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       主   文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告は、別紙目録(一)及び(二)記載の各種菌を、有償で譲渡し、又は、有
償で譲渡する目的をもって生産してはならない。
二 被告は、原告に対し、金一億一九九七万五五六〇円及びこれに対する平成三年
一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、ホクトM-五〇という名称のえのきたけについて種苗法(以下「法」と
いう。)に基づく品種登録を受けている原告が、被告及び訴訟承継前の被告山ノ内
町農業協同組合の行う夜間瀬一号及びTKと称するえのきたけの種菌の生産及び有
償譲渡行為は法一二条の五第一項一号又は三号に違反すると主張して、合併により
同農業協同組合の権利義務を承継した被告に対し、同条三項による当該行為の差止
めを求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償の一部請求として別紙目録(三)
記載の損害賠償金一億一九九七万五五六〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を
求める事案である。
一 判断の前提となる事実
1 当事者の地位等
(一) 原告は、きのこ類の生産販売等を目的とする株式会社であり、以下の品種
登録に係るえのきたけ(以下「本件登録品種」という。)の品種登録者である。
(1) 登録番号 第一七八九号
(2) 登録年月日 昭和六三年一一月五日
(3) 出願年月日 昭和六一年一一月二〇日
(4) 公示年月日 昭和六三年一一月五日
 (農林水産省告示第一七九四号)
(5) 農林水産植物の種類 えのきたけ
(6) 登録品種の名称 ホクトM-五〇
(7) 固定品種又は交雑品種の別 固定品種
(8) 有効期間 一五年
(9) 育成をした者の氏名 【A】、【B】
(二) 被告は、平成七年九月一日、従前の被告山内ノ内町農業協同組合(以下
「本件農協」という。)と山ノ内町平穏農業協同組合とが合併して設立された農業
協同組合であり、右合併により本件農協の権利義務を承継するとともに、本件訴訟
手続を受継した。
 なお、本件農協は、平成二年三月一日、山ノ内町種菌センター(山ノ内町菌茸類
種苗生産組合が名称変更されたもの。以下、変更の前後を問わず「本件種菌センタ
ー」という。)を合併してその権利義務を承継した。
 (本件種菌センターの名称変更及び本件農協との合併の経緯につき弁論の全趣
旨。その余の点につき当事者間に争いなし)
2 本件登録品種の植物体の重要な形質に係る特性
 本件登録品種の品種登録簿には、当該植物体の重要な形質に係る特性として、次
のような記載がある。
(一) 生理的特性
(1) 菌糸の生長に関する温度特性
ア 寒天培地上の最適生長温度 摂氏二五度
イ 生長速度 摂氏一〇度において 一・六ミリメートル
摂氏一五度において 二・四ミリメートル
摂氏二〇度において 四・〇ミリメートル
摂氏二五度において 四・五ミリメートル
摂氏三〇度において 三・七ミリメートル
摂氏三五度において 〇・二ミリメートル
(2) 菌叢表面の色 かなり淡い
(3) 菌叢裏面の色 淡い
(二) 栽培的特性
(1) 菌床の性状
アメ状物質 少ない
(2) 種菌接種から子実体発生までの期間
ア 菌かきから原基形成までの期間 八日
イ 原基形成から収穫までの期間 二〇ないし二二日
(3) 子実体の発生型
ア 発生型 茎数型
イ 株の開帳度 直立型
ウ 有効茎数 四〇一ないし六〇〇本
エ その他の発生型 菌傘の開く時期が遅い
(4) 収量 一三一ないし一四〇グラム
(三) 形態的特性
(1) 菌傘断面の形態
 鋸屑培地による瓶栽培の場合 まんじゅう形
(2) 菌傘の色
 鋸屑培地による瓶栽培の場合 淡黄白色
(3) 菌柄の形
ア ねじれの程度 少ない
イ 断面の形 正円
