弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主   文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告が原告に対し,平成12年7月4日付けでした次の処分を,いずれも取り
消す。
ア 平成10年分の贈与税につき,課税価格5392万2000円,納付すべき贈与
税額2914万9300円,無申告加算税の額157万5000円,重加算税の額7
45万6000円とする贈与税の決定処分及び加算税の賦課決定処分
イ 平成11年分の贈与税につき,課税価格3370万円,納付すべき贈与税額1
632万円,無申告加算税の額244万8000円とする贈与税の決定処分及び
加算税の賦課決定処分
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2 事案の概要
本件は,被告が,原告の家族からの金銭受領が贈与であるとして,贈与税の決
定処分,無申告加算税及び重加算税の賦課決定処分をしたことに対し,原告は金
銭授受は贈与ではなく金銭消費貸借によるものであるとして,これらの処分の取消
しを求めた事案である。
1 争いのない事実等
(1) Aは,平成○年○月○日に死亡した。
Aの相続人は,妻のB,長男の原告,長女のC,二女のD,三女のE,四女の
F,養子で原告の妻のG,養子で原告の長男のH,養子で原告の二男のIの9名
である。
(2) 相続人らにおいて,平成10年10月21日,B,原告及びHが相続財産を現物
分割し,原告がC,D,E及びFの4名(以下「Cら」という。)に各2000万円の代
償金(以下「本件代償金」という。)を支払うとの内容の遺産分割協議(以下「本
件遺産分割協議」という。)が成立し,これに従った相続税の申告及び納税がな
された(乙4,5)。
(3) 原告は,平成10年に,Hから3000万円,Bから1452万2563円,Gから10
00万円を受け取った。また,原告は,平成11年に,Bとの間で別紙1のとおりの
資金移動をし,同人から差し引き3430万円を受け取った(以下,併せて「本件
取引」という。ただし,その趣旨については,後記のとおり争いがある。)。
(4) 原告は,平成10年10月14日,Hから受け取った3400万円に自己資金100
0万円を加えた4400万円の内金2500万円を大阪府在住の知人Jに,内金15
00万円をKに手渡し,両名に,原告名義の預金口座に振り込むよう依頼した。
Jは平成10年10月15日に2500万円を,Kは同月19日に1500万円を,そ
れぞれ原告名義の預金口座に振り込んだ(乙11の1・2,12の1・2)。
(5) 原告は,本件代償金として,Cらに対し,平成10年10月22日に各323万31
00円,同月23日に各1000万円,同年12月19日に各250万円,平成11年9
月27日に各426万6900円の合計各2000万円を支払った。
(6) 津地方法務局所属公証人Lは,平成12年1月19日,以下の債権者,債務者
の依頼により,次のとおり,4通の金銭消費貸借契約公正証書を作成した(乙1
6の1ないし4)。
ア Bは,平成10年10月10日,有限会社A商店(以下「A商店」という。)に対
し,5700万円を貸し付けた。
A商店は,Bに対し,4年間据置き元利均等割賦償還により,平成14年10
月から平成26年9月まで,毎月10日限り51万9338円(初回は51万9398
円)を分割して弁済する。
利息は年率3パーセント,遅延損害金は年率6パーセントとする。
イ Gは,平成10年12月11日,A商店に対し,1000万円を貸し付けた。
A商店は,Gに対し,16年間据置き元利均等割賦償還により,平成26年1
2月から平成41年12月まで,毎月11日限り9万5724円(初回は9万5874
円)を分割して弁済する。
利息は年率3パーセント,遅延損害金は年率6パーセントとする。
ウ Hは,平成10年10月9日,A商店に対し,4600万円を貸し付けた。
A商店は,Hに対し,16年間据置き元利均等割賦償還により,平成26年1
0月から平成41年10月まで,毎月10日限り44万0333円(初回は57万05
53円)を分割して弁済する。
