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主文
1 反訴被告は,反訴原告に対し,金52万6413円及びこれに対する平成
14年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 反訴原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを5分し,その2を反訴原告の負担とし,その余を反訴
被告の負担とする。
4 この判決は,1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 反訴原告
(1) 反訴被告は,反訴原告に対し,70万1455円及びこれに対する平成1
4年11月27日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
 2 反訴被告
  (1) 反訴原告の請求を棄却する。
  (2) 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
第2 当事者の主張
 1 請求原因
(1) 当事者
 ア 反訴原告は,自動車の運搬,レッカー移動等を目的とする有限会社で
ある。
 イ 反訴被告は,缶コーヒーなどの清涼飲料の製造及び販売等を目的とす
る株式会社である。
(2) 反訴被告の不法行為責任及び契約締結上の過失
 ア 反訴原告と反訴被告は,平成7年6月9日,反訴原告本店所在地の駐
車場に反訴被告所有の自動販売機(以下「本件自販機」という。)を設
置し,反訴原告が電気使用料金を負担する代わりに販売された商品1
本あたり20円の販売リベートを反訴被告が反訴原告に支払うという内
容の,自動販売機設置契約を締結した(以下「本件1契約」という。)。
 イ 反訴被告のS営業所の従業員Aは,本件1契約の締結に際し,自動販
売機設置に伴う電気使用料金は僅かであって反訴原告に利益が生ず
ると強調し,電気使用料金や売上について具体的な見込みを何ら示さ
なかったため,反訴原告はさほど電気使用料金もかからず販売リベー
トにより利益を得られると信じて本件1契約の締結に至った。
   ところが,本件自販機の作動に伴う電気使用料金の負担により,後
記(5)アのとおり,反訴原告は多大な損害を被った。
   本件自販機の作動に伴う電気使用量は反訴原告の事務所の電気使用
量に合算されて電気使用料金が計算されるため,原告は,実際にどの
程度の使用量になるか,どの程度の電気使用料金が費やされている
かは全くわからない。
   一方,反訴被告にとっては,自動販売機による商品販売事業を展開し
ているから,本件自販機の作動に伴う電気使用料金がどのくらいかか
るのか,地域性からどれくらいの商品が販売できるのかについて,認識
しているか,認識できる情報を有しているといえる。
   したがって,Aの上記勧誘は,故意に情報を隠して反訴原告に誤解を
生じさせるもので,詐欺行為に当たる。Aの上記行為は反訴被告の事
業の執行につきなされたものであるから,反訴被告は民法715条によ
り責任を負う。
 ウ また,反訴被告は,自販機業者として,本件自販機の設置に伴う予想
される収支を説明した上で,自販機設置の契約締結の勧誘をすべき義
務があるのに,これを怠り,反訴原告に対し本件1契約を締結させた点
は,契約締結上の過失にもあたる。
(3) 反訴被告の不法行為責任(仮定的主張)
 ア 仮に,反訴原告と反訴被告との間で本件1契約が締結されていないと
しても,反訴被告は,Bに対し,平成7年6月9日,反訴原告本店所在地
に反訴被告所有の自動販売機を設置して反訴被告の発売する商品の
みを入れて販売するとの条件で反訴被告所有の自動販売機を貸し渡し
(以下「本件2契約」という。),反訴原告とBは,そのころ,反訴原告本
店所在地において,同所の駐車場(反訴原告所有)に反訴被告所有の
本件自販機を設置し,反訴原告が電気使用料金を負担する代わりに販
売された商品1本あたり20円の販売リベートをBが反訴原告に支払う
という内容の自動販売機設置契約を締結した(以下「本件3契約」とい
う。)。
 イ 反訴被告のS営業所の従業員Aは,本件3契約の締結を誘引し,自動
販売機設置に伴う電気使用料金は僅かであって反訴原告に利益が生
ずると強調し,電気使用料金や売上について具体的な見込みを何ら示
さなかったため,反訴原告はさほど電気使用料金もかからず販売リベ
ートにより利益を得られると信じて本件3契約の締結に至った。
   ところが,本件自販機の作動に伴う電気使用料金の負担により,後
記(5)アのとおり,反訴原告は多大な損害を被った。
   本件自販機の作動に伴う電気使用量は反訴原告の事務所の電気使用
量に合算されて電気使用料金が計算されるため,原告は,実際にどの
程度の使用量になるか,どの程度の電気使用料金が費やされている
かは全くわからない。
   一方,反訴被告にとっては,自動販売機による商品販売事業を展開し
ているから,本件自販機の作動に伴う電気使用料金がどのくらいかか
るのか,地域性からどれくらいの商品が販売できるのかについて,認識
しているか,認識できる情報を有しているといえる。
   したがって,自動販売機業者であって,自動販売機設置にかかる契約
