弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○主文
被告が原告に対し昭和五八年九月二〇日付けでした仮換地指定処分を取消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
○事実
第一当事者の求める裁判
一原告
主文同旨の判決
二被告
「1原告の請求を棄却する。2訴訟費用は原告の負担とする」との判決。
第二当事者の主張
一原告・請求原因
1当事者
原告は、私立学校法に基づく学校法人であり、学校教育法に従い東京都練馬区<地名略>
に日本大学芸術学部および大学院(芸術学研究科(以下、併せて単に芸術学部という))。
を設置している。
原告は、被告が施行している所沢都市計画中富南部土地区画整理事業(以下、本件事業と
いう)の施行地区(以下、本件地区という)の区域内に別紙物件目録従前の宅地欄記。。

の土地(登記簿上一三万七六七八平方メートル、以下、従前地という)を所有する被告。

組合員である。
被告は、埼玉県知事(以下、知事という)が都市計画法に基づいて決定した本件事業の。

行者として、土地区画整理法(以下、法という)に基づき設立された土地区画整理組合。

ある。
被告は、組合員の数が一〇〇人をこえるため、法三六条によつて総代会を設けており、ま
た、本件事業の遂行に係る一切の業務を、大口地権者である日本新都市開発株式会社(以
下、日本新都市開発という)に委託している。。
2本件仮換地指定処分
被告は、昭和五八年九月二〇日、法九八条一項に基づいて、原告所有の従前地一三万七六
七八平方メートルについて街区番号四四符号一の宅地一一万五九七六平方メートル位、、(
置は末尾添付図面のとおり)を仮換地として指定する処分をなし、これを原告に通知した
(以下、本件仮換地指定処分という。。)
3本件仮換地指定処分の違法性
本件仮換地指定処分には次のとおりの違法がある。
(一)本件仮換地指定処分は、本件事業の基本方針である学園住区構想という都市計画
に適合せず、その実現を不可能とするものであるから違法である。その理由は次のとおり
である。
(1)学園住区構想と大学誘致
イ地権者らの土地開発運動
本件地区は、昭和四四年六月一四日新しい都市計画法(昭和四三年法律第一〇〇号)の施
行に伴い市街化調整区域に指定され、市街化が抑制されていた。
ところが、本件地区に山林や畑を所有する地権者の多くは、
本件地区を市街化区域に変更する運動を進めてその開発を計ろうとする強い意欲を持つて
いたことから、昭和四五年一一月、地権者のほぼ全員を構成員とする中富南部一部開発地
権者協議会を結成し(会長はA、埼玉県(以下、県という、所沢市その他関係機関に)。)

し熱心に市街化区域への変更を働きかける運動を続けてきた。
ロ学園住区構想と準備委員会の発足
地元地権者(原告、日本新都市開発を除く本件地区の地権者をいう。以下同じ)らの右。

ような本件地区開発運動に呼応して、所沢市長(以下、市長という)は、昭和五一年八。

頃、本件地区に土地区画整理を施行して、大学を誘致し、学園を中心とした住居区域の開
発という施策(いわゆる「学園住区」構想)を打ち出した。
そこで、本件地区の開発を熱望して運動を進めていた地元地権者らの内Aら二一名は、市
長の提唱する学園住区構想の推進運動を展開するため、昭和五一年八月二六日所沢市中富
南部土地区画整理組合設立準備委員会(以下、準備委員会という)を結成し「市長主。、

の学園住区構想の調査・検討」並びに「土地区画整理組合設立認可申請手続の実施」等を
事業目的に掲げて、積極的に大学誘致運動と土地区画整理組合設立準備を推進してきた。
ハ日本新都市開発の指導
日本新都市開発は、都市開発事業を目的とする会社であるが、早くから本件地区の開発に
着目し、地区内民有地の二分の一近くを買収して大口地権者となり、デベロツパーとして
の知識と経験を生かして地元地権者らに対する指導的役割をつとめ、本件地区開発のリー
ダーシツプをとつてきた。
二学園住区構想の下における大学誘致の進展
原告は、東京都練馬区<地名略>の芸術学部の敷地面積が七三二七坪にすぎず、甚だ狭隘
で、しかも借地であるため、予てから江古田キヤンパスに近い首都圏内の地域で、五万坪
前後の面積のある大学用地を取得し、そこへ芸術学部の大部分を移転しようとする計画を
進めていたところ、昭和五二年二月頃、日本新都市開発から原告に対して、学園住区構想
。、を中心とする市街化計画を進めている本件地区への大学誘致の話が持ち込まれた原告は
日本新都市開発が原告の必要とする最少限度の用地面積四万二〇〇〇坪の確保と土地区画
整理事業の成功を確約したので、これを信頼し、昭和五二年七月八日本件地区への芸術学
部進出の方針を固めた。
そこで、原告は、
同年一一月二九日先ず日本新都市開発と敷地四万二〇〇〇坪確保を中心とする具体的諸条
件を相互に確認し合い、次いで準備委員会とも折衝を進めた結果、同年一二月に至つて原
告・準備委員会・日本新都市開発の三者間に原告の本件地区への進出についての諸条件が
ほぼまとまつた。
ホ三者合意の成立
、、右のような経過を経て原告の芸術学部の本件地区への進出の話し合いがまとまつたので
昭和五二年一二月二六日市長立会の下に、原告・準備委員会・日本新都市開発の三者間に
大要次のとおりの合意(以下、三者合意という)が成立し、合意書が作成された。。
甲原告(理事長B)
乙準備委員会(会長A)
丙日本新都市開発(代表取締役C)
立会人市長D
(一)甲は、乙の本件事業施行予定地区内に実測で四万二〇〇〇坪(一三万八八四三平
方メートル)の土地を確保し、芸術学部を開校する(合意書第一条。)
(二)甲の右土地確保に関しては、乙を中心とする関係地権者全員が原告に対し所要の
土地を譲渡することを前提とするが、甲が本件事業の準備段階から地権者としてこれに参
加することを可能にするため、丙が乙に代つて丙所有の土地四万二〇〇〇坪を国土利用計
画法の手続を経て甲に譲渡する。なお、この土地譲渡に関しては、乙と丙との間で別途協
定書を締結する(合意書第二条。)
(三)乙は、甲が第二条により取得する四万二〇〇〇坪の土地を土地区画整理事業によ
り甲へ集合換地する(合意書第四条。)
(四)甲は、乙が設立を予定している組合が設立されたときは、土地区画整理事業費分
担金として坪当り一万五〇〇〇円、総額六億三〇〇〇万円を右組合に納入する(合意書第
五条。)
(五)乙は、甲の昭和五五年度までの芸術学部開校に支障をきたさないよう、土地区画
整理事業を推進する(合意書第六条。)
(六)乙は、その責任において前記組合設立認可後この合意書に掲げる事項を可及的速
やかに右組合に承継させる(合意書第七条。)
(七)立会人は、この合意書に掲げる事項が円滑かつ確実に実現されるよう、全面的な
指導協力をする(合意書第一〇条。)
へ原告と日本新都市開発間の土地譲渡
三者合意に基づいて、原告は、日本新都市開発との間に昭和五三年三月二七日土地の譲
渡に関する協定を取り結び、
同協定に基づいて日本新都市開発から本件地区内の畑、山林合計一六七筆実測地積一三万
八八四三平方メートル(約四万二〇〇〇坪)につき所有権の移転を受け、同社に対し譲渡
代金総額金二四億七八〇〇万円を全額滞りなく支払い、昭和五六年五月二六日までに登記
手続を完了した。この譲渡を受けた土地が「従前地」である。
(2)市街化区域への変更と都市計画の決定
イ市街化区域への変更決定
昭和五二年一二月二六日の三者合意の成立によつて、原告の芸術学部の本件地区への進出
が確定し、市長の提唱する学園住区構想実現の明るい見通しが立つたことから、本件地区
、、、の市街化区域への変更運動は急速な進展を見せ遂に知事は地権者らの要望にこたえて
昭和五四年四月二四日本件地区の市街化区域への変更を決定し、その告示をした。
ロ都市計画の決定
本件地区の市街化区域への変更が決定されるや、続いて準備委員会と県、所沢市等関係機
関との間の学園住区構想を基本とする都市計画事業決定のための事前協議が活発に行わ
れ、
都市計画法に定められた公聴会、計画案の縦覧、都市計画地方審議会の審議等所要の諸手
続も順調に進み、知事は、昭和五五年九月二四日本件事業の決定、告示をなした。知事が
決定した本件事業の計画書の中には、宅地の整備方針として「大学を含む学園住区構想、

基づき、地区の北東部に大学、中央部南側に地区センター用地(商業ゾーン、その周辺)

