弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役四月に処する。
     但し本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     原審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣旨は末尾添附の弁護人清水昌三名義の控訴趣意書と題する書面に記
載の通りである。これに対して次の様に判断する。
 論旨第一点に対して。
 原判示挙示の証拠によると原判示事実即ち被告人が同判示の年月日場所で同判示
のAから同判示目的趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら同判示の
金額二〇、〇〇〇円の小切手(原判示中に支払人Bとあるは支払人株式会社C銀行
D支店の誤記と認む)一通の供与を受けたことを認めるに十分であつて、更にまた
被告人はその二日後頃に供与者であるAがその嫌疑で検挙されたことを聞知し右小
切手を肩書自宅の竃で焼却したことが認められる。而して公職選挙法第二二四条に
同法第二二一条第一項第四号の収受した利益は没収する、全部又は一部を没収する
ことができないときはその価額を追徴するとあるは一旦授受された利益又はその価
額は常に国庫に帰属せしめ受供与者に犯罪による不正の利益を保持せしめないこと
を目的とするものであるところ、小切手は振出人が支払人に宛て受取人に対し小切
手記載の金額を支払うことを委託する文言を有する証券で、受取人の支払人或は振
出人に対する小切手金額の支払請求権を化体した有価証券であるが、その実質的価
値は右債務者の資力支払意思その他の事情によつて種々異るものであつて、その価
<要旨>格は必ずしも小切手金額と一致するものではない。しかも前記の様に受供与
者(受取人)である被告人が原判示金額二〇、〇〇〇円の小切手を焼却した
ときは最早小切手上の請求権は消滅し、爾後被告人は供与を受けた右小切手による
不正の利益を保持しているものではなく、寧ろ右小切手焼却によりその利益は供与
者である振出人のAに帰したものということができるから、被告人から右小切手の
価額を追徴することを得ないものと解するのが相当である。従つて小切手は全部之
を没収することができないので公職選挙法第二二四条によりその価額として金二
〇、〇〇〇円を追徴するものとした原判決は法令の適用を誤つたものである。而し
て右の誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点において原判決は
量刑の不当を主張する他の論旨に対する判断をまつまでもなく破棄を免れない。論
旨は理由がある。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 久礼田益喜 判事 武田軍治 判事 江里口清雄)

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