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平成20年9月16日判決言渡
平成19年(行ケ)第10340号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年7月17日
判決
原告メンター・グラフィクス・コーポレーション
訴訟代理人弁理士伊東忠彦
同湯原忠男
同大貫進介
同伊東忠重
被告特許庁長官
鈴木隆史
指定代理人山下雅人
同江塚政弘
同山本章裕
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための附加期間を30
日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2004−22999号事件について平成19年5月29日にし
た審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない前提事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年11月16日を国際出願日として(国際特許出願PCT
/US00/31780。優先権主張日1999年11月23日及び2000
年11月15日・米国),発明の名称を「擬似ランダム及び決定論的なテスト
パターンを発生する解凍器・擬似ランダムテストパターン発生器」とする発明
について,特許出願(特願2001−540387号。以下「本願」という。
請求項の数33)をした(甲14)。
特許庁は,本願について,原告に対し,平成16年4月9日,拒絶通知をし
(甲1),原告は,同年7月13日,特許庁に対し,意見書及び手続補正書を
提出した(甲2,3)。
特許庁は,平成16年8月3日,本願について拒絶査定(甲4。以下「本件
拒絶査定」という。)をしたので,原告は,同年11月8日,これに対して,
不服の審判請求(不服2004−22999号事件)をするとともに,特許請
求の範囲の補正(以下「本件補正」という。甲5,6)をした。
特許庁は,平成19年5月29日,本件補正を却下した上で,「本件審判の
請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をした。その謄
本は,平成19年6月12日に原告に送達された。
2本件補正の内容
(1)本件補正前の請求項1及び31は,次のとおりである(本件補正前の請
求項31記載の発明を以下「補正前発明」という場合がある。甲2)。
【請求項1】被テスト回路内のスキャンチェインにテストパターンを与え
る方法であって,動作の擬似ランダム段階において,初期値を供給すること
と,前記初期値から1組の擬似ランダムテストパターンを生成することと,
前記被テスト回路内の前記スキャンチェインに前記擬似ランダムテストパタ
ーンを与えることとを有し,動作の決定論的段階において,テスタから1組
の圧縮された決定論的テストパターンを供給することと,前記圧縮された決
定論的テストパターンが供給されている時に,圧縮された決定論的テストパ
ターンを解凍された決定論的テストパターンに解凍することと,前記解凍さ
れた決定論的テストパターンを前記被テスト回路内の前記スキャンチェイン
に与えることとを有する方法。
【請求項31】前記スキャンチェインにテストパターンを与える手段と,
動作の擬似ランダム段階において,1組の擬似ランダムパターンを生成し,
動作の決定論的段階において,1組の決定論的テストパターンを生成するよ
うに前記テストパターンを与える手段を構成する手段と,回路ロジックと,
前記テストパターンを与える手段により生成されたテストパターンを受け取
り,前記回路ロジックにより生成された前記テストパターンに対する応答を
取得するよう動作可能である,前記回路ロジックに結合されたスキャンチェ
インが設けられた回路。
(2)本件補正後の請求項1及び31は,次のとおりである(本件補正後の請
求項31の発明を,以下「補正後発明」という場合がある。なお,下線部分
が補正箇所である。甲6)。
【請求項1】被テスト回路内のスキャンチェインにテストパターンを与え
る方法であって,動作の擬似ランダム段階において,前記被テスト回路上の
解凍器・PRPGに初期値を供給することと,前記初期値から1組の擬似ラ
ンダムテストパターンを生成することと,前記被テスト回路内の前記スキャ
ンチェインに前記擬似ランダムテストパターンを与えることとを有し,動作
の決定論的段階において,前記被テスト回路上の前記解凍器・PRPGにテ
スタから1組の圧縮された決定論的テストパターンを供給することと,前記
解凍器・PRPGに前記圧縮された決定論的テストパターンを供給しなが
ら,圧縮された決定論的テストパターンを解凍された決定論的テストパター
ンに解凍することと,前記解凍された決定論的テストパターンを前記被テス
ト回路内の前記スキャンチェインに与えることとを有する方法。
【請求項31】スキャンチェインにテストパターンを与える手段と,動作
の擬似ランダム段階において,1組の擬似ランダムパターンを生成し,動作
の決定論的段階において,1組の決定論的テストパターンを生成するように
前記テストパターンを与える手段を構成する手段と,回路ロジックと,前記
テストパターンを与える手段により生成されたテストパターンを受け取り,
前記回路ロジックにより生成された前記テストパターンに対する応答を取得
するよう動作可能である,前記回路ロジックに結合されたスキャンチェイン
が設けられた回路。
3審決の内容
(1)審決の判断は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,
