弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1第1事件
処分行政庁が原告に対して平成26年2月26日付けでした道路交通法103
条1項5号に基づく運転免許効力停止処分を取り消す。
2第2事件
被告は,原告に対し,96万1900円及びこれに対する平成26年7月11
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,道路交通法(以下「法」という。)の座席ベルト装着義務及
び最高速度遵守義務に違反したことを理由に,処分行政庁から,法103条1項
5号に基づき,平成26年2月26日付けで,運転免許の効力を60日間停止す
る処分(以下「本件処分」という。)を受けたところ,本件処分は,原告が指定
最高速度を超えて自動車を運転したという事実がなく,しかも事前に意見聴取又
は聴聞の機会を与えられていないにもかかわらずされたことから憲法31条に
違反し無効であるとして,被告に対し,①第1事件において,本件処分の取消し
を求めるとともに,②第2事件において,国家賠償法1条1項に基づき,運転免
許の効力を停止された期間に支払った運転手雇用賃金及び交通費のほか,慰謝料
及び弁護士費用の合計96万1900円並びにこれに対する平成26年7月11
日(平成26年7月3日付け訴えの変更申立書送達の日の翌日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲各証拠等により容易に認定する
ことができる事実)
(1)原告は,平成24年7月29日,後部座席同乗者に座席ベルトを装着させな
いで普通乗用自動車を運転し(以下「本件座席ベルト装着義務違反行為」とい
う。),もって法71条の3第2項に違反したとして,警察による取締りを受
けた(争いのない事実)。
(2)原告は,平成24年8月21日午前10時47分頃,道路標識により最高速
度が時速40キロメートルに指定され,車載式速度測定機器(以下「本件機器」
という。)による最高速度遵守義務違反の取締り(以下「本件取締り」という。)
が行われていた岩手県一関市a町b付近道路(以下「本件道路」という。)に
おいて,指定最高速度を時速29キロメートル超過する時速69キロメートル
で普通乗用自動車(登録番号省略)(以下「本件自動車」という。)を運転し
て進行し(以下「本件最高速度遵守義務違反行為」といい,本件座席ベルト装
着義務違反行為と併せて「本件各違反行為」という。),もって法22条1項
に違反したとして,警察による取締りを受けた(原告が上記日時に本件道路に
おいて本件自動車を進行させたことは争いがない。その余につき,甲2の1,
乙2,3,弁論の全趣旨。)。
(3)岩手県公安委員会は,本件各違反行為により原告が運転免許効力停止処分の
対象者となったとして,平成24年8月30日,本件最高速度遵守義務違反行
為につき,「点数制度による行政処分事務に関する事務処理要領」(平成21
年5月11日付け警察庁丙運発第20号)に基づき,原告の住所地を管轄する
宮城県公安委員会に対し,処分事案の移送を行った(乙10,11,弁論の全
趣旨)。
(4)原告は,平成26年2月14日頃,宮城県公安委員会より運転免許の効力の
停止に関する事務の委任を受けた処分行政庁から,本件各違反行為を行ったこ
とにより,60日間の運転免許の効力停止処分に該当することになった旨の通
知を受けた。そのため,原告は,同月21日頃,宮城県公安委員会及び宮城県
運転免許センターに対し,上記処分に先立って告知聴聞の手続を行うよう求め
た。
ところが,処分行政庁は,法103条1項5号に基づく運転免許効力停止処
分については,行政手続法第3章(12条及び14条を除く。)の規定の適用
が除外され(法113条の2),さらに,法上,90日間未満の運転免許効力
停止処分については,公安委員会が特に定めない限り,事前の意見聴取手続が
必要とされておらず(法104条1項),かつ,宮城県公安委員会において9
0日間未満の運転免許効力停止処分について事前の意見聴取手続を行う旨の特
別の定めをもうけていないことから,原告に対し,上記処分について事前の意
見聴取手続や聴聞手続を行わなかった。
(甲1,3,4の1・2,弁論の全趣旨)
(5)処分行政庁は,本件最高速度遵守義務違反行為(違反点数3点)をした日を
起算日とする過去3年以内における原告の累積点数が,本件座席ベルト装着義
務違反行為に係る違反点数1点を合計した4点となり,道路交通法施行令(以
