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平成18年(行ク)第24号仮の差止命令申立事件
本案事件:平成18年(行ウ)第50号営業停止処分及び実名公表処分差止請求事

決定
主文
1本件申立てをいずれも却下する。
2申立費用は申立人の負担とする。
理由
第1申立ての趣旨
1経済産業大臣は,申立人に対し,本案訴訟の第一審判決の言渡しまで,特定
商取引に関する法律23条1項に基づく申立人の行う電話勧誘販売に関する業
務の一部を一時停止すべき旨の命令をしてはならない。
2経済産業大臣は,申立人に対し,本案訴訟の第一審判決の言渡しまで,特定
商取引に関する法律23条2項に基づく第1項記載の命令の公表をしてはなら
ない。
第2事案の概要
本件は,特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」又は「法」とい
う。)2条3項に規定する電話勧誘販売を行う申立人が,経済産業大臣から,
申立人の電話勧誘販売の方法が特定商取引法に違反することを理由に,法23
条1項に基づく業務停止命令及び同条2項に基づく同命令の公表の措置(以下
「本件処分等」という。)を受けるおそれがあるとして,行政事件訴訟法37
条の5第2項に基づき,相手方に対し,本件処分等を仮に差し止めることを命
じるよう求める事案である。
1前提事実(争いのない事実及び証拠により明らかな事実。)
()当事者1
ア申立人
申立人は,法2条3項の電話勧誘販売の方法により,書籍,雑誌の販売
等を行う株式会社である。
イ相手方等
経済産業大臣は,特定商取引法における主務大臣として,法23条1項
の命令を発する権限を有している行政庁であり(法67条1項),相手方
は,経済産業大臣が所属する行政主体である。
()特定商取引法の規制2
特定商取引法は,販売業者等の義務として,①電話勧誘販売をしようとす
るときには勧誘者の氏名等のほか,勧誘をするためのものであることを告げ
なければならないこと(法16条),②売買契約等を締結しない旨の意思表
示をした者に対しては,更に勧誘をしてはならないこと(法17条),③勧
誘をするに際し,売買契約等の締結を必要とする事情に関する事項について
不実のことを告げてはならないこと(法21条1項6号),④売買契約等を
締結させ,又は申込みの撤回若しくは解除を妨げるため,人を威迫して困惑
させてはならないこと(法21条3項),⑤売買契約等の締結について迷惑
を覚えさせるような仕方で勧誘をし,又は売買契約等の申込みの撤回若しく
は解除について迷惑を覚えさせるような仕方でこれを妨げることをしてはな
らないこと(法22条3号,同法施行規則23条1号)をそれぞれ規定して
いる。
()立入検査の実施3
経済産業大臣は,平成17年9月21日,申立人に対し,法66条に基づ
き,立入検査を実施した(疎甲2号証)。
()行政手続法13条1項2号に基づく弁明の機会の付与4
経済産業大臣臨時代理国務大臣は,平成18年7月26日付けで,申立人
が,法2条3項に規定する電話勧誘販売を行うに当たり,法16条,17条
及び21条に違反する行為,並びに法22条3号及び同法施行規則23条1
号に該当する行為を行っており,電話勧誘販売に係る取引の公正及び購入者
の利益が著しく害されるおそれがあると認め,法23条1項の規定に基づき
別紙目録記載の命令(本件業務停止命令)を行い,併せて同条2項の規定に
基づき,上記命令をした旨を公表することを予定しているとして,申立人に
対し,行政手続法13条1項2号の規定に基づいて,同年8月7日までに文
書をもって弁明する機会を与える旨通知した(平成18・07・25中部第
7号,以下「本件通知」という。疎甲5号証)。
()申立人による弁明書の提出5
申立人は,平成18年8月7日,弁明の提出先である経済産業省中部経済
産業局に対し,弁明書を提出した。
()本件申立て6
申立人は,平成18年8月14日,本案事件を提訴するとともに,行政事
件訴訟法37条の5第2項に基づき本件申立てをした。
2争点
()本案について理由があるとみえるときに該当するか。1
()本件処分等がされることによって生ずる償うことのできない損害を避ける2
ため緊急の必要性があるか。
