弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決のうち平成11年分の所得税に係る過少申告
加算税賦課決定の取消請求に関する部分を破棄する。
2前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
3上告人のその余の上告を棄却する。
4訴訟の総費用は,これを100分し,その3を被上
告人の負担とし,その余を上告人の負担とする。
理由
上告代理人鳥飼重和ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除
く。)について
1本件は,上告人が取締役を務めていた会社の親会社である米国法人から付与
されたストックオプションを行使して得た権利行使益について,これが所得税法2
8条1項所定の給与所得に当たるとして被上告人のした上告人の平成10年分の所
得税に係る更正並びに同11年分の所得税に係る更正及び過少申告加算税賦課決定
が争われている事案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)上告人は,平成4年7月16日から同11年4月30日までA株式会社の
取締役の地位にあり,同社在職中に,同社の発行済み株式の全部を有している米国
法人であるB社からそのストックオプション制度に基づきストックオプションを付
与された。上告人は,これを行使し,同10年に6億9649万1740円の,同
11年に3億9258万1867円の各権利行使益を得た。
(2)上告人の平成10年分及び同11年分の所得税に係る課税処分等の経緯
は,次のとおりである。
ア平成10年分の所得税
上告人は,被上告人に対し,平成11年3月8日,平成10年分の所得税につ
き,上記権利行使益が一時所得に当たるとして確定申告をした。被上告人は,同1
1年12月24日付けで,同権利行使益が給与所得に当たるとして増額更正及び過
少申告加算税賦課決定をした。
イ平成11年分の所得税
上告人は,被上告人に対し,平成12年2月29日,平成11年分の所得税につ
き,上記権利行使益(以下「本件権利行使益」という。)が一時所得に当たるとし
て確定申告をした。被上告人は,同12年10月31日付けで,本件権利行使益が
給与所得に当たるとして増額更正及び過少申告加算税賦課決定をした。上告人は,
被上告人に対し,同年12月22日,上記各処分を不服として異議申立てをした。
被上告人は,同13年3月21日付けで,本件権利行使益は給与所得に当たるとし
た上で,それ以外の点を理由として上記各処分の一部を取り消す旨の決定(以下,
これにより一部取り消された後の平成11年分の所得税に係る過少申告加算税賦課
決定を「本件賦課決定」という。)をした。
(3)我が国においては,平成7年法律第128号による特定新規事業実施円滑
化臨時措置法の改正により特定の株式未公開会社においてストックオプション制度
を導入することが可能となり,その後,平成9年法律第56号及び平成13年法律
第128号による商法の改正によりすべての株式会社においてストックオプション
制度を利用するための法整備が行われ,これらの法律の改正を受けて,ストックオ
プションに関する課税上の取扱いに関しても,租税特別措置法や所得税法施行令の
改正が行われたが,外国法人から付与されたストックオプションに係る課税上の取
扱いに関しては,今日に至るまで法令上特別の定めは置かれていない。
(4)東京国税局直税部長が監修し,同局所得税課長が編者となり,財団法人大
蔵財務協会が発行した「回答事例による所得税質疑応答集」昭和60年版には,外
国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に付与されたストックオ
プションの権利行使益については,ストックオプションが給与等に代えて付与され
たと認められるとき以外は一時所得として課税されることになるという趣旨が述べ
られ,平成6年版までの「回答事例による所得税質疑応答集」においても同旨の記
述が踏襲されていた。また,国税庁審理室補佐が週刊税務通信1881号(昭和6
0年5月6日号)に執筆した「株式購入選択権が与えられた場合の課税関係」と題
する回答には,外国法人である親会社から日本法人である子会社の従業員等に株式
購入選択権が与えられた場合の課税関係について,株式の時価と選択権の行使価額
との差額は原則として一時所得として課税されることになるものと考える旨の記述
があった。課税実務においても,平成9年分の所得税の確定申告がされる時期ころ
までは,このようなストックオプションの権利行使益を一時所得として取り扱う例
が多かった。
しかしながら,平成10年分の所得税の確定申告の時期以降は,課税実務上,ス
トックオプションの権利行使益を給与所得とする統一的な取扱いがされるようにな
り,平成10年7月に発行された「回答事例による所得税質疑応答集」平成10年
版においても,外国法人である親会社から付与されたストックオプションの行使に
係る課税関係は,株式の市場価額と権利行使価格との差額が給与所得として課税さ
れることになる旨の記述がされた。ところが,そのころに至っても,外国法人であ
る親会社から付与されたストックオプションの権利行使益の課税上の取扱いが所得
税基本通達その他の通達において明記されることはなく,これが明記されたのは,
平成14年6月24日付け課個2−5ほかによる所得税基本通達23∼35共−6
の改正によってであった。