下「施行令」という。)38条5項2号イ,施行令別表3の1の第1欄「前歴
が1回である者」の区分に応じた第7欄(4点から9点まで)に該当したもの
として,原告に対し,平成26年2月26日付けで,法103条1項5号に基
づき,運転免許の効力を60日間(同日から同年4月26日まで)停止する処
分(本件処分)をした(争いのない事実)。
(6)原告は,当裁判所に対し,平成26年2月27日,本件処分の取消しを求め
る訴え(第1事件)を提起し,同年7月4日,国家賠償を求める訴え(第2事
件)を第1事件に追加して併合提起した(当裁判所に顕著な事実)。
2関係法令の定め
別紙「法令の定め」に記載したとおりである。
3争点
(1)本件最高速度遵守義務違反行為の有無
ア被告の主張
以下の事情に照らすと,原告が本件最高速度遵守義務違反行為をしたこと
は明らかである。
(ァ)本件取締りに使用された本件機器は,本件取締りの前後(平成24年6
月及び同年11月)に行われた保守点検並びに本件取締りの開始及び終了
に際して行われた自動精度点検及び校正用音叉による点検において,いず
れも正常に作動することが確認されている上,無線取扱いの資格を有した
警察官が適正に使用した。
また,本件取締りは何ら遮蔽物がない場所で行われ,付近に原告が運転
する自動車以外の車両はなかった。
(ィ)原告は,本件取締りの際,「私が上記違反をしたことは相違ありません。」
との不動文字(以下「本件不動文字」という。)が記載されている交通事
件原票(以下「本件原票」という。)の供述書欄に署名押印した。本件最
高速度遵守義務違反行為を現認した警察官は,原告に対し,速度測定結果
記録紙を確認させ,交通反則通告制度等について説明して弁解を求めた上
で本件原票に署名及び指印をさせており,上記警察官が,本件不動文字を
隠して原告に署名押印させた事実はない。
イ原告の主張
(ァ)原告は,本件最高速度遵守義務違反行為をしておらず,本件道路の指
定最高速度を遵守して本件自動車を走行させていた。
(ィ)本件取締りは,本件機器によって行われたところ,本件機器から投射
された電波が対象車両以外のものにも反射する多重反射によりプラス誤
差が生じる可能性,電波投射角度を誤ったことによる誤測定の可能性や
本件取締りが行われた場所には草むらなどの遮蔽物があったことに照ら
すと,本件取締りの正確性に疑問がある。
(ゥ)原告は,本件原票の供述書欄に指印したことは認めるが,署名はしてい
ない。原告は,本件取締りが木の陰から行われたとして速度測定の正確性
を争っていたのであり,本件不動文字が警察官により隠されていたため,
本件取締りが行われていたこと自体は認めるという趣旨で上記指印をし
たにすぎない。
また,速度違反現認捜査報告書(乙5)や道路交通法違反事件捜査報告
書(乙6),実況見分調書(乙9)は,本件取締りから相当期間経過後に
作成されており,信用性に欠ける。
(2)事前に意見聴取手続や聴聞手続を経ずにされた本件処分及び法104条1
項が憲法31条に違反するか
ア原告の主張
自らが行ったとされる違反行為の内容,違反行為の取締りの態様等の詳細
について説明を受け,適切な防御及び弁解をするという意味において,意見
聴取及び告知聴聞の機会の付与は,極めて重要な手続である。
そして,以下の事情によれば,処分行政庁が,本件処分につき,事前に法
104条が定める意見聴取又は法104条の2が定める聴聞の機会を与え
なかったことは,適正手続の保障を定める憲法31条に違反するし,また,
60日間の運転免許効力停止処分について意見聴取の手続を定めていない法
104条1項は,憲法31条に違反する。
(ァ)運転免許の効力を60日間停止するという処分は,通勤の方法などを全
面的かつ継続的に変更する必要に迫られ,また,自動車の運転を求められ
る業務を担えない状況に陥れるなどの重大な不利益を課す処分であり,9
0日間の運転免許効力停止処分と質的な相違はない。
(ィ)点数制度に基づく処分は点数の多寡に応じて客観的に決定されるために
事前手続が不要であるとの理解は,事前手続の意義を無視するものである。
(ゥ)法は,交通事故が多発していた制定時(昭和30年代)の道路交通事情
を前提に,道路交通からの危険の排除に重点を置き過ぎており,免許保持
者の権利保護に欠けている。現在の道路交通事情に照らすと,道路交通の
危険の排除を強調することは相当でない。
(ェ)運転免許効力停止処分件数(長期・中期),刑法犯認知件数及び刑法犯
検挙件数が減少傾向にある一方で都道府県警察の定員数が増加しているこ