締結の誘引をなす反訴被告としては,自動販売機を設置するであろう
契約締結誘引対象者である反訴原告に対して,自動販売機設置に伴う
リスクすなわち支払うべき電気使用料金の説明をなすべき義務がある
というべきで,これを怠った反訴被告の従業員であるAの上記契約締結
の誘引は,不法行為に該当する。Aの上記行為は反訴被告の事業の
執行につきなされたものであるから,反訴被告は民法715条により責
任を負う。
(4) 反訴原告は,本件自販機に多大な電気使用料金を要することを知り,
反訴被告のS営業所の所長に対し,その正確な情報を求め,かつ対処方
法を尋ねたにもかかわらず,同所長にあっては,何らの回答もなく,反訴
原告においてやむなく本件自販機に省エネタイマーを設置したところ,反
訴被告は,反訴原告に対し何らの要請もしないまま,平成14年5月21
日,津地方裁判所に,動産引渡断行仮処分申請をした。反訴被告のこの
対応は,反訴原告において対処しようと交渉を申し入れたにもかかわら
ず,それを無視して反訴原告への事前交渉もないまま,いきなり同申立て
をしたというもので,明らかに濫申立てというべきものであり,不法行為に
該当する。
(5) 反訴原告の損害
 ア Aの上記(2)もしくは(3)の行為により,反訴原告は販売リベートという利
益を得たものの,これを上回る電気使用料金の負担を負うことになっ
た。すなわち,販売リベートは平成7年7月から平成14年6月までで17
万4160円であるのに対し,同期間に本件自販機の作動によって反訴
原告が負担した電気使用料金は77万5615円であり,両者の差額60
万1455円が反訴原告の損害となる。
 イ また,反訴被告の上記(4)の行為により反訴原告は,動産引渡断行仮
処分申請への対応,弁護士への依頼(着手金10万円),裁判所への
出頭をよぎなくされた。反訴原告は法的手続を取ることを余儀なくされ,
少なくとも10万円の損害を被った。
  (6) よって,反訴原告は,反訴被告に対し,70万1455円及びこれに対する
反訴状送達の日の翌日である平成14年11月27日から支払済みまで商
事法定利率年6分の割合による遅延損害金(もしくは民法所定の年5分
の割合による遅延損害金)の支払を求める。
 2 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)の事実は認める。
(2) 同(2)の事実は否認する。
(3) 同(3)のうち,アの事実は認め,その余の事実は否認する。
(4) 同(4)の事実は否認ないし争う。
(5) 同(5)のうち,反訴原告が販売リベートを得たこと及びその額は認め,そ
の余の事実は否認する。
(6) 同(6)は争う。
第3 当裁判所の判断
 1 請求原因(1)の事実は当事者間に争いがない。
 2 請求原因(2)アの事実については,これを認めるに足る証拠はない。
反訴原告代表者は,これに沿う供述をするが,C自動販売機貸付契約書
(甲2)で,貸主が反訴被告,借主がBとされていること,Bが反訴原告にリベ
ートを支払っていたこと(反訴原告代表者)からして,採用できない。
 3 請求原因(3)アの事実は当事者間に争いがない。
 4 そこで,請求原因(3)イ及び(5)アの事実につき検討する。
  (1) 証拠(甲8,乙2の1・2,3の1ないし6,5,証人A,反訴原告代表者)によ
れば,以下の事実が認められる。
   ア 反訴被告の従業員であるAは,平成7年6月ころ,反訴原告の事務所を
訪れ,自動販売機の設置を勧めた。反訴原告代表者が「商品の入れ替
えが面倒なので,何もしなくていいのなら自動販売機をおいてもいい。」
と述べたところ,Aは,「自動販売機の維持管理や商品の詰め替えは反
訴被告もしくはその代理店が行い,反訴原告は自動販売機が消費する
電気使用料金を負担する代わりに売上げ1本あたり20円のリベートを
受け取ることになる。」と説明したが,具体的な電気使用料金の額や売
上げ見込みについては説明しなかった。当時,Aは,自動販売機を設
置すると,1か月当たり約6000円の電気使用料金がかかることは知っ
ていたが,反原告代表者は,自動販売機の設置によりどの程度の電気
使用料金がかかるかを全く知らなかった。
   イ 反訴原告がAの提案を了解したため,Bと反訴被告が本件2契約を,反
訴原告とBが本件3契約を締結することとなり,以後,Bが本件自販機
の商品の詰め替えを行い,反訴原告に売上げ1本あたり20円のリベー
トを支払うようになった。
     Bが反訴原告に支払ったリベートの平成13年7月から平成14年5月ま
での月間平均は2073円である。
   ウ 反訴原告は,本件自販機の作動に伴う電気使用量は反訴原告の事務
所の電気使用量に合算されて電気使用料金が計算されるため,実際
にどの程度の使用量になるか,どの程度の電気使用料金が費やされ
ているかがわからなかった。
     ところが,反訴原告は,平成13年夏頃,Dの従業員Eから,「本件自販機
は電気使用料金の負担が大きく,省エネタイマーを設置することによ
り,電気使用料金を大幅に抑えることができる。本件自販機の場合,お
およそ1か月に5000円の電気使用料金がかかり,販売リベートが1か
月当たり2000円とすると,毎月3000円の赤字である。」旨を伝えら
れ,本件自販機に予想外の電気使用料金がかかることを知った。
