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平成16年(ネ)第2033号 製造販売差止等請求控訴事件
平成16年11月10日口頭弁論終結
(原審・東京地方裁判所平成15年(ワ)第6742号,平成16年3月5日判
決)
     判    決
 控訴人(原告) 株式会社岩田レーベル
 訴訟代理人弁護士 久世表士,上野泰好,補佐人弁理士 菅原正倫,高野俊彦
 被控訴人(被告) 朝日印刷株式会社
 訴訟代理人弁護士 大谷典孝,訴訟代理人弁理士 廣澤勲
     主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人は,原判決別紙物件目録1(1)記載の包装ラベルを製造し,販売し又
は販売の申出をしてはならない。
 3 被控訴人は,前項の包装ラベルを廃棄せよ。
 4 被控訴人は,原判決別紙物件目録1(2)記載のパンフレットを回収せよ。
 5 被控訴人は,控訴人に対し,112万5000円及びこれに対する平成15
年4月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
 6 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 本判決においては,原判決と同様の意味において又はこれに準じて,「本件考
案」,「本件明細書」,「被控訴人製品」との略称を用い,本件考案の実用新案登
録請求の範囲請求項1を分説した符号も原判決と同様とする。
 1 本件は,控訴人が,被控訴人製品は本件考案の各構成要件を充足し,本件考
案の実施にのみ使用するものであるから,被控訴人製品を製造,販売等している被
控訴人の行為は,実用新案法28条1号の侵害とみなす行為に該当すると主張し
て,被控訴人に対し,同法27条に基づく被控訴人製品の製造,販売等の差止め,
廃棄及びパンフレットの回収並びに損害賠償を請求した事案である。
 原判決は,被控訴人製品は本件考案のうち争点となった構成要件C(紫外線吸収
剤),D(収縮率),A及びH(細口瓶)を充足せず,被控訴人製品が本件考案と
均等であるともいえないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
 当事者の主張は,次のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の
「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」のとおりであるか
ら,これを引用する(なお,控訴人は,被控訴人製品が本件考案と均等とはいえな
いとの原判決の認定判断について,当審において新たな主張立証はしていな
い。)。
 2 当審における控訴人の主張の要点(控訴理由の要点)
 (1) 構成要件C(紫外線吸収剤)について
 被控訴人製品は,以下のとおり,紫外線吸収剤を含有若しくは塗布しているの
で,構成要件C(「該熱収縮フィルムに紫外線吸収剤を含有若しくは塗布し,」)
を充足する。
(1-1)「紫外線吸収剤」の技術的意義
 原判決は,「紫外線吸収剤」の意味について,紫外線吸収効果を与えることを目
的として,紫外線吸収効果を顕著に奏するように適用されるものをいうと解すべき
であると判断している。
 しかしながら,化合物から構成される剤においては,配合目的が異なっても,顕
著な別の効果を発揮することは,通常起こり得る。これは,化学的常識的事項であ
り,客観的に紫外線吸収剤の効果があるにもかかわらず,主観的な配合目的が異な
るからといって,「紫外線吸収剤」に当たらないとするのは誤りである。
 また,原判決は,「剤」とは「その特定の効果を顕著に奏するように適用される
ものを意味する」と判示するが,「顕著に奏する」といっても程度問題であり,1
00%完全に紫外線を吸収することを要件とすべきではない。例えば,10~20
%程度の紫外線をカットしただけでも,紫外線からの保護効果は確実に発揮される
のであるから,「紫外線吸収剤」といってよい。
 原判決は,本件考案における「紫外線吸収剤」に該当するためには,「ラベルの
透明性を維持し得るものであることを要する」と判示するが,ここにいう「透明
性」とは,ラベルの一部分の透明性が維持されるか又は瓶の中味を確認することが
可能であれば足りるというべきである。被控訴人製品は,UV白インキの酸化チタ
ンをラベル全体に塗布したものでなく,その一部に塗布したにすぎないから,一部
に透明部分が確保されており,また酸化チタンを塗布した部分についても,可視光
線を100%遮断するものではないから,内容物を確認することができる(甲4
6,47)。したがって,被控訴人製品はラベルの透明性が維持されているという
べきである。
 (1-2) 酸化チタン
被控訴人製品に含まれる酸化チタンは,可視光を約40~50%透過するので,
中味を確認することができ,かつ紫外線を約60%遮断するので,内容物を紫外線
から保護する機能を有する(乙8の2の2,195頁,図II.3.46)。また,
「色材工学ハンドブック」(甲6)にも,酸化チタンが,波長360nmにおい