(4) 菌柄の基部の色の程度 極めて少ない
(5) 菌柄の太さ 三ミリメートル
(6) 菌柄の分岐 多い
(7) 菌柄の接着程度 多い
(8) その他の形態 子実体形成後、光照射下(五〇〇ルクス、六日、一日当た
り一二時間)で生育させても着色しない。
(以上につき甲第一号証及び弁論の全趣旨)
3 えのきたけの生殖方法等
 えのきたけの品種は、遺伝的に純粋なものが知られておらず、交配(有性生殖)
をすると自殖交配(同一品種内での交配)の場合でも親とは特性の異なるいろいろ
な系統が出現することがあるが、えのきたけの種菌は、栄養生殖(無性生殖)によ
り増殖されるのが通常であり、栄養生殖によっては遺伝子の組合せが変わらず、固
定品種の要件であるいわゆる均一性及び安定性(同一又は異なる繁殖の段階に属す
る植物体のすべてが重要な形質に係る特性において十分に類似していること)が良
く保持されるため、品種登録の実務においてはえのきたけは固定品種として扱われ
る。(甲第三号証、第五号証、第四一号証、乙第一一号証の二、第一二号証、弁論
の全趣旨)
4 本件農協等の行為
 別紙目録(一)記載の種菌(以下「夜間瀬一号」という。)は本件種菌センター
(合併後は本件農協)において、同(二)記載の種菌(以下「TK」という。)は
本件農協において、それぞれ栄養生殖によって増殖(生産)し、これを種苗として
栽培農家に販売した。(当事者間に争いなし)
 本件農協及びこれを承継した被告は、社団法人長野県原種センターに対し夜間瀬
一号の生産を許諾し、同センターで生産された種菌の配布を受けてこれを増殖して
栽培農家に販売し、また、長野県野菜花き試験場で育成され、右センターで生産さ
れたTKの種菌の配布を受けてこれを増殖し、栽培農家に販売している。(弁論の
全趣旨)
5 夜間瀬一号及びTKの出現の経緯
 本件登録品種は、従来の品種に比べ、その子実体(きのこ)が茎の根本まで全体
的に白く、食用部分が多く、傘が小さく、茎が太く、栽培中光による着色がほとん
どなく、菌糸活力があり、その形状はまんじゅう形で、茎のねじれが少なく、断面
は円形で、茎の太さは三ミリメートル位で、株の開帳度は直立型で、有効茎数は五
〇〇本前後である。このような基本的形態は、夜間瀬一号及びTKのそれと同一で
ある。
 原告が本件登録品種の種菌を昭和六一年一一月に本件種菌センターに無償提供し
た後、翌六二年山ノ内町夜間瀬地区のえのきたけ生産者が上小新二号の変異株を発
見したとして、これを本件種菌センターにおいて育成し、その後夜間瀬一号という
名で栽培されるようになった。
 また、原告が真田種菌センターに本件登録品種の種菌を無償提供した後、昭和六
二年に真田町の生産者が変異株を発見したとして、これを長野県野菜花き試験場に
おいて育成し、その後TKという名で栽培されるようになった。
 (真田種菌センターへの種菌の提供につき甲第二二号証及び弁論の全趣旨。その
余の点につき当事者間に争いなし)
二 争点
1 原告は、前記一4の種菌の増殖及び販売の各行為が法一二条の五第一項一号に
違反する旨主張するところ、同号違反行為の差止め及び損害賠償の各請求が肯認さ
れるためには、夜間瀬一号及びTKが本件登録品種と同一性を有することが必要で
あるので、まず第一に夜間瀬一号及びTKが本件登録品種との関係で同一性が認め
られるか否かが問題となる。
(一) 原告の主張
 夜間瀬一号及びTKは、法一条の二第四項所定の「重要な形質」を構成するもの
というべき審査基準(農林水産省農蚕園芸局の調査委託により全国食用きのこ種菌
協会が公表した「昭和五四年度種苗特性分類調査報告書」に所掲の審査基準を指
す。以下「種苗特性分類調査報告書所掲の審査基準」という。)に掲げられた各項
目(前記品種登録簿に記載された各項目はこれに対応する。)に係る特性におい
て、本件登録品種とほとんど差異がない。もっとも、菌糸の生長に関する温度特性
については、若干の違いがあるものの、実用的な栽培条件に関してはほぼ同一であ
るから、この点は意味のない差というべきである。したがって、夜間瀬一号及びT
