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平成21年6月30日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成20年(ワ)第8611号特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日平成21年4月28日
判決
大阪市中央区〈中略〉
原告大紀商事株式会社
訴訟代理人弁護士小林幸夫
弓削田博
坂田洋一
訴訟代理人弁理士田治米登
田治米惠子
京都市右京区〈中略〉
被告山中産業株式会社
訴訟代理人弁護士平山芳明
山田庸男
中世古裕之
二宮誠行
中村和洋
西村勇作
増田広充
西原和彦
三好吉安
大森剛
河合順子
小津充人
梁栄文
松尾友寛
佐藤朋子
訴訟代理人弁理士小田中壽雄
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という)を製造。
し,販売し,又は販売のために展示してはならない。
2被告は,その占有する被告製品を廃棄せよ。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「ドリップバッグ」とする特許権を有する原告が,被
告による被告製品の製造販売が同特許権を侵害するとして,被告に対し,特許
権に基づき,被告製品の製造販売等の差止め及び被告製品の廃棄を求める事案
である。
1争いのない事実
(1)当事者
ア原告は,特殊紙の開発,ティーバッグ,コーヒーバッグ等のフィルター
の製造・販売等を業とする株式会社である。
イ被告は,繊維資材テープ,紙,各種包装用品,シート等の製造・加工・
販売を業とする株式会社である。
(2)原告の特許権
ア原告は,次の特許権を有する(以下「本件特許権」といい,本件特許,
権に係る特許を「本件特許」という。また,本件特許の請求項1の発明を
「本件特許発明」といい,本件特許に係る明細書を「本件明細書」とい
う。。)
登録番号第3166151号
出願日平成9年12月20日
登録日平成13年3月9日
発明の名称ドリップバッグ
特許請求の範囲
【請求項1】
通水性濾過性シート材料からなり,上端部に開口部を有する袋本体と,
薄板状材料からなり,袋本体の対向する2面の外表面に設けられた掛止部
材とからなるドリップバッグであって,掛止部材が,その周縁側に形成さ
れている周縁部と,周縁部の内側にあって,袋本体から引き起こし可能に
形成されているアーム部と,アーム部の内側に形成されている舌片部とか
らなり,アーム部の上下いずれか一端で周縁部とアーム部とが連続し,ア
ーム部の上下の他端でアーム部と舌片部とが連続し,周縁部又は舌片部の
いずれか一方が,袋本体の外表面に貼着されていることを特徴とするドリ
ップバッグ。
イ本件特許発明は,次の構成要件に分説することができる。
A1通水性濾過性シート材料からなり,上端部に開口部を有する袋本体
と,
2薄板状材料からなり,袋本体の対向する2面の外表面に設けられた
掛止部材とからなるドリップバッグであって,
B掛止部材が,
1その周縁側に形成されている周縁部と,
2周縁部の内側にあって,袋本体から引き起こし可能に形成されてい
るアーム部と,
3アーム部の内側に形成されている舌片部とからなり,
Cアーム部の上下いずれか一端で周縁部とアーム部とが連続し,
Dアーム部の上下の他端でアーム部と舌片部とが連続し,
E周縁部又は舌片部のいずれか一方が,袋本体の外表面に貼着されてい
ること
Fを特徴とするドリップバッグ。
(3)被告の行為
被告は,遅くとも平成19年9月ころから,被告製品(ただし,その構成
の一部については争いがある)を製造販売している。。
(4)被告製品の構成
被告製品の構成は,別紙被告製品目録図面のとおりである。また,被告製
品は,同目録a1,a2の構成を有する(同目録b以下の構成は争いがあ
る。。)
2争点
(1)被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点1)
(2)本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2)
ア新規性・進歩性の欠如(争点2−1)
イ記載不備(争点2−2)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について
【原告の主張】
(1)被告製品の構成
被告製品の構成は,別紙被告製品目録に記載のとおりである。
(2)構成要件充足性
ア被告製品の上記構成からすれば,被告製品は構成要件A1,A2,B1,
B2を充足することは明らかである。
イ構成要件B3について
(ア)本件特許発明における舌片部とは,アーム部の内側に形成され,か
つ,アーム部を支持し,アーム部が袋本体の対向する2面上で外向きの
反対方向に引っ張られたときには袋本体の対向する2面も外向きの反対
方向に引っ張られるようにするという機能を有する構成部分である。
被告製品のA部分6’は,本件特許発明のアーム部に相当する把手部
②5’の内側の形成されており,かつ,把手部②5’の下端で同部と連
続することによって同部を支持する等の本件特許発明の舌片部と同一の
機能を有する構成部分である。
したがって,被告製品のA部分6’は,本件特許発明の舌片部に相当
するから,構成要件B3を充足する。
(イ)この点,被告は,物理的,構造的に見れば,被告製品のA部分6’
と補強片9’とは全体が一体的に連続しているから,全体として掛止部
材の一部として構成されていると主張する。
しかし,物理的,構造的な観点から構成部分の一体性を判断するので
あれば,本件特許発明も構成全体が一体ということになってしまい不合
理であるから,機能と位置を基準に各構成部分を判断するほかない。
A部分の機能は上記のとおりであるが,被告製品の補強片9’は,こ
のような機能を有するものではなく,袋本体の開口形状を良好に維持す
