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平成25年11月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成24年(ワ)第33474号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成25年9月26日
判決
札幌市<以下略>
原告雪印メグミルク株式会社
同訴訟代理人弁護士大野聖二
清水亘
小林英了
東京都江東区<以下略>
被告株式会社明治
東京都中央区<以下略>
被告明治ホールディングス株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士飯田秀郷
栗宇一樹
大友良浩
隈部泰正
和氣満美子
森山航洋
奥津啓太
広津佳子
杉本博哉
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告らは,原告に対し,連帯して1億円及びこれに対する平成24年12月
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「食品類を内包した白カビチーズ製品及びその製造方
法」とする特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,被告株式
会社明治(以下「被告明治」という。)による別紙被告製品目録記載のカマン
ベールチーズ製品(以下「被告製品」という。)の製造販売等が本件特許権の
侵害に当たり,かかる侵害行為を被告明治ホールディングス株式会社(以下
「被告明治ホールディングス」という。)が教唆ないし幇助しているとして,
被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償(一部請求)及びこれに対する不法
行為後の日である平成24年12月3日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
(1)当事者
ア原告は,牛乳,乳製品及び食品の製造・販売等を行う株式会社であり,
平成23年4月1日に雪印乳業株式会社を吸収合併した(以下,合併前の
同社の行為等についても原告のものとして記載する。)。
イ(ア)被告明治(平成23年4月までの商号は明治乳業株式会社。以下,
商号変更の前後を問わず「被告明治」という。)は,菓子,牛乳・乳製
品,食品,一般用医薬品の製造販売等を行う株式会社である。
(イ)被告明治ホールディングスは,平成21年4月1日に設立された持
ち株会社であり,被告明治の全株式を保有している。
(2)原告の特許権(甲2~4)
ア原告は,以下の特許権(本件特許権)を有している。
特許番号特許第3748266号
発明の名称食品類を内包した白カビチーズ製品及びその製造方法
出願日平成15年12月19日
出願番号特願2003-422837号
登録日平成17年12月9日
イ原告は,本件特許権の無効審判請求事件(無効2007-800027
号)において訂正請求をし,当該訂正は,平成23年2月17日付け審決
において認められ,確定した(以下,本件特許権の特許出願の願書に添付
された明細書で,上記審決により訂正されたものを「本件明細書」とい
う。)。
ウ訂正後の本件特許権の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,次の
とおりである(以下,請求項1記載の発明を「本件発明1」,請求項2記
載の発明を「本件発明2」といい,併せて「本件各発明」という。)。
「【請求項1】成型され,表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカ
ードの間に香辛料を均一にはさんだ後,前記チーズカードを結着するよう
に熟成させて,結着部分から引っ張っても結着部分がはがれない状態に一
体化させ,その後,加熱することにより得られる,結着部分からのチーズ
の漏れがない,香辛料を内包したカマンベールチーズ製品。」
「【請求項2】成型され,表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカ
ードの間に香辛料を均一にはさみ,前記チーズカードを結着するように熟
成させることにより,結着部分から引っ張っても結着部分がはがれない状
態に一体化させ,その後,加熱することを特徴とする,結着部分からのチ
ーズの漏れがない,香辛料を内包したカマンベールチーズ製品の製造方
法。」
