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令和2年10月6日判決言渡同日原本受領裁判所書記官
令和元年(ワ)第7252号発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日令和2年8月18日
判決
原告P1
同訴訟代理人弁護士中澤佑一
同船越雄一
同柴田佳佑
同延時千鶴子10
同岩本瑞穂
同松本紘明
被告GMOデジロック株式会社
同訴訟代理人弁護士近藤剛史
主文
1被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由20
第1請求の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)によりインターネ
ット上のブログ記事として投稿された別紙投稿記事目録記載第1ないし7の投稿記25
事(以下,同目録の番号に合わせて「本件記事1」などといい,本件記事1ないし
7を総称して「本件各記事」という。)は,原告が著作権を有する別紙原告投稿内
容目録記載第1ないし7の投稿内容(以下,同目録の番号に合わせて「原告投稿1」
などといい,原告投稿1ないし7を総称して「原告各投稿」という。)の全部もし
くは一部を転載したものであり,本件投稿者の行為は,原告各投稿に係る原告の著
作権(複製権,送信可能化権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権等)5
を侵害することは明らかであると主張して,本件各記事が投稿されたウェブサイト
(以下「本件ウェブサイト」という。)が設置されていたウェブサーバーの管理者
である被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報
の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき,
別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求める事案である。10
1前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
⑴当事者(甲1の1,2)
原告は,社会福祉士であり,無料低額相談事業,緊急一時シェルター事業,障害
福祉サービス事業等を業とする特定非営利活動法人ほっとポット(以下「本件法人」15
という。)の代表者である。
被告は,電気通信事業を営む株式会社である。
⑵原告各投稿(甲2の1ないし8)
原告は,インターネット上のSNSであるフェイスブック(以下「フェイスブッ
ク」という。)に実名で登録したアカウントを使用し,別紙原告投稿内容目録の各20
「投稿日時」欄記載の日時に,各「閲覧用URL」欄記載のURLにおいて,各「投
稿内容」欄記載の文章を投稿した(原告各投稿)。
⑶本件各記事(甲3の1ないし7)
本件投稿者は,本件ウェブサイト(「ほっとポット応援団」という題名のブログ)
上に,別紙投稿記事目録の各「投稿日時」欄記載の日時に,各「閲覧用URL」欄記25
載のURLにおいて,各「タイトル」欄記載のタイトルを付け,各「投稿内容」欄記
載の文章を投稿した(本件各記事)。
本件各記事は,既に削除済みである。
⑷被告の開示関係役務提供者該当性(甲4)
被告は,本件ウェブサイトが設置されていたウェブサーバーの管理者であり,契
約者情報として,別紙発信者情報目録記載の情報を保有している。5
2争点
⑴権利侵害の明白性
ア著作権(複製権,送信可能化権)侵害の成否
イ著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権等)侵害の成否
ウ本件各記事の投稿につき原告による承諾があったか。10
エ「引用」(著作権法32条1項)が成立するか。
オ責任阻却事由の要否及び存否
⑵開示を受けるべき正当な理由の存否
3争点に関する当事者の主張
⑴争点⑴ア(著作権(複製権,送信可能化権)侵害の成否)について15
【原告の主張】
原告各投稿は,原告が創作し,自らのフェイスブックのアカウントにおいて投稿
し,インターネット上において閲覧できる状態にあった文章である。これに対し,
本件各記事は,別紙対照表のとおり,いずれも原告各投稿の全部もしくは大部分を
転載し,1,2行程度の文章を追加したものであるから,原告各投稿を複製したも20
のである。
したがって,本件各記事は,原告各投稿についての原告の複製権,送信可能化権
を侵害する。
【被告の主張】
争う。25
⑵争点⑴イ(著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権等)侵害の成否)につ
いて
【原告の主張】
ア同一性保持権
原告投稿1の内容は,特段のタイトルはなく,千葉県議会議員である訴外P
2(以下「P2議員」という。)の指摘を受け,これに対する原告の感想や見解を5
表現するものであるのに対し,本件記事1は,「千葉県議会健康福祉常任委員会」
という独自のタイトルを付し,P2議員の指摘部分及びこれに関する原告の記述を
削除し,原告投稿1には存在しない建物の前で撮影された人物の写真が付加されて
いる。原告投稿1の内容が,同議員の指摘に応じた記述であるか否かは著作物の本
質に関わるものであるところ,本件記事1は,その指摘に関する部分を切除し,P10
2議員と認識されるような写真を掲載することにより,原告投稿1とは異なる表現
上の本質的な特徴を創作し,また,原告投稿1の題号を変更するものであるから,
原告の同一性保持権を侵害する。
原告投稿2,3,6,7には,タイトルは付されていないところ,本件記事
2,3,6,7には,独自のタイトルが付されており,これは原告投稿2,3,6,15
7の題号を創作し,変更するものであるから,原告の同一性保持権を侵害する。
本件記事4,5には,原告投稿4,5に付けられたタイトルとは別のタイト
ルが付されており,これは原告投稿4,5の題号を変更するものであるから,原告
の同一性保持権を侵害する。
イ氏名表示権20
別紙対照表のとおり,本件記事1,2,4ないし7は,原告投稿1,2,4ない
し7と同一の部分を含み,本件記事3は,原告投稿3と同一であるところ,本件各
記事は,いずれも原告の氏名を表示せず,原告の氏名表示権を侵害した。
ウ名誉声望保持権
本件法人は特定非営利活動法人であり,その目的として,特定の公職者や政党を25
支持するものではないことが求められ,代表理事である原告についても同様である。
本件記事1には,「千葉県議会健康福祉常任委員会」とのタイトルが付され,「千
葉県議会■党のP2議員ともつながりの深いほっとポット代表理事のP1さん」,
「今後も強い影響力を持って」との記載があることから,原告が,P2議員と親し
く,影響力を行使できる立場にあり,また,原告が「千葉県議会健康福祉常任委員
会」にも何らかの関与や影響力があると評価されるおそれがある。5
したがって,本件記事1は,原告の名誉声望保持権を侵害する。
【被告の主張】
争う。後述のとおり,本件各記事はフェイスブック上の「埋め込み投稿」をした
ものであり,それによって本件各記事中に表示される原告各投稿の一部には,原告
の氏名が明記されているのであるから,原告の氏名表示権が侵害されたということ10
はできない。また,本件各記事は,後述のとおり,フェイスブック上において,「公
開」設定されていた原告各投稿を,フェイスブック内でもともと予定されたルール
と使用方法に従い,「埋め込み投稿」の機能を用いて,本件ウェブサイトの閲覧者