るという特有の機能を有しているのであるから,A部分6’と補強片
9’とはそれぞれ独立した構成部分であり,これらを一体のものとして
把握することは誤りである。
なお,本件明細書には本件特許発明に補強片を付加する構成が開示さ
れているが,掛止部材と補強片との分離は要件とはされていないのであ
るから,被告製品において,掛止部材の一部を構成するA部分6’と補
強片9’とが物理的に接続しているからといって,被告製品が本件特許
発明の技術的思想と異なるということにはならない。
ウ構成要件Cについて
被告製品の把手部①4’と把手部②5’のそれぞれの左右の境界線は,
いずれも把手部②5’の上端部にあるから,把手部②5’の上端で把手部
②5’と把手部①4’とが連続していることになり,構成要件Cを充足す
る。
エ構成要件Dについて
被告製品は,把手部②5’の下端において把手部②5’とA部分6’と
が連続しているから,構成要件Dを充足する。
オ構成要件Eについて
被告製品においては,把手部①4’は袋本体2’の外表面に貼着されて
いないが,A部分6’は袋本体2’の外表面に貼着されているから,構成
要件Eを充足する。
カ構成要件F
被告製品は,構成要件AないしEを充足するドリップバッグであるから,
構成要件Fも充足する。
(3)以上のとおり,被告製品は,本件特許発明の構成要件をすべて充足する
から,その技術的範囲に属する。
【被告の主張】
(1)被告製品の構成
原告が主張する被告製品の構成のうちa1,a2は認めるが,掛止部材の
構成に関するb以下の主張は否認する。b以下の構成は,別紙掛止部材目録
に記載のとおりである。
(2)構成要件充足性について
ア構成要件B3について
原告が主張する被告製品のA部分6’と補強片9’とは,全体が一体的
に連続しているから,全体として掛止部材の一つの構成部分である保持部
と捉えるのが素直であり,保持部をA部分6’とその余の部分に区別する
ことはできない。
本件特許発明における舌片部は,アーム部の内側に構成されていなけれ
ばならないが,被告製品においては,保持部の一部が把手部②5’の内側
に延伸されているにすぎないのであるから,本件特許発明の舌片部と被告
製品の保持部とは構成が全く異なる。
また,被告製品の保持部は,その全体によって袋本体2’の形態を保持
することを目的として設けられた構成部分であるから,機能の点から見て
も本件特許発明の舌片部とは異なるものである。
したがって,被告製品には本件特許発明の舌片部に相当する部材は存在
せず,構成要件B3を充足しない。
イ構成要件Cについて
被告製品では,把手部①4’と把手部②5’とが左右の境界線で連続し
ている。本件特許発明のアーム部と周縁部が連続している部分は,いずれ
も掛止部材の上部に対して垂直方向(上下方向)の切込線で区別された延
長線上であり,アーム部と周縁部とがその左右の境界線で連続するという
技術的思想は本件特許発明には含まれていない。
したがって,被告製品は構成要件Cを充足しない。
ウ構成要件Dについて
被告製品では,保持部と把手部②5’とは,保持部の下辺の上部境界線
と把手部②5’の下部境界線とで連続している。
本件特許発明のアーム部と舌片部とが連続している部分は,いずれも掛
止部材の下部に対して垂直方向(上下方向)の切込線で区別された延長線
上であることは明らかであり,舌片部の下辺の上部境界線とアーム部の下
部境界線とが連続するという技術的思想は本件特許発明には含まれていな
い。
したがって,被告製品は構成要件Dを充足しない。
エ構成要件Eについて
被告製品では,保持部の全体が袋本体の外表面に貼着されており,保持
部のうちのA部分6’をその余の保持部と区別することはできないから,
構成要件Eも充足しない。
(3)以上のとおり,被告製品は,本件特許発明の構成要件BないしEを充足
しないから,その技術的範囲に属さない。
2争点2−1(新規性・進歩性の欠如)について
【被告の主張】
(1)新規性の欠如1
ア実開平4−60136号公報の記載
平成4年5月22日に刊行された実開平4−60136号公報(乙1。
以下「乙1公報」といい,乙1公報に記載された発明を「乙1発明」とい
う)には,実用新案登録請求の範囲欄に「袋型フィルター(1)を設けこ。
の口部(2)の周囲に筒型フレーム(3)を一体に取り付け設ける筒型フレーム
(3)には中央部が筒型フレーム(3)と一体であり左右と中央が下方に伸び出
てなる平面型の支持板(4)と支持板(5)を前後に配設し各支持板は左右に伸
び出た各端部を支持部(6)とし中央が下方に伸び出た端側には下方向きの
U字型切り込みを入れてストッパー(7)を各設けている筒型フレーム(3)に
中央部が一体とする各支持板(4)と支持板(5)はこの中央部の連結部を折り
曲げ部(9)としストッパー(7)にはU字型の切り込みを下方側の位置で結ぶ
線をストッパー(7)の折り曲げ部(10)としている袋型フィルター(1)内にコ
ーヒー粉(11)を充填して筒型フレーム(3)を平たく折りたたみ口部(2)を仮
密閉してなる防熱平面支持板付コーヒーバッグ」との記載が,考案の詳。
細な説明の作用欄に「本案を使用するときは・・・支持板(4)と支持板,
(5)を折り曲げ部(9)から外側上方に折り曲げ」との記載があり,実施例の
図面として第1図ないし第3図が描かれている。
イ本件特許発明と乙1発明との対比
(ア)乙1公報の実用新案登録請求の範囲欄の記載及び第1図ないし第3
図によれば,袋型フィルター(1)は,上端部に開口部を有することが開
示されており,また,乙1発明がコーヒーをドリップする作用を有する
ことからすれば,通水性濾過性シート材料であることも開示されている
といえる。
したがって,乙1発明は構成要件A1を備えている。
(イ)乙1公報の実用新案登録請求の範囲欄の記載及び第1図ないし第3
図によれば,筒型フレーム(3),支持板(4),(5)及び左右の支持部(6)は,
袋型フィルター(1)の対向する2面の外表面に設けられている掛止部材
であることが開示されており,また,支持「板」とされていることから