Kは、本件登録品種との関係でいわゆる区別性(一又は二以上の重要な形質に係る
特性によって他の植物体と明確に区別されること。同項二号)が認められない。な
お、品種の異同については、同一の品種内においても、特性が「十分に類似」(同
項一号)しているという限度内で一定の変異幅のあることが認められているから、
区別性の判断に際しては、右の類似性をも参酌すべきであり、この点を軽視するこ
とは許されない。
 また、種苗特性分類調査報告書所掲の審査基準においては、登録品種のセルフ
(品種内交配)を対象外としており、自殖交配によるものは新しい品種とは認めな
いのが原則である。本件において、夜間瀬一号及びTKは、いずれも本件登録品種
の自殖交配により育成されたものである(このことは、エステラーゼアイソザイム
分析の結果や本件登録品種の自殖交配により夜間瀬一号及びTKと同じ温度特性を
有する菌株を作出することができること等から推認できる。)から、本件登録品種
と別異のものということはできない。
(二) 被告の主張
 重要な形質に係る特性の異同については、法一条の二第五項に基づき制定された
「種苗法の規定に基づく重要な形質」(昭和五三年一二月二七日農林水産省告示第
六〇二号)に掲記された諸要素により判断すべきであるところ、夜間瀬一号は、温
度適応性のほか、子実体の発生に要する期間、収量性等、右告示に掲げられた多く
の諸要素において本件登録品種と異なっており、これらは品種登録実務の実際に照
らし明確な差異と認められるから、両者の間に区別性が認められることは明らかで
ある。
 また、法の下位規範ともいえない種苗特性分類調査報告書所掲の審査基準を援用
して、登録品種の自殖交配によるものは新しい品種とは認められないなどと主張す
るのは失当であるばかりでなく、本件において、夜間瀬一号及びTKは、いずれも
えのきたけの栽培農家が偶然発見した変異株が選抜育種されたものであり、本件登
録品種の自殖交配により育成されたものではない。
2 法一二条の五第一項三号は、品種登録者以外の者が業として固定品種である登
録品種の植物体と他の固定品種の植物体とを交雑させて得られる種子又は胞子を種
苗として有償譲渡すること等を禁止しているところ、原告は、えのきたけの登録品
種とその自殖交配により育成された品種との間に同一性が認められないとしても、
登録品種を自殖交配して育成した品種の種菌を栄養生殖によって増殖し有償譲渡す
る行為は右規定により禁止された行為に該当する旨主張するので、右規定をそのよ
うに解することができるか否か、また、夜間瀬一号及びTKが本件登録品種を自殖
交配させて育成したものであるか否かが問題となる。
(一) 原告の主張
 えのきたけにおいて、登録品種の自殖交配により品種の育成が行われた場合に
は、固定品種育成者の保護という右規定の趣旨がより強く妥当するから、登録品種
の自殖交配により育成された品種については、その種菌を当該登録品種の品種登録
者以外の者が栄養生殖によって増殖し有償譲渡することは右規定により禁止される
と解すべきである。
 なお、本件登録品種を自殖交配させた結果、夜間瀬一号及びTKが育成されたこ
とは前記のとおりである。
(二) 被告の主張
 右規定は、交雑による種子等の生産及びその有償譲渡等を禁止するものであるか
ら、えのきたけの種菌を栄養生殖により増殖し有償譲渡する行為には適用されず、
このことは、当該えのきたけの種菌が登録品種の自殖交配により育成されたもので
あるか否かを問わない。
 また、夜間瀬一号及びTKが本件登録品種の自殖交配により育成されたものでな
いことは前記のとおりである。
第三 争点に対する判断
一 争点1について
1 法一二条の五第一項一号は、品種登録者以外の者が登録品種の植物体を有償譲
渡等する行為を禁止したものであり、当該登録品種に属さない植物体の有償譲渡等
が同号に該当しないことはいうまでもない。そして、法は、一条の二第四項におい
て、品種の概念を定立するに当たって、重要な形質に係る特性において十分に類似
していることだけではなく、右の特性によって他の植物体と明確に区別されること
