弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告(当時は大阪税関伊丹空港税関支署長)が平成五年八月二三日付けで原告
に対してした原告の輸入申告に係る別紙物件目録記載一ないし三の物件に対する積
戻し命令を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
第二 事実の概要
 本件は、被告が、原告の輸入しようとする別紙物件目録記載一ないし三の物件
(以下個別的に「本件絵画①ないし③」といい、一括して「本件各絵画」とい
う。)が関税定率法(平成六年法律第二五号による改正前。以下「関税定率法」と
いう。)二一条一項四号所定の著作権侵害物品に該当するとして、同条二項、関税
法(平成六年法律第二五号による改正前)一〇七条、同法施行令九二条(平成六年
政令第四一四号による改正前)に基づき本件各絵画の積戻しを命じたため(以下
「本件処分」という。)、これを不服とする原告が、本件各絵画は著作権侵害物品
に当たらないとして、被告に対し、本件処分の取消しを求めた事案である。
一 争いのない事実
1 原告は、絵画の輸入、販売を業とする者であるところ、本件各絵画を日本国内
において展示、販売するため、平成四年七月一六日、被告に対し、本件各絵画の輸
入申告をした。
2 被告は、原告に対し、平成五年八月二三日付けで本件処分をした。
3 原告は、被告に対し、異議申立てをしたが、平成五年一二月二一日、右異議申
立ては棄却された。
二 争点についての当事者の主張
1 被告の主張
(一) 本件各絵画は、画家【A】がそれぞれ別紙原画目録記載一ないし三の絵画
(以下個別的に「本件原画①ないし③」といい、一括して「本件各原画」とい
う。)に依拠して制作したものであるところ、本件各原画とは異なる若干の加筆、
修正が加えられているものの、このような相違点は極く僅かで、創作的な思想又は
感情が表現されているともいえないから、本件各原画の複製物にすぎない。また、
仮に、本件各絵画が本件各原画の複製物に当たらないとしても、本件各原画におけ
る表現形式上の本質的な特徴は、本件各絵画自体によって容易にこれを感得するこ
とができるから、本件各絵画は、本件各原画の二次的著作物にすぎず、これと別個
独立の著作物であるということもできない。したがって、本件各絵画は、いずれに
しても、本件各原画に係る著作権のうちの複製権(著作権法二一条)ないし改作利
用権(同法二七条)を侵害するから、本件処分は適法である。
(二) 本件各絵画においては、引用して利用する側の著作物と引用されて利用さ
れる側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、両著作物間に前者が主、
後者が従の関係があるとは到底いい難いから、本件各絵画における本件各原画の利
用は、著作権法三二条一項所定の「正当な引用」には該当しない。
2 原告の主張
(一) 本件各絵画は、【A】自身の新たな主張と表現が盛り込まれており、本件
各原画とは全く別個独立の著作物であって、本件各原画の著作権を侵害する単なる
複製物ないし二次的著作物ではないから、本件各絵画が関税定率法二一条一項四号
所定の著作権侵害物品に該当するとしてされた本件処分は違法である。
(二) 仮に、本件各絵画が本件各原画の複製物ないし二次的著作物に当たるとし
ても、本件各絵画の場合には、本件各原画を改変して利用することにより本件各原
画に対する批判、揶揄等を表現したいわゆるパロディーで、しかも引用して利用す
る側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識すること
ができるのであって、両著作物間に前者が主、後者が従の関係が認められるから、
本件各絵画は、著作権法三二条一項所定の「正当な引用」として本件各原画を利用
したものにすぎず、本件各原画の著作権を侵害しない。
第三 争点に対する判断
一 著作権法六条三号によると、条約により我が国が保護の義務を負う著作物は、
同法による保護を受ける著作物とされているところ、この条約として、文学的及び
美術的著作物の保護に関するベルヌ条約(以下「ベルヌ条約」という。)がある。
二 当事者間に争いのない事実に、証拠(甲一、二の一ないし三、三、六の二、
七、一六、乙一の一ないし二〇、二ないし六、七の一ないし九、八の一ないし四、
九の一、二)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