て,ルチル形で90%,アナタース形で67%の紫外線吸収率を有する旨記述され
ている(252頁,表3・1)。
 原判決は,紫外線吸収剤と紫外線散乱剤を区別するが,本件考案における紫外線
吸収剤の目的は,瓶の内容物を紫外線から保護することにあり,内容物を紫外線か
ら保護する限り,厳密な意味において「吸収」と「散乱」を区別して「紫外線吸収
剤」の成否を判断する必要はない。
 以上によれば,被控訴人製品に含まれる酸化チタンは「紫外線吸収剤」の要件を
充足するというべきである。
(1-3) 光重合開始剤
 原判決は,UVインキに含まれる光重合開始剤は,インキのビヒクルの重合に寄
与するものであるから,紫外線吸収を目的とし,紫外線吸収効果を奏するように適
用されるものとはいえないと判断している。しかし,インキのビヒクルの重合に寄
与するものであったとしても,光重合開始剤は紫外線吸収剤そのものであり,紫外
線によりラジカルが発生してラジカル重合を開始し,その一部が硬化ポリマー末端
に結合することにより,ビヒクル重合後においても,高分子紫外線吸収剤として機
能する場合がある。他方,重合にあずからない光重合開始剤はそのままの状態で硬
化皮膜中に存在するのであるから,いずれにしても,UV硬化塗料を使用する限
り,初期の目的を達した後,中味を紫外線から保護する紫外線吸収剤として機能す
る。
 また,UVインキは,印刷速度が早く,短時間の紫外線照射により十分な硬化強
度を維持することが優先されるため十二分に添加されるのが常識である。「プラス
チックの塗装・印刷便覧」(甲5)には,「通常,光増感剤はビヒクルに対して1
~10%配合され,その増感剤の吸収波長帯と吸収強度によって塗料の特性が異な
る」(79頁左欄下から5~3行)と記載され,増感剤(光重合開始剤)が10%
も配合される場合があることが示されている。そして,光重合開始剤を添加しても
被控訴人製品は中味を確認できる透明性を維持している。
 したがって,光重合開始剤を配合する当初の目的が内容物を紫外線から守ること
ではないとしても,光重合開始剤が本件考案の紫外線吸収剤に当らないとする判断
は失当であり,光重合開始剤は「紫外線吸収剤」に該当するというべきである。
(1-4) 透明部分のフィルム
 原判決は,「紫外線吸収剤」とは,熱可塑性樹脂が最も影響を受ける300~4
00nmの波長の紫外線を吸収して大部分を熱エネルギーに変換して放散するもの
であると判断している。しかしながら,紫外線吸収剤によって吸収する紫外線の波
長は異なり,典型的な紫外線吸収剤ですら,ある一定の波長以下の紫外線を100
%吸収するものではない(甲59)。例えば,典型的な紫外線吸収剤であるパラア
ミノ安息香酸の紫外線吸収スペクトル(乙32,66頁の図2)を見ても330~
400nmまでは紫外線を全く吸収していない。したがって,紫外線吸収剤という
ためには,これを配合しないフィルムと比較して,400nm以下のある部分の波
長の紫外線を吸収してその差があれば足りるというべきであり,ある特定の紫外線
波長領域以下を100%カットする目的のために,複数の紫外線吸収剤を組み合わ
せて使用し,特別なUVカットフィルム(紫外線カットグレード)を提供できなけ
れば,紫外線吸収剤とはなり得ないと理解すべきではない。
 被控訴人製品に関する実験結果(甲36ないし39,48,49)は,被控訴人
製品は400nm以下の特定波長の紫外線を吸収することを示している。また,控
訴人が名古屋市工業研究所に依頼して行った紫外可視吸収スペクトルの測定結果
(甲42ないし44)によれば,被控訴人製品の紫外線の吸収スペクトル(甲4
2)は,紫外線吸収剤が含有されていないPE(ポリエチレン)フィルムの吸収ス
ペクトル(甲43,44)と比較して顕著な相違がある。甲42のラベル透明部分
に紫外線吸収剤が配合されていることは明らかである。
 原判決は,紫外線吸収剤を添加した市販のPVC(塩化ビニル)フィルム(乙3
9,図1のフィルムB,C)や,リンテック株式会社が製造する紫外線吸収機能の
あるポリプロピレンフィルム OPP50C LS166G 8LK(乙40)と
被控訴人製品の紫外線透過率を対比して,被控訴人製品は紫外線を十分に吸収して
いるとはいえないと判示するが,乙39図1のフィルムB,Cは複数の紫外線吸収
剤とその配合量を極端に調節したUVカットグレードであり,紫外線吸収剤を配合
した一般的な市販PVCフィルムは,同図のフィルムAである。つまり,乙39
は,一般耐候性のフィルムA(一定のUV吸収を行う)と,極めて高いUV吸収性
(100%近い)を有するUVカットグレードのフィルムB,Cを比較対比したも
のであり,このことは,一般耐候性を有しない非UVのフィルム(甲43,44)
の紫外可視吸収スペクトルとの対比から明らかである。被控訴人製品は,紫外線吸
収剤を配合した一般的な市販PVCフィルムである上記フィルムAに近いものであ
る。
 被控訴人製品の粘着剤に紫外線吸収剤が含有されているかどうかに関し,原判決
はこれを否定するが,控訴人は第三者試験機関である株式会社日東分析センターに
依頼し,被控訴人製品の①ラベル全体(透明部分),②粘着剤を除去したラベル,