すれば,掛止部材が薄板状材料であることも開示されているといえる。
したがって,乙1発明は構成要件A2を備えている。
(ウ)乙1公報の第1図ないし第3図によれば,筒型フレーム(3)が掛止
部材の周縁側に形成されていることが開示されているから,乙1発明は
構成要件B1を備えている。
(エ)乙1公報の実用新案登録請求の範囲欄の記載,考案の詳細な説明の
作用欄の記載及び第1図ないし第3図によれば,支持板(4),(5)は,筒
型フレーム(3)の内側にあり,袋型フィルター(1)から引き起こし可能に
形成されていることが開示されているから,乙1発明は構成要件B2を
備えている。
(オ)乙1公報の実用新案登録請求の範囲欄の記載及び第1図ないし第3
図によれば,支持板(4),(5)の内側にストッパー(7)が形成されている
ことが開示されているから,乙1発明は構成要件B3を備えている。
(カ)乙1公報の実用新案登録請求の範囲欄の記載及び第1図ないし第3
図によれば,支持板(4),(5)の上端で筒型フレーム(3)と支持板(4),
(5)とが連続していることが開示されているから,乙1発明は構成要件
Cを備えている。
(キ)乙1公報の実用新案登録請求の範囲欄の記載及び第1図ないし第3
図によれば,ストッパー(7)は,支持板(4),(5)の下端で連続している
ことが開示されているから,乙1発明は構成要件Dを備えている。
(ク)乙1公報の実用新案登録請求の範囲欄の記載及び第1図ないし第3
図によれば,筒型フレーム(3)は,袋型フィルター(1)の外表面に貼着さ
れていることが開示されているから,乙1発明は構成要件Eを備えてい
る。
(ケ)乙1発明は,コーヒーを抽出するコーヒーバッグに係る発明である
から,構成要件Fも備えている。
ウ以上のとおり,本件特許発明は,乙1発明と同一であるから,特許法2
9条1項により特許を受けることができず,特許法123条1項2号によ
り無効にされるべきものである。
(2)新規性の欠如2
ア実開平6−62940号公報の記載
平成6年9月6日に刊行された実開平6−62940号公報(乙2:以
下「乙2公報」といい,乙2公報に記載された発明を「乙2発明」とい
う)には,次の記載がある。。
(ア)実用新案登録請求の範囲
a【請求項1】
「バッグ1とその表面に取り付けられた把手保持部2からなり,バッ
グは濾過性を有する柔軟なシートでつくられ,把手保持部は腰がある
シートからなり,少なくとも2個をバッグの対称的な位置3,3’に
取り付け,該保持部の内部には保持部のシートを一部残してくり抜き,
その切り残した部分で保持部に接続している把手4を設け,その把手
には下方に開いた切れ込み5が有り,把手保持部2の外縁6と把手4
を切り抜いた時に生じた把手保持部の内縁7とを結ぶ少なくとも1ケ
の切断ケ所8または,一部切り残しを有する切断ケ所9,或いはミシ
ン目10,折り目11を設けてなる嗜好性飲料または調味料抽出用バ
ッグ」。
b【請求項2】
「バッグ1とその表面に取り付けられた把手保持部2からなり,バッ
グは濾過性を有する柔軟なシートでつくられ,把手保持部は腰がある
シートからなり,少なくとも1個の把手保持部の内部には保持部のシ
ートを一部残してくり抜き,その切り残した部分で保持部に接続して
いる1対の対称的な形状を有する把手12,12’を設け,その把手
には下方に開いた切れ込み5,5’が有り,把手保持部2の外縁6と
把手12,12’を切り抜いた時に生じた把手保持部の内縁7,7’
とを結ぶ少なくとも1ケの切断ケ所8または,一部切り残しを有する
切断ケ所9,或いはミシン目10,折り目11を設けてなる嗜好性飲
料または調味料抽出用バッグ」。
(イ)考案の詳細な説明
a段落【0006】
「・・・バッグの上部を開く場合切り口のほつれがなく,綺麗な線状
に開くことが出来る・・・」
b段落【0008】
「・・・容易にバッグを開けることが出来る・・・」
c段落【0012】
「・・・把手保持部及び把手は腰があるシートで作られたものである
必要がある。腰があるシートとは,小さな外力がかかってもシートが
変形しない程度の硬さを有する性質を言い,例えば,少し厚みがある
紙或いはプラスチックシート等である・・・」。
d段落【0034】
「図6(a)に本考案の嗜好性飲料または調味料抽出用バッグの一態様
の平面図を,(b)にその斜視図を示す。本態様の把手保持部2には,
1対の把手12,12’が対称的な形状になるように取り付けられて
いる。使用時この把手を引き起こすと,把手とバッグの間に下方に開
いた切れ込みが形成される。この一対の把手によりバッグをカップの
縁等に安定して固定することが出来,更にバッグの裏面にも同様の把
手を取り付ければ,バッグを保持するときの安定性を一層高めること
が出来る」。
e実施例の図面として図1ないし図7
イ本件特許発明と乙2発明との対比
(ア)乙2公報の実用新案登録請求の範囲欄の【請求項1【請求項】,
2】の記載,考案の詳細な説明欄の段落【0006【0008】の】,
記載及び図面6(b)によれば,バッグ1は,上端部に開口部を有し,通
水性濾過性シート材料からなることが開示されているから,乙2発明は
構成要件A1を備えている。
(イ)乙2公報の実用新案登録請求の範囲欄の【請求項1【請求項】,
2】の記載,考案の詳細な説明欄の段落【0012【0034】の】,
記載,図面6(a),6(b),7によれば,把手保持部2は,薄板状材料
からなる掛止部材であり,バッグ1の対向する2面の外表面に設けられ
ていることが開示されているから,乙2発明は構成要件A2を備えてい
る。
(ウ)乙2公報の実用新案登録請求の範囲欄の【請求項2】の記載,考案
の詳細な説明欄の段落【0034】の記載,図面6(a),6(b),7に
よれば,把手保持部2の周縁側に周縁部が形成されていることが開示さ
れているから,乙2発明は構成要件B1を備えている。
(エ)乙2公報の図面6(a),6(b),7によれば,把手12,12’は,
