弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五七年一月九日付でした神住建審第八七一号建築確認処分の取消処
分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 本案前の答弁
主文と同旨。
2 本案の答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 本件取消処分の存在
原告は別紙建築確認の表示記載のとおり、昭和五一年一二月九日付東灘区第七九九
号(以下「第七九九号確認」という。)、及び同年一二月一三日付東灘区第八四九
号(以下「第八四九号確認」という。)の建築確認を受けたのち、第七九九号確認
にもとづく建物の全部、並びに第八四九号確認にもとづく三棟(AないしC棟)の
内の一棟(B棟)の建物の建築を完成させた。
ところが、被告は右確認処分後五年余り経過した昭和五七年一月九日別紙記載の各
確認処分全部の取消し(以下「本件取消処分」という。)をした。その取消しの理
由は、右確認処分に係る建築物の計画において前面道路として申請された北側空地
(別紙図面の七四四-一三、七四四-二八六、七四四-二八七、七四四-二六四の
土地(以下「本件敷地」という。)の北側にある空地、以下「本件空地」とい
う。)が建築基準法(以下「法」という。)四三条一項にいう「道路」に該当しな
いことが明らかになつたためというにある。
2 しかしながら、本件取消処分は、次の理由により違法である。
(一) 本件確認処分にかかる建物の敷地は、その南面において法四三条一項にい
う「道路」、すなわち昭和四六年一二月二三日付第七八号指定道路(以下「第七八
号指定道路」という。)に接しているから法四三条一項の規定に抵触していない。
(二) 仮に当初の確認に接道条件違反の瑕疵が存したとしても原告がその後にし
た対応によつてその瑕疵は治癒されるに至つた。
すなわち、原告は、昭和五三年一〇月二五日付神戸市住宅局建築部指導課及び審査
課あての書面で、第八四九号確認のうち、未建築であつたA棟及びC棟部分を取下
げ、更に第七九九号確認の図面のうち、申請道路部分を変更して、神戸市が法四二
条一項五号に該当するものとして位置指定した昭和四九年六月二七日付第一二号指
定道路(以下「第一二号指定道路」という。
)に北側で接道せしめ、また、第八四九号確認のうち、残つたB棟用として、原告
所有地であるB棟専用道路を経て、右と同じく第一二号指定道路に接道せしめる旨
補正した。
以上より、残つた建物二棟のいずれについても接道条件は満たされるに至り、瑕疵
は治癒された。
なお、第八四九号確認のうちA棟及びC棟部分については、昭和五三年一〇月二五
日付で取下げ済であるので本件取消処分の対象としてはすでに存在しなくなつてい
たものであり、取消処分の対象を欠いた本件取消処分が違法であることは明らかで
ある。
(三) (1)仮に本件確認処分に違法事由があつたとしても、被告みずからがし
た右確認処分をみずからが取り消すためには厳格な要件が必要とされるが、本件の
場合はかかる要件を満たす場合には該当しない。
(2) 一般に、行政庁が一旦した行政処分を、みずからが取り消すことができる
のは、単に当該処分に無効ないし取消しの瑕疵があつたというのみでは足りず、当
該処分の取消しが国民の既得の権利ないし利益を剥奪する結果を来たすような場合
には、かような権利ないし利益の剥奪により既存の法律秩序を破壊しても、なおか
つ取消しを必要とすると認められるような重大・明白な瑕疵がある場合に限り許さ
れるものと解すべきであり、取消しの公益上の必要性がこの程度に達しない場合に
は、たとえ行政庁の処分に違法な瑕疵がある場合でもこれを取り消すことは許され
ないものと解すべきである。
(3) そこで、本件取消処分の理由とする瑕疵の程度とその取消しの公益上の必
要性についてみるに、原告の残つた建物二棟の建築確認について、仮にこれになお
接道条件に関して十分でないところがあるとしても、この確認を放置することによ
つて生ずる社会的損失は、法に定める道路に接道しない二棟の建物が残存している
というに過ぎず、被告主張の建築物の有効利用の観点からは本件確認処分の取消し
よりはむしろ補正の途を講ずべきであつた。また、被告主張の災害等非常時の避難
