弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

令和2年10月28日判決言渡
令和元年(行ケ)第10137号審決取消請求事件
口頭弁論終結日令和2年8月19日
判決
原告日本ケミファ株式会社
原告ダイト株式会社
原告ら訴訟代理人弁理士丹治彰
寺本光生
松村啓
大槻真紀子
被告ジー.ディー.サール,リミテッド,
ライアビリティ,カンパニー
訴訟代理人弁護士設樂隆一
飯塚卓也
岡田淳
訴訟代理人弁理士四本能尚
宮澤純子
佐藤真紀
龍田美幸
池田理愛
今村玲英子
田村明照
主文
1原告らの請求を棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2018-800071号事件について令和元年9月3日に
した審決中,特許第3563036号の請求項1ないし5,7ないし19に係
る部分を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,発明の名称を「セレコキシブ組成物」とする発明について,平成
11年11月30日(優先日平成10年11月30日(以下「本件優先日」
という。),優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願200
0-584884号。以下「本件出願」という。)をし,平成16年6月1
1日,特許権の設定登録(特許第3563036号。請求項の数19。以下
「本件特許」という。)を受けた(甲33,乙1)。
(2)ア原告らは,平成30年6月4日,本件特許について特許無効審判(無効
2018-800071号事件)を請求した(甲34)。
被告は,同年9月28日付けで,本件特許の特許請求の範囲の請求項1
ないし19を一群の請求項として,請求項1ないし5,7ないし19を訂
正し,請求項6を削除する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。甲4
0)をした。
イ参加人テバ・ホールディングス合同会社は,平成31年4月16日付け
で請求人側への参加を申請し,令和元年6月26日付けで参加許否の決定
により,参加許可の決定を受けた。
ウ特許庁は,令和元年9月3日,本件訂正を認めた上で,「特許第356
3036号の請求項6に係る発明についての審判請求を却下する。特許第
3563036号の請求項1~5,7~19に係る発明についての審判請
求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,そ
の謄本は,同月17日,原告らに送達された。
(3)原告らは,令和元年10月17日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を
提起した。
2特許請求の範囲の記載
本件訂正後の請求項1ないし5,7ないし19の特許請求の範囲の記載は,
次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本
件発明1」などという。下線部は本件訂正による訂正箇所である。甲40)。
【請求項1】
一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000mg
の量の微粒子セレコキシブを含み,一つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投
与量単位を含む製薬組成物であって,粒子の最大長において,セレコキシブ粒
子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する製薬組成物。
【請求項2】
前記粒子の最大長において,前記セレコキシブ粒子のD90が100μm未満で
あることを特徴とする請求項1に記載の製薬組成物。
【請求項3】
前記粒子の最大長において,前記セレコキシブ粒子のD90が40μm未満であ
ることを特徴とする請求項2に記載の製薬組成物。
【請求項4】
前記粒子の最大長において,前記セレコキシブ粒子のD90が25μm未満であ
ることを特徴とする請求項3に記載の製薬組成物。
【請求項5】
前記同じ投与量のセレコキシブを含有する経口運搬された溶液と比較して最低
約50%であるセレコキシブの相対的な生物学的利用能を有することを特徴と
する請求項1記載の製薬組成物。
【請求項7】
前記投与量単位は,錠剤,ピル,硬質若しくは軟質カプセル,ロゼンジ,サシ
ェイ,又はパステルから選択されることを特徴とする請求項1乃至5の何れか
一項記載の製薬組成物。
【請求項8】
前記賦形剤は薬剤学的に許容な希釈剤,崩壊剤,結着剤,加湿剤及び潤滑剤か
ら選択される単位投与量のカプセル又は錠剤の形態であることを特徴とする請
求項7記載の製薬組成物。
【請求項9】
(a)前記製薬組成物の約10質量%乃至約85重量%の量の一つ以上の薬剤
学的に許容な希釈剤と,
(b)前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約10質量%の量の一つ以上の薬
剤学的に許容な崩壊剤と,及び
(c)前記製薬組成物の約0.75質量%乃至約15質量%の量の一つ以上の
薬剤学的に許容な結着剤とを含有することを特徴とする請求項8記載の製薬組
成物。
【請求項10】
前記製薬組成物の約0.4質量%乃至約10質量%の量の一つ以上の薬剤学的
に許容な加湿剤をさらに含有することを特徴とする請求項9に記載の製薬組成
物。
【請求項11】
前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約8質量%の量の一つ以上の薬剤学的に
許容な潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項9に記載の製薬組成物。
【請求項12】
前記製薬組成物の約0.2質量%乃至約8質量%の量の一つ以上の薬剤学的に
許容な潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項10に記載の製薬組成
物。
【請求項13】
(a)前記希釈剤はラクト-スを含み,(b)前記崩壊剤はクロスカルメロー
スナトリウムを含み,(c)前記結着剤はポリビニルピロリドンを含むことを
特徴とする請求項9に記載の製薬組成物。
【請求項14】
ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤をさらに含むことを特徴とする請求
項13に記載の製薬組成物。
【請求項15】
ステアリン酸マグネシウムを含有する潤滑剤をさらに含むことを特徴とする請
求項13に記載の製薬組成物。
【請求項16】
ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤と,ステアリン酸マグネシウムを含
有する潤滑剤とをさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の製薬組成物。
【請求項17】
シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤による治療を必要とする被験者における病状
又は疾患を治療するために,前記製薬組成物は被験者に好ましくは1日に1回
又は2回経口投与することを特徴とする請求項1乃至5及び7乃至16の何れ
か一項に定義される製薬組成物。
【請求項18】
シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤による治療を必要とする被験者における病状
又は疾患の治療及び/又は予防処置での薬剤調製のための請求項1乃至5及び
7乃至16の何れか一項に定義される製薬組成物の使用。
【請求項19】
前記状態又は疾患は,リウマチ様関節炎,骨関節炎又は痛みである請求項18
による使用。
3本件審決の理由の要旨
⑴本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,本件発明1ないし5,7ないし19について,本件優先日前
に頒布された刊行物である甲1を主引用例とする進歩性欠如(無効理由1),
本件優先日前に頒布された刊行物である甲2特表平9-506350号公報
(甲2)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由2),サポート要件違反(無
効理由3),実施可能要件違反(無効理由4)の無効理由は,いずれも理由
がないというものである。
甲1及び甲2は,次のとおりである。
甲1A.Karim,etal.,“SC-58635(CELECOXIB):AHIGHLYSELECTIVE
INHIBITOROFCYCLOOXYGENASE-2.DISPOSITIONKINETICSINMANAND
IDENTIFICATIONOFITSMAJORCYP450ISOZYMEINITS
BIOTRANSFORMATION.”,1997AAPSANNUALMEETINGCONTRIBUTEDPAPERS
ABSTRACTS,1997年,S-617頁
甲2特表平9-506350号公報
⑵本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。),
本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点,本件審決が認定した甲2に記載
された発明(以下「甲2発明」という。),本件発明1と甲2発明の一致点
及び相違点は,次のとおりである。
ア甲1発明
シクロオキシゲナーゼ-2の高選択的阻害剤であるセレコキシブを30
0mg含む経口投与用カプセルであって,
ヒトにおけるシクロオキシゲナーゼ-2の高選択的阻害剤であるセレコ
キシブの体内動態を明らかにし,セレコキシブの生体内変化経路に関与す
る主要なCYP450アイソザイムを同定することを目的として,被験者
に対し,微細懸濁液としての[14
C]・SC-58635(100μCi)
単回経口用量300mgの投与,及び,15日間のウォッシュアウト期間
後に経口投与されるカプセル。
イ本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点
(一致点)
「10mg乃至1000mgの量のセレコキシブを含み,一つ以上の個
別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物」である点。
(相違点1-1)
製薬組成物が含む賦形剤について,本件発明1では,「一つ以上の薬剤
的に許容な賦形剤と密に混合させた…セレコキシブを含み,」として,セ
レコキシブと密に混合させた一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤を含むこと
が特定されているのに対し,甲1発明では,賦形剤を含むものとはされて
いない点。
(相違点1-2)
製薬組成物に含まれるセレコキシブが,本件発明1では「粒子の最大長
において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの
分布を有する」微粒子セレコキシブであることが特定されているのに対し,
甲1発明ではセレコキシブの形状は特定されていない点。
ウ甲2発明
以下の工程1~工程2によって得られるセレコキシブの結晶を投与経路
に適切な1つ又はそれ以上の補助剤と合わせた錠剤またはカプセル剤の形
態の経口投薬単位である製薬組成物。
工程1:1-(4-メチルフェニル)-4,4,4-トリフルオロブタン
-1,3-ジオンの調製
4’-メチルアセトフェノン(5.26g,39.2mmol)をアルゴ
ン下で25mLのメタノールに溶解して,メタノール中のナトリウムメト
キシド12mL(52.5mmol)(25%)を添加した。この混合物を5
分間撹拌して,5.5mL(46.2mmol)のトリフルオロ酢酸エチルを
添加した。24時間還流後,この混合物を室温に冷却して濃縮した。1
00mLの10%HClを添加して,この混合物を4×75mLの酢酸エチ
ルで抽出した。この抽出物をMgSO4で乾燥し,濾過して濃縮して,
8.47g(94%)の褐色油状物を得て,これをさらに精製すること
なく次に進んだ。
工程2:セレコキシブの調製
75mLの無水エタノール中の工程1からのジオン(4.14g,18.
0mmol)に,4.26g(19.0mmol)の4-スルホンアミドフェニ
ルヒドラジン塩酸塩を添加した。この反応物をアルゴン下で24時間還
流した。室温に冷却して濾過後,この反応混合物を濃縮して,6.13
gの橙色の固体を得た。この固体を塩化メチレン/ヘキサンから再結晶
して,淡黄色の固体として3.11g(8.2mmol,46%)の生成物
を得た。
エ本件発明1と甲2発明の相違点
(相違点2-1)
製薬組成物に含まれるセレコキシブの粒子サイズが,本件発明1では「粒
子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒
子サイズの分布を有する」とされているのに対し,甲2発明では規定され
ていない点。
(相違点2-2)
製薬組成物に含まれるセレコキシブの量が,本件発明1では「10mg
乃至1000mg」とされているのに対し,甲2発明では規定されていな
い点。
第3当事者の主張
1取消事由1-1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性判断の誤り)に
ついて
⑴原告らの主張
ア甲1発明の認定の誤り及び手続違背
(ア)本件審決が認定した甲1発明のうち,「ヒトにおけるシクロオキシ
ゲナーゼ-2の高選択的阻害剤であるセレコキシブの体内動態を明らか
にし,セレコキシブの生体内変化経路に関与する主要なCYP450ア
イソザイムを同定することを目的」とするとの部分は誤りである。
すなわち,甲1には,試験に使用したカプセル剤を治療目的に使用す
ることは明記されていないが,SC-58635(セレコキシブ)は,
抗炎症薬の有効成分であることが記載されているのであるから,甲1記
載の試験が,SC-58635を有効成分とする治験製剤をヒトに投与
した場合の体内動態を確認するための試験(薬物動態試験)であって,
当該製剤が治療目的で投与される製剤であることは明らかである。
加えて,医薬品においては,服用した場合の安全性や有効性を確認す
るために,臨床試験の早い段階において,ヒトに摂取させた場合の代謝
経路及び主要代謝物を確認する試験(マスバランス試験)がされること
は,技術的常識であるところ,甲1記載の試験が健常者に対して行われ
ていることは明らかであるから(甲49,50),当業者は,甲1の記
載から当該試験が第1相の臨床薬理試験の一環としてされた試験である
ことを理解できる。
このように,甲1記載の試験自体は,治療を目的としたものではない
としても,甲1記載の試験で使用されているカプセル剤は,医薬品の開
発を目的としたSC-58635を有効成分とする治験製剤であること
は,明らかであり,治療にも用いられるものであるから,本件審決が上
記部分に係る目的を発明特定事項として認定し,甲1に記載された発明
は治療を目的とするものではないと認定したことは誤りである。
(イ)また,本件審判の審理の過程においては,請求人(原告)ら主張の
「シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤としてヒトに経口投与される,30
0mgのセレコキシブを含む経口投与用カプセル」の発明が甲1に記載
された発明として認定できるか否かが争点となっており,当事者双方は,
発明の目的を発明特定事項に含めることについては議論していなかった。
ところが,審判合議体は,本件審決において,審理の過程で当事者が
一切主張しなかった目的を発明特定事項に含む甲1発明を認定し,この
認定について原告らに反論の機会を与えることなく,本件発明と甲1発
明との相違点に係る容易想到性の判断をし,甲1発明を主引用例とする
進歩性欠如の無効理由は理由がないと判断したものである。
このような審理は,原告らにとって不意打ちであり,原告らの手続保
障を著しく欠くものであるから,本件審決には審理不尽の手続違背があ
る。
イ相違点1-1の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,甲1発明がヒトにおけるシクロオキシゲナーゼ-2の高選
択的阻害剤であるセレコキシブの体内動態を明らかにし,セレコキシブの
生体内変化経路に関与する主要なCYP450アイソザイムを同定するこ
とを目的とするものであるから,甲1,2,4及び10を含む各甲号証の
記載及び技術常識を参酌しても,当業者が,甲1発明において,「セレコ
キシブと密に混合させた薬剤的に許容な賦形剤」(相違点1-1に係る本
件発明1の構成)をさらに加える動機付けがあるとはいえないから,甲1
発明に相違点1-1の構成を採用することは,容易に想到し得たことでは
ない旨判断した。
しかしながら,甲1記載のセレコキシブを含む経口投与用カプセル剤は,
治療目的でヒトに投与されるセレコキシブ製剤の薬物動態試験のためにヒ
トに摂取されたものであるところ(前記ア(ア)),甲1には,甲1発明の
