弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1請求の趣旨
被告は,以下の工事を行ってはならない。
(1)施工者の名称
名古屋市
(2)都市計画事業の種類及び名称
名古屋年間計画道路事業3・5・118号池内猪高線
(3)事業地
名古屋市千種区a町b丁目c番を起点とし,同区d町字ef番のgを終点
とする,延長752メートル,幅員15メートルから20.1メートルの道
路(以下「本件道路」という)。
2本案前の答弁
主文同旨
3本案の答弁
(1)原告らの請求を棄却する。
(2)訴訟費用は原告らの負担とする。
第2事案の概要等
本件は,原告らが被告に対し,景観権,人格権,所有権,通行権及び被告と
住民代表との間の強行着工をしないという約束に基づき,本件道路工事の差止
めを求めた事案である。
1争いのない事実等
(1)愛知県知事は,平成5年9月3日,都市計画法59条1項に基づき,名
古屋市に対し,名古屋市千種区a町b丁目c番から同区d町字ef番gまで
の区間の一部高架式の道路の設置を内容とする別紙事業目録1の都市計画事
業の認可(以下「本件事業認可」といい,この認可に係る都市計画事業を
「本件道路事業」という)をし,これを告示した(乙3,37の1~9,。
38,39。本件事業認可は,昭和21年に決定され,平成4年7月30)
日に変更された3・5・118号池内猪高線に関する都市計画を基礎とする
ものである(乙1,2。)
その後,愛知県知事は,平成12年3月24日,平成14年3月22日及
び平成18年3月31日の3回にわたって,都市計画法63条1項に基づき,
名古屋市に対し,別紙事業目録2ないし4のとおり,本件道路事業に係る計
画事業変更の認可をし,これらを告示した(乙40の1~13,41,42,
43の1~13,44,45,46の1~21,47,48。別紙事業目)
録2,4に係る計画事業の変更では,本件道路の設計の一部が変更されたが,
本件道路の延長,幅員,車線の数,構造形式などの基本的な設計の変更はさ
れていない。
(2)原告らは,いずれも本件道路事業の事業地内にある別紙原告目録記載の
各住居地に居住する者である。
(3)被告は,平成15年10月29日,本件道路事業に係る本件道路工事に
着工した。
(4)原告らは,平成17年6月22日,本件訴えを提起した。
2原告らの主張
(1)本件地域
ア本件地域の特徴
本件道路工事がされる区域は,A寺を中心に広がる地域である。A寺北
側には,東山給水塔を中心に公園がある。A寺を境に南には地下鉄覚王山
駅に通じる表参道があり,北には裏参道ともいうべき四観音道(市道25
7号線)があり,南北に通じている。四観音道には,Bといわれる由緒あ
る寺院があり,西側には,Cが存在する。この南北の道路の東側,西側と
も急な坂となっている。
イ町並み・緑地
A寺参道には,黒塀が美しく並ぶ古い町並みがあり,黒塀の奥に松が配
されている。さらに,Bに通じる通路には,原告らの各家々の庭などに植
えられた多くの樹木,Bの樹木が目立ち,比較的狭い道路は緑のトンネル
のような構造になっている。西側の急峻な崖は,自動車の通行を遮断して
いる上,緑地が目立ち,竹藪,巨木なども存在する。そして,人々の住宅
もそれに調和するように設計されている。今なお,カブトムシや,アブラ
ゼミが生息し,うぐいす,めじろ,みそさざえ,ひよどり,きじばと,え
なが,ひなが,こげら等,多くの野鳥たちがこの地域にやってきている。
ウ道路など
この地域は東山給水塔を中心とした公園,A寺の広大な境内地が存在す
るため道路の存在密度は低くなっている。さらに,表参道,A寺,四観音
道の道路西側は急峻な崖地となっており,自動車道路の発達を阻害してい
る。
その結果,これらの区域では生活道路が発達し,編み目のような道路網
の中に1階又は2階の低層住宅が存在する構造になっている。特に,本件
道路予定地A寺高台西側は崖になっているため車両の通行が遮断され,別
世界のような静かな空間を作っている。
生活道路は人々が徒歩,自転車などによって利用され,地域住民のコミ
ュニケーションの場として利用されるため,一般に町並みを構成する各家
屋内のプライベートな空間と連続性を持つ。こうした,生活空間としての
町並みがこの地域の重要な特徴である。
エ小括
こうした起伏に富んだ地形に発達した低層の町並み,歴史的文化財や豊
かな緑地の存在がこの地域の特徴であり,名古屋市街地近くにありながら,
きわめて豊かな住環境を形成するまれな地域となっている。
(2)本件道路工事
ア本件道路は,名古屋市千種区a町b丁目c番を起点とし,同区d町字e
f番のgを終点とする,延長752メートル,幅員15メートルから20.
1メートルの道路である。
本件道路付近の土地はA寺東の高台を中心に東西に急な坂となっており,
とりわけ西側の斜面が急で,崖地であるといってもよい。そのため,高台
西側は高架式とされ,現在,橋台1基,橋脚4基の工事が行われている。
本件道路面の従来の地面からの最大高さは,上部橋台部分で約8.7メー
トル,さらにその上に防護壁及び防音壁が数メートルの高さにわたって取
り付けられることになる。なお,高架式になったといってもその勾配は6.
