弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 論旨は要するに、本件建築許可に附せられた条件、ことに本件広場設定事業によ
り、都知事が移転を命じた場合は三ケ月以内にその物件を完全に広場境域外に撤去
すること、これが撤去により生ずる総ての損失については都知事に対しその補償を
一切要求しないこと、許可を受けた建築物は一切担保に供しないこと等を定めた条
項を有効であるとした原判决は、憲法二九条に違反するものであるというのである。
 しかし、都市計画法一一条ノ二は、都市計画として内閣の認可を受けた広場の境
域内等における建築物に関する制限で都市計画上必要なものは、政令をもつてこれ
を定める旨を規定し、この法律の規定に基づき定められた同法施行令一一条ノ二及
び一二条は、右広場の境域内等において建築物を新築、改築又は増築せんとする者
は都道府県知事の許可を受くべき旨を規定し、また右許可には、都市計画上必要な
条件を附することを得る旨を規定しており、従つて右許可を与えず又はその許可を
与える場合においてこれに条件を附し、およびその条件の履行を命ずる等の建築物
に関する制限は、いずれも都市計画上必要な場合に限るものであることは、前記法
令の規定上明瞭であるといわねばならない。ところで、前記法令の規定による建築
物に関する制限は、他面において財産権に対する制限となることは否定しえないと
ころであるが、そもそも都市計画とは、「交通、衛生、保安、防空、経済等ニ関シ
永久ニ公共ノ安寧ヲ維持シ又ハ福利ヲ増進スル為ノ重要施設ノ計画ニシテ市若ハ主
務大臣ノ指定スル町村ノ区域内ニ於テ又ハ其ノ区域外ニ亘リ施行スヘキモノ」をい
うとせられ(都市計画法一条)、それが公共の福祉の為に必要なものであることは
いうまでもないところであるから、前記の建築物に関する制限が、他面において財
産権に対する制限であつても、それが都市計画上必要なものである限りは公共の福
祉のための制限と解すべくこれを違憲といえないことは、憲法二九条により明らか
である。
 よつて本件許可に附した条件の所論条項が、都市計画上必要なものかどうかを考
えてみるに、原判決によれば、本件建物を建築した土地は、東京都都市計画におい
て国鉄中央線荻窪駅前広場に指定され、昭和二二年一一月二六日戦災復興院告示第
一二三号をもつて右駅前広場設定事業施行年度の決定をみたが、右決定は昭和二四
年五月一〇日廃止されたところ、上告人A1、同A2、同A3、同A4、同A5お
よび訴外D等は、本件土地上に建物を建築しようと思い、昭和二四年一二月頃あら
かじめ杉並区役所に建築を許可して貰えるかどうかを問い合せたところ、同区役所
のE建築課長は、当時右土地に対する荻窪駅前広場設定事業施行年度の決定は廃止
せられていたが、再びその施行年度の決定があるかどうかは不明であつたので、許
可する意向を洩らした、そこで、右上告人らおよび訴外Dは、同年一二月一三日被
上告人に対し建築許可の申請をしたが、杉並区長は右土地は駅前広場に指定されて
いるので、慎重を期して東京都建設局にその指示を仰いだところ、東京都からは、
右広場設定事業はその費用が水害対策費に流用され予算がなくなつたため、一時延
期的にその施行が廃止されたが、予算が取れ次第事業を施行することになるから、
その施行に支障を来すことのないよう建築許可は一応見合せられたい旨指示してき
たので、同区長は右上告人らおよび訴外Dに対し右指示の趣旨を伝えて建築申請を
不許可とした、ところが同人らはさらに同区長に対し、広場設定事業施行の場合は
いかなる条件でも異議をいわず新築した建物を撤去すべきにつき、建築を許可せら
れたい旨懇請し、その旨の請書(乙第一号証)又は念書(乙第四号証)を提出した
ので、同区長は東京都建設局とも協議し、右上告人らおよび訴外Dより、あらかじ
め本件条項を附することの承諾をえた上、昭和二五年三月二三日附で同人等に対し
右条項を附した建築許可をなしたこと、また上告人A6は、同年七月二九日本件土
地上に建物を建築するため、被上告人に対しその許可申請をなしたので、杉並区長
は、前記上告人らに対して附したと同一の条項を附することを承諾するならば、建
築許可をなす旨申入れたところ、これを承諾したので、同年八月二日附で本件条項
を附した建築許可をしたことが認められるというのである。そこで、以上原審の確
定した事実を綜合すれば、本件広場設定事業は、予算の関係上一時施行が延期され
たが、予算の成立とともに施行されることになつていたものであつて、その施行の
際は、本件土地は都市計画法一六条によつて収用又は使用されうることが明かであ
り、かかる土地の上に新たに建築物を設置しても、右事業の実施に伴い除却を要す
るに至ることも明かであつたばかりでなく、本件許可については、前記出願者らは、
広場設定事業施行の場合は、いかなる条件でも異議をいわず、建物を撤去すべき旨
の書面を差し入れ、又はその旨を承諾していたのであつて、このような事実関係の
下においては、本件許可に際し、無償で撤去を命じうる等の所論条項をこれに附し
たことは、都市計画事業たる本件広場設定事業の実施上必要やむを得ない制限であ
つたということができる。なお、所論は、右条項によつて移転を命ずるについては
都知事は換地予定地を指定すべきであるというが、本件の場合においてこれを指定
せねばならぬと解すべき法令上の根拠は何ら認められない。また、所論は本件条項
(一)に「広場事業施行に必要な場合」との制限を附していないのは違法であると
いうが、そのような文言がなくとも、右条項が本件広場設定事業施行のため必要と
認められる適法な建物除去命令があつた場合に関するものと解すべきことは勿論で
ある。
 されば、本件許可に附した条件の所論条項には違法、違憲の点は認められず、所
論は採るを得ない。
 よつて民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条一項本文に従い、裁判官全員一致
の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    奥   野   健   一

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