周縁部の内側にあり,バッグ1から引き起こし可能に形成されているこ
とが開示されているから,乙2発明は構成要件B2を備えている。
(オ)乙2公報の実用新案登録請求の範囲欄の【請求項2】の記載,図面
6(a),6(b),7によれば,切れ込み5,5’は,把手12,12’
の内側に形成されていることが開示されているから,乙2発明は構成要
件B3を備えている。
(カ)乙2公報の図面6(a),6(b),7によれば,把手12,12’の
上端で周縁部と把手12,12’とが連続していることが開示されてい
るから,乙2発明は構成要件Cを備えている。
(キ)乙2公報の図面6(a),6(b),7によれば,把手12,12’の
下端で把手12,12’と切れ込み5,5’が連続していることが開示
されているから,乙2発明は構成要件Dを備えている。
(ク)乙2公報の図面6(a),6(b),7によれば,切れ込み5,5’が
バッグ1の外表面に貼着していることが開示されているから,乙2発明
は構成要件Eを備えている。
(ケ)乙2発明は,嗜好性飲料を抽出するバッグに係るものであるから,
構成要件Fを備えている。
ウ以上のとおり,本件特許発明は,乙2発明と同一であるから,特許法2
9条1項により特許を受けることができず,特許法123条1項2号によ
り無効にされるべきものである。
(3)進歩性の欠如
ア仮に,本件特許発明と乙1発明及び乙2発明が同一ではないとしても,
次のとおり,本件特許発明は,乙1発明及び乙2発明に基づいて当業者が
容易に想到できたものであるから,進歩性を欠くものである。
イ本件特許発明と乙1発明(主引用例)との相違点
(ア)相違点1
乙1発明の筒型フレーム(3)と支持板(4),(5)とが一体となった部材
を本件特許発明の掛止部材に相当する部材と解すれば,掛止部材が,袋
本体の対向する2面の外表面に設けられておらず,また,袋本体の外表
面に貼着されているともいえないので,乙1発明は構成要件A2,Eを
備えていないことになる(以下「相違点1」という。。)
(イ)相違点2
本件特許発明における周縁部が掛止部材の周りの縁の全体を指すもの
と解すれば,乙1発明の筒型フレーム(3)は,支持板(4),(5)の上部に
しか存在せず,支持板(4),(5)が筒型フレーム(3)の内側にあるともい
えないので,乙1発明は構成要件B1,B2を備えていないことにもな
る(以下「相違点2」という。。)
ウ上記各相違点に関する乙2発明(副引用例)の構成
(ア)相違点1に関して
乙2公報では,本件特許発明の掛止部材に相当する把手保持部2が本
件特許発明の袋本体に相当するバッグ1の対向する2面の外表面に設け
られ,本件特許発明の舌片部に相当する切り込み5,5’がバッグ1の
外表面に貼着されているという構成が開示されている。
(イ)相違点2に関して
乙2公報では,本件特許発明の周縁部に該当する把手保持部2の内側
に本件特許発明のアーム部に相当する把手部12,12’が存在すると
いう構成が開示されている。
エ容易想到性について
本件特許発明,乙1発明及び乙2発明は,いずれもコーヒー等の嗜好性
飲料を濾過するバッグに関するものであるから,技術分野は完全に共通す
る上,いずれも従来の嗜好性飲料バッグの問題を解決し,簡易な構成で,
カップの縁に安定して掛けられ,かつ使用後の廃棄も安全であるという嗜
好性飲料用バッグを提供しようとするものであるから,解決すべき課題も
共通している。
そして,課題解決のための技術的解決原理及び技術思想の点においても,
掛止部材を3つの部材(①袋本体に貼着される部材,②①の部材とつなが
っていて,かつ,引き起こされてカップの縁の内側に掛けられる部材,③
②の部材とつながっていて,かつ,カップの縁の外側に掛けられる部材)
で構成するという点において共通している。
さらに,乙1発明と本件特許発明との相違点に関しては,乙2公報にお
いてこれを補充する構成が示されているから,乙1発明に乙2発明とを組
み合わせることについては有益な示唆・動機付けがあるといえ,これを阻
害する技術的要因もない。
そうすると,本件特許発明は,乙1発明に乙2発明の上記各構成を組み
合わせることにより当業者が容易に想到することができたものといえ,し
かも,格別に有利な作用効果も認められない。
したがって,本件特許発明には進歩性が認められないから,特許法29
条2項により特許を受けることができず,本件特許は特許法123条1項
2号により無効にされるべきものである。
【原告の主張】
(1)新規性の欠如1について
乙1発明では,本件特許発明のアーム部に相当する支持板(4),(5)は,口
部(2)近傍の折り曲げ部(9)で筒型フレーム(3)と連続し,そこで支持されて
いるものであるから,本件特許発明の周縁部に相当する筒型フレーム(3)の
内側に形成されているとはいえない。
したがって,乙1発明は,少なくとも構成要件B2を備えないので,本件
特許発明と同一とはいえない。
(2)新規性の欠如2について
ア被告は,乙2公報の図6及び図7を根拠に乙2発明が構成要件Cを備え
ていると主張するが,図7の態様のものは,本件特許発明のアーム部に相
当する把手12,12’の上下両端で周縁部と把手12,12’とが連続
しているから,構成要件Cを備えていない。
イ被告は,乙2公報の図6及び図7を根拠に乙2発明が構成要件Dを備え
ていると主張する。
しかし,図6の態様のものは,周縁部と本件特許発明のアーム部に相当
する把手12,12’とが把手12,12’の上端側で連続し,その上端
側で本件特許発明の舌片部に相当する切れ込み5が把手12,12’と連
続している。
また,図7の態様のものも,把手12,12’の上下両端で周縁部と把
手12,12’とが連続し,把手12,12’の下端側で把手12,1
2’と本件特許発明の舌片部に相当する切れ込み5が連続している。
したがって,乙2発明は構成要件Dを備えていない。
ウ乙2発明では,周縁部と本件特許発明の舌片部に相当する切れ込み5の
両方が本件特許発明の袋本体に相当するバッグ1の外表面に貼着されてい
