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平成20年9月16日判決言渡
平成19年(行ケ)第10320号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年7月17日
判決
原告環境資源株式会社
訴訟代理人弁理士三好秀和
同豊岡静男
同小西恵
被告株式会社関商店
訴訟代理人弁理士下田容一郎
同茅野直勝
同瀧澤匡則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2007−800018号事件について平成19年8月3日にし
た審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
平成11年6月30日,発明の名称を「サーマルリサイクルシステム」とす
る発明について特許出願がされ,平成12年9月14日,特許庁から特許第3
108720号として特許権(請求項の数6。以下,この特許権に係る特許を
「本件特許」という。)の設定登録がされた(甲4)。平成19年2月1日,
被告(請求人)は,本件特許について無効審判(無効2007−800018
号事件)を請求した(なお,平成19年7月10日の口頭審理において,請求
項2ないし6に係る特許を無効とする審判請求は取り下げられた。)。特許庁
は,平成19年8月3日,「特許第3108720号の請求項1に係る発明に
ついての特許を無効とする。」との審決(以下「審決」という。)をし,その
謄本は,平成19年8月15日,本件特許の権利者である原告に送達された。
2特許請求の範囲
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は,本件特
許の願書に添付した特許明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面の記
載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定され
る(甲4)。
【請求項1】回収した廃プラスチック及び繊維質材料を原料として廃棄物固
形化燃料を製造する燃料製造装置と,該燃料製造装置が製造した廃棄物固形化
燃料を燃焼させる流動層ボイラとを備えているサーマルリサイクルシステムで
あって,前記燃料製造装置は,破砕された廃プラスチック及び繊維質材料を所
定の重量割合で混合させた混合物を略1g/cmの密度に圧縮し所定の形状3
に成形する圧縮成形機を備えていることを特徴とするサーマルリサイクルシス
テム。
3審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。
その理由の要旨は,本件発明1は,①甲1ないし甲3記載の各発明に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項に違反し
(無効理由1),また,②特許請求の範囲(請求項1)の「略1g/cm」3
との記載が不明確であって,特許法36条6項2号に規定する明確性の要件を
満たしていない(無効理由2)との無効理由が存在するというものである。
審決は,無効理由1の判断をするに当たり,甲1ないし甲3の文献を引用し
たが,それらの各引用例の記載,甲1記載の発明と本件発明1との一致点及び
相違点を,以下のとおり認定した。
(1)各引用例記載の発明
ア甲1(平成8年度電源開発株式会社委託事業「新型廃棄物固形化燃料利
用発電技術開発」紙・プラスチック等固形化燃料(RPF)ハンドリング
技術試験報告書,以下「引用例1」という。)には,「プラスチック等
(フィルム類)及び紙類を原料として,破砕機及び粉砕機からコンベヤー
を介して移動した後,磁選機で金属を分離したものを定量供給機,減容機
を通して固形物とし,該固形物は流動床(流動層)ボイラに投入されると
ともに,該ボイラにおいて該固形物を燃焼させて熱利用を図るRPFのシ
ステム」(以下「引用発明1」という。)が記載されている。
イ甲2(特開平7−118673号公報,以下「引用例2」という。)に
は,「破砕した廃プラスチックに,該廃プラスチックに対し20wt%乃
至30wt%の割合で繊維質材料を混合し,所定の形状に圧縮成形したも
のを切断し,ボイラ等で燃焼させる技術」(以下「引用発明2」とい
う。)が記載されている。
ウ甲3(実願昭57−146829号(実開昭59−51044号)のマ
イクロフィルム,以下「引用例3」という。)には,「高分子系物質30
%,紙屑60%,繊維屑類10%の都市ゴミ又は産業廃棄物からなる原料
を一次圧縮し,削り取られたものをシリンダへ送り,成型され,1m当3
り1,100kg∼1,400kgとなり,固型化された,型状が均一な
燃料を熱源として再利用する技術」(以下「引用発明3」という。)が記
載されている。
(2)本件発明1と引用発明1の一致点
本件発明1と引用発明1とは,「回収した廃プラスチック及び繊維質材料
を原料として廃棄物固形化燃料を製造する燃料製造装置と,該燃料製造装置
が製造した廃棄物固形化燃料を燃焼させる流動層ボイラとを備えているサー
マルリサイクルシステムであって,前記燃料製造装置は,破砕された廃プラ
スチック及び繊維質材料の混合物を圧縮して固形物を形成する圧縮成形機を
備えているサーマルリサイクルシステム」であるという点で一致している。
(3)本件発明1と引用発明1の相違点
本件発明1と引用発明1とは,次のアないしウの点で相違している。