を要件として規定している。この後者の区別性の要件は、直接的にはある植物体群
が品種登録の対象としての適格を有する品種と認められるための要件として規定さ
れているが、品種概念の外延を画するものであり、種々の植物体を品種という枠で
識別するための要件であるから、ある植物体が特定の登録品種に属するものである
か否か、すなわち、植物体間に品種としての同一性が認められるか否かを判断する
に当たっての基準となることもまた明らかである。そして、法上、右の区別性の要
件のほかに、
ある植物体が特定の登録品種に属するか否かを判断するための基準は規定されてい
ないから、品種としての同一性の判断は、右の区別性について、植物体間に一又は
二以上の重要な形質に係る特性に関し相違点があるか否か、右の点に関する差異は
品種登録制度により新品種の保護を図ろうとする法の趣旨に照らし有意と認められ
るほどに明確であるか否かにより決せられるものと解するのが相当である。この見
地からは、当該品種にとって本質的な要素について相違の存することが顕著であれ
ば、差異が明確であるといえるから、区別性の要件を充足するものと考えることが
できる。
 そして、法一条の二第四項によれば、右の区別性の判断の要素となるのは、一又
は二以上の重要な形質に係る特性であるが、同条五項は、同条四項所定の「重要な
形質」を定めることを農林水産大臣に委任しており、これを受けて制定された「種
苗法の規定に基づく重要な形質」(昭和五三年一二月二七日農林水産省告示第六〇
二号。以下「本件告示」という。)によって、右の「重要な形質」の内容を構成す
る各要素が列挙されている。したがって、基本的には品種の同一性を決する基準と
なる区別性の有無も右告示に列挙されている諸要素について比較検討すべきもので
ある。しかるところ、種苗法施行規則一条の別表によれば、えのきたけは「しいた
け等」に属するものとされているから、えのきたけの品種の異同を判断するに際し
ては、本件告示の「しいたけ等」の欄に掲記されている諸要素(ただし、乾物率の
ようにえのきたけについて問題とならないものは当然に除外される。)を対象とし
て検討することになる。もっとも、本件告示は、品種の識別に関して考慮すべき点
をその重要性に差を設けずに列挙しているにすぎないので、そのうちの一部にでも
相違点があれば、直ちに区別性の要件を充たすと解すべきではない。品種概念にと
って本質的な要素とはいえない点についてわずかな相違が存することによって別異
の品種となり、品種登録制度による保護を受けられないというのでは、同制度の実
効性を保し難いから、右の相違点によって他の植物体と明確に区別されるために
は、前記のとおり品種の異同を決する上で本質的な要素について差異の存すること
が顕著であることを要するというべきである。また、本件告示は、考慮すべき要素
を形式的に掲記しているにすぎないから、これを具体的な事案に適用するに際して
は、専門的な知見を活用する必要があり、その見地からは原告の援用する種菌特性
分類調査報告書所掲の審査基準も有用な指標を提供するものといえよう。
2 そこで、右の観点から検討するに、甲第五号証、第一四号証、第一五号証、第
二〇号証、第二四号証、第二七号証、第二八号証、第四〇号証、第四二号証、乙第
一号証の一ないし三、第二号証の一、二、第三号証、第一一号証の二、第一二号
証、証人【C】、同【D】(第一、二回)、同【E】及び同【F】の各証言並びに
弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(一) 本件登録品種並びに夜間瀬一号及びTKは、いずれも栽培の過程において
長時間光照射をしても着色しない純白系のえのきたけに属するが、夜間瀬一号及び
TKは、本件登録品種と不和合性因子(交配型因子)の構成が異なるため、本件登
録品種そのもの(本件登録品種を栄養生殖させたもの)ではない。もっとも、その
基本的形態においては、前記第二の一の5のとおり種々の点で一致が見られる。
(二) しかし、本件登録品種と夜間瀬一号及びTKは、菌糸の生長に関する温度
