弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主      文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,原告A1に対し,2592万2644円及びこれに対する平成10年8月2
5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は,原告A2,原告A3,原告A4及び原告A5それぞれに対し,各648万0
660円及びこれに対する平成10年8月25日から支払済みまで年5分の割合に
よる金員を支払え。
(3) 訴訟費用は被告の負担とする。
(4) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,Dの相続人である原告らが,「Dは肺塞栓症であったにもかかわらず,被
告病院医師はこれを看過して適切な治療を行わず,また,十分な看護体制をとらず,
Dが病室から出たのに気付かなかったため,Dは肺梗塞により死亡した。仮に,Dが
入院当初から肺塞栓症でなかったとしても,長期間安静にしていたのであるから,い
きなり動いたら肺塞栓症になりやすいにもかかわらず,被告病院医師は十分な対策
を講じず,また,十分な看護体制をとらずDが病室から出たのに気付かなかったた
め,Dは肺塞栓症を発症し,肺梗塞により死亡した。」として,被告はDに対する不法
行為又は医療契約の債務不履行に基づく損害賠償債務を負うと主張するとともに,
「被告病院医師は,遺族である原告らに対して,Dの死因を解明せず,また十分な説
明もしなかった。」として,被告は原告らに対する不法行為に基づく損害賠償債務を負
うと主張して,原告A1は2692万2644円の内金2592万2644円,その余の原告
らは748万0660円の内金648万0660円,及びこれらに対するDが死亡した日の
翌日である平成10年8月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を請求した事案である。
1 争いのない事実等
(1) Dは,昭和16年9月13日生まれの女性である。
原告A1は,Dの夫であり,原告A2,原告A3,原告A4及び原告A5(以下原
告A2以下を併せて,「原告A2ら」という。)は,Dと原告A1の間の子である(甲2
0)。
(2)ア Dは,平成10年8月21日,頭痛を訴えて仕事を休んだ(Dはこのころ睡眠薬
を服用しているが,時間及び量は不明である。)。Dは,午前中寝ていたが,
午後3時になってもいびきをかいて寝続けており,原告A1の呼びかけにも反
応しなかった。
そこで,原告A1は,被告病院に電話をかけて対処を相談した。
イ その結果,Dは,同日午後6時30分ころ,救急車で被告病院に搬送され,回
復室に入院し,頭部DT(乙6の1・2),胸腹部DT(乙5の1ないし5),腹胸部
単純X線(乙3の1ないし3)等の検査を受けた。
(3) Dは,平成10年8月22日午後7時には,言語は不明瞭なときもあったが,家
人と話すことができるまでに意識状態が回復した。
(4)ア 被告病院看護師は,平成10年8月24日午後0時20分ころ,Dに対し,酸素
チューブを食事時以外に外さないこと,ベッドから離れないことを注意した。
Dは,同日午後0時30分ころ,被告病院の昼食をとった。
原告A1及び原告A4は,同日午後1時15分ころ,被告病院看護師に何も
告げないまま,昼食をとるために被告病院を出た。
イ 被告病院看護師は,同日午後1時40分ころ,昼食の膳を下げるために回復
室に行ったところ,Dも付き添っていた原告A1及び原告A4もいないことに気
付いた。
そこで,被告病院看護師は,ナースセンターに連絡して,同所にいた看護
師数人でDを探した。
Dは,同日午後1時45分ころ,被告病院2階の事務室前に設置された公衆
電話の横で,ドンと音を立てて倒れた。
ウ Dは,呼吸も浅く,脈も触れない状態であり,被告病院医師は心肺蘇生を試
みたが,同日午後4時17分ころ,死亡した。
エ 被告病院医師は,死亡したDに対して,頭部DT検査を行ったが(乙7),解剖
は行わなかった。
(5) 被告病院のE医師は,平成10年8月24日,Dの直接死因を「呼吸停止,心停
(死亡まで約1時間)」,その原因を「クモ膜下出血疑(死亡まで約2.5時間)」と
記載した死亡診断書を作成した(甲1)。
(6) 被告病院のE医師は,平成10年11月12日,原告らの保険金請求のために,
Dの病名を「肺炎,呼吸不全」と記載し,「H10.8.24B病院内にて転倒し,そ
の後約2時間半後に死亡す。」と付記した診断書を作成した(甲2)。
2 争点
(1) Dの死因
(2) 被告病院医師の診療上の過失及び因果関係の有無
(3) 被告病院の看護体制不備の過失及び因果関係の有無
(4) Dの死因の解明及び説明に関する過失の有無