ア本件発明1においては,破砕された廃プラスチック及び繊維質材料を所
定の重量割合で混合させた混合物としているのに対し,引用発明1におい
ては,該構成を具備していない点(以下,相違点の項目に対応させて「相
違点ア」のようにいう。)
イ本件発明1においては,混合物を略1g/cmの密度に圧縮し,成形3
するのに対し,引用発明1においては,該構成を具備していない点
ウ本件発明1においては,圧縮成形機は,混合物を所定の形状に成形する
ものであるのに対し,引用発明1においては,成形される混合物の形状に
ついての記載がない点
第3当事者の主張
1審決の取消事由に関する原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)引用発明2を引用発明1に適用して相違点ア
が容易想到であるとした判断の誤り(取消事由1),(2)引用発明3を引用発
明1に適用して相違点イが容易想到であるとした判断の誤り(取消事由2),
(3)廃棄物固形化燃料の圧縮密度を「略1g/cm」とする限定が不明確であ3
るとした認定判断の誤り(取消事由3)がある。
(1)取消事由1(相違点アに係る容易想到性判断の誤り)
ア審決は,相違点アにつき,①引用例1(甲1)には,破砕された廃プラ
スチック及び破砕された繊維質材料の混合物を圧縮して固形物を形成する
ことが記載されている,また,②引用例2(甲2)には,破砕した廃プラ
スチックに所定の重量割合で繊維質材料を混合させ,これを切断して固形
燃料として使用することが示されているから,燃焼時点においては,繊維
質材料が破砕された状態にある,そして,③引用発明2の効果は,溶融状
態のプラスチックが落下して,ボイラに付着するのを防止する点にあるの
に対し,本件発明1の効果は,廃棄物固形化燃料が流動層ボイラ内壁面に
付着して該内壁面を汚損するのを防止する点にあり,両者の技術的意義に
相違はないから,引用発明1に引用発明2を適用することにより,「破砕
されたプラスチック及び繊維質材料を所定の重量割合で混合させた混合物
とすること」(相違点ア)は,当業者が容易に想到し得たと判断した(審
決書9頁18行∼10頁9行)。
イしかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
まず,引用発明2において,「廃プラスチックに対し20wt%乃至3
0wt%との所定の割合で故紙やラミネート紙等の繊維質材料を混合す
る」ことの目的は,固形プラスチックの溶融滴下を繊維質材料への付着に
より防止する点にあるから,混合前に繊維質材料を破砕してしまうと溶融
した固形プラスチックを繊維質材料に付着させて保持することができなく
なる。したがって,引用発明2に基づいて,破砕を前提とする本件発明1
に想到することが容易であるとはいえない。引用発明2においても廃棄物
固形化燃料は燃焼前にその長さと径に従い切断されているが,それは本件
発明1における破砕とは異なる。
また,本件発明1においては,圧縮成形した廃棄物固形化燃料を流動層
ボイラで燃焼させた場合に,廃棄物固形化燃料の流動層中での浮遊や沈下
を抑制するという課題を解決する手段として,「破砕された廃プラスチッ
ク及び繊維質材料を所定の重量割合で混合させた混合物」を略1g/cm
の密度に圧縮し所定の形状に成形する圧縮成形機を備え,これにより,3
廃棄物固形化燃料の比重を略1に均質化しようとするものである(甲
4)。これに対し,引用発明2は,燃焼時の固形プラスチックの溶融滴下
を混合した繊維質材料への付着により防止しようとするものである。した
がって,本件発明1と引用発明2とではその技術的意義が異なる。また,
引用発明2においては,再生プラスチック燃料を燃焼するボイラが,本件
発明1のような「流動層ボイラ」であることは何ら記載されていない。固
体燃焼を行なうボイラとしては,ストーカー(火格子)型ボイラ,流動層
ボイラ,気流層ボイラと種々存在するところ,引用発明2においては「再
生プラスチック燃料1をボイラ等の燃焼装置の燃焼室にセットし」と記載
され,また専らボイラ内での燃焼時の溶融滴下を問題としていることから
すれば,むしろストーカー型ボイラでの燃焼を示唆しているとみるべきで
ある。したがって,ストーカー型ボイラに係る引用発明2を,流動層ボイ
ラに係る引用発明1に適用する動機付けは存在しない。かえって,ストー
カー型ボイラに係る引用発明2の再生プラスチック燃料を流動層ボイラに
適用しようとすれば,繊維質材料が破砕されていないから燃料の固形化が
不十分でフラグメンテーションの発生及び流動層上部での浮遊の発生する
不都合が生じ得るのであり,当業者はそのような適用を考えない。
よって,引用発明2を引用発明1に適用して本件発明1の相違点アに係
る構成に想到することが容易であるとはいえない。
(2)取消理由2(相違点イに係る容易想到性判断の誤り)
ア審決は,相違点イにつき,引用発明3の「1m当たり1,100kg3
∼1,400kg」が本件発明1の「略1g/m」に相当することを前3
提として,引用発明3は,廃プラスチック及び繊維質材料を原料として廃
棄物固形化燃料を製造するサーマルリサイクルシステムであって,破砕さ
れた廃プラスチック及び繊維質材料を略1g/mの密度に圧縮し所定の3
形状に成形する圧縮成形機を具備するサーマルリサイクルシステムである
とした上で,引用発明1において,廃プラスチック及び繊維質材料を混合
させた混合物を略1g/mの密度に圧縮し,成形するようにした点(相3
違点イ)は,引用発明3に基づき,必要に応じて,当業者であれば,容易
