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平成17年(ネ)第10117号特許権譲渡代金請求控訴事件
平成18年3月29日判決言渡,平成18年1月25日口頭弁論終結
(原審・東京地方裁判所平成16年(ワ)第14321号,平成17年9月13日判決)
判決
控訴人X
訴訟代理人弁護士永島孝明,安國忠彦,明石幸二郎
補佐人弁理士磯田志郎
被控訴人ファイザー株式会社
訴訟代理人弁護士中島和雄
補佐人弁理士松居祥二
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴人の求めた裁判
1原判決中,被控訴人に対する1億円及びこれに対する平成16年7月15日
。から支払済みまでの年5分の割合による金員の支払請求を棄却した部分を取り消す
2被控訴人は,控訴人に対し,1億円及びこれに対する平成16年7月15日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被控訴人の従業員であった控訴人が,被控訴人に対し,職務発明につい
て特許を受ける権利を被控訴人に承継させたことにつき,特許法35条3項の規定
に基づき,相当の対価の支払を求めた事案である。
1手続の経過
(1)控訴人は原審において特許第3015677号の特許権に係る発明以,,(
下「本件発明」という)は,被控訴人の従業員であった控訴人がAとともに職務。
上した発明であり,これについて特許を受ける権利を被控訴人に承継させたと主張
して,特許法35条3項の規定に基づき,相当の対価である53億9665万50
()00円のうち10億円とこれに対する訴状送達の日の翌日平成16年7月15日
から支払済みまでの年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
(2)原審は,控訴人が本件発明の真の共同発明者ということはできないと判示
して,原告の請求を棄却した。
(3)控訴人は,原判決のうち,1億円及びこれに対する遅延損害金の支払請求
を棄却した部分を不服として,控訴した。
2争いのない事実,争点等
争いのない事実等,争点及び争点に関する当事者の主張は,原判決の「事実及び
」「」「」「」理由の第2事案の概要の1争いのない事実等及び3本件の争点
並びに「第3争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引
用する。なお,原判決32頁20行目に「原告は,このうち10億円の支払を求め
る」とあるのを「原告は,このうち1億円の支払を求める」に改める。。,。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,当審
における控訴人の主張に対する判断を以下に付加するほかは,原判決の「事実及び
理由」の「第4当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
2当審における控訴人の主張について
(1)控訴人は,本件発明は,錠剤の形状の着想が重要であり,実験はただ一つ
の錠剤の形状についてその効果を確認したにすぎないから,錠剤の形状を着想した
,,,者がその後の実験への関与の程度を問わず発明者又は共同発明者となるとして
控訴人が,平成元年末には,後のノルバスク分割錠と同一の形状を着想していたと
主張する。もっとも,この点は原審でも主張され,この主張は原判決(50頁2行
目ないし53頁12行目,55頁3行目ないし56頁14行目)でも念頭に置いて
判断しているところである。
ア錠剤の形状の着想が重要であるとの主張について
,,(ア)フィルムコーティングを施した分割錠剤においていかなる形状であれば
均一かつ容易に分割できるか,フィルムコーティング工程においてツウィンニング
等のトラブルが生じないかを事前に予想することは困難であって,具体的な実験に
よって初めて確認できるものであること,また,どのような組成のフィルムコーテ
ィング剤でどのような引っ張り強度及び伸び率にすれば,均一かつ容易に分割でき
るか,フィルム付着等の問題が生じないかを事前に予想することも困難であり,具
体的な実験によって発見ないし検証することが不可欠であることは,原判決50頁
26行目ないし51頁22行目に説示されており,当裁判所もこの判断を支持する
ものである。