エ本件各発明の構成要件を分説すると,次のとおりである(以下,各構成
要件を「構成要件A1」などという。)。
(ア)本件発明1
A1成型され,表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカードの
間に香辛料を均一にはさんだ後,
A2前記チーズカードを結着するように熟成させて,結着部分から引
っ張っても結着部分がはがれない状態に一体化させ,
Bその後,加熱することにより得られる,
C結着部分からのチーズの漏れがない,香辛料を内包したカマンベー
ルチーズ製品。
(イ)本件発明2
D1成型され,表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカードの
間に香辛料を均一にはさみ,
D2前記チーズカードを結着するように熟成させることにより,結着
部分から引っ張っても結着部分がはがれない状態に一体化させ,
Eその後,加熱することを特徴とする,
F結着部分からのチーズの漏れがない,香辛料を内包したカマンベー
ルチーズ製品の製造方法。
(3)被告明治の行為
被告明治は,平成17年11月21日から,被告製品の生産,譲渡又はそ
の譲渡の申出(譲渡のための展示を含む。)をしている。
(4)カマンベールチーズの一般的な製造工程(甲9,乙9)
カマンベールチーズは,白カビによってその表面にフェルト状の外皮を形
成する,白カビによる熟成チーズであり,ナチュラルチーズのうちの軟質チ
ーズに分類される。
カマンベールチーズの一般的な製造工程は,おおむね次のとおりである。
まず,原料乳にスターター(乳酸菌スターター。併せてカビスターターを
添加する場合もある。)及び凝固剤を添加するなどして凝固させ,型(モー
ルド。通常は円筒形である。)に詰めてチーズカードを成型する。この成型
されたカードに加塩し,原料乳にカビスターターを添加していない場合は上
記加塩の前後の段階で表面にカビを噴霧する。その後,適切な条件下で一次
熟成(予備熟成ともいう。)をさせてチーズカードの表面上にカビを発生さ
せ,さらに条件を変更し,カビが生成する酵素の作用により外側から内側に
向かって進行する二次熟成(本熟成ともいう。)をさせてチーズの内部を適
度に軟化させる(この二次熟成の段階で,カードは二次熟成に適した包材で
包装される。)。二次熟成の完成後,我が国で販売されているカマンベールチ
ーズのほとんどは加熱殺菌された上,冷蔵保存される。なお,上記各熟成の
期間は文献によって異なるが,①予備熟成として4,5日,本熟成として1
5~20日と記載しているもの,②一次熟成として9~12日,二次熟成と
して2,3週間程度と記載しているものがある。
2争点及びこれに関する当事者の主張
本件の争点は,(1)被告製品及びその製造方法の構成,(2)被告製品及びその
製造方法の本件各発明の技術的範囲への属否(ただし,被告製品及びその製造
方法が構成要件B及びEを充足することについては争いがない。),(3)被告明
治ホールディングスの責任,(4)損害額である。
(1)被告製品及びその製造方法の構成
(原告の主張)
ア被告製品の製造工程では,①モールド充填(チーズカードの型詰めによ
る略円板状の成型),●(省略)●⑥レトルト処理(加熱殺菌処理)の工
程が順番に行われる。
被告製品の製造工程では,上記●(省略)●一方,完成品である被告製
品において,上下のチーズカードが外縁部(チーズカードが成型当初の形
状,すなわち略円板状の形をしているときにおけるその外周側面部分をい
う。以下,当事者の主張及び当裁判所の判断を通じ,「外縁部」の語は,
チーズカードの形状がその後の切断加工により略円板状の形でなくなった
場合も含め,常に上記外周側面部分を指すものとして用いる。)において
結着され,当該部分がはがれない程度に一体化されていることは明らかで
ある。そして,上記熟成処理の後に行われるレトルト処理は上記結着部分
の結着とは無関係であるから,上下のチーズカードは,●(省略)●時点
で引っ張ってもはがれない程度に結着している。また,上記結着部分から
のチーズの漏れは認められない。
イ以上によれば,被告製品は,本件発明1との対比において,次のとおり
の構成を有している(以下,各構成を「原告主張の構成a」などというこ
とがある。下記ウについても同じ。)。
a略円板状に成型され,表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカ
ードを上下に切断し,その間に胡椒を均一に挟んだ後,当該チーズカー
ドを結着するように熟成させ,(6分割にポーションカットし,)結着部