利息は年率3パーセント,遅延損害金は年率6パーセントとする。
エ A商店は,平成10年10月9日,原告に対し,8000万円を貸し付けることを
約し,同月23日に5293万2400円,同年12月19日に1000万円,平成1
1年9月27日に1706万7600円を受け取った。
原告は,A商店に対し,元利均等割賦償還により,平成14年10月から平
成32年9月まで,毎月23日限り50万0457円(初回は50万0866円)を分
割して弁済する。
利息は年率3パーセント,遅延損害金は年率6パーセントとする。
(7) 被告は,本件取引が贈与に当たるとして,平成12年7月4日,以下の処分をし
た。
ア 平成10年分(甲1の2)
(ア) 贈与等により取得した財産の価額 5452万2563円
後記aないしcの合計額
a G名義のS銀行S1支店口座から平成10年12月11日に払い出された
金額 1000万円
b H名義のT銀行T1支店から平成10年10月14日に払い出された金額 
3000万円
c B名義のU銀行U1駅前支店から平成10年10月22日に払い出された
1452万2563円
(イ) 納付すべき税額 2914万9300円
(ウ) 無申告加算税 157万5000円
(エ) 重加算税の額 745万6000円
イ 平成11年分(甲1の1)
(ア) 贈与等により取得した財産の価額 3430万円
後記aからbを控除した金額
a B名義のU銀行U2支店及びU3支店口座から,平成11年,原告名義の
V銀行V1支店及びV2支店,U銀行U1支店に振り替えられた金額合計
 7880万円
b 原告名義のV銀行V1支店及びV2支店,U銀行U1支店から,平成11
年,B名義のU銀行U2支店及びU3支店口座に振り替えられた金額合
計 4450万円
(イ) 納付すべき税額 1632万円
(ウ) 無申告加算税 244万8000円
(8)ア 原告は,平成12年8月30日,被告に対し,上記(7)の課税処分(以下「本件
課税処分」という。)の全部取消しを求める異議申立てを行った。
イ 被告は,平成12年11月29日,上記アの申立てを棄却する決定をした。
(9)ア 原告は,平成12年12月25日,国税不服審判所長に対し,本件課税処分
の全部取消しを求める審査請求を行った。
イ 国税不服審判所長は,平成13年12月18日,上記アの請求を棄却する裁
決を行った(甲2の1・2)。
(10) 原告は,平成14年3月16日,本訴を提起した(当裁判所に顕著である。)。
2 原告の主張
(1) 本件取引は,いずれも金銭消費貸借である。
(2)ア 原告は,Aが代表者であるA商店のみそ,しょう油醸造,販売の経営につい
て発展性がないと判断し,A家の財産を維持する手段として,Aの所有地に賃
貸マンションを建てることを計画し,その資金を調達するために,複数の金融
機関と交渉を進めていた。
イ そうしたところ,平成○年○月○日にAが死亡し,平成10年10月23日まで
に4185万円余りの相続税(平成11年12月の修正申告により4680万160
0円)を納付することになり,また,本件遺産分割協議により8000万円もの本
件代償金を支払うことになった。
ウ 原告は,相続税及び本件代償金につき,自己の資金だけでは支払うことが
できなかったことから,B,G及びH(以下「Hら」という。)に金融機関から借り
受けた建築資金の一部で返済できる旨を説明して,金銭消費貸借を申し込
み,承諾を得て,本件取引を行った。その際,金銭消費貸借契約書を作成し
なかったが,これは賃貸マンションの建築資金の借入交渉における金融機関
の対応からすれば,8億円程度の余裕のある金額を借りられる見込みがあ
り,そこから直ちに返済することで了解済みであったためである。
エ 原告が上記1(4)の手法をとったのは,相続税の申告を依頼していたM税理
士から「この金は借入金にしておけ。」という指導があったためであり,その意
図は分からなかったが,原告としてもCらとの遺産分割に関する紛争が生じた
場合に備えて,AからHへの生前贈与が多いことを知られたくないと考えて,こ
れに従ったにすぎないのである。
オ 住宅金融公庫からの融資は,平成12年9月6日付けで総工費7億6040万
円として事業認定され,平成13年7月15日付けで7億2250万円に変更さ