③粘着剤と表面コート層を除去したラベル,④PE標準(一般に市販されている日
本ポリオレフィン工業組合規格袋として加工されたポリエチレンフィルム)のUV
吸収スペクトルを測定した。すると,上記①は,②ないし④と比較して顕著な紫外
線吸収効果を示し,被控訴人製品の粘着剤には一般的な紫外線吸収剤の基本骨格で
ある芳香族環を有するビニルトルエン系樹脂が含まれていることが明らかになった
(甲60)。
 以上のとおり,被控訴人製品の透明部分は紫外線吸収剤を含有し,構成要件Cを
充足するということができる。
(2) 構成要件D(収縮率)について
 ア 収縮率の測定方法について
 原判決は,本件考案における熱収縮率は,包装時の熱収縮工程において達成すべ
き収縮率を特定していると解されると判示する。しかしながら,容器の胴部に感圧
接着剤で接着されたラベルの細かい皺を強制的に伸ばして除去する上では,45%
以上の収縮能力をもったラベルが45%以上縮もうとする収縮力(実際にはわずか
縮むだけ)により皺が伸ばされるのであり,また容器の栓部にラベルを密着させる
際にも,45%以上の収縮能力を有していれば,実際に45%以上縮んだかどうか
ではなく,45%以上の(潜在的な)収縮能力により密着性が高まるのである。つ
まり,本件考案の収縮率45%以上とは,包装ラベルが45%以上の収縮性を物理
的に有していることを意味するものであって,収縮工程でラベルが実際に45%以
上収縮することを意味するものではない。
 また,原判決は,熱収縮フィルムの加熱時間は2分を超えることはないと解すべ
きであると判断している。確かに,平成7年に作成されたJIS規格では120℃
のグリセリンに20秒浸漬するとされているが,樹脂フィルムの融点は比較的低
く,例えば被控訴人ラベルを構成するポリエチレンフィルムの融点は105~11
5℃であるから(甲51),融点より低い100℃の液に入れて収縮を測定する場
合には,分子間運動は120℃のような活発なものではなく,ゆっくり収縮が進行
することに留意する必要がある。したがって,100℃のような比較的低温での収
縮は,収縮完了させるために少なくとも10分又は20分といった加熱時間が必要
となる。
 収縮実験の試料の選定に関し,原判決は,いったん収縮が施されたフィルムを試
料としている点において実験が不正確であると判示するが,いったん収縮が施され
たフィルムがさらに45%以上収縮した事実は,未使用のフィルムからの収縮率は
さらに高いことを示している。したがって,いったん収縮が施されたフィルムを試
料としたとしても,その収縮率が45%以上であることが立証されれば,当然未使
用のフィルムからの収縮率はそれ以上になるのであるから,45%以上という要件
は一層確実に充足する。
 以上のとおり,控訴人が行った液媒体収縮試験における加熱時間,試料等は相当
であり,その試験で45%以上の収縮率が出ているのであるから,被控訴人ラベル
は本件考案の収縮要件を充足する。
 イ 熱風(気相)収縮実験
 原審において控訴人が行った熱風(気相)収縮実験の方法は相当であるが,控訴
人は,さらに厳密な条件の下で熱風(気相)収縮実験を実施するために,精密な熱
風収縮試験機を使用し,愛知県産業技術研究所の職員の立会いのもと,同研究所で
熱風(気相)収縮実験を行った(甲52ないし54。枝番を含む。)。この実験に
おいては,メインター点眼薬瓶からはがされた被控訴人製品を試料として使用し,
直径16.0mm×高さ48.0mmの円柱(大円柱)の上部に,直径8.4mm
×高さ16.0mmの円柱(小円柱)を設けた段付円柱ホルダにこれを巻いた上,
約10mmの距離から,試料が均一に加熱されるように段付円柱ホルダを回転しつ
つ,約5秒間熱風を吹き付けた。熱風の吹出口温度は220℃であり,試料の上部
に貼り付けた示温ラベルで測定された加熱温度は92℃以上100℃未満であっ
た。その結果,直径16.0mmの円柱が直径8.4mmの円柱に収縮・密着した
のであるから,その収縮率は47.5%となる。以上の再実験によれば,被控訴人
製品が本件考案の構成要件D(収縮率)を充足することは明白である。
 (3) 構成要件A及びH(細口瓶)について
 そもそも「細口瓶」とは,「一般的にびん(瓶)の口部の外径が胴部に比べて小
さいものをいう」(甲57)のであり,栓部の外径は関係がない。点眼薬瓶は,中
味の点眼液が1滴とか2滴しか出ないように,極めて細口にする必要があるのであ
って,典型的な細口瓶なのである。このように「細口瓶」の概念が具体的かつ明確
なものである以上,実用新案登録請求の範囲の記載を無視し,実施例に限定して解
釈することは許されない。
 原判決は,控訴人作成の審判請求補充書(乙12)に「なお,一般に細口瓶と
は,栓の外径が胴部の外径の70%以下のものを言います(日本薬局方等)。」
(4頁7~8行)との記載があることを,細口瓶を実施例に限定して解釈する理由
の一つにしているが,この記載は当時の誤解に基づくものであり,日本薬局方にそ
ういった定義はない。また,原判決は,同補充書に「・・・細口部分が胴部分の70%
以下の直径・・・」(10頁4行)との記載があることも指摘するが,「細口部分」は