集合住宅用地、さらにその外側に独立住宅用地を計画する」と記載され、本件地区内に。

学設置のために必要な用地を確保するということが具体的に定められた。
(3)被告・土地区画整理組合の発足
前記市街化区域への変更決定後、昭和五五年九月二四日、所沢市は、本件地区を「大都市
地域における住宅地等の供給の促進に関する特別措置法」に基づいて「所沢都市計画土地
区画整理促進区域」とする決定をし、これを告示した。
これらの決定を受けて、準備委員会は、法三条二項に基づく特定土地区画整理事業の施行
者となるため、定款及び事業計画を定め、昭和五五年一一月六日、名称を所沢市中富南部
特定土地区画整理組合として、その設立認可を知事に申請し、昭和五六年二月一三日、定
款、事業計画と共に設立認可を受け、ここに知事が決定した本件都市計画事業の施行者と
しての被告が発足した。
被告が知事の認可を受けた前記事業計画は、
前記「宅地の整備方針」に適合するように定められた。すなわち、被告の作成した事業計
画書には「学園住区構想に基づき、大学は地区の北東部に配置し、中央部南側にセンタ、

用地(商業ゾーン、その外側に住宅用地を配置する。住宅用地は地区中央部隣接ゾーン)

集合住宅、その外側に低層住宅を計画し、センターゾーンで学園と住区の共存したコミユ
ニーテイーの発生を促すよう計画する」と記載され、大学用地の確保が具体的に明示さ。

たのである。
(4)原告用地の位置、面積等の特定
、、原告用地四万二〇〇〇坪の換地予定位置は原告が日本新都市開発から譲渡を受けた山林
畑が集中している本件地区の南側道路(若松町中富線)沿いの中央部とするというのが、
右両者及び準備委員会三者間の約束であつた。
ところが、都市計画事業決定のための事前協議の過程で右のような約束は無視され、また
法八九条一項に定める照応の原則にも違反して、原告用地は一方的に北東部の低地に位置
が移動されたまま手続が進められてきた。右北東低地部への移動については、原告は大い
に不満であつたが本件事業が大幅に遅延しているのでこれ以上の遅延を防ぐために三、、(
者合意は、昭和五五年度開校を予定していた、これを事後承諾せざるを得なかつた。。)

くして原告用地は本件地区の北東部に位置する一三万八八四三平方メートル(約四万二〇
〇〇坪)と特定されるに至つた。
(5)被告の原告用地の減歩要請と総代会決議
前述のように、三者合意においては、原告用地約四万二〇〇〇坪は集合換地し、減歩はし
ないという確約がなされ、被告もこの合意を承継して、本件地区北東部の一区画約四万二
〇〇〇坪を原告用地予定地域として本件事業を進めてきた。
ところが、被告は、昭和五六年六月頃から、しきりに原告用地の減歩要請をしてくるよう
になつた。原告としては、原告用地約四万二〇〇〇坪は最少限度の面積であつて、これを
減歩するときは芸術学部移転が不可能となるため、被告の右要請を拒否した。しかるに、
被告は、原告から減歩要請を拒否されるや、右の無減歩の合意を無視して、原告用地の減
歩を強行しようと企て、昭和五六年一二月一四日開催された第二回総代会において、原告
の所有地には約一六・四七パーセント(約六九一七坪)の減歩をする旨、事業の基本方針
を変更する決議をなし、次いで、同月一九日開催された第三回総代会において、
原告用地の減歩とこれに伴う保留地の増加を骨子とする事業計画変更の議決をした。
(6)事業計画の変更認可申請とその認可
被告は、右第三回総代会の議決に従つて知事に対し事業計画の変更認可申請をし、知事は
右変更認可申請にかかる事業計画を公衆の縦覧に供した。そこで、原告は知事に対し、昭
和五七年二月二五日付意見書を提出し、原告用地の減歩は大学設置を不可能とするので、
事業計画の変更は認可されるべきでないことを主張した。これに対し、知事は十分な調査
検討をすること無く、同年三月二五日付で右原告の主張は採択すべきでないと認めた旨原
告に通知するとともに、同日付で右事業計画変更を認可し、同年四月六日付で変更に係る
事項を公告した。
(7)本件事業の基本方針としての学園住区構想
都市計画法は、地方公共団体に対し「健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を、

保」することを基本理念として都市計画を策定すべき責務を課している(同法二条、一五
条。知事は、そうした基本理念を体して、市長が提唱している「学園住区」構想の実現)

都市計画の基本方針として定め、先ず本件地区を市街化調整区域から市街化区域に変更す
ることを決定し、次いで都市計画法一二条第一項に定める市街地開発事業として、法に基
づき本件事業を決定し、宅地の整備方針として「大学を含む学園住区構想に基づき、地、

の北東部に大学、中央部南側に地区センター用地(商業系ゾーン、その周辺に集合住宅)

地、さらにその外側に独立住宅用地を計画する」と決定した。こうした決定に基づいて、
前記のとおり原告用地の位置を本件地区の北東部と定め、約四万二〇〇〇坪の面積を確保
することが事業決定に至るまでの数次の事前協議(準備委員会、県、所沢市三者間)の過
程においてすでに、明らかにされており、被告もその事業計画書の中で、法六条四項に基
づき、本件事業の目的を「所沢市の基本施策である豊かな市民文化を育てる都市づくり、

一環として、所沢市が誘致した日本大学芸術学部を含む学園住区の実現を本件事業の基本
的な目的とし、同時に都市計画街路三路線を含む道路、公園等の公共施設を整備し、計画
的で健全な秩序ある市街地の形成を図るものとする」とうたつている。。
このように、学園住区構想は本件事業の基本方針なのである。
(8)大学用地減歩による移転不能
原告は、大学設置基準に基づいて、
芸術学部を設置するために必要とする最低限の面積を四万二〇〇〇坪と策定し、これが確
保されることが、三者合意によつて確認されたので、本件地区に芸術学部を移転すること
を決定したのである。しかるに被告は、当初の無減歩の合意を無視して、前記のとおり事
、、。業計画を変更し原告用地につき約七〇〇〇坪の減歩を行い本件仮換地指定処分をした
しかも本件仮換地指定処分の対象地の中には、面積にして約三万平方メートルもしくは三
万四五〇〇平方メートルの調整池を設置することが決定されており、原告が大学施設のた
めに使用しうる有効面積は二万五〇〇〇坪を割つて、当初の計画面積の六割にも満たない
ことになる。かくては、原告が計画している芸術学部の移転は全く不可能であつて、原告
としては、本件地区への進出を断念せざるを得ない。
(9)都市計画との不適合
原告が予定していた芸術学部の移転計画が右のとおり実施不能となれば、本件事業の基本
方針である学園住区構想実現が不可能となるのであるが、原告の右移転計画の実施が不能
となつたのは、被告が一方的に事業計画を変更し、原告用地の大幅減歩をしたためである
から、右変更後の事業計画は本件事業の右基本方針に適合しない違法なものであり、この
計画に基づく本件仮換地指定処分も違法である。
(二)本件仮換地指定処分は、被告が原告に確約した無減歩合意に違反して減歩をした
ものであるから違法である。
(1)無減歩合意の成立
昭和五二年一二月二六日、市長立会の下に、原告、準備委員会、日本新都市開発の三者間
に、本件地区内に四万二〇〇〇坪の原告用地を確保し、これを減歩しない旨の三者合意が
成立したことは、前記のとおりである。
(2)被告の合意の承継
被告は、昭和五六年二月一三日設立と同時に、準備委員会から三者合意を承継したうえ、
定款七五条に「この組合は、学校法人日本大学が所有している宅地に対しては前条の規、

を準用することができる」と定めて、原告用地に関し、法九五条の特別の宅地と同様「換
地計画においてその位置、地積等に特別の考慮を払い、換地を定めることができる(定」