特性及びその余の諸点において次のとおり差異が存する。
(1) 本件登録品種と夜間瀬一号
ア 夜間瀬一号は、本件登録品種に比べ、菌糸の最適生長温度が高く、高温におけ
る菌糸の生長速度が速く、高温に対する耐性が強い。
 長野県野菜花き試験場で行われた本件登録品種と夜間瀬一号との品種比較試験の
結果(平成元年に実施されたもの)では、菌糸の最適生長温度に摂氏二ないし三度
の差が存し、また、菌糸の生長速度については、摂氏二〇度付近を境にこれより低
い場合に比して高い場合の方にいっそう顕著な差があり、さらに、摂氏一八ないし
二〇度の温度設定の下で、本件登録品種には高温障害が原因と目される菌糸の生長
不全(まだら様の菌まわり)がみられたが、夜間瀬一号にはこれがみられなかっ
た。
 えのきたけ栽培者である証人【F】が本件登録品種と夜間瀬一号とを実際に商品
として栽培した際にも、本件登録品種の場合は摂氏一六度の温度設定で菌糸がほと
んど伸長しないいわゆるストップ症状を生じ、温度を摂氏一四度に下げればストッ
プ症状を生じなくなったが、夜間瀬一号の場合は摂氏一六ないし一七度の温度設定
でもストップ症状を生じなかった。
イ 本件登録品種と夜間瀬一号との間においては、一定の温度以上で栽培した場合
に、子実体の発生に要する期間及び収量性に差を生じることがある。
 長野県野菜花き試験場での前記平成元年の試験結果においても、右両者との間
で、同一の栽培条件の下において、菌かきから原基形成までの期間、原基形成から
収穫までの期間、収量等の諸点で大きな差異がみられた。
(2) 本件登録品種とTK
 本件登録品種とTKに関しても、後者は前者に比して、菌糸の最適生長温度が高
く、高温における菌糸の生長速度が速く、高温に対する耐性が強い。
 右のうち菌糸の生長速度の差については、長野県野菜花き試験場で行われた前記
シナノ四号についての生理的特性試験において、対照品種とされた本件登録品種と
TKとの間で前記夜間瀬一号の場合と同様の結果が得られた。
3 ところで、前項の菌糸の生長に関する温度特性は本件告示に掲記されている温
度適応性に該当するものと解され、また、前項(1)イの子実体の発生に要する期
間及び収量性も右告示に重要な形質として掲げられているから、本件登録品種と夜
間瀬一号との間には少なくとも重要な形質に係る特性の一部について相違点がある
ことは明らかである。また、右の相違点は、前項のとおり、実験の結果に示されて
いるばかりでなく、実用的栽培の現場においても容易に認識することが可能なもの
であり、これに照らせば、顕著なものであると認められる。そして、菌糸生長の遅
速良否、収穫までの期間の長短、収穫量の多寡は、えのきたけの品種の異同を決す
る上で本質的な要素における差異であると評価することができる。もっとも、甲第
二八号証の原告が独自に行った比較試験の結果に照らすと、右の相違点のうち子実
体の発生に要する期間及び収量性に関するものは、温度適応性の違いに由来するも
のとも考えられるが、同一条件下において現れた差異として十分評価に値するもの
というべきである。
 以上によれば、本件登録品種と夜間瀬一号とは、重要な形質に係る特性によって
明確に区別されるので、両者間に同一性を認めることはできない。
4 また、TKについても、前記のとおり、本件登録品種との対比において夜間瀬
一号と同様の温度特性を示すものであり、その一端を示す実験結果(昭和六三年に
行われたシナノ四号との対比試験)も存在することからすれば、当該温度適応性の
違い等により、本件登録品種との間で植物体の性質を決定する上で顕著かつ本質的
な相違があるものと認めるのが相当である。
 以上によれば、本件登録品種とTKとは、重要な形質に係る特性によって明確に
区別されるから、両者の間に同一性を認めることはできない。
5 なお、原告は、自殖交配により育成された種菌については別異の品種と解すべ
きではない旨主張するけれども、法及びこれに基づいて制定された前記施行規則及
び本件告示においてもそのような趣旨を窺わせる規定は存せず、解釈論として採り
