弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役6年に処する。
未決勾留日数中250日をその刑に算入する。
神戸地方検察庁で保管中のカッターナイフ1本(平成18年領第968号
符号3),簡易ライター1個(同号符号4)及びカラーうすめ液1本(同号符号
5)を没収する。
理由
(犯罪事実)
被告人は,父の病気の介護や持病の心臓病などから自己の境遇に対する不満を募
らせ,これを晴らすため
第1【平成18年10月31日付け起訴状記載公訴事実】
神戸市a区b通c丁目d番所在のAら合計140世帯が現に住居に使用し,
かつ,Bら多数人が現にいる神戸市所有のC住宅D号棟(鉄筋コンクリート造14
階建て,延床面積8235平方メートル)8階エレベーターホールに駐輪中の原動
機付自転車に放火しようと企て,平成18年2月27日午前1時40分ころ,上記
エレベーターホールにおいて,上記原動機付自転車に放った火が,上記エレベータ
ーホールの壁,天井,床等に燃え移るかもしれないと認識しながら,あえて,上記
原動機付自転車座席シート上に丸めたティッシュペーパーを置き,これに所持して
いた簡易ライター(平成18年領第968号符号4)で点火して火を放った上,上
記座席シート上にライター用オイルを撒き,これにより燃え上がった火を上記原動
機付自転車のガソリンタンク内のガソリンに引火させ,その火を上記エレベーター
ホール及びこれと隣接する階段踊り場の各壁,天井,床等に燃え移らせてこれらを
損傷し(焼損床面積約20平方メートル),もって,現に人が住居に使用し,かつ,
現に人がいる建造物を焼損し
第2【平成18年7月19日付け起訴状記載公訴事実】
Aら合計140世帯が現に住居に使用し,かつ,同人ら多数人が現にいる上
記C住宅のエレベーターに放火しようと企て,同年4月26日午前1時40分ころ,
上記C住宅D号棟内に設置されたエレベーター1号機(間口140センチメートル,
奥行210センチメートル,高さ225センチメートル)内において,同住宅の外
壁修繕工事のため同エレベーター内に張り付けられていたビニール系養生材に,所
持していた上記簡易ライターで点火して火を放ち,その火を上記養生材から同エレ
ベーター内の側壁,床面等に燃え移らせてこれらを損傷し,もって,現に人が住居
に使用し,かつ,現に人がいる建造物を焼損し
第3【平成18年5月19日付け起訴状記載公訴事実】
同年4月30日午前零時ころから同日午前1時5分ころまでの間,上記C住
宅D号棟E号室前通路において,同所に駐輪されていたFが所有する二輪自転車の
サドル上部を,カッターナイフ(同号符号3)で切り裂いた上,揮発性有機溶剤類
を含有するカラーうすめ液(同号符号5)を染み込ませたティッシュペーパーを同
サドルに押し込み,これに所持していた上記簡易ライターで点火して同サドルを焼
損(損害額約3000円相当)し,もって,他人所有の器物を損壊した。
(証拠の標目)(括弧内の数字は,証拠等関係カードの検察官請求証拠の番号を示
す。)
省略
(事実認定に関する補足説明)
第1争点等
弁護人は,判示第1の犯行について,被告人にはエレベーターホールに対す
る延焼の認識はなく,故意に欠けるから,現住建造物等放火罪は成立しない,判示
第2の犯行について,被告人のエレベーターに対する放火行為によって現住建造物
である本件共同住宅に対する延焼の可能性はなく,エレベーターは本件共同住宅の
一部ではなく,独立した器物あるいは非現住建造物として評価することができるこ
とから,現住建造物等放火罪は成立せず,器物損壊罪ないし非現住建造物等放火罪
が成立するにすぎないと主張し,被告人も公判廷においてこれに沿う供述をするの
で,当裁判所が判示のとおり認定した理由を補足説明する。
第2エレベーターホールに対する延焼の認識(判示第1)について
1関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件犯行現場は,エレベーター2基及び非常階段が設置された鉄筋コンク
リート造14階建C住宅D号棟(以下「本件建物」という。)8階にあるエレベー
ターホールであって,面積約14平方メートル,床から天井までの高さが約2.5
メートルの空間である。また,これと隣接して階段室があり,エレベーターホール
から床続きの踊り場の床等にはビニール系養生シートが張られていた。
(2)本件原動機付自転車(以下「本件バイク」という。)とエレベーターホー
ルの壁との間隔は,最短で約23センチメートルであり,本件バイクの座席シート