れ,これに基づき同年8月14日,6億5052万円の融資が実施されたが,さら
に同年12月14日付けで7億2180万円に減額された。このように,住宅金融
公庫からの借入れが予定していた金額を大きく下回ったため,予定どおりの
返済ができずにいるうちに,税務調査が始まったのである。その際,別の税理
士から,親族間の金銭の貸借は税務署に認められないから,会社を通した形
式をとった方がよいという助言があったため,上記1(6)のとおり,A商店を通し
た形式の公正証書を作成したのである。
カ 原告は,マンションからの賃貸収入が得られるようになり,住宅金融公庫へ
予定どおりの分割返済を開始している。
原告としては,本件取引につきH及びGに分割返済を始めることは可能で
あるし,原告の所有する土地で代物弁済をすることも可能であるが,現在の
課税状況下で,原告からGらに金銭その他財物を給付すれば,再度贈与税の
課税をされるおそれがあるので,弁済の実行をためらっているのである。
3 被告の主張
(1) 平成10年の受贈の事実
ア 相続税法1条の2に定める贈与税の課税原因となる贈与は,贈与者の贈与
の意思表示に対して受贈者がこれを受諾することによって成立する契約であ
るが,一般に妻子等自己と極めて親密な身分関係にある者の間で財貨の移
動があった場合,これが租税回避の手段としてされることが少なくない。その
ため,贈与税の課税に当たっては実質課税の原則に則り,実質に着目して行
われるべきであることはいうまでもない。相続税基本通達9-10は,夫と妻,
親と子,祖父母と孫等特殊な関係がある者相互間で金銭の貸与等があった
場合には,それが事実上贈与であるにもかかわらず貸与の形式をとったもの
でないか念査を要する旨定めているが,これは同様の理解に基づくものであ
る。
このように親族間で財産的利益の付与がされた場合には,後にその利益と
同等の価値が現実に返還されるか又は将来返還されることが極めて確実で
ある等(若しくは,名義上の利益付与等)特別の事情が存在しない限り,贈与
であると認めるのが相当である。
イ そして,本件の場合,本件取引が金銭消費貸借契約であることを裏付ける的
確な資料はなく,同契約の重要な要素である返還の合意,弁済期の合意を基
礎付ける事実も全く存しない。さらに,原告は,Hから受け取った3000万円に
自己資金を加えた4000万円につき,大阪府在住の知人J及びKから原告名
義の預金口座に振り込ませる方法により,資金の出所を不明確にする仮装工
作を展開している。加えて,原告は,9年間にわたってAから土地の生前贈与
を受けて贈与税の申告を行っていたのであるから,贈与税については熟知し
ていたはずである。
してみれば,原告は,贈与税の課税を免れる意図があったというほかなく,
本件取引は原告が贈与を受けたものといえることは明らかである。
ウ これに対して,原告は,本件取引は金銭消費貸借契約であると主張し,その
論拠として公正証書を提出した。
しかし,同公正証書は,被告担当者が贈与税の無申告を指摘した後の平
成12年1月19日に作成されたことに加えて,同公正証書上は,本件取引に
つき,実際に金銭の移動の実体がないA商店を介在させていること,それ以
外にも同公正証書記載の貸借金額と実際の受渡額とが異なっているばかり
か(ただし,Gとの間の資金移動については除く。),同公正証書に記載された
返済計画が4年又は16年据え置くこととされていること等,一般的な金銭消
費貸借契約とはいい難いことからすると,同公正証書が真実の契約関係を反
映しているものと解することはできない。また,被告の調査終了時点(平成12
年7月時点)においても,原告がBらへ借入金の返還等をした事実はない。
よって,原告が贈与税の課税を免れる目的で同公正証書を作成したことは
明らかである。
エ これに対して,原告は,住宅金融公庫からの融資から返済する予定であった
と主張するが,G,H,Bのいずれもそのような説明を受けたことを申立書又は
申告書(乙3ないし5)に記載していないし,そもそも,原告の借入希望額は7
億5620万円である(甲6)のに対し,マンション建設にかかる費用は少なくと
も7億5300万円であった(乙20)から,融資額より返済することは不可能で
あったのである。