が原告各投稿を閲覧できる態様で表示していたものであるから,原告の氏名表示権
や同一性保持権を侵害しない。15
⑶争点⑴ウ(本件各記事の投稿につき原告による承諾があったか。)について
【被告の主張】
ア本件各記事の概要
本件各記事は,フェイスブック上に投稿された原告各投稿の全部又は一部を,原
告各投稿へのリンクと共に,本件投稿者の簡単なコメントを添えて本件ウェブサイ20
トに転載したものである。
イフェイスブックの機能について
一般に,フェイスブックのようなSNSは,情報を広く拡散・共有・取得・引用・
利用するための情報ツールであり,投稿内容の拡散・引用・転載は,当然に予定さ
れ構成要素の一つであって,利用者は,自己の発信した情報が転載機能を用いて広25
く拡散・引用・転載されることを当然の前提とし,また,そのSNSにあらかじめ備
わった転載機能を用いて転載を行っている限り違法行為に該当しないだろうという
信頼を持って,SNSを利用することが通常である。
フェイスブックの利用者は,アカウントの設定により,そのアカウントを用いて
投稿した記事を閲覧することができる者の範囲や,同記事を後述の「シェア(共有)」
機能等を用いてフェイスブック内外に転載することができる者の範囲を自由に決定5
することができる。
フェイスブックに備わった「シェア(共有)」の機能は,特定のアカウントのペ
ージに投稿された記事を,別の利用者が自らのアカウントのページに表示させるこ
とができる機能であり,「埋め込み投稿」の機能は,フェイスブック以外の外部の
ウェブサイトに,記事へのリンクを貼る形で転載することができる機能である。「埋10
め込み投稿」機能を利用してフェイスブック上の投稿記事を転載すると,転載先の
ウェブサイトにおいて,一定の枠内に,当該記事の一部が表示され(以下「埋め込
み表示」という。),この表示をクリックすることにより,フェイスブック上の当
該記事のウェブページに移動することなどができる。
この「埋め込み投稿」は,フェイスブック上の当該記事の投稿者が,そのアカウ15
ント設定において,①フォロワー設定をオンにした上で,②共有範囲を「公開」(フ
ェイスブックの利用者であるか否かに関わらず,誰でも投稿を閲覧することができ
る設定。)にしている場合にのみ使用可能であり,これらの設定になっていない場
合には,フェイスブック上の投稿記事において,「埋め込み投稿」のメニュー自体
が表示されない。また,「埋め込み投稿」の機能を用いた転載が行われた後に,ア20
カウント利用者が上記設定を変更したり当該記事を削除したりした場合には,転載
先のウェブサイトにおいても,埋め込み表示がされていた枠内に,当該記事が削除
されたかプライバシー設定が変更された可能性があり,利用できない旨のフェイス
ブックによる通知(以下「削除表示」という。)が表示される。
そうすると,このような「埋め込み投稿」を可能とする設定になっているフェイ25
スブック上の投稿記事については,当該投稿記事が外部へ広く公開,拡散される可
能性があることが予定されており,これを転載することについても,投稿者の明示
又は黙示の承諾が与えられているものとみなすことが可能である。
ウ原告による承諾
本件記事5以外の本件各記事の表示画面には,削除表示(本件記事1ないし4及
び6)又は原告投稿7の埋め込み表示(本件記事7)がある。このことから,本件5
各記事が投稿された時点において,原告は,フェイスブック上の自らの投稿につい
て,「埋め込み投稿」を可能とする設定(①フォロワー設定をオンにした上で,②
共有範囲を「公開」とする設定。)としていたものと認められる。なお,フェイス
ブックの運営会社は,フェイスブックページに投稿した記事が,フェイスブックの
内外において公開される可能性がある旨を説明しており,その公開が「埋め込み投10
稿」によるものとは限られていないことからすれば,フェイスブックにおける「公
開」とは,外部のウェブサイトへの転載も含むというべきである。
また,本件各記事の内容から客観的に読み取れる本件投稿者の意図は,あくまで
原告を応援する目的で,原告の投稿内容を肯定的なコメントと共に掲載したもので
あって,不正な意図や目的がないことは明らかであり,原告各投稿の内容やフェイ15
スブック上において公開されていることから客観的に読み取れる原告の明示的意思
に反するものではない。
したがって,本件各記事の投稿は,原告の(少なくとも黙示の)承諾に基づきな
されたものであることは明らかである。
原告は,「埋め込み投稿」を可能とする設定について認識していなかったと主張20
するが,前述のとおり,フェイスブックの運営会社は,フェイスブックページに投
稿した記事が,フェイスブックの内外において公開される可能性がある旨を説明し
ており,また,原告各投稿の閲覧者は原告の認識を知ることはできないのであるか
ら,上記事情は原告による黙示の承諾があったことを妨げない。
なお,プロバイダ責任制限法4条1項の要件である権利侵害の有無は,本件各記25
事が投稿された時点を基準として判断すべきであるから,原告の承諾の有無も,同
時点を基準として判断すべきであって,本件各記事の本文中における原告各投稿の
転載部分が,原告がフェイスブック上の原告各投稿を削除・変更した場合であって
も掲載され続けるものであることは,判断に影響しないというべきである。
【原告の主張】
ア「埋め込み投稿」と本件各記事における転載との差異5
フェイスブック上の「埋め込み投稿」の機能は,フェイスブック上の投稿記事に
ついて,埋め込み用URL(ソースコード)を取得し,そのURLを外部のウェブサ
イトに記載することによって,同ウェブサイトにおいて当該記事の一部が表示され
(埋め込み表示),これをクリックすると,当該記事が投稿された元のフェイスブ
ック上の投稿記事が表示されるというものであり,リンク先の一部が表示されるリ10
ンクの一種であるということができる。なお,当該記事が削除されたりアカウント
の設定が変更されたりすれば,埋め込み表示は表示されなくなる。
これに対し,本件のように,フェイスブック上の投稿記事の内容を外部のウェブ
サイトにそのまま転載する場合は,当該記事の削除や変更に関わりなく記載が残り
続けるものであり,リンクの一種といえる「埋め込み投稿」とは,性質・行為が全15
く異なり,フェイスブックのルールの範疇外の行為である。
したがって,フェイスブックの利用者が「埋め込み投稿」を許容しているからと
いって,外部のウェブサイトに投稿記事の内容をそのまま記載する形での転載を承
諾していることになるわけではない。
イ原告は転載を承諾していないこと20
フェイスブック上のアカウントの設定により,「埋め込み投稿」が可能となって
いたとしても,それはフェイスブックの仕様によるものであって,上記設定をした
アカウント利用者の全てが「埋め込み投稿」を承諾しているわけではない。
原告は,フェイスブック上の自らの投稿を皆が読めるようにするため,アカウン
トの設定を「全体に公開」としていたが,「埋め込み投稿」という機能を知らず,25
これを可能とする設定になっているという認識もなかった。
また,本件各記事は,「埋め込み投稿」だけでなく,原告各投稿の内容の全部又
は一部を,そのまま本件ウェブサイトにおいて,ブログの本文に記載する形で転載
するものである。
したがって,原告のフェイスブックのアカウントの設定が「埋め込み投稿」を可
能とするものであったからといって,原告が,本件ウェブサイトに原告各投稿を上5
記のような形式で転載することを承諾していたということはできない。