1 原告は、絵画の輸入、販売業者であるところ、ハンガリー生まれの画家【A】
が制作した本件各絵画を含む絵画一三点を日本国内において展示、販売するため、
平成四年七月一六日、被告に対し、右絵画の輸入申告をした。右絵画の輸入申告書
には、仕入書とともに英字新聞記事のコピーが添付されており、仕入書には、
「【B】、【C】、【D】(以下「【B】」、「【C】」、「【D】」とい
う。)」等の著名画家の名が記され、英字新聞記事には、【E】 De Hory
―the master of imitation」との記載があった。そこ
で、被告部下職員が現品検査を実施したところ、本件各絵画には、右著名画家の署
名がそれぞれ記載されており、裏面には、鉛筆による「【E】」の署名と四桁の数
字が記されていた。【A】は、米国人作家【F】の「贋作」という伝記小説のモデ
ルとなったことで知られ、右小説によると、同人は、著名画家の絵画を模倣し、こ
れを本物として売却していたとされている上、我が国においても、昭和四一年に国
立西洋美術館が【A】の作品を誤って【G】等著名画家の作品として高値で購入し
た疑いがあることが指摘され、国会で審議されたことがあったことから、被告は、
前記絵画一三点が関税定率法二一条一項四号所定の著作権侵害物品に該当する疑い
があるとして、調査を開始した。その結果、被告は、本件各絵画が本件各原画の著
作権を侵害するものと判断し、平成五年八月二三日付けで本件処分に及んだ。
2 本件絵画①は、ガウンを纏った短髪の少年ないし少女が暖炉の前の椅子に腰掛
け、手に持ったスープ皿からスープを飲もうとしている場面を描いた絵画であり、
その左下部分には【B】の署名が記されている。一方、本件原画①は、本件絵画①
と同一の構図であり、両者を比較すると、画中の人物の頭部、暖炉の描き方等に若
干の相違があるものの、暖炉やテーブルの上の静物の配置、壁に掛けられた二枚の
絵の形状、絨毯の柄等、細部に至るまで酷似しており、その筆致もよく似通ってい
る。
3 本件絵画②は、画面中央の道を挟んでその両側に建ち並ぶ民家とその上方に広
がる曇空を描いた絵画であり、画面左下部分には【C】の署名が記されている。他
方、本件原画②は、本件絵画②と同一の構図であり、両者を比較すると、道端の人
物や民家の窓の数等に若干の相違があるものの、建ち並ぶ民家や電柱、木々の配置
等、細部に至るまで酷似しており、寒色系の色彩を多用した画面上半分と暖色系中
心の画面下半分との強いコントラスト、遠近感を強調するため、上下方向に長く延
ばした大胆な筆遣い等、その色調や筆致もよく似通っている。
4 本件絵画③は、画面ほぼ一杯に描かれた女の肖像画であり、その右下部分には
【D】の署名が記されている。一方、本件原画③は、本件絵画③とほぼ同一の構図
の女の肖像画であり、両者を比較すると、本件原画③は、画中人物の髪が緑、顔が
水色、白、橙、赤、服が白、背景が水色で描かれているのに対し、本件絵画③は、
髪が赤及び緑、顔が白、緑、赤、服が白及び黒、背景が赤及び緑で描かれていて、
色調に違いがみられるほか、本件絵画③の画中人物の胸元には、本件原画③にはな
い首飾りのようなループ模様が描かれている等の相違点がある。もっとも、両者
は、ともに黒で輪郭を描いた上、その枠取りされた内側を他の色彩で塗っていく浮
世絵のような立体感に欠ける手法によって描かれており、画中人物の顔面を取り囲
む巻き毛の表現と思われる楕円形の図柄の配置、黒線で描かれたアーモンド型の目
や長方形の鼻の形状等、その構図、筆致はよく似通っている。
5 フランス及びスペインは、ベルヌ条約同盟国であるところ、著作権の存続期間
は、フランスでは著作者の死後五〇年と、スペインではその死後六〇年とされてい
る。本件原画①の著作者である【B】は、フランス国籍を有した者であり、一九四
七年一月二三日に死亡し、その絵画の著作権は、フランスのADAGP協会及びS
PADEM協会において管理されている。本件原画②の著作者である【C】も、フ
ランス国籍を有した者であり、一九五八年一〇月一一日死亡し、その絵画の著作権
は、フランスのADAGP協会において管理されている。また、本件原画③の著作
者である【D】は、スペイン国籍を有した者であり、一九七三年四月八日死亡し、
その絵画の著作権は、フランスのSPADEM協会において管理されている。
 以上の事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
二 そこで、まず、本件各絵画が本件各原画の複製物ないし二次的著作物に該当す