()公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるか。3
()上記業務停止命令の公表の差止めを求める本案事件の適法性4
3争点に関する当事者の主張
()争点()本案について理由があるとみえるときに該当するか。11
(相手方の主張)
ア業務停止命令の適法性
申立人が,電話勧誘販売をするに当たり,AないしF(仮名)を含む顧
客らに対し,組織的かつ継続的に法16条等の上記各規定に違反する違法
な電話勧誘行為を行っていたことは,中部経済産業局産業部消費経済課職
員によるないしに対する聴取等の調査結果の他,多数の消費者からAF
申立人の違法な勧誘行為に対する抗議や苦情が寄せられていること,申立
人は上記違法行為を含む内容を盛り込んだ電話勧誘方法のマニュアルを作
成しており,従業員らはこれらのマニュアルを用いた研修によって教育を
受けた上,違法な電話勧誘行為を行っていたことから明らかであって,こ
れら違法行為の内容,回数,違反の程度に照らすと,申立人に対し,法2
3条の業務停止命令をしたとしても,それが経済産業大臣の裁量権の逸脱
・濫用に当たらないことは明白である。
イ弁明手続上の違法性がないこと
(ア)申立人に対して弁明の機会を付与する旨記載した本件通知においては,
違法な電話勧誘行為が行われた具体的な年月日や被害者の氏名等は特定
されていないが,個別の事例ごとに具体的な勧誘状況が詳細に記載され
ており,申立人の防御権を妨げない程度の具体的な事実の記載はされて
いるというべきである。
(イ)また,行政手続法30条の弁明のための相当な期間とは,不利益処分
の性質に照らして,その名あて人となるべき者が防御の準備をするのに
必要な期間であるか否かとの観点から,処分行政庁において具体的事案
ごとに判断するものであるところ,上記業務停止処分は,一般消費者の
被害の拡大を防止するためのものであり,公益上速やかに申立人に対す
る不利益処分を行うべき必要性,緊急性は極めて高いのであって,申立
人に付与した10日間という弁明期間は,他の不利益処分と比較しても
不当に短いものではない。
ウ結論
以上のとおり,経済産業大臣が申立人に対して予定している業務停止命
令は適法であるから,本件申立てについては「本案について理由があると
みえるとき」の要件を満たさないことが明らかである。
(申立人の主張)
ア本件通知には,申立人が行ったとされる違反行為が記載されているが,
申立人には業務停止命令を受けなければならない違法な事実及び理由は存
在しない。
イまた,本件通知に記載された各事実は,その時期を特定していないばか
りか,架電先や,被害者とされる者の氏名,申立人側の販売員の氏名のほ
か,セールストークで使用した事業者名さえ明らかになっておらず,実質
的に弁明すべき対象行為も特定できない状況であった。
そのため,申立人は,これを明らかにするよう求めたにもかかわらず,
これに応じてもらえず,実質的な弁明の機会が付与されていない。
そこで,十分な弁明を行うため,弁明書の提出期間を延長するように要
求したが,これにも応じてもらえず,十分な弁明をすることができなかっ
た。
ウ以上のとおり,申立人に対して相手方が行おうとしている業務停止命令
は違法である。
()争点()本件処分等がされることによって生ずる償うことのできない損害22
を避けるため緊急の必要性があるといえるか。
(申立人の主張)
ア本件処分等が行われれば,申立人は,その営業の大部分を占める電話勧
誘販売を中止せざるを得ず,極度の経営悪化を招くばかりでなく,4か月
間もの営業停止,実名公表が行われれば,「要注意業者」として,新規顧
客の開拓はおろか,従来の顧客からも取引を打ち切られ,更には,信販会
社等からも取引を中止される現実的な危険性がある。
その後,営業停止処分が終了したとしても,本件処分等による信用の失
墜により,営業再開は事実上不可能になる。
イ以上のとおり,本件処分等により,申立人は,倒産手続きの利用を検討
しなければならなくなり,処分がなされた後の取消訴訟及び執行停止によ
っては回復困難な損害を受けることになる。
ウよって,本件には償うことができない損害を避けるための緊急の必要性
がある。
(相手方の主張)