(イ)そして,原判決が認定した(40頁3行目ないし14行目,42頁10行
目ないし45頁15行目)ように,Bは,ノルバスク分割錠の開発について,平成
「」6年1月10日に開催された被控訴人の社内会議Nagoya-TokyoCreativeForum
において,フィルムコーティングの問題,分割性の問題及び光に対する安定性確保
の問題等があることを指摘した上,同年3月28日「Nagoya-TokyoCreativeFo,
rum」の事務局である情報企画部長に宛てて,開発状況として,スプレー液噴霧速
度などのコーティング条件,水系フィルムコーティング装置の機種による影響,錠
(,。),剤形状カルデナリン錠4mgと同様形状にするかその一部変更形状にするか
コーティング液の処方及び素錠の硬度とコーティング錠の分割性の関係を検討して
いる旨報告し,さらに,平成6年4月ころに開催された被告の社内会議「Nagoya-T
okyoCreativeForum」において,素錠の形状に問題があったり,コーティング条
件が不適当であったりしたことなどを原因として,フィルムコーティング工程でツ
ウィンニングが発生する問題(ノルバスク分割錠プラセボの製造において発生し「
たトラブルとその対策(乙28)中の「発生したトラブル」欄①,フィルムコ」)
ーティング工程で素錠が摩損する(コアエロージョン)問題(同「発生したトラブ
ル」欄②,フィルムコーティング工程で割線及び刻印部分が詰まる問題(同「発)
生したトラブル」欄③,分割時の錠剤の割れやすさの問題(同「発生したトラブ)
ル」欄④)及び錠剤分割時のフィルム残りの問題(同「発生したトラブル」欄⑤)
が発生し,対策として,杵のデザインの変更やコーティング条件の変更などが考え
られたことを指摘しているものである。
このように,平成6年においてもなお,錠剤の形状やコーティングの条件を確定
するに至っていないのであって,このことからみても,本件発明は,実際にフィル
ムコーティング実験等を繰り返すことによって,課題を解決する手段が具体化され
る性質のものであったということができる。
(ウ)そうであれば,本件発明は,錠剤の形状についての着想を得ただけでは,
期待する作用効果を奏するか否かが明らかでなく,実際に実験等を繰り返すことに
よって,初めて発明が具体化し,完成したものであるから,本件発明における発明
者を認定するに当たっては,実際にフィルムコーティング実験等を実施して創作的
にその構成を見いだしたか否かという観点に依拠するのが相当である。
イ控訴人が錠剤の形状を着想したことについて
(ア)引用した原判決の認定した事実に,甲4,乙20,48,50及び弁論の
全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
aサンド社は,昭和60年12月3日,原判決別紙図2記載の形状,すなわち
一方の面が平面で,溝状の割線の入っている他方の面が凹面となっており,周縁部
が面取りされている円盤状のパーロデル型分割錠につき意匠の登録出願をし,この
意匠は昭和62年2月27日に登録された。サンド社は,また,昭和61年6月3
日,上記登録意匠と同様の形状の錠剤について特許出願をし(特願昭61-130
011。なお,優先権主張は昭和60年6月4日である,平成7年に実用新案。)
登録出願に切り替え(実願平7-6660,この出願に係る考案は平成8年6月)
21日に公開された(実開平8-1012)が,その後に拒絶査定が確定した(甲
4,弁論の全趣旨。)
サンド社のパーロデル型分割錠は,指で押すだけで分割できるという技術的特徴
を有するものであった(弁論の全趣旨。)
b被控訴人のC製剤研究室長は,上記サンド社の特許出願に係る特許公開公報
(特開昭61-289027号公報)を発見し,昭和63年3月8日付けで,D調
査部長に対応を相談したところ,D調査部長は,同月17日付けで,カルデナリン
(ドキサゾシン)錠1mgをカラテ型割線入りで進めるのであれば,対応として,他
の特許出願,文献を含めた先行技術の調査,上記サンド社の特許出願についての特
許庁に対する審査請求を行うなどの方策を講じてサンド社の特許権を成立させない
ようにする方法と特許権が成立した場合には実施料を支払う方法があると回答した
(乙20。)
c製剤研究室長であった控訴人は,平成元年4月19日付けで,R&D業務部
,(),長にカルデナリンドキサゾシン錠1mgを割線入りカラテ型錠で進めるときは