オ 以上のことから,本件取引は,いわゆる「ある時払いの催告なし」といわれる
もので,平成12年7月の調査終了時点において同等の金員の返還はなされ
ておらず,若しくは,近い将来返還されることが極めて確実であるともいえない
ものである。したがって,原告とBらとの間に贈与の合意があったものと認め
るのが相当である。
(2) 平成11年の受贈の事実
ア 原告は,江戸時代から続く「A家」の10代目当主として,同家の財産管理・処
分につき,絶大な影響力を有していたことは容易に想像できるところであり,
「A家」に由来する財産については,その名義のいかんにかかわらず,「A家」
の当主である原告に実質的な管理・処分の権限が帰属していたといえる。こ
のことは,原告が,Bの財産はもちろんのこと,Aからの生前贈与を受けた不
動産持分の売買代金により形成されるに至ったG及びHの保険等を自由に使
用し得る地位にあったといえること,原告の所得税法の扶養親族であるHに
対する仕送りや学費が原告名義の預金からではなくB名義の預金から出金さ
れていることからも裏付けられる。
イ このような事情を考えれば,B名義の預金は,同人の財産ではあるが,いわ
ば「A家の財産」としての性格を有し,その実質的な管理は原告に任され,一
部費消も許されていたものと推認することができる。つまり,B名義の預金の
管理について,委任・受託の関係が両者の間で合意されていたといえる。
そのため,原告は,B名義の預金をマンション建設資金借入れのための見
せ金等に自由に活用し,別紙1のとおり原告の預金とBの預金との間で資金
移動を繰り返すことができたところ,平成11年中の資金移動を合計すると,3
430万円の資金が原告名義預金へ移動している結果となっているものであ
る。
そして,この移動額について,原告は,即座に移動額相当額を返却するこ
とが不可能であったため,平成11年分の贈与を貸借と糊塗する公正証書に
含めて借入金を装ったが(乙16の1),公正証書の信憑性については前述し
たとおり信頼するに足るべきものではなく,当該移動額については,包括的に
原告において利用できる旨の了解をBから得ていたと考えるのが自然であ
る。
ウ そうすると,このB名義の預金への返却不能額は,原告が対価を支払うこと
なくB個人から利益を受けたことにほかならないから,相続税法9条に定める
「その他の利益の享受」に該当し,贈与税の課税原因である「贈与とみなす場
合」に該当することになる。
(3) 贈与税の額
ア 平成10年分
(ア) 平成10年分贈与税の課税価格は,5452万2563円となる。
(イ) 相続税法21条の5に定められた課税価格から控除する基礎控除額は6
0万円であり,基礎控除後の課税価格は国税通則法(以下「通則法」とい
う。)118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの)
は5452万2500円である。
(ウ) 上記金額に相続税法21条の7に規定する税率を適用して算出すると29
14万9300円となる。
イ 平成11年分
(ア) 平成11年分贈与税の課税価格は,3430万円となる。
(イ) 相続税法21条の5に定められた課税価格から控除する基礎控除額は6
0万円であり,基礎控除後の課税価格は通則法118条1項の規定により1
000円未満の端数を切り捨てた後のもの)は3370万円である。
(ウ) 上記金額に相続税法21条の7に規定する税率を適用して算出すると16
32万円となる。
(4) 平成10年分の重加算税の額
ア 原告は,Hから贈与を受けた3000万円について,いったん現金で受領した
にもかかわらず,この事実を隠ぺいするため,この現金をJについてはそのま
ま,Kについてはいったん同人名義預金とした後,それぞれの名義で原告名
義の銀行口座に振り込むよう依頼し,両名からの借入金に仮装した。
原告は,この行為について,CらにHの資金であることを知られたくないた
めに行ったもので,Hからの贈与を隠ぺいするためではなかったと相続税及
び贈与税の調査時に弁明しているが,相続税調査時において被告担当者に
対して,大阪の知人からの借入金であるとの虚偽の答弁をしていることからす
ると,贈与の事実を隠ぺいする目的であったといわざるを得ない。
