弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人木戸和喜男、同木戸光男の上告趣意第一点は、憲法一四条一項違反をいう
が、原審で主張判断を経ていない事項に関するものであり、同第二点は、判決違反
をいうが、引用の判例は事案を異にして本件に適切でなく、同第三点は、事実誤認
の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。
 しかし、所論にかんがみ、職権をもつて調査すると、第一審判決は、罪となるべ
き事実として、
 「一 被告人は、昭和四二年一月四日午後三時一五分ころ、普通貨物自動車を運
転して、川口市c町d丁目e番地先にある京浜東北線線路の東側と西側とを結ぶ通
称西川口陸橋上の幅員約九・六メートルの取付道路を、川口市a町方面から同市b
町方面に向け、時速約三五キロメートルで西進し、右陸橋西端にある、右陸橋取付
道路とその南北両側にこれと並行してはしる幅員各約六・二メートルの道路とが、
東西約四三メートルにわたつて交わる交通整理の行なわれていない変形交差点にお
いて、同交差点で前記陸橋北側の併行道路へUターンをする形で進入するため、車
両の回転軸を中心とすれば、ほぼ一八〇度となるような右折をすることとなつた。
 二 当時右陸橋上の道路および交差点内には、他に通行する車両は存在しなかつ
たし、右陸橋取付道路の幅員は前掲のとおり約九・六メートル(片側約四・八メー
トル)あり、かつ出口より西側交差点内の道路総幅員は約二二・七メートルでかな
り広くなつているけれども陸橋の頂上から西側下端出口までは、右へ弧を描くゆる
い曲線をなしており、その左右両側には、出口の端まで、基底部の幅約〇・三五メ
ートル、高さ約〇・八五メートルのコンクリート製下部の上に鉄製パイプの手摺り
部分を載せた高さ約一・二メートルの欄干が設置されてあるため、陸橋を下つてく
る車両からみると、出口はかなり狭ばまつて見えるので、先行する車両が、たとえ
道路中央線付近を進行していたとしても、その左側を通常の速度で通過することは
かなり困難であると予想される道路状況にある。
 その上、被告人は、車幅約一・六九五メートル、車長約四・六九〇メートルの車
両で、この交差点を一八〇度右折するのであるから、九〇度右折すれば足りる通常
の交差点における右折に比し、前掲のような各道路の幅員状況においては、その速
度とハンドル操作とに技術上の困難を伴うことが予想される右折である。
 三 被告人は右陸橋出口(交差点入口)より約七∼八〇メートル手前で右折の合
図をしたが、それより前、交差点入口より約八∼九〇メートルの地点で、後方約七
〇メートルの地点に、自車と同方向に進行してくるA運転の小型四輪貨物自動車を
認めた。右Aの車両は車巾約一・六九メートル、車長約四・三三メートルであると
ころ、被告人が自車を時速約二〇キロメートルに減速しつつ陸橋出口より約十数メ
ートルの地点に達した際には、右Aの車両は、被告人車両の右斜後方約十数メート
ル付近に、かなりの高速で接近しつつあるのを認めた。
 四 このような後続車両の状況を認識しており、このような道路状況の下で、こ
のような交差点を一八〇度に右折しようとする自動車の運転者としては、道路の総
幅員が約二二メートルに広くなつている交差点内に、後続車において自車の左側を
通過できる余地あるまでに前進して、右折を開始するかもしくは後続車の通過をま
つて、右折するなどして、後続車との衝突による危険の発生を未然に防止し、もつ
て他人に危害を及ぼさないような方法で安全に運転すべき注意義務があるのにこれ
を怠たり後続するA運転の車両が自車に接近する前に右折し終るものと軽信して交
差点入口(陸橋出口)から約二・一メートル交差点内に進入した地点で右折を開始
した過失により、被告人車両との衝突による危険を避けようとして急ブレーキを踏
みつつ右へ避譲の措置を講じたA運転の車両の左前部を、自車右側部ドア付近に衝
突せしめて、もつて過失により道路、交通及び当該車両、後続車両等の状況に応じ
他人に危害を及ぼさないような方法で運転しなかつたものである。」との事実を認
定判示し(なお、弁護人の主張に対する判断の中に、被告人の右折開始地点は中央
線から一・六メートル左寄りの地点であり、右地点が被告人の運転席の位置である
とすれば、車両右側から中央線までにはほぼ一メートルくらいの間隔があつたと認
めるのが相当であるから、被告人の車両は道路の中央線に寄つていなかつたと認め
る旨の判示がある。)、右事実は道路交通法七〇条、一一九条二項、同条一項九号