分から引っ張ってもはがれない状態に一体化させ,
bその後,殺菌加熱処理を行うことにより得られる,
c結着部分からのチーズの漏れがない,胡椒を内包したカマンベールチ
ーズ製品。
ウまた,被告製品の製造方法は,本件発明2との対比において,次のとお
りの構成を有している。
d略円板状に成型され,表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカ
ードを上下に切断し,その間に胡椒を均一に挟んだ後,当該チーズカー
ドを結着するように熟成させ,結着部分から引っ張ってもはがれない状
態に一体化させ,
eその後,殺菌加熱処理を行う,
f結着部分からのチーズの漏れがない,胡椒を内包したカマンベールチ
ーズ製品の製造方法。
(被告らの主張)
ア被告製品を構成する個片は,略円板状に成型されたチーズカードを直径
に沿って鉛直方向に6等分に切断(以下,かかる切断方法を「6ポーショ
ンカット」ということがある。)して得られる扇形状をした形状である。
そして,各個片の切断面は白カビには覆われておらず,黒胡椒とカマンベ
ールチーズが露出している。被告製品は,このような6個の個片が個別に
密着包装されてプラスチック容器に収納されてなるものである。
イ被告製品の製造工程では,略円板状のチーズカードに成型した日の翌日
から起算して●(省略)●
さらに,被告製品は,上記●(省略)●数日間熟成させるが,●(省
略)●この加熱殺菌処理の前の段階において,上下のチーズカードは,●
(省略)●また,被告製品は,各個片が個別に密着包装されることにより,
6ポーションカットの切断面からチーズが漏れることが防止される。
(2)被告製品及びその製造方法の本件各発明の技術的範囲への属否
ア構成要件A1及びD1の充足性
(原告の主張)
(ア)構成要件A1及びD1のうち,「成型され」とは,ある程度固まっ
た状態のチーズカードであれば足りる。
また,「表面にカビが生育するまで発酵させたチーズカードの間に香
辛料を均一にはさ」むのは●(省略)●であり,このことは本件明細書
の記載から明らかである。チーズカードの表面にカビが育成した状態で
香辛料を挟んでいればよく,その時点における白カビの育成状況がいか
なるものであるかは,構成要件充足性とは無関係である。さらに,「均
一」とは質や量がどれも一様であることを意味するから,「香辛料を均
一にはさみ」については香辛料が一様になるようにチーズカードの間に
挟まれていればよく,●(省略)●
(イ)被告製品及びその製造方法は原告主張の構成a及びdを有するから,
被告製品及びその製造方法は上記構成要件A1及びD1を充足する。
(被告らの主張)
(ア)構成要件A1及びD1の「成型」が,完成したチーズ製品の形状に
成型することを意味していることは明らかである。また,上記各構成要
件のうち,「表面にカビが生育するまで発酵させた」とは表面にカビが
生育するまで発酵させる●(省略)●を,香辛料を「均一」に挟むとは
●(省略)●ことを意味している。
(イ)以上に対し,被告製品は,略円板状のチーズカードを6ポーション
カットして完成した個片からなるものであるところ,その製造過程の当
初は,チーズカードを略円板状に成型している。また,被告製品及びそ
の製造方法では,●(省略)●
(ウ)したがって,被告製品及びその製造方法は,構成要件A1及びD1
を充足しない。
イ構成要件A2及びD2の充足性
(原告の主張)
(ア)被告製品及びその製造方法は原告主張の構成a及びdを有するから,
被告製品及びその製造方法は構成要件A2及びD2を充足する。
(イ)これに対し被告らは後記のとおり主張するが,本件各発明におけ
る「結着部分」が結着に寄与する白カビが生育している部分,すなわち
外縁部を意味することは明らかであり,外縁部に白カビの表皮が形成さ
れることにより,香辛料を挟んだ後であってもチーズカード同士が結着
され,チーズの結着が強固で,型くずれや食品の漏れのない白カビチー
ズ製品を製造するという本件各発明の目的が達成される。熟成時におけ
る白カビの作用によってチーズが結着されることは本件明細書に記載さ
れており,このことは,カマンベールチーズにおいて,チーズ表面に生
育したカビの作用により厚さ数㎜のフェルト状の外皮が構成されて強固
に結着されるという古くからの技術常識や,本件特許権に係る審決取消
訴訟(知的財産高等裁判所平成21年(行ケ)第10353号。以下
「本件審決取消訴訟」という。)の判決(甲19)において,「写真から
は,結着面の外周側面をカビのマットが覆っている状態を確認すること