「栓部」とは異なる。
 原判決は,ラベルの縦方向の熱収縮率が45%以上であることが意味を持つのは
栓部と胴部の間に肩部がある細口瓶のみであると判示するが,瓶の胴部と栓部の直
径が同じ場合であっても,栓部での45%以上の熱収縮力は被控訴人製品のラベル
と蓋部とを密着する上で意味があり,栓部と胴部との間に肩部があろうがなかろう
が,被控訴人製品が適用される瓶では栓部との密着や,キャップ頂部の包装のた
め,45%以上の収縮が必要となる。栓部が円錐又は二段ドーム状のものでは,そ
の二段ドームの肩面に被控訴人ラベルを密着させる必要から,同様に45%以上の
大きな収縮が要求される。
 以上のとおり,細口瓶は栓と胴部間に肩部が生じるものに限定される理由はな
く,口部が胴部より十分小さいものを字句通りに細口瓶というのであり,被控訴人
ラベルが適用される容器はすべて細口瓶である。
 なお,栓部と胴部間に肩部を生じるもののみが細口瓶であるとしても,被控訴人
は,本件考案が登録実用新案であること,及び被控訴人製品が本件考案の実施に用
いられること(細口瓶に装着される可能性あること)を知りながら,被控訴人製品
の製造・販売・販売の申出等を行っているのであるから,実用新案法28条2号の
規定にも該当する。
 3 当審における被控訴人の主張の要点
 (1) 構成要件C(紫外線吸収剤)に対して
(1-1)「紫外線吸収剤」の技術的意義
 控訴人は,紫外線吸収剤を配合しない場合より,約10~20%程度の紫外線を
カットしただけでも,紫外線からの保護効果は確実に発揮されると主張するが,本
件明細書(甲2)の〔考案の作用〕欄には「本考案に用いる紫外線吸収剤は紫外線
を吸収して内容物の変質を防止するものであり」(4欄40~42行)と記載さ
れ,審判請求理由補充書(乙12,12頁6~9行)には,本件考案の紫外線防止
作用は「単なる遮光性を付与した場合の当然の作用効果」ではなく「紫外線吸収剤
を含有させて,透明性を維持しながら瓶内容物を紫外線から防止する」ことが特徴
である旨の記載がされているのであるから,紫外線吸収剤とは,文字どおり紫外線
を吸収するものであって,100%又はこれに近い紫外線吸収効果を有する必要が
ある。
 控訴人は,ラベルの透明性に関し,被控訴人製品の非印刷部分に透明性があれば
足りるなどと主張するが,透明性とは,単に光が通過するという透光性とは異な
り,向こう側が明らかに見えることをいう。この点は,本件明細書の〔考案の効
果〕欄において「紫外線吸収剤を適用することができ,透明な瓶の使用が可能とな
るので,内容物の変質の発見が容易であり,かかる利点は薬瓶の包装ラベルにおい
て特に有用である。」(6欄20~23行)と記載されているとおりであり,一般
的な用語としても「透明」というのは透き通って向こう側が見えることであり,す
りガラスのように向こう側が透き通って見えないものは「透明」とはいわない。
 (1-2) 酸化チタン
 被控訴人製品のラベルには白インキが使用され,その顔料として酸化チタンが含
まれていることは認めるが,酸化チタン顔料の白インキは,半透明でもなく白色で
あり,瓶の中味を確認できるものではない。また,白色部分の透過スペクトルの測
定結果も,紫外線が吸収されたのか散乱されたのか確定できず,むしろ不透明性か
ら来る光遮蔽効果による測定結果とみるべきであって,紫外線吸収剤が含有又は塗
布されているということはできない。
(1-3) 光重合開始剤
 被控訴人製品のラベルに光重合開始剤が使用されていることは認めるが,これは
ラベル印刷上必要なインキ硬化のためにすぎない。控訴人は,被控訴人製品のラベ
ルには光重合開始剤が残存しており,それが紫外線吸収効果をもたらしているとも
主張するが,控訴人の推論にすぎず,そのことを示す具体的な証拠は存在しない。
(1-4) 透明部分のフィルム
控訴人は,被控訴人製品の透明部分又は塗布された粘着剤に紫外線吸収剤が含有
されていると主張するが,被控訴人はそのような製品を納入先に発注した事実はな
い。
 原判決は,控訴人が行った被控訴人製品に使用されたフィルムの透明部分の光線
透過測定実験や被控訴人が行った実験を十分検討して,結局,被控訴人製品に使用
されているフィルムは,紫外線領域の波長を十分吸収しているとはいえないとし,
紫外線吸収剤が含有又は塗布されてはいない,と判断しているのであり,正当であ
る。
 控訴人は,乙39図1のフィルムAは,紫外線吸収剤を含む一般耐候性フィルム
であると主張するが,仮に塩化ビニル(PVC)である乙39図1のフィルムAに
紫外線吸収剤がわずかに含まれていたとしても,ポリエチレン(PE)からできて
いる被控訴人製品とは材料が異なり,逆にPVCフィルムと比較して紫外線に対す
る耐候性の高いPEフィルムを用いた被控訴人製品には,紫外線吸収剤を含ませる
必要がないということができる。
控訴人は,名古屋市工業研究所作成に係る成績書(甲42ないし44)の透過率
曲線のうち,被控訴人製品の紫外線透過率を示す曲線(甲42)が,他のPEフィ
ルムやシュリンクPEフィルムの紫外線透過率曲線(甲43,44)と異なり,紫
外線領域の一部の波長を吸収していると主張する。しかし,甲42の曲線は,粘着