⑷争点⑴エ(「引用」(著作権法32条1項)が成立するか。)について
【被告の主張】
ア適法な「引用」であること
「引用」の適法性の判断においては,一般的に明瞭区別性や主従性等の要件が挙10
げられるが,実務上は具体的な事案に沿った個別的な判断が行われるのが一般的で
あり,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用され
る著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総
合考慮されなければならない,とされる。
本件各記事における原告各投稿の利用について,①利用目的は,原告又は本件法15
人の活動を応援し潜在的な支援者に呼びかけるという,「批評」の一類型として正
当な目的に基づくものであり,②フェイスブックの「埋め込み投稿」機能を利用し
て原告各投稿を本件ウェブサイトに埋め込み転載した上で,記事の内容を読者に見
えやすいよう本文に転記し,簡単なコメントを添えるといった利用の方法及び態様
は,引用部分の区別や出典が明瞭であり,引用の範囲も上記目的に照らして必要な20
範囲を超えるものではない一方で,③原告各投稿は,原告及び本件法人の活動内容
を広く公開し,宣伝する目的で投稿されたものであるから,原告はこれらが広く拡
散されることを期待し,少なくとも承認していたものと推認されるものであり,本
件投稿者の目的や行動は原告各投稿の内容から客観的に読み取れる原告の意図や目
的に必ずしも反するものではなく,これらの事情に照らせば,④原告に具体的な悪25
影響が及ぶことは想定できないということができる。
よって,本件各記事における原告各投稿の転載は,公正な慣行に反するものでは
なく,引用の範囲も合理的なものであって,著作権法32条1項で許された「引用」
に該当する。
イ原告の主張に対する反論
本件ウェブサイト上における本件各記事は,引用部分について枠線で囲みがあり,5
その背景にグレーの「“」(ダブルクォーテーション)マークが大きく表示されてい
るから,引用部分である原告各投稿が明瞭に区別されていたといえる。
また,本件ウェブサイトは,原告及び本件法人を応援する目的のものであり,本
件各記事は,原告が活動内容を自ら宣伝したフェイスブック上の記事を転載して拡
散を促すために,本件投稿者が,「埋め込み投稿」の機能を利用した原告各投稿の10
転載をするとともに,その記事内容の一部を紹介する目的で,原告の作成した文章
として自らのブログ本文に引用して掲載したものであるところ,このことは,本件
ウェブサイトの閲覧者には容易に理解できる。そうすると,本件ウェブサイトの閲
覧者は,本件各記事について,かかる目的に基づいた冒頭のコメント部分が主であ
り,原告各投稿の転載は従の関係にあるものと認識するのであって,主従関係に関15
する原告の主張は妥当でない。
【原告の主張】
ア本件各記事には出所の表示がなく,原告各投稿を含む文章が全てブログ記事
の本文として記載されているため,引用部分の区別が明らかでない。また,本件ウ
ェブサイトにおける埋め込み表示は,原告各投稿の全文が表示されるものではなく,20
原告各投稿の削除やアカウント設定の変更等によって表示されなくなることもある
ため,これにより引用部分を明瞭に区別しているということもできない。
被告は,引用部分が明瞭であると主張するが,本件各記事において引用部分が枠
線で囲まれているということはなく,仮にあったとしてもその色は極めて薄いため
閲覧者にとって一見して区別がつかない。また,「“」(ダブルクォーテーション)25
マークも,単なる背景以上に引用個所と認識されるようなものではなく,本件記事
6には,「“」マークも存在しない。なお,被告が本件ウェブサイトにおける本件記
事7の画面状態を画像データとして保存したものであるとする乙5号証は,本件記
事7と同内容の記事ではあるが,元の投稿とは異なる日時に投稿されたものである。
イ本件各記事は,冒頭に1,2行程度の抽象的な文言を加え,原告各投稿の全
部又はその大半を引用するものであり,特に,本件記事3は,原告投稿3の全てを5
そのまま転載するものである。
冒頭の抽象的な一言を添えるために,フェイスブック上の「埋め込み投稿」機能
による引用に加えて,同じウェブページ内に原告各投稿の全部又は大半を転載しな
ければならない必要性・必然性はない。特に,本件記事1は,冒頭に,「千葉県県
議会■党のP2議員ともつながりの深いほっとポットの……」と記載しながら,原10
告投稿1からP2議員に関する記載を全て省いた上でそれ以降の文章を転載してお
り,批評のための引用であるとみることはできない。また,本件記事2は,冒頭に,
「若い頃のお写真も凛々しいですね(^_^)。」と記載しながら,原告の写真を掲載す
ることなく,それとは関係のない原告投稿2のみを転載しており,引用を根拠づけ
ることはできない。15
したがって,本件各記事について,引用する著作物が主,引用される著作物であ
る原告各投稿が従という関係にあるということはできない。
⑸争点⑴オ(責任阻却事由の要否及び存否)について
【被告の主張】
プロバイダ責任制限法4条1項の発信者情報の開示請求においては,発信者の権20
利侵害について主観的要件としての故意・過失が必要であり,開示請求者である原
告に,責任阻却事由の不存在を含む権利侵害の明白性を主張・立証する責任がある。
前述のとおり,原告各投稿は,フェイスブック上で広く公開され,私生活上の事
柄に留まらず広く大衆に向けて発信されていると解される内容である。他方,本件
投稿者は,原告及び本件法人の活動を応援するため,原告各投稿を転載して拡散を25
促すという目的に基づいて本件各記事を投稿したものであり,その行為は,フェイ
スブックにおいて許容されている「埋め込み投稿」の機能を用いて行われた転載及
びこれから派生する行為であるから,これが原告の意思に反したものではなく,ま
た,原告各投稿がフェイスブック上において「公開」設定されていることから,本
件各記事の投稿が許されるものと考えていた。
よって,本件投稿者は,社会通念上,本件各記事の投稿時点において,原告の承5
諾があったものと誤認してもやむを得ない状況にあった。
したがって,本件投稿者には,本件各記事による権利侵害について故意がなく,
予見可能性や結果回避可能性も認められない以上,過失もなかったことは明らかで
ある。
【原告の主張】10
プロバイダ責任制限法4条1項1号は,「権利が侵害された」とだけ定めており,
同項は,投稿者の主観的要件が不要である人格権に基づく差止請求のための発信者
情報の開示も認めるのであるから,著作権に基づく差止請求についても,開示請求
者の権利が侵害されれば要件を満たすのであって,発信者の故意・過失は要件とな
らない。15
付言すれば,本件各記事は,原告各投稿に依拠するものであるから,依拠性ある
著作権侵害として故意があり,少なくとも過失が認められる。
⑹争点⑵(開示を受けるべき正当な理由の存否)について
【原告の主張】
原告は,原告各投稿を有償で使用させていたものではないが,少なくとも,著作20
権侵害及び著作者人格権侵害による無形損害が生じている。
原告は,発信者に対し,今後本件各投稿と同種の投稿をしないよう差止請求をす
る意向である。
よって,原告には,発信者に対し将来の差止めを求めるために発信者情報開示を
請求する正当な理由がある。25
【被告の主張】
本件各記事及び原告各投稿の内容に照らせば,本件各投稿によって原告に経済的
損失その他具体的な損害が生じているものとは到底考えられない。
本件各投稿は,原告から令和元年6月14日に申し立てられた投稿記事削除等仮
