弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人野村侃靱、同山口民雄の上告理由について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、首肯する
に足りる。その概要は、次のとおりである。(1) 本件各土地(宅地合計一四六
八・九〇平方メートル)は、元は上告人外一二名が共有し、上告人の持分は一二〇
分の二であったが、被上告公社は、平成二年から平成五年にかけて、被上告人町の
施行する都市計画事業による道路拡幅等に使用する目的で、上告人以外の者の持分
合計一二〇分の一一八を順次買収した。(2) 本件各土地のうち二〇九番四の土
地(宅地一五五・一四平方メートル)についての本件賃借権は、元は上告人外二名
が各三分の一の持分により共有していたが、被上告人町は、平成四年一二月六日な
いし七日、前記都市計画事業を円満に遂行するため、上告人以外の者の持分合計三
分の二を買収し、これにつき被上告公社の承諾を得た。(3) 上告人は、遅くと
も被上告人町が本件賃借権の持分を取得した当時には、本件各土地を使用しなくな
っていた。(4) 本件各土地の持分一二〇分の二の適正価格は二三二万五〇六五
円、本件賃借権の持分三分の一の適正価格は一七六万六四二二円であり、被上告人
らの右各金額の支払能力に不安はない。
 【要旨】右事実関係の下においては、被上告人らの希望に従い本件各土地等につ
き全面的価格賠償の方法による分割を命ずるとともに、上告人に対して本件各土地
の持分につき被上告公社に対する持分移転登記手続を命じた原審の判断は、正当と
して是認することができる。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の
認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原判決を正解しないでその違
法を主張するものであって、採用することができない。
 よって、裁判官遠藤光男、同藤井正雄の補足意見があるほか、裁判官全員一致の
意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官遠藤光男、同藤井正雄の補足意見は、次のとおりである(裁判官遠藤光男
については、本補足意見のほか、後記の追加補足意見がある。)。
 私たちは、法廷意見に同調するものであるが、全面的価格賠償の方法により共有
物の分割を命ずる場合の判決主文の在り方について、意見を補足して述べておきた
い。
 一 裁判所が判決により全面的価格賠償の方法による共有物分割を命ずる場合に
は、当該共有物を取得する者にその対価たる価格の支払能力があることが不可欠の
要件となる。この判決は、一方当事者(現物取得者)には判決確定と同時に共有物
を単独で所有させる反面、他方当事者(対価取得者)には共有持分を失わせる対価
として金銭債権を取得させるにとどまるから、その債権の回収可能性について不安
を残したのでは共有者間の実質的公平を損なうことになるからである。そして、ま
たこのことは、現物取得者の価格賠償義務の履行確保について、裁判所としての特
別の配慮を要求することになる。
 二 家事審判による遺産分割において、共同相続人の一人又は数人に他の共同相
続人に対し債務を負担させて現物分割に代えるいわゆる代償分割の方法(家事審判
規則一〇九条)を採用した場合には、審判により創設される金銭債務の履行確保の
ため、(1) 金銭債務についての債務名義を形成すること(同規則一一〇条、四
九条)のほか、(2) 利息、遅延損害金を付すること、(3) 担保権を設定す
ることなどが考案され、実行されている。一方、民事訴訟としての共有物分割にお
いて全面的価格賠償の方法による分割を行う場合にも、裁判所が当事者間に共有持
分移転の対価についての債権債務関係を非訟的に創設するのである(本件の第一審
判決主文第一項の2及び第三項の2がこれに当たる。)が、その債権の履行請求は
純然たる訴訟の領域に属する事柄であり、対価取得者の明示の申立て(原告が物件
を取得するときは被告による予備的反訴の提起、被告が物件を取得するときは原告
の予備的請求の追加)もないのに、右(1)に準じ、対価について給付判決をして
債務名義を形成することはできないであろう。また、(3)の担保権の設定も、訴
訟に親しむ事項とはいい難い。(2)の利息、遅延損害金の付加は、対価の額とそ
の履行期の決め方に連なる問題であって、共有物分割訴訟に応用可能であるが、申
立てなくして給付を命じ得ないことは(1)と同断であり、いずれにせよこれだけ
では金銭債務の履行確保には必ずしも十分とはいえない。
