弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     本件各控訴を棄却する。
         理    由
 被告A株式会社並びに被告人B弁護人熊谷恒夫、被告人C弁護人高岡次郎の控訴
趣意は別紙各控訴趣意書記載の通りで、之に対する判断は次の通りである。
 第一、 被告A株式会社弁護人熊谷垣夫控訴趣意第一点、本件被告事件は必要弁
護の事件であるに拘らず原裁判所は被告会社に弁護人なき侭開廷したから訴訟手続
上法令の違反がある。との論旨について。
 記録を精査すると、なるほど原裁判所は本件を審理するに当り、昭和二十四年八
月九日の第一回公判期日から昭和和二十五年二月二日の第十一回公判期日に至るま
では、被告会社に弁護人の選任なくして開廷したことを認めることが出來る。
 よつて、該訴訟手続が所論の法令違反となるか、どうかについて考えると、本件
起訴状並びに起訴状訂正申立書の記載によれば、被告会社の使用人である被告人会
社D支店長Cが法定の除外事由がないのに被告会社の業務に関し、被告会社E支店
長F等と共謀の上営利の目的で、昭和二十三年六月二日頃和歌山県G連合会(連合
農業会の誤記)に対し、一等検ほつけ粕二十四貫入八十俵を、統制額六万五千八百
八十八円を五十六万二千百十二円超過する代金六十二万八千円で販売したという事
実に対し被告会社の処罰を求めていることが明らかであるから、被告会社は物価統
制令第四十条に該当するものとして起訴せら<要旨>れたことは明白である。ところ
で右物価統制令第四十条には「法人ノ代表者又ハ法人若ハ人ノ代理人、使用人 旨>其ノ他ノ従業者が其ノ法人又ハ人ノ業務ニ関シ第三十三条乃至第三十五条第三十
七条第一號乃至第三號第三十七条ノ二又ハ前条ノ違反行為ヲ為シタルトキハ行為者
ヲ罰スルノ外其ノ法人又ハ人ニ対シ各本条ノ罰金刑ヲ科ス」と規定せられていて、
この規定は使用人等の行為に対し、本人(法人又は人)を処罰することを定むると
同時に、之に対する刑罰を定めたものであるから、この場合に於ける法定刑は右各
本条の罰金刑に限られているものといわねばならぬ。従つて、被告会社に対する本
件被告事件は、刑事訴訟法第二百九十八条第一項に規定する必要弁護の事件に該当
しないことが明らかである。されば、原裁判所が前叙の如く被告会社の弁護人なく
して開廷したからとで、その訴訟手続が右刑事訴訟法の規定に違反するものではな
い。論旨は理由がない。
 第二、 被告人C弁護人高岡次郎控訴趣意第一点(イ)、原判決は、本件ほつけ
粕の販売価額につき、事実の誤認がある。との所論について。
 記録中、原判決が証拠として引用した被告人C作成の違反取引一覧表(記録、第
百四十四丁)の記載に、同被告人の函館市警察署長宛申告書の記載並びに検察事務
官に対する第四回供述調書の供述記載を綜合すると、原判決認定の販売価額には、
所論の運賃諸懸りが算入されていないことが明らかであるから、原判決に所論の事
実誤認はなく論旨は理由がない。
 第三、 同第一点(ロ)原判決は本件ほつけ粕の買受人につき、事実の誤認があ
る。との所論について。
 控訴趣意書に援用する司法警察員のH、Iに対する各聴取書の供述記載、J作成
に係る顛末書の記載原審第十一回公判調書中被告人Cの供述記載を綜合すると、本
件ほつけ粕は、右H及びIの仲介により、被告会社E支店に於て和歌山県G連合農
業会の註文を受け、被告会社D支店と連絡の上右D支店から右連合農業会宛発送
し、同時にその旨電報を以て右連合農業会に通知したことが認められる。ところ
で、売買は売主と買主との意思の合致によつて成立することはいうまでもないか
ら、右の事実関係に於て、被告会社D支店かほつけ粕を発送し、その旨電報で通知
したことによつて、本件ほつけ粕の売買は被告会社と右連合農業会間に於て成立し
