弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人山田弘之助の上告理由第一点、第三点について。
 論旨第一点は、原判決が、本件事故の発生は上告人A1の過失によるものである
と認定したのは、経験則違背および理由不備の違法があるといい、論旨第三点は、
本件事故につき上告人らが負担すべき損害額は二二万三一二四円であるとした原判
決には、理由不備、理由そごおよび経験則違背の違法があるという。
 しかし、所論の点の原審の各事実認定は、それぞれこれに対応する原判決挙示の
証拠関係に照らして是認し得るところであつて、その判断の過程に所論の違法はな
い。所論は、結局、原審が適法に行なつた証拠の取捨判断および事実認定を非難す
るに帰するものであつて、いずれも採用できない。
 同第二点について。
 論旨は、要するに、被上告人会社が、訴外D貿易株式会社との間の損害賠償請求
事件につき、カリフオルニヤ北部地区米国地方裁判所南部局のなした最終決定に基
づき、訴外E(以下訴外会社という。)に対し支払つた一八五万六七八六円四〇銭
(米貨五一五七ドル七四セント)をもつて本件事故による損害であると認定した原
判決には、理由不備、理由そごの違法がある、というのである。
 しかし、原審は、荷受人D貿易株式会社がアメリカ合衆国において訴外会社に対
し本件羊毛屑のうち五三梱包の損傷による損害賠償請求の訴訟を提起したこと、右
訴訟は、第一次に注意義務違反を、第二次に航路変更を理由としていること、右当
事者間において賠償金額を米貨五一五七ドル七四セントとすること、ならびに、事
実の認定および法律の適用を受ける権利を放棄することを合意し、裁判所からその
旨の決定を受けたこと、訴外会社が昭和三〇年四月一四日D貿易株式会社に右金員
の支払をしたことを認定しているのであつて、原審の右事実認定は、これに対応す
る挙示の証拠に照らして是認することができる。そして、原審は、右事実関係に基
づき、右貨物が荷受人に引き渡された日における本件事故による損害額は、一八五
万六七八六円四〇銭(米貨五一五七ドル七四セント)である旨推認し、訴外会社は
本件事故により同額の損害をこうむつたものである旨判示している。前記裁判所の
最終決定は、その記載内容に徴すれば、わが国の裁判上の和解とその実質を同じく
するものと考えられるが、原審が、右決定に基づき支払われた金額をもつて、本件
事故による損害額であると推認したからといつて、特段の事情の認められないかぎ
り、原審裁判所に任された自由心証による事実認定の範囲をこえたものとはいい難
く、原審の前記判断は違法とはいえない。
 所論は、右と異なる独自の見解に基づき、原審が適法に行なつた証拠の取捨判断
および事実認定を非難するに帰するものであつて、採用できない。
 同第四点について。
 論旨は、上告人らは商法五八八条、五八九条により本件事故につき責任がない旨
の上告人らの主張を排斥した原判決には、理由不備、理由そごの違法があり、かつ
右各法条ならびに商法五六九条、五七七条の解釈を誤つた違法がある、というので
ある。
 原審の確定したところによると、訴外会社は、Fとの間で海洋運送契約を締結し、
これに基づいて原判示の羊毛屑梱包を運送中、神戸港において運送の便宜のためフ
イリツピン・トランスポート号からチヤイナ・トランスポート号に右梱包を積み替
えることとし、上告人会社に右両船間の運送を依頼し、上告人会社が上告人A1を
してこれに従事せしめたところ、右積替作業中に本件事故が発生したのであるが、
訴外会社の代理店であるG商船株式会社は昭和二七年四月一六日上告人会社に対し
運送賃その他として三万一四七円一三銭をなんらの留保なくして支払い、訴外会社
は右貨物がチヤイナ・トランスポート号に積み込まれた昭和二六年四月五日から一
年間上告人らに対し本件事故による損害賠償の請求をしなかつた、というのである。
 右の事実関係によれば、訴外会社と上告人会社の間で締結された前記契約は、訴
外会社がFとの間の元請運送契約を履行するための下請運送契約であることが明ら
かであるから、もし上告人会社が商法五六九条にいう「物品ノ運送ヲ為スヲ業トス
ル者」にあたるならば(乙第五号証のA2倉庫株式会社定款によると上告人会社は
運送業を事業目的の一部にしていることがうかがえる)、上告人会社の本件事故に
ついての責任は、商法五八八条一項の適用により、荷受人である訴外会社の代理店
であるG商船株式会社がなんらの留保もしないで運送賃その他として三万一四七円
一三銭を上告人会社に支払つたことにより消滅し、また、同法五八九条、五六六条
一項の適用により、チヤイナ・トランスポート号に本件貨物が積み込まれた昭和二
六年四月五日から一年を徒過したことにより消滅したことになる。
 しかるに、原判決は、「訴外会社が運送の便宜のため被控訴会社(上告人会社)
に右両船間の運送を請け負わせたのであつて、訴外会社は荷送人でも荷受人でもな
く、被控訴会社は訴外会社が運送のため使用した者に当るというべきである。従つ
て、右主張は前提を欠き理由がない。」と判示して、本件につき商法五八八条、五
八九条を適用すべき旨の上告人らの主張を排斥しているのであつて、前記説示に照
らせば、原判決は、審理不尽ならびに経験則違背のそしりを免れない。
 ところで、商法五八八条二項および五八九条の準用する五六六条三項にいう「運
送人ニ悪意アリタル場合」とは、運送人が運送品に毀損又は一部滅失のあることを
知つて引き渡した場合をいうものと解するのを相当とするところ、本件において原
審の確定した事実関係によれば、上告人会社は訴外会社に対し本件事故による羊毛
屑梱包の毀損を知つてこれを引き渡したことが明らかであるから、上告人会社は、
商法五八八条一項および五六六条一項を準用する五八九条の適用を受けるとしても、
本件事故による損害の賠償責任を免れない。また、商法五八八条、五八九条は運送
人の債務不履行による損害賠償責任の免責に関する規定であるところ、被上告人は
上告人A1に対し不法行為による損害賠償を訴求するのであるから、上告人A1に
ついては、前記法条を適用する余地はない。従つて、上告人らに本件事故による損
害賠償責任があるとした原判決は、結局正当であるといわなければならない。論旨
は理由がない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、
主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎

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