仮に,この一連の行為の主たる目的がCらに知られないようにするためで
あったとしても,この主目的と併せて,贈与税の隠ぺいを図る意図があったこ
とは否定できない。
そして,原告は,平成10年分の贈与税の申告書を提出していない。
そうすると,原告のこれらの行為は,通則法68条2項に規定する「その国
税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を
隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき法定申告
期限までに納税申告書を提出しないとき」に該当するから,3000万円に対応
する税額に係る部分について重加算税が付加されるべきである。
イ そして,通則法68条2項に該当する隠ぺい仮装事由部分の3000万円の税
額及び重加算税の額は,別紙2「加算税の額の計算明細」のとおりで,745
万6000円である。
(5) 無申告加算税の額
ア 平成10年分
原告が納付すべき税額のうち,上記(4)イの隠ぺい仮装事由以外の税額の
計算の基礎となった事実には,いずれも通則法66条1項に規定する無申告
加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから,無申告
加算税の額は,別紙2「加算税の額の計算明細」のとおりで,157万5000円
となる。
イ 平成11年分
原告が納付すべき税額の計算の基礎となった事実には,いずれも通則法6
6条1項に規定する無申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは
認められないから,無申告加算税の額は,上記(3)イ(ウ)の金額1632万円に
通則法66条1項に規定する100分の15を乗じて計算した244万8000円と
なる。
第3 争点に対する判断
1 まず,原告に平成10年と平成11年に受贈の事実があったか否かにつき検討す
るに,上記争いのない事実等に証拠(甲3ないし9,乙1の1ないし3,6の1・2,7
の1・2,8の1ないし19,9,10,11の1・2,12の1・2,13,14の1ないし5,16
の1ないし4,19,21,証人H,証人G,原告本人(ただし,原告,証人H,証人Gの
各供述中,後記認定に反する部分を除く。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,次
の事実が認められる。
(1)ア 原告は,津市Nにファミリー賃貸住宅(名称・O,以下「本件マンション」とい
う。)を建設することを計画し,H及びGとともに,平成10年12月18日,住宅
金融公庫に対して,7億5620万円の借入れを申し込んだ(甲6,7)。
イ 住宅金融公庫は,平成12年4月6日,原告らの建設事業を承認し,建物建
設資金として7億6040万円の貸付けに同意した(甲7)。
ウ 住宅金融公庫は,平成13年7月18日,工事費の減額があったとして,原告
らに対する貸付額を7億2250万円に変更した(甲8)。
エ 住宅金融公庫は,平成13年11月14日,工事費の減額があったとして,原
告らに対する貸付額を7億2180万円に変更した(甲9)。
オ 賃貸住宅は,平成13年9月28日に竣工し,平成14年4月以降,第3者に
賃貸している。
(2)ア Hは,Aから生前贈与を受けていた土地が平成5年3月9日に津市に買収さ
れたことにより,4900万円余りの金銭を取得した(甲3,4,乙1の1ないし
3)。当時,Hは幼少であったことから,原告は,Hに代わって,現金の一部をH
名義のWとの積立交通傷害保険契約76口の保険料に充てた。そして,それ
以後,原告は,保険契約の契約書及び使用した印鑑を保管していた。
イ 原告は,平成10年9月ころ,本件代償金の支払のために,Wに対し,H名義
の保険契約に基づく貸付けを依頼した。さらに,原告は,Hに対して,Wから3
400万円を借り入れ,原告に渡すよう求めた。
Hは,これを了承し,T銀行T1支店に預金口座を作った。
原告は,平成10年10月5日,H名義で押印のある貸付請求書により,W
に対して貸付けを申込み,Wは,同月9日,3496万円を貸し付けた(ただし,
