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平成14年(行ケ)第56号 特許取消決定取消請求事件(平成14年6月5日口
頭弁論終結)
          判         決
       原      告   旭硝子株式会社
       訴訟代理人弁理士   三   好   秀   和
       同          岩   崎   幸   邦
       同      中   村   友   之
       被      告   特許庁長官 及 川 耕 造
       指定代理人      安   藤   勝   治
       同          中   田       誠
       同          高   木       進
       同          宮   川   久   成
          主         文
      特許庁が異議2000-71533号事件について平成13年12月
11日にした決定を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   主文と同旨
 2 被告
   原告の請求を棄却する。
   訴訟費用は原告の負担とする。
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、名称を「アタッチメント付き複層ガラス」とする特許第29633
41号発明(平成6年7月7日出願、国内優先権主張日・平成5年7月7日、平成
11年8月6日設定登録。以下「本件発明」という。)の特許権者である。
   その後、本件特許につき特許異議の申立てがされ、同申立ては、異議200
0-71533号事件として特許庁に係属した。原告は、平成12年9月26日、
本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求
の範囲及び発明の詳細な説明の記載の訂正(以下「本件訂正」という。)の請求を
した。特許庁は、上記事件につき審理した結果、平成13年12月11日、「訂正
を認める。特許第2963341号の請求項1~3に係る特許を取り消す。」との
決定(以下「本件決定」という。)をし、その謄本は、平成14年1月5日、原告
に送達された。
 2 本件発明の要旨(本件訂正後のもの。以下、【請求項1】~【請求項3】の
発明を、それぞれ「本件発明1」~「本件発明3」という。)
  【請求項1】複層ガラスの周縁部を包囲できる断面コ字状を呈するチャンネル
状の補強材と、該補強材の複層ガラスに相対する内側面に一体的に設けた内部軟質
材と、複層ガラス用サッシと係合する外側面の一部に一体的に設けた外部軟質材
と、からなり、上記補強材を主材とするグレージング用のアタッチメントを複層ガ
ラスの周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラス。
  【請求項2】前記外部軟質材には、複層ガラス用サッシの取付け開口部の先端
縁に係止される係止部が備えられている請求項1記載のアタッチメント付き複層ガ
ラス。
  【請求項3】前記内部軟質材及び外部軟質材は、ショアA硬度が60~70°の塩
化ビニル樹脂またはショアA硬度が60~70°のアクリル樹脂からなる請求項1また
は2に記載のアタッチメント付き複層ガラス。
 3 本件決定の理由
   本件決定は、別添決定謄本写しのとおり、本件訂正は、本件明細書の明りょ
うでない記載の釈明に当たるとしてこれを認め、本件発明1及び2は、実願昭56
-195195号(実開昭58-101981号)のマイクロフィルム(甲第4号
証、以下「刊行物1」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができ
たものであり、本件発明3は、刊行物1及び「建築材料ハンドブック 初版」83
6~839頁(株式会社朝倉書店昭和44年4月15日発行、以下「刊行物2」と
いう。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件
発明1~3の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法
113条2号に該当し、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116
号)附則14条の規定に基づく、特許法の一部を改正する法律の施行に伴う経過措
置を定める政令(平成7年政令第205号)4条2項により、取り消されるべきも
のであるとした。
第3 原告主張の決定取消事由
   本件決定中、「1.手続の経緯」及び「2.訂正の適否についての判断」は認め
る。「3.特許異議の申立てについての判断」中、「(1)本件発明」は認め、その余は
争う。
 1 本件決定は、刊行物1に「ビードB付き複層ガラス」が記載されているとの
誤った認定をしたため、本件発明と刊行物1記載の発明の一致点の認定を誤ったも
のであるから(取消事由)、取消しを免れない。
 2 取消事由(一致点の認定の誤り)
  (1) 本件決定は、刊行物1(甲第4号証)について、「第4図には、『ビード
Bの軟鉄17より内側の圧接片15が複層ガラス板10の表面に当接し、軟鉄17
より外側の溝形本体16のフランジ16aが複層ガラス取付用の外枠11の溝12
内周面と当接して、ビードB付き複層ガラスが外枠11の溝12内に嵌め込まれて
おり、また、ビードBの溝形本体16のフランジ16aの上縁には外方に向く鍔が
備えられ、該鍔は外枠11の開口内周面11aに係止されていること。』が示され
ている。」(決定謄本4頁17行目~22行目)とした上、「刊行物1には、『複
層ガラス10の端面から両表面端縁に巻き付けるようにして複層ガラス10の端部
へ外嵌させるビードBは、軟質塩ビ樹脂により構成した圧接片15と溝形本体16
と、その溝形本体16内に挿入した軟鉄17からなり、さらに、該溝形本体16の
上縁には外方に向き複層ガラス取付用の外枠11の開口内周面11aに係止される
鍔を備えたものであり、軟鉄17より内側の圧接片15が複層ガラス10の表面に
当接し、軟鉄17より外側の溝形本体16のフランジ16aが外枠11の溝12内
周面と当接するビードBを、複層ガラス10の端部へ外嵌したビードB付き複層ガ
ラス。』という発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されているものと認
める。」(同23行目~32行目)、「本件発明1と刊行物1発明は、『複層ガラ
スの周縁部を包囲できる断面コ字状を呈するチャンネル状の補強材と、該補強材の
複層ガラスに相対する内側面に一体的に設けた内部軟質材と、複層ガラス用サッシ
と係合する外側面に一体的に設けた外部軟質材と、からなるグレージング用のアタ
ッチメントを複層ガラスの周縁部に被着したアタッチメント付き複層ガラス。』で
ある点で一致」(同5頁27行目~32行目)すると認定している。
  (2) しかしながら、「ビードB付き複層ガラス」については、刊行物1の明細
書及び図面に明確な記載はない。刊行物1発明は、考案の名称及び実用新案登録請
求の範囲の記載に「ビード」と記載されているように、「ビード」の考案であっ
て、上記第4図は、「ビード」が組み立てられた状態の実施例の断面図を示すもの
であり、「ビード」の考案を説明するための補助的意味を持つにすぎない。したが
って、刊行物1の明細書に「ビードB付き複層ガラス」の記載がない以上、第4図
のみをもって、刊行物1に「ビードB付き複層ガラス」が記載されているとする本
件決定の認定は、誤りである。
  (3) これに対して、本件発明は、複層ガラスのサッシ框への取付け組立てを容
易かつ確実に安定的に行うための「アタッチメント付き複層ガラス」の発明であ
り、「ビード」に関する発明ではない。刊行物1には、「ビード」に関する発明が
記載されているだけであって、本件発明の「アタッチメント付き複層ガラス」は記
載されていない。
  (4) 本件決定は、上記のとおり、「ビードB付き複層ガラス」が刊行物1に記
載されていると認定し、これを前提に、本件発明が特許法29条2項の規定に違反
して特許されたと判断しているのであるから、上記一致点の認定の誤りは、本件決
定の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
第4 被告の主張
   原告の主張は、争わない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由(一致点の認定の誤り)について
   本件決定が、刊行物1に「アタッチメント付き複層ガラス」が記載されてい
るとの誤った認定をした結果、本件発明と刊行物1記載の発明が「アタッチメント
付き複層ガラス」において一致するとの誤った一致点の認定をしたことについて、
被告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。そうすると、本件決
定の上記一致点の認定の誤りが本件決定の結論に影響を及ぼすことは明らかである
から、本件決定は取消しを免れない。
 2 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき
行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所第13民事部
            裁判長裁判官   篠   原   勝   美
               裁判官   岡   本       岳
               裁判官   長   沢   幸   男

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