弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主       文
  被告人を懲役4年に処する。
  未決勾留日数中330日をその刑に算入する。
  押収してある覚せい剤3包み,同1袋及び大麻草1包みを没収する。
理       由
(犯罪事実)
 被告人は,
第1 みだりに,平成13年4月22日午前9時5分ころ,神戸市a区b町c番d
号所在のA堂B支店前路上に停車中のタクシー内において,覚せい剤であるフェニ
ルメチルアミノプロパンの塩類を含有する結晶粉末合計約5.21グラム及びテト
ラヒドロカンナビノールを含有する大麻草約0.287グラムを所持し,
第2 法定の除外事由がないのに,平成15年9月18日ころ,京都市e区fg町
h番地i所在のマンションCのD方において,フエニルメチルアミノプロパンの塩
類を含有する覚せい剤約0.03グラムを缶コーヒーに入れて飲用し,もって,覚
せい剤を使用し,
第3 みだりに,同月19日午前10時30分ころ,京都市j区k町l番地所在の
E市営住宅m棟n号の被告人方において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプ
ロパンの塩酸塩結晶塊及び粉末約0.561グラムを所持した。
(証拠の標目)
省略
(弁護人の主張に対する判断)
1.判示第1の事実について,弁護人は,本件覚せい剤及び大麻草を,被告人のポ
ーチに在中した状態で,公訴事実記載の日時ころに被告人が所持していた事実は認
めるが,これは警察に届ける目的で所持していたものであるから,正当業務行為と
して違法性が阻却され,被告人は無罪であると主張し,被告人も,これに沿う供述
をするので,以下,検討する。
2.関係各証拠によれば,平成13年4月22日午前9時過ぎころ,被告人は,氏
名不詳の女性とF郵便局西側歩道上で,G運転のタクシーに乗車し,同9時5分こ
ろ,a区b町c番d号所在のA堂B支店前路上で降車したこと,同車内に,被告人
が遺留した黒色ポーチ内から,被告人名義の郵便貯金キャッシュカード等ととも
に,チャック付きポリ袋入り覚せい剤1袋,青色紙包み入り覚せい剤1包み,白色
紙包み入り覚せい剤1包み,白色紙包み入り大麻草1包み,ストロー片1片及び赤
色キャップ付きプラスティック製注射器1組が入った黄色ペンケース,赤色キャッ
プ付きプラスティック製注射器1組並びにマイジェクターと記載のあるポリ袋に包
装された赤色キャップ付きプラスティック製注射器13組が発見,領置されたこ
と,上記青色紙包みから被告人の左手母指指紋が,白色紙包みからHの左手示指及
び中指の指紋が,それぞれ検出されたことが認められ,これについては,被告人も
争わない。
3.被告人は,本件覚せい剤等をタクシー内で所持していた経過等につき,公判廷
において,おおむね以下のとおり供述する。
  すなわち,平成13年4月21日から,o近辺のホテルに偶然知り合った女性
と一緒に宿泊していたところ,その翌朝,ホテルの居室内で,封筒に入った本件覚
せい剤等を発見し,警察に届けることにした。その際,ぼろぼろの紙に包まれてい
た覚せい剤2包みを,自分が持っていたルーズリーフの用紙(白色)と補聴器の広
告紙(青色)に包み直すなどし,その覚せい剤や大麻を,袋に包装されていない注
射器等とともに,黄色ペンケースに入れ,包装されていた注射器はビニール袋に入
れた上,これらを一緒に黒色ポーチに入れた。そして,女性と一緒に警察に行くた
めに,ポーチを持ってホテルを出た。郵便局に行って10万円おろし,ホテルの最
寄りの警察署に行くためにタクシーでいったん元の場所に戻り,oの入口付近でタ
クシーを降りたところ,女性が逃げ出したので,タクシー料金を支払って追いか
け,そのときにポーチをタクシー内に置き忘れた,というのである。
4.しかし,被告人の上記供述は,そもそも,重要な証拠品となる覚せい剤等を警
察に届けるのに,もともと封筒に入っていた覚せい剤の包み等を取り出した上,そ
れを自らが所持していた紙に包み替え,ペンケースに入れ直し,元の封筒や包み紙
を破って捨てるということ自体,極めて不自然であり,この点について,被告人
は,暇があったからおもしろがってやったというだけで,全く合理的な説明をして
いない。また,被告人は,覚せい剤を自分が所持していた紙で包み替えたり,証拠
品である封筒を破り捨てても,当時の自分の体調等を説明すれば,本件覚せい剤が
自分のものでないことは,警察官に信用してもらえる自信があったから,このよう
な行為をしたと供述する一方,被告人名義のキャッシュカード等とともに本件覚せ
い剤等の入ったポーチをタクシー内に遺留しながら,警察に届け出なかったことに
ついては,ホテルに同宿した女性に逃げられてしまえば警察官に信用してもらえな
いと思ったと述べ,さらには,そのまま京都に帰っても,いずれ近いうちに警察官
が訪ねてくると思ったが,そのときには説明すれば信用してもらえると思ったから
何も怖いことはなかったと述べるなど,その供述には全く一貫性がない。このよう
な被告人の供述態度に照らすと,被告人の上記供述は,到底,信用することができ
ない。
5.さらに,上記白色紙包みからHの指紋が検出されたことについて,被告人は,
本件の1週間ほど前,Hに会って保険の勧誘を受け,その連絡先を手持ちの用紙に
書かせたことがあり,覚せい剤を包み直した際,そのときの用紙を破って使用して
しまったため,Hの指紋が検出されたのではないかという趣旨の供述をしている。
  しかしながら,覚せい剤取引と全く関係のない者に連絡先を書かせた用紙が,
たまたま本件覚せい剤の包装に使用されたなどということは,それ自体,蓋然性が
高いとは考えられない。のみならず,被告人は,警察官の取調べに対し,当初は,
本件覚せい剤は,oの路地のゴミ箱の上で拾ったと述べ(平成15年11月12日
付け供述調書),その後,ホテルのいすのすき間で見つけたと供述を変えてから
(同月18日付け供述調書)も,封筒からは出したがそのままの状態でバッグに入