も,結着面の外周側面が「分離せずに一体となった状態」となっている
ことも認めることはできない。」及び「加熱によりチーズの中身が溶融
しても結着部分から漏れないようにするためには,加熱しない場合に比
べて,チーズの表皮をカビのマットがより強固に覆っていることが必要
と考えられるところ」と判示されていることからも裏付けられる。
(被告らの主張)
(ア)被告製品及びその製造方法は,●(省略)●そして,この二次熟成
の終了時点では,上下のチーズカードは,●(省略)●
したがって,被告製品及びその製造方法は,構成要件A2及びD2を
充足しない。
(イ)原告は,「結着」とは白カビによるものであると主張するが,結着
部分は外縁部(白カビ部分)に限定される訳ではなく,レトルト処理に
よってチーズの溶融ないし軟化に伴い上下のチーズカードの結着が強固
になるのは当然のことである。したがって,上下のチーズカードの当接
面の全体を「結着部分」とみるべきである。
ウ構成要件C及びFの充足性
(原告の主張)
(ア)「内包」とは内部に含み持つことをいい,構成要件C及びFの「香
辛料を内包」とは,「香辛料を内部に含み持つこと」を意味するから,
香辛料が内部に含まれていれば「内包」に該当することは明らかである。
そして,構成要件C及びFの文言上,すべての香辛料が外部に露呈され
ていないことは要件とされておらず,本件各発明においてその実施品を
切断した面から香辛料が見えるのは当然の前提となっているのであり,
香辛料を内包することにより香辛料が見えない状態になるかどうかは,
チーズ製品の外縁部(白カビ部分)から見て判断される。また,構成要
件C及びFのうち「結着部分からのチーズの漏れのない」についても,
チーズが漏れているかどうかの判断の対象とすべきは,チーズ製品の切
断面ではなく外縁部である。
(イ)本件では,被告製品及びその製造方法は原告主張の構成c及びfを
有するから,被告製品及びその製造方法は構成要件C及びFを充足する。
(ウ)被告らは,被告製品の製造方法は,成型されたチーズカードを●
(省略)●するものであり,●(省略)●香辛料や内部のチーズが露出
するものであると主張し,被告製品及びその製造方法は構成要件C及び
Fを欠く旨主張する。
しかしながら,本件各発明において,チーズカードの成型時期に関す
る限定はなく,●(省略)●構成要件充足性に何ら影響がないことは明
らかである。本件各発明は,チーズの結着が強固で,型くずれや食品の
漏れのない白カビチーズ製品を製造することをその目的としており,ポ
ーションカットの切断面から内部のチーズが流出するのをどのようにし
て防止するかを目的としていない。被告製品においてホール状のチーズ
が6ピースに切断されているのは,被告製品の購入後にチーズを切断す
る必要がなく,購入者において被告製品を食べやすくなるという購入者
の便宜を図ったものにすぎず,本件各発明の目的とは無関係である。
したがって,被告らの上記主張は失当である。
(被告らの主張)
(ア)本件発明の効果を上げるためには,通常の白カビチーズと比べて,
外観上全く見分けがつかないものである必要があり,構成要件C及びF
の「内包」とは,白カビが表面を覆って内容物である香辛料が外部から
は見えない状態にあることを意味している。さらに,上記各構成要件は
「結着部分からのチーズの漏れがない,香辛料を内包したカマンベール
チーズ製品」と規定しているから,ここで規定する「チーズ」とは,白
カビが生育していない内部のチーズを指称していることは明らかである。
以上によれば,上記各構成要件における「結着部分からのチーズの漏
れがない,香辛料を内包したカマンベールチーズ製品」とは,内部のチ
ーズが露出しないように表面全体に白カビが生育しており,結着部分に
おいても同様に白カビが表面を覆っていて,内部のチーズが露出せず,
かつ,内容物である香辛料も外部からは見えない状態になっているカマ
ンベールチーズ製品であると解さざるを得ない。
(イ)被告製品の製造工程においては,●(省略)●被告製品を構成する
個片は,略円板状に成型されたチーズカードを6ピースに切断して得ら
れる扇形状をした形状であって,その切断面は白カビに覆われておらず,
黒胡椒(ブラックペッパー)とカマンベールチーズが露出している。そ
して,被告製品は,その製造過程のいずれにおいても「結着部分からの
チーズの漏れがない,香辛料を内包したカマンベールチーズ製品」であ
ることはなく,その製造方法も,「結着部分からのチーズの漏れがない,
香辛料を内包したカマンベールチーズ製品」を生産する方法には当たら
ない。