後部下方にはガソリンタンクがあって,本件犯行当時,約4リットルのガソリンが
入っていた。
(3)被告人は,平成18年2月27日午前1時40分ころ,本件建物8階エレ
ベーターホールに駐輪されていて,約7日前,カッターナイフで切りつけて中のス
ポンジが見える状態にしてあった本件バイクの座席シートの上に丸めたティッシュ
ペーパーを置き,これにライターで点火した上,上記座席シート上にライター用オ
イルを撒き,上記座席シートから炎が上がるのを確認すると,それを放置したまま
同じ階にある自宅に帰った。
その後,その炎は,本件バイクのガソリンタンクに引火・爆発するなどし
て,エレベーターホールの壁,天井,床等に,さらに,エレベーターホールに隣接
する階段踊り場内に張り付けられていたビニール系養生材を経て階段踊り場の壁,
天井,床等にそれぞれ燃え移り,これらが焼損した。
(4)被告人は,ふだんから,近隣の者が使用している本件バイクを目にしてい
た上,本件犯行前からバイクに興味があり,以前,原動機付自転車を運転していた
こともあって,本件バイクの座席シートの下部後方にガソリンタンクが設置されて
いることはもとより,本件バイクの座席シートがビニール製であることや,座席シ
ートの中身がスポンジであること,本件バイクの本体がプラスチック製であること
も知っていた上,本件バイクが日常的に使用され,そのガソリンタンク内にガソリ
ンがあることも予想していた。また,被告人は,ガソリンスタンドに勤務していた
経験から,ガソリンが引火性の高い危険なものであることも認識していた。
(5)本件後,被告人は,本件バイクに対する放火によるエレベーターホール等
の焼損状況を目にしていながら,同年3月6日ころ,本件建物7階エレベーターホ
ールに駐輪中の原動機付自転車の座席シートにライターで点火して火を放ち,同座
席シートを焼損させ,さらに,同年4月15日ころ,本件建物4階エレベーターホ
ールに駐輪中の普通自動二輪車にかぶせられていたビニール系養生シート上に,ラ
イターで点火して火を放ち,同車の前部を焼損させた。
2検討
上記のような被告人の犯行態様,現場の状況及び本件バイクが置かれていた
位置からすれば,被告人が本件バイクの座席シートに放った火が,本件バイク全体
に燃え広がり,さらには,本件バイクのガソリンタンク内のガソリンに引火して,
本件エレベーターホールへと延焼するおそれのあったことは客観的に明らかである。
そして,被告人は,上記のように,本件バイクの材質や構造,特にガソリンタンク
が座席シート付近にあることや,そのガソリンタンク内にガソリンが入っているこ
とを知っていた上,ガソリンが引火性の高い危険なものであることも認識していな
がら,本件バイクの座席シートに放火した後,これを放置したままその場から立ち
去っており,犯行時刻が深夜であって他の住人らに早期に発見されて消火活動が行
われることが見込めなかったこと,被告人が,本件事件の焼損状況を目にしながら,
その後も,本件建物内にある原動機付自転車等に放火するなど本件と同様の危険性
のある行為を繰り返していたことも勘案すると,被告人が捜査段階で供述するよう
に,本件バイクの座席シートに点火すれば,その炎が本件バイクのガソリンタンク
内のガソリンに引火・爆発して,エレベーターホールに燃え広がるかもしれないこ
とは当然認識していたものと認められる。
これに対し,被告人は,公判廷において,原動機付自転車の座席シートだけ
燃えればいいと思っていたなどと供述するが,上記諸情況に符合しない上,被告人
は本件犯行の約7日前に座席シートをカッターナイフで切っており,既に座席シー
トの損壊という目的は達成していたことからすれば,新たに座席シートだけを燃や
す必要はないにもかかわらず,座席シートだけを燃やす理由について合理的な説明
を行っていないこと,捜査段階では一貫してエレベーターホール等への延焼可能性
を認識していたと供述していること,客観的に明らかな自己に不利益な事実につい
てもあいまいな供述に終始する被告人の公判廷における供述態度等に照らせば,信
用することはできない。
第3エレベーターの現住建造物性(判示第2)について
関係証拠によれば,判示第2の事実において,被告人が放火したエレベータ
ーは,鉄筋コンクリート造14階建の市営住宅内の建物内に設置されたものである
が,構造的には,1棟の建物内において住居部分と一体となっており,同建物から
損壊することなく分離することが困難なものである上,機能的にも,建物の入り口
から2階以上の各戸に至るために日常的に使用される設備であることが認められる
ことからすれば,上記エレベーターが上記市営住宅の建物の一部として現住建造物