に想到し得たものである旨判断している(審決書10頁22行∼11頁1
6行)。
イしかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
(ア)引用発明3に記載の「燃料」は,本件発明1における「廃棄物固形
化燃料」に相当しない。引用発明3記載の固形燃料製造装置において
は,原料を装置内に送り込むためのスクリュー3A及び一次圧縮された
原料を削り取るための成型ヘッド7の切欠き部7A(4図及び5図)を
有するのみであって,原料を「破砕」する構成を有さず,かつ原料から
異物を除去したり,廃プラスチックとその他の材料を分別回収する構成
も何ら有さないから略1g/cmの密度に圧縮することができない。3
(イ)引用発明3に記載の「燃料」は,分別回収されない都市ゴミを原料
とし,異物を少なからず含むことから,1cm当たりの換算密度は,3
1.1∼1.4g/cmと,分別回収を経ることのない「(2)三菱3
重工業株式会社が一般ごみから製造したRDF」の密度分布に近い数値
を示すといえる(甲6)。このように,異物混入により比重1を上回っ
ている引用発明3の燃料は,ストーカー型ボイラ等の一般燃焼器で燃焼
させるには差し支えないとしても,本件発明1のような流動層ボイラで
燃焼させる場合には,流動層内において流動媒体と共に十分攪拌されず
に沈下するといった不都合を生じるから,不適である。
(ウ)引用発明3に記載の「燃料」は,その大きさの点からみても,「流
動層ボイラ」で燃焼するのに適さない。すなわち,流動層ボイラの燃焼
メカニズムにおいては,燃料が流動層に投入され,流動層内では,下方
から供給される気流により流動媒体粒子と燃料粒子とが攪拌され,燃料
と空気とが均一に混合されて燃焼するが,燃料のサイズが大きすぎると
(例えば,石炭燃料の場合には粒径が25mmを上回ると)攪拌できな
くなって急激に燃焼効率が低下し,流動層ボイラでの燃焼には適さなく
なる。
引用発明3に係る特許出願の出願時のサンプル品のサイズ(甲15の
撮像によれば,直径20cm以上,長さ45cm以上は優に認められ
る。)を,直径20.0cm,長さ45.0cm,密度1.2g/cm
333
とすると,その重量は,(100π×45cm)×1.2g/cm
=16,956.0gとなるから,引用発明3に係る製品(甲15)
は,本件明細書に記載の廃棄物固形化燃料の実に約90倍(16,95
6.0g÷188.4g)の重量を持つことになる。このような1.6
kgもの重量の燃料が容易に攪拌燃焼されることは想定できない。ま
た,このような重量の燃料が流動層ボイラ上方から投入されれば,炉内
設備への衝突によってその損耗が激しくなる。さらに,燃料の表面積が
大きければ大きいほど燃焼しやすいところ,本件明細書に記載の廃棄物
固形化燃料の表面積は,8πcm+(4π×15)cm=213.522
cmであるのに対し,甲15記載の燃料の表面積は,200πcm+22
(20π×45)cm=14,130.0cmであると試算され,甲22
15記載の燃料1個の重量は,本件明細書に記載の廃棄物固形化燃料9
0個分に相当するから,本件明細書に記載の廃棄物固形化燃料は,甲1
5記載の燃料と同じ重量分燃焼される場合と比較して,約5.6倍(2
13.5cm×90÷3,454.0cm)の表面積を持つことにな22
り,燃焼効率が格段に劣る。
(エ)本件発明1において,廃棄物固形化燃料の圧縮密度を略1g/cm
との構成を採用したのは,廃棄物固形化燃料を流動層ボイラで燃焼さ3
せた場合に,比重が1より小さい廃棄物固形化燃料が流動層上部を浮遊
して流動層ボイラの内壁面に付着して当該内壁面を汚損させてしまうと
いう課題を解決するためのものであって,格別の技術的意義を有する。
したがって,そのような格別の課題を有しない引用発明3を引用発明1
に適用して本件発明1に想到することはできない。
(3)取消理由3(「略1g/cm」が不明確であるとした判断の誤り)3
審決は,「略」を用いて特許請求の範囲に記載することにより,発明を不
明確なものとすることは,特許法36条6項2号の趣旨からして許されない
旨判断した(審決書12頁16行∼27行)。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
ア発明の実施品である実製品においてすら規定数値については有効数字と
許容差が定められるのが一般的であるところ,特許請求の範囲に記載され
る発明は,課題解決手段としての技術的思想を表現したものであるから,
1g/cmとの限定に「略」が付されて一定の許容差を規定しているから3
といって,直ちに発明の外延が不明確であるということはできない。そも
そも,本件発明1に係る「廃棄物固形化燃料」が廃棄物を原料とするもの
である以上,破砕された廃プラスチック及び繊維質材料を所定の重量割合
で混合させた混合物を正確に1g/cmの密度に圧縮することは不可能で3
ある。それゆえ,所定の重量の混合物を所定の体積に圧縮して略1g/c
mの密度とすることを特許請求の範囲に記載したのであるから,「略」の3
記載は本件発明1については許容されて然るべきである。
イ本件明細書の記載及び出願時の技術常識によれば,従来の「廃棄物固形
化燃料」は,分別回収された廃プラスチックと紙とを混合して生産される
廃棄物固形化燃料の比重(密度)が0.5から1以下までの範囲に分布し
ていたのに対し,本件発明1における「廃棄物固形化燃料」は,「流動層
上部での浮遊」や「流動層内での浮上及び沈下」が発生しない程度に廃棄
