弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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      主      文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 主位的請求
  (1)ア 被控訴人鈴鹿税務署長が平成13年4月18日付けでした控訴人(選定
当事者)及び選定者ら(以下,控訴人と選定者らを併せて「控訴人ら」という。)
の相続税に係る更正の請求に対する,更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り
消す。
   イ 被控訴人鈴鹿税務署長は,控訴人に対し,26万3500円を超える相
続税額,選定者Aに対し,25万6500円を超える相続税額,選定者Bに対し,
414万7100円を超える相続税額,選定者Cに対し,25万6500円を超え
る相続税額を取り消せ。
  (2) 被控訴人国は,控訴人に対し,424万5100円,選定者Aに対し,4
25万2100円,選定者Bに対し,1163万3100円,選定者Cに対し,4
25万2100円,及びこれらに対する平成12年10月31日から各支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。
 3 予備的請求
 被控訴人国は,控訴人に対し,524万5100円,選定者Aに対し,52
5万2100円,選定者Bに対し,1263万3100円,選定者Cに対し,52
5万2100円,及びこれらに対する平成12年12月8日から各支払済みまで年
5分の割合による金員を支払え。
 4 訴訟費用は1,2審とも被控訴人らの負担とする。
 5 3項につき仮執行宣言
第2 事案の概要
 1本件は,Dの相続人である控訴人及び選定者らが,相続財産でない財産を誤
って相続財産として相続税の申告をしたとして,遺産分割協議書成立後に相続税法
32条1号に基づく更正の請求をしたのに対して,被控訴人鈴鹿税務署長が同請求
を国税通則法23条1項1号に基づくものであるとして期間徒過を理由に更正すべ
き理由がない旨の通知をしたことは違法であるとして,主位的に,①被控訴人鈴鹿
税務署長に対して,控訴の趣旨2項(1)ア及びイ記載の請求を,②被控訴人国に対し
て,不当利得返還請求権に基づき,過分に支払った相続税相当額の返還及びこれに
対する受益の日の翌日である平成12年10月31日から支払済みまで民法所定年
5分の割合による遅延損害金を請求し,(上記①,②の請求は選択的併合),予備
的に,③鈴鹿税務署
の係官が,相続財産でない財産を除外した更正の請求の取下げとそれを含む更正の
請求書又は修正申告書の提出を求める誤った指導をし,また被控訴人鈴鹿税務署長
が違法な更正処分をしたため,不当に相続税を負担させられ,精神的苦痛も被った
として,国家賠償法1条1項に基づき,過分に支払った相続税相当額及び慰謝料各
100万円の賠償及びこれに対する不法行為の後である平成12年12月8日から
支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を請求したが,原審が控訴人
の請求を棄却したため,これを不服とする控訴人が控訴した事案である。
 2 争いのない事実等,争点,争点に関する当事者の主張は当審における控訴人
の主張として3のとおりであるほか,原判決「事実及び理由」欄「第2 事案の概
要」の「1」ないし「3」に摘示のとおりであるから,これを引用する。
 3 当審における控訴人の主張
  (1) 本件においては,相続人の一人である選定者Cが本件財産は被相続人の遺
産であると主張し,α院所有の財産であることを争ったため,本件財産を除外した
相続税の申告をすることができなかったもので,原判決は相続開始時に遺産の範囲
を決定できなかったという本件の実情を理解しないものである。
  (2) 平成15年の相続税法の改正により,更正の請求ができる場合として「相
続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に関する訴えに
ついての判決があったこと」(相続税法32条5号,相続税法施行令の一部を改正
する政令8条)が付加されたが,この改正は,本件のように相続開始時に遺産の範
囲が確定しないことがあることを想定したものであり,本件に相続税法32条の適
用あるいは類推適用がないとした原判決は誤っている。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も控訴人の請求はいずれも理由がないと判断するが,その理由は,
当審における控訴人の主張に対する判断として,2のとおりであるほかは,原判決
「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」に説示のとおりであるから,こ
れを引用する。 
 2 当審における控訴人の主張に対する判断
  (1) 控訴人は,共同相続人の一人が反対する以上,本件財産を除外した相続税
の申告をすることができなかったと主張するが,相続税の申告はその納税義務者が
個別に行うべきものであるところ(相続税法27条1項),相続税の申告書の提出
先の税務署長が同一である場合には,共同して申告しうるとされているにすぎない
ものであるから(同条5項),共同相続人間で遺産の範囲につき争いがある場合に
は,各相続人が各人の認識にしたがって個別に申告することが可能であり,本件に
おいて本件財産を除外した申告ができなかったとする控訴人の主張は採用すること
ができない。
  (2) 控訴人主張の相続税法の改正は,改正前には,除斥期間経過後に,共同相
続人の一人が判決等により納付すべき相続税額が減少したとして国税通則法による
更正の請求をし,これが認められた場合には納付すべき相続税額が増加する者につ
いて,増額更正をする根拠となる規定が存在しなかったため,更正の請求の特則事
由として,相続若しくは遺贈又は贈与により取得した財産についての権利の帰属に
関する訴えについての判決があった場合を新たに追加したものであるから,上記改
正が相続開始時に遺産の範囲が確定しないことを想定したものであるとの控訴人の
主張は採用することができない。
 3 以上によれば,控訴人の控訴は理由がないから,本件控訴を棄却することと
し,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
  裁判長裁判官 野   田   武   明
裁判官 丸   地   明   子
    裁判官 鬼   頭   清   貴

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