(5) 損害額及び慰謝料額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(Dの死因)について
(原告らの主張)
ア Dの死因は,肺塞栓症が進んだ肺梗塞である蓋然性が極めて高い。
(ア) 肺塞栓症とは,塞栓子が静脈血流に乗って肺動脈あるいはその分枝を
塞栓し,肺循環障害を来した状態をいい,肺梗塞とは,肺塞栓症の結果,
肺組織に出血性壊死を起こした状態をいう。
(イ) かかる肺塞栓は,とくに入院患者で罹患率,死亡率が高い疾患であり,
突然死をもたらす病気であるとされる。
肺塞栓症の患者については,通常は,閉塞していない動脈から肺の罹
患部に十分な血液が送られるため,組織死は防げるが,非常に太い血管
が閉塞したり,その患者に以前から肺疾患がある場合には,供給される血
液の量は組織死を防ぐには不十分なことがある。肺塞栓症の患者の約10
パーセントは,肺梗塞と呼ばれる肺の組織死を来し,突然死をもたらす。
すなわち,体内で血塊が素早く分解されれば損傷は最小限に止まるが,
大きな血塊は,分解されるまではるかに長い時間がかかるため,損傷の程
度も大きくなる。また,大きな塊で突然死が起こることもあるといわれてい
る。
(ウ) 肺血栓塞栓症,肺梗塞の誘因には,外科手術,長期のベッドでの療養や
無活動,脳卒中,心臓発作,肥満,股関節や脚の骨折,癌,血栓症の家族
歴,妊娠等が挙げられる。
血栓は,人が長い間1か所にじっとしているときに下肢の静脈で起こり,
血流の流れが遅いときや全く流れていないときに形成されやすく,その人
が再び動き始めると血塊が遊離するおそれがある。
(エ) 症状は,呼吸困難,胸膜痛,不安感,咳等である。一部の人には,頭の
ふらつきや失神,けいれんが最初の症状ということがある。また,肺の大血
管の1つ又は複数が閉塞した患者は,皮膚の色が青ざめること(チアノー
ゼ)があり,突然死亡する可能性がある。
(オ) 診断については,まず臨床的に疑い,補助的に検査所見を見て,特異的
検査により診断するとされる。一般的診断法としては,血算,凝固検査,動
脈血液ガス検査をする。肺塞栓症の場合,動脈血液ガス検査では,肺胞動
脈酸素分圧差(P(A-a)O2)が大きくなる。ほとんどの症例では,PaO2が80
mmHg以下で低酸素血症がみられ,通常低炭酸ガス血症を伴う。しかし,急
性肺塞栓で,P(A-a)O2が正常である症例が14%あると報告されている。
心エコーも血行動態に異常がある患者の場合に有用であるとされる。
また,上記肺塞栓症の諸症状に加え,胸部X線に混濁がある患者につい
て,肺塞栓あるいは肺炎と考えられるとする資料もある。
(カ) 以上を前提として,Dの症状,特徴について検討するに,Dには,①呼吸
不全・呼吸障害,②咳,③発熱,④全身の倦怠感,⑤胸部X線の混濁,⑥
肥満(身長157cm,体重76.2kg),⑦死亡時のチアノーゼ等がみられ,肺
血栓塞栓症及び肺梗塞の症状と合致する。また,血液ガス検査の数値も,
相当に低い値となっている。
イ 被告病院医師は,死亡診断書で,くも膜下出血の疑いや肺炎を死因として挙
げている(甲1,2)。
しかし,DTスキャンの結果によれば,頭部くも膜下に出血は見られないか
ら,それが死因とは考えられない。また,仮に,くも膜下出血があったとして
も,DTで判断できないほどのものであれば,死亡には至らないから,死因と
はいえない。
また,肺炎については,本件のように突然に死亡に至ることを合理的に説
明できない。
(被告の主張)
ア Dの死因は不明である。推論すれば,肺炎があり(場合によっては薬物中毒
が重なり),それが軽快しつつあったがまだ呼吸不全があり酸素を必要とした
状態であったところ,そこに何らかの因子(本件の経過からすれば,酸素マス
クを外したこと,動いたことが考えられる。)が加わって死に至ったという程度
である。
イ 被告病院医師は,死亡時に作成した死亡診断書(甲1)で,「クモ膜下出血
疑」と記載したが,その時点の判断として,経過から考えて可能性のあるもの
を記載したにすぎない。しかし,その可能性は,その後のDT画像診断により
否定されている。
また,被告病院医師は,その後作成した診断書(甲2)に,「肺炎,呼吸不
全」と記載したが,これは保険金請求という権利関係に係るものであったため
に,根拠のある診断名を記載したものである。脳損傷(意識障害),癌,くも膜
下出血の各疑いの病名については,確定できないため,記載しなかった。
(2) 争点(2)(被告病院医師の診療上の過失及び因果関係の有無)について
(原告らの主張)
被告病院医師は,Dの入院後,諸検査を実施し,肺炎・意識障害に伴う呼吸
不全と診断した。
しかし,Dの死因は上記のとおり肺塞栓であり,被告病院医師は,Dが搬送さ
れた段階で,肺塞栓を疑って検査し,肺塞栓が判明した段階で,ヘパミンを投与
する等の治療をすべきであった。
しかるに,被告病院医師は,肺塞栓の検査及び治療を怠ったため,Dはその