(ウ)したがって,被告製品及びその製造方法は,構成要件C及びFを欠
き,本件各発明の構成要件を充足しない。
(3)被告明治ホールディングスの責任
(原告の主張)
ア被告明治は,平成17年11月21日から,被告製品の生産,譲渡,貸
渡し,輸出,輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しの
ための展示を含む。)を行っている。
イ原告は,平成18年ころから,被告明治及び被告明治ホールディングス
に対して,本件特許権の侵害を理由とする警告書を送付し,以後,現在に
至るまで,本件特許権の侵害に関する紛争は続いていた。そして,被告明
治ホールディングスは,第三者の知的財産権を侵害することのないように
細心の注意を払っていたから,被告製品の製造販売が本件特許権の侵害を
構成することについて十分に認識していた。かかる状況下で,被告明治ホ
ールディングスは,被告明治に対し,本件製品の製造販売の中止を指示す
ることなく,むしろ被告明治による本件製品の製造販売を黙示的に承認し
ていたのであるから,被告明治に対する業務執行の監督ないし関与を通じ
て,被告製品の製造販売について幇助ないし教唆を行っていることは明ら
かである。
(被告らの主張)
被告明治ホールディングスは,子会社である被告明治に対し,経営管理を
行ってはいるが,被告製品の製造販売行為という具体的行為の意思決定をす
るよう指示等をしたことはないし,被告明治による上記行為を補助し容易な
らしめるような具体的な行為をしていない。
(4)損害額
(原告の主張)
ア被告明治は,平成17年11月21日から平成24年11月26日まで,
被告製品を継続的に製造販売等しており,その売上高は36億円を下らな
い。
そして,本件各発明の実施料は少なくとも10%であるから,原告が被
告明治から本件各発明の実施に対し受けるべき金銭相当額は3億6000
万円となる。
イ被告明治ホールディングスは,その設立日である平成21年4月以降か
ら平成24年11月26日に至るまで,被告明治による特許権侵害行為を
教唆又は幇助しているところ,この間に被告明治が被告製品を販売した売
上高は18億円を下らない。そして,本件各発明の実施料は少なくとも1
0%であるから,原告は被告明治ホールディングスに対し1億8000万
円の損害賠償を請求することができる。
ウ上記各損害のうち,原告は,被告らに対して,連帯して1億円の支払を
するよう求める。
(被告らの主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(被告製品及びその製造方法)について
(1)証拠(甲10,11の1及び2,12,13,乙8,20)及び弁論の
全趣旨によれば,被告製品及びその製造方法は,以下のとおりの構成を有す
るもの(おおむね前記第2の2(1)の被告らの主張に沿うもの)と認められ
る。
ア被告製品
(ア)略円板状に成型したチーズカードにつき,●(省略)●の段階でチ
ーズカードを上下に2分割し,●(省略)●
(イ)●(省略)●
(ウ)●(省略)●各個片を,●(省略)●アルミ箔により個別に密着包
装して切断面にカビを生育させない状態にした後,カップ(プラスチッ
ク容器)に収納し,
(エ)前記カップに収納した各個片を●(省略)●させ,後日前記カップ
の上面をプラスチックフィルムでシール密封するが,●(省略)●
(オ)その後,前記密封したカップごと6個の個片を加熱殺菌することに
より得られる,
(カ)外縁部及び6ポーションカットの切断面からのチーズの漏れのない,
各個片の表面のうち上面,底面及び外縁部を構成する面は白カビで覆わ
れるものの,6ポーションカット切断面は白カビに覆われずに黒胡椒と
チーズが露出している,前記各工程を経て得られる個片からなるカマン
ベールチーズ製品。
イ被告製品の製造方法
(ア)略円板状に成型したチーズカードにつき,●(省略)●の段階でチ
ーズカードを上下に2分割し,●(省略)●
(イ)●(省略)●
(ウ)●(省略)●各個片を,●(省略)●アルミ箔により個別に密着包
装して切断面にカビを生育させない状態にした後,カップ(プラスチッ
ク容器)に収納し,
(エ)前記カップに収納した各個片を●(省略)●させ,後日前記カップ
の上面をプラスチックフィルムでシール密封するが,●(省略)●
(オ)その後,前記密封したカップごと6個の個片を加熱殺菌することに
より得られる,
(カ)外縁部及び6ポーションカットの切断面からのチーズの漏れのない,
各個片の表面のうち上面,底面及び外縁部を構成する面は白カビで覆わ
