弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       本件抗告を棄却する。
         理    由
 本件抗告の趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反
,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
 なお,所論は,確定判決の事実認定に供された証拠及び第5次再審請求までに提
出された証拠に新証拠であるA作成のノート(以下「Aノート」という。)を加えれ
ば,申立人に10分間の犯行機会があったとする確定判決の認定には,合理的な疑
いが生じるというので,この点について,職権で判断を加える。
 Aは,本件犯行当時所轄のB警察署長であった者であるが,同人が当時作成したA
ノートには,Cが捜査官に対して,本件犯行当日,同女が申立人の後を追ってD方を
出てから,Eと途中で出会い,共に本件犯行現場の公民館に行ったと述べた旨の記
載がある。他方,本件犯行発生直後の捜査段階,確定裁判の公判段階及び再審請求
審の審理段階におけるCの供述は,いずれも,D方から申立人の後を追って公民館へ
行った後,D方に雑巾を取りに戻り,再びD方から公民館へ向かった時に,途中でE
と出会って共に公民館に行ったのであり,それゆえ,CがD方に雑巾を取りに戻るた
め公民館を出てから再び公民館に到着するまでの約10分間,申立人が1人で公民
館にいたというものである。これによれば,Aノートの上記記載は,Cの上記供述の
うち,同女がD方を出てから途中でEと出会って共に公民館に行ったのが2回目の公
民館行きの時であるという点を弾劾する性質を有するものと認められる。しかしな
がら,Cの上記供述は,本件犯行発生直後の捜査段階から確定裁判の公判段階,再
審請求審の審理段階を通じて一貫したものである上,E,F,G等の関係者の供述と
も符合していて,信用性が高いものと認められる。これに対し,Aノートの上記記
載は,上記関係者の供述と符合しないものである上,その記載形式からしても,A
自身がCから直接聴いたものではなく,捜査の過程で他の捜査官から伝え聞いた情
報を記載したもので,その正確性についてC本人に対する確認手続も経ていないと
推認されるから,Cの上記供述と比較して証拠価値が乏しいものといわざるを得な
い。また,所論が指摘するAノートのその余の記載も,証拠価値が乏しく,Cの上記
供述を弾劾するに足りるものとはいえない。このように,新証拠であるAノートを
考慮に入れても,Cの上記供述の証明力は,何ら減殺されるものではないというべ
きである。
 以上によれば,Cの上記供述に加えてE等の関係者の供述をもとに,申立人に10
分間の犯行機会があったとした確定判決の認定には,合理的な疑いが生じる余地は
ないというべきであるから,その余の点について論じるまでもなく,Aノートが刑
訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に当たらないとした
原々決定及びこれを是認した原決定の判断は,正当である。
 よって,同法434条,426条1項により,裁判官全員一致の意見で,主文の
とおり決定する。
(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤
武久 裁判官 横尾和子)

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