サンド社の特許に抵触するか否かの問題が解決されていないので,上記特許が成立
したか,上記特許が成立したときはこれに抵触しないか,抵触するときはその対応
をどうするかについて再度確認してほしい旨上申した。
さらに,控訴人は,平成元年11月16日付けで,特許部長に対し,カルデナリ
ン(ドキサゾシン)錠1mgの割線入りカラテ型錠はサンド社の特許に抵触しないよ
うに考案されたものであるが,本当に抵触しないかどうか再度検討してほしい旨上
申した。
(イ)上記(ア)に認定したように,昭和63年から平成元年にかけて,被控訴人が
進めているカルデナリン(ドキサゾシン)錠1mgの割線入りカラテ型錠がサンド社
の特許に抵触するか否かが問題となっていたところ,仮に控訴人が平成元年末に錠
剤の形状を着想していたというのであれば,上記着想に係る錠剤の形状は,割線の
ない面が凸曲面である点で,Eが着想したカルデナリン分割錠の形状よりもパーロ
デル分割錠の形状から離れたものであり,サンド社の特許に抵触しない可能性がよ
り高いと評価することができるから,製剤研究室長であった控訴人としては,少な
くとも,上記着想に係る錠剤の形状を提案したり,開発担当者のEにその着想を伝
えたりするのが通常であると考えられる。しかるところ,本件全証拠によっても,
,。控訴人が上記のような提案をしたり着想を伝えたりしたとの事実は認められない
(ウ)もっとも,控訴人は,上記のような提案をしたり,着想を伝えたりしなか
ったことについて,①原審において,被控訴人が当時の厚生省に対し非分割錠の
承認申請を分割錠の承認申請に改める変更申請を行った直後で,再度錠剤の形状変
更による承認申請を行うことは事実上不可能であり,他方,割線のない面を平面と
する形状でも,分割錠開発の所期の目標(十分な分割性)は十分に達成されていた
と主張し,②当審において,割線のない面を平面とする形状を工場サイドに報告
した後で,再度変更するには,新しい杵型(錠剤形状)を用いて比較実験を行うた
めに予算が必要であり,他方,割線のない面を平面とする形状でも,分割錠開発の
所期の目標十分な分割性は十分に達成されていたと主張するしかし上記(ア)()。,
に認定したように,昭和63年から平成元年にかけて,被控訴人が進めているカル
デナリン(ドキサゾシン)錠1mgの割線入りカラテ型錠がサンド社の特許に抵触す
るか否かが問題となっており,控訴人自身もこれを懸念していたのであって,被控
訴人がサンド社の特許に抵触すると判断したときは,被控訴人が進めていたカルデ
ナリン(ドキサゾシン)錠1mgの割線入りカラテ型錠を断念するか,その形状を変
更するなどしなければならないのであるから,控訴人の主張するような事情がある
としても,このために,提案等することさえも差し控えなければならないとは考え
られない。控訴人の上記主張による弁解には無理がある。
(エ)上記(イ)のとおり,控訴人が上記のような提案をしたり,着想を伝えたりし
たとの事実は認められないのであって,このことだけからみても,控訴人が平成元
年末に既に錠剤の形状を着想したとは認め難いといわなければならない。そして,
他に控訴人が錠剤の形状を着想したことを認めるに足りる証拠はない。
ウ以上のとおりであって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(2)控訴人は,その他縷々主張して原判決の認定判断を非難するが,実際にフ
ィルムコーティング実験等を実施して創作的にその構成を見いだしたか否かという
,(。)観点に依拠して検討するならば以上に説示引用した原判決の理由説示を含む
したように,控訴人が本件発明の真の共同発明者ということはできず,そうである
以上,控訴人の主張は,結論に影響を及ぼすものであるとはいえないから,採用の
限りでない。
第4結論
よって,控訴人の請求は理由がなく,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であ
って,本件控訴は理由がないから,棄却されるべきである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
塚原朋一
裁判官
髙野輝久
裁判官
佐藤達文

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