治療を受けられず,死亡したのである。
(被告の主張)
ア 入院時の診療に過失のないこと
(ア) Dには,入院時,睡眠剤を多量服用したことによる意識障害があり,咳
嗽,喀痰,発熱,全身倦怠感,呼吸困難といった肺炎で一般的に見られる
症状がそろっていた。
入院時の血液検査(乙8(62頁))では,白血球の上昇(18600/μ-)が
認められ,細菌感染時に認められる核左方移動(stab24%,seg66
%,lymp7%,mono3%)も認められている。これらは,細菌感染に伴う強い
炎症を示唆するものである。
なお,入院時には低酸素血症が認められ,原告らはこれを当初から肺塞
栓(肺梗塞)があった根拠としている。しかし,後述のとおり,加療後に正常
値に回復していることからして,この低酸素血症は,肺炎と右肺に多発して
いた無気肺,さらには喀痰による画像に現れていない粘稠痰による粘液栓
で,換気血流不均等の増悪によるものと考えられる。
(イ) 逆に,肺塞栓症の特徴的な症状の1つとしての肺塞栓症に肺梗塞が合
併してくると胸膜性胸痛や血痰を伴うことが多いが,入院時又は入院期間
中,Dにそうした訴えは全くなかった。
また,仮に,Dに肺塞栓症が生じて入院当初の症状が出たものとすると,
その肺塞栓症は広汎型肺塞栓症であり,それによって,血行動態に対して
何らかの影響が生じていたはずである。しかし,血圧低下はなく,むしろ血
圧上昇(179/92mmHg)しており,また,頻脈(毎分93回)もない(乙1(14
頁))。心電図も全く症状のない時期と変わっていない(乙8)。
(ウ) 以上からすると,入院時に広汎型肺塞栓症や肺梗塞を生じていたと考え
る所見は乏しく,むしろ同症を生じていたとは考え難く,同症と診断しなかっ
たとしても,被告病院医師に過失はない。
イ 入院中の診療に過失のないこと
(ア) Dの状況は,入院後順調にしかも確実に良くなっていた。意識障害は順
調にかつ順次回復し,医師,看護師や家族との会話もきちんとできるまで
になっていた。
(イ) Dの症状の訴えも日増しに軽快しており,肺塞栓症,肺梗塞にみられる胸
膜性胸痛は入院中も訴えられていない(乙1(16頁以下))。血中酸素濃度
も95%以上に回復しており,肺塞栓症,肺梗塞を疑うべき所見は全く見ら
れない。
(ウ) 以上からすれば,入院中に肺塞栓症,肺梗塞が新たに生じた,若しくは
増悪したと考えるような所見はないから,そのように考えることはできない
し,同症を診断しなかったとしても,被告病院医師に過失はない。
(3) 争点(3)(被告病院の看護体制不備の過失及び因果関係の有無)について
(原告らの主張)
肺塞栓,肺梗塞の原因の1つとして挙げられるのが,長期の療養の後いきな
り起きて動いたため,血塊が遊離して肺動脈を防ぐというものである。
したがって,被告病院としては,Dが安静にして動かないよう看護体制をとる
べきであるのに,これを怠り,被告病院看護師は,Dに対して安静にするよう言
いながら,同人がベッドから起きあがるのを見逃した。
そのため,Dは,肺梗塞で死亡したものである。
(被告の主張)
ア 被告病院看護師は,平成10年8月24日午後0時20分ころ,Dの「トイレま
で行っていいか。」との質問に対して,「酸素を入れているからまだだめです
よ。」と部屋を離れないように指導しているのであり(乙1(21頁)),Dは,まだ
自分が酸素の管を外して離室してはならない,動いてはならないことを理解し
ていたのである。
また,被告病院看護師がDから離れた後も引き続いて家族が付き添ってお
り(その後家族が離室したことは被告病院看護師に知らされていない。),家
族看護がなされている状況でもあったのである。
そのような状況下で,Dが,被告病院看護師の言い付けを守らずに酸素の
管を外して,ベッドから動いて部屋を離れることを予見することはできなかっ
た。
イ また,Dは,入院時及び入院中に肺塞栓症や肺梗塞の積極的所見は見られ
なかったことからすれば,同人がベッドから動いて部屋を離れた直後に肺梗
塞が起きて突然死することを予見することは,不可能である。
ウ さらに,被告病院における看護体制は,次のとおり,適切であった。
すなわち,被告病院看護師は,Dの部屋に頻繁に訪れていたほか,Dが倒
れる直前まで,意思疎通も極めて良好であった。また,被告病院看護師が,D
に対して,治療上,看護上適切な指示をしていた(甲8,乙1(16頁以下))。
被告病院看護師がDのもとから離れたのは平成10年8月24日午後1時3
0分であり,Dが部屋にいないことに気付いたのは同日午後1時40分である。
Dは,直前まで意識も明瞭であり,食事も自分で取れるほど順調に回復してお
り,意識障害があって無意識にふらふらと出歩くおそれもなかったのである
し,家族の看護もなされていたのであるから,わずか10分間,目を離したとし
ても看護体制に不備があるということはできない。
(4) 争点(4)(Dの死因の解明及び説明に関する過失の有無)について