ア補正後発明は,特開平4−236378号公報(以下「引用例」とい
う。甲9。また,引用例記載の発明を「引用発明」という。)及び周知事
項に基づいて当業者が容易に発明することができたから,特許法29条2
項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができない,し
たがって,本件補正は平成18年法律第55号による改正前の特許法17
条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するから,
特許法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の
規定により却下されるべきものであるとして本件補正を却下した上,
イ補正前発明は,引用発明及び周知事項に基づいて,当業者が容易に発明
をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けるこ
とができないから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもな
く,本願は拒絶されるべきものであると判断した。
(2)審決は,引用例と補正後発明との一致点及び相違点を,以下のとおり認
定した。
ア一致点
「スキャンチェインにテストパターンを与える手段と,1組の擬似ランダ
ムパターンを生成する手段と,回路ロジックと,前記テストパターンを与
える手段により生成されたテストパターンを受け取り,前記回路ロジック
により生成された前記テストパターンに対する応答を取得するよう動作可
能である,前記回路ロジックに結合されたスキャンチェインが設けられた
回路」である点
イ相違点
(ア)相違点1
補正後発明においては「動作の擬似ランダム段階」と「動作の決定論
的段階」とを有しているのに対して,引用発明においては疑似ランダム
パターンを与える「STUMPS」と決定論的テストパターンを与える
「DSPT」とを組み合わせるとされていて,テストの段階については
明示されていない点。
(イ)相違点2
補正後発明においては,①「動作の決定論的段階において,1組の決
定論的テストパターンを生成」する手段が回路内に設けられており,ま
た,②「動作の擬似ランダム段階において,1組の擬似ランダムパター
ンを生成し,動作の決定論的段階において,1組の決定論的テストパタ
ーンを生成するように前記テストパターンを与える手段を構成する手
段」も回路内に設けられているのに対して,引用発明においては,①決
定論的テストパターンを生成する手段は回路内に設けられておらず,②
「テストパターンを与える手段を構成する手段」については明示されて
いない点。
第3当事者の主張
1審決の取消事由に関する原告の主張
審決には,以下のとおり,(1)意見書提出の機会が与えられなかった手続上
の違反(取消事由1),(2)補正後発明の相違点2の容易想到性判断の誤り
(取消事由2)がある。
(1)取消事由1(意見書提出の機会が与えられなかった手続上の違反)
審判合議体は,補正後発明に対して審判段階において意見書や補正書の提
出機会を与えずに拒絶審決をしたものであるから,特許法159条2項で準
用する特許法50条の規定の趣旨に反しており,その審理手続には瑕疵があ
る。
本件拒絶査定の備考欄の記載は,請求項1に対するものであり,請求項3
1に対するものではない。原告は,請求項31についての拒絶の理由は平成
16年7月13日付け手続補正書により解消し,拒絶理由には,請求項31
に対するものは含まれていないものと理解した。
この点について,被告は,請求項31に記載されている技術的要素は,請
求項1に実質的にすべて含まれているから,拒絶査定において,請求項1に
拒絶理由があることを指摘している以上,請求項31にも拒絶理由のあるこ
とを指摘していると理解されるのは当然である旨主張する。しかし,そのよ
うな読み方は,請求項31に拒絶理由があると理解する旨を出願人に強要す
るものであって,不当である。
審査前置解除時には,通常審尋又は拒絶理由が発せられるにもかかわら
ず,審尋も拒絶理由も通知されずに拒絶査定の理由に挙げられていなかった
請求項31に係る発明が特許要件を具備していないという理由により,出願
全体について拒絶審決がされた。このように審査前置解除時に意見書,補正
書を提出する機会が与えられずにされた審決は,その審理手続に違法な瑕疵
があるから,取り消されるべきである。
請求項1が特許を受けるに足りるにもかかわらず,請求項31を進歩性を
欠くとして出願全体を拒絶することは特許法の趣旨に反する。審判請求手数
料の体系から判断しても,発明の保護に欠ける。
(2)取消事由2(相違点2の容易想到性判断の誤りについて)
審決は,甲10ないし甲12を例示して,「『動作の決定論的段階におい
て,1組の決定論的テストパターンを生成』する手段を回路内に設けるこ
と,および『動作の擬似ランダム段階において,1組の擬似ランダムパター
ンを生成し,動作の決定論的段階において,1組の決定論的テストパターン
を生成するように前記テストパターンを与える手段を構成する手段』を回路
内に設けること(以下「周知事項」という。)は,周知であると認定した。
しかし,審決の周知事項の認定に関して,以下のとおりの違法がある。
まず,審決は,甲10ないし甲12のうち具体的にどの記載に基づいて,
上記の周知事項を認定したかを明らかにしていないから,理由不備の違法が
ある。
また,甲11の図5及び甲12の図1の解凍器,スキャンチェインが,回
路内(被テスト回路を含むマイクロチップ上・甲14の【0010】)に設
けられていることが示されていない。このように,甲10ないし甲12のい