カプセル剤中のセレコキシブが,懸濁液と同様に容易に吸収され,バイオ
アベイラビリティも問題なかった旨の記載があり,かかる記載は,甲1発
明のカプセル剤が,「セレコキシブの溶解性や吸収性が改善された,医薬
品開発のための製剤」であることを示唆するものである。
そして,経口固形製剤は,少なくとも1種の賦形剤を使用して製造され
ること(甲2,4,10,26)に鑑みれば,甲1発明のカプセル剤中の
セレコキシブは,少なくとも1種の賦形剤を含んでいる蓋然性が高いから,
相違点1-1は実質的な相違点ではない。
また,仮にそうでないとしても,甲1発明に医薬品発明の周知技術を適
用して適切な賦形剤を配合することは容易になし得ることであるから,当
業者は,甲1及び周知技術に基づいて,甲1発明において,相違点1-1
に係る本件発明1の構成を採用することを容易に想到し得たものである。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
ウ相違点1-2の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,原告らが示す各甲号証の記載及び技術常識を参酌しても,
「ヒトにおけるシクロオキシゲナーゼ-2の高選択的阻害剤であるセレコ
キシブの体内動態を明らかにし,セレコキシブの生体内変化経路に関与す
る主要なCYP450アイソザイムを同定する」ことを目的とし,しかも
賦形剤を含まない甲1発明において,当業者が,セレコキシブの吸収性や
生物学的利用能の改善,添加剤を含めた原料粉粒体間の混合の均一性の向
上を図る動機付けとなる根拠は見出せず,セレコキシブとして,「粒子の
最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サ
イズを有する」微粒子セレコキシブ(相違点1-2に係る本件発明1の構
成)を採用する動機付けがあるとはいえないから,甲1発明に相違点1-
2の構成を採用することは,容易に想到し得たことではない旨判断した。
しかしながら,本件優先日当時,「経口吸収性(生物学的利用能)の改
善,添加剤を含めた原料粉粒体間の混合の均一性の向上及び打錠時の成形
性向上を図る」ことは,医薬品の製剤化における一般的な課題であり,「薬
効成分の粒子サイズを小さくする」ことは,当該課題を解決するために汎
用されている周知技術であった(甲5,6,8ないし10,15)。
また,溶解速度を増大させるためには,単に粒子径を細かくして表面積
を増加させるだけでは足らず,有効表面積(薬物が試験液に接触する表面
積)を増加させる必要があり,疎水性物質では微粉化が進むと凝集により
有効表面積が逆に小さくなり,溶解速度が小さくなることがあるが,界面
活性剤があると,溶媒が薬物粉末の表面をよく濡らすようになり,凝集が
抑制されて粒子径が小さくなるほど溶解速度が増大することは,本件優先
日当時の技術常識であった(甲9,10)。
そして,甲1記載の試験で使用されているカプセル剤は,SC-586
35(セレコキシブ)を有効成分とする医薬品開発を目的とする臨床薬理
試験の治験製剤であるから,医薬品の製造に係る周知技術を適用する動機
付けがある。また,仮に甲1記載の試験が上記臨床薬理試験ではなかった
としても,当該試験は,臨床薬理試験と同様に,ヒトに摂取させてその体
内動態を調べる試験であるから,当該試験で使用されるカプセル剤に医薬
品の製剤化技術を適用することは,極めて一般的に行われることである。
そうすると,甲1に接した当業者は,甲1記載の試験で使用されている
カプセル剤について,医薬品と同様にその吸収性と生物学的利用能を向上
させる動機付けがあるといえる。
また,カプセル剤間の薬効成分含有量のばらつきが大きい場合には,一
定の薬理効果が得られなくなるため,試験そのものの信頼性が損なわれる
から,試験において適切にデータを取得するため,カプセル剤間の薬効成
分含有量のばらつきを低減させる動機付けがある。
さらに,粗大粒子は目的の効果を奏さず,特定の大きさよりも小さい粒
子サイズの粒子が効果を奏する粉体の場合には,その粒度分布を,平均粒
子径ではなく,「所望の大きさよりも小さい粒子サイズの粒子が粉末全体
に占める割合」で特定することは,医薬品の原料粉末では一般的であり,
また,セレコキシブの粒子サイズを最大長のD90で規定し,最大長「D9
0が200μm未満」とすることは,単なる設計事項である。
以上によれば,当業者は,甲1発明のカプセル剤において,経口吸収性
(生物学的利用能)の改善及び薬効成分の含量均一性の改善のために,「薬
効成分の粒子サイズを小さくする」という周知技術を適用する動機付けが
あり,セレコキシブの粒子サイズを最大長「D90が200μm未満」とす
ることは,単なる設計事項であるから,甲1発明のカプセル剤に含有する
セレコキシブを「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が20
0μm未満である粒子サイズの分布を有する」微粒子セレコキシブ(相違
点1-2に係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到し得たもので
ある。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
エ小括
以上のとおり,本件審決には,本件発明1の認定の誤り及び手続違背,
相違点1-1及び1-2の容易想到性の判断に誤りがある。
したがって,本件発明1は,甲1発明及び周知技術ないし技術常識に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,これと異
なる本件審決の判断は誤りである。
⑵被告の主張
ア甲1発明の認定の誤り及び手続違背の主張に対し
(ア)原告ら主張の甲1に記載された発明は,「シクロオキシゲナーゼ-
2阻害剤としてヒトに経口投与される,300mgのセレコキシブを含
む経口投与用カプセル」であって,「賦形剤を含む」ものではなく,「粒
子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である
粒子サイズの分布を有する」ものでもないから,原告ら主張の甲1に記
載された発明と本件発明1との相違点は,本件審決が認定した相違点1
-1及び1-2と異なるものではない。
したがって,本件審決における甲1発明の認定の誤りをいう原告らの
主張は,審決の結論に影響しないものであり,理由がない。
(イ)次に,審判手続においては,審判官は,当事者の申立てを要さずに
職権で審判手続を進行できるとともに,当事者の主張による拘束を受け
ることなく職権によって審決の基礎となる資料を収集できるなど職権主
義の比重が極めて大きく,また,特許庁の審判便覧35-00の2(2)
にも,「証拠の評価は,最終的に合議体が判断すべき事項であるから,
合議体は,当事者の主張に不当に左右されることなく,自由な心証に基
づき,証人の証言,文書の記載,検証物などを理解・把握し,事実を認
定しなければならない。」と明記されている。
したがって,審判官が引用発明である甲1発明の具体的な記載内容を
どのように解釈・認定するかについて当事者に逐一反論の機会を与える
必要がないことは明らかであるから,甲1発明の認定に係る手続違背が
あるとの原告らの主張は理由がない。
イ相違点1-1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
甲1記載の試験は,単にセレコキシブの体内動態を明らかにすることを
目的とするものであって,治療を目的とするものではないから,甲1発明
のカプセル剤に賦形剤を加える動機付けがあるとはいえない。
また,甲1には,最高血中濃度について,カプセル剤よりも懸濁剤のほ
うが優れた特性を有することを示すデータが開示されているから,仮に甲
1の記載に基づいて医薬品開発を試みるとしても,当業者は懸濁剤を選択
するはずであって,わざわざ数値の劣るカプセル剤を選択して賦形剤を配
合する合理的理由はない。
したがって,本件審決における相違点1-1の容易想到性の判断に誤り
はない。
ウ相違点1-2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
(ア)本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて,「本件明
細書」という。甲33)の記載によれば,本件発明1は,単に粒子を微
小化し平均粒子径が小さくなればよいという発想に基づくものではなく,
むしろ微小化した粒子中に残存する長い針状の結晶の割合こそが重要で
あり,その割合が限定されなければならないという発見に基づき,粒子
の最大長におけるD90で規定したことに技術的意義があり(【000
8】,【0024】),このことを表したのが,相違点1-2に係る本
件発明1の構成(「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が
200μm未満である粒子サイズの分布を有する」との構成)である。
そして,①医薬品の有効成分としてのセレコキシブは,長く凝集した
針を形成する結晶形を有し,本来的に凝集性が強い物質であるため,凝
集性及びブレンド均一性に問題があり,これを改善して生物学的利用能
を向上させる必要があるという課題は,甲1には,何ら記載されておら
ず,本件優先日前に全く知られていなかったのであるから,当業者は,
セレコキシブを経口固形製剤とする場合の課題を把握することができな
かったものであり,仮に課題を把握することができたとしても,解決手
段に思い至らなかったこと,②製薬組成物に含まれるセレコキシブ粒子
の粒子サイズの分布を,粒子の最大長におけるD90で規定することは,
甲1に記載も示唆もされていないし,本件優先日における技術常識でも
ないことなどからすると,甲1に接した当業者において,甲1発明にお
いて相違点1-2に係る本件発明1の構成を適用することを容易に想到
することができたとはいえない。
①について補足すると,本件優先日当時,経口固形製剤の設計におい
て考慮される要因は極めて多岐にわたり,それらを検討する必要があっ
たが(甲26),その中で,粒子径,粒子形状,表面特性,粉末かさ密
度などの原薬の物理的特性は十分調査されておらず,十分な理解も得ら
れていなかった(甲4)。加えて,粒子を粉砕により微小化するほど,
流動性が悪くなり,凝集も起こりやすくなり(甲5,26),特に疎水
性物質については,水に接する表面積(有効表面積)が逆に小さくなっ
て溶解速度が低下する現象が,本件優先日当時,周知であったこと(甲
9,10),溶解速度は,表面積に依存するところ,セレコキシブは,
長い針状の結晶形であり,粉砕しても有効表面積の増大は,球状結晶の
場合とは異なり,ごくわずかなものにすぎないことに照らすと,当業者
が,粉砕による微小化をセレコキシブに適用しようとすることに動機付
けがないばかりか,阻害要因すら存在する。
次に,②について補足すると,甲1には,製薬組成物に含まれる有効
成分の粒子の分布を,粒子の最大長におけるD90で規定することについ
て,記載も示唆もなく,また,製薬組成物に含まれる有効成分の粒子分
布を,粒子の最大長におけるD90で規定することが,当業界において通
常行われていることを示す証拠は皆無である。
したがって,甲1発明において相違点1-2に係る本件発明1の構成
を採用することは,当業者が容易に相当し得たことではないとした本件
審決の判断に誤りはない。
(イ)この点に関し原告らは,甲1記載の試験が,セレコキシブを有効成
分とする医薬品開発のための臨床薬理試験ではなかったとしても,当該
試験は,臨床薬理試験と同様に,ヒトに摂取させてその体内動態を調べ
る試験であるから,甲1発明のカプセル剤には,医薬品と同様にその吸
収性と生物学的利用能を向上させるための動機付けがある旨主張する。
しかし,甲1発明は,セレコキシブの物理化学的性質や生物学的性質
を調べ,それらの情報に基づき剤形を決めなければならない初期段階の
技術であるのに対し,原告らが甲1発明に適用すべき周知の医薬品製剤
技術であると主張する情報は,あくまで,物理化学的性質や生物学的性
質など多くの検討項目を調査し,製剤設計が確立した製剤の最終的な製
造法に関する一般的情報にすぎないから,甲1に接した当業者が,価値
のある情報として考慮することはない。
また,粒子を粉砕により微小化するほど,流動性が悪くなり,凝集も
起こりやすくなり,特に疎水性物質については,水に接する表面積(有
効表面積)が逆に小さくなって溶解速度が低下する現象が,本件優先日
当時周知であったものであり,難溶性薬物の医薬品において,吸収性や
生物学的利用能を改善するために粒子を微細化することが周知技術であ
ったとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は失当である。
エ小括
以上によれば,本件審決における甲1発明の認定に誤りはなく,手続違
背は存在せず,また,相違点1-1及び1-2の容易想到性の判断に誤り
はないから,原告ら主張の取消事由1-1は理由がない。
2取消事由1-2(甲1発明を主引用例とする本件発明2ないし5,7ないし
19の進歩性の判断の誤り)について
⑴原告らの主張
本件審決は,本件発明2ないし5,7ないし19はいずれも,本件発明1
の発明特定事項全てを,その発明特定事項とするものであるから,本件発明
1が甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものではない以上,本件発明2ないし5,7ないし19も,甲1発明及び
技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない旨
判断した。
しかしながら,本件審決における本件発明1の容易想到性の判断が誤りで
あることは,前記1⑴のとおりであるから,本件審決の上記判断は誤りであ
る。
⑵被告の主張
前記1⑵のとおり,本件発明1が甲1発明及び技術常識に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものではないとした本件審決の判断に誤り
はないから,本件審決における本件発明2ないし5,7ないし19の容易想
到性の判断の誤りをいう原告らの主張は,その前提において理由がない。
したがって,原告ら主張の取消事由1-2は理由がない。
3取消事由2-1(甲2発明を主引用例とする本件発明1の進歩性判断の誤り)
について
⑴原告らの主張
ア相違点2-1の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,①甲2には,セレコキシブの生物学的利用能又はセレコキ
シブ結晶粒子及び賦形剤粒子の大きさ及びそれらの大きさのばらつきに関
する記載や,セレコキシブの溶解性並びにセレコキシブを微細化した場合
の凝集性,安定性,吸収速度,セレコキシブ製剤のブレンド均一性及び取
扱いの煩雑さに関する記載がなく,技術常識等に照らして,当業者にこれ
らが明らかであったとする根拠も見出せないから,当業者が甲2発明にお
いてセレコキシブの生物学的利用能又はセレコキシブ製剤のブレンド均一
性の改善を図る動機付けとなる根拠は見出せない,②仮に甲2発明におい
てセレコキシブの生物学的利用能又はセレコキシブ製剤のブレンド均一性
を改善させる必要性のあることは,当業者にとって容易に判明し得たこと
であるとしても,甲2発明において,相違点2-1に係る本件発明1の構
成(「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満
である粒子サイズの分布を有する」との構成)を採用することは,当業者
が容易に想到し得たことではないから,相違点2-2について検討するま
でもなく,本件発明1は,甲2発明及び技術常識に基づいて,当業者が容
易に発明をすることができたものではない旨判断した。
しかしながら,薬効成分の生物学的利用能やブレンド均一性の改善は,
医薬品の製剤化における一般的な課題であり,セレコキシブ製剤において
も当然に解決すべき課題であることが自明であるか,当業者が容易に想到
できる課題であるため,甲2発明において,セレコキシブの生物学的利用
能やブレンド均一性の改善を図るために,難溶性薬物の生物学的利用能や
ブレンド均一性の改善のための周知の技術的手段である「微細化すること,
そして難溶性薬物を微細化して凝集する場合には界面活性剤や親水性賦形
剤を添加すること」を採用することは,当業者が容易になし得ることにす
ぎない。
また,溶解速度を増大させるためには,単に粒子径を細かくして表面積
を増加させるだけでは足らず,有効表面積(薬物が試験液に接触する表面
積)を増加させる必要があり,疎水性物質では微粉化が進むと凝集により
有効表面積が逆に小さくなり,溶解速度が小さくなることがあるが,界面
活性剤があると,溶媒が薬物粉末の表面をよく濡らすようになり,凝集が
抑制されて粒子径が小さくなるほど溶解速度が増大することは,本件優先
日当時の技術常識であったこと,粗大粒子は目的の効果を奏さず,特定の
大きさよりも小さい粒子サイズの粒子が効果を奏する粉体の場合には,そ