のいわゆる過失による安全運転義務違反の罪にあたるとして、被告人を罰金千円に
処した。
 被告人側の控訴に対し、原判決は、被告人の運転していた車両は普通乗用貨物自
動車ではなく、小型四輪貨物自動車であつたこと、被告人は右折の合図後別段道路
の中央に寄ることなく、センターラインより左方約一メートルのあたりを直進した
こと、A運転の車が被告人運転の車の後方から接近した速度は時速四五キロメート
ル前後と推認されること、第一審判決が陸橋の右方へのゆるやかなカーブと、その
両側に設置されている欄干との関係から陸橋の出口がかなりせばまつて見え、「先
行する車両が、たとえ道路中央線付近を進行していたとしても、その左側を通常の
速度で通過することはかなり困難であると予想される道路状況にある。」と判示し
ている点は必ずしもこれを肯定できないこと、その他本件のような変形交差点を右
側道路へほぼ一八〇度の角度で右折しようとする場合には、第一審判決のいうよう
に、「その速度とハンドル操作とに技術上の困難を伴うことが予想される右折であ
る。」かどうかは別として、第一審判決が認定判示した事実は優に肯認できるとし、
被告人は第一審判示の過失により道路交通法所定の安全義務に違反したものといわ
ざるをえないとして、第一審判決を認容維持した。
 すなわち、本件第一、二審判決は、ともに右認定の事実につき被告人を過失によ
り道路交通法七〇条(安全運転の義務)の規定に違反した者として同法一一九条二
項、同条一項九号の規定を適用処断しているのである。そして同法七〇条は、「車
両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、
かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速
度と方法で運転しなければならない。」と規定している。それ故同法一一九条二項
により過失による安全運転義務違反として処断するためには、過失によつて、「他
人に危害を及ぼすような速度と方法で運転した」事実を確定しなければならない。
踏切の直前で停止せず、かつ、安全であることを確認しないで車両を運転して踏切
に立ち入り、列車と衝突して列車に乗つていた人を死傷に致した場合には、過失致
死傷の罪が成立することは論をまたないけれども、一方踏切直前で停止せず安全を
確認しないで進行した点で道路交通法三三条違反の故意犯(同法一一九条一項二号
の罪)が成立するのであつて、この場合過失による同法三三条違反の罪(同法一一
九条二項の罪)が成立するものではない。踏切直前で停止せず、安全を確認しない
で進行した行為は、一面においては、過失致死傷罪の構成要件である過失の内容を
なすから、過失致死傷罪を構成するのであるけれども、踏切直前で停止せず安全を
確認しないで進行したとの行為は、それ自体故意による道路交通法三三条違反の罪
を構成する。過失による同法三三条違反の罪が成立するためには、前方注視義務を
怠つたため、踏切のあることに気づかず、その直前で停止せず、安全を確認しない
で進行したというように、停止せず安全を確認しないこと自体について過失が存す
ることを要する。このことは同法七〇条(安全運転の義務)違反の罪についても同
様である。
 原判決が維持し第一審判決が認定した事実によれば、被告人の安全運転の義務違
反についていかなる過失が存したか確定されていない。被告人の運転する車両と被
告人の後から進んできたA運転の車両とが衝突したという事故は被告人もしくはA
の過失によつて発生したものかもしれず、あるいは被告人に安全運転の義務に違反
した行為があつたと仮定すれば、これが右衝突事故発生の原因と考えられないこと
はないけれども(しかし過失により他人の車両〔器物〕を損壊した所為はなんら罪
とならない。)、これをもつて直ちに被告人の右安全運転義務違反が過失によるも
のということはできない。したがつて、なんら過失にあたる事実を確定することな
く被告人に対し過失による安全運転義務違反の罪責を問い道路交通法一一九条二項、
同条一項九号を適用した第一審判決およびこれを維持した原判決は、法律の解釈適
用を誤つた違法があるか、または、理由不備ないし審理不尽の違法があるものとい
わなければならない。
 次に故意か過失かの点はさておき、被告人は他人に危害を及ぼすような速度と方
法によつて運転したものであつたか否かにつき按ずるに、第一審判決および原判決
の前示判示により明らかなように、本件は、被告人が川口市a町方面から同市b町
方面に向かう通称西川口陸橋に接続する幅員九・六メートルの取付道路をb町方面