入金額は,印紙代3800円を控除した3495万6200円である。乙8の1ない
し19)。
ウ 原告は,平成10年10月14日,X銀行X1支店で原告名義の預金口座から
1000万円を引き出し(乙10),その後,T銀行T2支店でHから3400万円を
受け取り(乙9,2枚目),大阪へ向かった。
そして,4400万円の内金2500万円を大阪府在住の知人Jに,内金150
0万円をKに手渡し,両名に,原告名義の預金口座に振り込むよう依頼した。
両名とも,原告の知り合いであり,裁判所の競売物件の仲介業を行っている
者である。
Jは平成10年10月15日に2500万円を,Kは同月19日に1500万円を,
それぞれ原告名義のU銀行U1支店の預金口座に振り込んだ(乙11の1・
2)。
エ 原告は,平成10年10月ころ,Bに対して,本件代償金の支払のために金銭
の提供を求めた。これに対して,Bは,Aから相続したU銀行U1支店の定期
預金を渡した。
原告は,平成10年10月22日,上記定期預金からB名義のU銀行U1支店
の預金口座へ2452万2563円をいったん移し,さらに,その全額を引き出し
て,内金1452万2563円を上記ウの原告名義のU銀行U1支店の預金口座
に移した(乙6の1・2,7の1・2)。
オ そして,原告は,本件代償金として,Cらに対し,平成10年10月22日に各3
23万3100円,同月23日に各1000万円の合計5293万2400円を上記原
告名義の預金口座から振込みの方法により支払った(乙7の1)。
(3)ア Gは,Aから生前贈与を受けた土地が平成5年3月9日に津市に買収された
ことにより,4900万円余りの金銭を取得した(甲3,乙1の1ないし3)。Gは,
このうち3000万円をY株式会社との保険契約の保険料に充て,約1900万
円は銀行に預金した。その後,Gは,保険契約をYからZ株式会社に変更し
た。
原告は,Gに対して,本件代償金の支払のために1000万円を提供するよ
う求めた。
イ Gは,平成10年12月8日,Zに貸付けを申し込んだ。そして,Gは,同月11
日,ZからB名義のS銀行S1支店の預金口座に振り込まれた1000万円を引
き出して,原告に渡した(乙12の1・2,13)。
ウ 原告は,本件代償金として,Cらに対し,平成10年12月19日に各250万
円の合計1000万円を現金で支払った。
(4)ア 原告は,平成11年9月6日から同年12月30日にかけて,Bから交付を受
けた預金通帳により,同人との間で別紙1のとおりの資金移動をし,差し引き
3430万円を受け取った。
イ 原告は,平成11年9月27日,原告名義のV銀行V2支店の預金口座から4
回にわたって426万7635円を引き出し(乙14の1ないし5),同日,本件代
償金として,Cらに対し,各426万6900円の合計1706万7600円を支払っ
た。
(5) 津地方法務局所属公証人Lは,平成12年1月19日,第2,1(6)のとおりの金
銭消費貸借契約公正証書4通を作成した。
(6) Bは,平成14年5月28日に死亡し,原告を含む3名が相続した。原告ら相続
人が平成15年3月28日に被告に提出したP税理士作成の相続税申告書には,
Bは原告に対して平成11年9月6日に3430万円を贈与した旨の記載がある
(乙21)。
(7)ア Q国税調査官(以下「Q調査官」という。)は,平成11年10月8日,原告宅に
おいて,M税理士及びP税理士立会いの下,原告からAの相続財産について
聞取調査を行った。
この際,原告は,「本件代償金8000万円の出所は,一部他の相続人から
出してもらったものもあるが,大阪の知人2名から1500万円と2500万円の
合計4000万円を借り入れて調達した。これ以外の詳細については現時点で
は答えられない。」と述べた。
そのため,Q調査官は,原告及び税理士2名に対して,本件代償金の原資
について後日明らかにするよう依頼した。
イ Q調査官は,証券会社及び銀行の調査を行い,M税理士からの協力も得
て,大阪の知人2名を割り出し,平成11年12月15日にJと,同月17日にKと
面接して,原告への振込みについて調査し,上記(2)ウの事情を把握した。
ウ Q調査官は,平成11年12月20日,原告及びM税理士に対して,J及びKか
らの借入れを偽装した理由について質問し,本件代償金8000万円の資金出