七四条参照)ことを明確にしている。
(3)合意違反による違法
三者合意が被告に承継され、定款及び事業計画が組合員に承認されたことによつて、三
者合意は当然に被告を拘束し、原告の承諾がない限り、
たとえ総代会の決議によつても一方的にこれを変更することは許されないというべきであ
る。
しかるに、被告は、一方的に総代会の決議をもつて、原告の所有する従前の土地一三万七
六七八平方メートルから二万一七〇二平方メートルを減歩した一一万五九七六平方メート
ルを仮換地として指定した。
したがつて、本件仮換地指定処分は、被告を拘束する三者合意に違反するもので、明らか
に違法である。
(三)本件事業計画の変更は違法である。
法は総会又は総代会の決議によつて事業計画を変更することを認めているが、これは、公
益的見地から計画の変更が必要であるとか、従来の計画では整理事業の目的達成が困難で
ある等の合理的な変更理由がある場合に限つてこれを認める趣旨であつて、組合員に理由
なく不利益をもたらす変更までも無制限に許すものではない。けだし、法一八条の同意を
した三分の二以上の地権者は、定められた事業計画に基づいて整理事業が遂行されること
を前提にして組合の設立に同意したのであるから、後日無制限に事業計画変更が認められ
るとすれば、右の同意を無意味ならしめるからである。
本件事業計画の変更は、左記のとおり原告の不利益と引き換えに、専ら日本新都市開発の
利益を計る目的に出たものであつて、他に計画を変更しなければならない合理的理由は存
しない。本件変更後の事業計画は、この点からも違法であり、この違法な事業計画に基づ
いてなされた本件仮換地処分も違法である。これを詳述すると、次のとおりである。
(1)はじめに
被告は、事業計画変更は、地元地権者の減歩率を引き下げるための措置であつたと主張し
ている。
しかしながら、被告及び本件事業のリーダーシツプをとつている日本新都市開発が事業計
画を変更しようとする真の狙いは、原告用地を減歩することによつて、還元保留地を新た
に生み出し、これを同社に取得させるところにあり、地元地権者の減歩率を下げることに
あるのではない。現に、後に述べるように、事業計画の変更によつて地元地権者の減歩率
は引き下げられておらず、依然として従前どおりなのである。
(2)事業計画変更の推移
イ被告は、準備委員会時代に二回、組合設立後に三回合計五回にわたつて、次のとおり
事業計画を作成・変更している。
第一次計画
計画書作成日昭和五五年六月
表題所沢都市計画事業中富南部特定土地区画整理事業の概要
作成者準備委員会
第二次計画
計画書作成日昭和五五年九月
表題同前
作成者準備委員会
第三次計画
計画書作成日空欄
表題所沢都市計画事業、中富南部特定土地区画整理事業、事業計画
作成者被告
第四次計画
計画書作成日空欄
表題同前
作成者被告
第五次計画
計画書作成日昭和五六年度
表題事業計画書(変更)
作成者被告
ロ右のうち第一次計画では、原告用地一三万八八四三平方メートルを法九六条の保留地
として処置しようとしているが、第二次計画では、原告用地を法九五条三項の創設換地と
して処理しようとしている。
こうした査留地もしくは創設換地として原告用地を処理する手法をとれば、原告は従前宅
地を所有していなくても用地を取得でき、他方、日本新都市開発は原告に売却した土地を
依然として所有しているものとして換地を受けることができる。この手法は日本新都市開
発にとつては最も好都合であるが、このため不利益を受けるのは、地元地権者である。け
だし、こうした事業計画では平均減歩率が大きくなるのは必然であつて、本件事業におい
ても、減歩率は第一次、第二次計画とも四〇・一四パーセントという高率になつている。
被告が主張するところの「高減歩のため地元地権者から不満が出た」のは、この時点、。

ことであつて、第一次、第二次計画による組合の設立に地元地権者の同意が得られなかつ
たのは当然のことである(なお、仮に第一次或いは第二次計画の手法をとるとすれば、原
告は保留地又は創設換地を先買いしたことになるので、日本新都市開発は原告から支払を
受けた代金を準備委員会に事業資金として引渡すべきである。ところが、日本新都市開発
はこの時点でそうした処理をしていないのであるから、地元地権者から不満が出るのはこ
の点から見ても当然である。そこで被告と日本新都市開発は、第一次、第二次計画を。)

念し、第三次計画を立て地元地権者の同意を求めざるを得なくなつたのである。
ハ第三次計画では、第一次、第二次計画を変更して原告用地を保留地、創設換地からは
ずし、原告用地は、事業施行前後を通して一三万八八四三平方メートルとされている。
こうした正しい手法を取ることによつて、平均減歩率は二二・二三パーセントとなり(原
告が無減歩であるため、原告を除く地権者の減歩率は三〇パーセントとなる、地元地。)

者の不満は大部分解消し、その三分の二以上の同意が得られた。そして、原告もこの第三
次計画に基づく組合設立に同意したのである。
第四次計画は、第三次計画を形式的に整備したもので、内容は第三次計画と変りはない。
知事による被告組合の設立認可は、この第四次計画を基礎にしてなされたのであつて、こ
の時点では、地元地権者は、原告用地の減歩はなく(無減歩の代わりに事業費用として坪
当り一万五〇〇〇円計六億三〇〇〇万円を負担する、原告を除く地権者の減歩率は平。)

三〇パーセントとなることを十分理解し、承認しているのである。
(3)事業計画の変更の目的
ところで、第四次計画仁よつて事業が進行すると、日本新都市開発としては、当然のこと
ながら原告に売却した土地については換地を受けることができなくなる。そこで、日本新
都市開発は、せめて売却した土地の二分の一だけでも換地を受けようと考えて、還元保留
地設定という手法を取ることを企図し、その手段として、次に述べる第二回、第三回の総
代会決議、昭和五七年三月の事業計画変更(第五次計画)がなされたのである。これが事
、。業計画変更の真相であつて地元地権者の減歩率引き下げのためになされたものではない
この点をふえんすると次のとおりである。すなわち、
被告は、昭和五六年一二月一四日第二回総代会を開催して、事業の基本方針を次のとおり
変更する旨の決議をした。
第一点原告の所有地につき約一六・四パーセント(約六九一七坪)の減歩をする。
第二点日本新都市開発が原告用地として立て替えた四万二〇〇〇坪のうち二万一〇〇〇
坪を同社が直接原告に売却したこととし、残り二万一〇〇〇坪を従来のとおりの扱いとす
る。
第三点保留地のうち、原告の減歩分を自主財源に充てる。
次いで、被告は、昭地五六年一二月一九日第三回総代会を開催して事業計画変更を決議し
たが、これによつて地元地権者の減歩率が引き下げられたかどうかを見ると、全くそのよ
うなことは無い。前述の第二回総代会決議によれば、原告用地から減歩した約六九一七坪
はそのまま保留地に繰り入れ、これを自主財源(事業資金)に充てることとしている。右
減歩地積を地元地権者の換地にまわせば、
それだけ全体の減歩率を引き下げることになるが「還元保留地」を確保するため一般保、

地としたのであるから、地元地権者の滅歩率には何らの影響も与えていないのである。こ
のことは、第四次と第五次の事業計画書の減歩率計算表を見ればはつきりしている。すな
わち公共・保留地合算減歩率は、事業計画変更前は二二・二三パーセントであるが、変更
後は二六・二九パーセントとなり平均減歩率はむしろ増加している。これは原告の減歩率
一六・四七パーセントが加わつたからであつて、原告を除く地権者の平均減歩率は依然と
して三〇パーセントである。
こうして見ると、事業計画変更の理由が「地元地権者の減歩率を下げることが必要不可、

となつた」からとする被告の主張は全く根拠のないことであつて「還元保留地」設定が、

業計画変更の主要目的であると見ざるをえないのである。
(四)本件仮換地指定処分には、違法な「還元保留地」を設けることによつて、仮換地
の減歩をもたらした違法がある。
(1)還元保留地の設定
、、被告が昭和五六年一二月一九日総代会の決議によつて変更した事業計画によると被告は
保留地予定地積を当初の四万八七八〇平方メートルから二万〇六四二平方メートル増加し
た六万九四二二平方メートルとしている。この保留地予定地積の増加のため、原告を含む
組合員全員が、減歩負担を強いられたことはいうまでもないところ、右予定地積の内二万
二八二五平方メートルは、事業費用に充てるための本来の保留地であるが、その余の四万
、「」六五九七平方メートルは日本新都市開発に引渡すため換地から除外された還元保留地
と称したもので、本来の保留地ではない。
(2)還元保留地設定の経緯
右のような「還元保留地」なるものが設けられた経緯は、次のとおりである。
原告が日本新都市開発から従前地を買受けたことは前記のとおりであるが、同社は準備委
員会との間に昭和五三年四月一〇日付協定書を取り交し「日本新都市開発が原告に売渡、
した土地は、区画整理事業遂行の中で、準備委員会の責任において同社に売買価格と等価
で還元する」という約束を取り交した。この約束に基づいて被告は、昭和五六年一二月一
四日、第二回総代会において、日本新都市開発が原告に売渡した土地の半分に当る二万一
「」。、、〇〇〇坪を還元保留地の形式で同社に取得させる旨の決議をしたすなわち同社が
現実には原告に売渡した土地のうち半分を従前の土地として所有しているものと仮定し、
それに対する換地相当面積四万六五九七平方メートルを一般換地の対象となる宅地面積か
ら控除して、これを後日同社に取得させるために「還元保留地」と称して保留地予定地積
に繰り入れたのである。
(3)還元保留地設定の違法性
元来、保留地は組合員の減歩負担によつて生み出されるものであるから、法は不当に組合
員の負担を重くすることのないよう、保留地設定については「土地区画整理事業の施行の
費用に充てるため、又は規約若しくは定款で定める目的のため、一定の土地を換地として
定めないで、その土地を保留地として定めることができる(九六条一項)旨特に制限。」