るから,構成要件Eを備えていない。
エ以上のとおり,乙2発明は本件特許発明と同一とはいえない。
(3)進歩性の欠如について
ア相違点1に関する乙2発明(副引用例)の構成について
被告は,相違点1に関して,乙1発明に乙2発明の切り込み5,5’の
構成を組み合わせることで本件特許発明に想到することができるという主
張をする。
しかし,乙2発明の切り込み5,5’は,把手保持部2とともにバッグ
1に貼着されているので,本件特許発明の舌片部が前提とする「周縁部又
は舌片部のいずれか一方が,袋本体の外表面に貼着されている」という構
成要件Eを備えていない。また,本件特許発明の舌片部は,周縁部が袋本
体の外表面に貼着されている場合には,アーム部と共に舌片部を引き起こ
してカップ側壁に掛けることが可能となるのに対し,乙2発明の切り込み
5,5’は,把手保持部2がバッグ1に貼着されているにもかかわらず,
把手12,12’とともに引き起こすことができないのであるから,本件
特許発明の舌片部と乙2発明の切り込み5,5’とは機能も異なる。
したがって,被告の上記主張には理由がない。
イ容易想到性について
(ア)技術的解決原理及び技術思想の共通性について
乙1発明では,使用するときには支持板(4),(5)が略水平となって支
持板(4),(5)と支持部(6)とがカップの口部に置かれ,ストッパー(7)が
支持板(4),(5)がカップの口部上で水平方向にずれて外れることを防止
する“ストッパー”としての機能を果たすことになる。また,乙1発明
は,筒型フレーム(3)の復元力(口部(2)の閉じた状態に戻ろうとする
。力)とストッパー(7)により種々の口径のカップに適用できるとされる
他方,本件特許発明のアーム部は,カップの口部に水平に置かれるこ
とはなく,袋本体の対向する2面を反対方向に引っ張る機能を有するか
ら,乙1発明の支持板(4),(5)と本件特許発明のアーム部とでは機能が
全く異なる。また,本件特許発明では,アーム部が袋本体の対向する2
面を反対方向に引っ張ることにより袋本体が開口するものであるから,
周縁部には乙1発明の筒型フレーム(3)のような復元力は発生せず,こ
の点でも両者の機能は異なる。
また,乙2発明の掛止部材は,原告が主張するような①ないし③の3
つの部材で構成されているものではない。
したがって,本件特許発明,乙1発明及び乙2発明は,技術的解決原
理及び技術思想の点においても全く異なるものである。
(イ)公知技術における示唆について
被告は,乙1発明と本件特許発明との相違点に関しては,乙2発明に
本件特許発明に至るための構成が示されているという趣旨の主張をする
が,上記のとおり,乙2発明では,切れ込み5,5’は本件特許発明の
舌片部としての機能を果たすことはなく,把手12,12’も本件特許
発明のアーム部としての機能を果たし得ないものであるから,乙1発明
と乙2発明との組み合わせを議論しても意味がない。
(ウ)以上のとおり,乙1発明と乙2発明とを組み合わせても,本件特許
発明に容易に想到することはできない。
3争点2−2(記載不備)について
【被告の主張】
(1)特許法36条6項2号違反
本件特許発明においては,周縁部,アーム部及び舌片部という,抽象的か
つ一般的といえない用語が用いられているが,本件明細書や図面を見ても,
その具体的意味内容は明らかではないから,本件特許発明は明確性を欠いて
おり,特許法36条6項2号に違反する。
(2)特許法36条6項1号違反
本件特許発明の掛止部材の構成は,周縁部,アーム部及び舌片部という用
語の意味が不明確なこともあって,多種多様の実施形態をとることができ,
これを具体化することは困難である。このことは,本件明細書の「本件特許
発明において,掛止部材の形態は,種々の態様をとることができる(段。」
落【0033「・・・本発明は種々の態様をとることができ】),
る・・・(段落【0044)と記載されていることからも明らかである。。」】
ところが,本件明細書においては,図1ないし図8の実施態様しか記載さ
れていないのであるから,①本来のペーパードリップ方式で入れるコーヒー
の美味しさを得ることができる,②簡略な構成を有する,③カップへのセッ
トが極めて容易でセット後の形状も安定している,④コーヒー抽出後の廃棄
も容易かつ安全という課題(本件明細書の段落【0045】参照)を解決す
るための技術的構成を,本件特許発明の範囲にまで拡張することは到底でき
ない。
したがって,本件特許発明は,発明の詳細な説明に記載されていないこと
になり,特許法36条6項1号に違反する。
【原告の主張】
(1)特許法36条6項2号違反について
本件特許発明の周縁部,アーム部及び舌片部と,本件明細書の発明の詳細
な説明欄において図1ないし図8を参照しつつ記載されたそれらの具体的な
説明はいずれも整合しているから,本件特許発明は明確であり,特許法36
条6項2号の要件を満たしている。
(2)特許法36条6項1号違反について
本件特許発明の袋本体と掛止部材との関係や,掛止部材における周縁部,
アーム部及び舌片部の関係は,本件明細書の発明の詳細な説明において,図
1ないし図8を参照しつつ記載された具体的態様に支持されている。
そもそも,発明とは抽象的な技術的思想であるから,設計事項的な変更も
含めて,そこに含まれる全ての態様を発明の詳細な説明に記載することはで
きない。本件明細書の発明の詳細な説明においても,種々の設計事項的な変
更が記載し尽くされているわけではないが,だからといって特許法36条6
項1号違反になるものではない。
第4当裁判所の判断
1争点1(被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について
(1)構成要件Aについて
本件特許発明の構成要件Aは「通水性濾過性シート材料からなり,上端,
部に開口部を有する袋本体と,薄板状材料からなり,袋本体の対向する2面
の外表面に設けられた掛止部材とからなるドリップバッグであって」である