剤が塗布された状態の被控訴人製品の透過率曲線であり,この曲線は大日本インキ
化学工業株式会社による測定結果(乙39の図2,4,5)に示された市販PEフ
ィルムの紫外線透過率の曲線と同様に,300~400nmの紫外線を十分に吸収
していない。甲43,44の紫外可視吸収スペクトルは,乙39の図3,4,5の
粘着剤を除去した被控訴人製品及び市販PEフィルムの光線透過率と同様に,30
0nm付近から紫外線吸収効果が出始める曲線となっている。したがって,甲42
と甲43,44との違いは,単に粘着剤の有無によるものであり,被控訴人製品の
ラベルに用いられているPEフィルム自体に紫外線吸収剤が含まれていないことは
明らかである。
 控訴人は,被控訴人製品に貼付された粘着剤には一般的な紫外線吸収剤の基本骨
格である芳香族環を有するビニルトルエン系樹脂が含まれていると主張する。確か
に,被控訴人製品のラベルに芳香族系化合物が含まれていることは認めるが,被控
訴人製品に含まれるビニルトルエン系樹脂は,粘着剤に一般的に必要とされるタッ
キファイヤー樹脂にすぎず,「紫外線吸収剤」には当たらない。
(2) 構成要件D(収縮率)に対して
 控訴人は,フィルムの加熱時間に関し,100℃のような比較的低温での収縮の
場合には,少なくとも10~20分といった加熱時間が必要であると主張するが,
本件明細書では加熱時間が1~2分となっていること,JIS規格での加熱時間が
20秒であること,生産ラインでの収縮加熱時間は数秒であることに照らすと,控
訴人の主張する10~20分という長時間の加熱時間は不合理というほかない。
 被控訴人は,原審段階から,双方立会いの下での実験を提案していたが,控訴人
はこれを受け入れず,自ら各実験を繰り返した結果,原判決において,いずれも採
用し難い実験結果であるとされた。控訴人は,当審においても,新たな実験を行っ
ているが,上記のような経緯に照らせば,原判決後の新たな実験に基づく証拠(甲
52ないし54(枝番を含む。))は遅きに失し,民事訴訟法157条1項の時機
に後れた攻撃方法として却下されるべきである。
 仮に,かかる攻撃方法の提出が認められたとしても,加熱条件については,本件
明細書に記載のとおり,100℃のシュリンクトンネルで1~2分で収縮する方法
によるべきであり,これを変えることは,本件考案の技術的範囲を逸脱する。ま
た,控訴人が新たに行った熱風(気相)収縮実験は,JIS規格による実験と異な
り,温度管理が困難であり,220℃もの高温の空気を吹き付けによりラベルに送
れば,吹き付けられる気流が変化して乱流となり,少なくとも部分的には200℃
程度となる部分が存在する。示温ラベルによる温度表示は,熱収縮フィルムの周囲
の雰囲気温度を表示するものではない。また,使用する試料も不適切であり,当該
実験が愛知県産業技術研究所の職員の立会いの下で行われたとしても,測定機器,
測定方法,測定結果等は,控訴人の関係者主導で行われたものであるから,客観性
を認め難く,信用し得ない。
 (3) 構成要件A及びH(細口瓶)に対して
 控訴人は,構成要件A,Hにいう「細口瓶」とは,胴部に対して口部の内径が一
定以上細くなっているものであり,栓の外径は無関係であると主張する。しかしな
がら,本件考案は包装方法の一つであり,栓をした状態での包装が想定されている
のであるから,栓の外径と対比しないと意味がなく,控訴人自身,審判請求理由補
充書(乙12)において「細口瓶とは,栓の外径が胴部の外径の70%以下のもの
を言います(日本薬局方等)。」(4頁7~8行)と説明している。
 また,控訴人は,本件考案の作用効果として45%以上の収縮が必要となるの
は,貼付したラベルの皺を取ることに意味があると主張しているが,本件明細書
(甲2)の〔考案の作用〕欄には「本考案ラベルは,細口瓶の胴体部分に殆ど密着
させて巻き付けて使用する。そのため,胴部分に関しては,ラベルの皺を取ること
ができる程度の熱収縮率があれば十分である。しかし,細口瓶の栓部分を密着包装
するためには,45%以上の熱収縮率が必要となる。」(4欄9~14行)と記載
されており,45%の熱収縮率が必要となる本質的な意義は,胴部と比較して格段
に細くなった栓部を密着包装するためにあると考えられる。したがって,原判決の
認定のとおり,細口瓶とは,栓部と胴部の径に顕著な差がある結果,栓をした状態
での瓶に肩部が認められるような瓶を意味すると解すべきである。被控訴人のラベ
ルが貼付された細口瓶をみれば,いずれも栓部と胴部との外径に顕著な差がなく,
栓部の上部の外径が細くなっているもの(甲10,11)についても,被控訴人製
品のラベルは,栓全体を被包することなく,栓の一部で収縮させているにすぎず,
栓自体が細口となった外径を有しているものではないので,「細口瓶」には該当し
ない。
 なお,控訴人は,栓部と胴部間に肩部を生じるもののみが細口瓶であるとして
も,被控訴人の行為は,実用新案法第28条2号の間接侵害に該当すると主張する
が,被控訴人は控訴人の主張を争う。
第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も,被控訴人製品は,構成用件C(紫外線吸収剤),D(収縮