得ないばかりでなく、そもそも夜間瀬一号及びTKが本件登録品種の自殖交配によ
って育成されたことを認めるに足りる証拠はない(前記第二の一の5の情況的事実
並びに甲第四号証のエステラーゼアイソザイム分析の結果及び甲第一六号証の自殖
交配試験結果もその可能性を示すにとどまり、その余の証拠を総合しても、原告主
張の自殖交配の事実を認めるに十分でない。)。
二 争点2について
1 法一二条の五第一項三号は、固定品種である登録品種を一方の親とする交雑に
よって生産される種子又は胞子を有償譲渡等する行為を禁止したものであるから、
えのきたけの種菌を栄養生殖で増殖させ有償譲渡する行為に本来適用される規定で
はない。
 原告は、右規定の解釈につき、えのきたけの登録品種の自殖交配により育成され
た品種の種菌を栄養生殖で増殖させ有償譲渡する行為についてもその趣旨を類推す
べきである旨主張する。
2 ところで、右規定は、登録品種の植物体を育種素材とした交雑品種の育成及び
その有償譲渡等を規制する内容を含んでいる点で、登録品種の植物体を育種素材と
した新品種の育成及びその有償譲渡等を自由とする種苗法の建前(同項一号には右
のような行為は含まれない。)の中では例外規定ということができる。このような
例外を設けた趣旨は、固定品種の育成努力にいわばただ乗りする行為を規制するこ
とによって品種育成者を保護することにあると解されるが、このような形での保護
はその反面において品種育成の方法を制限し、結果として新品種開発を阻害する効
果をも有するものである。品種育成者の保護及び新品種開発の奨励は、いずれも法
の目的である「品種の育成の振興」(法一条)の上で重要であり、両者の要請を調
和させることが必要であるから、右のような例外規定の本来の適用範囲を越えて更
にその類推適用を認めるような解釈を採ることは困難であるといわざるを得ない。
3 また、夜間瀬一号及びTKが本件登録品種の自殖交配により育成されたもので
あると認めるに足りる証拠がないことは前記のとおりである。
4 そうすると、争点2に関する原告の主張は、これを採用することは困難であ
る。
三 結論
 以上の次第で、被告及び本件農協の行為は種苗法一二条の五第一項一号及び三号
のいずれに違反するとも認められないので、その余の点について判断するまでもな
く、原告の請求は理由がない。
目録(一)
一 夜間瀬一号と称する種菌
 右種菌を培養繁殖させて得た植物体(えのきたけ)が、傘の形はまんじゅう形で
あり、色は白に近い淡黄白色であって、茎のねじれは少なく、茎の断面はほぼ円形
で基部の着色は極めて少なく、茎の太さは三ミリメートル位で、株の開帳度は直立
型であり、有効茎数が五〇〇本前後という特性を持つもの。
目録(二)
一 TKと称する種菌
 右種菌を培養繁殖させて得た植物体(えのきたけ)が、傘の形はまんじゅう形で
あり、色は白に近い淡黄白色であって、茎のねじれは少なく、茎の断面はほぼ円形
で基部の着色は極めて少なく、茎の太さは三ミリメートル位で、株の開帳度は直立
型であり、
有効茎数が五〇〇本前後という特性を持つもの。
目録(三)
(1) 栽培許諾料相当額 一億〇九九七万五五六〇円
 山ノ内町農業協同組合及びこれに吸収される以前の山ノ内町菌茸類種苗生産組合
が平成元年から平成二年までの二年間に業として有償譲渡した夜間瀬一号及びTK
の種菌の総量は、八〇〇ミリリットル入りの瓶にして一八三万二九二六本を下らな
い。右種菌瓶一本から栽培瓶四〇本以上のえのきたけが栽培されるが、原告が本件
登録品種に係るえのきたけの栽培を生産業者に許諾する場合の許諾料は栽培瓶一本
当たり一円五〇銭を下らない。したがって、原告は、一億〇九九七万五五六〇円を
下らない栽培許諾料相当額の損害を受けた。
(2) 弁護士費用 一〇〇〇万円
 原告は、弁護士に依頼して本訴訟を提起せざるを得なかったものであり、これに
よる弁護士費用としては一〇〇〇万円が相当である。

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