     そこで,反訴原告は,そのころ,同従業員のアドバイスに従い,本件自販
機に省エネタイマーを設置した。
   エ 反訴被告は,本件自販機に省エネタイマーが設置されたことを知り,反
訴原告に対し,その取り外しを求めたが,反訴原告がこれに応じなかっ
たため,反訴被告は,平成14年5月21日,当庁に本件自販機の仮の
引渡を求める断行の仮処分申請(平成14年(ヨ)第33号)をした。
   オ 反訴原告は,平成14年7月ころ,Dに本件自販機の作動によって平成7
年7月から平成14年6月までの間に負担した電気使用料金の試算を
中部電力の資料などをもとに求めたところ,平成7年7月から同年12月
までの分が5万6918円,平成8年分が11万0614円,平成9年分が1
1万4457円,平成10年分が11万1829円,平成11年分が10万88
58円,平成12年分が10万9565円,平成13年1月から8月までの分
が6万7574円で,同年9月から12月までの分が4万1185円で,平成
14年1月から6月までの分が5万4617円と推定された(乙2の1・2)。
    なお,反訴原告は,「Aが自動販売機設置に伴う電気使用料金は僅かであ
って反訴原告に利益が生ずると強調した。」旨主張し,これに沿う反訴原
告代表者の供述は存するが,反対趣旨の証人Aの供述に照らし採用でき
ない。
(2) 上記認定の事実によれば,反訴原告は自動車の運搬等を目的とする
有限会社で清涼飲料の販売などを主たる業務とするものではないうえ,
本件自販機の作動に伴う電気使用量は反訴原告の事務所の電気使用量
に合算されて電気使用料金が計算されるため,原告には実際にどの程度
の使用量になるか,どの程度の電気使用料金が費やされているかがわ
からない一方,反訴被告は清涼飲料製造販売の業者で,その従業員Aは
本件自販機の設置により1か月当たり約6000円の電気使用料金がかか
ることを知っていたのであるから,Aとしては,反訴被告所有にかかる本件
自販機の設置に関わる本件3契約締結を誘引するに当たり,反訴原告が
本件自販機の設置によりどの程度の電気使用料金の負担を負うことにな
るのか,その負担はどの程度の売上げがあれば補填されるのかを具体
的に説明し,反訴原告に予想外の不利益を及ぼさないようにすべき信義
則上の義務があったというべきである。
しかるに,Aは,反訴原告代表者に対し,電気使用料金の負担の程度
及びそれを補填できる売上げの額につき何ら説明をせずに本件3契約締
結の誘引をし,反訴原告が本件3契約を締結したため,反訴原告におい
て予想外の電気使用料金を負担することになったものであり,この点につ
きAに上記の信義則上の義務違反があって,不法行為を構成すると認め
られる。
反訴被告はAの使用者であり,Aは反訴被告の事業の執行につき本件
3契約締結の誘引をなしたものであるから,反訴被告は民法715条の責
任を負う。
 (3) Aの上記不法行為により,反訴原告が被った損害については,反訴原告
が平成13年夏頃に本件自販機に予想外の電気使用料金がかかることを
知り,同年8月末までには本件3契約を解約することが可能であったとい
えるから,本件自販機が設置された平成7年7月から平成13年8月末ま
での間に本件自販機にかかった電気使用料金から,Bから受け取ったリ
ベートを差し引いた分がその損害であるというべきである。平成7年7月か
ら平成13年8月末までの間に本件自販機にかかった電気使用料金は67
万9815円であり,リベートの額は15万3402円(2073円×74月)と推
定されるから,その損害額は52万6413円となる。
この点,反訴被告は,「反訴原告は独立の営業主体として契約内容を
了承した上で本件3契約を締結したのであるから,そこから生じる利益な
いし損失を反訴原告が負担するのは当然である。また,反訴原告の営業
所内に清涼飲料水の自動販売機が設置されることは,その従業員や顧
客にとっても大変便利で,反訴原告はかかる利便性を享受しうることを勘
案して,本件自販機設置に踏み切ったものである。したがって,電気使用
料金と販売リベートの差額がそのまま損害であるとはいえない。」旨主張
する。
しかし,証拠(反訴原告代表者)によると,反訴原告にとり本件自販機
にかかる電気使用料金は予想外であり,反訴原告が本件3契約に際し,
本件自販機にかかる電気使用料金を知っていれば,本件3契約を締結し
なかったと認められるから,反訴被告の同主張は採用できない。
 5 請求原因(4)の事実につき検討する。
反訴被告が,反訴原告に対し何らの要請もしないままに,平成14年5月21
日,津地方裁判所に,動産引渡断行仮処分申請をしたものであるとしても,
反訴被告は本件自販機の所有者で,その返還を求める一応の根拠はある
から,格別その仮処分申請が不法行為に該当するとはいえない。
6 以上によれば,反訴原告の請求は52万6413円及びこれに対する反訴状
送達の日の翌日である平成14年11月27日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれ
を認容し,その余は棄却すべきである。
  よって,主文のとおり判決する。
津地方裁判所民事部
裁判官   内  田  計  一

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