性を有することは明らかである。
よって,被告人が上記エレベーターに放火し,これを焼損させた行為につい
て,現住建造物等放火罪が成立することは明らかであり,弁護人の主張は採用でき
ない。
(法令の適用)
省略
(被告人の責任能力について)
弁護人は,被告人は,本件各犯行当時,精神的ストレスが極度に高じていたこと
に加え,睡眠薬の服用と飲酒の影響により,心神喪失又は心神耗弱の状態にあった
と主張する。
確かに,被告人の公判供述によれば,本件各犯行当時,脳梗塞の後遺症から日常
生活を送るのも困難な父親の介護や自身の先天的な心臓の病気に関することで相当
なストレスを感じており,また,日ごろから睡眠薬を常用していた上,判示第1の
犯行当時は,飲酒もしていたことは否定できない。
しかしながら,被告人には,その公判供述によっても,本件各犯行当時,睡眠薬
の影響をうかがわせる病的な言動があったとは認められないこと,本件各犯行当時
及びその前後の状況に関する記憶も正確に保持していること,日を置いて犯行を連
続していること,判示第1及び第3の犯行では,放火に際し,ライターのオイルな
どを着火剤として使用するなど,その行動は合目的的であり,不可解な点はないこ
と,自己の不運な境遇,隣人に対する嫉妬,住宅管理者に対する不満などから生じ
たうっぷんを晴らすという犯行動機は十分了解可能であることに照らすと,被告人
が,本件各犯行当時,是非善悪を弁別し,それに従って行動する能力が著しく減退
していなかったことは明らかである。
したがって,弁護人の主張は採用できない。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,(1)自己及び近隣の者らが居住する市営住宅への延焼の可能性
を認識しながら同建物内に駐輪されていた原動機付自転車に放火して,同建物の一
部を焼損させたという現住建造物等放火,(2)同住宅のエレベーターに放火したとい
う現住建造物等放火,(3)同住宅の通路に駐輪されていた自転車のサドルに放火した
という器物損壊の各事案である。
被告人は,判示のとおり,父の病気の介護など自己の境遇に対する不満などを晴
らすため,共同住宅の他の居住者のことを顧みることなく本件各犯行に及んでおり,
その短絡的で自己中心的な動機に酌量の余地はない。犯行態様も,深夜,140世
帯が居住する共同住宅内で,わずか2か月余りの間に立て続けに3回にわたって放
火行為に及ぶものであり,特に判示第1及び第3の各犯行においては,着火剤とし
て石油系の燃料まで使用し,判示第1の犯行においては,ガソリンを抱える原動機
付自転車を対象としており,危険で悪質なものである。結果の点でも,判示第1の
犯行により,直接火を付けた原動機付自転車が丸焼けになったのみならず,本件市
営住宅の8階のエレベーターホール内や階段の踊り場がほぼ全域にわたって被害を
受け,また,判示第2の犯行により,エレベーター1基が焼損し,それらの補修に
要する費用は総額約930万円にのぼる上,判示第1及び第2の犯行により相当量
の有毒ガスも発生したものと考えられ,いずれも犯行時刻が深夜であり,本件市営
住宅の住民の生命・身体を危険にさらしたことは否定できない。同住宅の住民は,
被告人による連続放火のため,いつ自宅が放火されるか分からないという恐怖の中
で不安な日々を送っていたのであり,被告人に対する処罰感情が厳しいのも当然で
ある。加えて,被告人は,公判廷において,不合理な弁解をしており,真しな反省
まではうかがわれない。
これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は重い。
他方で,判示第1及び第2の犯行については,建物の焼損は居住部分には及ばな
かったこと,判示第1の犯行について未必的な故意にとどまるなど,被告人は本来
建物全体に対する延焼までは意図していなかったこと,被害者に対し謝罪文を作成
するなど被告人なりに反省の態度を示していること,被告人には前科前歴がないこ
と,被告人は本件により相当長期間身柄拘束を受けていること,被告人の病状や介
護しなければならない父親の存在など被告人のために酌むべき事情も考慮して,主
文の刑を量定した。
(求刑懲役8年並びにカッターナイフ1本,簡易ライター1個及びカラーうすめ
液1本の各没収)
(検察官山下順平出席)
平成19年4月19日
神戸地方裁判所第4刑事部
裁判長裁判官岡田信
裁判官佐茂剛
裁判官姥迫浩司

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