の粒度分布を,平均粒子径ではなく,「所望の大きさよりも小さい粒子サ
イズの粒子が粉末全体に占める割合」で特定することは,医薬品の原料粉
末では一般的であり,また,セレコキシブの粒子サイズを最大長のD90で
規定し,最大長「D90が200μm未満」とすることは,単なる設計事項
であることは,前記1⑴ウのとおりである。
以上によれば,当業者は,甲2発明において,経口吸収性(生物学的利
用能)の改善及び薬効成分の含量均一性の改善のために,「薬効成分の粒
子サイズを小さくする」という周知技術を適用する動機付けがあり,また,
セレコキシブの粒子サイズを最大長「D90が200μm未満」とすること
は,単なる設計事項であるから,甲2発明に含有するセレコキシブを「粒
子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒
子サイズの分布を有する」との構成(相違点2-1に係る本件発明1の構
成)とすることを容易に想到し得たものである。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
イ小括
以上のとおり,本件審決における相違点2-1の容易想到性の判断に誤
りがあるから,本件発明1は,甲2発明及び技術常識に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたものであるとした本件審決の判断は誤りで
ある。
⑵被告の主張
ア相違点2-1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
前記1⑵ウで述べたとおり,本件発明1は,単に粒子を微小化し平均粒
子径が小さくなればよいという発想に基づくものではなく,むしろ微小化
した粒子中に残存する長い針状の結晶の割合こそが重要であり,その割合
が限定されなければならないという発見に基づき,粒子の最大長における
D90で規定したことに技術的意義があり,このことを表したのが,相違点
2-1に係る本件発明2の構成(「粒子の最大長において,セレコキシブ
粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する」との構
成)である。
そして,①医薬品の有効成分としてのセレコキシブは,長く凝集した針
を形成する結晶形を有し,本来的に凝集性が強い物質であるため,凝集性
及びブレンド均一性に問題があり,これを改善して生物学的利用能を向上
させる必要があるという課題は,甲2には,何ら記載されておらず,本件
優先日前に全く知られていなかったのであるから,当業者は,セレコキシ
ブを経口固形製剤とする場合の課題を把握することができなかったもので
あり,仮に課題を把握することができたとしても,解決手段に思い至らな
かったこと,②製薬組成物に含まれるセレコキシブ粒子の粒子サイズの分
布を,粒子の最大長におけるD90で規定することは,甲2に記載も示唆も
なく,本件優先日における技術常識でもないことなどからすると,甲2に
接した当業者において,甲2発明において相違点2-1に係る本件発明1
の構成を適用することを容易に想到することができたものとはいえない。
これと同旨の本件審決における相違点2-1の容易想到性の判断に誤り
はない。
イ小括
以上のとおり,本件審決における相違点2-1の容易想到性の判断に誤
りはない。
したがって,本件発明1は,甲2発明及び技術常識に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたものとはいえないとした本件審決の判断に
誤りはないから,原告ら主張の取消事由2-1は理由がない。
4取消事由2-2(甲2発明を主引用例とする本件発明2ないし5,7ないし
19の進歩性の判断の誤り)について
⑴原告らの主張
本件審決は,本件発明2ないし5,7ないし19はいずれも,本件発明1
の発明特定事項の全てを,その発明特定事項とするものであるから,本件発
明1が甲2発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることがで
きたものではない以上,本件発明2ないし5,7ないし19も,甲1発明及
び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない
旨判断した。
しかしながら,本件審決における甲2発明を主引用例とする本件発明1の
容易想到性の判断が誤りであることは,前記3⑴のとおりであるから,本件
審決の前記判断は誤りである。
⑵被告の主張
前記3⑵のとおり,本件発明1が甲2発明及び技術常識に基づいて当業者
が容易に発明をすることができたものではないとした本件審決の判断に誤り
はないから,本件審決における本件発明2ないし5,7ないし19の容易想
到性の判断の誤りをいう原告らの主張は,その前提において理由がない。
したがって,原告ら主張の取消事由2-2は理由がない。
第4当裁判所の判断
1本件明細書の記載事項について
(1)本件明細書(甲33)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある(下
記記載中に引用する【表4】(表4),【表5】(表5),【表6】(表6),
【表7】(表7A),【表8】(表7B),【表12】(表11-1),【表
13】(表11-2A),【表14】(表11-2B),【表15】(表1
1-2C),【表16】(表11-2D),【表20】(表13A),【表
21】(表13B),図1及び図2については別紙を参照)。
ア【0001】
発明の分野
本発明は,活性成分として,セレコキシブ(celecoxib)を含有
する経口運搬可能な製薬組成物と,かかる組成物の調製方法と,かかる組
成物を被験者へ経口投与することを含むシクロオキシゲナーゼ-2媒介疾
患の治療方法と,医薬品製造における,かかる組成物の使用に関する。
【0002】
発明の背景
4−[5−(4−メチルフェニル)−3−(トリフルオロメチル)−
1H−ピラゾール−1−イル]ベンゼンスルホンアミド(本願では,以
下「セレコキシブ」という)化合物は,かかる化合物の合成方法とともに,
1,5−ジアリールピラゾール及びそれらの塩のクラスを説明し,特許請
求の範囲として記載した,Talleyらへの米国特許第5,466,8
23号に,以前報告した。セレコキシブは以下の構造を有している。
【0003】
【化1】
米国特許第5,466,823号に報告した1,5−ジアリールピラゾ
ール化合物は,本願では炎症及び炎症関連疾患を治療する際に有用である
として説明されている。米国特許第5,466,823号では,錠剤及び
カプセルのような経口運搬可能な薬量を含み,上記1,5−ジアリールピ
ラゾールの投与調合の一般的な基準が含まれている。Talleyらの米
国特許第5,466,823号では,シクロオキシゲナーゼ-2の選択的
阻害剤として説明し,慢性関節リウマチ及び骨関節炎と関連した他の状態,
疾患,病的状態を治療するために投与されるセレコキシブを含む1,5−
ジアリールピラゾールのクラスを報告している。
【0007】
1998年9月9日に公開された欧州特許出願第0863134A1号で
は,微結晶性セルロース,ラクトース一水和物,ヒドロキシプロピルセル
ロース,クロスカルメロースナトリウム(croscarmellose
sodium)及びステアリン酸マグネシウムを含む賦形剤と組合わせて,
シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤,具体的には,2-(3,5-ジフルオ
ロフェニル)-3-(4-メチル-スルホニル)フェニル」-2-シクロ
ペンテン-1-オンを含む組成物が開示されている。
イ【0008】
被験者への効果的な経口投与のセレコキシブの調合は,今までのところ,
上記化合物の独特な物理的及び化学的性質,特に,その低溶解度及びその
結晶構造に関連した,凝集力,低バルク密度及び低圧縮性を含む要因によ
り,複雑である。セレコキシブは,水溶性媒体には異常なほど溶解しない。
例えば,カプセル形態で経口投与させた場合,未調合のセレコキシブは胃
腸管にて急速に吸収されるために,容易には溶解せず,分散もしない。加
えて,長く凝集した針を形成する傾向を有する結晶形態を有する未調合の
セレコシブは,通常,錠剤成形ダイでの圧縮の際に,融合して一枚岩の塊
になる。他の物質とブレンドさせたときでも,セレコキシブの結晶は,他
の物質から分離する傾向があり,組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝
集し,セレコキシブの不必要な大きな塊を含有する,非均一なブレンド組
成物になる。したがって,所望のブレンド均一性を有するセレコキシブ含
有の製薬成分を調製することは難しい。さらに,セレコキシブを含有する
製薬成分の調製中に,取扱いに絡む問題に遭遇する。例えば,セレコキシ
ブの低バルク密度により,製薬成分の調合中に必要される少量を取扱うの
が難しい。したがって,特に,経口運搬可能な投与量単位のセレコキシブ
を含む適当な製薬成分及び投与形態の調製に関連した多くの問題を解決さ
せる必要性がある。
【0009】
より詳細には,未調合のセレコキシブ又は他のセレコキシブ組成物に対し
て,一つ又はそれ以上の,以下の特性を有する経口運搬可能なセレコキシ
ブ調合の必要性が存在する:
(1)改善された溶解性
(2)より短い崩壊時間
(3)より短い溶解時間
(4)減少した錠剤破砕性
(5)増大した錠剤硬度
(6)改善された濡れ性
(7)改善された圧縮性
(8)液体及び微粒子固体組成物の改善された流動性
(9)最終仕上げ組成物の改善された物理的安定性
(10)減少した錠剤又はカプセルサイズ
(11)改善されたブレンド均一性
(12)改善された投与量の均一性
(13)カプセル化及び/又は錠剤化中での重量変動の改善された制御
(14)湿式顆粒組成物の増大した顆粒密度
(15)湿式顆粒化に必要な少量な水
(16)減少した湿式顆粒化時間
(17)湿式顆粒混合物の減少した乾燥時間
後述するように,セレコキシブ治療は,シクロオキシゲナーゼ-2媒介状
態及び疾患の幅広い分野でその必要性が指摘され,潜在的に指摘されてい
る。したがって,さまざまな適応に特別に作られた生物学的利用能特性を
有する,ある範囲の調合を提供することには,非常に有益である。未調合
セレコキシブで可能であるよりも,急速に効き目のある薬物速度論を示す
調合を提供することは,特に有益である。
【0010】
かかる調合は,シクロオキシゲナーゼ-2媒介状態及び疾患の治療におい
て,顕著な進歩をもたらすであろう。
ウ【0011】
発明の要約
一つ又はそれ以上の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物を提供し,
各単位量は,一つ又はそれ以上の製薬的に許容な賦形剤と密に混合した約
10mgから約1000mgの量の微粒子セレコキシブを含む。
【0012】
一つの実施例では,絶食状態の被験者に経口投与すると,1回の投与量単
位により,少なくとも一つの以下のものを有するセレコキシブの血清濃度
の時間経路を提供する:
⒜投与後の約0.5時間よりも長くなく,100ng/mlに達する時

⒝投与後の約3時間よりも長くなく,最大濃度に達する時間(Tmax)
⒞約12時間以上で,100ng/ml以上のままである濃度の持続時間
⒟約10時間以上で,最終の半減期(T1/2)
⒠約200ng/ml以上の最大濃度(Cmax)
別の実施例では,組成物は等量のセレコキシブを含有する経口運搬された
溶液と比較して,約50%以上の相対的生物学的利用能を有する。
【0013】
さらに別の実施例では,組成物は,粒子の最長の大きさで,D90が約20
0μm以下であるように(サンプル粒子の90%はD90値よりも小さい),
セレコキシブ一次粒子サイズの分布を有する。
【0014】
組成物を含む投与量単位は,錠剤,ピル,硬質又は柔質カプセル,ロゼン
ジ,サシェイ(sachet)又はパステル(pastille)のよう
な個々の固体物品の形であり,あるいは,組成物は,1回の投与量単位が
測定可能なほどに除去される微粒子若しくは顆粒固体又は液状懸濁液のよ
うな,実質的に均質可流動の塊の形である。
エ【0017】
発明の詳細な説明
本発明による新規な製薬組成物は,一つ又はそれ以上の経口運搬可能な投
与量単位を含み,各投与量単位は約10mg乃至約1000mgの量の微
粒子セレコキシブを含み,シクロオキシゲナーゼ-2媒介疾患を患ってい
る被験者に経口投与した際に,シクロオキシゲナーゼ-2媒介疾患から迅
速に軽減させる能力のある優れた直接解放組成物である。
【0018】
理論に拘束されずに,上記組成物により付与された大きな臨床的有益は,
改善されたセレコキシブの生物学的利用能,特に,胃腸管でのセレコキシ
ブの驚くべく程の効果的な吸収の結果であると考える。かかる効果的吸収
は,投与後の経過時間に亘り,治療を受けた被験者のセレコキシブの血清
濃度を監視することにより,当業者には理解される。できるだけ短時間で,
投与後に急速の濃度が減少させずに,セレコキシブの有益な効果ができる
だけ長時間維持して,効果的なシクロオキシゲナーゼ-2阻害と一致する,
血清中のセレコキシブ濃度の閾値に達することが望ましい。
【0021】
絶対的な意味に,経口運搬されたセレコキシブの生物学的利用能は,測定
することが難しい。なぜならば,セレコキシブでもよくあることであるが,
水中にて低溶解性を有する薬に関係して,静脈運搬(かかる生物学的利用
能を決定することに対する標準)はすこぶる問題があるからである。しか
しながら,相対的な生物学的利用能は,適当な溶媒中でのセレコキシブの
経口投与溶液と比較して決定することが可能である。本発明の経口運搬さ
れた組成物では,驚くべきほど相対的に高い生物学的利用能が得られるこ
とが判明した。よって,本発明の一つの実施例では,経口投与されると,
各経口運搬可能な投与量単位は,等量のセレコキシブを含有するセレコキ
シブの経口運搬された溶液と比較して,約50%以上,好ましくは70%
以上の相対的な生物学的利用能を有する。後述するように,生物学的利用
能は経口投与後のある時間に亘り,セレコキシブの血清濃度の総合測定か
ら導かれる。
オ【0022】
本発明の組成物は微粒子の形態のセレコキシブを包含する。セレコキシブ
の一次粒子は,例えば,製粉若しくは粉砕により,又は溶液から沈殿させ
て生成させ,凝集して二次の集合体粒子が形成される。本願で利用する用
語「粒子サイズ」とは,特に本願で指摘しない限り,一次粒子の最長の大
きさのことをいう。粒子サイズは,セレコキシブの臨床的効果に影響を与
える重要なパラメータであると考えられる。よって,別の実施例では,発
明の組成物は,粒子の最長の大きさで,粒子のD90が約200μm以下,
好ましくは約100μm以下,より好ましくは75μm以下,さらに好ま
しくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm以下であるように,セ
レコキシブの粒子分布を有する。通常,本発明の上記実施例によるセレコ
キシブの粒子サイズの減少により,セレコキシブの生物学的利用能が改良
される。
【0023】
加えて,あるいは,本発明の組成物におけるセレコキシブ粒子は,約1μ
mから約10μm,好ましくは約5μmから約7μmの平均粒子サイズを
有することが望ましい。
【0024】
セレコキシブと賦形剤とを混合するに先立ち,ピンミル(pinmill)
のような衝撃式ミルでセレコキシブを粉砕させて,本発明の組成物を作製
することは,改善された生物学的利用能を提供するに際して効果的である
だけでなく,かかる混合若しくはブレンド中のセレコキシブ結晶の凝集特
性と関連する問題を克服するに際しても有益であることを発見した。ピン
ミルを利用して粉砕されたセレコキシブは,未粉砕のセレコキシブ又は液
体エネルギーミルのような他のタイプのミルを利用して粉砕されたセレコ
キシブよりは凝集力は小さく,ブレンド中にセレコキシブ粒子の二次集合
体には容易に凝集しない。減少した凝集力により,ブレンド均一性の程度
が高くなり,このことはカプセル及び錠剤のような単位投与形態の調合に
おいて,非常に重要である。これは,調合用の他の製薬化合物を調合する
際のエアージェットミルのような液体エネルギーミルの有用性に予期せぬ
結果をもたらす。特定の理論に拘束されることなく,衝撃粉砕により長い
針状からより均一な結晶形へ,セレコキシブの結晶形態を変質させ,ブレ
ンド目的により適するようになるが,長い針状の結晶はエアージェットミ
ルでは残存する傾向が高いと仮定される。
【0025】
ブレンド均一性は,セレコキシブをキャリア材料と湿式顆粒化させて製薬
成分を調製させることにより,特に,出発物質として利用したセレコキシ
ブを衝撃式ミルで粉砕させた際に,さらに改善されることをも発見した。
セレコキシブ出発物質を前述した粒子サイズになるように衝撃粉砕し,そ
の後湿式顆粒化を行うことが特に望ましい。
【0026】
別の実施例では,本発明の新規な製薬組成物は,希釈剤,崩壊剤,結着剤,
加湿剤及び潤滑剤から選択された一つ又はそれ以上のキャリア材料若しく
