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平成27年1月28日判決言渡
平成26年(行ケ)第10152号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成26年11月25日
判決
原告株式会社ユニバーサル農場
訴訟代理人弁護士・弁理士浜田治雄
被告特許庁長官
指定代理人高野和行
同土井敬子
同堀内仁子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2013-15303号事件について平成26年5月13日にした
審決を取り消す。
第2前提となる事実
1特許庁における手続の経緯等
(1)株式会社ユニバーサルパテントビュローは,平成24年5月30日,「湘南
二宮オリーブ」の文字を標準文字で表してなり,第3類,第25類,第29類及び
第30類に属する願書に記載のとおりの商品を指定商品とする商標(以下「本願商
標」という。)の登録出願(商願2012-43423号)をした(甲12)。
(2)株式会社ユニバーサルパテントビュローは,平成24年11月14日付け及
び同月15日付け手続補正書により本願商標の指定商品を補正し,その後,同社か
ら本願に係る商標登録出願により生じた権利を承継した原告は,平成24年11月
29日付けで出願人名義変更届を提出し,平成25年2月25日付けの手続補正書
により,本願商標の指定商品を補正し,本願商標の指定商品は,最終的には,第2
9類「湘南地方二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル」と補正された
(甲12,18,20,22,23,25,弁論の全趣旨)。
(3)原告は,平成25年4月30日付けで拒絶査定を受けたため,同年8月7日,
これに対する不服の審判を請求し,特許庁は,不服2013-15303号事件と
して審理した結果,平成26年5月13日,「本件審判の請求は,成り立たない。」
との審決をし,同月23日,その謄本を原告に送達した。
2審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しに記載のとおりであり,要するに,本願商標は,
商標法3条1項3号に該当し,自他商品識別標識としての機能を果たし得ないから,
登録を受けることができない,というものである。
第3原告主張の取消事由
1「二宮町」の町名は,全国に,神奈川県中郡二宮町,栃木県芳賀郡二宮町,
千葉県千葉郡二宮町,神戸市中央区二宮町と複数あり,それぞれの地域が町名とし
て知られており,地域と一体となって産地機能を発揮する。神奈川県の湘南は良く
知られているが,平塚,大磯,国府津,小田原などは知名度があるものの,二宮は,
今回のオリーブ生産が報道されるまで無名に近い存在であり,したがって,「湘南二
宮オリーブ」として,需要者に出所誤認のない生産地域の認識を与える機能がある。
このことは,地名と商品名との結合が商標としての登録性を備えるものとして登録
された,「日光味噌」,「しょうなんりんご」,「音羽米」「鎌倉山納豆」,「はこだてわ
いん」の登録例からも裏付けられる。
審決は,地名と商品名との組合せにより,商標の自他商品識別性や出所表示機能
を生じる市場の特異性の認識を欠落したまま,判断を行ったものである。
2かつてのアナログ文化時代と異なり,デジタル時代では,商標の存在がウェ
ブを介して知られ,話題性に優れた商品の存在は,瞬く間に需要者に周知ないし著
名なものとなることは,証するまでもなく,もはや社会通念である。「湘南二宮オリ
ーブ」は,特異な存在としてマスコミに地域活性化のモデルとして紹介されており
(甲1~4,10,11,30ないし38),審決の判断は,現代市場で展開されて
いる実情についての認識を誤ったものである。
第4被告の反論
1本願商標は,「湘南地方の神奈川県中郡二宮町」を認識させる「湘南二宮」の
文字と,「オリーブオイル」の原材料であることが広く知られている「オリーブ」の
文字を組み合わせてなるものである。これを「オリーブオイル」に使用した場合,
食用油に含まれる「オリーブオイル」の分野において,商品の原材料及びその産地
を表す表示は,商品の品質等を表す際に一般に使用されているという実情(乙16
ないし21)を踏まえると,取引者,需要者に「湘南地方の神奈川県中郡二宮町で
栽培されたオリーブを原材料とするオリーブオイル」であることを理解させるもの
である。
また,国内のオリーブは国産オイル需要の伸びや手軽な耕作放棄地対策として栽
培面積が増えている中で,神奈川県二宮町がオリーブ栽培による農業再生に乗り出
して,その事業を推進していることを考慮すると,本願商標は,オリーブオイルの
原材料,品質を表示するものとして将来,広く使用され得るものである。