ア仮の差止めは,暫定的にせよ,本案判決前に目的を実現させるものであ
るから,その要件である「償うことのできない損害」の生ずるおそれにつ
いては,本案訴訟における差止めの要件である「重大な損害」よりも厳格
に解すべきであり,金銭賠償が不可能な損害のほか,社会通念に照らして
金銭賠償のみによることが著しく不相当と認められる場合をいうと解すべ
きである。
イ本件における業務停止命令は,違法行為を行った業者によって,一般消
費者の被害が拡大することを防止するものであり,当該業者に一定の損害
が生じるおそれがあるからといって,直ちに同命令の差止めが認められる
ことになれば,特定商取引法の予定する公益目的の実現が著しく害される
ことになる。
また,業務停止命令によって生じる申立人の損害は,基本的には経済的
損害であり,業務停止命令がなされた後,万が一その取消しの訴えが認容
された場合であっても,その損害は,社会通念上金銭賠償による回復をも
って満足することもやむを得ない性質のものというべきである。
よって,償うことのできない損害が生じるとはいえない。
()争点()公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるか。33
(申立人の主張)
ア申立人は,立入検査以降の手続を通じて,本件通知に記載されているよ
うな違法な勧誘行為をすれば,本件処分等がなされることを十分承知して
いるのであるから,あえてこのような行為を行うはずがない。
イしたがって,本件申立てを認容して仮の差止めを命じても,公共の福祉
には何ら重大な影響はない。
(相手方の主張)
ア法23条1項は,違反行為を行った業者を放置しておくことによっても
たらされかねない一般消費者の被害の拡大を防止する趣旨の規定であるか
ら,仮に申立人に対する業務停止命令が差し止められれば,同項による上
記行政目的の実現に重大な影響を及ぼすことは明らかである。
イよって,本件申立てが認容されると,公共の福祉に重大な影響を及ぼす
ことになる。
()争点()本案事件の適法性について44
(相手方の主張)
ア本件処分等のうち,経済産業大臣が法23条2項に基づき同条1項の命
令を公表することは,同条1項の命令の続行手続として,業務停止命令が
発令された事実を一般に周知させるものであって,公表行為自体によって
申立人に何らかの義務を課したり,その権利行使を妨げる法的効果を持つ
ものではない。
したがって,上記公表行為は,行政処分とは認められない。
イよって,法23条2項の規定に基づく公表行為の差止めを求める訴えは
不適法であり,申立の趣旨第2項については適法な訴えの提起がないから,
却下されるべきである。
(申立人の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1争点()の本案について理由があるとみえるときに該当するかについて検討1
する。
()業務停止処分の違法性の有無について1
ア本件各疎明資料によれば,以下の事実が一応認められる。
(ア)中部経済産業局産業部消費経済課の職員らは,平成17年5月31日
から平成18年1月30日までの間に,申立人の従業員によって電話勧
誘されたAないしF(仮名)の6名の者に対し,申立人従業員の電話勧
誘の態様について調査をした結果,以下のaないしfのとおりの事実を
確認した。なお,上記の6名は,聴取内容を事業者に書面で提示するこ
とは差し支えないが,個人名を明らかにすることは差し控えてほしいと
の意向を示したため,本件通知においては,AないしFと仮名で表記さ
れたものである(疎乙1号証ないし6号証(枝番を含む。))。
aAは,平成16年11月,勤務先で就業中,申立人の従業員から電
話を受けた。同従業員は,Aが以前契約した講座が終了していないの
で,終了のために新たに講座を受講してもらう必要がある旨を告げ,
Aが,そんなはずはない旨述べて電話を切ると,直ぐに電話をかけ直
し,人の話くらい聞いたらどうかなどと大きな声で言った上,Aが以
前に受けた講座の支払いが終わっている旨説明するのに対し,終わっ
ていないものは終わっていないなどと決めつけ,翌日,Aの自宅に契
約関係の書類を送付した。
これに対してAはクーリングオフの通知をしたが,その後も,申立