れるものの,6ポーションカット切断面は白カビに覆われずに黒胡椒と
チーズが露出している,前記各工程を経て得られる個片からなるカマン
ベールチーズ製品の製造方法。
(2)以上に対し,原告は,被告製品及びその製造方法は前記第2の2(1)(原
告の主張)イ及びウの構成を有する旨主張する。
しかしながら,原告の主張する各構成は,本件各発明の特許請求の範囲に
用いられている「均一」,「結着部分」及び「内包」の語をそのまま用いたも
のであり,これらの用語の意味については当事者間に争いがあるから,これ
らの用語により被告製品及びその製造方法を特定することは相当でない。
そして,被告製品及びその製造方法が,略円板状に成型したチーズカード
を,●(省略)●加熱殺菌処理をするという工程を有することについては当
事者間に争いがなく,上記(1)認定のうちのその余の部分については,これ
らを覆すに足りる証拠はない。
したがって,上記原告の主張を採用することはできず,被告製品及びその
製造方法の構成は上記(1)ア及びイ認定のとおり特定されるべきである。
2争点(2)について
(1)本件明細書の【発明の詳細な説明】欄には,以下の記載がある(甲3,
4)。
ア【背景技術】(段落【0002】)
「上記したチーズ製品は,何れもチーズ表面に添付した食品が点在した,
見た目も通常のチーズ製品とは異なったものであった。一方,見た目は通
常のチーズ製品であるが,チーズ中に食品類が包含されているチーズ製品
として,例えば,特許文献3に,2種類の異なるチーズ類を用いて,芯部
および芯部を包み込む外層部からなる2層構造とした鶏卵状チーズが開示
されている。」
イ【発明が解決しようとする課題】(段落【0003】)
「上記したように,従来は,チーズ製品に食品類を混合した成型品として,
チーズ全体に食品類を混合させたチーズ製品,チーズ表面に食品類を付着
させたチーズ製品や,外層部がナチュラルチーズではない鶏卵状チーズ製
品及びそれらの製造方法が知られていたが,これらの方法では食品類を内
包した白カビチーズ製品を製造することは不可能であった。本発明は,チ
ーズの間に種々の食品類を内包する白カビチーズ製品及びその製造方法を
提供することを目的とする。」
ウ【発明の効果】(段落【0005】)
「本発明の食品類を内包した白カビチーズは,通常の白カビチーズと比べ
て,外観上全く見分けがつかないものである。本発明の製造方法以外で製
造した場合には,加熱時に流動化したチーズが切断面から流れ出たり,食
品類が流出したり漏れたりすることが予想されるが,本発明によれば,そ
のような流出や漏れのない非常に良好な白カビチーズ製品が得られる。」
エ【発明を実施するための最良の形態】(段落【0007】)
「本発明における白カビチーズ製品の製造方法は,成型したチーズカード
の間に食品類をはさみ,熟成させることにより,チーズを結着成型させて
一体化することからなる。また,結着の後に加熱を行うことにより,より
強固に結着させることができる。」
「本発明の製造方法は,加圧や減圧の手段を用いず,結着剤も使用するこ
となく,熟成によって結着・成型することができる。また,熟成後に加熱
することにより結着をより強固にすることもできる。本発明の方法によれ
ば,このような手段を用いることにより,結着部からのチーズの漏れが防
止される。また,はさまれた食品類は,白カビチーズ内部に完全に内包さ
れるため,食品類自体またはその香味成分が他のチーズ類へ移行すること
や,食品の流出が防止される。」
オ【実施例1】(段落【0008】)
「このチーズカードを再び数日発酵させ,ポリプロピレンフィルムで包装
した後,さらに熟成が完了するまで発酵を継続した。切断面がカビの生育
により見えなくなり,熟成によって上下2枚のチーズが結着していること
を確認した後,チーズをポリプロピレンのカップに入れ,ナイロンフィル
ムの蓋をシールした。カップ内に密封したチーズを加熱殺菌することによ
り,上下のチーズが完全に密着し,外見上は通常のカマンベールチーズと
見分けのつかない良好な白カビチーズが得られた。」
カ【実施例2】(段落【0010】)
「このチーズカードを再び数日発酵させ,ポリプロピレンフィルムで包装
した後,さらに熟成が完了するまで発酵を継続した。切断面がカビの生育
により見えなくなり,熟成によって上下2枚のチーズが結着し,外見上は
通常のカマンベールチーズと見分けのつかない良好な白カビチーズが得ら
れた。」
(2)以上の記載内容を踏まえ,まず,争点(2)イ(構成要件A2及びD2の充
足性)について検討する。
ア構成要件A2及びD2は「結着部分から引っ張ってもはがれない」こと