率),A及びH(細口瓶)の各要件を充足しないので,控訴人の本訴請求は理由が
なく,これを棄却すべきものと判断するが,その理由は,下記2のとおり付加する
ほかは,原判決が「第4 当裁判所の判断」として説示するとおりである。
 2 当審における控訴人の主張に対する判断
 (1) 構成要件C(紫外線吸収剤)について
 (1-1)紫外線吸収剤の技術的意義
 本件考案の「紫外線吸収剤」の技術的意義に関し,控訴人は,①紫外線吸収を目
的とするものでなくとも,紫外線を吸収する効果を発揮するものであれば「紫外線
吸収剤」ということができ,②その効果も一定の波長の紫外線をある程度吸収すれ
ば足りるというべきであり,③透明性についても,ラベルの一部が透明であるか,
又は内容物の確認ができれば「透明」ということができると主張する。
 しかしながら,原判決も摘示する「紫外線吸収剤」に関する本件明細書(甲
2),控訴人が特許庁に提出した拒絶査定に対する審判請求理由補充書(乙1
2),その他の刊行物(甲41,乙8の2の4,32,34,35)の記載によれ
ば,本件考案にいう「紫外線吸収剤」とは,光学的に有害な300~400nmの
紫外線を吸収して,その大部分を熱エネルギーとして放出するために適用されるも
のであり,具体的には,サリチル酸誘導体,ベンゾフェノン系,ベンゾトリアゾー
ル系等の化合物をいうと解すべきであって,単に他の用途の剤に含まれて紫外線吸
収効を有する物質や,紫外線を散乱・反射する効果を有するにすぎない物質は,本
件考案にいう「紫外線吸収剤」には該当しないというべきである。
 また,その効果についても,確かに紫外線吸収剤にはそれぞれ特性があり,30
0~400nmの紫外線を100%吸収する必要はないとしても,市販のPEフィ
ルム又はシュリンクPEフィルムとは顕著に異なる紫外線吸収効果を示すことが必
要であることはいうまでもない。
 さらに,本件明細書,審判請求理由補充書の記載によれば,本件考案の「紫外線
吸収剤」はラベルの透明性を維持し得るものであると解すべきところ,「透明」の
通常の意味は,「すきとおること,くもりなく明らかなこと。」(広辞苑第五版)
であり,本件考案において,これを別異に理解すべき理由はない。したがって,ラ
ベルの一部でも透明であり,また内容物の確認ができれば「透明」といえるという
控訴人の主張は採用できない。
(1-2)酸化チタン
本件考案における「紫外線吸収剤」の技術的意義を上記のとおりと解すると,被
控訴人製品の白インキの顔料として含まれている酸化チタンは,光学的に有害な3
00~400nmの紫外線を吸収して,その大部分を熱エネルギーとして放出する
ために適用されるものではなく,また「透明」なものでもないから,一般的性質と
して紫外線吸収機能を有しているとしても,本件考案の「紫外線吸収剤」には該当
しない。
 (1-3)光重合開始剤
 インキに含まれる光重合開始剤も,ラベル印刷上必要なインキ硬化のため使用さ
れ,紫外線吸収を目的とするものではないから,光重合開始剤が本件考案の「紫外
線吸収剤」に該当するということはできない。また,そもそも被控訴人製品に重合
に使用されなかった光重合開始剤が残存していると認めるに足る的確な証拠もな
い。したがって,いずれの観点からも,被控訴人製品のラベルに使用される光重合
開始剤が紫外線吸収剤に該当するとの控訴人の主張は採用できない。
 (1-4)透明部分のフィルム
ア 控訴人は,被控訴人製品の透明な部分にも紫外線吸収剤が含まれていると主
張する。確かに,証拠(甲36~39,42,48,49,60,乙39)によれ
ば,被控訴人製品のラベルの透明部分の光線透過率は,概ね,波長400nm付近
で50%以上であり,波長300~400nmの領域において低下し,250~2
80nmでほぼ0%となると認められ,紫外線吸収率が最大でも40%を超えてい
ない甲43,44の市販PEフィルムと比較すると,被控訴人製品は紫外線吸収効
において優れているといえなくはない。
 しかしながら,他方,大日本インキ化学工業株式会社による光線透過率測定結果
(乙39)によれば,被控訴人製品の300~400nmにおける紫外線吸収率
は,市販シュリンクPE粘着シート(乙39の図2のフィルムF,なお,このシー
トが紫外線吸収剤を含有すると認めるに足る証拠はない。)とほぼ同程度であり,
被控訴人製品が市販のPEフィルムと比較して,一般的に顕著な紫外線吸収効を有
するとは認め難い。また,被控訴人製品の上記同様の波長における紫外線吸収率
は,紫外線カットを目的とする市販シュリンクPVCフィルム又は市販シュリンク
PVC粘着シート(乙39の図1のフィルムB,C)やリンテック株式会社が製造
する紫外線吸収機能のあるポリプロピレンフィルム OPP50C LS166G
 8LK(乙40)に比べると,顕著に低いものと認められる。これについて,控
訴人は,乙39図1のフィルムB,Cや乙40のフィルムは高い紫外線吸収力を有
する特殊なフィルムであり,むしろ一般的な紫外線吸収効を有するのは同図のフィ
ルムAであるから,被控訴人製品と比較すべきは同Aのフィルムであると主張する