2パーセントと急なものとなる。
イまた,本件道路が高架式になるため,A寺からBまでの間の四観音道は,
本件道路と水平交差する部分では,現在より,約1メートルもかさ上げさ
れなければならなくなる。その結果,四観音道のB側の取り付け部の勾配
は約12パーセントにもなる。
その結果,灰色の巨大なコンクリート塊である本件道路は,その周辺地
域,殊に四観音道に沿った住居地を東西に水平的に分断し,さらにA寺高
台から西に向かってのびた高見側の谷の区域を斜めに垂直的にそして東西
に水平的に分断して,今後,半永久的に低層住宅地の目の前の中空にそび
え立つことになる。
(3)景観権侵害
ア景観権
景観権とはその生活空間の中で良好な景観利益を享受する権利である。
ここに「景観」とは,人間が地表のあるまとまった地域をトータルに捉え
た認識像である。景観利益として認識される具体的利益としては,眺望的
利益,日照,歴史的モニュメントとの精神的連続性,地域コミュニティー
の統一性と連続性というものを含む。ここには,眺望的景観のほか,位置,
地形,生態系,鳥の声や虫の音,水や風の流れ,歴史・文化・信仰・教育
・レクリエーションなどが構成要素として含まれる。景観利益はこれらの
ものの積み重ねによる人格的利益であり,景観とはこうした利益全体の統
合的指標である。したがって,景観が破壊されるということは単に物の外
観が侵害されたということではなく,こうした人々の人格的利益が侵害さ
れたことを意味する。
そして,良い町並みは良好な生活空間となり,これを形成するのは良い
土地利用であるから,町並み景観は人格権的な性質とともに,財産権的な
性質を持つ。
そして,いかなる行為が景観権に対する侵害として違法性を有するかは,
被害の内容及び程度,地域性,被告の態度,法令違反の有無,被害回避可
能性等,諸般の事情を総合考慮して検討すべきであるが,当該開発行為が
地域の景観構造の重大な部分を侵害して,当該景観の同一性を失わせるよ
うな行為は人格権,財産権の侵害行為となり,違法であるといわなければ
ならない。また,景観的利益は地域のコミュニティーにかかわる利益であ
るため,当該開発行為に対する情報公開,意思決定過程への住民参加の有
無などもあわせて検討されるべきである。
イ四観音道に沿った住居地について
四観音道に沿った住居地とは,A寺からB,さらにa町に抜ける道路を
中心とした区域である。四観音道は古くから存在する低層住宅が続き,各
家には大きな樹木が植えられている。Bにも大きな樹木が存在する。こう
した樹木は比較的狭い道路を覆い,縁豊かな町並みを形成している。A寺,
Bなどの文化財の存在はこの地域の歴史的,文化的性質を特徴づけている。
四観音道南方向は表参道を通じて覚王山駅に通じ,人々の通学,通勤,買
い物などに利用されている。北方向はaプール,千種区の生涯学習センタ
ーに通じ,日常的に利用されている。
本件道路により,表参道から四観音道に通じる連続線が分断され原告ら
とA寺及びA寺参道との連続性が失われる。また,現計画道路は,四観音
道の途中,DからBの間で,現在の四観音道より1メートルも高い地点で
水平交差する。したがって,水平交差するためには,約12パーセントの
急な勾配の盛り土された不自然な道路が必要になり裏参道としてのさらに
は生活道路としての機能が果たせなくなる。近くにはB等の文化遺産があ
り,特に毎月21日のA寺の弘法縁日ともなれば,多くの年配の参拝者が
Bに訪れるが,そのような住民の文化的活動も不可能となってしまう。
。。原告E(以下「原告E」という)は,親の代からこの区域に居住する
原告Eは,本件道路と四観音道が従来より1メートル程高い標高で平面交
差することになる地点の北東直近に居住する。すなわち,原告Eの家は,
南側を本件道路によって,西側を従来より1メートル程高くなる四観音道
によって,囲まれた形になる。しかも,原告Eの家の南側は本件道路によ
って削られることとなる。したがって,原告Eは,本件道路が,この区域
の固有性と客観的連続性を欠き,四観音道(裏参道)を物理的に水平的に
分断することにより,この区域の連続した町並み景観,すなわち,この区
域を破壊しこのような文化景観をも破壊してしまうという不利益を直接的
に被る。
ウ高見側の谷区域について
高見側の谷区域とは,本件道路中,A寺高台から西に向かってのびた区
域である。この区域の原告らの低層住宅地では,2階建ての戸建て住居が
中心であり,しかも敷地規模もおおむね統一されていて,一戸建て建物敷
地として平均的な大きさである。この区域はやはりBと接しており,Bに
通じる通路は深い緑に覆われ美しい。この美しい景観も人々が日常的に植
木を大切にし,Bという文化財にふさわしい町並み形成に努力してきたか
らである。
しかるに,本件道路の高架橋は,2個の橋台の間に6個の橋脚を有する
構造になっているが,勾配6.2パーセント,高架橋長159.3メート
ル(構造センター上,高架部分幅員9.9メートル,側道を含めると2)
0.1メートル,本件道路面の従来の地面からの最大高さは上部橋台部分
で約8.7メートル,さらに,その上に防護壁及び防音壁が取り付けられ
ることになる。それはコンクリート壁となる巨大構築物が低層住宅地の目
の前の中空にそびえ立つものである。本件道路は,巨大な灰色のコンクリ
ート壁がそびえるがごとき形態と相まって,付近の景観とは著しく異なる。
すなわち,それは灰色の直線的構造物として存在することにより,この区
域の柔らかい起伏に富む緑おおき自然景観とは全く相容れない。また,本
件道路は,長年かけて原告らが培ってきた低層住宅の美しい町並み景観を
切り裂くが如く存在し,低層住宅地が提供するゆとりのある落ち着いた空
間とは全く相容れない存在であり,この区域の町並み景観を違法に破壊し
ていることは疑いの余地がない。本件道路は,高見側の谷区域の固有性を
違法に破壊するだけのものとして存在する。
例えば,原告F(以下「原告F」という)は,高見側の谷区域の北側。
斜面に25年ほど前から妻である原告G(以下「原告G」という)及び。
3人の子供達と居住する。3人の子供達はここで育ち,近くのH小学校に
通った。原告Fは,従来高見側の谷北側斜面で,起伏に富む緑濃きこの区
域の景観を満喫してきた。原告Fの家からは,東側上方に四観音道越しに
この地域の文化的ランドマークであるA寺の緑色の屋根を望むことができ
る。ところが,本件道路が完成すると,高架橋長159.3メートルで標
高差約10メートル,高架部分幅員9.9メートル,側道を含めると20.