処分命令の申立を受けて速やかに削除されたため,原告に係る何らかの権利の侵害
状態があったとしても,少なくとも現時点においては解消された。5
また,本件投稿者は,今後,同種の投稿を行わないことを誓約している。
よって,原告には,発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がない。
第3当裁判所の判断
1認定事実(前提事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨から認定できる事実)
⑴原告及び本件法人(甲1の1,2)10
本件法人は,平成18年に設立された特定非営利活動法人であり,さいたま市〈以
下略〉を拠点とし,独立型社会福祉士事務所として,住居を失った生活困窮者への
安定的住居の確保支援や社会福祉諸制度への適切な調整支援等を行っており,特定
の政党,政治団体,宗教団体との関係はない旨を標榜している。原告は,平成23
年から本件法人の代表理事を務めている。15
⑵原告各投稿について(甲2の1ないし8)
ア原告は,フェイスブックに実名でアカウントを開設し,「自己紹介」欄に,
保護司であること,本件法人の代表理事であること,さいたま市在住であること等
を明らかにした上で,投稿を誰でも閲覧することが可能な「公開」の設定で,原告
各投稿を行った。20
イ原告投稿1は,平成30年12月19日に原告が行ったものである。
原告は,同月18日にP2議員がフェイスブック上で行った,「千葉県議会健康
福祉常任委員会が開かれました。」で始まる投稿を,フェイスブック上の機能を用
いて,原告投稿1の下部に表示させシェアした上で,原告投稿1の冒頭に,「千葉
県(改行)◎千葉県議会12月18日■党P2議員千葉県議会健康福祉常25
任委員会」と記載した上で,「以下『』内そのまま引用」と明示して,P2議員の
前記投稿の一部を転載してその前後に括弧を置き,最後に「引用おわり」と記載し
た。
原告は,前記投稿の転載に続けて,「うーむ。。。千葉県議さんの指摘,鋭いで
すね~。」と感想を述べ,原告の意見ないし論評として,P2議員の提示した視点
は重要であること,本件法人(「ポ国」と記載する。)として,留意すべき点があ5
ることを記載した。
ウ原告投稿2は,平成31年1月6日に原告が行ったものである。
原告は,原告投稿2の下部に,介護求人情報を提供するウェブサイト記事へのリ
ンクを貼り,これによって,その部分には,社会福祉士・保護司である原告は,「介
護業界・注目の人」である旨の表示がなされ,更に,本件法人の名称を背景に,原10
告の肖像写真が表示された。
その上で,原告は,原告投稿2の本文として,「ブハハハハ!30歳当時の自ら
の写真をネット上に発見。」と記載した上で,肖像写真の当時を回顧する内容や,
ウェブサイト記事が制作された経緯等を記載したが,タイトルや表題は付さなかっ
た。15
エ原告投稿3は,平成31年1月9日に原告が行ったものである。
原告投稿3には,他の記事やウェブサイトへのリンクはなく,原告が記載した文
章のみの投稿であり,タイトルや表題も存しない。
原告は,原告投稿3において,要旨,厚生労働者の課長らが本件法人に来訪し,
5時間連続で議論したこと,検討会における原告の発言について,誰かが厚労省に20
抗議文を送ったらしいこと,官僚との5時間の議論後,本件法人に別の来訪者があ
り,「5時間ぶっ続け」で作戦会議を行ったことを記載した上で,原告の感想とし
て,いずれの議論も楽しめたこと,本件法人に抗議したければ,抗議文を直接本件
法人に送るべきことを記載した。
オ原告投稿4は,平成31年1月11日に原告が行ったものである。25
原告投稿4には他の記事やウェブサイトへのリンクはなく,原告が記載した文章
のみの投稿であるが,1行目に「【総務省行政評価局】から電話→受」との
記載があり,2行目以下に,要旨,原告が約1年近く前に行政評価局へ相談した件
を同局が調べてくれており,質問があると電話があったこと,将来,原告が相談し
た手段が使えるようになった時のために,原告投稿4を覚えておいて欲しいこと,
ヒントは,「全国の自治体」,「総務省」,「手続を少しでも簡略化」であること5
が記載されている。
カ原告投稿5は,平成31年1月14日に原告が行ったものである。
原告投稿5に他の記事やウェブサイトへのリンクはなく,原告が記載した文章の
みの投稿であるが,1行目に「【厚生労働省へ抗議文を送った,ある組織のある人
物へ捧ぐ】」との記載があり,2行目以下には,要旨,厚生労働省主催の検討会に10
おける原告の発言について,ある人物が厚生労働省へ抗議文を送ったことで,今後
の検討会における原告の発言に萎縮効果を生み出すこと,原告がある人物にとって
不利,不都合な発言をし,また抗議文が送られたら,社会的に抹殺されるかもしれ
ないとの恐怖すら抱くかもしれないこと,こんな事態に追い込まれるのであれば,
自由闊達な意見を述べることすらできないこと,次回以降の検討会終了後に,また15
言われるかもしれないと考えるだけで,今日から夜も眠れないこと等が記載されて
いる。
キ原告投稿6は,平成31年1月17日に原告が行ったものである。
原告投稿6に他の記事やウェブサイトへのリンクはなく,原告が記載した文章の
みの投稿であり,タイトルや表題も存しない。20
原告投稿6は,同月16日午後6時18分に厚労省所管課がメールで資料を原告
に送り,何か意見があれば同日中に提出するよう言ったこと,同月17日午前2時
35分に電話したが全く出ないこと等を述べた後,最終行に,「官僚の民間人に対
する『メール指示』の内容の『非常識度合』。」と記載した。
ク原告投稿7は,平成31年1月18日に原告が行ったものである。25
原告投稿7に他の記事やウェブサイトへのリンクはなく,原告が記載した文章の
みの投稿であり,タイトルや表題も存しない。
原告投稿7は,原告が22時53分(同月17日と解される。)に厚労省所管課
に電話したところ,この日は出たこと,日を跨いで同月18日0時33分まで,送
付された資料について,出来る限り丁寧に,率直な意見を述べたこと,意見があれ
ば同月17日に述べるよう指示されたので電話したにすぎないことを述べるもので5
ある。
⑶フェイスブック上の「埋め込み投稿」の機能等
アフェイスブックの一般的な設定について
フェイスブックの利用者は,アカウントや投稿ごとの設定によって,自らのアカ
ウントを用いて投稿した内容を,他の利用者が閲覧したり,フェイスブック内外に10
おいて紹介したり引用したりする機能をある程度選択し,制限することができる。
なお,フェイスブックのアカウントには,個人が利用する個人ページと,企業や団
体等が利用する「Facebookページ」の2種類があり,機能等が微妙に異なるところ,
原告が利用しているのは前者であると考えられる(甲6,乙1)。
フェイスブックは,「Facebookの公開情報とは何ですか。」というヘルプページ15
において,公開となっているコンテンツは,フェイスブックの利用者でない人を含
めて誰でも閲覧できること,プロフィールに登録する情報の一部は常に公開される
こと,共有範囲を「公開」にしてコンテンツをシェアした場合はそのコンテンツは
公開情報とみなされること,他の利用者が「あなた」についての情報をシェアする
場合,「あなた」が公開しなかった情報であっても公開するかどうかはその利用者20
(シェアする人)が選択することができること,Facebookページや公開グループは
公開スペースであり,通常,ページや公開グループに投稿又はコメントすると,記