は賦形剤とともに,セレコキシブを含む。少なくとも一つのキャリア材料
は,水溶性希釈剤又は加湿剤であることが好ましい。かかる水溶性希釈剤
若しくは加湿剤は,製薬組成物が摂取されるときに,セレコキシブの分散
及び溶解を促進させる。水溶性希釈剤と加湿剤の双方が存在していること
が好ましい。本発明の成分は,微粒子若しくは顆粒固体又は液体のような
実質的には均質な可流動な塊であり,1回の投与量単位を含む,カプセル
又は錠剤のような個々の物品の形態である。
カ【0028】
発明の組成物の有用性
本発明の組成物は,シクロオキシゲナーゼ-2による媒介される幅広い範
囲の疾患の治療及び予防に有効である。現在考えている組成物は,以下の
ものに限定されないが,被験者の炎症の治療に有用であり,例えば,痛み
及び頭痛の治療における鎮痛剤として,発熱の治療における解熱薬として
有用である。例えば,かかる組成物は,以下のものに限定されないが,慢
性関節炎リウマチ,脊髄関節炎,痛風関節炎,骨関節炎,全身性エリテマ
トーゼス及び若年性関節炎を含む関節疾患の治療に有用である。さらに,
かかる組成物は,喘息,気管支炎,月経痛,プレタームレイバー(pre
termlabor),腱炎,滑液包炎,アレルギー神経炎,サイトメガ
ロウイルス感染性,HIV誘発アポトーシスを含むアポトーシス,腰痛,
肝炎を含む肝臓病,乾癬,湿疹,アクネ,UV損傷,火傷及び皮膚炎のよ
うな皮膚関連状態,白内障の外科手術又は屈折性外科手術のような手術後
の眼科手術を含む手術後の炎症の治療に有用である。考えている組成物は,
炎症性腸に関係する病気,クローン病,胃炎,過敏性腸症候群及び潰瘍性
大腸炎のような胃腸状態を治療するのに有用である。考えている組成物は,
片頭痛,結節性動脈周囲炎,甲状腺炎,再生不良性貧血,ホジキン病,ス
カレオドーマ(sclerodoma),リウマチ熱,I型糖尿病,重症
筋無力症を含む神経筋接合病,多重硬化を含む白質病,類肉腫症,ネフロ
ーゼ症候群,ベーチット症候群,多発筋炎,歯肉炎,腎炎,過敏症,脳水
腫を含む損傷後に発生する腫れ,心筋虚血などの病気における炎症の治療
に有用である。考えている組成物は,網膜炎,結膜炎,網膜症,ブドウ膜
炎,眼性光恐怖症のような眼性病や,眼組織への急性損傷の治療において
有用である。考えている組成物はウイルス感染及び嚢胞性線維症と関連す
る肺炎や,骨粗しょう症に関連するような骨吸収の治療において有用であ
る。考えている組成物は,アルツハイマー病,神経退化を含む皮質痴呆の
ような特定の中枢神経システム疾患や,発作,虚血及びトラウマからの結
果の中枢神経システム損傷の治療に有用である。本願で利用する用語「治
療」とは,アルツハイマー病を含む痴呆,血管痴呆,多重梗塞痴呆,初老
期痴呆,アルコール性痴呆及び老人性痴呆の部分的若しくは完全な抑制を
含む。
キ【0039】
定義
本願で使用する用語「活性成分」とは,別に特記しなければセレコキシブ
を意味する。
【0040】
本願で使用する用語「賦形剤」とは,被験者へ活性成分を運搬するための
ビヒクルとして使用される物質のことをいい,活性成分に添加された物質
は,例えば,取扱いを改善させ,若しくはその結果生じた組成物を,所望
及び一貫した経口運搬可能な単位投与量に形成させることを可能にする。
賦形剤には,例に示すが,それに限定されないが,希釈剤,崩壊剤,結着
剤,接着剤,加湿剤,潤滑剤,グリンダント(glidant),マスク
するために添加する物質があり,悪い味若しくは臭気を打ち消し,フレー
バ,色素,投与形態の外観を改善させるために添加した物質,及び経口投
与形態の調製に従来から利用されている活性成分以外の他の物質がある。
【0041】
本願で利用する用語「アジュバント」とは,活性成分を含む製薬成分に存
在する若しくは添加された際に,活性成分の作用を改良させるものをいう。
本願で利用する用語「単位投与量」とは,シクロオキシゲナーゼ-2媒介
状態又は疾患の治療若しくは予防のため,被験者への1回の経口投与を意
図する活性成分の量のことをいう。シクロオキシゲナーゼ-2媒介疾患の
治療は,セレコキシブの単位投与が定期的に必要であり,例えば,1回の
単位投与は1日に2回以上であり,その1回の単位投与は各食事の際に行
われ,1回の単位投与は4時間おき,若しくは他の間隔で行われ,1日に
1回でもよい。
本願で利用する用語「投与量単位」とは,活性成分の1回の単位投与量を
含む製薬組成物の部分のことをいう。本発明の目的では,投与量単位は,
錠剤又はカプセルのような個々の物品の形態であり,活性成分の単位投与
量を含有する溶液,懸濁液などの測定可能な体積を有している。
【0042】
本願で利用する用語「経口運搬可能な」とは,被験者の口を介して,被験
者の胃腸管に投与することを意味している。
【0043】
成分の組合わせを含有する製薬組成物を説明するために,本願で利用する
用語「実質的に均質」とは,成分が十分に混合されており,個々の成分が
分離されて個々の層にならない,若しくは成分内で濃度勾配が生じないこ
とを意味する。
【0044】
本願で利用する用語「生物学的利用能」とは,胃腸管を経由して血流に吸
収された活性成分の量の尺度に関係している。具体的には,本願で利用す
る「生物学的利用能」は,AUC(0‐∞)で表わされ,同じ投与量で静脈を
介して運搬された活性成分に対するAUC(0‐∞)の割合として表現された,
特に経口投与された成分で表わされる。
【0045】
本願での用語「相対的生物学的利用能」とは,同じ投与量で活性成分の経
口投与された溶液に対するAUC(0‐∞)の割合として表現された特定経口
投与成分のAUC(0‐∞)で表わされる。
【0046】
本願での用語「AUC(0‐24)」,「AUC(0‐48)」及び「AUC(0‐72)」
とは,リニアトラペゾイダルルール(lineartrapezoida
lrule)を利用して決定し,(ng/ml)hの単位で表現され,血
清濃度が投与後0からそれぞれ24時間,48時間若しくは72時間と関
係する曲線下での領域を意味している。
【0048】
本願の用語「Cmax」とは,観測された最大の血清濃度若しくは濃度/時
間曲線から計算され,あるいは見積られ,ng/mlの単位で表現された
最大の血清濃度を意味する。本願の用語「Tmax」とは,投与後Cmaxにな
り,時間(h)の単位で表現される時間を意味する。
【0049】
本願の用語「T1/2」とは,濃度-時間曲線の最終段階でのデータポイン
トに対する,自然対数log(ln)濃度対時間の簡単な線形回帰から決
定された,血清濃度の最終の半減期を意味する。T1/2は‐ln(2)/
(‐b)として計算され,時間(h)の単位で表現される。
ク【0051】
本発明の組成物により提供されるセレコキシブ投与
本発明の製薬組成物は,約10mgから約1000mgの1日の投与量で,
セレコキシブの投与に適する。通常,本発明の組成物の各投与量単位は,
1日の投与量の10分の1から全体の1日の投与量のセレコキシブの量を
含む。本発明の組成物は,投与量単位につき,約10mgから約1000
mg,好ましくは約50mgから約800mg,より好ましくは75mg
から約400mg,さらに好ましくは約100mgから約200mgの量
のセレコキシブを含む。投与量単位が経口投与に適する個々の物品の形態
であるときに,例えば,カプセル若しくは錠剤であるとき,夫々のかかる
物品は約10mgから約1000mg,好ましくは約50mgから約80
0mg,より好ましくは約75mgから約400mg,さらに好ましくは
約100mgから200mgのセレコキシブを含む。
【0054】
特定の状態及び疾患の治療
本発明の製薬組成物は,シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤の投与が必要と
されう場合に有用である。上記組成物は,例えば,リウマチ様関節炎およ
び骨関節炎の治療,一般に,痛みの管理(特定の口腔外科手術後の痛み,
一般の外科手術後の痛み,整形手術後の痛み及び骨関節炎の急性拡大)に
対して,アルツハイマー凝の治療及び結腸癌化学的予防に,特に有効であ
る。
【0055】
リウマチ様関節炎の治療では,本発明の組成物は,約50mgから約10
00mg,好ましくは約100mgから約600mg,より好ましくは約
150mgから約500mg,さらに好ましくは約175mgから約40
0mg,例えば,200mgのセレコキシブの毎日の投与量のために利用
することが可能である。本発明の組成物を投与する際に,体重当たり約0.
67から13.3mg,好ましくは体重当たり約1.33から約8.00
mg,より好ましくは体重当たり約2.00から約6.67mg,さらに
好ましくは体重当たり約2.33mgから約5.33mg,例えば,体重
当たり約2.67mgのセレキコシブの1日の投与量は,通常,適当であ
る。1日の投与は,1日に1回から4回,好ましくは1日に1回若しくは
2回の投与がよい。多くの患者にとっては,1日の2回,1回100mg
の割合で本発明の組成物を投与することが好ましいが,ある患者では,1
日に2回で1回200mgの投与量若しくは1回100mgを2回の投与
が有益であることもある。
【0056】
骨関節炎の治療では,本発明の組成物は,約50mgから約1000mg,
好ましくは約100mgから約600mg,より好ましくは約150mg
から約500mg,さらに好ましくは約175mgから約400mg,例
えば,約200mgのセレコキシブの1日の投与量を提供するために利
用可能である。本発明の組成物を投与する際に,kg体重当たり約0.6
7mgから約13.3mg,好ましくはkg体重当たり約1.33から約
8.00mg,より好ましくは約2.00mgから約6.67mg,さら
に好ましくはkg体重当たり約2.33から約5.33mg,例えば,k
g体重当たり約2.67mgのセレコキシブの1日の投与量は,通常,適
当である。1日の投与は1日1回から4回,好ましくは1日1回若しくは
2回の投与が好ましい。1日に2回の投与では1回100mg,若しくは
1回で200mgの投与の割合で,本発明の組成物を投与することが好ま
しい。
ケ【0062】
本発明の組成物の形態
本発明の製薬組成物は,経口投与に適した,一つ又はそれ以上の好ましい
非毒性であり,薬剤学的に許容なキャリア,賦形剤及びアジャバント(本
願では,まとめて「キャリア材料」又は「賦形剤」という)と組合わせた
セレコキシブを含む。そのキャリア材料は組成物の他の成分と相溶性があ
るという意味において,許容されなければならず,さらに,賦形剤にとっ
て有害であってはならない。本発明の組成物は,適当なキャリア材料の選
択及び目的の治療に効果的であるセレコキシブの投与量により,適当な経
口ルートによって投与されるのに適する。したがって,利用するキャリア
材料は固体若しくは液体である,又はその両方であり,組成物は約1%か
ら約95%,好ましくは約10%から約90%,より好ましくは約25%
から約85%,さらに好ましくは約30から約80%重量のセレコキシブ
を含有する。本発明のかかる製薬組成物は,成分を混合することを含み,
何れかの周知の薬学に関する技術により調製可能である。
【0067】
キャリア材料又は賦形剤
前記したように,本発明の製薬組成物は,経口投与に適する一つ又はそれ
以上の薬剤学的に許容なキャリア材料と組合わせて,投与量単位あたり治
療に若しくは予防処置的に有効な量のセレコキシブを含む。本発明の組成
物は,薬剤学的に許容な希釈剤,崩壊剤,結着剤,接着剤,加湿剤,潤滑
剤及びアンチ付着剤からなる群から選択された一つ又はそれ以上のキャリ
ア材料と混合させた所望の量のセレコキシブを含むことが好ましい。さら
に好ましくは,かかる組成物は,即座に解放するカプセル又は錠剤の形態
で,従来の投与のために錠剤化又はカプセル化される。
【0068】
本発明の製薬組成物に利用されるキャリア材料の選択及び組合わせにより,
組成物は,効き目,生物学的利用能,クリアランス時間,安定性,セレコ
キシブとキャリア材料の相溶性,安全性,溶解プロファイル,崩壊プロフ
ァイル及び/又は他の薬物速度論的,化学及び/又は物理的性質に関して,
改善された性能を示す。キャリア材料は水溶性若しくは水分散性であるこ
とが好ましく,セレコキシブの低水溶液溶解性及び疎水性を相殺する湿潤
的性質を有する。組成物が錠剤として調合されると,選択されたキャリア
材料の組合わせにより,溶解及び崩壊プロファイル,硬度,破砕強度及び
/又は破砕性において改善される。
【0069】
希釈剤
本発明の製薬組成物は,キャリア材料として,一つ又はそれ以上の薬剤学
的に許容な希釈剤を任意に含む。適当な希釈剤には,個々に又は組合わせ
て利用され,ラクトースUSP;ラクトースUSP無水物;ラクトースU
SP噴霧乾燥;スターチUSP;直接圧縮させたスターチ;マンニトール
USP;ソルビトール;デキストローズ一水和物;微結晶性セルロースN
F;二塩基性リン酸カルシウム二水和物NF;スクロースベース希釈剤;
粉砂糖;一塩基性硫酸カルシウム一水和物;硫酸カルシウム二水和物NF;
乳酸カルシウム三水和物顆粒NF;デキストレート,NF(例えば,エム
デックス(Emdex));セルタブ(Celutab);デキストロー
ズ(例えば,セレローズ(Cerelose));イノシトール;マルト
ロン(Maltron)及びモル‐レックス(Mor-Rex)のような
加水分解穀物;アミロース;レクセル(Rexcel);粉末セルロース
(例えば,エルセマ(Elcema));炭酸カルシウム;グリシン;ベ
ントナイト;ポリビニルピロリドンなどがある。存在するならば,かかる
希釈剤は,組成物の全重量に対して,希釈剤全体で約5%から約99%,
好ましくは約10%から約85%,より好ましくは約20%から約80%
を含むことが好ましい。選択された希釈剤又は希釈剤類は,錠剤が好まし
いときには,適当な流動性と,圧縮性を示すことが好ましい。
【0070】
単独で又は組合わせて利用するラクトース及び微結晶性セルロースは希釈
剤として好ましい。双方の希釈剤はセレコキシブと化学的に相溶性を有す
る。エクストラグラニュラ微結晶性セルロース(つまり,乾燥工程後に湿
式顆粒組成物に微結晶性セルロースを添加)の使用により,(錠剤の)硬
度及び/又は崩壊時間が改善される。ラクトース,具体的にはラクトース
一水和物が特に好ましい。通常,ラクトースは,比較的低希釈剤コストで,
適当なセレコキシブ放出速度,安定性,予め圧縮させるための流動性及び
/又は乾燥性質を有する製薬組成物を提供する。(湿式顆粒が利用される
場合,)顆粒化中の高密度化を促進する高密度の物質を提供し,したがっ
て,ブレンド流動性が改善される。
【0071】
崩壊剤
本発明の製薬組成物は,特に錠剤調合用に,キャリア材料として,一つ又
はそれ以上の薬剤学的に許容な崩壊剤を任意に含む。単独で若しくは組合
わせて利用される適当な崩壊剤には,スターチ;スターチグリコール酸ナ
トリウム;(ベエガン(Veegum)HVのような)粘度;(精製セル
ロース,メチルセルロース,カルボキシメチルセルロースナトリウムやカ
ルボキシメチルセルロースのような)セルロース;アルギン酸類;(ナシ
ョナル1551及びナショナル1550のような)予めゼラチン化させた
コーンスターチ;クロスポビドン(crospovidone)USPN
F;(寒天,グアラ(guar),イナゴマメ,カラヤ(Karaya),
ペクチン及びトラガカントのような)ゴムがある。崩壊剤は,製薬組成物
の調製中の適当な工程で添加することが可能であり,特に,顆粒化前若し
くは圧縮前の潤滑工程中が好ましい。存在するならば,かかる崩壊剤は,
組成物の全重量に対して,全体の崩壊剤で約0.2%から約30%,好ま
しくは約0.2%から約10%,より好ましくは約0.2%から約5%の
量を含む。
【0073】
結着剤及び接着剤
本発明の組成物は,特に錠剤調合用に,キャリア材料として,一つ又はそ
れ以上の薬剤学的に許容な結着剤若しくは接着剤を任意に含む。かかる結
着剤及び接合剤により,サイジング,潤滑,圧縮及びパッケージングのよ
うな通常の処理を可能にするように,錠剤化されるべきパウダーに十分な
凝集力を付与することが好ましいが,錠剤が崩壊可能であり,組成物は摂
取により吸収される。単独で若しくは組合わせて利用される適当な結着剤
及び接着剤には,アラビアゴム;トラガカント;スクロース;ゼラチン;
グルコース;スターチ;以下のものに限定されないが,メチルセルロース
及びナトリウムカルボキシメチルセルロース(例えば,タイロース(Ty
lose))のようなセルロース材料;アルギン酸及びその塩;珪酸マグ
ネシウムアルミニウム;ポリエチレングリコール;グアラゴム(guar
gum);多糖酸;ベントナイト;ポリビニルピロリドン;ポリメタクリ
レート;ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);ヒドロキシ
プロピルセルロース(Klucel);エチルセルロース(Ethoce
i);(ナショナル1511及びスターチ1500のような)予めゼラチ
ン化させたスターチがある。存在するならば,かかる結着剤及び/又は接
着剤は,組成物の全重量に対して,結着剤及び/又は接着剤全部で約0.