ずれにも,「1組の決定論的テストパターンを生成するように前記テストパ
ターンを与える手段を構成する手段」は明示されていないので,審決の周知
事項の認定には誤りがある。
以上のとおり,審決が,引用発明及び周知事項に基づいて,相違点2に係
る補正後発明の構成を当業者が容易に発明することができたとした認定,判
断には誤りがある。
2被告の反論
(1)取消事由1(意見書提出の機会が与えられなかった手続上の違反)に対

本件拒絶査定は,平成16年4月9日付け拒絶理由通知書に記載した理由
1により拒絶するとしており,拒絶理由通知書における「理由1」は,
「(請求項1−5,9−15,17−20,24−33について)」と記載
されている。確かに,本件拒絶査定の備考欄には,「出願人は,意見書にお
いて,引用文献1におけるDSPT法のテストパターンは圧縮されたもので
はなく,引用文献1には,テスタから圧縮されたテストパターンを供給し,
これを解凍するという請求項1記載の発明の特徴点が記載も示唆もされてい
ないと主張している。しかしながら,・・・これを解凍してDUTに印加す
ることは当業者が容易に想到し得たことである。」と記載されている(甲
4)。しかし,請求項1に対する上記記載は,拒絶理由の理由1の記載の一
部を重ねて記載したものにすぎず,請求項1以外の請求項についての拒絶理
由が解消したことを示すものではない。
請求項31に記載された技術的要素は,請求項1に実質的にすべて含まれ
ているから,請求項1に拒絶の理由が存在するのであれば,当然に請求項3
1にも同様の拒絶の理由が存在することになるのは,両請求項の構成要素の
対応関係上自明である。
原告は,請求項1については平成16年7月13日付けの手続補正書及び
平成16年11月8日付けの本件補正書による補正により,拒絶理由及び拒
絶査定の理由を解消しようとして,請求項1について拒絶理由通知時及び拒
絶査定時における拒絶の理由を前提として,対応措置を採った。一方で,そ
のような対応行動を採っているにもかかわらず,請求項1と技術的に共通す
る請求項31について,実質的な補正をすることなく,従前の拒絶の理由・
拒絶査定の理由が解消していると理解するのが合理的な読み方であるとする
主張には根拠がない。
原告は,前置解除時に,審尋又は更なる拒絶理由が発せられるべきである
と主張する。しかし,審尋するかどうかは審判合議体の裁量に属する。ま
た,前置解除時に更なる拒絶理由を発する義務を定めた規定はない。特許法
159条2項は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由
を発見した場合に拒絶の理由を通知することを定めているが,本件のような
場合はこの規定に該当せず,更なる拒絶理由を発する必要はない。
(2)取消事由2(相違点2の容易想到性判断の誤り)に対し
甲11及び甲12には「1組の決定論的テストパターンを生成するように
前記テストパターンを与える手段を構成する手段」(解凍器,スキャンチェ
イン)が回路内(電流を運ぶことの出来る互いに接続された路又はそのグル
ープ内)に設けられていることが記載されているから,原告の主張は失当で
ある。
また,周知技術を引用発明に適用して,相違点2に係る構成とすること
は,当業者にとって格別困難なことではない。
したがって,周知事項の認定に誤りがあり,誤った周知事項を前提に相違
点2の容易想到性の判断をした審決に誤りがあるとする原告の主張は,失当
である。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,取消事由に係る原告の主張はいずれも理由がないものと判断す
る。事案にかんがみ,実体上の違法事由である取消事由2を先に検討する。
1取消事由2(相違点2の容易想到性判断の誤り)について
原告は,審決には,甲10ないし甲12のうち具体的にどの記載に基づいて
周知事項を認定したか明示していない点において理由不備があり,また,甲1
0ないし甲12には「1組の決定論的テストパターンを生成するように前記テ
ストパターンを与える手段を構成する手段」を「回路」内に設ける技術が示さ
れていないにもかかわらず,同事項を認定した誤りがある旨,及び相違点2に
ついての容易想到性判断の誤りがある旨を主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。
(1)甲10について
ア甲10には,以下の記載がある。
【0015】図1において,101は半導体集積回路,103は検査対象
となるスキャンパス設計された論理回路ブロック,102は被検査回路に
対して乱数パターンを発生する乱数生成回路,116は被検査回路に対す
るパターンがあらかじめ記憶された補助パターン記憶メモリ,108は組
込み自己検査時に論理回路ブロック103に対して乱数生成回路102で
生成したパターンを使用するか補助パターン記憶メモリ116に記憶され
たパターンを使用するかを選択し制御するための選択回路であるセレク
タ,109は被検査回路から出力されるパターンを圧縮する出力パターン
圧縮回路,111は期待値保持レジスタ,110は出力パターン圧縮回路
109と保持された期待値を比較し良否結果信号112を出力するための
出力比較回路である。
【0016】被検査回路である論理回路ブロック103が含まれる半導体
集積回路101の内部に,乱数生成回路102と補助パターン記憶メモリ
116,およびそれらを選択・制御するセレクタ108を設計する。論理
回路ブロック103に対しては,通常は外部または他のブロックから入力
されるが,自己検査時には,乱数生成回路102でパターンを生成して論