(原告らの主張)
ア 医師の本来の責務は,患者の生命,健康に対する診療行為にある。しかし,
患者が死亡した場合,それが人の一生において最も重大な事態であることか
ら,遺族が,患者が死に至った経緯及び原因を知りたいと考え,その説明を
求めるのは,人として当然のことである。
そして,生命の重要性,高度の専門的知識を有する者が特別の資格に基
づいて行う医療の特殊性,医者は患者に対して報告義務を負っていること,
死亡の経過及び原因は,治療を行った医師にしかできないことなどからする
と,死亡の経過及び原因の説明を診療を行った医師に求める遺族の心情,要
求は,法的な保護に値する。
そして,専門的知識を有する医師が,医学上の知識の欠如等の重大な落
ち度によって,患者の死亡の経過及び原因について誤った説明を行った場合
には,不法行為上の過失があり,医師や病院は,遺族の受けた精神的な損
害を賠償する責任を負う。
イ 本件では,被告病院医師は,Dが2階電話ボックスで突然倒れ,そのまま亡
くなったことにつき,死亡診断書で「くも膜下出血疑い」としているが,頭部につ
いては,出血の跡はなかった。出血がない事実については,被告側も検査し
容易に認めることができたのに,被告病院医師は重大な落ち度により,かか
る事実を軽率に死亡診断書に書いてしまったのである。
また,被告病院医師は,Dの症状について「肺炎」と診断し,その後,病状
が改善していると述べながら,突然倒れてそのまま亡くなった事実について,
「肺炎」と死因を特定しているが,原告ら遺族としてはDの死因について到底
納得が行かない。
このような被告病院医師の安易な死因の記載や,その後も死因を明確にさ
れていないことにより,Dの死因を明確にしたい原告らは精神的に大きな苦痛
を被っているのである。
ウ なお,原告らは,Dの遺体の解剖を拒否しておらず,被告病院医師から,「遺
体をちょっと貸してほしい。」と言われたのに対し,「お願いします。」と答えてい
る。したがって,被告病院医師は,死亡から同日午後8時ころまでの間に死因
を確認できたはずである。
(被告の主張)
Dの死因は,解剖しなければ特定できないところ,原告らの同意が得られず解
剖することはできなかった。したがって,被告病院医師は,そもそも死因を特定
することはできないのであり,これを特定する義務を負わない。当時,原告らか
ら,死因を特定してほしいとの要望もなかった。
そのような状況下で,被告病院医師は,せめて頭部のDTだけでも撮らせてほ
しいと依頼して,DT検査を行っているのであり,非難すべき点はない。
さらに,被告病院医師は,死亡後に,原告らから死因について尋ねられ,いわ
ゆる突然死であり,その診断は困難であり,また解剖しない限り死因は分からな
いと回答しているのであって,不法行為は成立しない。
(5) 争点(5)(損害額及び慰謝料額)について
(原告らの主張)
ア 上記(2),(3)の不法行為又は債務不履行に基づく請求額
(ア) 上記(2),(3)の不法行為又は債務不履行により,Dが被った損害額等は
次のとおりである。
a 葬儀費用 120万円
b 逸失利益 2464万5284円
(a) Dは,死亡時56歳であり,平均余命は29.99年,就労可能年数は
約15年(ライプニッツ係数10.380)である。また,Dの生活費控除率
は30パーセントである。
Dは,フレックス株式会社において,103万5139円の所得を得て
いたから,同社分の逸失利益は,752万1320円(=1,035,139
×(1-0.3)×10.380)となる。
(b) また,Dは,I会社において,235万6725円の所得を得ていた(この
うちの半分がDの取得分である。)から,同社分の逸失利益は,1712
万3964円(=2,356,725÷2×(1-0.3)×10.380)となる。
c 死亡慰謝料 2200万円
d 弁護士費用 400万円
e 合計 5184万5284円
(イ) 原告A1は,Dの損害賠償請求権の2分の1(2592万2642円)を,原告
A2らは,それぞれその8分の1(648万0660円)を法定相続した。
イ 上記(4)の不法行為に基づく請求額
原告らが,被告病院医師がDの死因の解明及び説明を怠ったことにより被
った精神的苦痛を慰謝するには,各100万円(合計500万円)が相当であ
る。
(被告の主張)
ア(ア) 原告らの主張ア(ア)は否認ないし争う。Dの原病は進行しており,当時,通
常の労働能力は有していなかった。なお,I会社における所得の主張は,違
法な人材派遣による所得であり,逸失利益の基礎とすることはできない。
(イ) 原告らの主張ア(イ)の事実は知らない。
イ 原告らの主張イは争う。
第3 争点に対する判断
1 認定事実
上記争いのない事実等,証拠(甲1,2,6ないし8,14,17,乙1,2,3の1ない
し3,4,5の1ないし5,6の1・2,7,8,9の1・2,10,11,原告A4本人,被告代
