広範囲に亘るものとも認められないから、訴訟手続の違背を理由として
原決定の取消を求める抗告人の主張は採用するわけにはゆかない。
 よつて違背した訴訟手続を除去し、改めて異議申立の当否(抗告理由第一点)に
つき判断する。
 抗告人が相手方両名を被申請人とする函館地方裁判所昭和二十三年(ヨ)第九五
号仮処分申請要件において、昭和二十三年七月二十八日、抗告の趣旨記載の土地に
対する相手方等の占有を解き、これを抗告人の委任する函館地方裁判所所属執行吏
に保管させる、相手方等は右上地に立入つてはならぬ、執行吏は右各項を適当な方
法で公示することができる旨の仮処分決定をえたこと、抗告人の委任をうけた函館
地方裁判所所属執行吏Aが昭和二十三年七月二十九日右仮処分決定の執行をなした
ことは抗告人の主張するところであり、右執行吏Aが昭和二十四年九月十七日右上
地に臨み、該土地に木材を置くのは執行吏の保管を侵するものであるから木材を他
に搬出すべく、もしこれに応じないときは適当な処置をとる旨抗告人に告知すると
ともに、その趣旨を記載した公示板を掲げ、同月二十九日にはCに委嘱して右地上
に在る抗告人所有の木材を一筒所に集積させて同人の監守に付し、さらに同月三十
日には該土地に立入できぬように縄を張りめぐらしたことは甲第一号証の一、二、
三、第二、三、四号証にとつてこれを認めることができる。そもそも、執行吏に係
争土地の保管を命じた仮処分決定中に仮処分債権者が右土地に立入り該土地を使用
することにつき執行吏にこれを許す権限を与えていないときは、仮処分債権者は右
仮処分決定の執行により係争土地に立入り該土地を使用することは許されないもの
といわなければならない(最高裁判所昭和二十四年(オ)第五二号昭和二十六年二
月二十日第三小法廷判決参照)。本件においても執行吏は本件土地の保管を命ぜら
れただけで、抗告人が本件土地に立入り該土地を使用することを許す権限を与えら
れていないことは前段認定のとおりであるが、抗告人が前記仮処分の執行された後
も自由に本件土地に立入り該土地を使用していることは抗告人の自ら主張するとこ
ろであり、執行吏Aが搬出を命じた木材がすべて右仮処分執行後抗告人によつて搬
入されたものであることは相手方Bの審尋の結果によつて認められるところで、右
認定を左右するに足る証拠はない。そうとすれば同執行吏が本件地上に搬入された
木材を搬出し抗告人に対し右地上に立入り木材を使用することを禁止した処置は相
当であつて、これが差止を求める抗告人の異議申立を却下した原決定は結論におい
て正当である。
 よつて民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適
用して主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判宮 原和雄 裁判官 小坂長四郎 裁判官 臼居直道)

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