物固形化燃料の比重をできる限り1に近づく値になるよう均質化すべく,
成形前の混合物の圧縮密度を「略1g/cm」と規定したものと解すべき3
である。したがって,本件発明1における,「破砕された廃プラスチック
及び繊維質材料を所定の重量割合で混合させた混合物を略1g/cmの密3
度に圧縮し所定の形状に成形する」との構成の意義は,十分に明確である。
また,最高裁判所平成10年4月28日第3小法廷判決(平成6年
(オ)2378号)は,特許請求の範囲に記載された「1000℃∼90
0℃付近の窯温度」について,「本件発明1の特許請求の範囲にいう摂氏
1000度ないし摂氏900度『付近』の窯内温度という構成における
『付近』の意義については,本件特許出願時において,右作用効果を生ず
るのに適した窯内温度に関する当業者の認識及び技術水準を参酌してこれ
を解釈することが必要である。」と判示し,特許請求の範囲に「1000
℃∼900℃付近」と記載することを是認している。
2被告の反論
(1)取消事由1(相違点アに係る容易想到性判断の誤り)に対して
本件発明1は,審決が判断したとおり,引用発明1ないし3(甲1∼3)
から,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2
項に違反して特許されたものであるから無効である。
(2)取消事由2(相違点イに係る容易想到性判断の誤り)に対して
引用例3記載の「1m当り1,100kg∼1,400kg」で示され3
る密度範囲は,「略1g/cmの密度に圧縮し」た混合物を含み,「略13
g/cmの密度に圧縮した混合物」に相当し,本件発明1の「所定の重量3
割合で混合させた混合物を略1g/cmの密度に圧縮し所定の形状に成3
形」したものと一致する。そして,相違点イに係る構成「混合物を略1g/
mの密度に圧縮し,成形するようにした点は,引用発明3に基づき,必要3
に応じて,当業者であれば,容易に想到し得たものであり,審決の判断に誤
りはない。
(3)取消事由3(「略1g/cm」が不明確であるとした判断の誤り)に対3
して
「特許請求の範囲」で「数値限定」を行う場合には,数値の上限値及び下
限値を示し,下限値及び上限値を示した根拠を実施例中において説明し,発
明の範囲を明確にすべきである。「略1g/m」との記載は明確とはいえ3
ない。
第4当裁判所の判断
事案にかんがみ,本件発明1に係る本件特許に特許法29条2項に違反する無
効理由があるとした審決の判断に誤りがあるか否か(取消事由1及び2)の点に
ついて検討する。
1取消事由1(相違点アに係る容易想到性判断の誤り)について
(1)原告は,引用発明2において,廃プラスチックに対して20wt%ない
し30wt%という所定の割合で故紙やラミネート紙等の繊維質材料を混合
することの目的は,固形プラスチックの溶融滴下を繊維質材料への付着によ
り防止する点にあるところ,混合前に繊維質材料を破砕してしまうと,溶融
した固形プラスチックを繊維質材料に付着させて保持することができなくな
ってしまうから,引用発明2に基づいて,破砕を前提とする本件発明1に想
到することは容易ではない旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
ア引用例1(甲1)の3,4頁及び図1には,「プラスチック等(フィル
ム類)及び紙類を原料として,破砕機及び粉砕機からコンベヤーを介して
移動した後,磁選機で金属を分離したものを定量供給機,減容機を通して
固形物とし,該固形物は流動床ボイラーに投入されるとともに,該ボイラ
ーにおいて該固形物を燃焼させて熱利用を図るRPFのシステム」が記載
されている。その詳細として,「紙類,フイルム頬(本件発明の廃プラス
チックに相当)の破砕機,減容機(同廃棄物固形化燃料製造装置に相当)
等のRPF(同廃棄物固形化燃料に相当)を製造する製造装置,及び減容
機で成形されたRPFを固形物取出コンべヤで搬送し破砕機で紙類,フイ
ルム類を破砕し,減容機における圧縮成形として「破砕された廃プラスチ
ック及び破砕された繊維質材料の混合物を圧縮して固形物を形成する」こ
と,廃プラスチック及び繊維質材料を破砕し,破砕された廃プラスチック
及び繊維質材料を混合し,圧縮して固形物を形成すること,それを下流に
あるRPFを燃焼する流動床ボイラー(4頁の図1の中央部)により燃焼
することが,それぞれ記載,開示されている。
以上のとおり,引用例1には,「回収した廃プラスチック及び繊維質材
料を原料として廃棄物固形化燃料を製造する燃料製造装置と,該燃料製造
装置が製造した廃棄物固形化燃料を燃焼させる流動層ボイラとを備えてい
るサーマルリサイクルシステムであって,破砕された廃プラスチック及び
繊維質材料の混合物を圧縮して固形物を形成する圧縮成形機を備えている
サーマルリサイクルシステム」が記載,開示されている。
また,引用例1の図1の破砕機の上方に,「紙類:170トン/月フ
ィルム類:1,050トン/月」と記載されていることに照らすならば,
紙類:170トン/月フィルム類:1,050トン/月を破砕機に投入
すること,すなわち,RPF(廃棄物固形化燃料)は,紙類とフィルム類
を所定の重量割合で混合するものであることが示唆されていると解され
る。
イ他方,引用例2(甲2)には,以下の記載がある。すなわち,
【0001】【産業上の利用分野】本発明は一般家庭や各種産業の工場か
ら廃棄されるプラスチックを主原料とした再生プラスチック燃料(RPF
:リサイクル・プラスチック・フューエル)に関する。
