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平成22年3月8日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成20年第2006号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成21年11月27日
判決要旨会社の従業員に対する労務提供の内容ないし方法に関する注意義務違反
が雇用契約上の債務不履行に当たるとする損害賠償請求について,商事消
滅時効の成立を認めた事例
判決
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,790万1895円及びこれに対する平成20年8月
7日(訴状送達の日)から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
被告は,平成10年6月8日から平成15年1月31日まで(実質は平成1
4年12月末日まで)原告の嘱託社員であり,平成12年1月から退職するま
で中国上海に駐在していた。原告は,被告が,この駐在中,原告の中国におけ
る事業責任者としての地位にありながら,次の3つの行為をし,これらが雇用
契約上の債務不履行に該当すると主張して,これに基づく損害賠償及び商事法
定利率による遅延損害金を請求する。
①売却先からの注文がないのに商品である金粉を原告本社に出荷させ,上海
の倉庫に在庫して放置して,前記金粉が錆びて価値を失わせた行為(以下「本
件金粉在庫行為」という。)
②原告と取引先であるA貿易有限公司(以下「A」という。)との間の合意
によってAから原告に対して支払われるものとして被告が受領した現金の一
部を原告本社に送金するのを怠った行為(以下「本件送金懈怠行為」という。)
③原告がAを介して大連B貿易有限公司(以下「大連B」という。)に販売
した商品の売掛金について,原告本社,Aのいずれの了解も得ずに,大連B
に対しこれを免除した行為(以下「本件売掛金免除行為」という。)
被告は,被告が本件金粉在庫行為,本件送金懈怠行為及び本件売掛金免除行
為(以下これらをまとめて「本件各行為」という。)の当時,原告の中国にお
ける事業責任者としての地位にあったことを争い,本件各行為についてもそれ
ぞれ争うほか,原告の請求について商事消滅時効が成立しているとの抗弁を主
張する。
なお,原告は,本訴提起時には,本件各行為のほか,現地法人を設立するた
め原告本社から送金を受けた仮払金について,法人の設立ができなかったこと
からこれを返金すべきであるのに,その一部を返金しなかった行為についても,
同様の損害賠償等を請求していたが,弁論準備終結後の口頭弁論期日において
これを取り下げた。
1前提事実(証拠等により認定した事実については,その末尾に当該証拠等を
挙示する。)
(1)原告は,捺染用顔料樹脂等の製造販売を業とする株式会社である。被告
は,平成10年6月8日から平成15年1月31日まで(実質は平成14年
12月末日まで)原告の嘱託社員であり,平成12年1月から退職するまで
中国上海に駐在していた。
原告代表者は,当時営業部長ないし副社長であって,被告の上司として中
国における事業を職掌していた(以下原告代表者を時期にかかわらず「C副
社長」という。)。また,原告の従業員Dは,平成6年10月ころから,原
告の中国事業を担当し,被告が退職した後はその業務を引き継いだ。
(甲9から11まで,甲38,甲39,弁論の全趣旨)
(2)原告は,かつて,中国への商品の輸出について,名古屋市に所在していた
商社であるB株式会社を窓口としていた。そして,同社は,その関連会社で
ある上海所在の上海B貿易有限公司に商品を販売し,更に上海B貿易有限公
司が,中国国内各地に存在する関連会社の大連B等の各B貿易有限公司(以
下「Bグループ各社」という。)に商品を販売し,そこから末端のユーザー
に商品が流れるようになっていた。
しかし,平成11年12月ころ,前記B株式会社が倒産し,更に上海B貿
易有限公司にも問題が生じたため,上海B貿易有限公司の営業がAに譲渡さ
れ,その後,原告は,中国の外貿を通じてAに商品を販売し,Aが中国国内
のBグループ各社に商品を売却するようになった。
(乙6,証人D,被告本人,弁論の全趣旨)
(3)さらに,平成12年12月ころには,Aにおける売掛金の管理にも問題が
生じたため,原告の中国事務所が,Aの売掛金の実質的な管理をするように
なり,被告が同事務所のリーダーという立場でその業務を担当することにな
った。
(甲10,甲11,甲38,被告本人)
(4)被告は,原告に対し,平成21年3月19日の本件弁論準備手続におい
て,商事消滅時効を援用するとの意思表示をした。
(当裁判所に顕著)
2争点
(1)本件金粉在庫行為
(原告の主張)
原告の中国事業においては,原告本社から中国国内に商品を発送するにつ
いて,予め中国国内における販売先がBグループ各社のいずれかに具体的に
存在することが求められており,被告には,中国事業の責任者として,雇用
契約に基づき,販売先が具体的に存在することを確認してから原告に商品を
輸出するよう指示すべき注意義務があった。