が,フィルムAは一般耐候性グレードの市販PVCフィルムというにすぎず,これ
が紫外線吸収剤を含有していると認めるに足る証拠はないのであるから,フィルム
Aとの対比から被控訴人製品の透明部分に紫外線吸収剤が含まれていると推認する
ことはできない。
 以上によれば,被控訴人製品の透明部分が紫外線吸収剤を含む他のフィルムと同
等の紫外線吸収効を有し,あるいは,市販のPEフィルムと比較して顕著な紫外線
吸収効を有するとの控訴人の主張は認められない。
 イ 控訴人は,被控訴人製品のラベルの粘着剤に紫外線吸収剤が含まれていると
も主張する。確かに,証拠(甲60,乙39)によれば,粘着剤の塗布された被控
訴人製品は,粘着剤を除去した場合と比較して,高い紫外線吸収率を示しており,
控訴人の主張するとおり,被控訴人製品の粘着剤に含まれるビニルトルエン系樹脂
が紫外線吸収に影響を及ぼしている可能性は否定できない。しかしながら,被控訴
人製品の粘着剤に含まれるビニルトルエン系樹脂が,本件考案の「紫外線吸収
剤」,すなわち光学的に有害な300~400nmの紫外線を吸収することを目的
とするサリチル酸誘導体,ベンゾフェノン系,ベンゾトリアゾール系等の化合物に
当たると認めるに足る証拠はなく,かえって,粘着剤を含むフィルムの方が紫外線
吸収効が高いのは被控訴人製品に限られないと認められること(乙39図4,5)
に照らすと,粘着剤を構成する物質の中に紫外線吸収効を有する物質が含まれてい
るにすぎないとも考えられる。したがって,被控訴人製品のラベルの粘着剤に本件
考案にいう「紫外線吸収剤」が含有又は塗布されていると認めることはできない。
 (1-5)以上によれば,被控訴人製品が,構成要件C(「該熱収縮フィルムに紫外
線吸収剤を含有若しくは塗布し,」)を充足するということはできない。
(2) 構成要件D(収縮率)について
 本件実用新案登録請求の範囲には「縦方向の100℃における収縮率が45%以
上であり,横方向の100℃における伸縮率が10%以下である」と記載されてい
る。被控訴人製品が構成要件Dを満たしているというためには,相当な測定方法に
より,被控訴人製品が上記収縮率又は伸縮率を有することを控訴人において立証す
る必要がある。
 収縮率又は伸縮率の具体的な測定方法については,本件実用新案登録請求の範囲
及び本件明細書中には記載されていない。このように,収縮率又は伸縮率の具体的
な測定方法が明細書等に記載されていない場合には,相当と認められる測定方法に
よるほかないが,収縮包装用フィルムの収縮率の試験方法については,JIS規格
(日本工業規格。甲8,乙14)が存在する。同規格は,本件考案後の出願後であ
る平成7年に作成されたものであるが,客観的で相当な試験方法として参照するこ
とができるというべきである。同規格の定める試験方法は,以下のとおりである。
「2 用語の定義
 (5) 収縮率 フィルムを拘束せず,加熱によって自由に収縮させたときの寸法変
化をいい,一般に百分率で表す。
 6 試験
 6.1 収縮率及び収縮比
 6.1.2試験装置 装置及び器具は,次のとおりとする。
(1) 恒温浴槽 フィルム支持具を容易につけこめる大きさで,測定温度80℃か
ら160℃の範囲で±1℃の恒温に保てるものであること。
 (2) 浴液 恒温浴槽内に熱媒液を満たす。液体はフィルムを可塑化したり,反応
したりするものを避け,一般にエチレングリコール又はグリセリンなどを用いる。
 (3) フィルム支持具 ステンレス製金網などで,熱媒液が自由に還流でき,かつ
試験片が浮き上がらないように軽く押さえる構造のものであること。
 6.1.3試験方法 試料をフィルム支持具内にその側面に触れないような位置に平
らにおく。次いで所定の温度
(1)
に保った熱媒液中に手早く浸せきし,所定時間
(2)
加熱
し,自由に収縮させた後取り出して,別に用意した常温の浴液に浸し,約5秒間冷
却した後取り出し,平らに静置して30分以内に縦,横の寸法を測る。

(1)
 最大収縮を生じる温度は,フィルムによって異なるが,この規格では120
℃を基準とする。
 
(2)
 最大収縮を生じる浸せき時間は,フィルムの種類,加工条件及び厚さなどに
よって差異があるが,この規格では20秒を基準とする。」
 原審及び当審において,控訴人及び被控訴人が行った実験のうち,JIS規格が
定める上記試験方法のように,熱媒液に浸漬する方法による実験を挙げると,甲1
5~18,20,21,乙16,18,19,41~43である。このうち,乙1
6は,東京都立産業技術研究所が,収縮前の被控訴人製品を試料とし,これを2枚
の金網間に配置して,シリコンオイルバス中に所定時間浸漬し,その収縮率を測定
したものであり,100℃の浸漬温度で20秒間浸漬した場合の収縮率は約15~
17%であり,100℃で3600秒浸漬した場合の収縮率でも約31%であると
の結果が出ている。この試験は,使用した試料,浸漬時間,熱媒液の温度,実験の
実施機関の中立性等に関し,何ら不相当な点はなく,採用することができる。
 他方,控訴人の行った熱媒液に浸漬する方法による実験は,実験結果が構成要件
Dの収縮値を充足せず(甲7,15),あるいは,構成要件Dの収縮値は充足する