又は消防活動の円滑性の確保という公益性の観点からみても、本件建築予定地の周
囲には、災害等非常時の避難に十分な公道へ事実上接続した空閑地があつて避難に
事欠かず、また、公道から右空閑地を経て建物前まで消防自動車が進入することも
でき、いささかも消防活動に事欠くところはない。
さらに、被告は、後述のように、本件空地を前面道路とする後記別件確認処分を原
告自ら法四三条に適合しないとして建設大臣の裁決により取消させたのでそれとの
均衡公平上、さらに建築確認行政の画一的完全実施という公益上の要請から本件確
認処分を取り消したと主張するが、別件確認処分は行政不服審査法の不服申立期間
内に法定の取消手続により建設大臣の裁決により取り消されたのに反し、本件確認
処分は同処分後五年余り経過した後に行政庁自らが一旦適法としてなした確認処分
を取り消したもので、取消しの主体及び期間の点で全く事情を異にしている。ま
た、被告は本件確認処分と同じ頃に同様の道路形状地を道路として申請した訴外A
に対する建築確認処分を取消さずに放置している。
被告はまた、被告主張の違法建築物であつても完工検査までに自からの責任で違法
状態を除去することにより検査済証の交付を受け、法に適合した建築物とする余地
があることを認めている。
してみると、被告主張の本件取消しの公益上の必要性とは、被告みずからが法に適
合しない建築物であることを知りながら五年間余りも放置したり、極めて近くに同
様の違法状態のある建物について建築確認処分の取消しもせずに放置したり、被処
分者がみずから違法状態を除去し法規適合性を回復できる程度のものである。
これに対し、本件取消処分によつて原告に生ずる損失は、確認処分の取消しにより
建物の処分可能性を殆んど失うこととなり、また、神戸市の期待する補正手続を講
ずるにも、その基本たるべき確認処分が存在しないこととなれば、補正の途も封ぜ
られることとなる。従つて、原告に生ずる損失は、被告の主張する社会的損失より
遙かに著しく厳しいものである。
なお、行政処分による行政法律関係の可及的早期安定とこれに対する国民の信頼性
確保の要請から処分後の日数の経過した行政処分の取消しはとくに厳格かつ制限的
にされるべきであるところ、被告は、本件確認処分が行政庁に対する不服申立ても
なく確定したのに、同処分後実に五年余り経過した後にみずから本件取消処分に及
んだものであつて、被告主張の前記取消理由を考慮しても、かかる取消処分はとう
てい許容されるものではない。
(四) 仮に本件確認処分が違法であつたとしても、これを行政庁みずからが取消
すことは、行政法上の禁反言の原則、又は信義則に違反し違法である。すなわち、
本件確認申請にあたり、原告の申請代理人である建築士が添付した図面には、建物
の敷地北側の道路について、当初「公道」と表示されていた。ところが被告は、右
確認申請の審査にあたり、原告の申請代理人に対して、「公道」ではないと指摘
し、法四二条一項による「私道」であるから、そのように添付図面を訂正するよう
に指導し、原告の申請代理人はその指導を受け入れて、図面上の「公」を「私」に
訂正し、かつ、その横に「法四二条第一項ニヨル道路」と書き入れ、敷地の接道条
件が満たされたとして被告が本件確認処分をしたものである。右確認処分に際し、
被告は本件建築予定地の北面道路形状地が法四二条一項五号の指定道路でないこ
と、及びその位置形状からして将来とも指定道路となしうる可能性の全くないこと
を知り、あるいは知りうる立場にありながら右確認処分をしたものである。しか
も、被告は右確認処分直後には敷地北面の接道が建築基準法上の道路に対してなさ
れていないことを認識しながらただちに是正の措置をとらず、本件取消処分に至る
まで五年余りも放置したのみならず、かえつてその間原告の申請に対し南面接道を
果たしているので問題のない旨説明までしていた。法律に素人の原告は、被告の指
示指導に従い本件確認処分を受けこれを信頼して建物を完成し居住するに至つたの
であるが、被告はその後に至つて突如みずからの指導と指示の誤りを認めて本件取
消処分に及んだもので右は、行政法上の禁反言の原則に反し、かつ、信義則にも反
するものである。
3 そこで原告は、昭和五七年二月二五日、神戸市建築審査会に本件取消処分の取