5%から約25%,好ましくは約0.75%から約15%,より好ましく
は約1%から約10%の量を含む。
【0075】
加湿剤
セレコキシブは水溶液にかなり溶解しにくい。したがって,本発明の製薬
組成物は,任意であるが,好ましくは,キャリア材料として,一つ又はそ
れ以上の薬剤学的に許容な加湿剤を含む。かかる加湿剤は,水と親和性が
あるようにセレコキシブを維持させるように選択することが好ましく,そ
の状態が製薬組成物の相対的生物学的利用能を改善させると考えられる。
単独で又は組合わせて利用される適当な加湿剤には,オレイン酸;モノス
テアリン酸グリセリン;ソルビタンモノオレイン酸エステル;ソルビタン
モノラウリン酸エステル;トリエタノールアミンオレイン酸塩;ポリオキ
シエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル;ポリオキシエチレンソル
ビタンモノラウリン酸エステル;オレイン酸ナトリウム;ラウリル硫酸ナ
トリウムがある。アニオン性界面活性剤である加湿剤が好ましい。存在す
るならば,かかる加湿剤は,組成物の全重量に対して,全部の加湿剤で約
0.25%から約15%,好ましくは約0.4%から約10%,より好ま
しくは約0.5%から約5%の量を含む。
【0076】
ラウリル硫酸ナトリウムは好ましい加湿剤である。存在するならば,ラウ
リル硫酸ナトリウムは,組成物の全重量の対して,約0.25%から約7%,
好ましくは約0.4%から約6%,より好ましくは約0.5%から約5%
の量を含む。
【0077】
潤滑剤
本発明の製薬組成物は,キャリア材料として一つ又はそれ以上の薬剤学的
に許容な潤滑剤及び/又はグリダント(glidant)を任意に含む。
単独で或いは組合わせて利用する適当な潤滑剤及び/又はグリダントには,
グリセリルベハペート(glycerylbehapate)(Comp
ritol888);ステアリン酸塩類(マグネシウム,カルシウム及び
ナトリウム),ステアリン酸;硬化植物油(例えば,ステロテックス(S
terotex));タルク;ワックス;ステアロウェット(Stear
owet);ホウ酸;安息香酸ナトリウム;酢酸ナトリウム;フマル酸ナ
トリウム;塩化ナトリウム;DL‐ロイシン;ポリエチレングリコール(例
えば,カルボワックス4000及びカルボワックス6000);オレイン
酸ナトリウム;ラウリル硫酸ナトリウム及びラウリル硫酸マグネシウムが
ある。存在するならば,かかる潤滑剤は,組成物の全重量に対して,潤滑
剤全体で約0.1%から約10%,好ましくは約0.2%から約8%,よ
り好ましくは約0.25%から約5%の量を含む。アテアリン酸マグネシ
ウムは好ましい潤滑剤であり,例えば,錠剤調合の圧縮中の装置と顆粒化
混合物との摩擦を減少させるために利用される。(アンチ付着剤,色剤,
着香剤,甘味料及び保存剤のような)他のキャリア材料は,製薬技術の分
野では周知であり,本発明の組成物に含有させることが可能である。例え
ば,酸化鉄を組成物に添加して色を黄色にさせることもできる。
【0078】
カプセル及び錠剤
本発明のある実施例では,製薬組成物は単位投与量のカプセル及び錠剤の
形であり,所望の量のセレコキシブと結着剤とを含む。好ましい組成物は,
薬剤学的に許容な希釈剤,崩壊剤,結着剤,加湿剤及び潤滑剤からなる群
から選択された一つ又はそれ以上のキャリア材料をさらに含む。より好ま
しくは,その組成物はラクトース,ラウリル硫酸ナトリウム,ポリビニル
ピロリドン,クロスカルメロースナトリウム,ステアリン酸マグネシウム
及び微結晶性セルロースからなる群から選択された一つ又はそれ以上のキ
ャリア材料を含む。さらに好ましくは,組成物はラクトース一水和物及び
クロスカルメロースナトリウムを含む。さらに好ましくは,組成物は一つ
又はそれ以上のキャリア材料であるラウリル硫酸ナトリウム,ステアリン
酸マグネシウム及び微結晶性セルロースをさらに含む。
コ【0124】
カプセル及び錠剤中でのセレコキシブの粒子サイズ
カプセル若しくは錠剤の形で経口投与されると,セレコキシブ粒子サイズ
の減少により,セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見した。
したがって,セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下,好まし
くは約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに好ましく
は約40μm以下,最も好ましくは25μm以下である。例えば,例11
に例示するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60μ
mから約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常に改善
される。加えて又はあるいは,セレコキシブは約1μmから約10μmで
あり,好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均粒子サイズを有する。
【0125】
顆粒化二次粒子サイズ及び流動性
本発明の製薬組成物は,例えば,直接カプセル化させる若しくは直接圧縮
させるかにより調製可能であるが,カプセル化又は圧縮に先立ち,湿式で
顆粒化させることが好ましい。湿式顆粒化は,他の効果の中で,粉砕組成
物を高密度化させて流動性及び圧縮特性を改善させ,カプセル化又は錠剤
化させるのに組成物の測定又は重量分散を容易にする。顆粒化から生じる
二次粒子サイズ(つまり,顆粒サイズ)は,厳密には重要ではないが,平
均顆粒サイズは,錠剤化の従来のハンドリング及び加工を可能にすること
は重要であり,薬剤学的に許容な錠剤を形成する直接圧縮可能混合物が生
成することが可能になる。
サ【0134】
セレコキシブ組成物の調製方法
本発明は,セレコキシブを含む製薬組成物の調製方法にも関する。特に,
本発明は,微粒子の形態であるセレコキシブを含む製薬組成物の調製方法
に関する。より具体的には,本発明は,別々の単位投与量の錠剤若しくは
カプセル形態のセレコキシブ組成物の調製方法に関するものであり,各錠
剤若しくはカプセルは約12乃至24時間に亘り治療効果をもたらすのに
十分なセレコキシブの量を含有する。例えば,各投与量単位には,約10
0mg乃至約200mgのセレコキシブを含有することが好ましい。本発
明によれば,湿式顆粒化,乾式顆粒化又は直接圧縮若しくはカプセル化方
法が利用され,本発明の錠剤若しくはカプセル組成物を調製する。
【0135】
湿式顆粒化は,本発明の製薬組成物の好ましい調製方法である。湿式顆粒
化過程にて,(必要ならば,一つ又はそれ以上のキャリア材料とともに)
セレコキシブは先ず粉砕される若しくは所望の粒子サイズに微細化される。
さまざなま粉砕器若しくは破砕器が利用することが可能であるが,セレコ
キシブのピンミリングのような衝撃粉砕により,他のタイプの粉砕と比較
して,最終組成物に改善されたブレンド均一性がもたらせる。例えば,液
体窒素を利用してセレコキシブを冷却することは,セレコキシブを不必要
な温度へ加熱させることを回避するために,粉砕中に必要なことである。
前記にて議論したように,上記粉砕工程中にD90粒子サイズを約200μ
m以下,好ましくは約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,
さらに好ましくは約40μm以下,最も好ましくは約25μm以下に小さ
くすることは,セレコキシブの生物学的利用能を増加させるためには重要
である。
【0147】
上記最終ブレンド混合物は,その後カプセル化される(あるいは,錠剤を
調製したいのなら,適当なサイズの道具を利用して所望の重量及び硬度の
錠剤に圧縮させる)。当業者に公知である従来公知な圧縮及びカプセル化
技術が利用される。約20mm乃至約60mmの範囲のベッドの高さと約
0乃至約5mmの範囲の圧密設定と,1時間あたり約60,000カプセ
ル乃至130,000カプセルの速度とを利用して,カプセルに対して適
当な結果が得られた。投与量の重量制御は観測され,(i)低速度及び高
圧縮,又は(ii)高速度及び高いベッドの高さの何れかにで減少させる。
したがって,上記パラメータの組合わせは注意深く制御される。スラグ(s
lug)形成は,カプセル重量制御が維持される最も低い圧密設定を利用
することにより,最小化若しくは排除されることをも発見した。被覆物の
ある錠剤が必要ならば,当業者には公知である従来の被覆技術を利用する
ことが可能である。
【0148】
ユニット作業の組合わせにより,単位投与量レベルでセレコキシブ含有量
が一様であり,容易に崩壊し,十分簡単に流れる顆粒が製造され,重量変
動はカプセル充填又は錠剤化中に信頼できるほどに制御され,且つ,バル
ク密度は十分であり,選択された装置にてバッチ処理可能であり,個々の
投与量は特定のカプセル若しくは錠剤ダイに適合する。
シ【0161】
例4:200mg投与量錠剤
錠剤は以下の成分を有するように調製された。
【0162】
【表4】…
調製された錠剤は,0.275インチx0.496インチ(6.6mmx
11.9mm)の変形カプセル形の錠剤であった。…
【0164】
【表5】…
【0165】
【表6】…
例7:粒子サイズ解析
表7Aは,カプセル化に先立ち,それぞれ例1と例2の湿式顆粒化させた
製薬組成物の粒子サイズのふるい解析の結果を示す。「スクリーンに保持
された割合」とは,指摘したふるいサイズよりも大きな粒子サイズを有す
る全バッチの重量%を意味する。
【0166】
【表7】…
表7Bは,錠剤へ圧縮させる前に,それぞれ例3と例4の湿式顆粒化製薬
組成物の粒子サイズのふるい解析の結果を示す。「バッチの割合」とは,指
摘したふるいサイズと次に小さい古いサイズとの間の粒子サイズを有する
全バッチの重量%を意味する。「蓄積されたバッチの割合」とは,指摘した
ふるいサイズよりも大きい粒子サイズを有する全バッチの重量%を報告す
る。
【0167】
【表8】…
ス【0170】
例11:犬モデルでの生物学的利用能
9乃至13ポンド(4.1乃至5.9kg)の重量のある健康なメスのビ
ーグル犬は,以下のセレコキシブの1回の投与を受けた:(1)kg体重当
たり5.0mgのセレコキシブの静脈注入に続き,kg体重当たり5.0
mgのセレコキシブの第二の静脈注入;(2)経口溶液形態のkg体重当た
り5mgのセレコキシブ;(3)経口カプセルの形態のkg体重当たり5.