1メートルの灰色のコンクリートの固まりが原告Fの家からほんの数十メ
ートル距離を隔てただけで,2階を越えた高さを東西に直線的に斜めに横
切って四観音道に至る。その結果,原告Fは,この地域の文化的ランドマ
ークであるA寺の緑色の屋根を望むことも出来なくなり,かつ,本件道路
建設によるこの区域の町並み景観破壊の不利益を直接的に被ることになる。
(4)日照権侵害
ア本件道路が建設される地域は,第二種住居地域であるが,本件道路の建
設により,四観音道地区で生活する住民には看過し得ない重大な被害が発
生する。
四観音道地区は,域内の住民や行政の努力等により,実際は低層の住宅
地域として機能してきたもので,そしてそのために原告らは十分な日照を
享受してきたことを考慮すると,この地区が建築基準法上第2種住居地域
であるからといって,杓子定規的に地上4メートルの高さの日照を検討す
るのは相当でない。これまで自助努力等により充分な日照を受けてきたこ
とにも照らすと,地上零メートルを基準とした日照被害を算定・検討すべ
きであって,そしてこの基準によれば,原告らの日照被害は甚大である。
イ原告F及び原告Gの日照被害
原告Fは,妻である原告Gとともに,原告G所有の土地の上に所在する,
両名共有の建物に居住している。原告F所有の土地の南側部分には,最近
まで何らの建物も存在せず,日照被害を受けたことは全くなかった。また,
住居の南側には,庭が広がり良好な日照環境を享受してきた。
しかし,もし本件道路が完成すると,冬至における地上零メートルの高
さにおいて,原告F及び原告G宅の南側中央部分においては,午前8時か
ら午後4時まで,日照時間が零になってしまう。また,立春においても,
午前8時から午後4時までの間に,3時間24分も日影になってしまう。
ウ原告Iの日照侵害
原告I(以下「原告I」という)は,家族とともに,同人所有の土地。
の上に所在する,同人所有の建物に居住している。この土地の南側部分に
は,最近では何らの建物も存在せず,日照被害を受けたことは全くなかっ
た。また,原告I宅の南側にも緑が豊富な庭が広がり,良好な日照環境を
享受してきた。
しかし,もし本件道路が完成すると,冬至における地上零メートルの高
さにおいて,原告I宅の南側中央部分においては,午前8時から午後4時
まで,日照時間が零になってしまう。また,立春においても午前8時から
午後4時までの間に3時間14分も日影になってしまう。
(5)眺望,圧迫感
本件道路が建設されると,特に高見側の谷区域の原告らにとって,絶壁の
ように本件道路が立ちふさがり,その圧迫感は強烈なものである。眺望も著
しく阻害される。
(6)所有権など財産権侵害
ア振動による石垣・崖崩れの危険
原告J(以下「原告J」という)所有の住居の擁壁には,すでに大き。
なひび割れが生じている。これは,本件道路工事開始後行われた場所打ち
杭施工等によって生じたものである。本件道路工事の振動の大きさ,道路
と擁壁の距離,鉄筋の入っていないブロック塀等を考慮すると,本件道路
工事が続行されれば,同家の擁壁が崩落することは明らかである。原告J
宅の隣家の石垣はすでに一部崩落を始めており,とても危険な状態にある。
また,近隣住民の生命・身体の安全にも,とても重大な危険が生じている。
この事態は,原告Jに対する明確な所有権侵害であるから,この所有権
侵害に基づく物権的妨害排除請求権として本件道路工事の差止めを求める。
イ通行権の制限
本件道路が建設されれば,四観音道(市道257号線)と平面交差する
形になる。市道257号線は,a町方面から覚王山の駅前に通じる抜け道
として,従来から交通量が多いところであり,また,近隣住民の通行にも
よく利用されている重要な道路である。
しかし,被告側からの説明によると,本件道路を市道257号線と平面
交差させるために,市道257号線を約1メートル底上げする予定である
という。もしそれが実現すれば,市道257号線は,今まで以上に急勾配
となり,歩行者にとって歩行が困難になり,自転車の使用者にとっても多
大な不利益が生ずる。また,計画によれば,市道257号線と本件道路が
交差する地点には,信号を作ることが予定されていないため,本件道路を
横切ることが困難となり,本件道路上に極めてひどい交通渋滞が発生する
ことが予想される。したがって,本件道路を利用する原告らに極めて重大
な不利益が生じることになる。この事態は,原告Eをはじめとする四観音
道に沿った住宅地に居住する原告らの明確な通行権侵害であるから,通行
権侵害に基づく物権的妨害排除請求権として,本件道路工事の差止めを求
める。
さらに,交通渋滞の発生によって,自動車の排気ガスが交差点付近に充
満することになり,近隣住民の健康にとって極めて大きな影響が出ること
が考えられる。
また,原告Kは,本件道路が建設されると,今まで使用できた,L小学
校の裏に通じる小道を使用できなくなり,これも明確な通行権侵害であり,
物権的妨害排除請求権が発生する。
ウ財産権侵害
(ア)原告Eについて
本件道路が建築されると,原告Eの住居南側に道路の一部がかかるこ
とになり,住居の一部を壊さざるをえないことになる。しかも,被告側
の説明によると,原告Eの住居について全部収用の予定はなく,本件道
路と原告Eの住居が重なるごくわずかな部分についての収用が予定され
ているだけであり,原告Eの損害を填補することはできない。
また,原告Eの住居は,昭和13年に建築されたものであり,かなり
老朽化か進んでおり,住居全体を北側に移動させようとしても崩壊して
しまう可能性が高く,収用部分を埋め合わせることは不可能である。
さらに,本件道路と平面交差させるために,原告Eの住居西側の道路
を,原告Eの住居前の基準点で約1メートル底上げするという説明を被
告側から受けており,もしそれが実現すると,原告Eは,玄関からの出
入りが不可能になり,また駐車場の使用も不可能となるため,家として
