弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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          主     文
     本件各控訴を棄却する。
     被告人両名に対し,当審における未決勾留日数中各300日を,
それぞれ原判決の刑に算入する。
          理     由
1 本件各控訴の趣意は,被告人Aの弁護人吾郷計宜及び被告人Bの弁護人
安田寿朗各作成の各控訴趣意書記載のとおりであり,これらに対する答弁は
検察官室田源太郎作成の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用す
る。
2 被告人両名の量刑不当の主張について
  本件は,被告人両名及び原審相被告人Cが,保険金目当てに,被告人両
名が就寝中のCの父母及び同居のその長男一家4名の合計6名を順次殺害す
るとともに,家屋内に存する現金を強取し,強取した現金は被告人ら3名で
分配する他,Cが被告人Bに200万円,被告人Aに100万円をそれぞれ
犯罪実行の報酬として支払うことを共謀した上,被告人AがCの父親(当時
55歳)の胸部等を牛刀で力まかせに数回突き刺して殺害し,被告人BがC
の母親(当時51歳)の左膝部等をペティナイフで数回突き刺すなどした
が,同女が助けを求めて逃げ出したために,被告人両名は警察に通報され逮
捕される危険を感じて逃走し,家屋内の現金を強取することができず,母親
を殺害する目的を遂げなかったという強盗殺人及び同未遂の事案である。
  被告人両名は,いずれも遊興費等の金欲しさに本件強盗殺人及び同未遂
の犯行に及んだものであって,被告人両名にとっても面識のある被害者らを
殺害して自らの金銭的欲望を満たそうとした犯行の動機は,自己中心的かつ
短絡的であり酌量の余地は全くなく,本件犯行は,事前に共謀した役割分担
に従って実行した計画的犯行であり,その態様は就寝中のCの両親を牛刀等
で多数回にわたって突き刺すなどという冷酷かつ残虐極まりないものであ
り,その結果も一人を殺害し,一人に傷害を負わせたというもので極めて重
大である。
  Cの父親は,長年勤務したD株式会社を退職し,その長男の家族ととも
に第二の人生を送り始めた矢先に,何の落ち度もないのに実子Cとその友人
である被告人両名により殺害されたものであって,その無念さは察するに余
りあり,また,同じく何の落ち度もないのにペティナイフで膝部等を刺さ
れ,命からがら逃げ出したCの母親が味わった恐怖と苦痛は極めて大きい。
  更に,直接の被害者であるとともに夫を殺害されたCの母親及び一家殺
害の対象とされていたその長男はもちろん,二男ら遺族の被告人両名に対す
る処罰感情はいずれも峻烈であることは至極当然である。
  また,本件犯行が社会に与えた影響も軽視することもできない。
  被告人両名及びCの本件犯行に果たした役割については,Cは,最初に
本件犯行を計画し,遊び仲間である被告人両名を巻き込み,実の親の殺害を
被告人両名に実行させたものであり,被告人Bは,犯行計画を練る途中でC
が実行を躊躇するやに見えると,執拗に実行を迫り,殺害後の現金強取を暗
に持ちかけ,Cの母親に対し凶行に及んでおり,被告人Aは,計画当初の段
階ではC及び被告人Bに対し従属的な立場にあったとはいえ,最終的に共謀
が成立した段階においては,自ら実行行為を行うことを決意し,かつ,最初
にCの父親に対する攻撃を開始し,同人を殺害したものであって,被告人ら
3名の本件犯行に果たした役割に特段の軽重はないというほかなく,本件犯
行は,誰が欠けても,このような形で実行に移されることはなかったもので
ある。
  以上,被告人ら3名の本件刑事責任は極めて重い。
  本件犯行は,保険金取得を主たる目的としてなされたものであり,家屋
内の現金強取は偽装工作のためとの面を有するのではあるが,そのことは,
本件強盗殺人及び同未遂の犯行において,特段被告人両名の量刑に関し斟酌
すべき事情とはいえない。
  また,被告人Aが,遊興費等の金銭目的で本件犯行に加担したことは明
らかであり,かつ,同被告人が本件犯行に果たした役割は前述のとおり被告
人B及びCに比較して従属的なものということもできない。
  被告人Bが本件犯行に加担し,これを実行したことについては,若さ故
の短絡的な側面はあるが,同被告人に能力的な欠陥がありその影響を受けた
ものであるということはできないのであって,同被告人が本件犯行について
相応の刑罰に処せられるべきは当然である。
  他方,本件犯行が発覚したため保険金騙取計画は失敗し,現金強取はな
されなかったこと,被告人両名はいずれも本件犯行を認め,反省の情を示し
ていること,被告人Aについては,犯行当日に自ら警察に出頭して自白して
いること,被告人Bについては,その母親が被害者・遺族に対する損害賠償
の内金として1000万円を支払う用意をしていること,被告人両名は,犯
行当時成人間近であったとはいえ19歳の少年であって,人格形成に未熟さ
が認められるのであって,更生の可能性も十分認められることなど,被告人
両名にとって酌むべき事情も存在するところである。
  しかしながら,これらの事情を十分考慮しても,被告人両名をいずれも
無期懲役に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。
  論旨はいずれも理由がない。
3 被告人Bの審理不尽の主張について
  被告人Bは,人格形成の未熟さから本件犯行に及んだものということが
できるが,本件審理に関し,精神鑑定は必要とは認められず,原審に審理不
尽は存せず,論旨は理由がない。
4 よって,刑事訴訟法396条により本件各控訴を棄却し,刑法21条を
適用して,被告人両名に対し当審における未決勾留日数中各300日をそれ
ぞれ原判決の刑に算入し,被告人Aに関する当審における訴訟費用は刑事訴
訟法181条1項ただし書を適用して同被告人に負担させないこととして,
主文のとおり判決する。
  平成15年5月12日
     広島高等裁判所松江支部
       裁判長裁判官    宮  本  定  雄
          裁判官    吉  波  佳  希
          裁判官    植  屋  伸  一

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