事がフェイスブック内外の他の場所に公開される可能性があること等を説明してい
る(乙3)。
また,フェイスブック上における「フォロー」とは,フォローした相手のページ25
の投稿が自分のニュースフィード(タイムライン)に表示されるようになる機能で
あり,アカウントにおいて「フォロー不可」(フォロー設定をオフ)の設定をした
場合には,他の利用者はそのアカウントをフォローすることができなくなる(甲6)。
イ「埋め込み投稿」について(乙1,2)
フェイスブック上の「埋め込み投稿」の機能とは,①Facebookページの投稿,及
び②フォロー設定をオンにしている個人アカウントの公開設定になっている投稿を,5
外部のウェブサイトにおいて,一定の形式で表示させることができる機能である。
フェイスブックにログインした状態の利用者は,①又は②の設定になっている投
稿記事を操作して,「埋め込み投稿」というメニューを表示させ,これをクリック
することにより出現する小窓に表示されたURLをコピーし,任意の外部のウェブ
サイト等に貼り付けると,当該ウェブサイトにおいて,自動的に,一定の枠内に元10
の投稿記事のアカウント名,プロフィール写真及び内容の一部が表示される(埋め
込み表示)。当該ウェブサイトの閲覧者は,埋め込み表示をクリックすることによ
り,フェイスブック上の元の投稿記事に移動することができる。元の投稿記事が削
除されたり,公開に関する設定が変更されたりした場合には,上記の枠内に,「こ
のFacebook投稿は利用できません。削除されたか,プライバシー設定が変更され15
た可能性があります。」という文章(削除表示)が表示される。
なお,①又は②の条件を充たさない投稿記事については,「埋め込み投稿」とい
うメニュー自体が表示されず,「埋め込み投稿」をすることはできない。
⑷本件ウェブサイト及び本件各記事(甲3の1ないし7)
ア本件ウェブサイト20
本件ウェブサイトは,「ほっとポット応援団」という名称のブログであるところ,
本件ウェブサイトの運営者又は本件投稿者について,氏名・名称,所属を明らかに
する記載,原告又は本件法人との関係の有無,内容を示す記載,あるいは,「応援
団」と表示することの理由,目的を示す記載は存しない。
イ本件各記事25
本件各記事は,本件投稿者により本件ウェブサイトに投稿された記事であり,別
紙対照表のとおり,原告各投稿の全部(原告投稿2ないし7)又は一部(原告投稿
1)を本文に転載し(以下「本件転載部分」という。),各記事の上部に原告各投
稿の内容に応じたタイトルを付け,本件記事3を除き,冒頭の1ないし3行に原告
各投稿についての記述(以下「本件コメント部分」という。)を付したものである。
また,原告各投稿は段落間の行間を空けず文字を密に配置しているのに対し,本5
件各記事中の本件転載部分は,段落間の行間を広く空けて配置している。
ウ埋め込み表示
原告が本件各記事を印刷した時点では,本件記事7の本文の下部枠内には原告投
稿7の埋め込み表示があり,本件記事1ないし4及び6の本文の下部枠内には削除
表示があった(甲3の1ないし4,6,7)。10
このことから,本件各記事の投稿時には,本件記事5を除く本件各記事の下部枠
内には,フェイスブック上の「埋め込み投稿」の機能を利用して,原告投稿5を除
く原告各投稿が埋め込み表示されていたが,その後,原告が設定を変更するなどし
たため,本件記事1ないし4及び6の下部枠内には,削除表示がされるようになっ
たものと推測される。15
なお,原告は,著作権侵害,著作者人格権侵害を主張する本件各記事について,
URL,タイトル,投稿日時,投稿内容により特定しており,投稿内容には,本件投
稿者が記載した本件コメント部分及び原告各投稿より転載された本件転載部分は含
まれるものの,本件各記事の投稿時に存した,又は存したと思われる原告各投稿の
埋め込み表示についてはこれに含まれておらず,本件投稿者が埋め込み表示を行っ20
たことを問題としているのではない。
エ本件記事1
本件記事1は,本件投稿者が平成30年12月19日に投稿したものであり,「千
葉県議会健康福祉常任委員会」のタイトルが付され,「千葉リハビリテーションセ
ンター」の表示のある建物の前に立つ人物(特定されていない。)の写真が掲げら25
れている。
上記写真の下に,本件コメント部分として,「千葉県議会■党のP2議員ともつ
ながりの深いほっとポット代表理事のP1さん。今後も強い影響力を持って,問題
に立ち向かって欲しいです。応援しています!」という文章が記載されている。
さらにその下に,本件転載部分として,別紙対照表の下線部分が記載されている
が,原告投稿1に存したP2議員の投稿の転載部分は存在せず,原告がP2議員の5
投稿の転載部分に続けて記載した「うーむ。。。千葉県議さんの指摘,鋭いですね
~。」との文章についても転載されていない。
オ本件記事2
本件記事2は,本件投稿者が平成31年1月6日に投稿したものであり,「介護
業界注目の人」とのタイトルが付され,本件コメント部分として,「若い頃のお写10
真も凛々しいですね(^_^)。」との記載があり,その下に原告投稿2の全文が転載さ
れている。
また,本件記事2の下部には,原告が原告投稿2でリンクを貼った介護求人情報
を提供する記事が掲載され,その結果,同記事中の原告の写真や「介護業界・注目
の人」といった文章も掲載されている。15
カ本件記事3
本件記事3は,本件投稿者が平成31年1月9日に投稿したものであり,原告投
稿3の文章の一部である「一気にヒートアップ!!休憩一切無しの超高速議論開始」
をタイトルとして使用し,本件コメント部分の記載はない。本件転載部分は,原告
投稿3の全文を転載したものである。20
キ本件記事4
本件記事4は,本件投稿者が平成31年1月11日に投稿したものであり,原告
投稿4の文中より抜き出した「『全国の自治体』『総務省』『手続を少しでも簡略
化』」をタイトルとして使用し,本件コメント部分として「なんだかすごい!!絶
対覚えておきます(^_^)。」との記載がある。本件転載部分は,原告投稿4をほぼそ25
のまま(1行目の「受」の字がない。)転載したものである。
ク本件記事5
本件記事5は,本件投稿者が平成31年1月14日に投稿したものであり,原告
投稿5の文中にある「発言萎縮効果」の言葉をタイトルとして掲げ,本件コメント
部分として「夜も眠れないほどの恐怖…。想像できませんが,怯まずに,正々堂々
意見を述べて欲しいです!何も力になりませんが,応援しています!」と記載した。5
その下に,本件転載部分として,原告投稿5を全文転載したが,行間を広く空け
るとともに,「巧妙で恐ろしい手口だ…。」という一文のみ太い字体を用いて,強
調を施している(原告投稿5にこのような字体の変化はない。)。
ケ本件記事6
本件記事6は,本件投稿者が平成31年1月17日に投稿したものであり,原告10
投稿6の文中にある「官僚様のご都合」の言葉をタイトルに用い,原告投稿6には
ない大判のイラストを掲げ,本件コメント部分として,「民間では寝ないで仕事な
んて企業は今でもたくさんあると思いますが,とはいえ非常識ですよね…。さすが
官僚様のご都合。お疲れだとは思いますが,頑張ってください!応援しています!」
との文章を記載した。本件転載部分は,原告投稿6の全文を転載したものである。15
コ本件記事7
本件記事7は,本件投稿者が平成31年1月18日に投稿したものであり,原告
投稿7の文章の一部である「厚労省所轄課へ電話。今日は出た(笑)」をタイトル
に掲げ,本件コメント部分として,「こんな遅い時間に電話に出たこともびっくり。