となどからすると,60日間の運転免許効力停止処分について事前の意見
聴取手続又は聴聞手続を実施しても,都道府県警察は十分に対応できる。
イ被告の主張
本件処分は,原告の運転免許の効力を60日間停止するものであるとこ
未満の運転免許効力停止処分については,公安委員会が特に定めない限り,
事前の意見聴取手続が必要とされていないのであるから,原告に対する意
見聴取又は聴聞をしないまま本件処分をしたとしても,違法ではない。
また,以下の事情によれば,法104条1項が60日間の運転免許停止処
分について意見聴取又は聴聞の機会をもうけるよう定めていないことが,憲
法31条に違反するとはいえない。
(ァ)90日間未満の運転免許効力停止処分は,権利,利益の侵害の程度が軽
微である上,処分者講習を受講することで処分期間を短縮させることがで
きるのであるから,侵害された権利,利益の回復が比較的容易である。
(ィ)処分のほとんどが点数制度により行われている運転免許効力停止処分は,
処分を受ける者が処分理由を理解しやすい。
(ゥ)意見の聴取を経ずになるべく早期に運転免許効力停止処分を行うことが,
道路交通上危険性を有する運転者を一定期間道路交通の場から排除して,
将来における道路交通の危険を防止するという公益の実現のために必要不
可欠である。
(ェ)平成21年以降の運転免許効力停止処分件数が行政手続法制定時(平成
5年)に比べて減少していることは認めるが,警察の業務は,時代の変化
や要請により多岐にわたっているのであるから,運転免許効力停止処分件
数及び刑法犯認知件数等が減少していることや都道府県警察の定員数が
増加していることをもって,警察の業務負担が軽減されているとはいえな
い。
(3)被告の原告に対する国家賠償責任の有無
ア原告の主張
(ァ)本件最高速度遵守義務違反行為がないにもかかわらず,これがあったと
の誤った前提で本件処分がされた上,上記(2)アのとおり,本件処分の手続
は憲法31条に違反するものであるから,本件処分は国家賠償法上違法で
ある。
(ィ)宮城県公安委員会及び宮城県運転免許センターは,原告が,平成26年
2月21日付けで,本件処分をするにあたり告知聴聞を実施するよう求め
たにもかかわらず,同月25日,これを拒絶したのであるから,原告に対
し告知聴聞を行わなかったことについて認識,認容していた。また,処分
行政庁は,本件最高速度遵守義務違反行為が存在しないことについて十分
な調査,確認を怠ったまま,本件処分を行った。
したがって,処分行政庁には,違法な本件処分を行ったことにつき,
国家賠償法上の故意又は過失が認められる。
(ゥ)原告は,違法な本件処分により,以下の損害を被った。
a本件処分による運転免許効力停止期間中に,原告が経営する株式会
社の作業現場間を移動する目的で使用する車両の運転手を雇用したた
めに運転手に支給した賃金
34万6800円
b本件処分による運転免許効力停止期間中に,原告がタクシーを利用
した料金
14万7600円
c本件処分にあたり,原告が告知聴聞の機会を受けられなかったこと
によって被った精神的苦痛に対する慰謝料
10万円
d弁護士費用
36万7500円
合計96万1900円
イ被告の主張
(ァ)本件処分に瑕疵は存在せず,また,本件処分の担当公務員が職務上尽く
すべき法的義務に違反していないことは明らかであるから,国家賠償法上
の違法性は認められない。
(ィ)原告が被った損害については争う。
第3当裁判所の判断
1争点(1)(本件最高速度遵守義務違反行為の有無)について
(1)上記前提事実に,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が
認められる。
ア岩手県c警察署所属の警察官A(以下「A」という。)外1名は,平成2
4年8月21日,道路標識により最高速度が時速40キロメートルに指定さ
れている本件道路(片側1車線)において,本件機器を用いて本件取締りを
行った。
本件機器は,ドップラー効果を利用して走行中の自動車の速度を測定する
車載式速度測定機器(三菱電機RS-710CD形)であり,本件取締りは,
本件機器を搭載したパトカー(以下「本件パトカー」という。)を,本件取
締りの対象車両の進行方向左側の本件道路沿いに設置されている待避所に,
本件道路に平行になるように停止させた上,本件パトカーの後方から走行し
てくる車両を対象に,第2級陸上特殊無線技士の免許を保有しているAが本
件機器を操作することによって行われた。