所を明らかにするよう依頼した。
これに対して,原告は,「原告,G,Hのいずれも,数年前からほぼ毎年,A
から土地の贈与を受けていた。贈与を受けた土地の一部が,平成5年に道路
用地として津市に買収され,各人がかなりの額の譲渡代金を手にした。これら
の代金は,各人の名義で一時払い損害保険等としていた。Aの相続開始後,
これらの事実をあまり仲の良くないCらに知られると,遺産分割協議がより難
しくなると考えて,代償金の資金出所から悟られることがないようにする必要
があった。このような目的であったにもかかわらず,相続税の調査時に「大阪
の知人からの借入金である。」と答えてしまい,申し訳なく思っている。」と説明
した。
エ M税理士は,平成12年1月17日,Q調査官に対し,原告,H及びG名義の
預金通帳の写し,HのWに対する契約者貸付請求書等を提出した。
Q調査官は,同月19日,M税理士に対し,原告,G及びHの資金の移動に
なお不明な点があるとして,これをまとめた書面を交付し,解明を依頼した。
オ M税理士及びP税理士は,平成12年2月1日,R特別国税調査官(以下「R
特官」という。)に対し,上記(5)の金銭消費貸借契約公正証書を示し,「公正
証書のとおり,金銭の貸借であるから贈与ではない。大阪のJとかKを絡ませ
て仮装のようなことをしたので印象が悪いかもしれないが,実質的に贈与でき
るような親族関係でもないことを理解してほしい。」と述べた。
カ P税理士は,平成12年2月7日,R特官及びQ調査官に対し,本件取引が贈
与でなく金銭消費貸借であると記載した文書を提出した。
キ Q調査官は,平成12年6月7日,P税理士及びM税理士から説明を受け,
上記公正証書につき,A商店との間で金銭の授受は存在せず,また,Gを除
いては金額も誤っていることを確認した。
ク 原告及びM税理士は,平成12年6月28日,Q調査官に対し,上記(4)アの原
告,B間の資金移動について,「マンション建設に伴う住宅金融公庫からの資
金借入について,自己資金があることを証明するため銀行の残高証明書が
必要であり,その残高証明の金額を多くするために行った。」などと説明した
(以上アないしクにつき,乙19)。
2 ところで,相続税法1条の2に定める贈与税の課税原因となる贈与は,贈与者の
贈与の意思表示に対して受贈者がこれを受諾することによって成立する契約であ
るが,一般に妻子等自己と極めて親密な身分関係にある者の間で財貨の移動が
あった場合,これが租税回避の手段としてされることが少なくない。そのため,贈与
税の課税に当たっては実質課税の原則に則り,実質に着目して行われるべきであ
る。したがって,親族間で財産的利益の付与がされた場合には,後にその利益と同
等の価値が現実に返還されるか又は将来返還されることが極めて確実である等
(若しくは,名義上の利益付与等)特別の事情が存在しない限り,贈与であると認
めるのが相当である。
これを本件についてみるに,上記1の認定にかかる,①本件の資金移動の際に
金銭消費貸借契約書は作成されておらず,返済期限も定められていなかったこと,
②H,G及びBは原告に対して返済を催告したり,訴訟を提起するなど返還を求め
る具体的な行動を起こしておらず,原告はHらに金銭を返還していないこと,③P税
理士の作成したBの相続税申告書には原告に対して3430万円の生前贈与がさ
れたとの記載があること,④Hから金銭を受け取るに当たって,競売物件の仲介業
を営み多額の金銭を貸し付けても不自然ではなく疑われにくい知人2名からの借
入れがあったように偽装していること,⑤Hらから原告への資金提供であるにもか
かわらず,A商店と原告,A商店とHらという真実に反する不自然な公正証書を作
成し,税務当局に対し取引の実態を殊更に糊塗しようとしていることなどの諸事情
に鑑みれば,本件取引は贈与であると認めるべきである。
この点,原告は,①金融機関から借りるマンション建物の建築資金の一部を返
済に充てられる見込みがあり,原告はHらにその旨を説明し,融資を受けた後直ち
に返済することで了解済みであった,②原告が,Hからの借入金を,大阪の知人か
らの借入金であると偽装したのは,M税理士から「この金は借入金にしておけ。」と