【0003】【発明が解決しようとする課題】上述した再生プラスチック
燃料はコスト的には重油の1/2∼1/3で,発熱量が高く,しかも重油
に比べて窒素酸化物を殆ど排出しないという利点がある。その一方,溶融
滴下の問題が生じている。即ち,上記の再生プラスチック燃料の燃焼の過
程は,先ず固形のプラスチックが熱によって溶融し,この溶融したプラス
チックが燃焼してガス化するのであるが,再生プラスチック燃料をボイラ
ー等の燃焼装置で燃焼させる過程での溶融状態のプラスチックが落下し,
ガス化せずに燃焼装置の空気取入れ口等に付着する不利が生じ,特に一旦
付着して凝固したプラスチックは極めて剥離しにくいという問題がある。
【0004】【課題を解決するための手段】上記課題を解決すべく本発明
は,破砕した廃プラスチックに対し20wt%乃至30wt%の割合で故
紙やラミネート紙等の繊維質材料を混合し,これを圧縮成形するようにし
た。ここで,繊維質材料の割合(全体に対する重量割合)を20wt%乃
至30wt%としたのは,20wt%未満では溶融滴下が生じやすく,3
0wt%を越えると発熱量の低下を来すことによる。
【0005】【作用】再生プラスチック燃料をボイラー等の燃焼装置で燃
焼させる過程で発生する溶融状態のプラスチックは繊維質材料に付着して
保持され,最終的には完全にガス化(燃焼)する。
【0007】再生プラスチック燃料1は,選別,破砕,固形化及び寸法調
整の工程を経て製造される。選別工程においては,燃焼ガスがボイラーを
腐食させたり,公害を引き起こす恐れのあるものを除去し,例えばポリエ
チレン,ポリプロピレン,ポリスチレン等のポリオレフィン系の廃プラス
チックを選別する。
【0008】上記の選別が終了したならば,破砕機によって廃プラスチッ
クを所定の寸法に破砕した後,これを故紙やラミネート紙等の繊維質材料
と混合し,所定の形状に圧縮成形する。次いで,圧縮成形したものを切断
することで,例えば図1に示すような直径が約40mmで長さが30∼1
00mm程度の円柱状の再生プラスチック燃料1が得られる。
【0010】以上において,再生プラスチック燃料1をボイラー等の燃焼
装置の燃焼室にセットし,燃焼せしめる。燃焼の初期においては図3に示
すように,再生プラスチック燃料1中の廃プラスチック3が熱により溶融
する。しかしながら,溶融した廃プラスチック3は繊維質材料2によって
落下(滴下)せずに再生プラスチック燃料1内にとどまり,最終的には完
全に燃焼(ガス化)する。
【0012】【発明の効果】以上に説明したように本発明に係る再生プラ
スチック燃料は,繊維質材料に廃プラスチックを所定割合混合して成形し
たので,従来の再生プラスチック燃料が有する利点,即ち資源の有効利
用,低コスト及び高発熱量という利点を維持したまま,溶融滴下によって
未燃分がボイラーの空気取入れ口等に付着することを防止でき,完全燃焼
するので,燃焼残渣をコークスや石炭が約20%であるのに対し7%程度
に抑えることができ,且つボイラー等の燃焼装置の清掃が楽になり,燃焼
装置の寿命も延びる。また,繊維質材料として故紙やラミネート紙等を用
いることで,更なるコストダウンを図ることができる。
以上の記載によれば,引用例2には,引用発明1と同様に,破砕した廃
プラスチックに,該廃プラスチックに対し20wt%乃至30wt%の割
合で繊維質材料を混合し,所定の形状に圧縮成形したものを切断し,ボイ
ラー等で燃焼させる技術が開示されている。
ウ上記の各記載によれば,引用発明1と引用発明2は,破砕した廃プラス
チックに,繊維質材料を混合し,所定の形状に圧縮成形したものを切断し
てRPF(廃棄物固形化燃料)を製造し,これをボイラー等で燃焼させる
点で共通し,また,本件特許の出願時においては,RPF(廃棄物固形化
燃料)を燃焼させる目的で流動層ボイラが用いられることは周知であると
いえるから,引用発明2を引用発明1に適用することは,当業者にとって
容易であるといえる。
エこの点に対し,原告は,引用発明2では,廃プラスチックに対し20w
t%乃至30wt%との所定の割合で故紙やラミネート紙等の繊維質材料
を混合する際に,繊維質材料は破砕されてはならないから,この点におい
て,本件発明1における「廃プラスチック及び繊維質材料を所定の重量割
合で混合させ」ることと,その機能作用における共通性がないから,引用
発明2を引用発明1に適用することが容易であるとした審決に誤りがある
と主張する。
しかし,紙類とフィルム類を共に破砕することは引用例1に記載されて
いる事項であり,審決はこれを基礎に容易想到性の判断しており,繊維材
料の破砕の時期,有無についての引用例2の開示内容を基礎とするもので
はないから,審決の誤りをいう原告の主張は,主張自体失当である。
のみならず,引用発明2は,廃プラスチックに対し故紙やラミネート紙
等の繊維質材料を混合する際に,繊維質材料を破砕したものを混合するこ
とは記載されてはいないものの,破砕しない繊維質材料を混合し,所定の
形状に圧縮成形したものを更に切断して,RPF(廃棄物固形化燃料)を
製造するものであり,本件発明1及び引用発明1と同様に,流動層ボイラ
で燃焼する際には,繊維質材料は切断されていることが前提とされてい
る。そして,引用例2には,「【0010】・・・燃焼の初期においては
図3に示すように,再生プラスチック燃料1中の廃プラスチック3が熱に
より溶融する。しかしながら,溶融した廃プラスチック3は繊維質材料2
によって落下(滴下)せずに再生プラスチック燃料1内にとどまり,最終