表者)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) Dは,平成5年9月29日から高血圧症と診断されて被告病院に通院を始め,
平成6年4月1日には高脂血症と診断され,治療を受けていた。
さらに,平成7年8月5日には,被告病院において,胃炎,胃潰瘍,不眠症と
診断された(甲8(1頁))。そして,後記(2)の直前ころでは,平成10年7月14
日,同月28日,同月29日,同年8月3日にハルシオンが処方された(乙8(57
頁ないし59頁))。
(2) Dは,平成10年8月21日午前6時40分ころ,朝食を食べた後,気分が悪いと
言って,仕事を休むことにして横になった(Dはこのころ,処方されていた睡眠薬
を服用しているが,正確な時間及び量は不明である。)。当時,同居していた原
告A1は,そのままにDを寝かせて様子を見ることにして,個人で営んでいる建設
業の仕事に行った。
原告A1は,同日午後3時ころに自宅に帰ったところ,Dは午前中に寝ていた
のに,ずっといびきをかいて寝続けており,呼びかけにも反応しなかった。
そこで,原告A1は,同日午後6時ころ,Dが通院していた被告病院に電話を
かけて,どうしたらよいか相談した。これに対して,被告病院院長のE医師は,D
が不眠症のために精神安定剤や睡眠剤の処方を受けていたことから,これを処
方された量以上に多量に飲んだのではないかと思い,また,ほかにも意識障害
を来す危険な疾患が多数あることから,すぐに被告病院に来るよう伝えた。
(3) 平成10年8月21日の被告病院での経過
ア Dは,午後6時30分ころ,救急車で被告病院に搬送され,外来診療室に搬
入された。
これ以降,Dが死亡するまでの血圧,心拍数,体温,脈拍数,呼吸数
SaO2(血中酸素飽和度),PO2,PCO2の値は,別紙1のとおりである。
イ 搬入当時の検査結果は,次のとおりであった。
(ア) 腹胸部単純X線検査によると,右肺を中心に肺炎様の陰影があり,右肺
内部に円形の浸潤陰影が認められた(乙3の1ないし3)。
(イ) 胸部及び腹部DT検査によると,中等度両側の胸水があり,肺右側S2区
域に浸潤影が認められた(乙5の1ないし5)。
(ウ) 頭部DT検査では,脳血管障害,腫瘍,浮腫などは認められなかった(乙
6の1・2)。
(エ) 血液ガス検査によると,PO2が58mmHg,SaO2が89%であり,相当の低
値であった。
(オ) 血液検査によると,白血球数が18600/μ-と高値であった。また,細菌
感染時に認められる核左方移動(stab24%,seg66%,lymp7%,mono3
%)があった。
(カ) トロップTテスト(心筋梗塞検査)では,異常は認められなかった。
(キ) Dに散瞳はなく,三頭筋反射及びホフマン反射は正常であり,膝蓋腱反
射及びアキレス腱反射は正常であった。
ウ その結果,Dはそのまま被告病院に入院することになり,回復室に移され,
酸素(6-/分)の投与,抗生剤,解熱剤,輸液(ソリタT1)等の投与を受けた。こ
れにより,DのSaO2は,午後9時及び午後10時には96%,午後11時には9
5%と改善し,血圧も午後9時には低下してきた。
Dは,午後8時23分には,被告病院看護師の呼びかけに対し反応はある
が,すぐに目を閉じて入眠し,いびきをかく状態であった。午後9時には,看護
婦の呼びかけに対し反応はあるが,にぶく,目も開けない状態で,いびきをか
いていた。さらに,午後10時には,特に状態は変わりなかったが,四肢の冷
感や,チアノーゼ,顔色不良等はなかった。
(4) 被告病院建物の構造
ア Dが入院した被告病院建物の2階及び3階の配置は,別紙2のとおりであ
る。
ナースステーション(3階)は,回復室(3階)の隣にあり,扉が設置されてい
るものの,直接行くことができ,その扉の上部にはガラス窓がはめ込まれてい
る。
回復室からは,直接廊下に出ることができる扉が設置されており,そこから
出るとすぐの場所にエレベーターと階段がある。
回復室には,ベッドが3床あり,Dは,廊下への出口に最も近いベッドに寝
ていた。
ナースステーションには,廊下に面してガラス窓と扉が設置されている。
イ 被告病院建物の2階には,公衆電話が設置されており,エレベーターや階段
から公衆電話までは約15mの距離がある。
(5) 平成10年8月22日の経過
ア Dは,午前2時,被告病院看護師が接触すると,少し目を開け,わずかに反
応した。そして,返答も少しあった。午前2時15分には,Dの体温が高いの
で,被告病院看護師が寒いかどうか尋ねたところ,Dは,「うーうん。」と答え
た。
イ Dは,午前7時,被告病院看護師の問いかけに対して,「おはよう」,「えらい」
などと返答した。
ウ Dは,午前9時30分,意識がやや良くなりつつあった。
エ Dは,午前10時50分ころ,徐々に覚せいし,被告病院医師に対して,「いつ
もは2分の1錠しか飲まないハルシオンを2錠飲んで寝た。」と言った。