理回路ブロック103に入力するか,乱数生成回路102からは生成し得
ないパターンをあらかじめ記憶しておいた補助パターン記憶メモリ116
から読み出して論理回路ブロック103に入力するかを選択できるように
設計をおこなう。乱数生成回路102は,論理回路ブロック103のスキ
ャンフリップフロップ104の合計数にかかわらず,2(2のm乗)が許m
容される全体のテスト時間に十分収まるパターン数となるように,mの値
を決定し,乱数生成回路102を,mをレジスタ113の個数とする線形
フィードバックシフトレジスタ114で構成して設計する。補助パターン
記憶メモリ116は,スキャンチェーン105の総本数分をビット数と
し,またその総本数と同数のメモリ出力ライン118をもつ。メモリ制御
信号117の変化により,アドレスカウンタ119の出力値が1ずつ変化
して,補助パターン記憶メモリ116を読み出しアクセスするアドレスを
1ずつ変えることによって,読み出す値を次々と変えていく。補助パター
ン記憶メモリ116には,1つのアドレスごとに1クロック信号でスキャ
ンチェーン105にシフトインするデータを記憶しておく。したがって,
補助パターン記憶メモリ116には,スキャンフリップフロップ104に
対してスキャンチェーン105を通してシフトインするのに必要な総クロ
ック数のアドレスを有する。
【0017】次に,論理回路ブロック103に対して組込み自己検査を実
行する場合には,まず,切り替え信号107でセレクタ108を制御する
ことにより,自己検査生成パターン生成回路として,乱数生成回路102
を選択し,乱数生成回路102で生成したパターンをスキャンチェーン1
05上のスキャンフリップフロップ104に各スキャンチェーン105ご
とに順次シフトインすることにより,論理回路ブロック103内ではスキ
ャンチェーン105に接続したスキャンフリップフロップ104を使用し
てスキャンパステストを行う。スキャンフリップフロップ104に対して
乱数生成回路102で生成し得るすべての組み合わせの状態を設定し終え
ると,次に切り替え信号107でセレクタ108を制御することにより,
自己検査生成パターン生成回路として,補助パターン記憶メモリ116を
選択し,補助パターン記憶メモリ116にあらかじめ記憶しておいたパタ
ーンを順次読み出してスキャンチェーン105上のスキャンフリップフロ
ップ104に各スキャンチェーン105ごとに順次シフトインすることに
より,論理回路ブロック103内ではスキャンチェーン105に接続した
スキャンフリップフロップ104を使用してスキャンパステストを行う。
なお,106はスキャン入力信号,115は排他的論理和ゲートである。
イ以上によれば,①動作の擬似ランダム段階において1組の擬似ランダム
パターン(乱数)を生成するようにテストパターンを与える手段として
「乱数発生回路102」が,②動作の決定論的段階において1組の決定論
的テストパターン(あらかじめ記憶しておいた補助パターン)を生成する
ようにテストパターンを与える手段としては「アドレスカウンタ119」
及び「補助パターン記憶メモリ116」とからなる構成が,③動作の擬似
ランダム段階において1組の擬似ランダムパターンを生成し,動作の決定
論的段階において1組の決定論的テストパターンを生成するようにテスト
パターンを与える手段を構成する手段としては「セレクタ108」が,④
それぞれ回路としての「半導体集積回路101」内に設けられることが記
載されている。
したがって,甲10には,「1組の決定論的テストパターンを生成する
ように前記テストパターンを与える手段を構成する手段」を「回路」内に
設ける技術が開示されている。
(2)甲11について
ア甲11(その翻訳文である乙1)には,以下の記載がある。
(ア)「テストパターンの解凍器は,次の二つのモードで運転される:す
なわち,擬似ランダムのモードと決定論的モードである。最初に挙げた
モードでは,疑似ランダムパターン生成器(PRPG)が純粋にテスト
パターンの生成器として使用される。後者の事例の場合には,可変長シ
ードが,直列的にスキャンされ,バウンダリスキャンのインターフェー
スを通ってPRPG及び内部スキャンチェインの部分に送られ,これに
続いて,解凍が,PRPG及び解凍器を形成するために相互接続された
選定されたスキャンのフリップフロップを使用して並列的に実行され
る。」(乙1,1頁)。
(イ)「混合モードテストパターン生成が上記のシナリオに対して魅力的
な代替手段となっている[8],[11],[13]。これは,テストが容易な故
障をカバーするのに擬似ランダムのパターンを使用し,その後に残りの
テストが困難な故障を標的とするのに決定論的パターンを使用する。テ
ストポイントの挿入[17],[18]といったその他のアプローチとは対照的
に,混合モードの技術は,回路の修正を課することなく,性能の劣化を
引き起こすことなく,完全な故障カバレッジ率を達成することができ
る。また,決定論的パターンと擬似ランダムのパターンの相対的な数を
変化させることによってテストパターンの保存とテスト適用時間の間の
異なるトレードオフを実現することも可能になる。しかし,混合モード
の生成器に基づくBIST方式の全体的な効率性は,テストパターンの
総量を減少させるのに採用される方法に大きく依存している。」(乙
1,2頁,3頁)。
(ウ)「2.4ハードウェアの実施
提案されている解凍の方式は,組込テスト戦略の一環としてハードウ
ェアの中で実施することができる。全体的なアーキテクチャは,テスト
コントローラ,チップ上の解凍器・PRPGを伴っている多数のIC,
メモリ装置からなっている。決定論的テストパターンを適用するため