の機能を果たすことができなくなる。それだけでなく,原告Eの住居は
すでに東側が斜面で塞がれているため,本件道路が建設されると南側を
本件道路で,西側を底上げされた市道257号線で塞がれることになり,
ちょうどすり鉢の底に住居が存在するような状態となり,看過すること
ができない損害が生じる。
この事態も,明確な所有権侵害であるから,原告Eの所有権侵害に基
づく物権的妨害排除請求権として本件道路工事の差止めを求める。
(イ)原告M及び原告Nについて
本件道路が建設されると,原告M及び原告N(以下あわせて「原告M
ら」という)の住居東側に約1メートル底上げされた道路が出現する。
ため,車庫から車を出すことが不可能となり,極めて重大な損害が生ず
る。また,本件道路の建設予定地が,原告Mらの敷地の一部に重なるた
め,所有権侵害ともなる。
この事態も,明確な所有権侵害であり,原告Mらの所有権侵害に基づ
く物権的妨害排除請求権として本件道路工事の差止めを求める。
(ウ)本件道路工事自体の危険性
本件道路工事は,何ら周囲に囲い等の措置は採らずに行われているた
め,近隣の特に子供やお年寄りにとってとても危険な状態のまま行われ
ている。これは,建築基準法施行令136条の2の18違反であるか,
同条の予定する工事と同程度に危険なものとして,同条が類推されるべ
きである。
(7)大気汚染などの公害被害
ア本件道路における自動車交通量,大型車混入率など大気汚染物質排出量
の算出や道路からの拡散状況を示す基礎となる資料は一切明らかにされて
いないにもかかわらず,被告は,条例により環境影響評価を行わないと開
きなおっている。
イしかし,本件道路は,名古屋市内中心部の大動脈である名古屋長久手線
のバイパスにあたり,交通量も多く,大型車の通行もかなりの割合で予測
される。
また,本件地域は,地形的に,大気汚染物質が滞留する構造となってい
る。すなわち,本件道路は,北側を山,南側を高台とマンションに囲まれ
た谷底の上を高架方式により建設されるものである。したがって,道路上
で発生した大気汚染物質の逃げ道はなく,原告らの生活空間に間断なく降
り注ぐ構造となっている。
とりわけ,本件道路上に新しく建設される信号付近において大量に発生
する大気汚染物質は深刻である。すなわち,本件道路上に新たに設けられ
る信号交差点は,東西の通過交通に地元生活者が絶え間なく進入してくる
構造となっており,日中は常に渋滞することは必至である。この渋滞時の
自動車から排出される大量の大気汚染物質のほとんど全てが原告らの生活
空間に滞留するのである。
ウまた,原告らの生活領域は,高齢者等の健康弱者が多いにもかかわらず,
以上のような本件道路から発生する大量の大気汚染物質が滞留した空気の
中で生活しなければならない。このような健康弱者からすれば,本件道路
により健康・身体,生命の危険が生じることは明白である。
エさらに,本件地域は環境劣悪な大都市にあって,なかでも大気汚染の深
刻な千種区内にありながら,これまでは大量の自動車が走行する道路がな
かったために比較的良好な大気環境を守ってくることができた。しかし,
本件道路が建設され供用開始されることにより,大量の大気汚染物質が排
出され,その空気の中で生活しなければならなくなる原告らの健康,身体,
生命が危険にさらされることは明白である。
オ以上のとおり,本件道路の建設により,原告らの健康,生命が明白な危
険に晒される蓋然性が極めて高いにもかかわらず,被告は,環境影響評価
など一切行わず本件道路の建設を強行しようとしている。
(8)住民が納得するプロセスを欠いていること
ア住民無視の道路建設の経緯
平成3年7月17日の事業計画説明会においては,名古屋市の一般住民
への説明が行われたが,その内容は極めて形式的な,中身のないものであ
った。また,この説明会は,平日の午後2時から午後4時という社会人で
はほとんど参加することが困難な時間に開かれたが,この日時に行うこと
は,住民側との相談もなく一方的に決められ,その説明も一切しなかった
上,本件道路の図面を送って欲しいという要望にも応じなかった。
平成3年12月18日の事業計画説明会においては,騒音,排気ガス,
環境問題という,住民にとって極めて重要な質問がなされたにもかかわら
ず,終始曖昧な説明に終わった。その一方で,騒音などの調査も全く終わ
っていない段階であるにもかかわらず,本件道路を建設することに対する
強い決意が述べられた。要するに,被告としては,騒音や排気ガスの値が
どれだけになろうが,また,住民がどれだけ反対しようが,道路建設をや
める気は全くないのであって,住民の意思を尊重しようという気は全くな
かったのである。
平成11年までは,用地買収される者を対象とした説明会しか行ってい
ない点にも,住民の意思を尊重しようとしない被告の態度が現れている。
イ住民との合意
原告らが多くの運動を展開した結果,被告の態度も若干ではあるが軟化
し,平成15年6月8日の被告と原告ら近隣住民との協議会では,名古屋
市緑政土木局から原告ら近隣住民らの対案に対する回答が示された。この
集会に参加した名古屋市緑政土木局職員5名,市議6名,県議2名,住民
代表10名の間で工事の強行着工をしないことが約束された。ここにいう
「強行」というのは,住民の対案の妥当性,公害防止対策などの実現可能
性などの協議が十分行われるまでは着工しないという意味である。
この会議を受けて住民の側において,代替案の検討を開始し,平成15
年8月ころ,住民側のプランに基づいて,被告との協議を開始した。その
後も,住民側は妥協案を模索し,同年10月19日には第2次案も提案し
た。被告は,こうした協議の最中である同月29日,突然,本件道路工事
を強行した。これは上記合意に違反するものである。
ウ代替案の検討不足
上記のとおり,強行着工をしないという約束がなされたのが平成15年
