弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中本訴事件に関する部分を破棄する。
     前項の部分につき、本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 一 上告代理人大野藤一の上告理由について
 1 本訴事件は、亡Dの相続人であり遺留分権利者である上告人らが、Dからそ
の生前に土地の贈与を受けた被上告人らに対し、遺留分減殺請求権を行使した結果
上告人らに帰属した右の土地の持分についての移転登記手続を求めるものであると
ころ、原審の確定した事実関係及びこれに基づく判断は、次のとおりである。
 (一) Dは、昭和六二年八月二〇日に死亡した。Dの相続人は、妻である上告
人A1、子である同A2及び被上告人B1である。同B2は同B1の配偶者であり、
同B3及び同B4は同B1の子である。
 (二) Dは、昭和五三年当時、第一審判決添付物件目録1ないし9記載の土地
(以下、同目録記載の番号により「1の土地」などという。)を所有していたが、
同年一〇月一六日に1、3及び6の地を被上告人B2、同B3及び同B4に、4の
土地を同B1にそれぞれ贈与し、同五四年一月一六日に2及び5の土地を被上告人
らに贈与した。
 (三) 被上告人らに贈与された1ないし6の土地の右贈与の時点における価額
とD所有の財産として残された7ないし9の土地の右時点における価額を相続税・
贈与税の課税実務上の財産評価方法にのっとって比較すると、固定資産税倍率方式
により算出され、贈与税申告の際にも用いられた1ないし6の土地の価額は合計一
一七五万三〇四九円であり、路線価方式により算出された9の土地の価額は一三九
七万二〇〇〇円(一平方メートル当たり一万四〇〇〇円)であるから、7及び8の
土地の価額を算出するまでもなく、D所有の財産として残された7ないし9の土地
の価額が被上告人らに贈与された1ないし6の土地の価額を上回るものということ
ができる。そして、当時Dの財産が減少するおそれもなかったから、右贈与が遺留
分権利者である上告人らに損害を加えることを知ってされたとはいえない。
 (四) 以上によれば、1ないし6の土地は遺留分減殺の対象とならないことが
明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく本訴事件についての上
告人らの請求は理由がない。
 2 しかしながら、9の土地の相続税・贈与税の課税実務上の価額を路線価方式
により一三九七万二〇〇〇円(一平方メートル当たり一万四〇〇〇円)とした原審
の事実認定は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 原審が、乙八三号証の一、二及び同八四号証の一ないし三により昭和五三年及び
同五四年時点における9の土地に面する路線(不特定多数の者の通行の用に供され
ている道路又は水路)である道路の路線価が一平方メートル当たり一万四〇〇〇円
であると認定し、これに同土地の登記簿上の地積である九九八平方メートルを乗じ
て、同土地の課税実務上の価額を一三九七万二〇〇〇円であると認定したことは、
原判決の説示から明らかである。ところで、路線価とは、路線に接する宅地につい
て評定された一平方メートル当たりの価額であって、宅地の価額がおおむね同一と
認められる一連の宅地が面している路線ごとに設定されるものであり、また、路線
価方式とは、宅地についての課税実務上の評価の方式であって、路線価を基として
計算された金額をその宅地の価額とするものであり、特段の事情のない限り宅地で
ない土地の評価に用いることはできないものである。そうすると前掲乙号証から9
の土地に面する道路の路線価が一平方メートル当たり一万四〇〇〇円であると認定
することができるとしても、9の土地の当時の現況が傾斜地を含む山林であること
は鑑定の結果などから明白であるから、前掲乙号証から9の土地の相続税・贈与税
の課税実務上の価額を一三九七万二〇〇〇円(一平方メートル当たり一万四〇〇〇
円)と認定することはおよそできない筋合いである。この点において、原判決には
証拠に基づかずに事実を認定した違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすこと
が明らかである。論旨は理由があり、原判決のうち本訴事件に関する部分はすべて
破棄を免れない。
 二 さらに、職権をもって検討すると、民法九〇三条一項の定める相続人に対す
る贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の
経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、
減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法一
〇三〇条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるもの
と解するのが相当である。けだし、民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与
は、すべて民法一〇四四条、九〇三条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に
含まれるところ、右贈与のうち民法一〇三〇条の定める要件を満たさないものが遺
留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもか
かわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を
確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものと
いうべきであるからである。本件についてこれをみると、相続人である被上告人B
1に対する4の土地並びに2及び5の土地の持分各四分の一の贈与は、格別の事情
の主張立証もない本件においては、民法九〇三条一項の定める相続人に対する贈与
に当たるものと推定されるところ、右各土地に対する減殺請求を認めることが同被
上告人に酷であるなどの特段の事情の存在を認定することなく、直ちに右各土地が
遺留分減殺の対象にならないことが明らかであるとした原審の判断には、法令の解
釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
よって、原判決のうち上告人らの被上告人B1に対する本訴事件に関する部分は、
この点からも破棄を免れない。
 三 以上に従い、原判決のうち本訴事件に関する部分については、更に審理を尽
くさせるため、これを原審に差し戻すこととする。よって、裁判官全員一致の意見
で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信
            裁判官    元   原   利   文
            裁判官    金   谷   利   廣

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