るか否かについて判断する。
 前記認定事実、殊に本件各絵画が、本件各原画と構図、筆致、色調においてよく
似通っており、その画面下方に本件各原画の著作者の署名が記されているところ等
からすれば、本件各絵画が本件各原画に依拠して制作されたことは明らかというべ
きであり、前記認定のとおり、本件各絵画と本件各原画との間には、画中人物等の
数や描写、首飾りの有無等、その細部において若干の相違が見られ、本件絵画③に
ついては色調にも差異が認められるとはいうものの、いずれの場合もその構図及び
筆致は酷似していて、相当注意深く丹念に観察しない限り、右のような相違点を発
見することは困難であって、本件各絵画から本件各原画の内容及び形式を容易に覚
知することが可能であるから、本件各絵画は、本件各原画の複製物に該当すると解
するのが相当である。
 もっとも、原告は、本件各絵画と本件各原画の間の右に挙げた相違点を強調し、
本件各絵画は【A】独自の主張と表現が盛り込まれた本件各原画とは全く別個独立
の著作物である旨主張する。
 しかしながら、前記認定説示のとおり、本件各絵画と本件各原画の相違点は極く
僅かにすぎず、両者を比較対照して観察すれば、相違点よりもはるかに類似点の方
を強く印象付けられることは明らかであって、本件各絵画は、本件各原画の表現形
式上の本質的な特徴を備えているというべきであるから、仮に、本件各絵画に
【A】独自の創作性が加えられているとしても、右創作性によって本件各原画の著
作物としての特徴が認識し得なくなり、本件各絵画が本件各原画とは全く別個独立
の著作物となったということは到底できない。
三 そこで、次に、本件各絵画における本件各原画の利用が著作権法三二条一項所
定の「正当な引用」に該当するか否かについて判断する。
 著作権法三二条一項は、「公表された著作物は、引用して利用することができ
る。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報
道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われなければならない。」
と規定しているところ、右規定の趣旨に照らせば、同項にいう「正当な引用」に該
当するためには、少なくとも、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する
側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することが
でき、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められること
を要するものというべきである。
 そこで、これを本件についてみるに、前記認定説示のとおり、本件各絵画と本件
各原画の相違点は極く僅かであり、本件各絵画は、本件各原画とその構図、筆致、
色調においてよく似通っていて、これを一瞥しただけで本件各原画に依拠して制作
されたものであることを看取し得るものであるから、本件各絵画が引用に係る本件
各原画を明瞭に区別し、これを従たるものとして引用しているということは到底で
きない。
四 以上によれば、本件各絵画が関税定率法二一条一項四号所定の著作権侵害物品
に該当するとしてされた本件処分は適法であり、原告の請求は理由がない。
(裁判官 下村浩藏 福井章代 清野正彦)
物件目録
一 種類  油絵
著作者 【A】
署名  【B】
題名  Boy sitting in chair eating
但し、別紙図面一1記載の絵画
二 種類  油絵
著作者 【A】
署名  【C】
題名  A villageroad and darksky
但し、別紙図面一2記載の絵画
三 種類  油絵
著作者 【A】
署名  【D】
題名  The clown―like woman
但し、別紙図面一3記載の絵画
原画目録
一 【B】筆「FEMME AU PEIGNOIR ROUGE」
但し、別紙図面二1記載の絵画
二 【C】筆「風景」
但し、別紙図面二2記載の絵画
三 【D】筆「女の顔」
但し、別紙図面二3の絵画
別紙図面一1
<30790-001>
別紙図面一2
<30790-002>
別紙図面一3
<30790-003>
別紙図面二1
<30790-004>
別紙図面二2
<30790-005>
別紙図面二3
<30790-006>

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