6月8日であり,住民側の代替案が提示されたのは同年8月であるにもか
かわらず,被告はわずか2か月後の同年10月29日に工事を強行した。
エ環境アセスメント
環境アセスメントについても,被告の態度は,高圧的で,住民側に全く
配慮していない。
環境アセスメントを求める住民の声に対して,被告担当者は「この道路
は名古屋市の条例では環境アセスメントの対象とはなりません。条例の対
象となるのは,4車線で1キロメートル以上の場合です」と形式的な返。
事しかしていない。
オ住民に対する説明が二転三転したこと
被告の説明は,平成3年には,原告O宅前が1.1メートル下がり,市
道257号線は,変更なしという説明であったが,平成12年には,O宅
前が10センチメートル下がり,市道257号線との交差部分が1.6メ
ートル上がる,平成14年には,O宅前が60センチメートル下がり,市
道257号線との交差部分が1メートル上がるという説明に順次変わった。
これらは,計画がずさんであることを示すとともに,被告が一方的に計
画をどんどん変更していったことを示す。
(9)都市計画及び都市計画事業認可の違法性
ア都市計画事業の認可に関する都市計画法の規定の趣旨及び目的,これら
の規定が都市計画事業の認可の制度を通して保護しようとしている利益の
内容及び性質等を考慮すれば,同法は,これらの規定を通じて,都市の健
全な発展と秩序ある整備を図るなどの公益的見地から都市計画施設の整備
に関する事業を規制するとともに,騒音,振動等によって健康又は生活環
境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,
そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護
すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当である(最高裁平成17年
12月7日大法廷判決・民集59巻10号2645頁。)
したがって,都市計画が違法,又は都市計画事業の認可が違法であると
きには,単に,公益的な見地からの問題が生ずるだけではなく,個々の住
民の個別的利益の保護が十分になされていないこととなり,それらに基づ
く本件道路工事自体も,違法性を帯びる。
イ都市計画事業認可の違法性
都市計画法は,事業認可の要件の一つとして事業施行期間が適切である
ことを掲げている(同法61条1号。)
本件道路については,これまでに3回にわたり名古屋市長から認可申請
があり,愛知県知事により,①平成5年9月3日に平成12年3月31日
まで,②平成12年3月24日に平成14年3月31日まで,③平成14
年3月22日に平成18年3月31日まで,事業施行期間を認可している。
この多数回の延伸の理由は,都市計画法60条3項2号の定める「設計の
概要を表示する図書」が平成5年度の申請時のものと大きく違うことを含
め,工事の見通しが極めて杜撰であることにより,事業施行期間について
の判断が不適切かつ無責任であったためである。工事の見通しのなさは,
一例として,設計の概要を表示する図書に見られるように,市道257号
線との取り付けの詳細が二転三転していることに現れている。
この点は,橋脚の本数において一目瞭然である。県の以前の担当者の説
明によると,1回目の図書は橋脚が4本で,2回目は橋脚が3本であった。
そして,現在は橋脚が6本となっている。現在の時点でも工事に必要な土
地の取得が完了していない状態であることを考えると,3度の認可はすべ
て,適切な事業施行期間が定められていなかったことは明らかである。
都市計画事業につき,上記のように事業施行期間をさらに延伸すること
は,当初の事業認可自体が,もともと事業施行期間の設定に合理性がなく,
「事業施行期間が適切であること」を認可の要件と規定している都市計画
法第61条1号に違反していたこと,及び,その後の本件道路事業の事業
計画変更の認可自体も,同条の定める「事業の内容が都市計画に適合し,
かつ事業施行期間が適切であること」という要件を欠くこと,また,過去
10数年間における本件道路事業の進捗状況に照らせば,今後さらに3年
間,施行期間を延長しても,その期間内に本件道路事業が完了するという
保証も全くないことなどから,違法なものであり,当該事業に対し認可を
下すことは到底許されるべきものではない。
延伸を重ねることは,補助金の観点から鑑みても国に対して不利益を与
えることとなる。かような工事に県として認可を与えることは,都市計画
法61条に適合しないことは明らかである。
以上より,本件道路の事業認可は,都市計画法61条の要件を充たして
いないことは明らかであり,本件道路の事業認可は違法である。
ウ都市計画の違法性
(ア)本件道路建設は,原告らに甚大な被害を与える高架式により実施し
ようとするものであり,環境面,費用面,工期,耐震性,騒音,日照,
電波障害,景観など,あらゆる点で優れた代替案である地下式を全く理
由もなく不採用とした点で,事業方式の選定として明らかに違法である。
(イ)本件では,環境アセスメントが一切なされていない。
名古屋市環境影響評価条例の施行規則別表第1(2条関係)において
は,道路のうち「車線の数が4以上であり,かつ,長さが1キロメート
ル以上であるもの」に限定して,環境影響評価の対象としているが,条
例が事業対象として単に「道路」としているにもかかわらず,このよう
な厳格な限定を課するのは条例の委任を超えた違法なものである。
したがって,本件についても環境影響評価をすべきであり,それをし
てない点にも,違法性がある。
(10)よって,原告らは,被告に対し,景観権,人格権,所有権,通行権及び
被告と住民代表との間の強行着工をしないという約束に基づき,本件道路工
事の差止めを求める。
(11)被告の本案前の主張に対する反論
ア本件道路工事の性質と司法上の救済