定を設け、被告の定款は七条に「この組合は、事業施行の費用に充てるため、一定の土地
を換地として定めないで、その土地を保留地として定めることができる」と定め、費用充
足のための替費地のみを保留地として認め、これ以外の保留地を認めていない。
したがつて、たとえ準備委員会と日本新都市開発との間に事前の約束があり、また総代会
の決議があつたとしても、本件のごとき「還元保留地」の設定が違法であることは明らか
である。このような違法な「還元保留地」の設定によつて、原告を含む被告の組合員は不
当な減歩を強いられることになつたのであり、こうした減歩を内容とする本件仮換地指定
処分は、この点においで違法である。
(五)本件仮換地指定処分には、仮換地内に広大な調整池を設置することによつて、原
告に著しい不利益をもたらした違法がある。
(1)調整池設置の行政指導
本件事業計画の設定に当たつて、雨水排水計画については、本件地区内に貯水容量九万三
一〇〇立方メートルを確保するための調整池を設置すべき旨の県の行政指導がなされた。
そこで被告は、本件地区内に本調整池(貯水量四万二〇〇〇立方メートル)及び予備調整
池(第四号公園、貯水量一万一〇〇〇立方メートル)を設置するほか、一般換地内にも予
備調整池(貯水量四万〇一〇〇立方メートル)を設置して貯水機能を保持する計画を立て
ている。
(2)原告用地における予備調整池の設置
一般換地内の予備調整池は、当初は県と組合との協議により、地区東側の原告用地の一部
と日本新都市開発が取得する予定の集合換地及び保留地の区域内に設置することが予定さ
れていた。ところが、
本件仮換地指定処分に当つて、被告は、原告用地となる区域のみに四万〇一〇〇立方メー
トルの貯水機能を有する予備調整池を設置することを一方的に決定し、面積三万平方メー
トル、もしくは三万四五〇〇平方メートルをこれに充てることにしている。
(3)差別的換地処分
換地内に公共施設としての広大な調整池が設置されることは、その土地の利用価値及び交
換価値を著しく減退させるものであるから、調整池設置の負担は、これを必要とする地域
の換地取得者に平等に負担させることが公平の原則に適うものである。
しかるに、当初の事業計画を変更して、原告にのみ右のような負担を課する本件仮換地指
定処分は、原告にとつて著しく不利益な差別的指定処分であり、明らかに違法な処分であ
る。
よつて、原告は、本件仮換地指定処分の取消しを求める。
二被告
認否
1請求原因1の事実は認める(但し、被告が日本新都市開発に本件事業の遂行に係る一
切の業務を委託したとの点は否認する。。)
2同2の事実は認める。
3(一)同3(一(1)イないしハの事実は認める(但し、本件地区が市街化調整区)

に指定されたのは昭和四五年八月二五日である。また、日本新都市開発が本件地区開発の
リーダーシツプをとつてきたとの事実は否認する。同3(一(1)ニの事実のうち、。))

、、告が準備委員会と折衝して原告の本件地区への進出の諸条件をまとめたことは認めるが
その余は知らない。
同3(一(1)ホ、への事実は認める。)
同3(一(2)の事実は認める(但し、大学設量のために必要な用地を確保するという)

とが具体的に定められたとの事実は否認する。。)
同3(一(3)の事実は認める(但し、被告の事業計画書において大学用地の確保が具)

的に明示されたとの事実は否認する。。)
同3(一(4)の事実のうち、被告が、原告用地を本件地区北東部に集合換地するもの)

して手続を進めてきたこと、これについて原告の承諾を得たことは認めるが、その余の事
実は否認し、原告用地の予定位置が照応の原則に反するとの主張は争う。
同3(一(5)の事実中1事実経過については認める。)
同3(一(6)の事実は認める。)
同3(一(7)のうち、本件事業における宅地の整備方針が原告主張のとおりであるこ)
と、
被告の事業計画書に原告主張のような記載があることは認めるが、
学園住区構想が本件事業の基本方針であるとの点は否認する。
同3(一(8)のうち、被告が本件仮換地指定処分をしたこと、原告に対し、原告用地)

に調整池設置の要請をしたことは認めるが、その余の事実は、否認する。
同3(一(9)のうち、原告が本件地区への進出を断念することにより、学園住区構想)

よび都市計画の遂行が不可能となるとの点は否認し、その主張は争う。この点に関する被
告の反論は後記主張2に詳述する。
(二)同3(二(1)及び(2)の事実は認めるが、同3(二(3)の主張は争う。))
この点に関する被告の反論は後記主張3に詳述する。
()()。、。三同3三の主張は争うこの点に関する被告の反論は後記主張1に詳述する
(四)同3(四(1)の事実のうち、被告が本件事業計画において六万九四二二平方)

ートルの保留地を予定していることは認めるが、右予定地積の内四万六五九七平方メート
ルは事業費用に充てるためのものではないとの点は否認する。
同3(四(2)の事実は認める。)
同3(四(3)の主張は争う。この点に関する被告の反論は、後記主張4に詳述する。)
(五)同3(五(1)の事実は認める。)
同3(五(2)の事実は認める。)
同3(五(3)の主張は争う。この点に関する被告の反論は、後記主張5に詳述する。)
主張
1事業計画の変更について
(一)被告は、当初、準備委員会が原告との間に交していた三者合意を承継して、原告
を減歩することなく本件地区北東部に集合換地する方針のもとに定款(七五条参照)や事
業計画を作成し、知事の認可をえた。
(二)ところが、本件地区の地権者のうちEら一五名は、本件事業の施行そのものに強
く反対し、知事に意見書を提出するに至つた。その反対の理由は多岐に亘つているが、主
要点は(1)本件地区はいわゆる三富開拓地で市街化区域とは離れ(飛地、都市近郊、)

業の適地であるため(農業振興地域)区画整理の必要性がないばかりか、区画整理による
減歩は、仮に地価の上昇をもたらしても農業経営上何ら利益とならない(2)原告以外、

地権者には四〇パーセント強の高減歩を課すにもかかわらず、原告所有地のみ無減歩とす
ることは極めて不公平である(3)地元地権者は、原告用地を集合換地するため、遠く、

飛換地されることとなつて農業経営が破綻する、
(4)原告に対する本件地区内の土地の処分価格(坪当たり五万九〇〇〇円)は、本件地
区が市街化区域予定地であることを考慮しても、低きに失していて納得できない(5)、

上の諸点から、結局、本件事業は地元地権者の犠牲のうえに日本新都市開発と原告を利す
るものである、というにある。
このように、約一五パーセントの地権者が強硬に反対を続ける中で、一旦本件事業に同意
した地元地権者らも、仮同意取付け開始(昭和五二年五月)から長期間経過し、かつ、本
件地区の市街化区域編入が決定されて地価の大幅な上昇をみるに至ると、四〇パーセント
強の高減歩に対して強い不満を示すようになり、被告の設立こそできたものの、本件事業
が全く進展しない状況に追いこまれ、種々の努力にもかかわらずこれを打開することがで
きなかつた。
(三)原告の用地取得価格は坪当たり五万九〇〇〇円であり、これに約定の坪当たり一
万五〇〇〇円の事業費分担金を加えても、保留地の処分予定価格と比較して極めて低額で
ある。けだし、現在被告が検討している保留地処分予定価格は、少なくとも坪当たり三三
万円程度になる見込みであるから、原告が三者合意により経済的に大幅な利益をえたこと
は明白である。
(四)一方、地元地権者、とくに前記反対者の側からする意見の当否は別論としても、
本件事業を推進するためには反対意見を一部とり入れ、原告用地を減歩して、地元地権者
の減歩率を下げることが必要不可欠となつてきた(ちなみに、従前所沢市が施行した土地
区画整理事業では、平均減歩率は約一八パーセントないし約二六パーセントである。。)