的には完全に燃焼(ガス化)する。」,「【0012】【発明の効果】以
上に説明したように本発明に係る再生プラスチック燃料は,繊維質材料に
廃プラスチックを所定割合混合して成形したので,従来の再生プラスチッ
ク燃料が有する利点,即ち資源の有効利用,低コスト及び高発熱量という
利点を維持したまま,溶融滴下によって未燃分がボイラーの空気取入れ口
等に付着することを防止でき,完全燃焼するので,燃焼残渣をコークスや
石炭が約20%であるのに対し7%程度に抑えることができ,且つボイラ
ー等の燃焼装置の清掃が楽になり,燃焼装置の寿命も延びる。また,繊維
質材料として故紙やラミネート紙等を用いることで,更なるコストダウン
を図ることができる。」と記載されている。したがって,引用例2のRP
F(廃棄物固形化燃料)内の繊維質材料によって廃プラスチックの未燃分
が溶融してもその滴下をさせず,ボイラーへの付着を防止できるのである
から,「破砕しない繊維質材料を混合すること」と,「破砕した繊維質材
料を混合すること」とに格別な差異があるものともいえない。
また,本件明細書によれば,本件発明1の廃棄物固形化燃料は,実施の
形態としてその直径が35∼50㎜で,長さが約150㎜の円柱状である
(甲4の段落【0039】)のに対し,引用例2には,実施例として「再
生プラスチック燃料1」は,その直径は約40㎜で長さが30∼100㎜
の円柱状(甲2の段落【0008】)であると記載されているように,そ
の大きさによって格別の差異があるとは認められない。
以上のとおり,原告の上記主張は,理由がない。
(2)また,原告は,本件発明1においては,圧縮成形した廃棄物固形化燃料
を流動層ボイラで燃焼させた場合に,廃棄物固形化燃料の流動層中での浮遊
や沈下を抑制するという課題を解決する手段として,「破砕された廃プラス
チック及び繊維質材料を所定の重量割合で混合させた混合物」を略1g/c
mの密度に圧縮し所定の形状に成形する圧縮成形機を備え,これにより,3
廃棄物固形化燃料の比重を略1に均質化しようとするものであるのに対し
(甲4),引用発明2は,燃焼時の固形プラスチックの溶融滴下を混合した
繊維質材料への付着により防止しようとするものであるから,本件発明1と
引用発明2とではその技術的意義が異なること,ストーカー型ボイラに係る
引用発明2を流動層ボイラに係る引用発明1に適用する動機付けが存在しな
いこと等の理由から,引用発明2を引用発明1に適用して本件発明1の相違
点アの構成に想到することは困難である旨主張する。
しかし,原告の上記主張も,以下のとおり失当である。
アまず,甲5(日本粉体工業技術協会編・「流動層ハンドブック」)に
は,流動層燃焼ボイラにおける燃焼に関して,以下の記載がある。
「4/1流動層燃焼ボイラー(FBC)の基本原理4/1/1流動
化特性とボイラー形式固体燃焼は,ガス流速や固体燃料の粒径ストーカ
ー(火格子)燃焼,流動層燃焼,微粉炭燃焼に大きく分けられる。燃料お
よび媒体となる粒子の最小流動化速度よりも低い空塔速度では,粒子は固
定層状態を保ち,ガスは粒子間を通過する。最小流動化速度以上の領域で
は,全体として砂や石灰石などの層媒体(ベッド材,bedmater
ial)を「沸騰状態」にして行う燃焼をバブリング(気泡)流動層燃焼
とよぶ。バブリング流動状態でも微粉はフリーボードを経て系外へ飛び出
すが,空塔速度を更に増して層内粒子の平均終端速度以上とすると粒子は
ガスに同伴して大量に輸送される。飛散した粒子をサイクロンなどにより
補集し,再度燃焼炉へ戻し粒子の循環系を形成したものを循環流動層燃焼
と呼ぶ。循環流動層燃焼ボイラーでは底部を除き気泡はないものの,燃焼
炉上部にも粒子が輸送されるため燃焼炉全域にわたって空気輸送(気流
層)の場合よりも濃厚な層が形成される。さらに空塔速度を上げるか粒子
を小さくすると,気流層の領域となり,燃料粒子が層媒体なしでガスに同
伴されながら燃焼する微粉炭燃焼となる。」(295頁左欄1行∼右欄9
行)との記載があり,「バブリング流動状態でも微粉はフリーボードを経
て系外へ飛び出すが,空塔速度を更に増して層内粒子の平均終端速度以上
とすると粒子はガスに同伴して大量に輸送される。」こと,「さらに空塔
速度を上げるか粒子を小さくすると,気流層の領域となり」との記載か
ら,粒子を小さく(微粉化)すると流動層上部に浮遊し易くなることが開
示されている。
そして,これらの事項は,流動層燃焼ボイラにおいての技術常識と解し
て差し支えないから,引用発明1においても,圧縮成形したPRF(廃棄
物固形化燃料)を流動層ボイラで燃焼させた場合には,その比重が小さい
廃棄物固形化燃料は流動層上部を浮遊し易く,比重が大きい廃棄物固形化
燃料は流動層下方へ沈下し易くなることは,当業者にとって周知事項であ
るといえる。
イまた,甲5には,「c,燃料の種類流動層では可燃物と空気を均一に
混合できれば,あらゆる可燃物を燃焼できるが,難燃性固体可燃物を対象
とすることが多い。」(300頁左欄15行∼18行),及び「一般廃棄
物,産業廃棄物,選炭残差には性状が一定せず,貯蔵槽内位置により性状
が幅広く変化するもの,同時に数種が別々に投入されるもの,それ自体は
良質であっても,粉砕困難な不燃物を多く含むものなどがある。」(30
0頁右欄12行∼16行)と記載されており,流動層ボイラの燃焼におい
ては,可燃物と空気を均一に混合し,可燃物の性状を一定させることが望
ましいことも周知事項といえる。
ウそして,甲5には,「2・1流動層内流動化様式による分類a.