3原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断し,本件賦課決
定の取消請求を棄却すべきものとした。
上告人が平成11年分の所得税につき本件権利行使益を一時所得として申告した
ことにより,これが給与所得に当たるものとしては上記所得税の税額の計算の基礎
とされていなかったことについて,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」が
あると認めることはできない。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてそ
の違反者に対して課されるものであり,これによって,当初から適正に申告し納税
した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による
納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙
げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば,過少申告があっても例外
的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定めた「正当
な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない
客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者
に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが
相当である(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷判決
・民集60巻4号1611頁,最高裁平成16年(行ヒ)第86号,第87号同1
8年4月25日第三小法廷判決・民集60巻4号1728頁参照)。
前記事実関係等によれば,課税庁は,外国法人である親会社から日本法人である
子会社の従業員等に付与されたストックオプションの権利行使益の所得税法上の所
得区分に関して,かつては一時所得として取り扱っており,課税庁の職員が監修等
をした公刊物でもその旨の見解が述べられていたところ,平成10年分の所得税の
確定申告の時期以降,これを変更し,給与所得として取り扱うようになったもので
ある。この所得区分に関する所得税法の解釈問題については,一時所得とする見解
にも相応の論拠があり,その後,下級審の裁判例においても判断が分かれることに
なったのである。このような問題について,課税庁が従来の取扱いを変更しようと
する場合には,法令の改正によらないとしても,通達を発するなどして変更後の取
扱いを納税者に周知させ,これが定着するよう必要な措置を講ずべきものである。
ところが,前記事実関係等によれば,課税庁は,上記のとおり課税上の取扱いを変
更したにもかかわらず,その変更をした時点では通達によりこれを明示することな
く,平成14年6月の所得税基本通達の改正によって初めて変更後の取扱いを通達
に明記したというのである。そうすると,少なくともそれまでの間は,課税庁にお
いて前記の必要な措置を講じていたということはできず,納税者が上記の権利行使
益を一時所得に当たるものとして申告したとしても,それをもって納税者の主観的
事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないものということはできない。
以上のような事情の下においては,上告人がその平成11年分の所得税につき本
件権利行使益を一時所得として申告し,本件権利行使益が給与所得に当たるものと
しては上記所得税の税額の計算の基礎とはされていなかったことについて,真に上
告人の責めに帰することのできない客観的な事情があって,過少申告加算税の趣旨
に照らしてもなお上告人に上記所得税に係る過少申告加算税を賦課することは不当
又は酷になるというのが相当であり,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」
があるものというべきである。前記のとおり,同年分の所得税の申告は,上告人が
同10年分の所得税につきストックオプションの権利行使益が給与所得に当たると
して増額更正を受けた後にこれをしたものであるが,この事実を考慮しても,上記
判断は左右されない。
5そうすると,本件賦課決定は違法であることとなるから,これが適法である
とした原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨
はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち本件賦課決定の取消請求に
関する部分は破棄を免れない。そして,同取消請求を認容した第1審判決は結論に
おいて正当であるから,同部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。
なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の
決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官
才口千晴)

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