被告病院医師は,肺炎の疑いとして,診療を行うことにした。
オ Dは,午後1時,傾眠状態にあり,被告病院看護師の呼びかけに対して反応
はするものの,眠そうにしていた。
カ Dは,午後3時,傾眠状態にあり,咳が時々あった。
キ Dは,午後7時,目を開けて家族と話していたが,時折言語不明瞭となること
があった。Dには,全身の倦怠感,咳,腰痛,空腹感があったが,気分は悪く
なく,頭痛や吐き気もなかった。
ク Dは,午後9時,被告病院看護師の複数回呼びかけに対して,その度に目を
開けるが,返事ははっきりとしたものではなく,すぐに眠ってしまう状況であっ
た。
(6) 平成10年8月23日の経過
ア Dは,午前0時,眠っており,軽い寝息とともに,いびきが少しあった。午前3
時40分には,いびきをかいていなかった。
イ Dは,午前7時,目を開けていたが,気分がすっきりしない様子であり,全身
の倦怠感と腰の痛みを訴えた。
ウ Dは,午前11時には,全身の倦怠感があり,つらいと訴えたが,胸痛はなか
った。
エ Dは,午後7時,全身の倦怠感や腰の痛みは変わりなかったが,会話はスム
ーズにでき,意識も明瞭となっていた。
オ Dは,午後9時,被告病院看護師に対して睡眠剤の処方を求めたが,医師
はこれを認めなかった。
(7) 平成10年8月24日の経過
ア Dは,午前0時,入眠中で,咳が時々あった。
イ 原告A1及び原告A4は,午前9時30分ころ,Dの見舞いに行った。原告A4
は,ほとんど部屋を離れず,Dのそばにいた。
ウ Dは,午前10時ころ,看護婦に対し,友達数人が見舞いにきたが会えなかっ
たので,電話をかけたいと話し,午前11時には,全身の倦怠感と右頭部の痛
みを訴え,咳も出ていたが,意識は明瞭であった。
被告病院看護師は,Dに対し,本日,内科を受診して安静度を決めてもらう
ので,それまではベッド上で安静にしているよう指導した。
エ 被告病院医師は,正午ころ,Dを診察し,右側の上中肺野の肺炎疑い,リン
パ節腫大と診断した。そして,Dの全身状態は次第に回復してきたため,点滴
及びバルーンを抜去することを決め,被告病院看護師に指示した。
オ 被告病院看護師は,午後0時20分ころ,Dのバルーンを抜去したが,酸素チ
ューブについては食事時以外に外さないよう指導した。
また,Dが,トイレまで行ってもいいか尋ねたことから,「酸素を入れている
から,まだ駄目ですよ。今,全部出してしまったので,今度,おしっこしたくなっ
たら教えてください。ポータブルトイレを持ってきますから。」と答え,ベッドから
離れないよう注意した。
これに対して,Dは,「おしっこの管が抜けただけでも気分がいいわ。」と言
った。
カ Dは,午後0時30分ころ,自力で座位になり,「あまり食べたくないけど,がん
ばって食べますわ。」といい,被告病院から出された昼食を取った。
キ 原告A1及び原告A4は,午後1時15分ころ,被告病院看護師に何も告げな
いまま,昼食を取るために被告病院を出た。
ク 被告病院看護師は,午後1時30分ころ,Dの点滴サーフロを抜去した。
ケ Dは,公衆電話から友人に電話をかけようと思い,回復室からナースステー
ションを通らずに,直接廊下に出て,エレベーターか階段を使って2階に降り,
別紙2の公衆電話の設置されたところまで歩いていった。
コ 被告病院看護師は,午後1時40分ころ,昼食の膳を下げるために回復室に
行ったところ,Dも,付き添っていた原告A1及び原告A4もいないことに気付い
た。
そこで,被告病院看護師は,ナースセンターに連絡して,同所にいた看護
師数人でDを探した。
サ Dは,午後1時45分ころ,被告病院2階の事務室前に設置された公衆電話
の横で,ドンと音を立てて倒れた。
Dは,直ちに回復室に運び込まれたが,意識がなく,全身が痙攣し,チアノ
ーゼがあり,呼吸も浅く,脈もとれないような状態であった。
シ 原告A1及び原告A4は午後2時ころ,被告病院に戻り,Dの急変を知った。
E医師は,午後2時には胸部X線検査を行い(乙1(5丁右下),4),さらに
気管内挿管をするとともに,心臓マッサージ及び人工呼吸を行った。また,硫
酸アトロピンやカタボン等の強心剤を投与するなどして蘇生に努めたが,午後
4時17分,Dの死亡が確認された。
ス E医師は,原告A1,原告A3及び原告A4らに,Dの解剖を勧めたところ,原
告A3及び原告A4はこれを了承した。
セ E医師は,Dの直接死因を「呼吸停止,心停(死亡まで約1時間)」,その原因
を「クモ膜下出血疑(死亡まで約2.5時間)」と記載した死亡診断書を作成し
(甲1),原告A3及び原告A4に交付した。
ソ その後,Dの解剖は行われないことになり,頭部DT検査のみが行われた(乙
7)。
(8) E医師は,後日,Dの頭部DT(乙7)の読影を三重大学医学部付属病院放射
線科の医師に依頼したところ,出血はないが,脳裂及び脳溝が不明瞭になって
おり,脳浮腫が進行している状態にあったことが分かった(乙8(63頁))。