(甲13,乙2,3,5ないし7,9,15,証人A,弁論の全趣旨)
イAは,本件取締りの開始前及び終了後に,本件機器の自動精度点検及び校
正用音叉による点検を行い,いずれの点検においても本件機器が正常に作動
していることを確認した(乙5,7,15,17,証人A)。
ウAは,本件取締り中の午前10時47分頃,原告の運転する本件自動車が
本件パトカーの後方から接近して本件道路を走行してくるのを認めたため,
本件機器を用いて速度を測定したところ,速度違反を感知したことを知らせ
る警告音が発せられるとともに,本件機器が測定した本件自動車の走行速度
が時速69キロメートルであることを示す速度測定記録紙が排出された。こ
のとき,付近には本件パトカーと原告が運転していた自動車以外の車両はな
かった。(乙3,5ないし7,9,15,証人A,弁論の全趣旨)
エAは,本件自動車を停車させ,原告に対し,本件機器に表示された時速6
9キロメートルという測定結果を確認させるなどして最高速度違反である旨
を告げた。これに対し,原告は,本件取締りが木の陰から行われたと主張し
て納得が行かない様子を見せたものの,Aから,交通事件原票(本件原票)
の供述書欄の,本件不動文字の下部に署名して指印を押すよう求められてこ
れに応じるとともに,「パトカーを木のカゲからおこなおり確定性はない」
(原文のママ)と手書きで記入した上で,交通反則告知書及び反則金納付書
を受領した。(乙2,15,証人A,弁論の全趣旨。なお,証拠(甲2の2,
4の1,12,乙1)や訴訟委任状における原告の署名と本件原票の供述書
欄に記載されている原告の氏名の筆跡を対照すると,「d」のうちの「ム」
の部分が左右に大きく拡がり,「ヒ」の上部付近まで伸びている点や「e」
の第1画が上方から左下ではなく右下に向かって記されている点などに
類似性が認められること,原告が本件原票の供述書欄の上記署名が記載され
た部分の右横の箇所に印象された指印については自身が押捺したものであ
ることを認めていることなどに照らすと,本件原票の供述書欄の署名も原告
が自ら記載したものと認められる。また,原告は,その本人尋問又は陳述書
(甲46)において,本件不動文字が警察官により隠されていたこと,本件
取締りが行われていたこと自体は認めるという趣旨で上記指印をしたことを
供述又は記載するが,上記供述又は記載部分は,本件取締りには複数の警察
官が担当していたことや本件取締りの目的に照らし不自然,不合理である上
に,証人Aがそのような事実を否定していることからすると,同部分を直ち
に信用することはできない。)
オ本件機器について,本件取締り前の平成24年6月25日及び本件取締り
後の同年11月12日にメーカーから派遣された技術者による保守点検が
実施され,送信出力,送信周波数及びアンテナ等の機能について点検が行わ
れたが,いずれの結果も良好であった(乙8,弁論の全趣旨)。
カパトカーに積載された本件機器からレーダー電波を投射して道路を走
行して接近してくる車両の速度を測定する際に,パトカーを道路と平行に,
対象車両と同一方向に向くように停車させた場合,後方のレーダー電波は
10度の投射角で投射されることにより,道路に対して6度から14度の
範囲で投射されるため,対象車両の速度は当該ビームの圏内で測定される。
また,その場合,対象車両の走行態様によってプラス誤差が生じることは
ない。(乙12)
(2)上記認定事実によれば,本件取締りの開始前及び終了後に行われた点検並び
に本件取締りの約2か月前と約3か月後に行われたメーカーから派遣された技
術者による保守点検の結果がいずれも良好であったこと,無線取扱いの資格を
有する警察官により本件機器が操作されたこと,本件取締りは本件パトカーに
積載された本件機器から投射されたビームの圏内で対象車両の速度の測定が行
われており,また,多重反射によるプラス誤差が生じる状況にはなかったこと
などの各事実が認められ,これらの事実を総合すると,本件取締りの際,本件
機器が正常に作動しており,これを適正に使用する能力のある警察官によっ
て本件自動車の速度の測定が正確に行われたという事実を推認することがで
きる。
これに対し,原告は,本件取締りが行われた場所には木や草むらなどの遮蔽
物があり,本件取締りの正確性に疑問がある旨主張し,その本人尋問又は陳述
書(甲46)において,その旨供述又は記載している。
しかしながら,本件取締りが木や草むらなどの遮蔽物の陰から行われたとい
う事実を客観的に裏付ける証拠はなく(なお,原告は,草むらの傍に自動車