そうすると,本願商標は,その指定商品「湘南地方二宮町産のオリーブを原材料
とするオリーブオイル」に使用された場合,単に商品の原材料,品質を表示したも
のと認識されるから,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないも
のであり,商標法3条1項3号に該当するとした審決の認定,判断に誤りはない。
なお,原告が示した過去の登録例は,その指定商品や,商標の構成や文字種等に
おいて本願商標と相違するものであるし,過去の登録例の存在をもって,本願商標
についての商標法3条1項3号該当性の判断が拘束されるものではない。
2原告は,本願商標が報道や広告により,周知・著名な状態になったと主張し
ているが,原告の提出する証拠をもって,商標法3条1項3号に該当する本願商標
「湘南二宮オリーブ」が,その指定商品「湘南地方二宮町産のオリーブを原材料と
するオリーブオイル」について使用された結果,我が国の需要者間において,原告
の業務に係る商品であることを認識することができるほどに広く知られるに至り,
自他商品の識別標識としての機能を発揮し,識別性を獲得していたものとみること
はできない。
第5当裁判所の判断
1商標法3条1項3号は,「その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,用
途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若しくは生産若しくは使用の方法若し
くは時期・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は,商
標登録を受けることができない旨規定している。その趣旨は,このような商標は,
商品の産地,販売地その他の特定を表示記述する標章であって,取引に際し必要適
切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使
用を認めるのを公益上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章
であって,多くの場合自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないも
のであることから,商標登録の要件を欠くとされているものである(最高裁昭和5
3年(行ツ)第129号同54年4月10日第三小法廷判決参照)。
2そこで,本願商標の商標法3条1項3号該当性について検討する。
(1)本願商標は,「湘南二宮オリーブ」の文字を標準文字で表してなり,その指定
商品は「湘南地方二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル」である。「湘
南」は,神奈川県南部の,三浦半島から伊豆半島に至る相模湾沿岸地域の意味を有
する語として,広く知られていること(乙2の1・2),湘南地方内の特定の地域を
表すために「湘南」の文字と湘南地方に位置する地名を組み合わせて表示すること
も多く行われており(乙3ないし7),同地方内の神奈川県中郡にある「二宮町」を
表すものとして,「湘南二宮」との表示も多く使用されていること(甲30,31,
乙9ないし14)からすれば,本願商標のうち「湘南二宮」の部分は,「湘南地方の
二宮町」を表したものと理解される。
また,本願商標のうち「オリーブ」の部分は,指定商品を含むオリーブオイルと
の関係では,果実の「オリーブ」であることを意味し,オリーブオイルの原材料を
表したもの,と広く理解される語である。
以上の事実に加えて,オリーブオイルを含む食用油の分野では,他の多くの食品
分野と同様に,その原材料がどのようなものであるかについての需要者の関心が高
く,食用油の原材料や原材料の産地を,商品名の一部としたり,商品説明に記載し
ているという取引の実情が認められること(乙16ないし21,弁論の全趣旨)か
らすれば,本願商標である「湘南二宮オリーブ」を指定商品に使用しても,取引者
及び需要者は,本願商標の表示は「湘南二宮産のオリーブ」を意味し,当該指定商
品が「湘南地方の二宮町産のオリーブを原材料とするオリーブオイル」であること
を表したにすぎないものと理解するのが自然である。
したがって,本願商標は,その指定商品との関係では,商標法3条1項3号所定
の「商品の・・品質,原材料・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみから
なる商標」に該当するというべきである。
(2)原告は,二宮は今回のオリーブ生産が報道されるまで無名に近い存在であり,
「湘南二宮オリーブ」という地名と商品名との組合せにより,自他商品識別性や出
所表示機能が生じる旨主張する。
しかし,「二宮町」が広く知られた町名ではないとしても,上記(1)のとおり,