に,テストコントローラは,圧縮されたテストパターンをメモリから取
り出し,これを遅い(直列の)チャネルを通してICに転送する。チッ
プ上にあるテストハードウェアは,これが受け取るデータを解凍し,結
果として生じるテストパターンをテストされる回路に適用する。」(乙
1,11頁,12頁)。
(エ)「図5は解凍器・PRPGの設計を表示している。」と記載され
(乙1,12頁13行),図5が示されている。そして,当該図5に
は,解凍器・PRPG,スキャンチェイン(Scan)及びテストされ
る回路(CUT)のそれぞれの接続関係が記載されている(乙1,12
頁)。
(オ)「解凍器・PRPGは次の三つのモードのいずれかで運転されてい
る:
●擬似ランダムのモード:解凍器・PRPGは擬似ランダムのテストパ
ターンを生成する(解凍の信号とロードシードの信号は両方とも0であ
る)。
●シフトモード:シードと多項式のIDが解凍器・PRPGの中に移行
する(ロードシードの信号は1である);多項式のIDはシードに添付
されているために,多項式のIDはPOLYIDのレジスタの中に保
存され,シードがMP−LFSRに転送される。
●解凍のモード:解凍器・PRPGが,シードと多項式のIDに関連さ
せたベクトルを生成する(解凍の信号が1であるのに対してロードシー
ドは0である)。
ひとつのテストパターンを解凍し適用するのにテストコントローラが
実施するステップは次の通りである:
1)スキャンと共有されているフリップフロップを含めてMP−LFS
Rをリセットする。
2)シフトモードにスイッチする。
3)添付される多項式のIDを伴っているシードを移動させる。
4)解凍のモードにスイッチする。
5)クロックサイクルLをMP−LFSRに適用することによってテス
トパターンを解凍する。
6)機能モードにスイッチする。
7)テストパターンをテストされる回路に適用する。
8)応答をテスト応答アナライザにシフトアウトする。」(乙1,12
頁末行,13頁)。
(カ)「したがって,もし擬似ランダムの生成をおこなうためのLFSR
が既に実施されている場合には,解凍器・PRPGが必要とするのは,
多項式のIDを保存するためのqのフリップフロップ,MP−LFSR
のフィードバックのプログラムを作成するための論理とデコーダ,シー
ドを移動させるためのマルチプレクサ,MP−LFSRのフリップフロ
ップのためのリセットの回路構成要素からなる最小限の面積オーバーヘ
ッドのみである。」(乙1,13頁)。
(キ)「本節では,STUMPSのアーキテクチャの構成に類似している
組込自己テストの構成を持つマルチプルスキャンチェインの設計のため
の二次元のハードウェアの解凍器が提案される。この設計の目標は,数
の大きい特定されるビットを持つテストキューブの解凍を可能にすると
ともに,面積オーバーヘッドを最小限に抑えることにある。このため,
解凍器は,PRPGのフリップフロップ並びにスキャンチェインからの
フリップフロップを使用することによって実施される。」(乙1,15
頁,16頁)。
(ク)「単一のスキャンチェインの事例の場合と同様に,生成器は,ラン
ダムと決定論的の二つの運転モードを持つ。ランダムのモードでは,P
RPGが独立して動作し,擬似ランダムのパターンを生成する。しか
し,決定論的モードの場合には,特別なフィードバックが解凍器を実施
するために使用可能にされる。」(乙1,17頁)。
(ケ)「各回路に対して,10Kのランダムなパターンが,ランダムのモ
ードの中で作動するPRPGによって生成され,テストするのが容易な
故障を検知するために回路に適用された。これの後に,動的圧縮を伴う
決定論的テストパターンの自動生成器(第5節を参照)が,完全な縮退
故障カバレッジ率を実現するのに必要とされるテストキューブを作り出
すために使用された。」(乙1,17頁37行∼18頁2行)。
イ以上によれば,組込テストのために,①1組の擬似ランダムパターン
と,1組の決定論的テストパターンを生成するようにテストパターンを生
成する「解凍器・PRPG」(図5の「LFSR」),②擬似ランダムパ
ターンと,決定論的テストパターンのいずれかを生成するようにテストパ
ターンを与える手段を構成する手段としての「テストコントローラ」,③
回路としての「テストされる回路」(図5の「CUT」)を相互に接続す
ることが記載されている。
この点について,原告は,甲11の図5の解凍器,スキャンチェイン
が,回路内(被テスト回路を含むマイクロチップ上・甲14の【001
0】)に設けられていることが示されていないとも主張する。しかし,甲
11の図5における解凍器及びスキャンチェインは,テストされる回路と
接続して「組込(ビルト−イン)テスト」として用いられるものであり,
1つの回路内に設けられていると理解するのが自然であるというべきであ
るから,原告の上記主張は理由がない。
したがって,甲11には,「1組の決定論的テストパターンを生成する
ように前記テストパターンを与える手段を構成する手段」を「回路」内に
設ける技術が開示されている。
(3)甲12について
ア甲12(その翻訳文である乙2)には,以下の記載がある。
(ア)「混合モードに指向したテスティング〔8〕−〔12〕は,完全な
故障検出率を達成するために2タイプのテストパターンを利用する。擬
似ランダムテストパターンは,イージー・トウ・テスト欠陥をカバーす
るのに応用されるが,決定論的テストパターンは残されたハード・トウ
・テスト欠陥をターゲットとしている。明確に保存するために要求され
たメモリ量として,決定論的テストパターンは実際の施行には大き過ぎ
る。混合モードのテストパターン生成の成否は,大部分がテストパター
ンを圧縮及び解凍するのに使用される方法に依存する。