が停車している写真(甲25の1ないし3)を提出するが,その停車場所に
本件パトカーが停車していたことを的確に認めるに足りる証拠はなく,かえ
って,証拠(乙6,9,12,16,証人A)によれば,本件道路には本件
パトカーの停車位置と本件パトカーの後方から接近して本件道路を走行し
てくる対象車両との間には測定の障害になるような物が存在しないことが
認められることから,上記供述又は記載部分は直ちに信用することができな
い。
また,原告は,一部の捜査関係書類が本件取締りから相当期間経過後に作成
されており信用性に欠ける旨主張するところ,一部の捜査関係書類(乙5,6,
8,9)が,本件取締りから5か月以上経過した時点で作成されたことは認め
られるものの,このことは,原告が本件取締りの際には,上記認定事実(1)エの
とおり,本件不動文字が記載されている本件原票の供述書欄に署名し指紋を押
捺して交通反則告知書及び反則金納付書を受領していたにもかかわらず,その
後の通告や出頭要請に応じなかったため,事後に否認事件として取り扱うこと
になったという事情によるのであって(乙8,14,証人A,弁論の全趣旨),
上記各捜査関係書類の作成までに相当の時間を要したことについて合理的な理
由があること,上記各捜査関係書類は,本件取締りを実施したAによって本件
取締りの当時にその状況を記録したメモに基づいて作成されたこと(証人A)
などの諸事情に照らすと,本件取締りから上記各捜査関係書類の作成時まで相
当の時間が経過したことをもって直ちに,同書類の信用性が損なわれるもので
はない上に,同書類の内容それ自体には特段不自然,不合理な点は見当たらず,
客観的証拠と照らしても矛盾する点が認められないことからすると,上記主張
は採用することができない。
(3)以上によれば,本件取締りは,本件機器が正常に作動する状態において,こ
れを適正に使用する能力のある警察官によって実施されたものであることが
認められる一方,本件自動車に対する本件取締りの際にプラス誤差や誤測定が
生じた可能性はおよそ考え難いといえることから,本件機器から排出された上
記速度測定記録紙上の表示速度である時速69キロメートルという測定結果は
正確なものであったことが認められる。
したがって,原告が,道路標識により最高速度が時速40キロメートルに指
定されている本件道路を時速69キロメートルで本件自動車を運転して進行し
たという事実が認められるから,原告による本件最高速度遵守義務違反行為の
存在は明らかである。
2争点(2)(事前に意見聴取手続や聴聞手続を経ずにされた本件処分及び法104
条1項が憲法31条に違反するか)について
(1)
して,原告に対して事前の意見聴取又は聴聞の機会を与えないで本件処分をし
たものである。
この点につき,原告は,60日間の運転免許効力停止処分について意見聴
取手続を定めていない法104条1項及び処分行政庁が本件処分にあたり
事前の意見聴取又は聴聞の機会を与えなかったことが憲法31条に違反する
旨主張することから,以下検討する。
(2)憲法31条の定める法定手続の保障は,直接には刑事手続に関するもので
あるが,行政手続については,それが刑事手続ではないとの理由のみで,そ
のすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当では
ない。しかしながら,同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても,一
般に,行政手続は,刑事手続とその性質においておのずから差異があり,また,
行政目的に応じて多種多様であるから,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,
防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,
性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急
性等を総合較量して決定されるべきものであって,常に必ずそのような機会を
与えることを必要とするものではないと解するのが相当である(最高裁昭和6
1年(行ツ)第11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁参
照)。
(3)これを60日間の運転免許効力停止処分についてみると,①同処分は,運転
免許の効力を60日間停止するというものであり,法104条1項が意見聴取