に向かつて下降しこの取付道路がその南北両側にこれと並行して水平に走る幅員各
六・二メートルの各市街路と合して幅員二二・七メートルの水平道路となつた地点
(第一、二審判決にいう陸橋出口)(別紙図面参照)より二・一メートル前進した
地点において取付道路北側の市街路に進入するため判示にいわゆる一八〇度右折し
ようとしたとき被告人の後方から進行してきた判示A運転の小型四輪貨物自動車と
衝突したという事案である(右取付道路が水平道路と合する地点を第一、二審判決
は交差点と解しているが、右の地点は道路交通法二条五号にいう交差点にあたるも
のとは解せられない。)。しかして、およそ右折しようとする車両の運転者は、そ
の時の道路および交通の状態その他の具体的状況に応じた適切な右折準備態勢に入
つたのちは、特段の事情がないかぎり、後続車があつても、その運転者において交
通法規に従い追突等の事故を回避するよう正しい運転をするであろうことを信頼し
て運転すれば足り、それ以上に周到な後方の安全確認をつくして後続車の追突を避
けるよう配慮すべき注意義務はないものと解するのが相当である(昭和四四年(あ)
第一八三三号同四五年九月二四日第一小法廷判決・刑集二四巻一〇号一三八〇頁参
照)。
 これを本件についてみると、第一審判決の前記判示によれば、本件道路および現
場付近には当時被告人の車とAの車以外に通行する車両はなく、被告人は陸橋出口
より約七∼八〇メートル手前で右折の合図をし、時速約二〇キロメートルに減速し
つつ進行し、陸橋出口から約二・一メートル進入した地点で前示右折を開始したと
いうのであるから、その右折準備態勢に特段の落度はなく、後続車の運転者Aが前
方注視義務を怠りさえしなければ容易に追突等の事故を回避できたものであること
がうかがわれる。
 第一審判決は前記のように弁護人の主張に対する判断として、被告人の車両右側
から中心線までにはほぼ一メートルくらいの間隔があつたと認められ被告人運転の
車両は道路中央線に寄つていなかつたと認めるのが相当であると判示しているが、
本件陸橋取付道路の幅員は約九・六メートル片側約四・八メートルであるのに、被
告人運転の車両の幅員は一・六九五メートルであること、および当時本件道路およ
び現場付近(第一、二審判決のいわゆる交差点内)には被告人運転の車両およびA
運転の車両以外の車両は存在しなかつたという当時の本件道路および交通の状況に
徴すれば、仮に被告人運転の車両は道路の中央線に寄つていたものといえないとし
ても、後続のAに前記義務違反さえなければ本件衝突は発生しなかつたものと解せ
られるから、右衝突につき被告人を非難することはできない。
 してみれば、本件において、被告人が他人に危害を及ぼすような速度と方法で本
件車両を運転したというためには、本件当時被告人に後続車両との衝突を避けるた
め特に後方の安全を確認すべき義務を負わせるのを相当とするような特段の事情が
存したのに被告人が後方の安全を確認しないで本件行動に出たというような何人に
おいても衝突事故発生の危険を感ずる状況の存することが必要である。しかるに、
第一審判決およびこれを維持した原判決は、本件当時被告人に後方確認の義務を負
わせるのを相当とするような特別の事情の存否については何ら確定していないので
あるから、原判決にはこの点においても審理不尽の違法があるといわなければなら
ない。
 なお本件事故の場所が交差点ではないとし、被告人の本件所為は正確には右折で
はなく、道路交通法二五条の二にいう転回にあたるとしても、右の結論に差異を来
さない。何となれば右に転回するときの合図の方法およびその時期は右折の時と同
じである(道路交通法施行令二一条参照)からである。
 原判決には以上の各違法があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するもの
と認め刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため同
法四一三条本文により本件を原審である東京高等裁判所に差し戻すこととし、裁判
官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官鹽野宣慶 公判出席
  昭和四六年一〇月一四日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
<記載内容は末尾1添付>

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