消しを申し立てたが、同審査会は、口頭審査の結果、昭和五七年四月二七日、原告
の審査請求を棄却する旨の裁決をしたため、原告は、さらに、昭和五七年五月二六
日、建設大臣宛に右裁決の取消しと、原処分の取消しを求めて再審査請求をしたが
同庁は現在まで裁決をしていない。
4 よつて、原告は被告に対し、本件取消処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の抗弁
建築主事の行う建築確認処分は、単に、確認にかかる建築物について適法に建築工
事をなし得るという効果があるにすぎないものであつて、建築された建築物が建築
関係法令に適合することまでの効果を伴うものではないのであるから、建築確認処
分の取消しを求める訴えは、当該建築物に対する工事の着手前もしくは工事継続中
の時点に限り、当該工事の開始もしくは続行を阻止し、それによる被害発生を防止
しうるという点において訴えの利益があるというべきであるが、これに対し、当該
建築物が完成した後においては、仮に判決によつて建築確認処分が取り消されたと
しても、阻止すべき建築工事は既に完了し、いわばその対象は存在しないのである
から、あとには完了検査、検査済証の交付、是正措置命令等の問題が残るにすぎな
いとされている。この考え方を推し進めるとき、本件のように建築確認処分が取り
消されたあと、建築確認処分取消しの取消しを求める実益はない。要するに、建築
確認処分の取消しは、当該建築計画が建築関係法令に適合するかどうかの判断の取
消しにすぎず、完成した建築物が右法令に違反しておれば、これを是正しなければ
ならないということは、もとより建築確認処分の存否とは無関係である。原告は、
みずからの責任で現在の違法状態を除去することにより、法七条二項の完了検査を
受け、同条三項の検査済証の交付を受けうるのである。
従つて、原告主張のように、本件取消処分を取消さなければ原告が当該建物の売却
に不都合を来たしたり、補正の途が封じられ是正命令対象となる可能性があるとし
ても、それは当該建物が違反建築物であるという実体上の事由に基づくもの(実体
上の補正で解決される事柄である)であつて建築確認処分の存否とは無関係であ
る。
三 被告の本案前の抗弁に対する原告の反論
1 まず、第八四九号確認のA棟及びC棟部分については建築に着手する前の昭和
五三年一〇月二五日付で建築確認申請を取り下げたのであるから、建築の完成を前
提とする被告の本案前の抗弁は理由がない。右A棟及びC棟については、右建築確
認申請の取下げの効力と取下げ後の被告による確認処分の取消処分の効力こそ問題
とすべきものである。右は、取り消す意味も利益もない建築確認処分を被告みずか
らが取り消したことを自認することとなり、被告の本案前の抗弁は、自己撞着もこ
れに過ぎるものはない。
2 次に、建物が既に完成している第七九九号確認と第八四九号確認のうちのB棟
部分についてであるが、被告の主張によれば、建物の完成後の建築確認処分を取り
消すことは無意味ということを前提に本案前の抗弁をしているにもかかわらず、被
告はみずから昭和五七年一月九日付でもつて建物完成後に本件取消処分を行つてい
る。
3 被告は、建物完成後に建築確認処分を取り消すことは無意味とし、さらに同取
消処分の取消しを求めることもまた無意味で訴えの利益がないと主張するが、被告
の主張は、建物完成後における行政庁のいかなる違法不当な取消しに対しても被処
分者には救済の途を封じる横暴な切り捨てご免の論理であり、とうてい是認される
ものではない。建築確認処分の取消しの利益と同取消処分の取消しを求める利益と
は本来区別されるべきであるのに、被告はこれを混同したものであつて、行政庁の
理由のない建築確認処分の取消しに対してこそ、その取消しを求める利益が一層是
認されるべきである。そして、本件取消処分が違法であることは前述のとおりであ
るから、原告の本件取消処分の取消しを求める本件訴えの利益は是認されなければ
ならない。
してみると、本件においては、行政庁の確認処分の取消しが理由があつたか否か更
に実体に立ち入り検討されるべきである。
4 なお、原告は、請求原因2項(三)(3)で述べたように、本件取消処分を取
り消すことによつて、当該建築物の処分をするについても不都合を来たさなくな