ところ,被告製品が「a1袋本体は,上端部に開口部を有しており,通,
水性濾過性シート材料である不織布からなる「a2薄板状の紙材料か。」,
らなる掛止部材が,袋本体の対向する2つの矩形面の外表面に設けられてい
る」との各構成を有することは当事者間に争いがない。そうすると,被告。
製品は,通水性濾過シート材料(不織布)からなり,上端部に開口部を有す
る袋本体を有し,薄板状材料(紙)からなる掛止部材が袋本体の対向する2
面(矩形面)の外表面に設けられていることになるから,本件特許発明の構
成要件Aを充足することが明らかである。
(2)構成要件Bについて
ア構成要件Bは「掛止部材が,その周縁側に形成されている周縁部と,,
周縁部の内側にあって,袋本体から引き起こし可能に形成されているアー
ム部と,アーム部の内側に形成されている舌片部とからなり」というもの
である。これによれば,掛止部材は,周縁側(外側)から内側に向けて,
周縁部,アーム部,舌片部の順に3つの部材から構成されていることにな
る。
イ周縁部,アーム部及び舌片部は,いずれも通常使用される技術用語では
ないので,その意義について検討する。まず,周縁部について「周縁」,
とは「まわり。ふち」を意味するものと認められるから(広辞苑第6。
版,周縁部とは掛止部材の「まわり」ないし「ふち」の部分,すなわち)
掛止部材の外周部分を構成する部材であると一応は理解できる。次に,ア
ーム部について「アーム」とは「①腕,②機械などの腕状の部分」等を,
意味する外来語(広辞苑第6版)であり「腕」の形状及び機能を果たす,
,,部材であると一応は理解できる。そして,舌片部について「舌片」とは
その字義から「舌のかけら」を意味するものと解され「舌のかけら」様,
の形状をした部材であると解される。
ウそして,アーム部は,その上下いずれか一端で周縁部とアーム部とが連
続し,アーム部の上下の他端でアーム部と舌片部とが連続し,周縁部又は
舌片部のいずれか一方が,袋本体の外表面に貼着されているとされ(構成
要件C,D,周縁部,アーム部及び舌片部はそれぞれ上下端部を通じて)
連続しているものであるが,掛止部材が上記3つの部材から構成されるも
のとされている以上,これらの3部材が他の部材とは区別し得る独立の部
材として特定し得るものであることを要するものというべきである。また,
周縁部又は舌片部のいずれか一方が,袋本体の外表面に貼着されている
(構成要件E)ことを要するものである。
次に,本件明細書の記載及び図面を参酌して,上記3つの部材の意義に
ついて検討する。
エ本件明細書には,以下の記載がある。
(ア)【0014】…舌片部が袋本体の外表面に貼着されている場合,ア
ーム部を引き起こすことにより,周縁部も引き起こしてカップ側壁にか
けることが可能となり,また,周縁部が袋本体の外表面に貼着されてい
る場合には,アーム部と共に舌片部を引き起こしてカップ側壁にかける
ことが可能となる。この場合,袋本体は,アーム部によって対向する2
面からそれぞれ外向きに互いに反対方向に引っ張られ,袋本体の上端部
の開口部が大きく広げられた状態で,カップの中央上部に吊されること
となる。また,カップ側壁は周縁部又は舌片部とアーム部とで挟まれ,
かつカップ側壁の外面は周縁部又は舌片部で押さえつけられるので,ド
リップバッグは極めて安定した状態でコップの上部に固定される。
(イ)【0015】よって,このドリップバッグによれば,極めて簡単な
セット方法でカップ上部に安定的にセットすることが可能となる。また,
このドリップバッグによれば,カップにセットした状態で袋本体の開口
部は大きく広がる。したがって,このドリップバッグによれば,コーヒ
ー抽出時に注湯を容易に行えるようになる。また,このドリップバッグ
は,カップの上部に掛止されるので,コーヒー抽出後もドリップバッグ
は抽出したコーヒー液の液面上にある。したがって,本来のペーパード
リップ方式と同様の美味しいコーヒーをいれることが可能となる。さら
に,コーヒー抽出後にドリップバッグは抽出したコーヒー液中に浸って
いないので,コーヒー抽出後のドリップバッグの廃棄も容易であり,や
けどの危険も生じない。
(ウ)【0017【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の態様を図】
面に基づいて詳細に説明する。
(エ)【0024】図2は,この掛止部材3aの平面図である。同図に示
したように,この掛止部材3aはその外形が四つの角に丸みを有する矩
形となっている。そして,周縁部4が掛止部材3aの全周に帯状に形成
され,周縁部4とアーム部5とが,矩形の掛止部材3aの両側辺及び下
辺に略沿った第1の切込線(外側切込線)L1で区切られ,アーム部5
と舌片部6とが,外側切込線L1の内側で矩形の掛止部材3aの両側辺
及び上辺に略沿った第2の切込線(内側切込線)L2で区切られている。
したがって,この掛止部材3aにおいては,外
側切込線L1により周縁部4とアーム部5とが
区切られ,また,内側切込線L2によってアー
ム部5と舌片部6とが区切られている。
図2
(オ)【0025】さらに,この掛止部材3aにおいて,周縁部4の外周
部には,第3の切込線L3で周縁部4と区切られている補強片9が形成
されており,この補強片9が袋本体2の外表面に貼着されている。
(カ)【0033】本発明において,掛止部材の形態は,種々の態様をと
ることができる。
(キ)【0034】例えば,図3に示す掛止部材3bのように,上述の掛
止部材3から補強片9を省略してもよい。この場合には,コーヒードリ
ップバッグの使用時に袋本体2の開口形状が良好
に維持できるよう,袋本体2の外表面に貼着する
舌片部6を大きめに形成することが好ましい。
図3
(ク)【0035】また,上述の掛止部材3aでは,アーム部5の上端部
で周縁部4とアーム部5とが連続し,アーム部5の下端でアーム部5と
舌片部6とが連続し,舌片部6が袋本体2の外表面に貼着されているの