遅くまでご苦労様です。応援しています!!」と記載した。本件転載部分は,原告20
投稿7の全文を記載したものである。
サ本件各記事の削除
本件投稿者は,原告による令和元年6月14日付けの投稿記事削除等仮処分命令
申立てを受け,本件各記事及び本件ウェブサイトを削除した。
2争点についての検討25
⑴争点⑴ア(著作権侵害)について
前記認定したところによれば,本件各記事の本件転載部分は,原告各投稿の一部
又は全部を転載したものであり,字体や行間は異なるものの,ほぼ同一の文字内容
を有形的に再製したものであり,本件投稿者は,これを自身のブログの一内容とし
て本件ウェブサイト上にアップロードして,広く公衆の閲覧に供したのであるから,
後記検討する引用の法理が適用されるか(著作権法32条),あるいは原告による5
承諾の及ぶ範囲と認められるのでない限り,本件投稿者の行為は,原告の複製権(同
法21条)及び公衆送信権(同法23条1項)を侵害することになる。
⑵原告各投稿と本件各記事の関係
争点⑴イ(同一性保持権侵害)及び争点⑴エ(引用)を検討する前提として,原
告各投稿と本件各記事(タイトル,本件コメント部分,本件転載部分その他からな10
る。)の関係について検討する。
ア本件転載部分と本件コメント部分の体裁
本件ウェブサイトにおいて,本件コメント部分と本件転載部分とでは,文字の字
体,色及び大きさに差異は設けられておらず,本件記事6以外の本件各記事におけ
る本件転載部分では,本件コメント部分と比較して,全体として1,2文字分中央15
寄りに配置され,背景の左上部分に,薄いグレーの「“」(ダブルクォーテーショ
ン)マーク(縦3行分,横6文字分程度の大きさ)が描画されていた(本件ウェブ
サイト全体の背景色は白である。)。本件記事6のみ,本件コメント部分と本件転
載部分が連続して記載され,配置や背景にも差異はなく,「“」マークも存在しな
かった(甲3の1ないし7,甲9の1,2,甲12)。20
被告は,本件転載部分は,枠線で区切られ,背景に「“」マークが付されている
ため,本件各記事を見る者にとって,本件転載部分と本件コメント部分の区別は明
確であると主張し,上記認定した差異の他にも,本件転載部分全体を囲む枠線及び
枠線内の背景色にもさらに薄いグレーが配色されている可能性はある。しかしなが
ら,通常の閲覧環境の者にとって,そのような差異を容易に認識できるとは考えら25
れないし(甲13ないし15,乙5。なお,乙5の画像データは,本件記事7と同
内容のものであるが,投稿日が異なるため,本件記事7の画像そのものであるとい
うことはできない。),これらの配置やマークは特段目立つものではない。また,
上記のように本件コメント部分と本件転載部分は,同じ字体,色及び大きさで,文
章としての区別も明確ではないまま続けて記載されており,本件記事6については,
上述したような区別もないまま本件コメント部分と本件転載部分とが連続して記載5
されていることは前述のとおりである。
そうすると,本件各記事は,本件ウェブサイトの閲覧者にとって,本件コメント
部分と本件転載部分を区別することが困難なものであり,一体となったひとまとま
りの文章と認識される可能性が高いものであったというべきである。
イ出所の表示10
本件転載部分に,原告がP2議員の投稿を引用した際に行ったような,出所の表
示と引用の始点終点を明示する表示は存しない。
本件各記事が投稿された時点では,閲覧者は,本件各記事の下部枠内にある埋め
込み表示と本件各記事の本文部分とを仔細に対比することで,本件転載部分が原告
各投稿に由来することを知り得た可能性はあるものの,埋め込み表示に原告各投稿15
の全文が表示されるわけではなく,一般の閲覧者がそのような注意を払って閲読す
るとも考えにくいから,本件転載部分の出所については,表示されていないという
べきである。
ウ原告と本件投稿者の関係
本件各記事は,「ほっとポット応援団」という,本件法人を応援する立場である20
ことを示す表題を使用して掲載されており,前記認定事実のとおり,本件コメント
部分に本件法人を応援する旨の記載はあるものの,本件投稿者の政治的,社会的立
場,本件投稿者と本件法人あるいは原告との関係,本件投稿者が本件法人を応援す
る理由ないし目的については,本件ウェブサイトや本件各記事において,何らの説
明もなされていない。25
しかしながら,一般の閲覧者の立場では,本件法人の応援団を名乗る以上,本件
投稿者については原告又は本件法人と何らかのつながりのある者,広い意味で本件
法人と立場を同じくする者がこれを記載したものと認識する可能性が高いと考えら
れる。
エタイトルの問題
前記1で認定したとおり,本件各記事にはタイトルが付されているが,それらは5
いずれも本件転載部分にある文の一部あるいはそれに添付された記事に由来するこ
とが分かり得るものであり,一見して,本件転載部分が本件各記事と一体の関係に
あると感じさせるものである。
オ本件各記事全般について
本件各記事は,タイトル,本件コメント部分,本件転載部分から構成され(本件10
記事3には本件コメント部分はなく,本件記事1及び6には,原告投稿1及び6に
はない写真,イラストがある。),前記アないしウで検討したところによれば,表
示の体裁上本件コメント部分と本件転載部分を区別することが困難であること,本
件転載部分の出所の明示がなく,本件投稿者の立場も明示されていないことから,
全体が本件法人を応援する目的で記載されていると解されること,タイトルの使い15
方から,本件転載部分は本件各記事と一体のものと理解されることを指摘し得るの
であって,これらを総合すると,一般の閲覧者の立場では,本件各記事は,タイト
ル,本件コメント部分,本件転載部分及び写真等がひとまとまりの一体のものとし
て理解すると認められる。
そうすると,本件投稿者が原告各投稿の全部又は一部をこのような形で転載した20
ことによって,本件転載部分は,原告各投稿には元々存在しなかったタイトル,本
件コメント及び写真等と一体のものとして理解され,後記カで個別に検討するとお
り,意味内容や与える印象が変化したのであるから,原告各投稿は,改変されたと
いうことができる。
カ個別の記事について25
本件記事1
原告投稿1は,千葉県議であるP2議員のフェイスブック上の投稿を転載した上
で,「うーむ。。。千葉県議さんの指摘,鋭いですね~。」と記載することにより,
P2議員の投稿に対する論評であることを明示して,簡易個室問題その他について
のP2議員の視点は重要であることなどを述べるものである一方で,P2議員と原
告とのつながりを示唆するような記述はない。5
これに対し,本件投稿者は,本件記事1に「千葉県議会健康福祉常任委員会」と
いうタイトルを付して,「千葉リハビリテーションセンター」という建物の前に立
つ人物の写真を掲載し,本件コメント部分として「千葉県議会■党のP2議員とも
つながりの深いほっとポット代表理事のP1さん。今後も強い影響力を持って,問
題に立ち向かって欲しいです。応援しています!」との記述を加える一方で,原告10
投稿1の内容のうち,P2議員の投稿の引用部分及び「うーむ。。。」で始まる部
分については転載せず,「【簡易個室問題】に加え,」以降の記述のみを転載した
ものである。
そうすると,本件記事1は,原告投稿1においては明らかであったP2議員の投
稿に対する原告の見解を述べるという特徴が失われ,むしろ,原告又は本件法人が,15
タイトルに記載された組織やP2議員,写真に写った建物,人物等とつながりがあ
ることを示唆する内容になっているのであり,意味内容や閲覧者に与える印象が改
変されたということができる。