り、また建築確認処分が存在すれば、神戸市の期待する補正手続への途もひらける
ことになるので、本件取消しを求める訴えの利益には大きいものがある。
四 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1項の事実は認める。
2 同2項はすべて争う。
3 同3項の事実は認める。
4 同4項は争う。
五 本件取消処分を違法とする原告の主張に対する被告の反論
1 本件取消処分に至る経緯
原告が請求原因1項の建築確認を受けたのち、別紙図面中のB及び株式会社富士は
本件空地を接道道路として計画した別件建築確認申請をし右申請に対する建築確認
処分(以下「別件処分」という。)がされた。
ところが、原告は別件処分につき、利害関係人として本件空地は法四二条一項のい
ずれの「道路」にも該当せず、従つて法四三条一項の規定に違反している旨主張
し、最終的には原告の主張が認められ、B及び株式会社富士に対してされた別件処
分は建設大臣の裁決によつて取り消されるに至つた。
従つて、この時点においては、本件空地について、北側敷地(B・株式会社富士)
との関係では法四三条に適合しないが、一方原告が申請している南側敷地との関係
では法四三条に適合するという状態が現出し、
行政的見地からして好ましくない状況となつた。
そこで、同一の空地を接道道路とする別件処分が取り消された以上、公平の原則か
ら被告は本件取消処分を行つたものである。
2 本件取消処分の適法性
(一) 別紙図面によると、本件敷地の北側にある本件空地の幅員は、四・五メー
トルのところ、その内中心線より北側部分の一・八メートル(七四四-五五)は株
式会社富士所有地であるから原告所有地の幅員は二・七メートルとなる。
従つて、本件敷地は法四二条一項にいう幅員四メートル以上の道路と二メートル以
上接していないものといわざるをえない。
(二) 本件敷地は第七八号指定道路に接しているということはできない。
すなわち、本件敷地と第七八号指定道路とは数メートルの段差があり、本件敷地と
右道路とは接していないのであり、法四二条一項の趣旨が災害等非常時の避難又は
消防活動の円滑性の確保等にある点から判断すると、原告の建築計画はこの接道義
務を満たすものではない。
(三) 原告の行つた未建築建物(第八四九号確認のうちのA棟及びC棟)部分の
建築確認申請の取下げ及び第七九七号確認の接道部分の表示の変更によつても、接
道条件に係る瑕疵は治癒されていない。
前記(一)、(二)で述べたとおり、法四三条一項の規定に適合するための指定道
路の幅員は、法四二条一項の規定により四メートル以上なければならないのは明ら
かであるから、原告の主張する北側接道部分の道路幅員が二・七メートルしかな
く、また南側接道条件の充足されていない本件の場合には右接道部分の単なる表示
変更によつて瑕疵が治癒されたとはいえない。
なお、原告が未建築建物A棟及びC棟部分の取下げと称する行為は、第八四九号確
認に係る確認申請を全て取り下げるものではなく(第八四九号確認に係る三棟の建
築計画のうちB棟については申請は維持されている。)、従つて、B棟部分との関
係ではあるが第八四九号確認はそのまま有効に存在していた(確認処分自体は不可
分なもの)ので、これを取り消すに当りその前提に何ら欠けるところはない。
四 本件取消処分は、いわゆる行政行為の取消権が制限される場合には該当しな
い。
建築基準法が建築確認制度を置く趣旨は、建築物の計画について事前審査すること
により違反建築物の出現を未然に防止し同法の実効性と建築秩序の維持確保を企図
するものであるから、建築主事の判断の表示たる確認は、建築基準法規に照らし適
合しているか否かの厳正さを常に要求されるものであり、いやしくも違反建築物の
出現を放置容認するものであつてはならない。この理は建物の建築完成の前後にお
いて異るものではない。
従つて、建築確認においては、提出図面と実際の状況とが異なり、法四三条に適合
しないということが明らかになれば、一旦した建築確認処分は何時でも取り消され
なければならない。
けだし、道路への接道条件の規定は建築物の有効利用という面の他に、建築物の利
用上の安全及び防災(災害等非常時の避難、消防活動)というより公益性の強い趣
旨も包合しているのであつて、処分庁が建築確認処分をした後、法四三条一項に適