人の従業員からAの自宅や勤務先への電話が続き,Aから相談を受け
た消費者センターの相談員が申立人に電話をしたところ,これが止ん
だ(疎乙1号証の1ないし3)。
bBは,平成17年3月,勤務先で就業中,申立人の従業員から電話
を受けた。同従業員は,Bが以前マネージメントの資格講座の申込み
をしたことを指摘し,これに対してBが受講する意思がないと応対し
て電話を切ったところ,直ぐに電話をかけ直し,Bの電話の応対ぶり
をしかった上,まだ財務の方が残っているので前回と同じように終了
してもらわないといけない等と執拗に勧誘した(疎乙2号証)。
cCは,平成17年1月,勤務先で就業中に,申立人の従業員から電
話を受けた。同従業員は,Cが以前に宅建主任の講座の契約をしてお
り,その契約が継続しているので,新しい講座を受けるか,消化して
もらう必要がある旨を告げ,Cが,講座を受けるつもりはないと断る
と,やらないとまずいことになるなどと述べ,Cが書類などの受領を
断ったのに書類を郵送した。
そして,Cがこれを申立人に返送すると,Cの勤務先に電話をかけ
て返送したことをとがめ,Cが金輪際電話をしないよう告げたのに対
して,契約をこのままにしておくと当社には弁護士がいるので法的な
手段をとることもあるなどと強い口調で述べ,その後もしばらくの間,
Cの勤務先に1日に数回電話をかけた(疎乙3号証)。
dDは,平成16年12月,勤務先で就業中に,申立人の従業員から
電話を受けた。同従業員は,Dが以前に契約したビジネス関連の講座
が修了しておらず,これを終了する必要があり,再履修という形を取
ってもらうなどと告げ,Dがこれを断ったにもかかわらず,この機会
を逃すとどんどん負担する教材が多くなるなどと1時間半ほどにわた
って執拗に繰り返した。
その後,Dは,申立人から契約書等の書類が繰り返し郵送されてき
たため,前後3回にわたってクーリングオフの通知をした(疎乙4号
証の1ないし7)。
eEは,平成17年5月,勤務先で就業中に,申立人の従業員から電
話を受けた。同従業員はEが以前に契約した講座について,生涯サポ
ートの卒業をしていないので終了させなければならないと告げ,Eが,
以前にも,講座が修了していないと言われて手続をし,修了証書もも
らっていると返答すると,まだ卒業の手続をしていないので試験を受
けなければならないなどと1時間ほどにわたって執拗に勧誘した。
その後,Eの自宅に申立人から契約関係の書類が郵送されてきたが,
Eはクーリングオフの手続をした(疎乙5号証の1・2)。
fFは,平成17年7月,勤務先で就業中,申立人の従業員から電話
を受けた。同従業員はFが締結していた契約は2つコースがあって1
つが残っており,終了手続きを取る必要があって,費用が33万円位
かかるが,分割払いにするか現金払いにするかと問い,Fがこれに応
じる意思がない旨返答すると,それなら勉強を続けていくのかと問い
返し,30分くらいにわたって堂々巡りのようなやり取りを繰り返し
た。
その後,Fは申立人から教材(書籍)と請求書等が郵送され,Fが
返答をせずにおいたところ,再度申立人の従業員から上記と同内容の
電話をかけられた。Fは勤務先の顧問弁護士に相談し,弁護士名で申
立人に通知書を出したところ,申立人からの電話が止んだ(疎乙6号
証の1ないし4)。
(イ)申立人においては,平成17年9月当時,営業課長の甲,課長代理の
乙,主任の丙,丁,戊及び己が営業を担当していた(疎乙12号証)。
申立人は,①新規営業マニュアル,②既成マニュアル,③応酬マニュ
アル(同業者新規),④営業マニュアルなどの電話勧誘におけるセール
ストークが記載された各マニュアルを備えており,新入社員研修におい
て,これらのマニュアルに基づいて営業社員としての心構え,電話勧誘
の仕方,営業トーク等について教育していた。
そして,営業課長の甲の印が押捺してあるノートには,電話勧誘にお
けるセールストークが書き込んであり,「③いらん,送らんでいい」と
の反応に対しては,「ですが,こうでもしないと,われわれジャパンリ
ーディングのカリキュラムは生がい教育(無期限のシステム)なので,
おわらないんですよ。書き写しでもかまわいませんのでお願いします。
そうすれば我々のカリキュラムも無事終わりますので。」,「④それで