0mgのニートな未調合セレコキシブを投与する。静脈及び経口溶液投与
のビヒクルは,体積比で2:1の比率である平均分子量400(PEG‐
400)を有するポリエチレングリコールと水の混合物であった。各静脈
注入は,2回の注入に分け,15乃至30分で15分の間隔をおいて与え
た。
【0171】
多くの血液サンプルを,ヘパリン化チューブへの静脈穿刺又は留置カテー
テルにより各動物から集めた。血清中のセレコキシブ濃度はHPLCにて
測定し,その結果データを,以下の表11−1に示す薬物速度論パラメー
タを計算するために利用した。
【0172】
【表12】…
例11−2:犬モデルでの調合の相対的生物学的利用能
セレコキシブ粒子サイズ,湿潤剤の増加濃度,pH及び懸濁液としてのセ
レコキシブの分散液のような調合パラメータの効果は,犬モデルの生物学
的利用能への経口溶液に対して評価した。調合する前にセレコキシブを微
粉化(平均粒子サイズ10乃至20μm)させる効果は,組成物Aにて試
験した。微粉化,添加湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム)と増加したマイ
クロ環境pH(Na3PO412H2O)の組合わせ効果を,組成物Bにて
試験した。湿潤剤(Tween80)をセレコキシブと密に接触させる効
果(単純な乾燥混合に対する共沈殿の効果)を,組成物Cにて試験した。
さらに微細化させた粒子サイズ(約1μm)と粒子を懸濁液に分散させた
効果を,組成物Dにて試験した。例11−1(組成物E)にて利用したの
と同様なセレコキシブ溶液を,参考として用いた。加えて,カプセル(組
成物F)中の未粉砕,未調合セレコキシブの例11−1のデータも,参考
として入れた。調合A,B,C,D,E及びFの特定の組成を表11−2
Aにまとめる。
【0173】
【表13】…
(1)アンチソルベントとして5%のポリソルベート80の水溶液を利用し
て,エタノール溶液から沈殿させた。
(2)粒子が顕微鏡で評価した際に約1μm径になるまで,ポリソルベート8
0とポリビニルピロリドンのスラリーにて,薬をボールミルさせて,懸濁
液として調製した。
(3)体積比2:1のPEG‐400と水の溶液。
上記組成物を3つのオス犬と3つのメス犬のグループに投与した。グルー
プ1の犬には,選択乗換設計にて,kg体重当たり5mgのセレコキシブ
を含む溶液Eとカプセル調合A及びBを投与した。グループ2の犬には,
選択乗換設計にて,kg体重当たり5mgのセレコキシブを含むカプセル
調合Cと懸濁液Dを投与した。血漿サンプルを24時間かけて集め,HP
LCによりセレコキシブを解析した。
【0174】
上記実験の結果(表11−2B,11−2Cおよび11−2C)から,粒
子サイズを小さくする(組成物A)又は湿潤剤とともにセレコキシブを共
沈殿させる(組成物C)は,例11−1に示す未調合の初期の研究と比較
して,セレコキシブの生物学的利用能(AUC(0‐24)として測定)が増大
した。セレコキシブの生物学的利用能は,PEG‐400/水溶液(組成
物E)から懸濁液(組成物D)へと大きくなった。約1μmの粒子サイズ
を有する懸濁液からの生物学的利用能は,溶液からの生物学的利用能と同
様であり,湿式顆粒された固体組成物からのセレコキシブ生物学的利用能
は小さなセレコキシブ粒子サイズ(例えば,調合に先立ち,セレコキシブ
のピンミルによるもの),セレコキシブの増大した濡れ性(例えば,顆粒
液体にラウリル硫酸ナトリウムを含有させることによるもの)や分散改良
(例えば,顆粒化にてクロスカルメロースナトリウムを含有させることに
よる)により改善可能であることを,強く示唆している。各調合に対する
表11-2Cおよび11-2Dに示される生物学的利用能は,例11−1
と例11−2の研究間の掛け橋として,溶液データ(組成物E)を利用し
て,セレコキシブの静脈投与に対する実験的に測定された生物学的利用能
の割合として,上記調合の生物学的利用能を表わす。
【0175】
【表14】…
【0176】
【表15】…
【0177】
【表16】…
セ【0183】
例13
以下の調合を有するカプセルを調製し,評価した。
【0184】
【表20】…
セレコキシブは,連続した小さなスクリーンサイズ(#14,#20,#
40)を備えた振動ミルを介して何回も粉砕した。上記混合物に添加した
セレコキシブ粒子のD90粒子サイズは,約37μm以下であった。セレコ
キシブ,ラクトース及びポリビニルピロリドンを遊星型ミキサーボールに
て混合し,水を用いて湿式顆粒化させた。その後顆粒を60℃でトレイに
て乾燥させ,40メッシュスクリーンを通して粉砕し,V―ブレンダーに
てステアリン酸マグネシウムにより湿潤化させてドソナー型カプセル化器
にてカプセル化させた。カプセルのインビトロ溶解プロファイルは,US
P2法と溶解媒体として15mMのリン酸緩衝液とを利用して求めた。1
5分後には約50%のインビトロ溶解が達成され,約30分後には95%
以上のインビトロ溶解が達成された。
【0185】
上記の100mg単位投与量カプセルの吸収,分散,代謝及び排除プロフ
ァイルは,14
C‐セレコキシブの懸濁液プロファイルと比較した。その研
究は,健康なオスの被験者にて行ったオープンラベルで,ランダム交差研
究であった。懸濁液は,5%のポリソルベート80を含むエタノールにセ
レコキシブを溶解させて調製し,投与に先立ち,その混合物をアップルジ
ュースに添加した。懸濁液を受けた被験者はセレコキシブの300mg投
与量を摂取した。カプセル形態のセレコキシブを受けた被験者は,全体で
セレコキシブを300mg投与させるために,100mg投与量単にのカ
プセルを3つ受け入れた。カプセルからの吸収速度は,懸濁液のそれより
も遅かったが,AUC(0-48)にて測定した際には,懸濁液同等であった。
平均結果を,以下の表13Bに報告する。セレコキシブは尿又は大便の何
れかに,約2.56%のみの放射線投与にて殆ど代謝された。
【0186】
【表21】…
ソ【0188】
例15:100mg投与量のカプセルの調製
100mg若しくは200mgのセレコキシブを投与し,それぞれ例1若
しくは例2に示す組成物を有するカプセルは,図1若しくは図2に示す方
法で,製薬的に許容な製造に基づき調製された。100mg若しくは20
0mgのセレコキシブを与え,それぞれ例3若しくは例4に示す組成物を
有する錠剤は,図1若しくは図2に示す適当な方法を変更させて調製され,
組成物をカプセル化させる代わりに,錠剤化させ,クロスカルメロースナ
トリウムおよび微結晶性セルロースの添加を利用した。
【0189】
以下に示す出発物質を利用して,100mg投与のカプセルのバルク配合
を説明する方法では,典型的なバッチは4つの同じ顆粒化セクションから
なるが,顆粒化セクションの数は正確には重要ではなく,装置の処理能力
及び必要とされるバッチサイズに,主に依存する。
【0190】
粉砕
セレコキシブは,反対に回転するディスクによる衝撃式ピンミルにて混合
された。約8960rpm/5600rpm(回転rpm/反対回転rp
m)乃至112000rpm/5600rpmの範囲にあるミル速度にて,
粒子サイズは比較的狭い範囲(D90が30μm若しくはそれ以下)内で変
化し,ミル速度はバルクドラック微粉化過程には厳密には重要でないこと
を示唆した。図2は好ましい実施例を示す工程系統図を示し,セレコキシ
ブ出発物質は,キャリア材料とのブレンドに先立ち,衝撃式ミルにて,好
ましくはピンミルにて粉砕される。
【0191】
乾燥混合
セレコキシブ,ラクトース,ポリビニルピロリドン及びクロスカルメロー
スナトリウムは,1200LのニロフィールダーPMA-1200高速顆
粒器に移動させ,高速チョッパー及びインペラーで約3分間混合させた。
本乾燥混合時間では,湿式顆粒化工程の開始に先立ち,キャリア材料とセ
レコキシブの十分な混合が実現できた。
【0192】
湿式顆粒化
ラウリル硫酸ナトリウム(8.1kg)を精製USP水(23.7kg)
に溶解させた。結果生じた溶液を,約14kg/分の速度で顆粒器へ連続
的に添加した。全体の顆粒化時間は約6.5分であった。この顆粒化中に,
顆粒器の主要ブレードとチョッパーブレードは高速設定に配置させた。湿
式顆粒化させた混合物には,約8.1重量%の水を含有していた。あるい
は,乾燥混合工程にて,ラルリル硫酸ナトリウムはセレコキシブ,ラクト
ース,ポリビニルピロリドン及びクロスカルメロースナトリウムと混合さ
せ,精製USP水をラウリル硫酸ナトリウムを含む上記乾燥混合物に添加
することもできる。
(2)前記(1)の記載事項によれば,本件明細書には,本件発明1に関し,次の
ような開示があることが認められる。
アシクロオキシゲナーゼ阻害剤であるセレコキシブは,炎症及び炎症関連
疾患の治療に活用することが期待されてきたが,水溶性媒体には異常なほ
ど溶解せず,未調合のセレコキシブがカプセル形態で経口投与された場合,
容易には溶解せず,分散もしない,また,長く凝集した針を形成する傾向
を有する結晶形態を有する未調合のセレコキシブは,通常,錠剤成形ダイ
での圧縮の際に,融合して一枚岩の塊になり,他の物質とブレンドさせた
ときでも,セレコキシブの結晶は,他の物質から分離する傾向があって,
組成物の混合中にセレコキシブ同士で凝集し,セレコキシブの不必要な大
きな塊を含有する,非均一なブレンド組成物になるため,所望のブレンド
均一性を有するセレコキシブ含有の製薬成分を調製することは難しいなど
の問題があったため,従来,溶解性などが改善され,生物学的利用能特性
を有する経口運搬可能なセレコキシブの調合の必要性が存在し,未調合セ
レコキシブで可能であるよりも,急速に効き目のある薬物速度論を示す調
合を提供することは,特に有益であった(【0003】,【0008】,
【0009】)。
イ「本発明」は,一つ又はそれ以上の経口運搬可能な投与量単位を含む製
薬組成物を提供し,各単位量は,一つ又はそれ以上の製薬的に許容な賦形
剤と密に混合した約10mgから約1000mgの量の微粒子セレコキシ
ブを含み,組成物は,粒子の最長の大きさで,D90が約200μm以下で
あるように(サンプル粒子の90%はD90値よりも小さい),セレコキシ
ブ一次粒子サイズの分布を有するものである(【0011】,【0013】)。
2取消事由1-1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性判断の誤り)に
ついて
⑴甲1発明の認定の誤り及び手続違背について
ア甲1の記載事項について
甲1には,次のような記載がある。
(ア)「SC-58635(セレコキシブ):シクロオキシゲナーゼ-2
の高選択的阻害薬。ヒトにおける体内動態およびその生体内変化におけ
るその主要なCYP450アイソザイムの同定。」(原文S-617頁
右欄2行~5行・訳文1頁)
(イ)「背景.SC-58635(セレコキシブ)は,シクロオキシゲナ
ーゼの誘導型(COX-2)を選択的に(375倍)阻害する新規の抗
炎症薬である。
目的.ヒトにおけるCOX-2の高選択的阻害薬(SC-58635)
の体内動態を明らかにし,SC-58635の生体内変化経路に関与す
る主要なCYP450アイソザイムを同定する。
方法.被験者に,微細懸濁液として[14
C]・SC-58635(10
0μCi)の単回経口用量300mgを投与し,15日間のウォッシュ
アウト期間後にSC-58635の300mgカプセル剤を投与した。
SC-58635のInvitro代謝経路を,ヒト肝ミクロソーム
および異種発現したCYP450タンパク質を用いて評価した。」(原
文S-617頁右欄9行~18行・訳文1頁)
(ウ)「結果.血漿中の主要な薬剤関連物質は,SC-58635であ
った。SC-58635のタンパク結合は97%で,血液中の総[14
C]は,赤血球と血漿間で均一に分布した(RBC/血漿=0.89)。
[14
C]-SC-58635経口懸濁液の投与後に,投与量の[平均(S
D)]28.9%(6.8)および52.1%(28.6)が,それぞ
れ尿および糞便中で回収された。SC-58635は広範に代謝され,
未変化での回収は尿中では投与量の<0.1%,糞便中では2.6%で
あった。同定された主要な代謝産物は,一次不活性ヒドロキシル化代謝
産物(代謝産物A;SC-60613)のさらなる酸化から形成された
不活性カルボン酸(代謝産物B;SC-62807)であった。代謝産
物Bは,尿および糞便中で投与量のそれぞれ18.8%(5.9)およ
び54.4%(19.2)に相当した。総[14
C]および未変化SC-
58635は容易に吸収され,Cmax値は,それぞれ1527(638)
および1077(649)ng/mLであった。SC-58635に対
するTmax,t1/2およびAUC(0~48)値は,1.9(0.6)時間,
15.6(3.5)時間および8763(2274)ng/mL・時間
であった。Invitro研究において,一次ヒドロキシル化代謝産
物は,主にCYP2C9アイソザイムを介して形成されることが示され
た。
結論.SC-58635は速やかに吸収され,約15時間のt1/2で排
泄される。その主要な排泄経路は,主にCYP2C9アイソザイムを介
して形成される一次ヒドロキシル化代謝物Aの代謝による。」(原文S
-617頁右欄18行~38行・訳文1頁ないし2頁)
イ甲1発明の認定について
(ア)前記アの記載事項によれば,甲1には,本件審決認定のとおり,「シ
クロオキシゲナーゼ-2の高選択的阻害剤であるセレコキシブを300
mg含む経口投与用カプセルであって,ヒトにおけるシクロオキシゲナ
ーゼ-2の高選択的阻害剤であるセレコキシブの体内動態を明らかにし,
セレコキシブの生体内変化経路に関与する主要なCYP450アイソザ
イムを同定することを目的として,被験者に対し,微細懸濁液としての
[14
C]・SC-58635(100μCi)単回経口用量300mg
の投与,及び,15日間のウォッシュアウト期間後に経口投与されるカ
プセル」の発明が記載されていることが認められるから,本件審決にお
ける甲1発明の認定に誤りはない。
(イ)これに対し原告らは,①甲1には,試験に使用したカプセル剤を治
療目的に使用することは明記されていないが,SC-58635(セレ
コキシブ)は,抗炎症薬の有効成分であることが記載されているのであ
るから,甲1記載の試験が,SC-58635を有効成分とする治験製
剤をヒトに投与した場合の体内動態を確認するための試験(薬物動態試
験)であって,当該製剤が治療目的で投与される製剤であることは明ら
かである,②医薬品においては,服用した場合の安全性や有効性を確認
するために,臨床試験の早い段階において,ヒトに摂取させた場合の代
謝経路及び主要代謝物を確認する試験(マスバランス試験)がされるこ
とは,技術的常識であるところ,甲1記載の試験が健常者に対して行わ
れていることは明らかであるから(甲49,50),当業者は,甲1の
記載から当該試験が第1相の臨床薬理試験の一環としてされた試験であ
ることを理解できるとして,甲1記載の試験自体は,治療を目的とした