合しないことが判明した場合においてもその取消しができないということになれ
ば、現在の建築確認行政制度の実行性が確保できず全国的に大きな問題にもなりか
ねない。また、建築確認の専門機関たる建築主事に対する国民一般の信頼を失わせ
ることにもなる。
してみると、当該確認処分に瑕疵がある限り、建築主事には、これを放置容認する
ことなく取り消すだけの公益上の必要性があるものといわざるをえない。
これに対し、原告主張の不利益は、被告が本案前の抗弁において述べたように、本
件確認処分の取消しによるものではなく、むしろ当該建築物自体が違反建築物であ
ることに起因するものにほかならないので、原告は本件取消処分によつて何らの不
利益を被るものではない。
(五) 本件取消処分は禁反言の原則にも、信義則にも反するものではない。
前記本件取消処分に至る経緯で述べたように、別件処分につき、本件空地の法四三
条違反を主張し、建設大臣による裁決にまで持ち込み自己の主張を貫いたのは原告
自身であり、別件処分が取り消された以上、被告において本件取消処分を行うこと
こそむしろ公平の原則にかなうものである。禁反言ないし信義則の原則に反する主
張をするのは、むしろ原告自身である。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1及び3項は当事者間に争いがない。
二 そこで、被告の本案前の抗弁について検討する。
1 法は、公共の福祉の増進に資する目的のもとに建築物の敷地、構造設備及び用
途に関する最低の基準を規定し、かつ、法令違反の建築物の出現を規制するため
に、当該建築物の工事施工の前後を通じ、次のような三段構えの法的制度を設けて
いる。すなわち、法によれば、建築主は、一定の建築物を建築しようとする場合、
当該工事に着手する前に、その計画が建築関係法令に適合するものであることにつ
いて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受けることを義務づけられ(六条
一項)、右確認を受けずに建築工事をすることを禁止されており(六条五項)、建
築工事が完了した場合には、その旨建築主事に届け出て(七条一項)、当該建築物
が建築関係法令に適合しているかどうかの検査を受け(七条二項)、適合している
場合には検査済証の交付を受ける(七条三項)ものとされている。さらに、特定行
政庁は、建築関係法令に違反した建築物については、建築主に対して、当該工事の
施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限をつけて、当該建築物の除却、移転、改
築等建築関係法令に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずるこ
とができるとされている(九条一項)。
2 そこでまず、建築主事の行う建築確認の法的性質について検討する。建築確認
処分は、建築主事が建築工事の着手前において、一定の建築物を建築しようとする
建築主の申請にかかる建築物の建築計画について、建築関係法令による安全・衛生
等の建築行政上の技術的基準に適合するものであることを公の権威をもつて確認し
対外的に宣言する準法律行為的確認行為であり、それにより、建築主は申請にかか
る建築物について適法に建築工事をなしうるという法律上の利益を受けるものと解
すべきである。つまり、建築確認は建築関係法令が実際に遵守されていることをい
わば事前に手続的に確保し、もつて建築関係法令違反の建築物の出現を事前に阻止
予防するための制度であるということができる。
しかし、建築確認は右のように工事着手前において申請にかかる建築物の建築計画
が建築関係法令の技術的基準に適合するか否かを書面に基づき審査確認するにすぎ
ず、それ以上に建築物が当該確認にかかる建築計画どおりに建築されたこと、また
当該確認にかかる計画に従つて建てられた建築物が実体的にも建築関係法令に適合
することまでも確定するものではない。すなわち、建築確認は建築計画の合法性を
確定するものであつても建築物の合法性までも確定するものではない。
これに反し、工事完了後の検査済証の交付及び特定行政庁の是正措置命令は、建築
物完成後において建築物が実体的に建築関係法令に適合するかどうかを検査確認