近年,複数多項式線形フィードバック・シフトレジスタ(MP‐LF
SR)の再シードに基づく方法は,決定論的及び擬似ランダムテストパ
ターン〔9〕‐〔12〕を生成するように提案してきた。この方法はス
キャン設計と互換性を有し,再シードに使用された同じMP‐LFSR
が擬似ランダムのテストパターン生成に再使用される。」(乙2,1
頁)。
(イ)「本書は,決定論的及び擬似ランダムテストパターンを生成するた
めの新たな方式を呈示するものである。この方式は,再シードのコンセ
プトに基づいているが,決定論的テストパターンを圧縮及び解凍するの
に可変長シードを使用する。」(乙2,2頁)。
(ウ)「2基本構想
図1に示すように,2原初多項式と連関したk‐ビットMP‐LFq
SRを考慮し,L‐ビットのスキャンチェインにリンクすると仮定す
る。」と記載され(乙2の2頁13∼15行),図1が示されている。
そして,当該図1には,PRPG,スキャンチェイン(ScanCh
ain)及びテストされる回路(CircuitUnderTes
t)のそれぞれの接続関係が記載されている(乙2,2頁)。
(エ)「5ハードウェア手段
提案された解凍方式は,混合モード・テストパターンを使用するビル
ト‐イン・テスト戦略の一部とするハードウェアで実施可能である。全
体のアーキテクチャは,テストコントローラ,オンチップ解凍器を有す
る多数のIC及びメモリユニットから構成される。ひとつの決定論的テ
ストパターンを適用するために,テストコントローラはメモリーから圧
縮されたテストデータを取り出し,それをスロー(シリアル)チャンネ
ルを通じてICに転送する。オンチップ・テスト・ハードウェアは,受
信したデータを解凍し,生成されたテストパターンをテストされる回路
に応用する。」(乙2,9頁)。
(オ)「図6は,解凍器・PRPGの設計を示している。」(乙2,9頁
24行)と記載され,同頁(甲12,430頁)に図6が示されてい
る。そして,当該図6には,解凍器・PRPG,スキャン(Scan)
のそれぞれの接続関係が記載されている。
(カ)「解凍器・PRPGは,3モードの一つで作動する(表5):
・擬似ランダム‐モード:解凍器・PRPGは擬似ランダムテスト
パターンを生成する。
・シフト・モード:シード及び多項式IDは,解凍器・PRPGにシ
フトされる。多項式IDはシードに添付されるため,POLYID
レジスタに保存され,シードはMP‐LFSRに包含される。
・解凍モード:解凍器・PRPGは,シード及び多項式IDに連関
したテストパターンを生成する。
ひとつのテストパターンを解凍及び応用するために,テストコントロ
ーラによって実行されるステップは下記の通りである:
1.スキャンと共有したフリップ‐フロップを含むLFSRをリセット
する。
2.シフトモードにスイッチする。
3.添付された多項式IDを有するシードをシフトする。
4.解凍モードにスイッチする。
5.Lクロック・サイクルをMP‐LFSRに応用することにより,テ
ストパターンを解凍する。
6.機能モードにスイッチする。
7.テストパターンをテストされる回路に応用する。
8.署名アナライザにレスポンスをシフトアウトする。」(乙2,10
頁)。
(キ)「更に,擬似ランダムテストパターン生成に係るLFSRが既に実
施されていると,解凍器・PRPGは最小面積のオーバーヘッドだけを
要求し,qフリップ‐フロップは多項式IDを保存し,幾つかのロジッ
ク及びデコーダがMP‐LFSRのフィードバックをプログラムする。
1個のマルチプレクサがシードをシフトし,最後にMP‐LFSRのフ
リップ‐フロップに係る回路系をリセットする。」(乙2,11頁)
イ以上によれば,ビルト−イン・テストのために,①1組の擬似ランダム
パターンと,1組の決定論的テストパターンを生成するようにテストパタ
ーンを生成する「解凍器・PRPG」,②擬似ランダムパターンと,決定
論的テストパターンのいずれかを生成するようにテストパターンを与える
手段を構成する手段としての「テストコントローラ」,③回路としての
「テストされる回路」を相互に接続することが記載されている。
この点についても,原告は,甲12の図1の解凍器,スキャンチェイン
が,回路内(被テスト回路を含むマイクロチップ上・甲14の【001
0】)に設けられていることが示されていないと主張する。しかし,甲1
2の図1における解凍器及びスキャンチェインは,テストされる回路と接
続して「組込(ビルト−イン)テスト」として用いられるものであり,1
つの回路内に設けられていると理解するのが自然であるというべきである
から,原告の上記主張は理由がない。
したがって,甲12には,「1組の決定論的テストパターンを生成する
ように前記テストパターンを与える手段を構成する手段」を「回路」内に
設けることが技術が開示されている。
(4)周知技術の認定及び容易想到性の誤りについて
以上のとおり,甲10ないし甲12には,いずれも「1組の決定論的テス
トパターンを生成するように前記テストパターンを与える手段を構成する手
段」を「回路」内に設ける技術が開示されている。
原告は,審決には,甲10ないし甲12のうち具体的にどの記載に基づい
て,上記の周知事項を認定したかを明らかにしていない理由不備の違法があ
ると主張する。
しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,審決は,「『動作の
決定論的段階において,1組の決定論パターンを生成』する手段を用いるこ
と,および,『動作の擬似ランダム段階において,1組の擬似ランダムパタ
ーンを生成し,動作の決定論的段階において,1組の決定論的パターンを生