れたと供述していたのに(同年12月13日付け,同月14日付け),同月15日
になって初めて,持っていた紙で包み直したと供述を変更しているのであって,こ
のような供述経過に照らしても,被告人の上記供述は容易に了解することができな
い。
6.他方,Hの検察官に対する供述調書によれば,同人は,被告人から,何回か覚
せい剤を譲り受けたことがあり,同人が,被告人から覚せい剤を譲り受けるとき
は,紙包みなどに入ったまとまった量の覚せい剤を差し出され,同人が,欲しいだ
けの量を自分で計り取り,残った覚せい剤を被告人に返すという方法をとっていた
というのである。もっとも,Hは,公判廷において,弁護人の「実際にあったこと
じゃないんでしょう」などという質問に対しては,「はい,はい」と答える一方,
検察官調書について,検察官の,「そのときは間違いないということで押印された
わけですか」という問いに対しても,肯定的に答え,裁判官の問いに対しては,被
告人から覚せい剤をもらったことがあるかどうか分からないなどという極めて曖昧
な供述をするなど,その供述内容は相互に矛盾しているだけでなく,被告人に対し
て不利なことは言いたくないという供述態度が顕著である。加えて,Iの公判供述
によれば,Hは,Iに対して,公判廷での供述について,「(被告人の)目の前で
は言えへんやろ。」などと言っていたというのであって,Hの公判供述のうち,被
告人との覚せい剤との関わりを否定する部分は,信用性に乏しい。他方,Hの検察
官に対する供述調書は,その内容に格別不自然,不合理な点はなく,細かい時期的
な部分等はともかく,Iの公判供述と,おおむね合致している。さらに,Hの取調
べ時における供述経過も自然なものであり,上記Iの公判供述によれば,Hは,取
調べ後,Iに対し,「全部しゃべってしもてん。」と言って,Iの名前を出したこ
とを謝罪したというのであり,このことからも供述の信ぴょう性がうかがわれ,こ
れらの事情に照らすと,Hの検察官に対する供述調書は,十分信用に値する。そし
て,同供述によれば,上記白色紙包みからHの指紋が検出されたことを合理的に説
明することができる。
  そうすると,本件覚せい剤等は,もともと被告人が所持していたものであるこ
とに疑問の余地はなく,被告人がたまたまホテル内で拾得して警察に届け出ようと
したものとは考えられないから,被告人に,覚せい剤及び大麻の所持罪が成立する
ことは明らかである。
(法令の適用)
 被告人の判示第1の行為のうち覚せい剤を所持した点は覚せい剤取締法41条の
2第1項に,大麻を所持した点は大麻取締法24条の2第1項に,判示第2の行為
は覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条に,判示第3の行為は同法41条
の2第1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の覚せい剤所持と大麻所持とは1
個の行為が2個の罪名に触れる行為であるから,刑法54条1項前段,10条によ
り1罪として重い覚せい剤取締法違反の罪の刑で処断することとし,以上は同法4
5条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,犯情の最も重い判
示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,同法
21条を適用して未決勾留日数中330日をその刑に算入することとし,押収して
ある覚せい剤1袋及び2包み(平成16年押第13号の2ないし4)は判示第1の
罪に係る覚せい剤,同覚せい剤1包み(同号の1)は判示第3の罪に係る覚せい剤
で,いずれも犯人の所有するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本
文により,同大麻草1包み(同号の5)は判示第1の罪に係る大麻で犯人の所有す
るものであるから,大麻取締法24条の5第1項本文によりこれらを没収し,訴訟
費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させな
いこととする。
(量刑の理由)
 本件は,覚せい剤約5.21グラム及び大麻草約0.287グラムをタクシー内
に遺留して所持した事実並びに覚せい剤約0.561グラムの所持及び自己使用の
各事実からなる事案である。
 とりわけ,タクシー内で覚せい剤等を所持していた件について,その覚せい剤は
相当多量であるだけでなく,被告人が犯行を否認しているため,動機や目的等の詳
細は不明であるものの,これだけの量の覚せい剤や大麻草,注射器を所持してタク
シーに乗車した犯行態様は悪質であり,自宅で所持していた覚せい剤も少量とはい
えない。また,被告人は,これまで覚せい剤取締法違反を含む前科4犯を有しなが
ら,またもや本件各犯行に及んだものであること,特に,タクシー内での所持事犯
で,警察の追求が予想されていたにもかかわらず,その後,さらに,覚せい剤の使
用及び所持の犯行を重ねていることからすると,薬物事犯に対する親和性は顕著で
ある。加えて,上記のとおり,被告人は,タクシー内での所持事案について,不合
理な弁解に終始していることからすると,真しな反省の姿勢は見られず,これらの
事情に照らすと,被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。
 そうすると,被告人は,今後2度と覚せい剤には関わらないと述べていること,
被告人の更生について親族の援助が見込まれることに加え,被告人の年齢や健康状
態等を考慮しても,主文の刑は免れない。
(求刑 懲役5年,押収してある覚せい剤3包み及び1袋並びに大麻草1包の没
収)
  平成17年1月27日
    神戸地方裁判所第4刑事部
          裁判官  笹  野  明  義

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