「湘南」という語が,神奈川県南部の相模湾沿岸地域を意味する語として広く知ら
れ,湘南地方内の特定の地域を表すために「湘南」の文字に続けて地名を組み合わ
せて表示することが多く行われていることからすれば,「湘南二宮」は,「湘南地方
内の二宮」という地域を意味するものと理解される。また,二宮町がオリーブの生
産地として現に知られていなかったとしても,前記のとおりの商標法3条1項3号
の趣旨からすれば,本願商標が,これに接した取引者及び需要者をして,「湘南二宮
産のオリーブ」を意味するものと理解され,したがって,指定商品を含むオリーブ
オイルの品質,原材料を表示するものであると認識され得る表示である以上,現に
産地として知られていなかったかどうかは上記(1)の判断を左右するものではない
し,証拠(甲1ないし4)によれば,二宮町におけるオリーブの生産は原告が始め
たものであるものの,本件審決時には,原告以外の同町の農家も多数栽培を開始し
て,二宮町がオリーブを同町の特産物とし,商品化をめざしているとの報道がされ
ていることが認められるのであり,「湘南地方二宮町産のオリーブを原材料とするオ
リーブオイル」の品質,原材料を表示するものと認識され得る本願商標を原告に独
占使用させることが相当であるとも認められない。
なお,原告は,地名と商品名の結合したものが商標として登録された例があるこ
とを挙げるが,各商標についての取引の実情や登録に至る経緯は不明であり,これ
らの登録例があるからといって,上記判断が左右されるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がなく,採用することができない。
3商標法3条2項は,同条1項3号に該当する商標であっても,使用された結
果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものについ
ては,商標登録を受けることができる旨を規定している。原告は,本願商標が需要
者に周知ないし著名である旨主張しており,同条2項該当性をいうものと解される。
しかし,原告が本願商標の報道等がされた例として挙げる証拠のうち,甲1ない
し4及び甲32ないし34の各新聞報道等は,いずれも,二宮町におけるオリーブ
の栽培開始やこれを「湘南オリーブ」としてブランド化を目指すことなどを紹介す
るもので,そもそも「湘南二宮オリーブ」という語が使用されているものではない
し,甲35は,本件審決後の新聞報道であるから,商標法3条2項該当性を判断す
る資料とならない。また,その他の証拠(甲10,11,30,31)によれば,
①「カナロコ」というインターネット上の神奈川県のコミュニティーサイトに,原
告が二宮産エキストラヴァージンオイル「湘南二宮オリーブ」の販売を始めたこと
が掲載されていること(甲10),②二宮町観光協会のホームページに,「湘南二宮
オリーブ」という表示と原告の商品とを並べた写真が掲載されており(甲11),「二
宮町議会だより」にも,原告の紹介記事とともに同様の写真が掲載されたこと(甲
30),③二宮町商工会の「湘南にのみやおみやげ&グルメマップ」に,原告が製
造するオリーブオイルが「湘南二宮オリーブ」として紹介されていること(甲31)
が認められるが,これらのインターネットサイトのアクセス数及び紙面の配布枚数
やこれらの周知程度については不明であり,上記①ないし③をもって,本願商標が
使用された結果,需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することがで
きるものとなっているとまでは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
原告は,現代市場では,話題性に優れた商品の存在は,ウェブを介して瞬く間に
需要者に周知ないし著名なものとなることはもはや社会通念であり,証するまでも
ない旨主張する。しかし,前記のとおり,「湘南二宮オリーブ」という名称の原告の
製品(オリーブオイル)自体がテレビや新聞報道で取り上げられたものではないし,
インターネットが普及しても,情報の拡散の程度が異なるのは当然であり,すべて
の情報が需要者の間で広く周知となるものとは認められないから,原告の主張は採
用することができない。
4以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,審決に取り消され
るべき違法はない。よって,本件請求は理由がないから,これを棄却することとし
て,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官設樂一
裁判官大寄麻代
裁判官平田晃史

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