に対し,アーム部5の下端部で周縁部4とアーム部5とが連続し,アー
ム部5の上端部でアーム部5と舌片部6とが連続し,周縁部4が袋本体
2の外表面に貼着されるようにしてもよい。
(ケ)【0036】例えば,図4に示す掛止部材3cのように,周縁部4
が掛止部材3cの両側辺3q,3r及び上辺3sの縁部に帯状に形成さ
れ,周縁部4とアーム部5とが,矩形の掛止部材3cの両側辺3q,3
r及び上辺3sに略沿った第1の切込線(外側切込線)L1で区切られ,
アーム部5と舌片部6とが,外側切込線L1の内
側で矩形の掛止部材3cの両側辺3q,3rに略
沿った第2の内側切込線L2で区切られるように
図4してもよい。
(コ)【0040】この他,本発明のコーヒードリップバッグで使用する
掛止部材としては,図6に示すように,周縁部4とアーム部5とが,矩
形の掛止部材3dの両側辺3q,3r及び上辺3sに略沿った第1の切
込線(外側切込線)L1で区切られ,アーム部5と舌片部6とが,外側
切込線L1の内側で矩形の掛止部材3dの両側辺3q,3rに略沿った
第2の切込線(内側切込線)L2で区切られ,さらに周縁部4と舌片部
6とが,矩形の掛止部材3dの下辺3pに略
沿った第4の切込線(下側切込線)L4で区
切られていてもよい。これにより,周縁部4
が,掛止部材3dの全周に略帯状に形成され
図6ることとなる。
(サ)【0042】図8は,さらに異なる掛止部材3eの平面図である。
この掛止部材3eでは,周縁部4とアーム部5とを区切る外側切込線L
1が掛止部材3cの両側辺3q,3rに沿って形成されているが,掛止
部材3eの上辺3sに沿っては形成されていな
いため,周辺部4が掛止部材3eの両側辺3
q,3rにのみ沿った帯状のものとなってい
図8る。
オ本件明細書の上記各記載及び図面によれば,周縁部,アーム部及び舌片
部をそれ自体として明確に定義した記載はないものの,その実施形態を示
す上記エ(ウ)以下の記載をも参酌すれば,その構造・機能は次のとおりと
解釈することができる。
(ア)周縁部
前示のとおり,周縁部とは,掛止部材のまわり(ふち)に形成される
部材であり,掛止部材の最外周を形成するが,その具体的実施態様とし
ては,①掛止部材の全周に帯状に形成されたもの(上記【0024】
【0040,②掛止部材の両側辺及び上辺の縁部に帯状に形成され】)
たもの(0036,③掛止部材の両側辺のみに沿って帯状に形成さ【】)
れたもの(0042)が開示されていて,いずれもその内側にある【】
他の2部材(アーム部及び舌片部)との位置が特定し得るものであり,
かつ,舌片部とのいずれかが袋本体の外表面に貼着され得るものと理解
することができる。したがって,本件特許発明にいう周縁部とは,掛止
部材を構成する1部材であり,そのまわり(ふち)に形成され,その配
設形状をして内側との位置が特定し得るものであって,袋本体の外表面
に貼着され得るもの(舌片部が袋本体に貼着されないときに貼着される
もの,と解するのが相当である。)
(イ)アーム部
前示のとおり,アーム部とは,周縁部の内側にあって,その内側に舌
片部が形成されており,かつ,その上下いずれか一端で周縁部と連続し,
上下の他端で舌片部と連続し,袋本体から引き起こし可能に形成されて
いる腕状の部材である。そして,その具体的実施態様としては,①その
上端で周縁部と連続し,下端で舌片部と連続するもの(0024,【】)
②下端で周縁部と連続し,上端で舌片部と連続するもの(0036】【
【0040【0042)が開示されているところ,いずれもその外】】
側にある周縁部及び内側にある舌片部との位置が特定し得るものである。
したがって,本件特許発明にいうアーム部とは,掛止部材として,周縁
部の内側に形成され,袋本体から引き起こし可能に形成されている腕状
の部材であって,その上下いずれか一端で周縁部と連続し,その上下の
他端でその内側にある舌片部と連続するもの,と解するのが相当である。
(ウ)舌片部
前示のとおり,舌片部とは,その形状が「舌状のかけら」様のもので
あると解されるところ,袋本体の外表面に貼着されている場合とそうで
ない場合(周縁部が袋本体の外表面に貼着されている場合)とがあるが,
前者の場合には,引き起こされるアーム部の支持部として機能し,後者
の場合には,アーム部とともに引き起こされてカップ側面にかけられ,
カップ側壁を舌片部とアーム部とで挾み,かつ,カップ側壁の外面を舌
片部で押えつけるように機能するものと解される(0014,その【】
】】】)。実施態様として【0024【0025【0033】∼【0036
そうすると,本件特許発明にいう舌片部とは,掛止部材として,アーム
部の内側に形成された舌状のかけら部材であり,アーム部の上下の他端
と連続するものであって,袋本体の外表面に貼着され得るもの(周縁部
が袋本体に貼着されないときに袋本体に貼着され,上記のような機能を
果たすもの,と解される。)
カ被告製品の構成は,別紙被告製品目録図面のとおりである(争いがな
い。これによれば,被告製品には,補強片9’とこれに連続して形成。)
されたA部分6(被告は両部材を併せて「保持部分」と称している,’。)
把手部①4’及びその内側に形成された把手部②5’が形成されている。
原告は,被告製品のA部分6’と補強片9’とをそれぞれ独立した構成
部分と捉えた上で,把手部①4’が本件特許発明の周縁部に,把手部②
5’が本件特許発明のアーム部に,A部分6’が本件特許発明の舌片部に
それぞれ相当するとして,被告製品が構成要件Bを充足すると主張する。
これに対し,被告は,原告が主張するA部分6’と補強片9’とは全体と
して被告製品の掛止部材の一つの構成部分(保持部分)と捉えるべきであ
るから,被告製品は,本件特許発明の舌片部に相当するものを有さず,構
成要件Bを充足しないと主張する。3
なるほど,A部分6’を補強片9’と独立した掛止部材3’の構成部分
とみ得るとすれば,把手部②5’は,袋本体から引き起こし可能に形成さ
れている腕状の部材であり,その上端で把手部①4’と連続し,把手部①