しかし,被告は,平成12年1月に上海に赴任した後,具体的な販売先の
存在を十分に確認することなく,青島B貿易有限公司(以下「青島B」とい
う。)からの発注分として,金粉(型番E−7,以下「本件金粉」という。)
合計3tを原告本社に発注し,原告の上海倉庫に保管した。ところが,実際
には,青島Bは前記の発注をしておらず,被告はそのことを原告本社に秘し
たまま本件金粉を倉庫に放置したため,処分の機会がなくなり,引取先のあ
った150㎏を除く2850㎏の在庫が錆びてその価値を喪失した。
したがって,被告は,前記注意義務に違反しており,これにより,本件金
粉の現地での単価は,75.60元/㎏であり,平成20年6月30日現在,
1元=15.33円であるので,原告に330万3001円の損害が生じて
いるので,その損害を賠償する義務がある。
(被告の主張)
ア被告は,原告の中国事務所において,商品流通の事務を取り扱っていた
が,あくまでも,原告本社の指図に従って前記事務を取り扱っており,原
告が指図なしに無断で商品を発注し,見込みの在庫をさせたことはない。
イ仮に,被告が見込みの在庫をさせたとしても,商取引一般からみて雇用
契約上の債務不履行には当たらない。また,本件金粉が錆びたことは,す
べて被告の発注に起因するものではなく,本件金粉のその後の保管状況等
の影響を受けている。
(2)本件送金懈怠行為
(原告の主張)
被告には,原告の中国事業の責任者として,現地において,Aからの金員
の回収等を管理し,回収した金員を適切に記帳するなどして,原告本社に確
実に当該金員が送金されるよう配慮すべき雇用契約上の注意義務があった。
ところで,原告とAとは,平成13年12月11日,契約番号DM−04
の取引の代金支払に関し,Aの原告に対する過払分を控除し,Aが原告に対
し2万9455元を支払う旨の合意をし(この合意を以下「本件合意」とい
う。),Aは,被告に対し,本件合意に基づく弁済の趣旨で,同額の現金を
交付した。しかし,被告は,原告本社に対し,340元のみ原告の帳簿に記
載するにとどまり,残額2万9115元(44万6332円)を送金しなか
った。
したがって,被告は,前記注意義務に違反しており,これにより,原告に
44万6332円の損害が生じているので,その損害を賠償する義務がある。
(被告の主張)
被告は,本件合意をするための手続に関与した記憶はあるが,本件合意に
基づく支払がどのようにされたかは知らない。
原告の中国事務所における資金は,中国人スタッフの名義の銀行口座によ
って管理されており,Aの原告に対する支払も同口座において管理されてい
るから,被告が無断でAからの金員を取得することはできない。
(3)本件売掛金免除行為
(原告の主張)
被告には,原告の中国事業の責任者として,原告のBグループ各社に対す
る売掛金を適切に管理,回収し,かつ売掛先からの回収が困難な場合,必要
な調査を遂げた上で,事前に原告本社及びAの了解を得て債務免除等をすべ
き雇用契約上の注意義務があった。
被告は,平成12年当時,上記1(3)記載のとおり,Aの売掛金を実質的に
管理していた。このころ,Aは,大連Bに対し,27万0878.20元(4
15万2562円)の売掛金債権を有していたが,被告は,原告本社,Aの
いずれの了解も得ずに,上記債権の免除をした。
したがって,被告は,前記注意義務に違反しており,これにより,原告は,
Aから,上記金額の負担を求められており,同額の損害が生じているので,
その損害を賠償する義務がある。
(被告の主張)
被告は,Aの大連Bに対する売掛金債権の回収の状況などを調査し,把握
していたが,Aが大連Bに対し原告主張の額の売掛金債権を有していたかは
知らない。また,被告には,その額いかんにかかわらず,前記売掛金債権を
免除する権限はなく,免除をしたこともない。
(4)本件各行為に係る被告の権限
(原告の主張)
C副社長は,中国事業を職掌していたが,形式的なものであり,実際には,
中国担当の現地における最終責任者は,被告である。また,Dは,被告の指
揮命令に基づいて,業務を執行していたにすぎない。
被告は,設立の予定されていた原告子会社において,総責任者となること
が予定されていたし,被告自身が原告の中国担当責任者である旨の確認書に
署名捺印していることからして,被告が中国事業の最終責任者である。
(被告の主張)
被告は,原告の中国事務所における売掛金や経費の収支を,すべて上司で
あるC副社長やDに報告している。また,本件合意や売掛金免除については,
C副社長の決裁が必要であり,実際に決裁を得ている。
(5)商事消滅時効
(被告の主張)
ア原告と被告との間の雇用契約は,被告会社の行為として商行為であると
推定されるので,その債務不履行に基づく損害賠償請求権については商法
522条が適用され,その消滅時効期間は5年である。そして,本訴請求
債権の時効の起算点は,遅くとも原告と被告との間の雇用契約が終了した
平成15年1月31日であり,本訴が提起された平成20年7月1日より
前に時効期間が経過しているから,被告は,この時効を援用する。
イ原告が下記で指摘する最高裁判例は,国が負う安全配慮義務に関し会計
法30条の適用の是非が問題となった事案であり,本件とは事案を異にす