原告らは景観権,人格権,所有権などを主張して本件道路工事の差止め
を求めるものである。被侵害利益は景観権などの利益であり,侵害行為は
道路工事である。道路工事自体の法的性格は事実行為であって行政行為で
ないことは明らかである。
行政事件訴訟法は,行政行為によって法的利益が侵害された場合に救済
措置を定めている。行政事件訴訟法は,抗告訴訟,当事者訴訟などの類型
を定めているが,いずれも行政行為が違法であるために何らかの利益が侵
害される場合をいう。そこでは当然のことながら事実行為による侵害行為
とは区別されている。事実行為による侵害行為に対しては当然のことなが
ら民事上の救済手段が与えられるべきである。
仮に本件のような道路建設という事実行為に対する権利侵害行為に対し
て民事上の救済手段が与えられないとなれば,原告らとしては行政事件訴
訟法上の救済を求めることになるが,事実行為に対する救済措置は,行政
事件訴訟法は定めていない。そのような場合には,結局原告らはいかなる
司法的救済をも得られない結果となり,憲法が国民に保障した裁判を受け
る権利を侵害することになる。
イ法律上の要件について
行政事件にあっては違法な行政行為によって個人の利益が侵害された場
合に当該行政行為の取消し,あるいは差止め,確認その他によって救済が
図られる。
ところで,都市計画法61条が定める都市計画事業の要件は次のとおり
である。
①認可の申請手続きが法令に違反しないこと。
②事業内容が都市計画に適合すること。
③事業施行期間が適切であること。
④事業施行に必要な許認可取得の確実性
本件道路事業が違法であるというためには①から④の要件を満たさない
ことが必要である。
その一方で,本件における被侵害利益は景観権,所有権などであるから,
被告の侵害行為によって本件道路事業が違法になるかどうかは直ちに判断
できない。
被告は,本件訴えが不適法というのであれば,景観権侵害などが本件道
路の事業認可の違法となることを示す必要がある。
当該計画が景観など公共的利益を侵害する場合に違法になり得ると原告
らは考えているが,この点で重なり得るとしても景観的利益を破壊する結
果,行政処分としての事業認可処分が違法になる場合と,それが建設行為
の差止めを認めるだけの違法になるという場合とは判断の性質も,考量さ
れる利益も異なる。行政上の違法が,直ちに民事上の違法となるわけでは
ないし,民事上の違法が直ちに行政上の違法となるわけではない。
特に,土地所有権侵害について,事業認可処分の性質から事業者が当該
事業地の土地所有権を取得しているかどうかは,事業認可処分の違法性に
影響しない。そうだとすると,当該処分を所有権侵害を理由に取消しを求
めるということは困難というべきである。あるいは,工事を行うとしてい
る事実が処分の違法性を根拠づけるというのであれば,処分行為以降の事
情によって処分の違法性が左右される結果となり不合理である。極端なこ
とをいえば,本件道路事業の事業地全部の土地所有権を取得しないまま事
業者が建設工事を進めようとした場合,当該土地所有者に対しては当然に
民事的妨害排除請求権は認められなければ,土地所有者の権利は救済され
ない。
要するに,人格権,所有権侵害に基づく妨害排除の問題と,事業認可処
分の取消し,無効などの問題とは紛争としては全く別である。それぞれ違
法となる要件,原告の利益が守られるための当該訴訟物に含まれる違法性
の程度も異なるのである。
ウ差止めと事業認可の効力
本件は建設工事の差止めを求めるものであるが,原告らが勝訴した場合,
被告に生じる義務は建設工事の差止めである。建設工事の差止めのために
いかなる意味でも権力的な行為の発動は必要ではない。仮に,被告敗訴の
結果,被告に生じる義務が何らかの権力的行為を必然的に求めるものであ
れば,別の考慮も必要であろうが,本件では建設工事という事実行為の差
止めを求めるにすぎず,被告に対して何らかの行政行為の発動を求めるこ
とはない。
この点でも,事実行為の差止めに対して民事上の救済を許さないという
のは不合理であることがわかる。
ところで,本件では事業認可の対象となった全工事の差止めを求めてい
るが,そのこと自体が事業認可の効力そのものを失わせるのと同じ結果と
なると主張する。しかし,これは事業認可処分の効力について誤った認識
に基づくものである。
事業認可処分そのものは,建設工事の実施を保証したものではない。事
業者は事業認可を得ても事業予定地に対して所有権などの何らかの権限を
取得しなければ建設工事を進めることはできない,あるいは,事業認可処
分には「事業施行に必要な許認可取得の確実性」という要件があるが,事
業認可処分があっても「事業施行に必要な許認可」が無ければ建設工事を
することはできない。被告の論法によれば「事業施行に必要な許認可」,
を争う場合にはそれが取り消されれば工事を行うことができない結果,当
該事業認可処分の効力そのものを失わせる結果となり,事業認可処分の公
定力が失われない限り「事業施行に必要な許認可」を争えないというこ,
とになる。
実際,人格権,所有権侵害により本件道路工事が差し止められた場合,
確かに,事業認可が予定した事業の実施はできないが,事業認可処分の効
力は依然失われない。被告が敗訴しても,被告が何らかの努力を行い,侵
害の事実が失われれば事業認可処分の効力は維持されているのであるから
工事を実施することができる。例えば,被害者に対して全て移転を保障す
るとか,所有権を完全に取得するとか,工事を実施する方法はいくらでも
ある。
本件では性急な工事は行わないという原告らと被告との約束も根拠とし
ているが,これも性急な工事を行わないという一時的な拘束を問題にして
おり,事業認可処分,道路の区域決定自体を無意味にするものではない。
エ以上のとおりであるから,被告の本案前の主張は失当である。
3被告の本案前の主張
本件訴えは,民事訴訟において,本件道路工事の全部の差止めを求める訴え