もいや!いい!」との反応に対しては,「そしたら従来の方法の方がい
いですか?やっぱり嫌ですよね。また学習指導のれんらくいれまして気
持ちがなくても進められるのは無理ですよね。しょうがないですよね。
変ないい方をすれば事ムしょ理上で申し訳ないんですけど,他の方々と
ちがって,楽して終えて頂だこうというわけなんですよ。」などの営業
トークが記載されていた(疎乙9号証)。
また,別のノートには,「やらないと言い続ける人もう○○さんこ
んな電話イヤですよね?でしたら今回のご処理を取って頂ければ,現状
ご無理が出ている学習の方にきっちり区切りを付けれる形になりますの
で。」などという記載もあった(疎乙16号証)。
(ウ)己は,乙から渡される名簿に記載されている者に次々と電話をし,多
いときは1日100件くらい電話をしていた。己は,マニュアル等に従
って話を進めていき,顧客から言い返された場合にも,マニュアルに従
い,それらの発言に応じたセールストークを用いて勧誘を続けていた。
これらの勧誘トークは,入社後3週間くらいの間に甲から教え込まれ
たものであった。
(エ)戊は,本件立入検査の際,甲から,営業時に使用していた営業マニュ
アル,営業トーク集,研修ノートを隠すよう指示されたが,これらを立
入検査を行った係官に発見されて提出した。
(オ)申立人に対しては,その従業員らの電話勧誘の方法が強引であるなど
として,多数の苦情や取消ないし解除の通知書が寄せられており,その
中には,弁護士が代理人となって,申立人との契約の解除や勧誘行為が
不法行為に該当する旨を指摘して損害賠償を請求するものもあった(疎
乙17号証の1ないし38)。
そして,これらの通知書等には,「受ける気はない旨を伝えことわり
ました。それでも甲氏にこれで最後です。契約してもらわないと困ると
執拗に勧誘された」(疎乙17号証の1)とか,「丙氏より電話が有り,
(中略)送付してきた書類を見たがおかしいと思い,平成16年12月
17日クーリングオフした所,再度丙氏から電話が入り,(中略)それ
では今回契約よりも高額をかけて自力で終わらせて下さい。これは早く
終わらせる為の救済ですと言われ(後略)」(疎乙17号証の3)など
という記載がある。
イ申立人は,上記ア(ア)aないしfの事実関係を否定するが,AないしF
の各聴取結果報告書に記載された聴取内容は具体的かつ詳細で真実性が認
められることに加え,上記のとおり,これらの営業トークないし勧誘方法
が,申立人が従業員の教育に使用していたマニュアルや従業員のノートに
記載された勧誘方法と符合すると見られる部分が相当箇所にわたって存在
すること,申立人の電話勧誘の方法,態様に対しては,AないしFのみで
はなく,それ以外の消費者らからもAないしFらが述べている情況と同様
の苦情が多数寄せられており,消費者の代理人弁護士から申立人の勧誘行
為が不法行為を構成するとして損害賠償を請求する旨通知した事例も見ら
れること,これらの諸事情を総合勘案してみると,申立人の従業員らにお
いて,AないしFに対し,それぞれ上記aないしf記載のとおりの電話勧
誘を行ったこと,その電話勧誘の方法,態様には,①勧誘を行う者の氏名,
商品の種類,又は電話が売買契約の締結について勧誘するためのものであ
ることを告げず(法16条違反),契約を締結しない旨の意思表示をした
者に対して,更に売買契約締結の勧誘をし(法17条違反),契約締結の
必要性につき不実の事実を告知し(法21条1項6号違反),顧客に迷惑
を覚えさせるような形で電話をしたこと(法22条3号,同法施行規則2
3条1号違反)に該当する行為が含まれ,申立人はこれら特定商取引法に
違反する電話勧誘行為を組織的に継続して行ったことが一応認められると
いうべきである。
()弁明手続の違法性の有無について2
申立人は,本件通知に記載された各事実は,その時期,架電先,被害者と
される者の氏名,申立人側の従業員の氏名等が特定されておらず,これでは
弁明すべき対象行為が特定できず,十分な弁明を行うために必要な提出期限
の延長も認められなかったから,このような弁明手続は違法であると主張す
る。
そこで検討するに,行政手続法13条1項2号に基づく弁明の機会の付与
は,処分理由の概要を事前に告知し,これに対する弁明の有無を確認するこ