のため、被告は、反対者を含む地元地権者の協力を得る方策として、原告および日本新都
市開発に対し、従前の約束とは異なる減歩負担を要請することとしたのである。
しかし、被告の再三の懇請にもかかわらず、原告の同意が得られなかつたため、被告は、
本件事業の執行を中止し、また、昭和五六年度国庫補助金の大半を返還するの止むなきに
至つた。
(五)被告は、本件事業中断後も、引き続き原告の理解を得る努力を重ねたが、昭和五
七年度国庫補助金の申請時期を迎えて、これ以上本件事業の中断を継続すれば、補助金の
不交付という事態を招き、ひいては本件事業全部の遂行が不可能になるため、やむなく総
代会の決議により、事業計画を変更して原告に平均減歩率による負担を課し、
本件地区北東部に集合換地することとしたのである。
なお、準備委員会は、被告設立前の段階から、原告に対し、その用地内に予備調整池を設
置することの承諾を得ていたのであるが、予備調整池設置という負担を減歩率に換算すれ
ば五・七六パーセントになると評価して、これを原告用地の減歩率二二・二三パーセント
から控除すると、実質減歩率は一六・四七パーセントとなる。また、被告は原告に右負担
を課すのと引き換えに、当初原告も承諾していた区画理事業分担金(坪当たり一万五〇〇
〇円、合計六億三〇〇〇万円)を原告から徴収しないことを決議している。
2学園住区構想について
大学設置基準(昭和三一年文部省令第二八号)の附則二項ないし四項は、同令三八条をう
けて校地及び校舎の面積を定めているが、右附則四項によれば、校舎の基準面積は、美術
関係定員五二〇名、音楽関係定員八〇名という原告の芸術学部の入学定員の場合、二万〇
三一九平方メートルと算出される。
また、校地基準面積については、附則二項で、医学部・歯学部以外は校舎の面積の六倍以
上の面積(但し、特別の事情があり、この面積がえられない場合は、教育に支障のない限
度においてこの面積の一部を減ずることができる)と規定されている。
したがつて、原告の芸術学部の場合、校舎基準面積二万〇三一九平方メートルの六倍すな
わち一二万一九一四平方メートル(約三万六八七九坪)が校地基準面積となるが、原告は
別に江古田キヤンパス七三二七坪も芸術学部の校地としているから、本件地区には三万坪
弱の土地を確保すれば、大学設置基準を満たすことになる。
現在被告が原告の仮換地と指定した土地地積は約三万五〇〇〇坪であるから、現行の芸術
学部の入学定員(六〇〇名)のもとでは、大学設置基準に抵触しないものであり、原告の
本件地区への進出が不可能となつたわけではない。
また、仮に、原告に本件地区で開校する意思がないというのであれば、被告は右土地を買
戻して他の学園を誘致することを考えており、学園住区構想の実現が不可能になることは
なく、都市計画道路等の整備と相まつて、変更後の本件事業計画は都市計画の方針に適合
した適法なものである。
3無減歩の合意について
原告は、被告が無減歩の三者合意に違反していると主張するところ、準備委員会が原告に
無減歩を約し、これを被告が承継したことは事実ではあるが、他方、県は、被告に対し、
原告主張の合意は被告を拘束しないとの見解を示すとともに、総代会の過半数の賛成によ
り原告用地を無減歩とすることは適当でなく、無減歩で集合換地するためには、組合員全
員の同意をとりつけるべきであるとの指導を行つた。被告はこのような県の指導はあつた
ものの、誠実に三者合意の履行につとめた。しかしながら、既述のような事情でやむなく
三者合意に反する内容に、事業計画の変更をしたものである。
もつとも、変更後の事業計画においても、原告用地の実質減歩率は、前記のとおり、原告
以外の地権者の平均減歩率より低い一六・四七パーセントであり、しかも本件地区北東部
に集合換地するという特別扱いを認めているのであつて、被告としては、三者合意を大筋
において尊守したと考えている。
4還元保留地設定の適法性について
(一)被告は、三者合意および日本新都市開発と準備委員会との間の協定(昭和五三年
四月一〇日付)を承継して(一)原告用地を無減歩で集合換地すること(二)日本新、、

市開発が原告に売渡した土地四万二〇〇〇坪は、同社が全地権者に代つて一括提供したも
のであるから、その実質は保留地の先売りとみなし、原告以外の組合員全員が平等に負担
すること1基本方針として定め、これについて組合員の事前の同意を得、知事の設立認可
をえて発足した。
そして、右基本方針にそつて本件事業を施行する方法としては、被告は、原告のため特に
定款七五条を設け、日本新都市開発については、同社に対する換地と保留地処分により、
同社が取得する土地面積につき、減歩率を一般地権者と同じ四〇・一四パーセントとする
方法をとることにした。
(二)ところで、被告は、当初の事業計画においては、保留地予定地積を四万八七八〇
平方メートルとしているが、それは、次のような考え方に基づくものであつた。まず、本
件事業の施行に要する総費用四七億円の財源を、補助金(国費・県費の合計)一一億四.
三〇〇万円、原告からの分担金(寄付金)収入六億三〇〇〇万円及び保留地処分金二九億
二七〇〇万円と見込む。そして、右保留地処分金の捻出に必要な保留地の地積は、本件事
業完了後における本件地区の宅地の単価を同事業施行前のそれの一・五倍に当たる一平方
メートル当たり六万円と評価して(土地区画整理事業においては、整理後の宅地価格が整
理前のそれの少なくとも一・五倍に増価することが、
事業認可及び補助金受給の必須条件である、右保留地処分金額を右単価で除した商に。)

当する地積四万八七八〇平方メートルと定めたが、前記のとおり、日本新都市開発が原告
に売り渡した四万二〇〇〇坪は、その実質において保留地の先売りとみなし得るから、被
告は、右保留地地積のうち、右両者間の売買代金二四億七八〇〇万円を右単価で除した商
に相当する地積四万二七九三平方メートル(約一万三〇〇〇坪)を日本新都市開発に対し
て処分し、同社かは保留地処分金として二四億七八〇〇万円とこれに対する同社が原告か
ら右同額の金員を受領した日以降の利息の支払を受けることとする。そうとすると、右保
留地のうち、一般保留地として処分しうる分は五九八七平方メートルであるが、その単価
は、低く見積つても一平方メートル当たり七万五〇〇〇円を下廻らないから、その処分に
より前記所要事業費の残額四億四九〇〇万円を確保しうることになる。
なお、右のような計画の下に本件事業を進めようとすると、日本新都市開発が保留地処分
により取得しうる地積は、四万二七九三平方メートル(約一万三〇〇〇坪)であるから、
被告は、これに加えて同社に対し約三万二〇〇〇坪の土地を換地処分により取得させるこ
とを予定していた。けだし、日本新都市開発の従前(原告への一部処分前)の所有地は約
七万五〇〇〇坪であつたから、これから平均減歩率四〇・一四パーセントの割合による減
歩をすると、同社が取得し得る地積は約四万五〇〇〇坪であり、かつ、これにより同社が
全地権者に代つて原告に提供した約四万二〇〇〇坪を回収できることになるからであつ
た。
(三)被告の右方針は、組合員の約八五パーセントが同意し、創立総会も了したのであ
るが、本件地区が市街化調整区域に属していた当時は、四〇パーセント強の減歩もいとわ
なかつた地元地権者は、本件地区の市街化区域編入が実現し、本件事業実施の段階に至る
と、高減歩であるとの不平不満を強め、もともと本件事業の施行に反対していた者め主張
に賛意を示して、本件事業に協力しなくなつた。その結果被告は(一)原告に対しては、