 三 共有物分割訴訟の多くは共有不動産に係るものであり、全面的価格賠償の方
法による分割により現物の取得を希望する者が、取得する共有持分についての移転
登記手続又はその物の引渡し(以下「登記手続等」という。)を請求することが少
なくない。この場合、対価取得者から現物取得者への共有持分権の移転と現物取得
者の対価取得者への金銭支払義務の負担は、共有物分割によって発生し、相互に対
価関係に立ち、相牽連する関係にあるから、持分権移転に伴う登記手続等と金銭の
支払とを関連的に履行させることが公平に適うものということができ、この両者の
間に双務契約におけるのと同様の同時履行関係を認めるのが相当である。
 しかし、このように同時履行関係があるといっても、当事者が常に同時履行の抗
弁を主張するとは限らない。原告が全面的価格賠償の方法による分割を求めたのに
対し、被告が現物分割を求めて強く争っている場合(本件がそうである。)に、被
告から予備的にでも同時履行の抗弁が提出されることを期待することには限界があ
る。このような場合においてもなお、現物取得者の金銭債務の履行を確保する方策
を講ずる必要があるからには、裁判所は、同時履行の抗弁の有無にかかわらず、そ
の裁量により、登記手続等につき金員支払との引換給付を命じ得るとしなければな
らない。共有物分割訴訟がその本質において非訟事件であって、裁判所の適切な裁
量権の行使により、共有者間の公平を保ちつつ、妥当な分割の実現を期したもので
ある(最高裁平成三年(オ)第一三八〇号同八年一〇月三一日第一小法廷判決・民
集五〇巻九号二五六三頁参照)ことからすると、事案に応じてこのような処理をす
ることも、裁量権の発動の一内容として許容され得るものと考える。現物取得者の
信用度が高く、対価の額が比較的少額であって、金銭債務の履行につき全く不安視
する要素がない場合を除き、右のように引換給付を命ずることを原則とする運用を
考慮すべきであろう。
 四 右の見地に立って本件の主文を見てみると、第一審判決は、被上告公社と上
告人との間の共有土地の分割につき、第一項において、分割の方法として、本件各
土地を被上告公社の所有とし、被上告公社は上告人に対し二三二万円余を支払うも
のとした上、第二項において、前項の裁判が確定したときは、上告人は被上告公社
に右土地の共有持分一二〇分の二について持分移転登記手続をすべきことを命じ、
原審はこの第一審判決をそのまま維持しているのであり、価格賠償の履行確保の点
で問題なしとしない。しかし、現物を取得する被上告公社は、地方公共団体の設立
に係る公的な団体であり、これが負担する支払義務の額は自ら申し出た額そのまま
で、その者にとってさほど大きいものではなく、その公共的性格に由来する社会的
信用度からみても、また、これまで本件各土地の他の一二名の共有者からそれぞれ
の持分を買収する過程で代金支払に関して紛争の生じたことはうかがわれない実績
に照らしても、被上告公社が定められた価格の支払を遅滞するおそれはないと認め
られるから、上告人に対し被上告公社への持分移転登記手続を命ずるにつき、右価
格の支払との引換えにしなかった原審の判断に裁量の範囲からの逸脱はなく、これ
を是認すべきものと考える。
 裁判官遠藤光男の追加補足意見は、次のとおりである。
 私は、共同補足意見において述べたとおり、裁判所が全面的価格賠償の方法によ
り共有物の分割を命ずる場合、現物取得者が求める登記手続等については、同時履
行の抗弁の有無にかかわらず、対価支払との引換給付を命ずることができると考え
るが、事案によっては、更に進んで、現物取得者が判決確定後一定期間内に右対価
を支払うことを条件として共有物の権利を単独で取得する旨の判決を言い渡すこと
もできると考える。
 一 全面的価格賠償の方法により共有物を単独で取得することを希望する当事者
は、本訴又は反訴請求において、当該共有物についての登記手続等を併合して請求
する場合が多いであろう。このような場合、裁判所が全面的価格賠償の方法により
共有物分割を命ずるに当たっては、前記のような引換給付判決をすることにより、
対価取得者が債権回収の可能性につき抱く不安の多くは、事実上解消されるとみて
よい。けだし、現物取得者としては、裁判所が命じた対価を現実に支払わない限り、
当該共有物を完全には取得することができないことになるからである。
 二 しかし、共有物分割訴訟において、登記手続等が常に併合して請求されると
は限らない。現に、本件各請求のうち被上告人町の請求については、その分割対象
が借地権であることもあり、登記手続等は一切求められていない。当然のことなが
ら、このような場合には、前記のような引換給付判決をする余地はない。また、登