いう指導があったためであり,その意図は分からなかったが,原告としてもCらとの
相続に関する紛争が生じた場合,AからHへの生前贈与が多いことを知られたくな
いと考えて,これに従ったにすぎない,③原告は,H及びGに返済することは可能で
あるが,これをしないのは,再度贈与税の課税処分を受けるおそれがあるためで
あるなどと反論する。
しかし,証拠(甲6及び乙20)によれば,原告の住宅金融公庫に対する借入希
望額は7億5620万円であり,仮にこの全額が融資されたとしても,マンション建設
には少なくとも7億5300万円が必要であり,多額の返済に回せる資金はなかった
ことが認められるし,Hらが不服審査請求の際に作成した甲第3ないし5号証に
は,そのような返済見込みについて何ら触れられていないから,上記原告の主張
①は採用できない。また,証拠(甲2の2)によれば,Cらは平成5年5月時点で,A
から原告,H及びGへ不動産が生前贈与されていることを知っていたことが認めら
れ,原告がCらに対して代償金支払の原資を隠す必要はなかったと考えられるか
ら,上記原告の主張②も採用できない。さらに,原告が贈与税の課税処分を受ける
ことを恐れてH及びGに返済しないでいるということ自体,原告が金銭を返還するか
どうかは原告の自由であることを意味し,資金提供の性質が贈与であることを基礎
付けるものといえ,上記原告の主張③も採用できない。よって,原告の反論はいず
れも理由がない。
3 そこで,上記の受贈の額を前提とすると,贈与税の額は被告の主張のとおり平成
10年分が2914万9300円となり,平成11年分が1632万円となる。
4 平成10年分の重加算税については,上記1の認定にかかる,原告がHから贈与
を受けた3000万円について,いったん現金で受領したにもかかわらず,この現金
をJについてはそのまま,Kについてはいったん同人名義預金とした後,それぞれ
の名義で原告名義の銀行口座に振り込むよう依頼し,両名からの借入金に仮装し
たこと,相続税調査時において被告担当者に対して,大阪の知人からの借入金で
あるとの虚偽の答弁をしていることからすると,贈与の事実を隠ぺいする目的であ
ったといわざるを得ない。
そして,原告は,平成10年分の贈与税の申告書を提出していない(当事者間で
争いがない。)。
そうとすると,原告のこれらの行為は,通則法68条2項に規定する「その国税の
課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい
し,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき法定申告期限までに
納税申告書を提出しないとき」に該当するから,3000万円に対応する税額に係る
部分について重加算税が付加されるべきである。
そして,通則法68条2項に該当する隠ぺい仮装事由部分の3000万円の税額
及び重加算税の額は,別紙2「加算税の額の計算明細」のとおりで,745万6000
円である。
5 平成10年分の無申告加算税については,原告が納付すべき税額のうち,上記4
の隠ぺい仮装事由以外の税額の計算の基礎となった事実には,いずれも通則法6
6条1項に規定する無申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認め
られないから,無申告加算税の額は,別紙2「加算税の額の計算明細」のとおり
で,157万5000円となる。
平成11年分の無申告加算税については,原告が納付すべき税額の計算の基
礎となった事実には,いずれも通則法66条1項に規定する無申告加算税を賦課し
ない場合の正当な理由があるとは認められないから,無申告加算税の額は,平成
11年分の贈与税額1632万円に通則法66条1項に規定する100分の15を乗じ
て計算した244万8000円となる。
6 以上によれば,本件課税処分には違法事由はなく,原告の請求はいずれも理由
がないからこれを棄却すべきである。
よって,主文のとおり,判決する。
津地方裁判所民事部
裁判長裁判官  内田計一
裁判官  後藤 隆
裁判官  後藤 誠
(別紙省略)

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