たものというべきで、仮令所論の如く、被告会社E支店が右ほつけ粕を右連合農業
会に到達する前に、第三者たるK協会に売渡したとしても、債務不履行等の問題は
別論として被告会社と右連合農業会との間に於ける売買契約の成否に毫も影響を及
ぼすものではない。従つて、右連合農業会に対し、本件ほつけ粕を売渡したものと
認むる原判決は正当で、この点につき所論の事実誤認はない。論旨も亦理由がな
い。
 第四、 被告人B弁護人熊谷垣夫控訴趣意第一点、原審第一回公判期日に於ける
訴訟手続に法令の違反がある。との所論について。
 原審第一回公判調書の記載を閲すると、控訴趣意書摘録の問答が相被告人Cの弁
護人高岡次郎と被告人Bとの間に為された旨記載されていることは所論の通りであ
るが、該公判調書中被告人Cの弁解並びに右問答の内容を検討すると、該公判調書
に「高岡弁護人は判事に告げ被告人Bに対し、」とあるは「高岡弁護人は判事に告
げ被告人Cに対し」の誤記であることを容易に看取することが出来る。公判調書に
於ける斯る明白な誤記を捉えて、訴訟手続に法令の違反ありと為すことは出来な
い。論旨は理由がない。
 第五、 同第二点、被告人Bは当時旅行不在中で本件に関係がなく、原判決はこ
の点につき事実の誤認がある。との所論について。
 原審第十四回及び第十七回各公判調書の記載によると、原審弁護人熊谷垣夫と証
人L、同Mとの間に各所論の問答の為されたことを認むることが出来るけれども、
他面、被告人提出の顛末書には、被告人がA株式会社N支店から、魚粕の製造を依
頼され、引揚者更生の一端として、自分で資金の不足分を出して製造させた旨記載
されており又原審第一回公判調書には、被告人の弁解として、「ほつけ粕八十俵を
Cから頼まれて仲介の労を取つただけであり、又引揚者の組合に対し加工をやはり
Cから頼まれ、同組合にやつただけであり、その後のことは判りません。」原審第
十七回公判調書には、被告人の供述として「私はこの事については何も知つて居り
ません。皆L専務がやつたのであります」と各記載されているたけで、被告人自身
は旅行不在中であつたとは述べて居らず、所論の証人との問答を除いては、被告人
Bが当時旅行不左中であつたことを認むるに足る証拠はない。従つて、原裁判所が
右証人等の供述を採用しなかつた事情が窺われるばかりでなく、原判決引用のCの
検察事務官に対する第四回供述調書には、「私は函館に帰つて来て、同年(昭和二
十三年)四月末頃Bとは、同じ事務所の関係で、先程申上げたab番地A株式会社
事務所でBにほつけ粕二十四貫入一俵を七千五百円で八十俵、引渡時期は製造終了
次第という事で、加工して貰うことに致しました。」との供述記載があり、尚同人
の検察事務官に対する第三回供述調書には「ほつけ粕八十俵は、当時Bに頼んで、
大体計算して貰い二十四貫入一俵を七千五百円の割合で製造加工を請負つて貰い、
私は加工した粕を受取つたのです。」との供述記載があつて、被告人が相被告人C
から本件ほつけ粕の加工の依頼を受け、製品を右Cに引渡したことを認むるに十分
であるから、原判決に所論の事実誤認はない論旨亦理由がない。
 第六、 被告A株式会社弁護人熊谷垣夫、被告人C弁護人高岡次郎各控訴趣意第
二点、量刑不当の主張について。
 記録を精査し本件犯行の態様、取引の目的、数量超過の金額その他諸般の事情を
綜合すると、原判決の量刑は相当と思料されるので、各論旨も示採容出来ない。
 よつて本件各控訴はいずれも理由がないから、刑事訴訟法第三百九十六条に従
い、之を棄却するものとし、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 原和雄 判事 井上正弘 判事 長友文士)

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