を規定するところ,被告製品及びその製造方法においては,●(省略)●
(前記1(1)ア(エ)及びイ(エ)。乙20参照)。原告は,本件各発明の目的
がチーズの結着により型くずれや食品の漏れのない白カビチーズ製品を製
造することにあることから,「結着部分」とは白カビが生育している部分,
すなわち外縁部を意味するので,本件においては構成要件A2及びD2の
充足が認められると主張する。
イそこで判断するに,本件各発明の特許請求の範囲の記載をみると,構成
要件A2及びD2における「前記チーズカードを結着するように熟成さ
せ」との文言は,その文脈上,構成要件A1及びD1の「チーズカードの
間に香辛料を均一にはさ」むことを受けたものであるから,構成要件A2
及びD2にいう「結着する」とは,白カビが生育する外縁部に限られず,
香辛料を挟んだ部分の全体を対象とすると解釈するのが特許請求の範囲の
文言に沿うと解することができる。
また,構成要件A2及びD2には「上記チーズカードを結着するように
熟成させ」との文言があり,本件各発明におけるチーズカードの結着は
「熟成」により行われることが示されている。そして,前記前提事実(4)
のとおり,カマンベールチーズの一般的な製造工程における「熟成」には,
チーズカードの表面上にカビを発生させるもの(以下「チーズカード表面
の熟成」という。)と,これに続いてカビが生成する酵素の作用によって
チーズカードを外側から内部に向かって軟化させるもの(以下「内部を軟
化させる熟成」という。)とがあるところ,本件明細書において,構成要
件A2及びD2の「熟成」がどちらか一方の熟成に限定されることをうか
がわせる記載は見当たらない。そうすると,構成要件A2及びD2におけ
る「熟成」とは,チーズカード表面の熟成と内部を軟化させる熟成の双方
を含むものと解するのが相当であり,「熟成」により行われる「結着」も,
チーズカード表面の熟成により白カビが上下のチーズカードの表面を覆い
それらの外縁部において一体化すること(このことは当事者間に争いがな
い。)のみならず,内部を軟化させる熟成により上下のチーズカードがそ
の接合面において一体化することをも含むと解すべきものとなる。かかる
解釈は,本件明細書の【実施例1】(段落【0008】)及び【実施例2】
(段落【0010】)において,熟成が完了した状態,すなわちチーズカ
ード表面の熟成のみならず内部を軟化させる熟成が十分に進んだ状態にお
いて結着が確認されていることや,【発明を実施するための最良の形態】
欄(段落【0007】)において,加熱によって結着がより強固に一体と
なるとされ,加熱によりチーズが溶融する部分,すなわち上下のチーズカ
ードが接合する面全体が既に(強固ではないとしても)結着していると示
されていることからも裏付けられる。
以上によれば,構成要件A2及びD2における「結着部分」とは,外縁
部を含む上下のチーズカードの接合面全体をいうものと解するのが相当で
ある。
他方,上記1(1)ア(エ)及びイ(エ)認定のとおり,被告製品及びその製造方
法における上下のチーズカードは,●(省略)●したがって,被告製品及びそ
の製造方法が構成要件A2及びD2を充足するということはできない。
ウなお,原告は,上記「結着部分」を外縁部と解釈すべきことの根拠とし
て,本件審決取消訴訟の判決がかかる解釈を採用しているとも主張する。
しかし,同判決は,「上側のチーズと下側のチーズの内部の結着面につい
て,二次熟成の過程で内部の組織が軟化して溶融することは,可能性とし
ては考えられるが,熟成後,「分離せずに一体となった状態」となること
は,甲1の2,2の記載及び画像から,読み取ることはできない。」とも
判示しており(甲19),外縁部のみならず上下のチーズカードの接合面
の全体を「結着面」とみていることは明らかである。そうすると,同判決
が「結着部分」を外縁部に限定して判断したものとは解されないから,原
告の上記主張を採用することはできない。
(3)さらに,争点(2)ウ(構成要件C及びFの充足性)についても検討する。
ア原告は,構成要件C及びFの「内包」とは,香辛料が内部に含まれてい
ればよく,香辛料を内包することにより香辛料が見えない状態になるかど
うかは,チーズ製品の外縁部から見て判断されるべきものであって,ポー
ションカットした部分から香辛料が見えることは構成要件充足性を妨げな
いと主張する。
イそこで判断するに,「内包」とは,一般に「内部に含み持つこと」とい
う意味であるが(乙2),特許請求の範囲の文言のみからは,チーズ製品