4’の内側に位置するものであり,その下端でA部分6’と連続し,A部
分6’は把手部②5’の内側に位置するものであることが認められる(こ
の認定に反する被告の主張は採用できない。そうすると,把手部①。)
4’を本件特許発明の周縁部に,把手部②5’を本件特許発明のアーム部
にそれぞれ当たると解するのが相当である。そして,A部分6’は,これ
を独立した構成部分として本件特許発明の舌片部に当たると解する余地が
ある。
しかし他方,被告製品のA部分6’と補強片9’は物理的に連続してい
るので,被告の主張するように,これを一体の部材としての保持部分とみ
れば,被告製品には本件特許発明にいう舌片部は存在しないことになり,
被告製品は本件特許発明の構成要件Bを充足しないことになる(被告製品
の把手部①4’が本件特許発明の周縁部に,把手部②5’が本件特許発明
のアーム部に該当することは,上記のとおりである。。)
そこで以下,被告製品のA部分6’が,補強片9’とは独立した部材と
して,本件特許発明の舌片部に当たるか否かについて検討する。
キ本件明細書には補強片に関し,次の記載がある。
(ア)【請求項3】周縁部の外周部において補強片が袋本体の外表面に貼
着されている請求項2記載のドリップバッグ。
(イ)【0025】さらに,この(判決注・図2に示す)掛止部材3aに
おいて,周縁部4の外周部には,第3の切込線L3で周縁部4と区切ら
れている補強片9が形成されており,この補強片9が袋本体2の外表面
に貼着されている。
(ウ)【0028】このコーヒードリップバッグ10Aを使用してコーヒ
ーを抽出する方法としては,まず,図1(b)に示したように,ミシン
目7にそって袋本体2の上端部を切除することにより袋本体2を開口し,
周縁部4を矢印Aのように引き起こす。次に図1(c)に示したように,
カップ20の開口部22の径に合わせてさらに周縁部4を引き起こし,
周縁部4をカップ側壁21にかける。これにより,袋本体2は,アーム
部5によって対向する2面から矢印B方向に,互いに反対方向に引っ張
られ,開口部8が大きく広げられた状態で,カップ20の中央上部に吊
されることとなる。さらに,この開口形状は補強片9によって良好に維
持され,袋本体2の表裏の矩形面2a,2bが撓んで開口部8が閉ざさ
れることが防止される。
ク上記キの記載によれば,本件明細書に記載の補強片とは,周縁部の外周
部に位置し,開口形状を良好に維持し,袋本体の表裏の矩形面が撓んで開
口部が閉ざされることを防止する独立の部材であると解され,これと舌片
部とを連続させ,一体として形成した部材とすることについては,本件明
細書及び図面に記載も示唆もないから,本件明細書には,舌片部と補強片
を一体の構造体とすることについての技術的思想は存しないものというべ
きである。
他方,被告製品においては,補強片9’とA部分6’が一体の部材とし
て形成されており,かつ,同部材は一体として,把手部②5’とともに袋
本体8’を対向する2面からそれぞれ外向けに互いに反対方向に引っ張っ
て,袋本体2’の開口部8’の開口形状を良好に維持し,袋本体2’の表
裏の矩形面2’a,2’bが撓んで開口部8’が閉ざされるのを防止する
機能を有する一体の構造体(被告のいう保持部分)であると認められ,A
部分6’を補強片9’から構造上分断し,本件特許発明の舌片部というこ
とはできないというべきである。
そして,前示のとおり,舌片部とは,掛止部材として,アーム部の内側
に形成された舌状のかけら部材であり,アーム部の上下の他端と連続する
ものであって,袋本体の外表面に貼着され得るものであるところ,A部分
6’と補強片9(保持部分)は,本件特許発明のアーム部に相当する把’
手部②5’の内側に形成されたものとはいえず,かつ,その形状も「舌状
のかけら」状であるともいえないことが明らかであるから,被告製品には
本件特許発明の舌片部に相当する部分はないというべきである。
ケこの点,原告は,物理的,構造的な観点から構成部分の一体性を判断す
るのであれば,本件特許発明も構成全体が一体ということになってしまい
不合理であるから,機能と位置を基準に各構成部分を判断するほかない,
被告製品のA部分6’と補強片9’の機能は異なるとして,両部分は独立
した構成部分であると主張する。
確かに,本件特許発明の掛止部材においては,構造的に連続する周縁部,
アーム部及び舌片部がそれぞれ別の構成部分とされており,構成部分の区
分に当たっては機能と位置が重視されているものと解されるところ,被告
製品のA部分6’と補強片9(保持部分)とは構造的に連続しているだ’
けではなく,上記のとおり,袋本体2’に一体的に貼着されているため,
一体として把手部②5’とともに袋本体2’を対向する2面からそれぞれ
外向けに互いに反対方向に引っ張り,袋本体2’の開口部8’の開口形状
を良好に維持し,袋本体2’の表裏の矩形面2’a,2’bが撓んで開口
部8’が閉ざされるのを防止するという共通の機能を有するのであるから,
機能的にも両部分を切り離して捉えることはできない。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
コ以上のとおり,被告製品は,本件特許発明の構成要件Bを充足しないか
ら,その余の構成要件の充足性等について判断するまでもなく,本件特許
発明の技術的範囲に属するとは認められない。したがって,被告製品の製
造,販売及び販売のための展示は本件特許権を侵害するものとはいえない。
第5結論
以上によれば,被告製品の製造,販売及び販売のための展示の差止め及び被
告製品の廃棄を求める原告の本件請求は,その余の争点について判断するまで
もなく,理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官田中俊次
裁判官北岡裕章
裁判官山下隼人

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