弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人宮國英男の上告理由について
 一 通行地役権(通行を目的とする地役権)の承役地が譲渡された場合において、
譲渡の時に、右承役地が要役地の所有者によって継続的に通路として使用されてい
ることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、
譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受
人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がな
い限り、地役権設定登記の欠映を主張するについて正当な利益を有する第三者に当
たらないと解するのが相当である。その理由は、次のとおりである。
 (一) 登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しない者は、民法一七七
条にいう「第三者」(登記をしなければ物権の得喪又は変更を対抗することのでき
ない第三者)に当たるものではなく、当該第三者に、不動産登記法四条又は五条に
規定する事由のある場合のほか、登記の欠缺を主張することが信義に反すると認め
られる事由がある場合には、当該第三者は、登記の欠缺を主張するについて正当な
利益を有する第三者に当たらない。
 (二) 通行地役権の承役地が譲渡された時に、右承役地が要役地の所有者によ
って継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状
況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識
することが可能であったときは、譲受人は、要役地の所有者が承役地について通行
地役権その他の何らかの通行権を有していることを容易に推認することができ、ま
た、要役地の所有者に照会するなどして通行権の有無、内容を容易に調査すること
ができる。したがって、右の譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らな
いで承役地を譲り受けた場合であっても、何らかの通行権の負担のあるものとして
これを譲り受けたものというべきであって、右の譲受人が地役権者に対して地役権
設定登記の欠缺を主張することは、通常は信義に反するものというべきである。た
だし、例えば、承役地の譲受人が通路としての使用は無権原でされているものと認
識しており、かつ、そのように認識するについては地役権者の言動がその原因の一
半を成しているといった特段の事情がある場合には、地役権設定登記の欠缺を主張
することが信義に反するものということはできない。
 (三) したがって、右の譲受人は、特段の事情がない限り、地役権設定登記の
欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらないものというべきで
ある。なお、このように解するのは、右の譲受人がいわゆる背信的悪意者であるこ
とを理由とするものではないから、右の譲受人が承役地を譲り受けた時に地役権の
設定されていることを知っていたことを要するものではない。
 二 これを本件について見ると、原審が適法に確定したところによれば、(1)
分筆前の沖縄県島尻郡a町字bc番dの土地を所有していたDは、昭和四六年ころ、
これを六区画の宅地及び東西三区画ずつの中央を南北に貫く幅員約四メートルの通
路として造成した、(2)右通路は、その北端で、右分筆前の土地の北側に接して
東西方向に通る公道に通じている、(3)右分筆前の土地の西側に接して南北方向
に通る里道があるが、その有効幅員は一メートルにも満たない、(4)Dは、昭和
四九年九月、右六区画のうち西側中央のc番eの土地(第一審判決別紙物件目録二
記載の土地)を被上告人に売り渡し、その際、Dと被上告人は、黙示的に、右通路
部分の北側半分に相当する本件係争地に要役地をc番eの土地とする無償かつ無期
限の通行地役権を設定することを合意した、(5)被上告人は、以後、本件係争地
をc番eの土地のための通路として継続的に使用している、(6)Dは、昭和五〇
年一月ころ、右六区画のうち東側中央、南東側及び南西側の三区画並びに右通路部
分をEに売り渡し、これらの土地は、その後分合筆を経て昭和五九年一〇月にc番
fの土地(第一審判決別紙物件目録一記載の土地)となった、(7)DとEは、右
売買の際に、黙示的に、EがDから右通行地役権の設定者の地位を承継することを
合意した、(8)Eは、右売買後直ちに、本件係争地を除いた部分に自宅を建築し、
本件係争地については、アスファルト舗装をし、その東端と西端に排水溝を設ける
などして、自宅から右公道に出入りするための通路とした、(9)被上告人は、昭
和五八年、c番eの土地に、東側に駐車スペースを設け、玄関が北東寄りにある自
宅を建築し、本件係争地を自動車又は徒歩で通行して右公道に出入りしていたが、
Eがこれに異議を述べたことはなかった、(10)Eは、平成三年七月、c番fの
土地を上告人に売り渡したが、上告人がEから右通行地役権の設定者の地位を承継
するとの合意はされていない、(11)しかし、上告人は、c番fの土地を買い受
けるに際し、現に被上告人が本件係争地を通路として利用していることを認識して
いたが、被上告人に対して本件係争地の通行権の有無について確認することはしな
かったというのである。
 そうすると、c番eの土地を要役地、本件係争地を承役地とする通行地役権が設
定されていたものであるところ、上告人が本件係争地を譲り受けた時に、本件係争
地がc番eの土地の所有者である被上告人によって継続的に通路として使用されて
いたことはその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、
上告人はそのことを認識していたものということができる。そして、本件において
は前記特段の事情があることはうかがわれないから、上告人は、右通行地役権につ
いて、これが設定されていることを知らなかったとしても、地役権設定登記の欠缺
を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないものと解すべきである。
 三 したがって、原審が上告人を背信的悪意者であるとしたことは、措辞適切を
欠くものといわざるを得ないが、上告人が被上告人の通行地役権について地役権設
定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらないとした原審の判断
は、結論において是認することができる。論旨は、原判決の結論に影響のない事項
についての違法をいうに帰するものであって、採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    大   西   勝   也
            裁判官    根   岸   重   治
            裁判官    河   合   伸   一
            裁判官    福   田       博

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