弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     原審及び当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人間狩昭の控訴趣意第二点について。
 本件につき原審がその審理に引続き直ちに判決の宣告をしていることが記録上明
らかであり、従つて右宣告は判決原本の作成前になされたいわゆる即決裁判であつ
たものと推認されることは所論のとおりである。しかしながら、判決の宣告には必
ずしも所論のように判決原本がすでに作成せられていることを要するものでもな
く、従つてまた即決裁判を以て違法であるということもできない。所論の刑事訴訟
規則第三五条第二項及び第五三条は、その文体において口語と文語の差こそあれ、
それぞれ旧刑事訴訟法第五一条第二項及び第六六条と同一であり、両者その趣旨を
異にするものとはいえないのであつて、右規則第三五条第二項及び旧刑事訴訟法第
五一条第二項によれば、判決の宣告には主文の朗読と同時に理由の要旨を告げるを
以て足ると規定しているだけであり、しかも有罪の判決書は審理をした裁判官にお
いてこれを作成すべく(規則第五四条旧刑訴第六七条)それには被告人の氏名年令
その他(規則第五六条旧刑訴第六九条)のほか理由として少くとも罪となるべき事
実証拠及び法令の適用を示し(新刑訴第四四条第三三五条旧刑訴第四九条第三六〇
条)裁判官において署名押印(規則第五五条旧刑訴第六八条)することを要件とし
ているにかかわらず同項が朗読は単にその主文のみで足るとしている点よりこれを
推すときは、朗読すべき主文は完成された判決書に記載されたそれであることを必
要とせず何らかの書面に有形的に表示せられていることを以て足るものと解すべき
であり、また同規則第五三条は裁判をするには裁判書を作らねばならない旨規定し
ているだけであつてその裁判書が裁判前に作成されることを要求するものではな
い。右の結論は公判裁判官が判決書に署名することのできない場合を予定した同規
則第五五条旧刑事訴訟法第六八条及び特に判決書の作成年月日の記載を要求する同
規則第五八条旧刑事訴訟法第七一条の規定からしてもこれを推察するに難くないの
である。そもそも、公判の審理に続いて直ちに判決の宣告することを禁ずる規定は
わが国の法規にはこれを発見することができないのであつて、判決はその宣告する
ところと判決書の記載するところとに相違なからしめるためには宣告が判決原本の
朗続によつてなされ<要旨>るのが望ましいけれども、このことを右の場合に望むこ
とは殆んど不可能であるから、裁判書の完成なくして判決の宣告をなし得る
ものとしたものと解すべく、裁判の迅速を強調する新憲法第三七条新刑事訴訟法第
一条及び同規則第一条の施行後においては特に右解釈を妥当とするのであつて、所
論のように新刑事訴訟法施行によつて却つてこれが禁止せられたと解するは誤りで
ある。また、判決は公判に現われた資料に基いてすべきことはわが刑事訴訟法の採
用する口頭弁論主義の当然の帰結であり所論の弊害は他に匡正の途が存するから、
審理の後公判期日外において重ねて訴訟記録を閲覧した上でなければ判決ができな
いとする論旨もまた採用することができない。
 同第一点について。
 量刑に関する所論に鑑み記録を調査すると、被告人に対する原審の科刑がいささ
か重すぎると認められるので刑事訴訟法第三九七条第三八一条第四〇〇条に則り原
判決を破棄し改めて原審認定の事実にその挙示した各法条を適用して主文のように
判決をする。
 (裁判長判事 梶田幸治 判事 神戸敬太郎 判事 井関照夫)

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