記手続等につき引換給付が命じられたとしても、現物取得者が対価の支払を遷延し
ているうちにその支払能力に変化が生じ、これを支払うことができなくなった場合
には、判決自体が宙に浮いてしまうこともあり得るであろう。契約関係を前提とし
た対価不払の場合とは異なり、判決によって形成された法律上の効果を契約解除の
法理により解消させることは容易に認められ得るところではない。もっとも、その
解決方法としては、引換給付を命じた判決自体において、対価支払の履行期を定め、
右期間内にその支払がされなかった場合にはいったん命じた全面的価格賠償の方法
による分割を失効させる手立てを講じておくことも考えられよう。しかし、判決に
より生じた形成の効果を後日一定の条件の下に失効させることを認めるのであれば、
むしろ、初めからその効果の発生自体を一定の条件に係らしめておいた方が簡明と
いうべきである。したがって、前記のような場合には、現物取得者が判決確定後一
定期間内に判決の定めた価格を支払うことを条件として共有物の権利を単独で取得
することを命じ得るものというべきである。
 三 最高裁平成七年(オ)第一六八四号同一〇年二月二七日第二小法廷判決(裁
判集民事一八七号二〇七頁)における河合裁判官の補足意見は、この方式による判
決主文を示唆されるものであるが、私も右意見に賛成するものである。けだし、共
有物分割訴訟は、前述したとおり、その本質において非訟事件であり、裁判所の適
切な裁量権の行使により共有者間の公平を保ちつつ妥当な分割が実現されることを
期したものであるから、右のような判決主文を言い渡すことは、裁判所の裁量権の
範囲を超えるものではなく、当然に許容されると考えるからである。
 右判決主文は、形成判決の主文に条件を付するものであり、類例に乏しいが、右
条件は飽くまで共有者間の実質的公平を確保するため付されるものにすぎず、判決
の確定により従来の共有関係に変更を加えるという点において、他の形成判決と何
ら異なるものではない。また、実質的に見ても、競売による代価分割にあっては、
これを命ずる判決の確定により従来の共有関係は直接的には将来競売に付されるべ
きものに変更されるにとどまり、最終的な権利関係の変更は、現実に競売手続が開
始され、例えば、不動産については代金の納付があって初めてもたらされるもので
あることと対比すると(民事執行法一九五条、一八八条、七九条)、右判決主文は、
共有物分割訴訟における裁量権の行使の在り方の一つとして、十分その相当性が肯
定されるものと考える。
 四 右のような判決主文を採用した場合、従来の共有関係は、判決確定と同時に
条件付きのものに変更され、現実に対価の支払が行われ条件が成就することによっ
て、共有物についての権利関係が最終的に変更されることとなる。そして、現物取
得者の登記手続等は、右条件が成就したときに可能となり、あらかじめその請求が
されていた場合には、右のような条件を付してこれを認容することとなる。裁判所
は、通常は、右の主文による分割を命ずるとともに、対価の支払がされないまま期
間が経過した場合につき更に別の方法による分割を命ずることとなろうが、原告が
現物の取得を希望して共有物の分割を求め、裁判所がその希望に応じて価格を確定
したにもかかわらず、原告がその支払を怠ったような場合には、被告において他の
適当な機会に適宜の方法による共有物の分割を請求し得るように、あえて別途の方
法による分割を命じないという取扱いをすることも許されよう。なお、支払能力の
流動性を考慮すると、対価が支払われるべき期間については、判決確定後せいぜい
半年程度が適当と思われる。
 五 以上に述べたとおり、共有物の全面的価格賠償の方法による分割については、
事案の内容に応じ、各種の方途によって共有者間の実質的公平の確保が図られるこ
とが必要であると考える。
 原判決により維持された第一審判決の主文第三項は、被上告人町と上告人が共有
する本件賃借権の分割を命ずるに当たり、分割の方法として、右借地権を被上告人
町に単独で取得させた上、被上告人町に、上告人に対する一七六万円余の支払義務
を負わせている。このような判決主文は、一般論として好ましいものとはいえない
が、本件においては、現物取得者が地方公共団体であることに加え、共同補足意見
四項に記載したような事情があることにかんがみると、右判決主文についても、原
審の判断に裁量の範囲からの逸脱があるとは認め難く、これを是認すべきものと考
える。
(裁判長裁判官 大出峻郎 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋
一友 裁判官 藤井正雄)

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