手続の実施を定めている運転免許取消処分や90日間以上の運転免許効力停止
処分に比べると,制限を受ける権利利益の程度が軽微である上,講習を終了す
ることにより,運転免許の効力の停止の期間が短縮されることも予定されてい
るほか,同処分によって被った経済的な損害については,事後的な救済も可能
であり,また,②運転免許効力停止等の点数制度に基づく処分は,その処分量
定が点数の合計の多寡に応じて客観的に決定されるため,処分行政庁において
判断を加える余地が小さく,処分を受ける者にとって処分の理由を理解するこ
とが容易であり,さらに,③道路交通網が高度に発達し,それに伴って交通違
反件数及び運転免許の効力停止処分件数が膨大な数(平成4年の1年間の交通
違反件数は約900万件,運転免許の効力停止処分件数は163万9097件。
甲20の2,33)に及んでいる我が国の道路交通事情下において,道路にお
ける危険防止や交通の安全と円滑という公益を達成するには,違反行為をした
者に対し,違反の程度による合理的な区分をもうけながら迅速に運転免許の取
消及び効力停止の行政処分を実施する必要があるところ,法104条1項が,
法103条1項5号の規定による運転免許の取消及び効力停止処分のうち,権
利の制限の程度が高い運転免許の取消及び90日間以上の効力停止処分につい
て公安委員会に事前の意見聴取手続を義務付けた上,公安委員会が特に定める
場合に限って90日間未満の運転免許効力停止処分についても意見聴取手続を
実施するものと規定したことには合理性が認められるのであって,これらの諸
事情を総合的に考慮すると,法104条1項が,60日間の運転免許効力停止
処分について,事前の聴聞手続はもとより意見聴取手続を行うべきものと定め
ておらず,また,宮城県公安委員会が法104条1項に基づいて,同処分につ
き意見聴取を行うべきことを定めていないことをもって,憲法31条に違反す
るということはできない。
そうすると,処分行政庁が,法103条1項5号に基づく運転免許効力停
止処分については,行政手続法第3章(12条及び14条を除く。)の規定
の適用が除外され(法113条の2),さらに,法上,90日間未満の運転
免許効力停止処分については,公安委員会が特に定めない限り,事前の意見
聴取手続が必要とされておらず(法104条1項),かつ,宮城県公安委員
会において90日間未満の運転免許効力停止処分について事前の意見聴取
手続を行う旨の特別の定めをもうけていないという法令の内容に従って,本
件処分について事前の意見聴取手続や聴聞手続を実施しなかったこともまた,
憲法31条に違反するとはいえない。
原告は,運転免許効力停止処分件数等が減少傾向にある一方で都道府県警察
の定員数が増加していることなどからすると,60日間の運転免許効力停止処
分について事前の意見聴取手続又は聴聞手続を実施しても,都道府県警察は十
分に対応できるなどと主張するが,運転免許効力の停止処分件数は,減少傾向
にあるとはいえ,平成25年の1年間における同処分件数が36万7837件
に達していること(甲20の23)に照らすと,上記区分が明らかに不合理と
いえる状況に至っているとまでは認められないから,上記判断を左右しない。
(4)したがって,本争点における原告の主張は理由がない。
3争点(3)(被告の国家賠償責任の有無)について
(1)本件処分の前提とされた本件最高速度遵守義務違反行為が存在すること,及
び本件処分の手続が憲法31条に違反しないことは,上記1及び2で認定説示
したとおりであり,そうすると,本件処分を担当した公務員が職務上尽くすべ
き法的義務に違反していないことは明らかであるから,本件処分に関して国家
賠償法1条1項上の違法性があったということはできない。
(2)したがって,原告の被告に対する国家賠償請求は理由がない。
4結論
よって,原告の第1事件請求及び第2事件請求はいずれも理由がないからこれ
らを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法
61条を適用して,主文のとおり判決する。
仙台地方裁判所第3民事部
裁判長裁判官大嶋洋志
裁判官大澤知子
裁判官志田智之

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我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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