であるが,このような訴えは,結局,本件道路の事業認可の取消し,路線の認
定の廃止など,まさに,本件道路に関する行政処分が有する公定力を取り消す
のと同じ結果を求めるものであるから,本件訴えは不適法である。
第3当裁判所の判断
1被告の本案前の答弁について
ア本件訴えは,本件道路事業の事業地内に居住する原告らが,被告に対し,
景観権,人格権,所有権,通行権及び住民代表と被告との間の強行着工をし
ないという約束に基づき,本件事業認可及びその事業計画変更の認可に係る
本件道路工事の差止めを求めるというものであり,民事訴訟の方法により被
告に対し不作為の給付を求めるものであるが,まず,かかる訴えが民事訴訟
として許容されるものであるか否かにつき検討する。
イ一般的に,抗告訴訟の対象である行政庁の公権力の行使にあたる行為につ
いては,これによって権利ないし法律上の利益を害されたとする者は,損害
賠償請求を別にして,行政事件訴訟法に定める抗告訴訟の方法によってのみ
救済を求めることができ,民事訴訟の方法で救済を求めることは許されない
ものと解される。
そして,この公権力の行使にあたる行為とは,一般的には,行政庁の行為
のすべてを意味するのではなく,平等な権利主体間の水平的関係とは区別さ
れる権力-服従の垂直的関係において,権力行使の権能を有する者が優越的
な意思の主体として相手方の意思のいかんにかかわらず一方的に意思決定を
し,その結果につき相手方の受忍を強制し得るという効果をもつ行為を意味
するが,行政庁によるこのような権力の行使は,法治行政の原理の要求する
ところに従い,法律による特別の授権に基づき,そこで定められた要件を充
足してされなければならないとの拘束を受けるとともに,他面,この権限を
与えられた行政庁が法律の規定に適合すると判断して一定の行為をした場合
には,行政庁の判断は一種の優越的妥当力をもち,私人がその適法性を争い,
当該行為の効果を否定するためには,あたかも裁判に対する上訴と同じよう
に,専らそれを目的とする特別の不服手続によらなければならない。この最
後の特殊の手続的効力ともいうべきものが公定力と呼ばれるものである。
このように,行政救済が民事救済と著しくその性質,内容を異にするのは,
この公権力の行使にあたる行政庁の行為のもつ公定力のためであり,当該行
為にかかる公定力が認められるのはさきに述べた理由によるのであるから,
行政作用としてされる特定の行為がこのような公定力を有する公権力の行使
にあたる行為に該当するかどうかについては,法律が当該行為を当該行政庁
の優越的な意思の発動として行わせ,かつ,私人に対しその結果の受忍を強
制するという意味で公法上の受忍義務ともいうべき一般的拘束を課すること
としているかどうか,このような意思の発動を適法化するための要件を定め,
行政庁がこの要件の充足の有無を判断して行動すべきことを要求しているか
どうかを慎重に吟味して,これを決定しなければならない。
ウそこで,以下,上記の観点から,都市計画事業の認可等につき検討する。
(ア)都市計画法は,同法の定めるところにより同法59条の規定による認
可等を受けて行われる都市計画施設の整備に関する事業等を都市計画事業
と規定する(同法4条15項。)
同法は,都市計画事業を土地収用法3条各号の一に規定する事業に該当
するものとみなして,同法の規定を適用することとし(都市計画法69
条,都市計画事業の認可をもって,土地収用法20条の事業の認定に代)
え,また,その告示をもって,同法26条1項の規定による事業の認定の
告示とみなすこととしている(都市計画法70条1項。したがって,都)
市計画事業の認可は,土地収用法上の事業の認定と同一の法律効果を生じ
させるものであり(同法26条4項,市町村は,その告示により,土地)
収用法に基づく収用ないし使用の権限を取得するとともに,その結果とし
て,事業地内の土地所有者等は,特段の事情のない限り,自己の所有地等
が収用ないし使用されるべき地位に立たされることになる。
そして,都市計画法は,土地収用法が定める土地等の収用又は使用によ
る損失の補償(同法第6章)に加え,当該事業の施行に必要な土地等を提
供したため生活の基礎を失うこととなる者について,その受ける補償と相
まって実施されることを必要とする場合,施行者に対し,都市計画法74
条1項各号に掲げる生活再建のための措置の実施のあっせんを申し出るこ
とができ,施行者は,この申出があった場合,事情の許す限り,当該申出
に係る措置を講じるように努めるものとしている(同法74条。)
(イ)また,都市計画法は,都市計画事業の事業内容が都市計画に適合する
ことを認可の基準の一つとしている(同法61条1号。)
都市計画に関する都市計画法の規定をみると,同法は,都市の健全な発
展と秩序ある整備を図り,もって国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進
に寄与することを目的とし(同法1条,都市計画の基本理念の一つとし)
),て,健康で文化的な都市生活を確保すべきことを定めており(同法2条
都市計画の基準に関して,当該都市について公害防止計画が定められてい
るときは都市計画がこれに適合したものでなければならないとし(同法1
3条1項柱書き,都市施設は良好な都市環境を保持するように定めるこ)
ととしている(同項11号(ただし,平成7年法律第14号による改正前
は同項5号。また,同法は,都市計画の案を作成しようとする場合にお))
いて必要があると認められるときは,公聴会の開催等,住民の意見を反映
させるために必要な措置を講ずるものとし(同法16条1項,都市計画)
を決定しようとする旨の公告があったときは,関係市町村の住民及び利害
関係人は,縦覧に供された都市計画の案について意見書を提出することが
できるものとしている(同法17条1項,2項。)