減歩で集合換地する(二)日本新都市開発に対しては同社が原告に立替提供した四万二、

〇〇坪全部を還元する、という前記の基本方針を見直して、前記のとおり、原告用地につ
いては二二・二三バーセント(実質一六・四七パーセント)の減歩をなし、
日本新都市開発に対しては同社の前記立替提供地約四万二〇〇〇坪の半分を還元すること
として、地元地権者に対する減歩率を約三〇パーセント程度に引き下げて、その協力を得
ることとせざるを得なくなつた。
(四)右のような基本方針の見直しに伴なつて、被告は保留地処分計画を次のとおり変
更した。まず、本件事業に要する費用が当初より約一〇億円増加し、また、原告からの六
億三〇〇〇万円の出捐を辞退することにしたので、保留地処分により四五億三七〇〇万円
を捻出する必要が生した。
、、、他方右のとおり日本新都市開発に還元すべき立替地の地積を半減することとしたので
その還元地積に対する換地面積相当をそつくり保留地地積に加えても、保留地処分単価は
一平方メートル当たり六万五三五〇円となり、本件事業施行前の宅地価格の一・五倍を維
持できることとなつた。そこで被告は、事業計画変更にあたり、日本新都市開発に対する
立替地の還元を、すべて保留地処分により行うという簡明な方法をとることにしたのであ
る。
(五)以上のとおりであるから、被告は、事業計画変更に伴つて、新たに還元保留地を
設定して、日本新都市開発に取得させることにしたものではなく、また、右保留地は、あ
くまで事業費用に充てるためのものであつて、それ以外の何物でもない。
更に、事業計画変更後の保留地予定地積は、その変更前において保留地となし得た最大地
積一〇万八三一〇平方メートルを大幅に下回つており、法九六条、定款七条に何ら抵触す
るものではないうえ、もともと本件事業において還元保留地設定は、事業計画策定の前提
となる基本方針であつたし、総会・総代会の議決もえているから、適法である。
5予備調整池について
(一)予備調整池は、三〇年ないし五〇年に一度程度の確率で起る大雨の際、本調整池
に貯水しきれなくなつた雨水を一時貯水し、本調整池の水位が下がり次第これへ流入させ
る機能を負うものである。
被告は、当初、原告用地のほか、その南側に位置する日本新都市開発に対する換地・還元
保留地にも約五〇〇〇トンの貯水機能を持たせる予定であつたが、検討したところ、原告
用地の南端に東西に走る道路が設置される計画であるため、その道路の南側に隣接する土
地に予備調整池機能を保持させることは、きわめて困難であることが判明した。そこで、
被告は、原告用地に四万余トンの貯水機能を保持させることとし、
そのかわり、その負担を五・七六パーセントの減歩と評価することとした。
(二)予備調整池設置工事は、原告用地を周辺道路からなだらかな傾斜をもつて掘り下
げるとともに、原告用地の東側に位置する本調整池への自然排水が可能となるよう西から
東へ傾斜をつける(被告としては東側は公園と同じ高さとし、西側は約一・六パーセント
の深さとする予定である)が、擁壁等はとくに設置しない。。
右の如く、予備調整池を築造した場合、原告用地内に道路より低い土地が三万平方メート
ル生ずるが、その周辺境界部分を除いては傾斜を感じさせることはなく、また、原告の仮
換地地積一一万五九七六平方メートルという広大な校地内全体としてみれば、土地の高低
差はほとんど問題にするに足りない。更に、原告が建築する校舎の延面積は、校地面積の
二〇パーセント以下であるから、建坪率ではたかだか数パーセント程度しかなく、その余
はグランドや緑地になるはずである。したがつて、被告が想定した広く浅い調整池は、原
告用地全体の広さ(一一万五九七六平方メートル)を考慮すると、その大学敷地としての
利用価値をそこなうことはないと考えられる。
(三)原告は、右予備調整池の設置をとらえて差別的仮換地指定である旨主張するけれ
ども、正当でない。まず、本件地区は平坦な山林・畑であるから、公共施設たる本調整池
により十分防災調節ができるはずであり、予備調整池は三〇年ないし五〇年に一度という
異常降雨の際、所沢市が所有管理する第四号公園とともに予備貯水機能を負担するにすぎ
ない。
しかも、原告用地についての予備調整池の負担は、減歩率および仮換地の評価にあたつて
十分配慮されており、照応の原則にも反することはない。すなわち、被告は、三者合意あ
るいは大学設置基準等も十分考慮して、原告用地については、当初の事業計画上の平均減
歩率より低い一六・四七パーセントの減歩にとどめ、そのかわりに予備調整池を設置した
のである。そして、予備調整池となる土地については、予備貯水機能を土地評価上一〇パ
ーセントのマイナス要因とし、道路との高低差もその程度によりマイナス係数を乗じて評
価した。しかし、それでも原告用地の価値は従前地より高く、評価指数において現在約二
七七万点余のプラスとなつており、原告から清算金を徴収すべき状況にある。この点から
も、
原告が有利な仮換地指定処分をうけたことは明らかである(原告用地についての右評価指
数は、標準的換地で約二七〇〇平方メートルの地積に相当するので、本件仮換地指定は、
約二七〇〇平方メートル分原告に有利な処分と評することができる。。)
第三証拠(省略)
○理由
一原告が、私立学校法に基づく学校法人で、本件地区の区域内に従前地(登記簿上の地
、)、積一三万七六七八平方メートル約四万二〇〇〇坪を所有する被告の組合員であること
被告が知事が都市計画法に基づいて決定した本件事業(所沢都市計画中富南部土地区画整
理事業)の施行者として、法に基づき設立された土地区画整理組合(組合員数が一〇〇名
をこえるため、法三六条により総代会を設けている)であること、被告が、昭和五八年。

月二〇日従前地について、原告主張のとおりの土地一一万五九七六平方メートルを仮換地
として指定する旨の処分をなし、これを原告に通知したこと(本件仮換地指定処分)は、
当事者間に争いがない。
二原告は、本件仮換地指定処分が(一)都市計画に適合しない(二)無減歩の合意、、

反する(三)違法な事業計画変更に基づいてなされた(四)還元保留地の設定による、、

歩に因る(五)原告にとくに不利益な差別的処分である、との五点を挙げてその違法性、

主張するが、ここでは、まず(三)の本件事業計画変更の違法性の有無について検討す、

こととする。
1前記一の当事者間に争いがない事実、いずれも成立に争いがない甲、乙各号証及び弁
論の全趣旨を総合すれば、次の事実(この事実中には、当事者間に争いのない事実もすく
なくないが、この点は、争いのない事実と甲乙各号証の記載が完全に符号する)が認め。

れ、この認定を左右するに足りる証拠はない。
(一)首都圏三〇キロメートル地域に属する所沢市は、近年に至つて近郊住宅都市への
、、、、急速な転換を迫られつつあるが同市の北東部に位置し<地名略>の全部<地名略>
<地名略>、<地名略>の各一部により構成される本件地区(東西約一二〇〇メートル、
南北約五〇〇メートル、地積約五八・六ヘクタール)は、その大半が畑(その約三分の一
は遊休地)及び雑木林によつて占められ、昭和四五年八月二五日には都市計画法上の市街
化調整区域に指定されたことから市街化が抑制されていた。このため、
本件地区の開発整備を期待する地権者の一部は、昭和四五年一一月中富南部一部開発地権
者協議会(会長はA一を結成して、県及び所沢市に対し、本件地区の市街化区域編入を働
きかけるに至つた。
かくするうちに、市長は、昭和五一年八月ころ本件地区に土地区画整理事業を施行して大
学を誘致し、学園を中心とした住居区域を開発する構想、いわゆる学園住区構想を提唱し
た。これに呼応して、本件地区の地権者のうちAら二一名は、市長の右学園住区構想の推
進運動を展開するため昭和五一年八月二六日準備委員会を結成しその事業目的に市、、、「
長主唱の学園住区構想の調査、検討」並びに「土地区画整理組合設立認可申請手続」を掲
げて、積極的に大学誘致運動と土地区画整理組合設立準備を展開した。
(二)日本新都市開発は、都市開発事業を目的とする会社であるが、早くから本件地区
の開発に着目し、本件地区内の民有地の約二分の一を買収して大口地権者となり、デベロ
ツパーとしての知識と経験を生かして地元地権者らの前記開発推進運動の指導的役割を果
たしてきた。
一方、原告は、東京都練馬区<地名略>に芸術学部を設置しているが、その敷地面積は二
万四二二六平方メートル(七三二七坪)にすぎず、甚だ狭隘で、しかも借地であることか
ら、予てより首都圏の地域内に五万坪前後の用地を取得して、そこに芸術学部の大部分を
移転する計画を進めていた。そのような原告のもとに、昭和五二年二月ころ日本新都市開
発から、本件地区への誘致の申し込みがなされた。原告は、日本新都市開発が、本件地区
内に大学用地として四万二〇〇〇坪を確保することを約したので、昭和五二年七月八日開
催の理事会で、芸術学部の本件地区への進出を決定した。
(三)その後、原告と日本新都市開発との間に、準備委員会を混じえて、原告の本件地
、、区進出の条件について話し合いが行われた結果昭和五二年一二月二六日市長立会の下に
原告(甲、準備委員会(乙、日本新都市開発(丙)の三者間に大要次のような内容の))

意(三者合意)が成立した。
(一)甲は本件地区内に実測で四万二〇〇〇坪の土地を確保し、芸術学部を開校する。
(二)甲の右上地確保の方法は、本件地区の地権者全員がその所有地の一部を拠出して
原告に譲渡する方法によるものとするが、甲が本件事業の準備段階から地権者としてこれ
に参加することを可能にするため、
丙が右地権者らに代つて丙所有の土地四万二〇〇〇坪を国土利用計画法の手続を経て甲に
譲渡する。右譲渡に関しては別に協定書を作成する。
(三)甲は乙が設立中の組合が設立されたときは、その組合員となる。
(四)乙は、甲が右により取得する四万二〇〇〇坪の土地を集合換地する。
(五)甲は、事業分担金として、その所有地一坪当たり一万五〇〇〇円、総額六億三〇
〇〇万円を乙が設立する組合に納入する。
(六)乙は、甲が昭和五五年度までに芸術学部を開校できるよう土地区画整理事業を推
進する。
(七)乙は、その設立する組合に本件合意を承継させるものとする。
そして、昭和五三年三月二七日三者合意に基づいて、原告と日本新都市開発との間に、同
社が本件地区内に所有する土地一三万八八四三平方メートル(約四万二〇〇〇坪)を総額
二四億七八〇〇万円(坪当たり五万九〇〇〇円)で原告に売却する旨の売買契約が締結さ
れた。右約定にかかる売買代金は、昭和五六年五月二一日までには完済され、また、右売
、。買対象地のうちの農地についてはすべて農地法所定の所有権移転に必要な手続を了した
(四)一方、昭和五三年四月一〇日には、準備委員会と日本新都市開発との間で「協定
書」と題する書面がとり交されたが、同書面中には(一)右両者は、本件地区に土地区、