成するように前記テストパターンを与える手段を構成する手段』を回路に設
けることは,優先日前に頒布された刊行物である特開平11−174126
号公報(特に,段落【0015】∼【0017】および図1における,『ア
ドレスカウンタ119』と『補助パターン記憶メモリ116』とからなる構
成,および「セレクタ108」についてそれぞれ参照)(判決注甲10),
RAJSKIJETAL:“TESTDATADECOMPRESSIONFORMULTIPLESCANDESIGNA
WITHBOUNDARYSCAN”IEEETRANSACTTIONSONCOMPUTERS,IEEEINC.NEW
YORK,US,vol.47,no.11,November1998(1998-11),pages1188-1200
(判決注甲11),およびZACHARIANETAL:“Decompressionoftes
tdatausingvariable-lengthseedLFSRs”30April-3May1995,PRO
CEEDINGS13THIEEEVLSITESTSYMPOSIUMIEEECOMPUT.SOC.PRESSLOSA
LAMITOS,CA,USA,PAGE(S)426-433(判決注甲12)に示されていると
おり周知のことであり,」と記載して,周知事項の根拠を説示している(審
決書11頁5行目以下)。そして,甲11及び甲12については,論文集の
一部を特定,抜粋することにより,説示したものであるが,前記(3),(4)で
検討したとおり,特定抜粋部分は,図面を含み,全体の論旨を明確に示した
ものであること,特定抜粋部分の分量も,それぞれ13頁,8頁であって,
出願人に大して過大な検討を強いるものではないこと,甲10の具体的な説
示部分と相まって,審決の指摘した趣旨が十分に把握できるものであること
等に照らすならば,審決における周知事項の説示が不明確であるとの原告の
主張は理由がない。
そして,補正後発明は引用発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発
明することができたということができるから,特許法29条2項の規定によ
り独立して特許を受けることができないと認定した審決は適法であり,原告
主張の取消事由2は理由がない。
2取消事由1(意見書提出の機会が与えられなかった手続上の違反)について
原告は,本件拒絶査定には,請求項1が容易想到であるとの判断のみ記載さ
れ,請求項31についての判断は記載されていなかったから,本件の審判手続
において,請求項31に関する拒絶理由通知を発するべきであるにもかかわら
ず,そのような手続をしなかった点において,審判には,意見書及び補正書の
提出の機会を与えなかった手続上の瑕疵があり,審決は違法であると主張す
る。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,理由がない。
(1)手続の経緯について
各証拠によれば,以下の手続経緯を認定することができる。
ア拒絶理由通知
拒絶理由通知には,以下の記載がある(甲1)。
「(理由1)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前日本国
内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づい
て,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有す
る者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第
2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
(請求項1−5,9−15,17−20,24−33について)引用文献
1−3
引用文献1の段落0005には,疑似ランダムテストパターンを用いる
STUMPS法と決定論的テストパターンを用いるDSPT法を組み合わ
せて試験を行う点が記載されている。
圧縮したテストパターンを復元してDUTに印加することは引用文献2
に,また,セル状のオートマトンにより疑似ランダムデータを発生させる
ことは引用文献3にそれぞれ示されるように従来より周知の事項である。
引用文献等一覧
1.特開平4−236378号公報
2.特開平11−153655号公報
3.特開平9−130378号公報」
イ意見書・補正書
(ア)補正書
請求項31については,以下のように補正された(甲2,3∼4
頁)。
【請求項31】
前記スキャンチェインにテストパターンを与える手段と,
動作の擬似ランダム段階において,1組の擬似ランダムパターンを生
成し,動作の決定論的段階において,1組の決定論的テストパターンを
生成するように前記テストパターンを与える手段を構成する手段と,
回路ロジックと,
前記テストパターンを与える手段により生成されたテストパターンを
受け取り,前記回路ロジックにより生成された前記テストパターンに対
する応答を取得するよう動作可能である,前記回路ロジックに結合され
たスキャンチェインが設けられた回路。
(イ)意見書
また,原告は,請求項31に係る発明に容易想到性がないことについ
て,以下のとおり記載した意見書を提出した(甲3,2頁)。
「したがって,当業者にとっても,引用文献1,2,3に基づき請求項
1,13,17,31,33に係わる発明に想到することは容易ではあ
りません。第29条第2項に基づく拒絶理由(理由1)は,解消された
ものと確信いたします。同様に請求項2−5,9−12,14,15,
18−20,24−30,32の拒絶理由も同様の理由で解消されたも
との確信いたします。」
ウ本件拒絶査定