の内部に香辛料が含み持たれていれば足りるのか,外面に露出していない
ことを要するのかについては明確であるといい難い。
そこで,本件明細書の記載を参酌すると,【背景技術】(段落【000
2】)及び【発明が解決しようとする課題】(段落【0003】)には,本
件各発明は,ナチュラルチーズの一種である白カビチーズで,食品類であ
る香辛料をチーズの内部に包含するが,見た目は通常のチーズと異ならな
いもの及びそのような白カビチーズの製造方法を提供することを目的とす
るものであることが,【発明の効果】(段落【0005】)には,本件各発
明の完成品が通常のカマンベールチーズ製品(白カビチーズ製品)と外観
上見分けがつかないものであることが記載されている。
そして,構成要件C及びFにおける「香辛料を内包したカマンベールチ
ーズ製品」とは,本件各発明を実施することにより製造されたチーズ製品
の完成品を指すものと解すべきであるから,上記各構成要件における「内
包」とは,完成品であるチーズ製品の外観から香辛料が見えない状態で内
部に含み持たれていることを意味するものと解するのが相当である。
ウ上記1(1)ア(カ)及びイ(カ)の認定のとおり,被告製品は,各個片の表
面のうち上面,底面及び外縁部を構成する面は白カビで覆われるものの,
6ポーションカット切断面は白カビに覆われずに黒胡椒とチーズが露出し
ているカマンベールチーズ製品である。そのため,上面,底面及び外縁部
から見た場合には香辛料は見えないが,6ポーションカット切断面から見
た場合は香辛料が外部に露出している。
したがって,被告製品及びその製造方法が構成要件C及びFを充足する
ということはできない。
エ以上に対し,原告は,本件各発明においてはチーズカードの成型時期に
関する限定はないから,●(省略)●ことは構成要件充足性に何ら影響し
ない旨を主張する。
そこで判断するに,特許発明の技術的範囲に属する物を生産した後,当
該製品を加工して当該特許発明の技術的範囲に属しないものとした場合に
は,一旦技術的範囲に属するものを生産したことをもって特許権が侵害さ
れたものと解されることは当然である(物を生産する方法の発明について
も同様である。)。これを本件各発明に即していうと,本件発明2の方法に
より製造した,結着部分からのチーズの漏れがない,香辛料を内包したカ
マンベールチーズ製品(略円板状に成型されたままの状態で,表面全体が
白カビで覆われ,外から香辛料が見えないもの)を,その完成後に6ポー
ションカットした場合には,切断後の各個片自体はその切断面において香
辛料が露出するため構成要件C及びFを充足しないが,その切断前の段階
において本件発明1の技術的範囲に属する製品が生産され,本件発明2の
方法が使用されている以上,かかる点をもって本件特許権が侵害されたも
のと解する余地はある。
しかしながら,被告製品は,前記1(1)ア及びイ認定のとおり,●(省
略)●加熱処理を施されてカマンベールチーズ製品として完成するもので
ある。そのため,被告製品の製造工程においては,本件各発明の構成要件
C及びFの「内包」の要件を充足する「カマンベールチーズ製品」は一度
も製造されない。そして,上記イのとおり,本件各発明は食品類である香
辛料をチーズの内部に包含するが見た目は通常のチーズと異ならない白カ
ビチーズ製品を製造することを目的とするものであり,構成要件C及びF
の「内包」の要件は本件各発明の必須の構成といえるから,被告製品の製
造工程において,●(省略)●アルミ箔により包装する工程(上記1(1)
ア(ウ)及びイ(ウ)認定の工程)が入ることにより,被告製品及びその製造
方法は本件各発明の必須の構成を欠くものとなる。したがって,被告製品
及びその製造方法における上記ポーションカットの工程と,本件各発明の
実施品をその完成後に切断することとは同列に論じられないから,原告の
上記主張を採用することはできないというべきである。
(4)以上によれば,被告製品及びその製造方法は,本件各発明の技術的範囲
に属しないと解すべきものとなる。
3したがって,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,いず
れも理由がない。
第4結論
よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官高橋彩
裁判官植田裕紀久
(別紙)
被告製品目録
明治北海道十勝カマンベールチーズブラックペッパー入り切れてるタイプ

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