整理事業を遂行することにより学園住区構想を実現し、あわせて地域社会の振興、発展に
寄与することを目的として相互に協力すること(二)準備委員会は、本件地区の土地区、

、()、整理事業の遂行に係る一切の業務を日本新都市開発に委託すること三準備委員会は
日本新都市開発が原告に譲渡した土地のうち、同社以外の本件地区の地権者が本来拠出す
べきであつた分については本件地区の土地区画整理事業を遂行する中で右譲渡代金前、、(
記のとおり坪当たり五万九〇〇〇円)と等価で同社が還元すること、などが記載されてい
る。
()、、五右のように本件地区の土地区画整理事業施行の計画が具体化するのと併行して
一部の地権者らが期待していた本件地区の市街化区域編入が実現し、昭和五四年四月二四
日知事によりその旨の告示がなされた。次いで、昭和五五年九月二四日知事は「所沢都、

計画中富南部土地区画整理事業(本件事業)を決定、告示し、これと同時に所沢市は、」
本件地区を大都市地域における住宅地等の供給の促進に関する特別措置法に基づいて「所
沢都市計画土地区画整理促進区域」とする決定をし、これを告示した。
(六)こうして、本件事業の施行準備が本格化してきたが、準備委員会は、昭和五五年
に所沢都市計画事業中富南部特定土地区画整理事業基本計画概要と題する書面以「()」(
下、計画概要書という)を作成した。これは、本件地区につき土地区画整理事業を施行。

る主体としての土地区画整理組合が設立された場合において、その運営の基本方針をまと
めたもので、これによると、まず、本件地区の宅地整備基本方針は「所沢市の基本施策、

ある“豊かな市民文化を育てる都市”に呼応すべく、所沢市が誘致した日大芸術学部を含
む新市街地“学園住区”の実現」にあるとされる。右にいう「学園住区」概要は「施、、

地区面積約五八・六ヘクタールのうち大学用地(日大芸術学部)が約一三・九ヘクター
ル・・・・・・を占めており、計画昼間人口と計画居住人口がほぼ同じ約六〇〇〇人の大
学と住宅地との相互共存を目指(す」としたうえ「異種機能である大学と住区を互い)、

阻害させることなく相互止揚させることが本計画の中心課題である」としている。。
()、、、七ところで準備委員会が本件事業の施行の具体的計画を策定するに当たつては
、。、前述のような経緯から換地の基本方針として維持すべき事項が二つあつたその一つは
原告に対しては換地の結果として従前と同様四万二〇〇〇坪の所有面積を確保するす、、(
なわち、減歩をしない)ということであり、もう一つは、日本新都市開発が、地元地権。

のために土地を立て替えて原告に拠出した所有地分は、本件事業遂行の中で同社に還元す
るということであつた。こうした基本的方針を実現する方法として、準備委員会は、第一
次、第二次事業計画案においては、いずれも日本新都市開発が原告に譲渡した土地約四万
二〇〇〇坪を依然として所有しているものと仮定し、原告用地は保留地処分の型で生み出
すか(第一次案、又は創設換地とする(第二次案)との計画をたてたが、第三次事業計)

案では、実態に即して原告を当初から地権者として取り扱う方法を採用するに至つた。
右第三次事業計画案によると、
本件事業における平均減歩率は二二・二三パーセント(原告を除き日本新都市開発を含む
地権者全体としては三〇パーセント)と計算されているが、前述のとおり日本新都市開発
に対し、同社が地元地権者のために立て替え提供した分を還元するという方針を実現する
ためには、同社に保留地予定地積四万八七八〇平方メートルのうち四万二七九三平方メー
トルを「還元保留地」として処分するほか、同社が現に所有している土地約三万三〇〇〇
坪に対する減歩率を三パーセントに留める必要があつたことから、同社を除く地元地権者
らの平均減歩率は四〇・一四パーセントの高率となつた(この減歩率は第一次、第二次事
業計画案においても同じ。)
(八)準備委員会は、右第三次事業計画案に若干の手直しを施して本件事業の事業計画
を決定し、定款を定め、本件地区の地権者一二四名の約八五パーセントに当たる者の同意
を得て(原告もこれに同意した、知事に対し被告組合設立の認可の申請をなし、知事。)

昭和五六年二月一三日これを認可した。
右認可にかかる被告組合の事業計画の概要をみるとまず本件事業の基本的目的は所、、、「
沢市の基本施策である豊かな市民文化を育てる都市づくりの一環として所沢市が誘致した
日大芸術学部を含む学園住区の実現」にあるとして、前記計画概要書の表現をそのまま踏
襲している。そして、換地設計の方針は「学園住区構想に基づき、大学は地区の北東部、

配置し、中央部南側にセンター用地(商業ゾーン、その外側に住宅用地を配置する。住)

用地は地区中央部隣接ゾーンに集合住宅、その外側に低層住宅を計画し、センターゾーン
で学園と住区の共存したコミユニテイーの発生を促すよう計画する」ものとされる。一。
方、
本件事業施行後の本件地区内の土地の用途別構成は、公共用地一二万〇五三八・〇六平方
メートル(内訳道路九万四六四九・〇一平方メートル、公園一万八三四六・一五平方メ
ートル、その他七五四二・九〇平方メートル、宅地五一万六九七六・四六平方メートル)
(内
訳大学用地一三万八八四三平方メートル、大学用地以外の宅地二七万八一三三・四六平
方メートル、保留地四万八七八〇平方メートルであり(減歩率は前記のとおり、右事))

に要する費用四七億円についての資金計画は、国庫負担金又は補助金七億六二〇〇万円、
県費三億八一〇〇万円、保留地処分金二七億二七〇〇万円、
原告からの特別の出捐金六億三〇〇〇万円とされている。
一方、被告組合の定款は、事業費の分担、組合の組織及び運営方法等についての定めをお
くとともに、その第九章に「換地処分」という見出しの章をおき、同章七四条に「一)、(
この組合は、法九五条の規定による特別宅地については、位置、面積及び利用状況を考慮
して換地を定める。但し、換地の組合せができないときは、この限りでない(二)前項。

規定により特別宅地とにて措置した宅地の清算については、第六八条の規定を適用する。
(三)この組合は法第九五条第一項第六号の規定による宅地については、同条第六項の規
定により措置することができる」という規定を設けたうえで、七五条で「特別宅地に。、

ずる宅地の換地」という見出しのもとに「この組合は、学校法人日本大学が所有してい、

宅地に対しては前条の規定を適用することができる」と定めている。右定款七五条の規。

の文理は必ずしも明瞭ではないが、その趣旨とするところは、組合は原告所有地の換地に
ついては、その位置、面積等に関し特別の考慮を払うことができるというにあると解され
る。
(九)このようにして、被告組合は設立され、本件事業の施行をみるに至つたが、本件
地区の地権者の約一五パーセントの者は、本件事業そのものに強硬に反対し、県知事に対
して意見書を提出するなどしていた。これら地権者の反対理由の最たるものは、被告が原
告所有地については減歩をしないとの換地方針をとつているため、その影響を受けて他の
地権者の減歩率が従前所沢市の他の地区について施行された区画整理事業においては例を
みない四一・〇四パーセントもの高率になつている、という点にあつた。また、被告の定
款、事業計画に一旦は同意した地権者らのうちの一部の者も、前記のとおり本件地区の市
街化区域編入が実現したことなどから、事業計画に示された減歩率に不満を示すようにな
つた。このため被告は、本件事業の円滑な推進を図るためには、前記の換地の基本方針を
修正して、原告所有地についても平均減歩率による減歩をなし(その代りに原告から受け
ることを予定していた前記出損を辞退する、日本新都市開発に対する立替地の還元は、。)
同社が原告に売却した約四万二〇〇〇坪の二分の一の地積に対する換地相当面積に減歩す
、、、。ることとして原告日本新都市開発の双方に対し右方針変更についての同意を求めた
しかしながら、原告は被告の右要請を容れず、その後再三にわたる被告の懇請に対しても
その態度を変えなかつた。
(一〇)被告は、昭和五六年会計年度において、国庫から六一〇〇万円の補助金の支給
を受けたが、本件事業は、その施行に不満を抱く地権者らの反対に遭つて進展せず、挫折
の止むなきに至つた。このため、被告組合は、右支給を受けた補助金のうち五一〇〇万円
を国庫に返納せざるを得なくなつた。そして、昭和五七年会計年度の補助金交付申請の期
限である昭和五六年一一月に至つても、前記のような被告組合の要請に対して原告からの
前向きの回答が得られなかつたため、被告は、昭和五六年一一月一六日に第一回総代会を
開催し(総代二〇名のうち一五名が出席、席上理事長のAが、前記換地方針を修正する)

