弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人中島登喜治、同鳴海一二三の上告理由第一点、第二点について。
 所論は本件賃貸借契約証書(甲第一号証)の条項第二条の解釈に関する原判示、
延いて同条を根拠とする上告人の解除権の成立を否定した原判示を非難するに帰す
るのである。しかしながら、原判決は「昭和二一年九月本件当事者間に成立した賃
貸借契約において、建物の種類、構造については別段の制限はなく、控訴人(被上
告人)は同所において食堂を経営するため木造家屋を建築所有する目的で賃料一月
五〇〇円と定めて敷金一〇、〇〇〇円を支払い本件土地を借り受けたものであり、
期間も一応三年としたまでで、当事者双方共この期間を厳守するということではな
く満了の際は当事者間の協議により更に延長し賃貸借契約を存続することを予定し
ていたものであつてそれ以外には何等の契約条件も存しなかつた」事実と、前記甲
第一号証の賃貸借契約証書は、控訴人において本件地上に店舗、住宅及び工場兼居
宅各一棟を建築し、食堂を開業するに至つた後である昭和二三年四月五日被控訴人
(上告人)に差入れられたものであるとの事実を確定した上、右各事実と、右甲第
一号証の差入れられた経緯とを綜合して、右甲第一号証の第二条にいわゆる「容易
に収去し難き本建築」とは少くとも種類構造において甲第一号証差入前、既に本件
地上に存した前記建物と同一程度と認められる建物はこれを包含しない趣旨と解す
べきであると判示しているに外ならないのであつて、原審挙示の証拠に照せば右の
原判示は相当として肯認し得るところである。それ故所論第二点中、原判決が無意
義に本建築の保存力を区分した違法ありとする論旨は理由がない。
 次に論旨は、右の原判示には弁論主義に反する違法があり判例にも反するという
のであるが、原審における昭和二七年五月二日の口頭弁論期日において被上告人(
控訴人)が陳述した同年四月二五日附の準備書面によれば、被上告人の主張として
判示に照応する記載がなされているから、原判決には所論の違法はなく、論旨はす
べて理由がない。
 同第三点乃至第五点について。
 原判決挙示の証拠によれば、被上告人が甲第一号証差入前本件地上に建築した各
建物と、その後に建築した建物とは、その種類構造において同一程度の建築物と認
定判断した原判決は相当と認められる。論旨は結局原審の証拠の取捨判断並びに事
実認定を非難するに帰するものであつて、本件に適用のある昭和二五年法律第一三
八号所定の適法な上告理由に当らない。
 同第六点について。
 所論の昭和二六年一〇月五日の原審口頭弁論調書を見ると、その当事者の表示中
「被控訴人D」とあるのが抹消された上、「被控訴人A」と訂正されていることが
認められる。しかし右訂正が所論の如く昭和二八年七月二四日以後になされたと認
められる資料は記録上発見できないから、論旨は問題の前提を欠き採ることができ
ない。
 同第七点について。
 所論指摘の「原審証人Eの尋問を求め」とは、「原審証人Eの証言を援用し」の
誤記であることは、第一審判決事実摘示中の証拠の部の記載と原審第一回口頭弁論
調書中冒頭における「双方代理人は」の項における記載とを対照して明らかである。
それ故判例違反の論旨はその前提を欠き採用できない。
 同第八点について。
 記録を見ると原審が和解を試みる旨の決定をなしたる後、その後最終口頭弁論に
至るまでの調書中、右和解の成否の結果に関し何等の記載のないことは所論指摘の
とおりである。しかし裁判所が和解勧告を決定の上和解を勧告し、その後試和が打
ち切られた形跡のないまま弁論が終結されたときは、裁判所はその時に右決定を取
消したものと認めるを相当とすること、当裁判所の判例の趣旨とするところである
(昭和二六年(オ)第七一八号同二八年九月二五日第二小法廷判決、判例集七巻九
号一〇〇五頁)。本件の場合もそれと同様に解するを相当とするから論旨は採るこ
とができない。
 同第九点について。
 所論は原審の専権に属する証拠の取捨判断を非難するに帰するものであつて、適
法な上告理由に当らない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    池   田       克

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