本件記事2
原告投稿2は,原告が介護求人情報を提供するウェブサイト記事で紹介されたこ20
とを内容とするものであるが,本件投稿者は,本件記事2で,原告投稿2を転載す
るとともに,引用されたウェブサイト記事にある「介護業界注目の人」の言葉をタ
イトルとして使い,原告の若い頃の写真も凛々しい旨の本件コメント部分を付した
ものである。
前述のとおり,「ほっとポット応援団」の表題でなされた本件各記事は,原告又25
は本件法人と何らかのつながりのある者によってなされたと一般には解されるとこ
ろ,本件記事2が「介護業界注目の人」のタイトルを用い,本件コメント部分を付
したことにより,原告投稿2に,自らを介護業界注目の人である旨を述べた部分は
存しないのに,本件法人とつながりのある者が,原告は介護業界注目の人である旨
を述べたとの印象を与えるものであり,これと一体となるような形で原告投稿2が
転載されたことによって,原告投稿2の意味内容や閲覧者に与える印象は改変され5
たというべきである。
本件記事3
本件記事3は,原告投稿3の全文を転載する一方で,本件コメント部分の付加は
ない。
他方,原告投稿3は,5時間連続の議論を1日の間に2度にわたって行った旨述10
べているのに対し,付されたタイトルは,そのうちの一方について説明する文章か
らとったものである。
また,本件記事3では,段落間の行間を広く空けるなど,原告投稿3とは異なる
文字の配置がなされている。
以上によれば,本件記事1,2に比べると程度は低いものの,原告投稿3を転載15
してこれにタイトルを付し,行間を広く空けることによって,閲覧者に異なる印象
を与えるようになったというべきであるから,本件投稿者は,原告投稿3を改変し
たというべきである。
本件記事4
原告投稿4は,以前相談した件について行政評価局より電話があったことを述べ20
た上で,その内容を具体的には説明せず,「この投稿をしっかり覚えておくように。」
と言った上で,ヒントとして3つの言葉を掲げるものである。
本件記事4は,原告投稿4をほぼそのまま転載しつつ,原告がヒントとして掲げ
た3つの言葉をタイトルとし,本件コメント部分として,「なんだかすごい!!絶
対覚えておきます(^_^)。」との記載をして,本件転載部分の行間を広くとったもの25
である。
これまで述べたとおり,本件転載部分は,タイトルや本件コメント部分と一体と
して理解されるものであるから,本件投稿者は,本件記事4に転載するに当たり,
原告投稿4を改変したというべきである。
本件記事5
原告投稿5は,ある人物の抗議文に起因する厚生労働省の対応について,「萎縮5
効果」,「発言萎縮効果」といった言葉で論評し,原告の内心の分析として恐怖を
抱くかもしれないこと,また言われるかもしれないと思うと「今日から夜も眠れな
い」ことを述べたものであって,全体を「発言萎縮効果」で要約し得るものではな
い。また原告は,上記内容を,複数の段落にまたがって表現しているのであって,
「恐怖で夜も眠れない」といったことを一文で表現した部分は存在しない。10
本件投稿者は,本件コメント部分に「夜も眠れないほどの恐怖…。想像できませ
んが,」と記載することによって,原告投稿5において,原告が恐怖で夜も眠れな
い旨を端的に述べているかのような印象を閲覧者に与え,また「発言萎縮効果」を
タイトルに用いることにより,原告投稿5の論評の主題が発言萎縮効果であるとの
印象を与えている。15
さらに,本件投稿者は,本件転載部分について,行間を広げるとともに,「巧妙
で恐ろしい手口だ…。」との部分に太い文字を使い,原告投稿5にはない強調を施
すことによって,異なる印象を与えているということができる。
以上によれば,本件投稿者は,原告投稿5を本件記事5に転載するに当たり,こ
れを改変したということができる。20
本件記事6
本件記事6は,タイトルにも本件コメント部分にも,本件転載部分にある「官僚
様のご都合」という言葉が使われており,全体が一体であることを強く感じさせる。
そうすると,原告投稿6についても,本件投稿者は,本件記事6への記載をする
にあたり,元々存在しなかったタイトル,イラスト及び本件コメント部分を付して,25
これと一体としたのであるから,これを改変したというべきである。
本件記事7
本件記事7においても,原告投稿7より転載された本件転載部分は,元々存在し
なかったタイトル及び本件コメント部分を付され,これと一体にされているのであ
るから,改変がなされたということができる。
キまとめ5
以上より,本件各記事は,いずれも,独自のタイトルを付したり,原告各投稿と
の区別が不明瞭な形で本件コメント部分を付け加えたり,一部の文章を削除し写真
を付け加えたり,行間を広げたり,一部の文字を太くしたものであり,原告各投稿
を改変したものと認められる。
⑶争点⑴ウ(原告の承諾)について10
ア本件各記事の転載の態様について
前記認定事実のとおり,本件各記事は,原告各投稿につき,独自のタイトルを付
け,本件コメント部分を付し(本件記事3を除く。),原告各投稿の全部又は一部
をそのまま転載したものである。また,本件記事7の下部には,原告投稿7を,フ
ェイスブック上の「埋め込み投稿」の機能を用いて本件ウェブサイトに転載したこ15
とを示す埋め込み表示があり,本件記事1ないし4及び6の下部には,削除表示が
ある。
イフェイスブック上の「埋め込み投稿」の設定について
被告は,フェイスブックの利用者の一般的な目的が投稿を広めることにあること
などから,他の利用者が「埋め込み投稿」の機能を利用して外部のウェブサイトに20
投稿を転載することを許容する設定になっている投稿記事については,当該投稿記
事が外部に広く転載されることについて,投稿者の黙示の承諾があるとみなすこと
ができると主張する。
「埋め込み投稿」の機能を利用した場合,外部のウェブサイトには,自動的に,
フェイスブックの元の投稿の全部又は一部,アカウント名及びプロフィール写真等25
が一定の枠内に表示され(埋め込み表示),元の投稿が削除されたり変更されたり
した場合には,自動的にその枠内にもその旨が表示される(削除表示)のであるか
ら,同機能は,いわゆるインラインリンクを設定するものであると解することがで
きる。
この場合,当該ウェブサイトを閲覧する者は,埋め込み表示された投稿がフェイ
スブックの投稿であって同ウェブサイトの他の部分とは区別されるものであるとい5
うことを容易に理解することができ,また,埋め込み表示をクリックすることによ
り,フェイスブック上の元の投稿に移動することもできる。
ウ原告の意思について
これまで検討したところによれば,原告各投稿がなされ,本件各記事が投稿され
た時点では,原告は,フェイスブック上で,原告各投稿の「埋め込み投稿」を許容10
する設定にしていたと認められ,本件記事5以外の本件各記事には,その下部に埋
め込み表示や削除表示があることから,本件投稿者は,これらの本件各記事の下部
枠内に,原告各投稿の埋め込み表示をしていたものと解され,「埋め込み投稿」の
利用自体については,原告の承諾があったと考えることもできる。しかしながら,
本訴訟において原告が問題としているのは,原告各投稿を埋め込み表示したことで15
はなく,原告各投稿の一部又は全部を本件各記事に転載したことである。
この点については,原告がフェイスブック上で,「埋め込み投稿」を許容する設
定にしていたからといって,原告各投稿の内容をいかなる形で利用することをも承
諾していたと解することはできず,「埋め込み投稿」の利用を超える転載について
は,公表された著作物の引用(著作権法32条1項)の法理により,その適否を判20