る。また,私企業における雇用契約から信義則上生じる安全配慮義務違反
に基づく損害賠償請求権について,民法168条の適用を受ける旨を判示
する裁判例もあるが,これらはじん肺事件のような特殊な安全配慮義務違
反に関する損害賠償請求権についてのものであり,本件とは事案を異にす
る。
(原告の主張)
株式会社が使用人との間で締結する雇用契約については,商法522条は
適用されないものというべきである。商法522条は,会社と雇用契約関係
にある従業員が安全配慮義務違反に基づいて損害賠償を請求する場合(最高
裁昭和50年2月25日第三小法廷判決・民集29巻2号143頁)のよう
に,商人が行った行為であっても適用されない場合があるところ,本件の損
害賠償請求権は,雇用契約の本来の給付義務である労務の提供をしなかった
ことに基づく損害賠償請求ではなく,労務提供に際して付随的に会社に損害
を与えないようにすべき義務の違反があったことに基づく損害賠償請求であ
って,前記の最高裁判例等と同様に,商人の取引について早期の権利義務関
係の確定を図る必要があるとの同条の趣旨が妥当しないし,本件のような従
業員の不適切な業務の執行は,ある程度の期間を経過して初めて発覚するも
のも少なくないから,本件の損害賠償請求権の消滅時効については,商法5
22条を適用せず,その期間は民法167条に基づいて10年とすべきであ
る。
第3争点に対する判断
1本件請求については,上記第2,1(4)記載のとおり,被告が商事消滅時効を
援用する旨の意思表示をしているので,この点(争点(5))についてまず判断す
る。
2株式会社とその従業員との間の雇用契約は,会社がその事業のためにする行
為であるから,商行為である(会社法5条)。そして,商行為によって生じた
債権は,5年間の短期消滅時効が定められている(商法522条)。そこで,
本件で原告が請求する雇用契約上の債務不履行に基づく損害賠償請求権が,商
法522条の「商行為によって生じた債権」といえるかについて,検討する。
商行為である契約上の債務の不履行に基づく損害賠償請求権は,通常はその
債務がその態様を変じたにすぎないものであるから,商法522条の「商行為
によって生じた債権」に該当するというべきであるが,その債務不履行責任が,
株式会社の取締役の会社に対する損害賠償責任のように,法によってその内容
が加重された特殊な責任である,あるいは,商人である使用者の被用者に対す
る安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任のように,本体的給付から離れた付
随的義務を原因とする責任であるなど,契約上の債務が単に態様を変じたにす
ぎないということができず,商事取引における迅速決済の要請が妥当しない場
合には,前記の「商行為によって生じた債権」に該当しないものと解するのが
相当である(最高裁昭和47年5月25日第一小法廷判決・裁判集民事106
号153頁,最高裁平成6年2月22日第三小法廷判決・民集48巻2号44
1頁,最高裁平成20年1月28日第二小法廷判決・民集62巻1号128頁
参照)。
3これを本件についてみると,本訴請求に係る債務不履行責任は,雇用契約に
おける被用者の本体的給付義務である労務の提供がないという単純な不履行に
基づくものではないものの,労務の提供の内容ないし方法に関する注意義務違
反を原因とするものであって,本体的給付から離れた付随的義務を原因とする
ものということはできない。また,商事取引における迅速決済の要請について
も,例えば商人間の売買取引における債権債務関係のような場合と比較すれば,
会社における雇用契約についてその要請の程度が異なるということはできるけ
れども,会社にとって,雇用契約に基づく債権債務関係を他の債権債務と同様
に迅速に決済する要請がないとはいえない。原告は,本件のような従業員の不
適切な業務の執行による債務不履行は,ある程度の期間を経過して初めて発覚
するものも少なくないなどとも指摘するが,会社における従業員の労務の提供
については,取締役の任務懈怠行為とは異なり,会社がその内容を適切に管理
して把握すべきものであるから,このような指摘は当を得ない。
そうすると,本訴請求に係る債務不履行責任は,商行為である雇用契約上の
債務がその態様を変じたにすぎないものとして,商法522条の「商行為によ
って生じた債権」に該当するものというべきであるから,同条により,その消
滅時効期間は5年となる。そして,本訴請求債権の時効の起算点は,遅くとも
原告と被告との間の雇用契約が終了した平成15年1月31日であり,本訴が
提起された平成20年7月1日より前に時効期間が経過しているから,本訴請
求債権についてはいずれも時効が成立する。
第4結語
以上によれば,被告の商事消滅時効の抗弁に理由があるから,本訴請求の請
求原因の成否にかかわらず,原告の請求はいずれも理由がなく,棄却する。訴
訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用する。
京都地方裁判所第1民事部
裁判官小堀悟

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