(9) E医師は,平成10年11月12日,原告らの保険金請求のために,Dの病名を
「肺炎,呼吸不全」と記載し,「H10.8.24B病院内にて転倒し,その後約2時
間半後に死亡す。」と付記した診断書を作成し(甲2),原告A1に交付した。
2 争点(1)(Dの死因)について
(1) 上記1の認定事実を前提として,Dの死因について検討する。
(2) まず,E医師は死亡診断書に「クモ膜下出血疑」と記載しているが,その後のD
T読影結果により,その可能性は一応否定される。ただし,DT上での診断が困
難な脳幹部梗塞又は出血の可能性は残る。
その他,心筋梗塞(主に左主幹部閉塞のような中枢病変),不整脈(心室細
動,徐脈性不整脈)であった可能性も否定できない。
(3)ア この点,原告らは,「肺塞栓症が進んだ肺梗塞である蓋然性が高い」と主張
しているところ,証拠(甲9ないし11)によれば,肺血栓塞栓症につき,以下の
とおり認められる。
(ア) 肺血栓塞栓症は,入院患者で罹患率,死亡率の高い疾患である。
誘因には,下肢の静脈疾患,癌,心不全,最近の大きな手術の既往,長
期臥床,四肢の麻痺,ギプス固定による不完全麻痺又は不動,血栓症の
家族歴,妊娠などがある。
(イ) 最も多くみられる症状は呼吸困難,胸膜痛,不安感,咳嗽であり,兆候と
しては頻呼吸,頻脈,心音のⅡ音の肺動脈成分の増強,呼吸時のラ音が
挙げられる。
(ウ)a 一般的診断法として,血算,凝固検査,動脈血液ガスがある。動脈血液
ガスでは,肺胞動脈酸素分圧差(P(A-a)O2)が大きくなるが,これが正常
である症例が14%あるとの報告もある。ほとんどの症例では,PaO2が8
0mmHg以下の低酸素血症があり,通常,低炭酸ガス血症を伴う。胸部X
線検査は,他の疾患を除外する以外には役に立たない。
b 特異的診断法としては,換気血流(V/Q)肺スキャン,深部静脈血栓の
診断,肺血管造影がある。V/Q肺スキャンで得られる情報は,スキャン
の画質や解釈の仕方に左右され,肺塞栓であることを臨床医がどの程
度確信しているか(検査前確率)との総合的な判断を要する。深部静脈
血栓の診断には,非侵襲的検査であるインピーダンスプレスチモグラフィ
と超音波が用いられるが,無症状の患者に対しては感度が低い。肺血
管造影は,臨床検査結果や非侵襲的検査で確定できないときに施行さ
れる。
(エ)a 治療法としては,対症療法として,低酸素血症に対する酸素補充があ
る。血圧が下がり心拍出量が低下しており,生理的食塩水の静注にも反
応しない場合は,ノルエピネフリンやドパミンを投与し,血栓溶解療法,
外科的療法を考慮することになる。
b 再発予防としては,抗凝固療法として,ヘパリンの静注及びワルファリン
の経口投与があり,これらが絶対的禁忌である場合や十分な抗凝固療
法をしているにもかかわらず肺塞栓が再発する場合などには,下大静脈
遮断が行われる。
イ そこで検討するに,Dは,確かに入院当初,PO2が58mmHgと低く,SaO2も8
9%で呼吸状態が悪かったものの,PCO2は39.8mmHgで正常値の38
mmHg程度より高く,低炭酸ガス血症は認められなかったこと,その後,咳が
平成10年8月22日午後3時と午後7時,同月24日午前0時と午前10時に
みられたものの,胸膜痛や血痰,不安感は一切なかったこと,入院当初の呼
吸状態は睡眠剤等の薬剤使用による副作用の可能性があること,Dには肺
炎で一般的にみられる発熱や全身倦怠感といった症状があり,胸腹部のX線
検査,DT検査も肺炎の症状と矛盾するものでなかったこと,血液検査によっ
て細菌感染に伴う強い炎症が疑われたこと,Dの症状は日増しに回復してお
り,その間呼吸状態の悪化を疑わせる事情は存在しなかったことなどを総合
すると,入院当初から同月24日にベッドを出て公衆電話に向かおうとするま
でに死亡を招来するような肺血栓塞栓症があったと認めることは困難である。
しかし,Dが倒れた直後には全身が痙攣し,チアノーゼがあり,呼吸も浅か
ったこと,Dは約3日間寝たきりの状態にあり,歩いて公衆電話前まで行った
直後に倒れていることからすると,突然動いたことによる肺血栓塞栓症が生じ
た可能性は否定できない。
(4) そうすると,Dの死因は,脳幹部梗塞又は出血,心筋梗塞(主に左主幹部閉塞
のような中枢病変),不整脈(心室細動,徐脈性不整脈),突然動いたことによる
肺血栓塞栓症などの可能性があるが,そのいずれかは不明というほかない。
3 争点(2)(被告病院医師の診療上の過失及び因果関係の有無)について
上記2のとおり,Dの死因は不明であり,入院当初から同月24日にベッドを出て
公衆電話に向かおうとするまでに死亡を招来するような肺血栓塞栓症があったと
認めることは困難であるから,Dに入院当初から死亡を招来するような肺血栓塞栓
症があったことを前提とする原告の被告病院医師の診療上の過失の主張は採用
できない。
4 争点(3)(被告病院の看護体制不備の過失及び因果関係の有無)について