ものではないとしても,甲1記載の試験で使用されているカプセル剤は,
医薬品の開発を目的としたSC-58635を有効成分とする治験製剤
であることは,明らかであり,治療にも用いられるものであるから,本
件審決が甲1発明において,「ヒトにおけるシクロオキシゲナーゼ-2
の高選択的阻害剤であるセレコキシブの体内動態を明らかにし,セレコ
キシブの生体内変化経路に関与する主要なCYP450アイソザイムを
同定することを目的」とするとの部分を発明特定事項として認定し,甲
1に記載された発明は治療を目的とするものではないと認定したことは
誤りである旨主張する。
しかしながら,甲1には,「目的.ヒトにおけるCOX-2の高選択
的阻害薬(SC-58635)の体内動態を明らかにし,SC-586
35の生体内変化経路に関与する主要なCYP450アイソザイムを同
定する。」(前記ア(イ))との記載があるから,本件審決が上記部分を
甲1発明の発明特定事項として認定した点に誤りはない。
次に,甲49には,「欧米の製薬企業では,臨床試験開始後の早い時
期に,開発候補化合物の14
C標識体や3
H標識体をヒトに投与し,ヒト
での吸収率,排泄経路および代謝物を検討することが以前から実施され
てきた.…C.C.Peckらのカンファレンスレポート1)
には臨床第一相
研究の一項目として放射性標識体の投与試験の有用性が記載されてい
る.」(1423頁右欄下から9行~1424頁左欄3行),「このよ
うに放射性標識薬物を用いたヒト試験により,未変化体と代謝物の血液
中濃度のファーマコキネティクス,マスバランス,主要代謝物の定性と
同定,更には確立した定量法の特異性が評価できるなど得られる情報が
質量ともに豊富であることから,米国では医薬品開発に必須の試験とし
て広く認識されていることが再確認された.」(1424頁右欄21行
~28行)との記載があること,甲50には,臨床試験として,健常成
人男性に[14
C]SC-58635及び非標識SC-58635を単回
経口投与後の薬物動態検討試験が行われたこと(「2.7.6.1マスバ
ランス試験(外国)[006]」)の記載があることに照らすと,甲1
記載の試験は,マスバランス試験に該当し,第1相の臨床薬理試験の一
環としてされた試験であることが認められる。
そして,甲5(「経口投与製剤の処方設計」,株式会社薬業時報社,
平成10年4月)には,「第一相試験用製剤の処方設計については2通
りの考え方がある。一つは,最終の処方や剤形に関係なく,原末と添加
物の混合物をカプセルに充填するシンプルな処方系とする立場,他の一
つは製造法を含めてできる限り最終の処方,製法に近いものとする立場
である。両者にはいずれも一長一短があるが,処方設計の開始時点から
生産機と同じかあるいは類似の機構を有する製造機器を使用して検討し,
初期の臨床試験の段階から処方成分(添加剤)と剤形は最終製剤と同じ
となるようにすることが,生物学的同等性を保証するうえでは有利であ
る。」との記載があること(46頁19行~25行)に照らすと,甲1
発明の経口投与用カプセルは,治療に用いることが可能なものといえる
が,このことと本件審決が上記部分を甲1発明の発明特定事項として認
定したこととは相反するものではない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
ウ手続違背について
原告らは,本件審判において,主引用例である甲1に記載された発明と
して「シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤としてヒトに経口投与される,3
00mgのセレコキシブを含む経口投与用カプセル」の発明を主張し,当
事者双方は,発明の目的を発明特定事項に含めることについて議論してい
なかったが,審判合議体は,本件審決において,審理の過程で当事者が一
切主張しなかった目的を発明特定事項に含む甲1発明を認定し,この認定
について原告らに反論の機会を与えることなく,本件発明1と甲1発明と
の相違点に係る容易想到性の判断をし,甲1発明を主引用例とする進歩性
欠如の無効理由は理由がないと判断したものであり,このような審理は,
原告らにとって不意打ちであり,原告らの手続保障を著しく欠くものであ
るから,本件審決には審理不尽の手続違背がある旨主張する。
しかしながら,審判合議体が審決で認定する主引用例記載の引用発明の
内容と請求人の主張する引用発明の内容とが異なる場合において,当事者
対し,事前に審決で認定する引用発明の内容を通知し,これに対する意見
を申し立てる機会を与えるかどうかは,審判合議体の審判指揮の裁量に委
ねられていると解されるから,このような機会を与えなかったからといっ
て直ちに審判手続に手続違背の違法があるということはできない。
また,原告らの主張する甲1に記載された発明と本件発明1との相違点
は,本件審決が認定した甲1発明と本件発明1との相違点1-1及び1-
2と異なるものではないから,審判合議体が本件審決認定の甲1発明を引
用発明として認定した上で,本件発明1の進歩性について判断をしたこと
が,原告らにとって不意打ちであるとはいえず,上記裁量の範囲を逸脱し
たということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
⑵相違点1-2の容易想到性の判断の誤りについて
原告らは,①本件優先日当時,「経口吸収性(生物学的利用能)の改善,
添加剤を含めた原料粉粒体間の混合の均一性の向上及び打錠時の成形性向上
を図る」ことは,医薬品の製剤化における一般的な課題であり,「薬効成分
の粒子サイズを小さくする」ことは,当該課題を解決するために汎用されて
いる周知技術であったこと(甲5,6,8ないし10,15),②溶解速度
を増大させるためには,単に粒子径を細かくして表面積を増加させるだけで
は足らず,有効表面積(薬物が試験液に接触する表面積)を増加させる必要
があり,疎水性物質では微粉化が進むと凝集により有効表面積が逆に小さく
なり,溶解速度が小さくなることがあるが,界面活性剤があると,溶媒が薬
物粉末の表面をよく濡らすようになり,凝集が抑制されて粒子径が小さくな
るほど溶解速度が増大することは,本件優先日当時の技術常識であったこと
(甲9,10),③甲1記載の試験で使用されているカプセル剤は,SC-
58635(セレコキシブ)を有効成分とする医薬品開発を目的とする臨床
薬理試験の治験製剤であるから,医薬品の製造に係る周知技術を適用する動
機付けがあり,また,カプセル剤間の薬効成分含有量のばらつきが大きい場
合には,一定の薬理効果が得られなくなるため,試験そのものの信頼性が損
なわれるから,試験において適切にデータを取得するため,カプセル剤間の
薬効成分含有量のばらつきを低減させる動機付けがあること,④粗大粒子は
目的の効果を奏さず,特定の大きさよりも小さい粒子サイズの粒子が効果を
奏する粉体の場合には,その粒度分布を,平均粒子径ではなく,「所望の大
きさよりも小さい粒子サイズの粒子が粉末全体に占める割合」で特定するこ
とは,医薬品の原料粉末では一般的であり,また,セレコキシブの粒子サイ
ズを最大長のD90で規定し,最大長「D90が200μm未満」とすることは,
単なる設計事項であることからすると,当業者は,甲1発明のカプセル剤に
おいて,経口吸収性(生物学的利用能)の改善及び薬効成分の含量均一性の
改善のために,「薬効成分の粒子サイズを小さくする」という周知技術を適
用する動機付けがあり,セレコキシブの粒子サイズを最大長「D90が200
μm未満」とすることは,単なる設計事項であるから,甲1発明のカプセル
剤に含有するセレコキシブを「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子の
D90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する」微粒子セレコキシ
ブ(相違点1-2に係る本件発明1の構成)とすることを容易に想到し得た
ものであり,これと異なる本件審決の判断は誤りである旨主張する。
アそこで検討するに,本件明細書には,「粒子の最大長において,セレコ
キシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有する」と
の構成(相違点1-2に係る本件発明1の構成)に関し,「粒子サイズは,
セレコキシブの臨床的効果に影響を与える重要なパラメータであると考え
られる。よって,別の実施例では,発明の組成物は,粒子の最長の大きさ
で,粒子のD90が約200μm以下,好ましくは約100μm以下,より
好ましくは75μm以下,さらに好ましくは約40μm以下,最も好まし
くは約25μm以下であるように,セレコキシブの粒子分布を有する。通
常,本発明の上記実施例によるセレコキシブの粒子サイズの減少により,
セレコキシブの生物学的利用能が改良される。」(【0022】),「カ
プセル若しくは錠剤の形で経口投与されると,セレコキシブ粒子サイズの
減少により,セレコキシブの生物学的利用能が改善されるを発見した。し
たがって,セレコキシブのD90粒子サイズは約200μm以下,好ましく
は約100μm以下,より好ましくは約75μm以下,さらに好ましくは
約40μm以下,最も好ましくは25μm以下である。例えば,例11に
例示するように,出発材料のセレコキシブのD90粒子サイズを約60μm
から約30μmに減少させると,組成物の生物学的利用能は非常に改善さ
れる。加えて又はあるいは,セレコキシブは約1μmから約10μmであ
り,好ましくは約5μmから約7μmの範囲の平均粒子サイズを有する。」
(【0124】),「湿式顆粒化は,本発明の製薬組成物の好ましい調製
方法である。湿式顆粒化過程にて,(必要ならば,一つ又はそれ以上のキ
ャリア材料とともに)セレコキシブは先ず粉砕される若しくは所望の粒子
サイズに微細化される。さまざなま粉砕器若しくは破砕器が利用すること
が可能であるが,セレコキシブのピンミリングのような衝撃粉砕により,
他のタイプの粉砕と比較して,最終組成物に改善されたブレンド均一性が
もたらせる。例えば,液体窒素を利用してセレコキシブを冷却することは,
セレコキシブを不必要な温度へ加熱させることを回避するために,粉砕中
に必要なことである。前記にて議論したように,上記粉砕工程中にD90粒
子サイズを約200μm以下,好ましくは約100μm以下,より好まし
くは約75μm以下,さらに好ましくは約40μm以下,最も好ましくは
約25μm以下に小さくすることは,セレコキシブの生物学的利用能を増
加させるためには重要である。」(【0135】)との記載がある。
これらの記載は,未調合のセレコキシブを粉砕し,「セレコキシブのD
90粒子サイズ」を「約200μm以下」とした場合には,セレコキシブの
生物学的利用能が改善されること,ピンミリングのような衝撃粉砕を用い
ることにより,他のタイプの粉砕と比較して,最終組成物に改善されたブ
レンド均一性がもたらせることを示したものといえる。
イしかるところ,甲1には,甲1発明の「セレコキシブを300mg含む
経口投与用カプセル」にいう「セレコキシブ」について,その調製方法を
示した記載はなく,また,粉砕により微細化をしたセレコキシブを用いる
ことや,その微細化条件を「セレコキシブのD90粒子サイズ」で規定する
ことについての記載も示唆もない。
次に,原告らが挙げる甲9(「経口投与製剤の設計と評価」株式会社薬
業時報社,平成7年2月10日)には,①「溶解速度が小さいため吸収が
悪い難溶性薬物の溶解性および吸収性の改善は,製剤設計者が直面する最
も重要な解決課題の1つである。…溶解速度を改善するために製剤側で制
御可能なファクターは,表面積と溶解度であることがわかる。」(168
頁2行~6行),②「1)微細化表面積を増大する方法として,薬物粒
子を微細化する手段が最もよく利用される。一般に数μmのオーダーまで
は機械的な破砕・粉砕方式が有効であるが,1μm以下になると反応によ
る結晶の析出などが有効な手段となる。」,「(1)粉砕薬物粒子は多
くの場合,粉砕機を用いて粉砕される。…通常有機薬物結晶では十数μm
から数μm程度まで微細化できる。微細化により粒子径が小さくなると,
表面積の増加により溶解速度が増大する。…しかし,粒子サイズの減少に
より溶解度に大きな影響を与えるためには,サブミクロン以下のサイズで
あることが必要であり1,2)
,多くの医薬品の通常の粉砕ではサイズによる
溶解度増加効果はあまりないと考えてよい。微細化によりバイオアベイラ
ビリティーを改善できることが多くの難溶性薬物,…で報告されている。
…しかし,微粉になればなるほど凝集が起こりやすく,粉砕により水に接
する表面積(有効表面積)が逆に小さくなり,溶解速度が小さくなること
がある。特に疎水性物質は凝集性が強い。…ここに,界面活性剤が存在す
ると,微粒子は凝集せずに均一に溶液中に分散され,粒子サイズが小さい
ほど溶出速度は大きくなる。また,この例では界面活性剤の可溶化効果も
認められている。このような場合,凝集を防ぐ目的で,流動化剤や界面活
性剤を微細化助剤として加えて粉砕する手段が取られる。この手法を発展
させ,微細化に応用したのが混合粉砕である。」(以上,168頁9行~
169頁4行)との記載がある。
また,甲10(「医薬品の溶出」株式会社地人書館,昭和52年10月
30日)には,①「4.1溶出速度に及ぼす薬物の粒子径の影響次式
は,薬物の溶解速度が薬物の表面積に正比例することを示している。…
粒子径を細かくして表面積を増加させると,溶解速度を増大させることが
できるはずである。しかし,単に表面積を増やすだけでは不十分で,増加
すべきなのは有効表面積である。有効表面積とは薬物が試験液に接触する
表面積である。薬物が疎水性で溶媒による濡れが劣る場合には,粒子径を
小さくすると凝集が起こり,有効表面積がかえって小さくなる結果,溶解
速度が遅くなることがある。」(104頁4行~11行),②「われわれ
(9)
は実験薬物として,フェノバルビタール(…),アスピリン(…)お
よびフェナセチン(…)を用いて,この現象を明らかに示した。…図示し
た3例では,いずれも溶解速度は予期に反し,粒子径が大きくなるにつれ
て増加している。…すなわち,研究に使用した3つの薬物の表面はいずれ
も疎水性なので,粒子径が小さくなるほど全表面積が,したがって吸着空
気量が増加する。その結果,試験液に触れる面積が減少し,溶解速度が低
下するのである。ここで,溶出液にポリソルベート80を0.2%加えると,
フェナセチンは速やかに溶けるようになり,この場合には溶解速度は粒子
径が小さくなるにつれて増大する。ポリソルベート80を添加すると,溶
媒が薬物粉末の表面をよく濡らすようになるため,溶解速度が粉砕の程度
に従って増すものと考えられる。」(104頁12行~106頁6行)と
の記載がある。
これらの記載は,溶解速度を改善するために製剤側で制御可能なファク
ターは,表面積と溶解度であり,表面積を増大する方法として,薬物粒子