そして,上記の公害防止計画の根拠となる法令である公害対策基本法は,
国民の健康を保護するとともに,生活環境を保全することを目的とし(同
法1条,事業活動その他の人の活動に伴って生ずる相当範囲にわたる大)
気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染,騒音,振動等によって人の健康又は
生活環境に係る被害が生ずることを公害と定義した上で(同法2条,国)
及び地方公共団体が公害の防止に関する施策を策定し,実施する責務を有
),するとし(同法4条,5条,内閣総理大臣が,現に公害が著しく,かつ
公害の防止に関する施策を総合的に講じなければ公害の防止を図ることが
著しく困難であると認められる地域等について,公害防止計画の基本方針
を示して関係都道府県知事にその策定を指示し,これを受けた関係都道府
県知事が公害防止計画を作成して内閣総理大臣の承認を受けるものとして
いる(同法19条(なお,同法は,環境基本法の施行に伴い平成5年1)
1月19日に廃止されたが,新たに制定された環境基本法は,内閣総理大
臣が上記と同様の地域について関係都道府県知事に公害防止計画の策定を
指示し,これを受けた関係都道府県知事が公害防止計画を作成して内閣総
),理大臣の承認を受けなければならないとしている(同法17条。さらに
同条の規定は,平成11年法律第87号及び第160号により改正され,
現在は,環境大臣が同様の指示を行い,これを受けた関係都道府県知事が
公害防止計画を作成し,環境大臣に協議し,その同意を得なければならな
いとしている。。)
公害防止計画に関するこれらの規定は,相当範囲にわたる騒音,振動等
により健康又は生活環境に係る著しい被害が発生するおそれのある地域に
ついて,その発生を防止するために総合的な施策を講ずることを趣旨及び
目的とするものと解される。そして,都市計画法13条1項柱書きが,都
市計画は公害防止計画に適合しなければならない旨を規定していることか
らすれば,都市計画の決定又は変更に当たっては,上記のような公害防止
計画に関する公害対策基本法の規定の趣旨及び目的を踏まえて行われるこ
とが求められるものというべきである。
(ウ)以上の規定の趣旨からすると,法は,都市計画事業の認可又は計画事
業変更の認可について,①当該事業の施行者をして,当該事業活動により
自らの所有地等につき収用ないし使用される者に対し,土地収用法上の損
失の補償のほか,都市計画法上の生活再建のための措置を通じ,その所有
権等や生活利益に係る損失を填補すべきとするのみならず,②当該事業の
認可権者をして,当該事業活動により必然的に生じる第三者の健康又は生
活環境に係る法益侵害について,その可能性の有無及びその程度を考慮し
てその許否の判断をすべきものとし,これによって第三者の健康又は生活
環境に係る利益を可及的に侵害から擁護している。そして,以上の措置に
よっても,なお避け得ざる不利益については,これらの者において受忍す
べき公法上の受忍義務を課しているものと解するのが相当である。したが
って,当該処分の直接の名宛人でない一般第三者もこれら行政処分に当然
附随する規制作用の名宛人として直接規律されるものであって,その意味
において,これら行政処分は,一般第三者に対する関係においても公権力
の行使に当たる行為としての性格を有するものとみるのを相当とする。
なお,このような都市計画事業の認可又は事業計画変更の認可は,特段
の事情がない限り,行政訴訟としての取消訴訟の対象となり,自己の所有
地等が収用ないし使用されるべき地位に立たされる当該事業地内の土地所
有者等のみならず,都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち,
当該事業が実施されることによる健康又は生活環境に係る著しい被害を直
接的に受けるおそれのある者もまた,その取消しを求めるにつき法律上の
利益を有する者として,その取消訴訟における原告適格を有するものと解
される(最高裁平成17年12月7日大法廷判決・民集59巻10号26
45頁参照。)
エ進んで,本件訴えと本件事業認可及びその事業計画変更の認可との関係に
つき検討する。
本件訴えは,本件事業認可及びその事業計画変更の認可に係る本件道路工
事について,一般的な停止を求めるもので,施行者である被告としては,物
的設備の設置等の事実行為を選択する余地はなく,本件道路事業の廃止又は
変更を余儀なくされるものである。そうすると,原告らの請求は,私法上の
請求権の行使という形式をとっているとはいえ,行政訴訟の方法によること
なく,本件道路事業ないしその事業計画変更の認可に対する不服,すなわち,
自らに課された上記公法上の受忍義務に対する不服を内容とするものである。
これは,原告らが本件事業認可やその根拠である都市計画自体の違法性を主
張していることからも見て取れる。
このような争訟は,本件事業認可及びその事業計画変更の適法性を争う訴
訟において,公共の利益の維持と私人の権利擁護との調和を図るという観点
からこれを審理判断するのでなければ,適切な解決をみることはできないと
いうべきであるから,都市計画事業の認可に基づく行政の諸活動のうち,そ
の施行としての建設行為のみを取り上げ,その実施者とそれにより権利侵害
等を主張する私人との間の対等な私法関係として把握して,審理判断を求め
ることは許されないと解するのが相当である。
以上から,本件訴えは,民事訴訟として許容されるものではなく,不適法
であるといわなければならない。
2結論
よって,本件訴えは不適法であるから,これを却下すべきであり,主文のと
おり判決する。
名古屋地方裁判所民事第6部
裁判長裁判官内田計一
裁判官安田大二郎
裁判官高橋貞幹

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