えであることを報告し、総代の理解を求めるとともに、仮に右修正につき原告の同意が得
られないとしても、被告組合としては、従前の換地方針を修正して本件事業を施行する覚
。、、、悟であることを表明した次いで被告は昭和五六年一二月一四日第二回総代会を開き
出席総代一七名全員の一致により(一)原告所有地について実質一六・四六パーセント、

減歩(坪数にして六九一七坪に相当)をすること(二)日本新都市開発が原告に売却し、

土地四万二〇〇〇坪のうち二万一〇〇〇坪を、同社が他の地権者のために立替え提供した
ものとみなし、右みなし立替分についてのみ、本件事業の施行により同社に還元すること
等を議決した。なお、右の席上理事長から、被告の前記減歩要請に対し原告が拒否回答を
寄せてきた旨の報告がなされた。さらに、被告は、同月一九日第三回総代会を開き、出席
総代一九名全員の一致により、第二回総代会の議決どおりの原告用地の減歩と保留地の増
加を骨子とする事業計画の変更の議決をした。
(一一)被告は、右第三回総代会の決議をもつて事業計画を変更し、右変更につき昭和
五七年三月二五日県知事の認可を得た。右変更後の事業計画によると、本件事業施行後の
本件地区の土地の用途別構成は、公共用地七万二九三〇・四七平方メートル、宅地三九万
五一八七・九二平方メートル、保留地六万九四二二平方メートルとされ、変更前のそれに
比して宅地が減少(保留地が増加)しているが、その最大の要因は、右のように原告所有
地に対しても減歩をしたことによる。次いで被告は、前記のとおり、
昭和五八年九月二〇日原告所有の従前地につき本件仮換地指定処分をしたが、右処分によ
り仮換地とされた土地の地積は一一万五九七六平方メートルであつて、これは従前地の実
測面積一三万八八四三平方メートルの一六・四六パーセント減となつている。
2右認定事実によれば、本件仮換地指定処分は、変更後の事業計画に基づくものである
ことが明らかであるから、その違法性如何は、右事業計画の変更が適法であるか否かにか
かつているというべきである。
ところで、土地区画整理事業における事業計画は、施行地区、設計の概要、事業施行期間
及び資金計画など当該土地区画整理事業の基礎的事項を定めるものであつて、定款ととも
に土地区画整理事業の指針となるものである。そして、土地区画整理事業は、土地及びそ
の土地上の建物等について権利を有している者に影響を及ぼすものであるから、法は、そ
の指針たる事業計画の決定にあたつては、利害関係者の意見の反映を図るなど、事業計画
が適正に定められるよう慎重な手続を規定している。これを本件のような組合を施行者と
する土地区画整理事業についてみると、まず、組合設立の認可を申請しようとする者は、
事業計画について、施行地区となるべき区域内の宅地について所有権を有するすべての者
及びその区域内の宅地について借地権を有するすべての者のそれぞれ三分の二以上の同意
を得なければならず、この場合においては、同意した者が所有するその区域内の宅地の地
積と同意した者が有する借地権の目的となつているその区域内の宅地の地積との合計が、
その区域内の土地の総地積と借地権の目的となつている宅地の総地積との合計の三分の二
以上でなければならない(一八条。右同意があると、はじめて都道府県知事に組合設立)

認可を申請することになるが、その申請書には事業計画を添付することを要し、申請を受
けた知事は、施行地区となるべき区域を管轄する市町村長に当該事業計画を二週間公衆の
縦覧に供させ(二〇条一項、利害関係者(所有者、借地権者に限られない)に当該事)。

()。、に対する意見を述べる機会同条二項参照を与えることが義務づけられているそして
利害関係者の意見書が提出された場合には、都道府県知事は、その内容を審査し、当該意
、、見書に係る意見を採択すべきであると認めるときは組合設立の認可を申請した者に対し
()。事業計画に必要な修正を加えるべきことを命じなければならないのである二〇条三項
このような手続を経て定められた事業計画は、組合が都道府県知事の認可を得て設立され
た後においてこれを変更しようとする場合は、総会の議決(法三一条二号、総代会が設け
られている場合は、政令で定める重要な事項を除き、総代会の議決がこれに代る(三六条
一項、三項、二四条二項)を経て、都道府県知事の認可を得るべきものとされている)。
(三
九条一項)のであるが、事業計画が右のように慎重な利害関係者の権利保護のための手続
、、を踏んで定められるものである以上その変更が無制限に許されるものと解すべきでなく
、、、少なくとも当該事業計画の根幹をなす事項についての変更は原則として許されずまた
利害関係者(とくに組合員)の一部に新たに不利益を課すような変更は、従前の事業計画
の遂行が当該利害関係者に不当な利益をもたらすのであるためこれを是正する場合、組合
設立後の事情変更により従前の事業計画によつては事業の適正な遂行が困難になる場合等
、。合理的な理由がない限り当該利害関係者の同意なくしては許されないと解すべきである
これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件事業計画変更の主眼点の一つが
原告所有地につき無減歩の方針を改めるというにあつたことは明らかであり、それも一気
に一六・四六パーセント(坪数にして六九一七坪)もの減歩をなすという内容は原告にと
つて著しい不利益を課すものと評すべきである。しかしながら、本件事業は、当初から大
学誘致を前提とした「学園住区構想」の実現を基本目的とし、これに呼応して本件地区に
芸術学部を設置することになつた原告に対しては、他の地権者の従前地に対する換地とは
別枠で四万二〇〇〇坪の換地を確保することを事業計画の基本方針の一としてきたことが
明らかであり、しかも、右のような本件事業における原告の特殊な地位は、単に被告組合
設立前における前記認定の各種私的合意上のものにとどまらず、本件地区全地権者の約八
五パーセントの同意を得た被告組合の定款(七五条)及び事業計画上保証されたものであ
つて、これを地元地権者から選出された総代を構成員とする総代会の議決により変更する
ことは、本件事業計画の根幹に抵触するものとして許されない。これを別の角度からいう
と、原告は、
大学用地にふさわしい約四万二〇〇〇坪の一区画の土地を求めて被告の定款及び変更前の
事業計画に同意したものであつて、その被告組合に加わつた動機、求める利益においてそ
の余の地権者と質的に異なるものであり(原告と他の地権者との間では、換地とされるべ
き土地の地積、位置等につき何を目して照応平等とみるかそれ自体なんら基準ももちえな
い、それ故にこそ、原告に対する換地については、予め事業計画にその地積、位置等。)

至るまで明示されるほかなく、被告においてその判断、裁量を許されるのは、事業計画の
具体化の域を出ないものと解される。してみると、原告の意思、利益は、他の地権者によ
り代表しうる限りでなく、その意味において総代会の決議をもつて原告のかような利益を
剥奪することは許されないものといわなければならない。のみならず、右のような原告の
特殊な地位は、前記認定にかかる本件事業遂行の経緯に照らして合理的に肯認できるもの
であつて、原告がもともと不当な利益を博していたものとみることはできない(仮に、従
前地について平均減歩率による減歩がなされることが当初から予定されていたとすれば、
原告は本件地区内の土地を購入するにあたつて減歩を見込んだ地積の土地を予め取得する
ことも可能であつたはずであるが、原告はそのような必要性を全く感じていなかつたこと
は容易に推認しうるところである。また、他の要素を度外視した場合、学校用地など街路
等で細分されない大きな一区画の土地を換地として受ける者と住宅地の通例にしたがい縦
横に十分設けられた街路に接する住宅用地を換地として受ける一般の地権者とがいずれも
類似の減歩率の適用を受ける場合、前者(本件の場合、原告)が著しい不利益を被ること
は、数理上明白である)し、被告が、本件事業計画を変更するに至つた理由は、本件事。

施行の前提事情に変更が生じたからではなく、単に、被告組合設立前から本件事業の施行
に反対していた組合員や高減歩率に不満を抱く一部組合員らの不満(この問題点は、被告
組合設立時に既存のもので、定款・事業計画により組合員らが容易に認識しえたものであ
る)を、原告の犠牲において解消するためであつたと評すべきであつて、それ自体合理。

なものとはいい難い。そして、原告が本件事業計画の変更に同意しなかつたことは、前記
認定のとおりである。
そうすると、被告の本件事業計画の変更は、
少なくとも原告の意に反して、その所有地につき大幅な減歩を課す点において違法なもの
というべく、したがつて、右変更後の事業計画に基づく本件仮換地指定処分もまた、違法
といわざるを得ない。
三以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、被告がなした本件仮換地指
定処分は取り消されるべきものであるから、原告の本訴請求は理由があり、これを認容す
べきである。よつて、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適
用して、主文のとおり判決する。
(裁判官高山晨小池信行深見玲子)
物件目録、図面第一∼三葉(省略)

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