気泡流動層(bubblingfluidizedbed)気泡流
動層は流動層の最も典型的な様式で,図2・1(d)に示すような流動化
状態をとる。流動層である気泡流動層は,円筒下部に粒子を支えるための
支持板(かつ,気体を通すように多数の穴をあけた分散板でもある)を取
り付け,上部から粒子を充填し,円筒底部から気体を流すことで実現でき
る。すなわち,分散板を通して底部から流入する気体の速度を増していく
と,充填層粒子の間をすり抜けるだけだった気体もやがて気泡となり,円
筒を上昇するようになる。この場合,粒子は基本的に上昇する気泡によっ
て押し上げられたり,押しのけられたり,引き上げられたりすることで良
好な混合状態になる。さらにガス速度を増していくと,スラッギング状態
を経て最終的には粒子が円筒から飛び出すことになる。この課程を図示す
れば図2・1のようになる。気泡流動層はあるガス速度範囲で実現できる
ことが理解できる。気泡流動層の実現は流動化させる粒子の性状にも依存
している。Geldartの分類(図2・2)でいえば,A,BおよびC
粒子がその対象となる。」(7頁左欄4行∼右欄17行)と記載されてお
り,図2・2には,Geldartの粒子流動化特性の分類を平均粒径
(横軸)と粒子密度(縦軸)により分類した図が示されている。
すなわち,流動層内の粒子は気泡によって押し上げられて気泡流動層が
実現されるが,その流動化には粒子の性状が影響し,図2・2に示される
とおり,その平均粒径と粒子密度が重要な要因となることは,当業者にと
って周知事項というべきである。
エ上記の周知技術を前提とすれば,引用発明の流動庄ボイラーにおいて,
流動層上部での浮遊や,流動層中での浮上及び沈下を抑制するため,可燃
物の性状,特にその密度(比重)を一定にすること,そのために具体的数
値を定めて可燃物の密度(比重)を特定の値に調整することは当業者が適
宜決定する設計的事項であるといえる。引用発明1の流動層ボイラにおい
て廃棄物固形化燃料を燃焼させようとする場合,本件発明1の流動層ボイ
ラと同様に,流動層上部での浮遊や,流動層中での浮上及び沈下を抑制す
る目的で,可燃物の比重や性状を一定にするために,破砕された廃プラス
チック及び繊維質材料を所定の重量割合で混合したり,可燃物と空気を均
一に混合させようとすることは,当業者であれば容易に想到することがで
きたというべきである。
(3)以上のとおり,相違点アに係る「破砕されたプラスチック及び繊維質材
料を所定の重量割合で混合させた混合物とする」との構成は,引用発明1に
引用発明2を適用することにより,当業者が容易に想到し得たというべきで
あるから,原告の上記主張は理由がない。
2取消理由2(相違点イに係る容易想到性判断の誤り)について
(1)原告は,引用例3に記載の「固形燃料製造装置」は,原料を装置内に送
り込むためのスクリュー3A及び一次圧縮された原料を削り取るための成型
ヘッド7の切欠き部7A(第4図及び第5図)を有するのみであって,原料
を「破砕」する構成を何ら有さず,かつ原料から異物を除去したり,廃プラ
スチックとその他の材料を分別回収する構成を有していないから,引用発明
3を引用発明1に適用して本件発明1の相違点イに係る構成に至ることが容
易であるとした審決の判断には,誤りがある旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
審決は,引用発明3を,「廃プラスチック及び繊維質材料を原料として廃
棄物固形化燃料を製造するサーマルリサイクルシステムであって,破砕され
た廃プラスチック及び繊維質材料を略1g/cmの密度に圧縮し所定の形3
状に成形する圧縮成形機を具備するサーマルリサイクルシステム」(審決書
10頁25行∼29行)と認定し,廃プラスチック及び繊維質材料を原料と
して廃棄物固形化燃料を製造する際に,破砕された廃プラスチック及び繊維
質材料を,略1g/cmの密度に圧縮し所定の形状に成形する点を引用し3
た上で,これを引用発明1に適用して,廃プラスチック及び繊維質材料を混
合させた混合物を略1g/cmの密度に圧縮し,成形することは,当業者3
であれば,容易に想到し得たものであると判断した(審決書11頁13行∼
16行参照)。
本件発明1のように,圧縮成形した廃棄物固形化燃料を流動層ボイラで燃
焼させることは引用例1(甲1)に記載され,また,流動層燃焼ボイラにお
ける燃焼に関し,流動層上部での浮遊や,流動層中での浮上及び沈下を抑制
するため,可燃物の性状,特にその密度(比重)を一定にすること,そのた
めに具体的数値を定めて可燃物の密度(比重)を特定の値に調整する必要性
があることは,当業者が適宜決定する設計的事項であり,さらに,その比重
を略1g/cmとすることは,流動層の充填層粒子の性状や流動層底部か3
ら流入する気体の速度と共に,当業者が適宜決定する設計的事項であるとい
える。そして,引用例3(甲3)には,廃プラスチック及び繊維質材料を原
料として廃棄物固形化燃料を製造するサーマルリサイクルシステムであっ
て,破砕された廃プラスチック及び繊維質材料を圧縮成形機によって略1g
/cmの密度に圧縮し所定の形状に成形することが記載されている。3
したがって,引用発明1において,廃プラスチック及び繊維質材料を混合
させた混合物を略1g/cmの密度に圧縮し,成形するようにすること3
は,当業者が容易に想到し得たものであるといえる。引用例3に,原料を
「破砕」する構成や原料から異物を除去したり,廃プラスチックとその他の
材料を分別回収する構成に関する記載,また上記流動層ボイラにより燃焼す
ることの記載がないことが,審決の示した理由の正当性を左右することには
ならない。
以上のとおり,原告の上記主張は,理由がない。
(2)原告は,引用例3の「燃料」は,上記のとおり「破砕」も分別回収もさ
れていないから,本件発明1の「廃棄物固形化燃料」のような,1cm当3
たりの単位系で比重が均質となる程度に,廃プラスチックと繊維質材料とが
混合される混合物とはなり得ないから,引用例3に記載の「燃料」は,「略
1g/cm」の密度に圧縮されたものではない,とも主張する。3
しかし,原告の上記主張も,以下のとおり失当である。
すなわち,引用例3(甲3)には,「実際の製造例として最も一般的な都
市ゴミを原料とした物は,次の様な結果となる。即ち,原料は紙屑60%,
繊維屑類10%,高分子系物質30%の配分で含水量平均して15%,見掛