ものの,試料を浸漬する温度が本件実用新案登録請求の範囲に記載された100℃
を超え(甲16),試料を浸漬する時間が前記JIS規格の20秒よりはるかに長
い10分ないし20分である(甲16,17,18,20,21)など,その測定
方法が相当とはいえず,いずれも採用することができない。控訴人は,試料を浸漬
する時間について,ポリエチレンフィルムの融点が120℃より低いことを考慮す
れば,収縮を完了させるために少なくとも10分又は20分加熱することが必要で
あると主張する。しかしながら,フィルムの浸漬時間は,フィルムの種類,加工条
件及び厚さなどによって差異があることを考慮しても,控訴人の主張する加熱時間
はJIS規格で基準とされた加熱時間(20秒)よりはるかに長い時間であり,ポ
リエチレンフィルムについて10~20分の浸漬時間が必要であると認めるに足る
適切な証拠も存在しない。仮に浸漬時間を10分とすることが許容されるとして
も,乙16,41~43のように,収縮前の被控訴人製品を試料として,約100
℃の熱媒液に10分間浸漬した場合の収縮率がいずれも45%に達しなかったとの
測定結果も存在し,控訴人の行った実験については熱媒液の温度測定方法に疑問も
あること(乙42)も考慮すると,被控訴人製品を100℃の熱媒液に10分浸漬
した場合に収縮率が45%以上となるとする実験結果を示す上記証拠はいずれもに
わかに採用し難いものであり,他に10分浸漬した場合の収縮率が45%以上とな
るとの控訴人の主張を認めるべき証拠はないから,控訴人の主張は採用することが
できない。
 控訴人は,さらに,被控訴人製品の熱風(気相)収縮実験も行い(甲35,52
~56(枝番を含む。)),その結果に基づいて,被控訴人製品は構成要件Dを充
足すると主張する。しかしながら,控訴人の行った熱風(気相)収縮実験は,熱媒
液の中で試料を自由に収縮させ,加熱後の試料の縦,横の寸法を測るJIS規格の
測定方法とは大きく異なり,フィルムを疑似容器に巻き付け,その一部に熱風を吹
き付け,容器を回転しながらフィルム全体を加熱した上で,試料を巻き付けた容器
の大円柱の外径と加熱後に試料が巻き付いた小円柱の外径の差を大円柱の外径で除
するという計算方法により収縮率を測定するというものであり,その加熱方法,熱
風温度の管理,収縮率の計算方法に照らすと,測定結果の正確性には疑問がある。
したがって,控訴人の行った熱風(気相)実験の結果は,いずれも採用できない
(なお,被控訴人は,控訴人が当審で提出した甲52~56(枝番を含む。)は時
機に後れた攻撃方法であり,却下されるべきであると主張するが,原審における審
理の経過や甲52~56(枝番を含む。)に記載された実験内容に照らすと,時機
に後れた攻撃方法であるとはいえない。)。
 以上によれば,被控訴人製品は構成要件D(収縮率)を充足するということはで
きない。
 (3) 構成要件A及びH(細口瓶)について
 控訴人は,構成要件A及びHの「細口瓶」について,瓶の注入口部の外径が胴部
に比べて小さいものをいうと主張する。しかしながら,本件考案に係る細口瓶は瓶
の胴部及び栓部の上からラベルで包装することが想定されていることは明らかであ
り,ラベルの縦方向に45%の収縮率が必要となるのも,「細口瓶の栓部分を密着
包装するため」(本件明細書の4欄13行)であるから,胴部の外径と比較すべき
細口部分は栓部の外径と理解するのが合理的である。控訴人自身,審判請求理由補
充書(乙12)において「細口瓶とは,栓の外径が胴部の外径の70%以下のもの
を言います(日本薬局方等)。」(4頁7~8行)と説明し,本件明細書図3に
も,栓部と胴部の径に顕著な差がある瓶が例示されているように,本件考案にいう
「細口瓶」とは,瓶の胴部と栓部の径に顕著な差がある結果,栓をした状態での瓶
に肩部が形成される瓶を意味するというべきである。被控訴人製品が付された瓶に
は,栓部の先端の一部分の外径が小さいものもあるが,いずれも栓をした状態での
瓶に肩部はなく,また被控訴人製品は外径の小さくなった部分には包装されていな
いのであるから,本件考案にいう「細口瓶」に当たるとは認められない。
 なお,控訴人は,栓部と胴部間に肩部を生じるもののみが細口瓶であるとして
も,被控訴人の行為は実用新案法28条2号の規定に該当すると主張するが,上記
判示のとおり,被控訴人製品は本件実用新案登録に係る物品の製造に用いる物であ
るとは認められないのであるから,実用新案法28条2号にも該当しないことは明
らかである。
 3 結論
 以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないので,これを棄却す
ることとして,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所知的財産第4部
        裁判長裁判官     塚  原  朋  一
           裁判官     田  中  昌  利
           裁判官     佐  藤  達  文

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