本件拒絶査定には以下の記載がある(甲4)。
「この出願については,平成16年4月9日付け拒絶理由通知書に記載
した理由1によって,拒絶をすべきものである。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足
りる根拠が見いだせない。
備考
出願人は,意見書において,引用文献1におけるDSPT法のテストパ
ターンは圧縮されたものではなく,引用文献1には,テスタから圧縮され
たテストパターンを供給し,これを解凍するという請求項1記載の発明の
特徴点が記載も示唆もされていないと主張している。
しかしながら,先の拒絶理由通知において指摘したように,圧縮したテ
ストパターンを復元してDUTに印加することは引用文献2に示されるよ
うに従来周知の事項であるから,引用文献1記載のものにおいて,DSP
T法のテストパターンとして圧縮したものを用い,これを解凍してDUT
に印加することは当業者が容易に想到し得たことである。
したがって,出願人の上記主張を採用することはできない。」
エ審判請求
(ア)審判請求書
原告は,請求項31に係る発明について,以下の事項を主張した。
「請求項31に記載の回路は,『スキャンチェインにテストパターンを
与える手段と,動作の疑似ランダム段階において,1組の疑似ランダム
パターンを生成し,動作の決定論的段階において,1組の決定論的テス
トパターンを生成するように前記テストパターンを与える手段を構成す
る手段と』を有することを特徴とする。この特徴は引用文献1と2には
記載も示唆もされていない。したがって,請求項31に記載の発明は進
歩性を有する。」(甲5,3頁)
また,請求項31以外の請求項については,以下の事項を主張した
(甲5,2頁)。
「本願につき,本審判請求書と同日付の手続補正書により,請求項1,
13,17,33を補正し,引用文献との相違点を明確にした。」
(イ)補正書
原告は,請求項31について,「前記」を削除する補正をした(甲
6,3頁)。
(2)判断
上記認定した手続経緯に基づいて判断する。
拒絶理由通知においては,その「理由1」において,「請求項1−5,9
−15,17−20,24−33について」と明示しているのであるから,
審査官が,出願時の請求項31に係る発明について,「理由1」に記載した
拒絶理由が存在する旨を通知したことは明らかである。原告は,請求項31
に係る発明についても,同拒絶理由に対して,補正と意見書を提出している
のであるから,拒絶理由に,いかなる請求項に対する拒絶理由を示したかに
ついて,不明確な点はない。
次に,拒絶査定においては,「この出願については,平成16年4月9日
付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって,拒絶をすべきものである。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討したが,拒絶理由を覆すに足りる
根拠が見いだせない。」と明示しているのであるから,審査官が,請求項3
1に係る発明についても,拒絶理由通知(「理由1」)と同一の拒絶理由が
存在すると判断したことは明らかであり,拒絶査定には,いかなる請求項に
対する拒絶理由を示したかについて不明確な点はない。
この点,拒絶査定では,「備考」として,原告が意見書に記載した点のう
ち,特に「引用文献1には,・・・請求項1記載の発明の特徴点が記載も示
唆もされていない・・・」との主張に対して,上記の拒絶理由で指摘した引
用文献1,引用文献2を根拠として,原告の述べた意見書の主張が失当であ
る理由を具体的に記載することによって,原告の主張を排斥している。
しかし,拒絶理由において,このような判断内容が「備考」欄において記
載されたからといって,その体裁,内容に照らして,拒絶査定の理由が,請
求項1に対する拒絶理由に限定され,他の請求項に対する拒絶理由が解消さ
れたと読まれる合理的な根拠はない。すなわち,拒絶査定の備考欄の記載
は,「初期値から1組の疑似ランダムパターンを生成する」「動作の決定論
的段階において,テスタから1組の圧縮された決定論的テストパターンを供
給する」(判決注下線部は補正箇所)などとの事項を補正した請求項1に
ついてもなおかつ拒絶理由通知に記載された「理由1」と同じ拒絶の理由が
存在し,これにより拒絶されるべきものであるとの判断を示したものと理解
するのが自然であるから,そのような判断が備考欄に追加付記されたことに
よって,その余の請求項についての拒絶理由が解消したと理解される余地は
ない。)。
のみならず,原告は,審判手続において,請求項31を含む他の請求項1
3,17,33について,補正をし,各請求項について,進歩性について意
見を述べているのであって,原告自身も,拒絶理由が請求項1に限られたも
のでないと理解していたことが推認される。
以上の経緯に照らすならば,審判手続において,意見書等提出の機会を与
えなかったために,実質的に原告の利益保護を欠いたとする手続違背はな
い。
その他,原告は,審決の手続違背について,縷々主張するが,いずれも,
理由がない。
(3)以上のとおり,審判の審理手続には瑕疵がなく,審決の手続は適法にさ
れたものであるから,原告主張の取消事由1は,理由がない。
3結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他原告は,
審決の違法について縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官齊木教朗
裁判官嶋末和秀

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