比重,1m当り80kgのものを原料としてホッパに投入した場合,スク3
リューで送り込まれ,テーパ室で圧縮されたものは1m当り600kg∼3
800kgとなる。これを成型ヘッドで削り取られシリンダへ送られ,シリ
ンダより成型されて出てきたものは1m当り1,100kg∼1,4003
kgとなる。この際の成型ヘッド,及び芯杆,及びシリンダ内壁等の摩擦
熱,及びシリンダ外周よりの加熱によつて成型される際の原料は約270℃
∼350℃となるため原料に熱変化が発生し,これが成型のバインダーとな
り,固型化されるものである。」(6頁14行∼7頁15行)と記載され,
また,成型された固形燃料の密度は,「1m当り1,100kg∼1,43
00kg」であると記載されている。
他方,本件明細書の特許請求の範囲(請求項1)中の「略1g/cmの3
密度」との構成は,発明の詳細な説明の記載を参酌すると,廃棄物固形化燃
料の浮遊,浮上及び沈下を抑制し得る目的で均質化されることを規定したも
のであるから,その意義が明確に示されているか否かはさておき,「略」の
語が付されているとおり,厳密な意味で「1g/cm」との密度を示すも3
のに限るのではなく,上記の技術的目的に照らして,ある程度の範囲を含む
ものと理解するのが相当である。
そうだとすると,引用例3記載の「1m当り1,100kg∼1,403
0kg」の固形燃料は,「略1g/cmの密度に圧縮し」た混合物を含ん3
でいるものと理解して差し支えないといえるし,少なくとも,「略1g/c
mの密度に圧縮し」た混合物に想到することは容易であるといえる。3
したがって,上記原告の主張を採用することはできない。
(3)原告は,流動層ボイラの燃焼メカニズムにおいては,燃料が流動層に投
入され,流動層内では,下方から供給される気流により流動媒体粒子と燃料
粒子とが攪拌され,燃料と空気とが均一に混合されるため,燃料が大きすぎ
ると急激に燃焼効率が低下し,流動層ボイラでの燃焼には適さないところ,
引用例3に記載の「燃料」は,その大きさの点からみても,「流動層ボイ
ラ」で燃焼するのに適さないので,引用発明3を適用することは困難である
と主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
本件明細書には,廃棄物固形化燃料について,「【0039】図4は,廃
棄物固形化燃料を示す斜視図である。この廃棄物固形化燃料10は,破砕さ
れた廃プラスチック11及び繊維質材料12を混合させた混合物17が略1
g/cmの密度に圧縮され,直径35∼50mm長さ約150mmの円柱状3
に成形されている。そして,この廃棄物固形化燃料10では,繊維質材料1
2は古紙やラミネート紙等の紙類とされ,繊維質材料12の重量割合は20
%程度とされている。」と記載されていることに照らすならば,本件発明1
の燃料の大きさは,直径35∼50mmさ約150mmの円柱状の範囲のも
のを含むと解される。したがって,本件発明1において,燃料の大きさ,製
造過程における「破砕」に格別の技術的意義があると解すべき理由はない。
その他,本件明細書に,破砕により可燃物をどの程度の長さや径にするかに
ついて,何らの開示はなく,また,燃料固形物を略1g/cmの密度に圧3
縮したことと,その作用効果(完全燃焼,燃焼効率,有害物質排出防止,壁
面付着防止は記載)について何らの説明もない。
したがって,原告の主張は,特許請求の範囲の記載又は本件明細書に基づ
かない主張であって,その主張自体失当である。
(4)原告は,本件発明1において,廃棄物固形化燃料の圧縮密度を略1g/
cmにすることは,廃棄物固形化燃料を流動層ボイラで燃焼させた場合に3
は,比重が1より小さい廃棄物固形化燃料が流動層上部を浮遊して流動層ボ
イラの内壁面に付着して当該内壁面を汚損させてしまうという課題を解決す
るためのものであって,格別の意義を有するから,そのような格別の課題を
有しない引用発明3を引用発明1に適用して本件発明1に想到することはで
きない,と主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,流動層ボイラにおいては,流動層内の粒子が気泡によって押し
上げられることによって気泡流動層を形成しているが,その流動化現象には
底部から流入する気体の速度のみならず,粒子の平均粒径と粒子密度が大き
な影響を与えていることが当業者にとって周知の事項であるから(甲5の7
頁図2・2等),引用発明1の流動床(流動層)ボイラにおいては,流動層
上部での浮遊や,流動層中での浮上及び沈下を抑制するために,可燃物の性
状,特にその密度(比重)を一定にすること,そのための具体的数値とし
て,例えば略1g/cmと定めて可燃物の密度(比重)を特定の値に調整3
することは,流動層の充填層粒子の性状や流動層底部から流入する気体の速
度と同様に,当業者において適宜決定する設計的な事項であるということが
できる。そして,引用発明1の燃焼においても,比重が1より小さい廃棄物
固形化燃料を燃焼させると流動層上部を浮遊して流動層ボイラの内壁面に付
着して当該内壁面を汚損させるという問題点が内在していたものと推認され
るのであって,これを解決するために廃棄物固形化燃料を一定の比重に均質
化することは前記のとおり当業者にとって適宜決定する設計的な事項であっ
たといえる。したがって,原告主張のように本件発明1において上記課題を
解決するために廃棄物固形化燃料を略1g/cmに圧縮調整することが格3
別の意義を有するとはいえないから,引用発明3を引用発明1に適用して本
件発明1に想到することが困難であるとはいえない。
以上のとおり,この点の原告の主張も理由がない。
(5)小括
引用発明3を引用発明1に適用して相違点イ(混合物を略1g/cmの3
密度に圧縮し,成形する構成)が容易想到であるとした審決の判断に誤りは
なく,原告の主張は理由がない。
3結論
以上によれば,原告主張の取消事由1及び2はいずれも理由がなく,本件発
明1に係る本件特許に特許法29条2項に違反する無効理由があるとした審決
の判断に誤りはないから,その余の点を判断をするまでもなく,原告の本訴請
求は理由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官齊木教朗
裁判官嶋末和秀

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