弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。
理由
上告代理人細井土夫ほかの上告受理申立て理由について
1原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)A(昭和57年7月生)は,平成14年2月19日午前5時ころ,愛知県
一宮市内において,自己の運転する普通乗用自動車(以下「本件自動車」とい
う。)を,赤信号で停止していた普通貨物自動車に追突させる事故(以下「本件事
故」という。)を起こした。上告人(昭和57年3月生)は,本件事故当時,本件
自動車に同乗しており,本件事故により顔面に傷害を負った。
(2)本件自動車は,上告人の父親であるBが所有しており,同人の経営する会
社の仕事等に利用されていた。
上告人は,本件事故当時,一宮市内で独り住まいをし,キャバクラ等に勤務して
いたが,仕事が休みのときには,同市内にある実家に戻り,Bが経営する会社の仕
事を手伝うことがあった。Bは,上告人が上記仕事を手伝う際などに本件自動車を
運転することを認めていた。
Aは,岐阜市内に居住し,ホストクラブに勤務していた。同人は,自動車を運転
する能力はあったが,自動車の運転免許は有していなかった。
被上告人は,本件自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会
社である。
(3)上告人とAは,平成13年9月ころ,Aが上告人の勤務していたキャバク
ラに客として訪れたのを機に知り合い,その後,上告人は,Aの勤務するホストク
ラブに客として通うようになり,互いに携帯電話の番号を教え合う仲になった。A
が自動車の運転免許を有していないことは,上告人も知っていた。Bは,Aと面識
がなく,Aという人物が存在することすら認識していなかった。
(4)Aは,平成14年2月18日午後10時ころ,実家にいた上告人に電話を
して,尾張一宮駅に来るように誘い,上告人は,これに応じて,本件自動車を運転
して同駅まで赴いた。上告人は,Aを同乗させて名古屋市内のバーに向かい,翌1
9日午前0時ころ到着して,Aと共にカウンター席で飲酒を始めた。上告人は,酔
いがさめたころに自ら本件自動車を運転して帰宅するつもりであったが,そのうち
に泥酔して寝込んでしまった。Aは,同日午前4時ころ,上告人を起こして帰宅し
ようとしたが,上告人が目を覚まさなかったため,カウンターの上に置かれていた
本件自動車のキーを使用して,上告人をその助手席に運び込んだ上で本件自動車を
運転し,岐阜市内の自宅に向かった。Aは,自宅に到着してから上告人を起こし
て,本件自動車で帰ってもらうつもりであった。上告人は,Aが本件自動車を運転
している間,泥酔して寝込んでおり,同人に対して本件自動車の運転を指示したこ
とはなかった。Aは,その帰宅途上で本件事故を起こした。
2本件は,本件自動車に同乗していた際に本件事故に遭い,傷害を負った上告
人が,本件自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社である
被上告人に対し,Bが自動車損害賠償保障法(以下「法」という。)2条3項所定
の保有者として法3条の規定による損害賠償責任を負担すると主張して,法16条
に基づき損害賠償額の支払を求める事案である。
3原審は,次のとおり判示して,上告人の請求を棄却した。
Bは,Aと面識がなく,Aという人物が存在すること自体認識していなかったの
であるから,上告人がAに本件自動車の運転を依頼し,あるいはその運転を許容し
て初めて,上告人を介してAの運転する本件自動車に対する自己の運行支配を及ぼ
すことが可能になり,法3条にいう「自己のために自動車を運行の用に供する者」
(以下「運行供用者」という。)に該当するということができる。しかし,上告人
にはAに対して本件自動車の運転を依頼する意思がなく,上告人は泥酔していて意
識がなかったため,Aが本件自動車を運転するについて指示はおろか,運転してい
ること自体認識していないこと,また,Aは自宅に帰るために本件自動車を運転し
ていたにすぎないことなどからすれば,上告人の本件自動車に対する運行支配はな
かったというべきである。そうすると,上告人を介して存在していたBの運行支配
も本件事故時には失われていたというほかはない。したがって,Bは,運行供用者
に当たらず,保有者として法3条の規定による損害賠償責任を負担するものではな
い。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
前記事実関係によれば,本件自動車は上告人の父親であるBの所有するものであ
るが,上告人は実家に戻っているときにはBの会社の手伝いなどのために本件自動
車を運転することをBから認められていたこと,上告人は,親しい関係にあったA
から誘われて,午後10時ころ,実家から本件自動車を運転して同人を迎えに行
き,電車やバスの運行が終了する翌日午前0時ころにそれぞれの自宅から離れた名
古屋市内のバーに到着したこと,上告人は,本件自動車のキーをバーのカウンター
の上に置いて,Aと共にカウンター席で飲酒を始め,そのうちに泥酔して寝込んで
しまったこと,Aは,午前4時ころ,上告人を起こして帰宅しようとしたが,上告
人が目を覚まさないため,本件自動車に上告人を運び込み,上記キーを使用して自
宅に向けて本件自動車を運転したこと(以下,このAによる本件自動車の運行を
「本件運行」という。),以上の事実が明らかである。そして,上告人による上記
運行がBの意思に反するものであったというような事情は何らうかがわれない。
これらの事実によれば,上告人は,Bから本件自動車を運転することを認められ
ていたところ,深夜,その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したも
のであるから,その運行はBの容認するところであったと解することができ,ま
た,上告人による上記運行の後,飲酒した上告人が友人等に本件自動車の運転をゆ
だねることも,その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきで
ある。そして,上告人は,電車やバスが運行されていない時間帯に,本件自動車の
キーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから,Aが帰宅する
ために,あるいは上告人を自宅に送り届けるために上記キーを使用して本件自動車
を運転することについて,上告人の容認があったというべきである。そうすると,
BはAと面識がなく,Aという人物の存在すら認識していなかったとしても,本件
運行は,Bの容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきであり,
Bは,客観的外形的に見て,本件運行について,運行供用者に当たると解するのが
相当である。
5以上によれば,本件運行についてBが運行供用者に当たらないとして上告人
の請求を棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反
がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。
そして,上告人がBに対する関係において法3条にいう「他人」に当たるといえる
かどうか等について更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととす
る。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官中川了滋裁判官津野修裁判官今井功裁判官
古田佑紀)

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