とによって,行政処分の発令手続の明確性を確保し,併せて名宛人となるべ
き者の防御権を実現させることを目的とするものであって,弁明手続におい
て告知すべき原因事実も,当該処分の性質,原因事実の内容等を総合考慮し,
当該処分の対象となるべき者がその原因事実の存否,内容を確認し,これに
対して必要な反論をすることが可能である程度に具体的であることを要し,
またこれをもって足るものというべきである。
本件通知に記載された6件の事実には,被害者とされる者の氏名がAない
しFと仮名表記され,当該事実の行われた日が明示されず,申立人の従業員
の氏名も明確にされていないが,本件通知の記載によっても,各事実の年月
は特定して記載されているから,当該事実が行われた時期はほぼ確定できる
上,申立人従業員とAないしFとの会話の内容が詳細に記載してあるので,
申立人が数名の従業員を擁するに止まっている事業規模や,特定の名簿に基
づいて電話勧誘を行っている事業態様に照らしてみれば,申立人において本
件通知に記載された各事実関係を担当した従業員を特定し,相手方顧客の氏
名や電話勧誘の際のやり取り等の事実関係の有無及び内容を確認した上,必
要な認否,反論をすることができると解され,それが困難であるとは認めら
れない。
また,弁明書の提出期限は,予定されている処分の性質・内容,原因行為
の態様等に照らし,処分行政庁が合理的な裁量判断によって決すべきもので
あるところ,本件における特定商取引法23条1項の業務停止命令は,違法
な勧誘行為を行い,一般消費者に被害を及ぼす悪質な事業者の活動を停止し,
被害の拡大を防止するという公益上の利益保護を目的とするものであり,緊
急性を要する処分であること,他方,申立人は上記のとおり従業員数名程度
で電話勧誘を行っているにすぎないから,事実関係の確認に要する時間もそ
れほど長時間を要するものとは解されないことからすると,申立人に付与さ
れた10日間という弁明期限が,弁明書を提出する期限として短期間にすぎ
て行政手続法30条の相当な期間に当たらないと認めることはできない。し
たがって,その延長が認められなかったことにも違法があるとはいえない。
()以上によれば,本件について,経済産業大臣が申立人に対し特定商取引法3
23条1項に基づく業務停止命令を発令することについて,裁量権の逸脱・
濫用があるとは認められない。
2争点()の上記業務停止命令の公表の差止めを求める本案事件の適法性につ4
いて
行政事件訴訟法37条の5第2項の仮の差止めの申立てが適法であるために
は,同条の4の差止めの訴えが適法に提起されることが必要であるところ,申
立人が本案訴訟で差止めを求める請求の内,上記業務停止命令の公表の差止め
を求める部分は,特定商取引法23条1項の業務停止命令がなされた場合,こ
れに付随してなされることが定められている事実行為であって,それ自体は行
政処分性を有するものではないから,その差止めを求める請求部分は不適法で
ある。
したがって,本件仮の差止めの申立ての内,上記業務停止命令の公表の仮の
差止めを求める部分は不適法である。
3結論
以上の次第で,本件申立ては,公表行為の仮の差止めを求める部分は不適法
であり,その余の部分は行政事件訴訟法37条の5第2項の「本案について理
由があるとみえるとき」に該当するとは認められないから,これらを却下する
こととし,申立費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用
して,主文のとおり決定する。
平成18年9月25日
名古屋地方裁判所民事第9部
中村直文裁判長裁判官
前田郁勝裁判官
片山博仁裁判官
(別紙)
目録
命令の内容
貴社は,平成年月日(命令の日の翌日)から平成年月日(命令の日
の翌日から起算して4か月後の日の前日)までの間,特定商取引法第2条第3項に
規定する電話勧誘販売に関する業務のうち,次の業務を停止すること。
(1)貴社の行う電話勧誘販売に係る売買契約の締結について勧誘をすること。
(2)貴社の行う電話勧誘販売に係る売買契約の申込みを受けること。
(3)貴社の行う電話勧誘販売に係る売買契約の締結をすること。
以上

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