を微細化する手段が最もよく利用されていること,薬物粒子は多くの場合,
粉砕機を用いて粉砕され,通常有機薬物結晶では十数μmから数μm程度
まで微細化できること,微細化により粒子径が小さくなると,表面積の増
加により溶解速度が増大し,また,微細化によりバイオアベイラビリティ
ーを改善できることが多くの難溶性薬物で報告されていることなどを示す
ものである。
一方で,甲9及び10には,特定の大きさよりも小さい粒子サイズの粒
子が効果を奏する粉体の場合には,その粒度分布を,平均粒子径ではなく,
「所望の大きさよりも小さい粒子サイズの粒子が粉末全体に占める割合」
で特定することは,医薬品の原料粉末では一般的であることについての記
載や示唆はなく,ましてや,セレコキシブの微細化条件として「セレコキ
シブのD90粒子サイズ」で規定することや,「セレコキシブのD90粒子サ
イズ」を「約200μm以下」とした場合には,セレコキシブの生物学的
利用能が改善されることについての記載も示唆もない。他に特定の大きさ
よりも小さい粒子サイズの粒子が効果を奏する粉体の場合には,その粒度
分布を,平均粒子径ではなく,「所望の大きさよりも小さい粒子サイズの
粒子が粉末全体に占める割合」で特定することは,医薬品の原料粉末では
一般的であることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,甲1に接した当業者において,甲1発明のセレコキシブを
300mg含む経口投与用カプセルにおいて,経口吸収性(生物学的利用
能)の改善及び薬効成分の含量均一性の改善のために,薬効成分のセレコ
キシブの粒子サイズを小さくすることに思い至ったとしても,セレコキシ
ブの微細化条件として「粒子の最大長において,セレコキシブ粒子のD90
が200μm未満である粒子サイズの分布を有する」との構成(相違点1
-2に係る本件発明1の構成)を採用することについての動機付けがある
ものと認めることはできないから,甲1及び技術常識ないし周知技術に基
づいて,当業者が上記構成を容易に想到することができたものと認めるこ
とはできない。
したがって,原告らの前記主張は,採用することはできない。
⑶小括
以上のとおり,本件審決における相違点1-2の容易想到性の判断に誤り
はないから,相違点1-1の容易想到性について判断するまでもなく,本件
発明1は,甲1発明及び技術常識ないし周知技術に基づいて当業者が容易に
発明をすることができたものと認めることはできない。
したがって,原告ら主張の取消事由1-1は理由がない。
3取消事由1-2(甲1発明を主引用例とする本件発明2ないし5,7ないし
19の進歩性の判断の誤り)について
前記2で説示したとおり,本件発明1は甲1発明及び技術常識に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものではないとした本件審決の判断に誤
りはないから,本件審決における本件発明2ないし5,7ないし19の容易想
到性の判断の誤りをいう原告らの主張は,その前提において理由がない。
したがって,原告ら主張の取消事由1-2は理由がない。
4取消事由2-1(甲2発明を主引用例とする本件発明1の進歩性判断の誤り)
⑴甲2の記載事項について
甲2には,次のような記載がある。
ア「【特許請求の範囲】
1.式I:[式中,…]の化合物,またはその薬学的に許容される塩。
2.請求の範囲第1項に記載の化合物であって,…上記化合物,またはそ
の薬剤学的に許容される塩。
3.請求の範囲第2項に記載の化合物であって,…上記化合物,またはそ
の薬剤学的に許容される塩。
4.請求の範囲第3項に記載の化合物であって,…上記化合物,またはそ
の薬剤学的に許容される塩
5.請求の範囲第4項に記載の化合物であって,…上記化合物,またはそ
の薬剤学的に許容される塩
6.請求の範囲第5項に記載の化合物であって,…上記化合物,またはそ
の薬剤学的に許容される塩。
7.以下よりなる群の化合物から選択される請求の範囲第6項記載の化合
物,およびその薬剤学的に許容される塩:…。
8.化合物は,4-[5-(4-メチルフェニル)-3-(トリフルオロ
メチル)-1H-ピラゾール-1-イル]ベンゼンスルホンアミド,ま
たはその薬剤学的に許容される塩である,請求の範囲第6項に記載の化
合物。…」(2頁1行~101頁4行)
イ「式Iの化合物は,患者の炎症の治療,および他の炎症関連疾患の治
療(例えば疼痛および頭痛の治療における鎮痛薬として,または発熱の治
療のための解熱薬として)に有用であるが,これらに限定されるものでは
ない。例えば,式Iの化合物は,関節炎(慢性関節リウマチ,脊椎関節症
(spondyloarthopathies),痛風性関節炎,変形性
関節症,全身性エリテマトーデス,および若年性関節炎を含むが,これら
に限定されない)の治療に有用である。」(108頁9行~14行)
ウ「実施例2
4-[5-(4-メチルフェニル)-3-(トリフルオロメチル)-1
H-ピラゾール-1-イル]ベンゼンスルホンアミド
工程1:1-(4-メチルフェニル)-4,4,4-トリフルオロブタ
ン-1,3-ジオンの調製
4’-メチルアセトフェノン(5.26g,39.2mmol)をアル
ゴン下で25mLのメタノールに溶解して,メタノール中のナトリウムメ
トキシド12mL(52.5mmol)(25%)を添加した。この混合
物を5分間撹拌して,5.5mL(46.2mmol)のトリフルオロ酢
酸エチルを添加した。24時間還流後,この混合物を室温に冷却して濃縮
した。100mLの10%HClを添加して,この混合物を4×75mL
の酢酸エチルで抽出した。この抽出物をMgSO4で乾燥し,濾過して濃
縮して,8.47g(94%)の褐色油状物を得て,これをさらに精製す
ることなく次に進んだ。
工程2:4-[5-(4-メチルフェニル)-3-(トリフルオロメチ
ル)-1H-ピラゾール-1-イル]ベンゼンスルホンアミドの調製
75mLの無水エタノール中の工程1からのジオン(4.14g,18.
0mmol)に,4.26g(19.0mmol)の4-スルホンアミド
フェニルヒドラジン塩酸塩を添加した。この反応物をアルゴン下で24時
間還流した。室温に冷却して濾過後,この反応混合物を濃縮して,6.1
3gの橙色の固体を得た。この固体を塩化メチレン/ヘキサンから再結晶
して,淡黄色の固体として3.11g(8.2mmol,46%)の生成
物を得た:融点157~159℃;元素分析:C17H14N3O2SF3の理
論値:C,53.54;H,3.70;N,11.02。実測値:C,5
3.17;H,3.81;N,10.90。」(181頁17行~182
頁16行)
エ「本発明には,1つまたはそれ以上の非毒性の薬剤学的に許容しうる
担体および/または希釈剤および/または補助剤(集合的に本明細書では
「担体」物質と呼ぶ)と一緒にした,そして必要であれば,他の活性成分
と一緒にした,1つまたはそれ以上の式Iの化合物を含む薬剤組成物の群
も含まれる。本発明の化合物は,任意の適切な経路により,好ましくはこ
のような経路に適する薬剤組成物の形で,かつ目的とする治療に有効な用
量で投与することができる。本化合物と組成物は,例えば,血管内,腹腔
内,皮下,筋肉内または局所に投与することができる。」(281頁1行
~8行)
「経口投与のために,本薬剤組成物は,例えば,錠剤,カプセル剤,懸
濁剤または液剤の形にすることができる。本薬剤組成物は,好ましくは特
定量の活性成分を含有する投薬単位の形に製造される。このような投薬単
位の例は,錠剤またはカプセル剤である。本活性成分はまた,適切な単体
として例えば生理食塩水,デキストロースまたは水が使用される組成物と
して注射により投与してもよい。」(281頁9行~282頁2行)
「投与される治療活性のある化合物の量,および本発明の化合物および
/または組成物により疾患症状を治療するための投薬は,患者の年齢,体
重,性別および健康状態,疾患の重篤度,投与の経路と頻度,および使用
される特定の化合物を含む,種々の因子に依存し,従って広く変化しうる。
本薬剤組成物は,約0.1~2000mgの範囲で,好ましくは0.5~
500mgの範囲で,そして最も好ましくは約1と100mgの間で活性
成分を含有してよい。1日用量は,約0.01~100mg/kg体重,
好ましくは0.1と約50mg/kg体重の間,そして最も好ましくは約
1~20mg/kg体重が適切であろう。この1日用量は,1日に1~4
回の投薬で投与することができる。」(282頁3行~11行)
「治療目的のために,本発明の化合物は普通,必要な投与経路に適切な
1つまたはそれ以上の補助剤と合わせられる。経口投与される場合本化合
物は,ラクトース,ショ糖,デンプン粉末,アルカン酸のセルロースエス
テル,セルロースアルキルエステル,タルク,ステアリン酸,ステアリン
酸マグネシウム,酸化マグネシウム,リン酸および硫酸のナトリウム塩お
よびカルシウム塩,ゼラチン,アラビアゴム,アルギン酸ナトリウム,ポ
リビニルピロリドン,および/またはポリビニルアルコールと混合して,
次に投与に便利なように錠剤化またはカプセル化される。このようなカプ
セル剤または錠剤は,活性化合物をヒドロキシプロピルメチルセルロース
中に分散して提供するなど,放出制御処方を含有してもよい。非経口投与
のための処方は,水性または非水性の等張性無菌注射液または懸濁液の形
であってよい。これらの液剤および懸濁剤は,経口投与のための処方に使
用のための1つまたはそれ以上の担体または希釈剤を含む無菌粉末または
顆粒から調製することができる。この化合物は水,ポリエチレングリコー
ル,プロピレングリコール,エタノール,トウモロコシ油,綿実油,落花
生油,ゴマ油,ベンジルアルコール,塩化ナトリウムおよび/または種々
の緩衝液に溶解することができる。他の補助剤や投与の様式は,製薬分野
で周知である。」(282頁12行~27行)
⑵相違点2-1の容易想到性の判断の誤りについて
原告らは,①薬効成分の生物学的利用能やブレンド均一性の改善は,医薬
品の製剤化における一般的な課題であり,セレコキシブ製剤においても当然
に解決すべき課題であることが自明であるか,当業者が容易に想到できる課
題であるため,甲2発明において,セレコキシブの生物学的利用能やブレン
ド均一性の改善を図るために,難溶性薬物の生物学的利用能やブレンド均一
性の改善のための周知の技術的手段である「微細化すること,そして難溶性
薬物を微細化して凝集する場合には界面活性剤や親水性賦形剤を添加するこ
と」を採用することは,当業者が容易になし得ることにすぎない,②溶解速
度を増大させるためには,単に粒子径を細かくして表面積を増加させるだけ
では足らず,有効表面積(薬物が試験液に接触する表面積)を増加させる必
要があり,疎水性物質では微粉化が進むと凝集により有効表面積が逆に小さ
くなり,溶解速度が小さくなることがあるが,界面活性剤があると,溶媒が
薬物粉末の表面をよく濡らすようになり,凝集が抑制されて粒子径が小さく
なるほど溶解速度が増大することは,本件優先日当時の技術常識であったこ
と,粗大粒子は目的の効果を奏さず,特定の大きさよりも小さい粒子サイズ
の粒子が効果を奏する粉体の場合には,その粒度分布を,平均粒子径ではな
く,「所望の大きさよりも小さい粒子サイズの粒子が粉末全体に占める割合」
で特定することは,医薬品の原料粉末では一般的であり,また,セレコキシ
ブの粒子サイズを最大長のD90で規定し,最大長「D90が200μm未満」
とすることは,単なる設計事項であることは,前記2⑵のとおりであるとし
て,当業者は,甲2発明において,経口吸収性(生物学的利用能)の改善及
び薬効成分の含量均一性の改善のために,「薬効成分の粒子サイズを小さく
する」という周知技術を適用する動機付けがあり,また,セレコキシブの粒
子サイズを最大長「D90が200μm未満」とすることは,単なる設計事項
であるから,甲2発明に含有するセレコキシブを「粒子の最大長において,
セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有す
る」との構成(相違点2-1に係る本件発明1の構成)とすることを容易に
想到し得たものであり,これと異なる本件審決の判断は誤りである旨主張す
る。
しかしながら,甲2には,甲2発明の製薬組成物に含まれるセレコキシブ
について,粉砕により微細化をしたセレコキシブを用いることや,その微細
化条件を「セレコキシブのD90粒子サイズ」で規定することについての記載
も示唆もない。
また,特定の大きさよりも小さい粒子サイズの粒子が効果を奏する粉体の
場合には,その粒度分布を,平均粒子径ではなく,「所望の大きさよりも小
さい粒子サイズの粒子が粉末全体に占める割合」で特定することは,本件優
先日当時,医薬品の原料粉末では一般的であったことを認めるに足りる証拠
はないことは,前記2⑵イのとおりである。
そうすると,甲2に接した当業者において,甲2発明の製薬組成物におい
て,経口吸収性(生物学的利用能)の改善及び薬効成分の含量均一性の改善
のために,薬効成分のセレコキシブの粒子サイズを小さくすることに思い至
ったとしても,セレコキシブの微細化条件として「粒子の最大長において,
セレコキシブ粒子のD90が200μm未満である粒子サイズの分布を有す
る」との構成(相違点1-2に係る本件発明1の構成)を採用することにつ
いての動機付けがあるものと認めることはできないから,甲2及び技術常識
ないし周知技術に基づいて,当業者が上記構成を容易に想到することができ
たものと認めることはできない。
したがって,原告らの前記主張は,採用することはできない。
(3)小括
以上によれば,本件審決における相違点2-1の容易想到性についての判
断に誤りはないから,原告ら主張の取消事由2-1は理由がない。
5取消事由2-2(甲2発明を主引用例とする本件発明2ないし5,7ないし
19の進歩性の判断の誤り)について
前記4で説示したとおり,本件発明1は甲2発明及び技術常識に基づいて当
業者が容易に発明をすることができたものではないとした本件審決の判断に誤
りはないから,本件審決における本件発明2ないし5,7ないし19の容易想
到性の判断の誤りをいう原告らの主張は,その前提において理由がない。
したがって,原告ら主張の取消事由2-2は理由がない。
6結論
以上によれば,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がないから,本件審決
を取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告らの請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官本吉弘行
裁判官岡山忠広
(別紙)
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表20】
【表21】
【図1】
【図2】

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