上記1(4),(7)アないしサの認定事実によれば,被告病院では,Dを回復室に置
き,一般の病室よりも頻繁に看護師が症状を確認できる体制を採っていたこと,平
成10年8月24日当時,Dは,医師や看護師,家族らと正常に話しができるほどに
回復しており,意識状態に何ら問題はなかったこと,被告病院看護師は,午後11
時ころ及び午後0時20分ころの2度にわたって,Dにベッドから離れないよう明確
に指導し,Dはこれを理解していたこと,被告病院看護師は午後1時30分,午後1
時40分と訪室しており,Dが回復室を出たのはそのわずか10分の間であったこ
と,Dは被告病院看護師のいるナースステーションが隣にあるにもかかわらず,回
復室から直接廊下に出て,さらにそこから被告病院看護師に声をかけることもせ
ず,エレベーター又は階段で2階の公衆電話へ向かっていること,被告病院看護師
が午前10時ころにDから電話をかけたいと言われていたとしても,Dがベッドから
離れないようにとの指導に反してまで公衆電話に向かうことは想定し難かったこと
などが認められ,これらの事情を総合考慮すれば,被告病院の看護体制に不備が
あったとはいえない。
確かに,ナースステーションは廊下側にガラス窓と扉があり,被告病院看護師が
絶えず廊下側を監視していれば,Dが歩いているのに気付くことができたといえる。
しかし,回復室からエレベーターまでは約3m,階段までは約6m程度しかなく,D
がナースステーション前の廊下を通り過ぎるのもわずか数秒であって,これを絶え
ず監視せず見逃したとしても,これをもって過失とは評価できない。
5 争点(4)(Dの死因の解明及び説明に関する過失の有無)について
(1) 上記1,2の認定事実によれば,Dの死因は,脳幹部梗塞又は出血,心筋梗塞
(主に左主幹部閉塞のような中枢病変),不整脈(心室細動,徐脈性不整脈),
突然動いたことによる肺血栓塞栓症などの可能性があるが,Dの遺体の解剖は
行われていないこともあって,そのいずれであるかは不明である。
遺体を解剖するかどうかについて,当初,E医師がこれを勧めたことは当事者
間に争いがなく,原告A3及び原告A4がこれを了承したことは,甲17及び原告
A4本人尋問の結果により認められる。しかし,E医師が遺体の解剖についてD
の子である原告A3らのみと相談し,夫である原告A1に了解を求めないことは
考え難いから,「原告A1は解剖についての話を聞いていない。だから,解剖を断
ったこともないはずだ。」との原告A4の供述部分は採用できず,原告A3らが死
亡届の提出のために被告病院から離れている間に,原告A1が解剖に難色を示
したという可能性を否定できない。
したがって,被告病院医師は遺体を解剖してDの死因を確認できたはずであ
るとの原告らの主張は採用できない。
(2) そこで,被告病院医師の死因の記載や死因を明確にしないことが,原告ら遺
族に対する不法行為を構成するかについて検討する。
(3) まず,Dの死因については,上記のとおり不明といわざるを得ず,原告A1を始
めとする遺族の要望に反して解剖しなかったとの事実も認定できないのである
から,被告病院医師が死因を明らかにしなかったことが不法行為を構成すると
は認められない。
(4) 次に,死因の記載については,上記1(7)セ,(9)のとおり,平成10年8月24日
に,死亡診断書に直接死因を「呼吸停止,心停」,その原因を「クモ膜下出血疑」
と記載し,同年11月12日には,診断書に,病名を「肺炎,呼吸不全」とし,「H1
0.8.24B病院内にて転倒し,その後約2時間半後に死亡す。」と記載してい
る。
しかし,「クモ膜下出血疑」との記載については,頭部DTからは直ちに出血を
読みとることはできなかったものの,専門医の読影を待たなければ分からないと
考えて,突然倒れたということから推測される死因の1つとして記載されたもので
あること(乙10)からすると,その記載をもって直ちに不法行為を構成すると認め
ることはできない。
また,「肺炎」との記載についても,肺炎で一般的にみられる発熱や全身倦怠
感といった症状があり,胸腹部のX線,DT検査でもこれを疑わせる所見があり,
酸素投与及び肺炎治療によって症状が順調に改善していたことから考えて,D
に肺炎があった可能性が高く,これと死亡との因果関係は不明であるものの,病
名の1つとして記載されたものであって,やはり不法行為を構成するとは認めら
れない。
6 結論
以上からすれば,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく理
由がないから,棄却すべきである。
よって,主文のとおり,判決する。
津地方裁判所民事第1部
裁判長裁判官   内 田 計 一
裁判官   上 野 泰 史
裁判官   後 藤    誠
(別紙省略)

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