(検査済証の交付)したり、同法令に実体的に適合しない違反建築物の除去改築等
を命ずることにより、いわば事後において違反建築物自体を是正規制する制度であ
る。
してみると、建築主事による建築確認、工事完了検査及び検査済証の交付並びに特
定行政庁による違反建築物に対する是正措置命令の各制度は、前記のとおり、前記
法文の規定の仕方及び法律上設けられた趣旨目的、規制の仕方をそれぞれ異にする
ものであることからして、建築行政上互いに独自の観点から独立した手続により別
個に違反建築物の出現を規制する機能をそれぞれ営んでいるものと解すべきであ
る。
以上のような観点より検討すると、建築確認があれば、当該確認にかかる計画に従
つて適法に建築しうるという法律上の効果を取得しうることは当然であるが、それ
以上に当該確認にかかる計画に従つて建てられた建築物が実体的にも建築関係法令
に適合するものとして当然に検査済証の交付を受けうべきこと、さらに特定行政庁
の是正命令の発動を当然に排除すべきことを求めうる法律上の効果までも伴うもの
ではない。他方、建築確認を得ないで建築した建物でも、それが完成した以上、建
築無確認という状態ではあるが、確認申請義務違反の処罰の点を別とすれば、完了
検査を受けることができるし、検査の結果、当該建築物が実体的に建築関係法令に
適合している場合には検査済証が交付され、また特定行政庁は無確認という理由の
みに基づいて除去等の是正命令を発することはできない。
なお、建築主は、建築確認を受け当該確認にかかる建築計画に従つて建築しておれ
ば、完成した建築物は実体的にも建築関係法令に適合するものとして検査済証の交
付を受けうる、また特定行政庁の是正命令の対象とはならないという期待を有する
ことは否定できないが、このような期待ないし利益は建築確認の事実上の期待ない
し利益であるにすぎず、法律上の利益と解することはできない。
3 そこで、本件取消処分の取消しを求める本件訴えの利益について検討する。
本件訴えは、本件取消処分を取り消すことによつて、第七九九号確認及び第八四九
号確認の建築確認処分を回復させ、それにもとづく法律上の効果、すなわち、申請
にかかる建築物について適法に建築工事をしうるという法律効果を回復するための
ものであるが、これが可能な状態にあり、かつこれによつて回復すべき法律上の利
益がある限りにおいて本件訴えの利益は肯認されるべきである。
(1) ところで被告が、昭和五一年一二月九日付で第七九九号確認、同年一二月
一三日付で第八四九号確認の各処分を行つたこと、その後、第七九九号確認にもと
づく建築物の全部、第八四九号確認にもとづく三棟の内の一棟(B棟)の建築物が
既に完成されたこと、原告が、第八四九号確認にもとづく二棟(A棟及びC棟)の
未建築物につき昭和五三年一〇月二五日付で建築確認申請を取り下げていること及
び被告が昭和五七年一月九日付で本件取消処分を行つたことは、いずれも当事者間
に争いがないところである。
(2) そこでまず、第七九九号確認にもとづく建築物の全部及び第八四九号確認
にもとづくB棟建築物の関係についてみるに、本件訴えによつて当該確認にかかる
建築物を適法に建築完成しうるという法律上の利益を回復維持したとしても、右確
認処分の対象となつた計画上の建築物はいずれも既に工事完成済であり、もはや建
築確認処分による計画を適法に施行すべき建築工事自体が、目的達成により存在し
なくなつている状況にあるので、本件取消処分の取消しはその法律上の利益を有し
ないこととなる。
また、当該建築物完成後に本件取消処分の取消しにより建築確認処分を回復維持し
ても、建物完成後の検査と検査済証の交付、特定行政庁の是正措置命令との関係で
は、前記事実上の期待もしくは利益を取得しえても、法律上の利益を取得するもの
でないことは、前述のとおりである。
なお、原告は、本件取消処分を取り消すことによつて、当該建築物の処分に不都合
をきたさなくなつたり、神戸市の期待する補正手続への途もひらけるという利益が
回復されることを理由に本件訴えの利益がある旨主張する。
なるほど、一般的にいつて、確認処分を回復維持した方が無確認の場合より補正手
続がとりやすく、従つてその結果、処分もしやすくなるという事実上の期待ないし