断すべきである。
⑷争点⑴エ(「引用」の成否)について
他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方
法や態様が公正な慣行に合致したものであり,かつ,引用の目的との関係で正当な
範囲内,すなわち,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要で25
あって(著作権法32条),やむを得ないと認められる場合を除き,改変すること
は認められない(同法20条)。
本件各記事において,本件投稿者が付け加えた記述(本件コメント部分)は1な
いし3行である一方で,本件転載部分は数行ないし約45行であって,本件各記事
の主な部分を占める。また,前記のとおり,本件ウェブサイトの閲覧者にとって,
本件コメント部分と本件転載部分との区別は不明瞭であって,全体を一つのまとま5
りの文章と認識する可能性が高いから,本件投稿者による記述部分が原告各投稿の
転載部分に対する批評の一類型であるととらえることはできない。また,原告の氏
名や元の投稿を示す記載は,埋め込み表示以外はなく,その埋め込み表示も,前記
2⑴イのとおり,本件転載部分について引用であることを明らかにして著作者の氏
名や引用元等を明示するものとはいえない。10
以上を総合すると,本件投稿者は,原告各投稿を本件各記事に転載するに当たり,
本件投稿者が記載した本件コメント部分との区別を明確にせず,また本件転載部分
の出所を明示しないことにより,タイトル,本件コメント部分及び本件転載部分を
一つのまとまりとして記載させるようにして,原告各投稿を改変したというべきで
あり,これを公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用(同法32条1項)に当15
たるということはできないし,このように原告各投稿を利用することについて,原
告の承諾があるということもできない。
⑸争点⑴ア及びイ(権利侵害)について
アこれまで検討したところによれば,本件投稿者が原告各投稿を本件各記事に
転載し,その際に改変を行ったことについて,引用の法理(著作権法32条1項)20
によって正当化することはできず,原告の承諾も認められないから,著作権侵害(複
製権侵害,公衆送信権侵害)の成立は明白である。
イまた,前記検討したところによれば,本件投稿者が原告各投稿を転載して改
変したことについて,利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められるもの
ではないし,原告の陳述書(甲5,10)によれば,その改変は原告の意に反する25
ものであったと認められるから,本件投稿者の行為は,原告各投稿についての同一
性保持権の侵害にあたり(同法20条),著作者人格権の侵害も明白というべきで
ある。
ウまた,原告は,同一性保持権侵害のほか,原告の氏名表示権が侵害され,原告
の名誉,声望が害されたと主張する。
本件転載部分は,原告各投稿の全部又は一部が転載されたものであり,本件コメ5
ント部分との区別が不明確であり,その出所も明示されていないため,原告各投稿
の改変と解すべきことは前述のとおりであり,本件各記事は,原告各投稿を原著作
物とする二次著作物の性質を有するから,これを公衆に提供するに当たり,原著作
物の著作者である原告の氏名についても,表示すべきこととなる(同法19条1項)。
しかしながら,氏名表示の問題としては,本件転載部分に原告の氏名表示がなか10
ったとしても,これと別にある原告各投稿の埋め込み表示の記載によっては,閲覧
者は本件転載部分の原著作者が原告であることを認識し得る可能性があり,現に,
原告投稿7の埋め込み表示が存する本件記事7については,そのように考えること
もできる(甲3の7)。その余の本件各記事については,基本的には下部枠内に埋
め込み表示が存在したと考えられるところ,投稿時の埋め込み表示の状態を示す証15
拠が提出されていない以上,少なくとも本件の証拠から,氏名表示権の侵害が明白
とまではいえない。
また,本件の証拠から,原稿の名誉,声望が害されたことが明白であるとまでは
いえない。
⑹争点⑴オ(責任阻却事由の要否及び存否)について20
被告は,開示請求者である原告には,責任阻却事由の不存在を含む権利侵害の明
白性を主張・立証する責任があるところ,本件投稿者には,前述のとおり原告によ
る転載の承諾があったと誤認してもやむを得ない状況にあったから,本件各記事に
よる権利侵害について故意・過失がなかったと主張する。
プロバイダ責任制限法4条1項1号において,単に権利が侵害されたことではな25
く,それが「明らか」であることが必要とされる趣旨は,発信者の有するプライバ
シー,表現の自由等の利益と被害者の権利回復を図る必要性との調和を図るべく,
権利が侵害されたことが明白である場合に限って発信者情報を開示させることとし
たものであり,「明らか」とは,不法行為の成立を阻却する事由の存在をうかがわ
せるような事情が存在しないことまでを意味すると解される。
そうすると,発信者情報開示を請求する原告は,権利侵害に係る客観的事実はも5
とより,違法性を阻却する事由の存在しないことについても主張,立証する必要が
あると解すべきであるが,他方で,同号の規定と不法行為の成立要件を定めた民法
709条の規定とを比較すると,同号の規定には「故意又は過失により」との不法
行為の主観的要件が定められておらず,また,発信者(本件投稿者)が特定されて
いない段階において,このような主観的要件に係る阻却事由についてまでも,原告10
にその不存在についての主張,立証の負担を負わせることは相当ではないから,原
告は,その不存在についての主張,立証をするまでの必要性はないものと解するの
が相当である。
したがって,原告は,本件投稿者が,本件各記事が原告の著作権及び著作者人格
権を侵害するものであることについて故意,過失があったことの主張,立証をする15
ことを要しない。
⑺争点⑵(開示を受けるべき正当な理由の存否)について
前記認定事実のとおり,原告による仮処分命令申立てを受けて本件各記事は削除
され,本件投稿者は,令和2年4月7日付けの上申書⑵において,原告の主張につ
いて反論するとともに,本件各記事は原告及び本件法人を応援する目的で投稿した20
ものであって,原告の権利侵害に当たるおそれがあり,原告の心情を害するとは思
っていなかったが,このことについて深く反省し,今後同種投稿を行わないことを
誓約する旨述べる。
しかし,本件投稿者は,同年1月24日付けの上申書においては全面的に原告の
主張を争っており,また,本件各記事を公開するに至った目的や経緯の詳細を明ら25
かにしていないことなどから,今後再び同様の投稿を行うおそれが一定程度存在す
るといわざるを得ない。
原告は,本件投稿者に対し,将来の差止めを請求する意向であるとするところ,
その前提として本件投稿者を特定することは必要不可欠であり,原告には,差止請
求権等の行使のために本件投稿者の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が認
められる。5
3結論
以上より,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり
判決する。
大阪地方裁判所第21民事部10
裁判長裁判官
谷有恒15
裁判官
杉浦一輝
裁判官
島村陽子

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