利益があることは否定できないが、このような利益は確認処分に基づく法律上の利
益とはいえない。すなわち、当該建築物の処分に不都合を生ずるかどうかは、建築
確認を受けた建築計画の適法性に起因するものではなく、むしろ、完成した当該建
築物が違法な建築物であつたことに起因するものであつて、本件取消処分の取消判
決によつて当該建築物自体が適法な建築物になるものではない。また原告は、確認
処分を回復すればそれに基づいて神戸市の期待する補正手続への途もひらけるとい
う期待ないし利益があるというが、原告の主張によつても当該建築物完成後に建築
確認処分を回復しそれにより具体的にどのような補正手続を講ずる趣旨か、すなわ
ち確認処分と補正手続内容との法的関連性が必ずしも明らかではない。原告主張の
趣旨が、原告がみずから神戸市の期待する補正手続をとり完了検査及び検査済証の
交付を受けるか、あるいは特定行政庁の是正措置命令が発せられないように事前に
是正措置を講ずるというのであれば、確認処分の回復とは何ら関係のないことであ
る(精々確認処分があつた方が、それに基づき神戸市と接渉しやすいという便宜に
すぎない)。
してみると、右の点を理由に本件訴えの利益を肯定する原告の主張は、失当であつ
て採用できない。
(3) 次に、第八四九号確認にもとづく建築物A棟及びC棟の関係で検討する
に、右建築物については、原告は建築に着手せずに昭和五三年一〇月二五日付で建
築確認申請を取り下げている。
すなわち、成立に争いのない甲第四号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を
総合すれば、原告は、昭和五三年六月ころ、本件敷地の北側付近に建売住宅が一二
戸建築されることを聞き、疑問に思い神戸市土木局宅地規制課に問い合わせたとこ
ろ、同所付近には、法上の道路位置指定がない旨の回答をえたこと、そのため、本
件敷地についても道路(法四二条)との接道(法四三条一項)につき同様の違法状
態になつていることに原告自身はじめて気付いたこと、右違法状態を除去するため
原告は、すでに建築確認処分がされている右A棟及びC棟の建築物については、建
築確認申請を取り下げたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
そして右事実によると、原告は右取下げ行為により第八四九号確認にもとづくA棟
及びC棟については建築に着手しない意思を確定したのであるから、建築確認処分
に基づき建築物を適法に工事着手し完成させうるという法律上の利益を必要とする
ものではなく、従つて本件訴えによつて右建物につき建築確認処分を回復維持すべ
き法律上の利益を必要としないものといわざるを得ない。
三 結論
以上より、結局、原告には本件取消処分の取消しを求める本件訴えの利益はないも
のというべく、従つて本件訴えは原告主張のその余の点について判断するまでもな
く不適法なものであるから゜これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政
事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 村上博巳 小林一好 横山光雄)
別紙図面 (省略)
建築確認の表示
一 確認番号 第七九九号
確認年月日    昭和五一年一二月九日
確認者 建築主事 C
建 築 主    神戸市<地名略>

敷地の位置    神戸市<地名略>
用   途    専用住宅
工事種別     新 築
構 造     木 造
敷地面積     一一七二・八〇平方メートル
建築面積     九四・四三平方メートル
延 面 積    一六一・五六平方メートル
二 確認番号   第八四九号
確認年月日    昭和五一年一二月一三日
確認者 建築主事 E
建 築 主    神戸市<地名略>

敷地の位置    神戸市<地名略>
用   途    専用住宅
工事種別     増 築
用   途    長星建住宅(車庫付)
構   造    木 造
敷地面積     一一七二・八〇平方メートル
建築面積     四一六・七六平方メートル
延 面 積    六四七・七六平方メートル

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