弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決を破棄する。
  本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人の上告理由について
 1 本件は,通信社である被上告人が配信し,その社員(加盟社)の発行する新
聞紙に掲載された記事が上告人の名誉を毀損するものであるとして,上告人が被上
告人に対して不法行為に基づく損害賠償を請求する訴訟である。原審の確定した事
実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,内外のニュースを取材して加盟社等に記事を配信することを
目的とする社団法人である。
 被上告人は,昭和60年9月17日,その加盟社である株式会社F新聞社に対し
,「甲,大麻草を自宅に隠す」,「元の妻が目撃証言」と題名を付けた第1審判決
別紙一記載の記事(以下「本件配信記事」という。)を配信した。
 F新聞社は,同月18日付けのF新聞紙上に,「元の妻が証言」,「冷蔵庫に茶
色の大麻草」,「見つかりそうになったらトイレに流せ」,「乱脈な生活明るみに」
と見出しを付けて,本件配信記事とほぼ同一内容の第1審判決別紙二記載の記事(
以下「本件報道記事」という。)を掲載した。
 (2) 本件配信記事及び本件報道記事には,① 上告人が昭和53年2月の直
前ころ自宅に大麻を隠し持っていたこと及び女性と知り合うきっかけに大麻を用い
ていたことを捜査機関が関係者証言などから突き止めたこと,② 上告人の元妻で
ある乙が,自宅の冷蔵庫に両手いっぱいほどの大麻のビニール包みがあり,上告人
がこれについて大麻であることを認め,「これは高く売れるんだ。もし警察に見付
かりそうになったら,トイレの水と一緒に流せばいい。」と指示したと述べている
こと,③ 上記大麻所持の事実については,所持したとされる大麻が発見されない
ため事実上犯罪としての容疑を問い得ないとしながらも,捜査機関は,上告人が米
国から大麻を持ち帰った可能性があると見ており,また,上告人の昭和51年ころ
からの乱脈な生活ぶりを知る手掛かりとして乙の供述等を重視していることが記載
されている。
 本件配信記事及び本件報道記事は,女性との関係で生活が乱れていた上告人が,
昭和52年末から同53年初めころ,大麻を自宅に所持するという大麻取締法に違
反する行為をしていたことを主要な内容とし,これを単に乙が述べた事実としての
みならず,捜査機関が突き止めた事実としても記載しているのであるから,一般読
者に対し,上告人が倫理感に欠け,犯罪者的傾向を持つ人物であるとの印象を強く
抱かせるものであり,上告人の社会的評価を低下させ,その名誉を毀損する。
 (3) 被上告人が本件配信記事を作成するに当たってした取材活動及び上告人
を取り巻く当時の状況は,次のとおりである。
 ア 被上告人は,週刊G誌の「疑惑の銃弾」記事の連載開始を契機に,昭和59
年1月ころから,上告人に関する事件について,警視庁担当のキャップ,同サブ・
キャップ,警視庁捜査一課担当記者を中心とし,遊軍記者として4,5名を配置す
る体制で取材に当たった。
 イ 本件記事のうち,乙の供述部分は,被上告人社会部の記者丙が乙に対して行
った取材に基づいている。乙は,上告人と昭和53年に離婚し,その後他の男性と
再婚した者である。
 丙記者は,昭和59年1月28日,乙方で乙及びその夫に対し,乙と上告人との
結婚生活の破綻や上告人の当時の言動等について2時間取材した。まず,丙記者は
,乙の夫から,乙同席の下で,夫が乙から聞いた話として,「上告人は,乙と婚姻
していた当時,自宅の冷蔵庫に大麻を所持しており,乙に対し,この大麻が高く売
れることを述べ,警察に見付かりそうになったらトイレに流すよう指示した。」旨
聞いた。丙記者は,夫が席を外した後,乙に対し,夫の発言内容を一つ一つ確認し
た。
 丙記者は,同年2月18日,乙方で再度乙と面会し,乙から,① 冷蔵庫の上段
の方に,両手いっぱいほどの量の茶色の葉の茎のようなものが入っているブルーの
ビニール袋があるのを見た,② 上告人がこれを大麻だと説明し,見付かりそうに
なったらトイレに流せば分からないと言っていた,③ 上告人は,友達のだれかに
渡すつもりであり,売るともうかると述べていた,④ 上記大麻が冷蔵庫の中にあ
ったのは2,3日の間であり,その時期は上告人と別居状態になる昭和53年2月
の少し前だと思う,⑤ 既に警視庁において事情聴取を受け,その際に同様の話を
したと聞いた。乙の供述態度は,質問の一つ一つに丁寧に応答し,落ち着いたもの
であり,丙記者は,乙の供述内容を真実であると感得した。
 ウ 被上告人の警視庁担当キャップのDは,上告人が昭和60年9月11日に殺
人未遂罪で逮捕された後,社会部記者Eに対し,捜査当局に取材して乙の前記供述
の裏付けを取るように指示した。
E記者は,警視庁特捜本部の幹部及び担当捜査員に取材し,その結果,警視庁が昭
和59年1月末に乙から事情を聴取し,その際,乙が上告人の大麻所持に関して,
丙記者に述べたことと同内容の供述をしていた事実及び捜査機関が上告人の渡航歴
等を把握していることを確認した。E記者は,Dキャップにその旨報告した。
 警視庁は,昭和59年1月30日,同年2月1日の2回にわたり,乙に対する事
情聴取を行い,その結果,乙から,昭和52年ころ上告人宅の冷蔵庫内に大麻があ
ったとの供述を得,その旨を記載した捜査報告書を作成したが,上告人が同年ころ
大麻を所持していたとの事実については公式発表をしていない。
 エ 被上告人の取材班は,上告人に対し,上記逮捕前に,上告人をめぐる事件の
疑問点を直接取材したい旨申し入れたが,断られた。
 オ 上告人は,自ら著した雑誌記事や自己の刑事被告事件での供述において,遅
くとも昭和56年ころ以降,米国で大麻を入手し,これを他人に分けてやったり,
自ら米国及び日本国内において日常的に大麻を吸っていたことを明らかにしている。
 (4) 本件配信記事は,その内容が公共の利害に関する事実に係り,被上告人
によるその配信は専ら公益を図る目的に出たものである。
 本件配信記事の中心的内容である事実について,真実性の証明があったとはいえ
ない。
 2 原審は,次のように判断して,被上告人には名誉毀損による不法行為が成立
しないとし,上告人の請求を棄却した。
 被上告人の記者が,上告人の元妻であった乙から取材して,上告人の大麻所持に
ついての具体的な供述を得ており,警視庁の捜査員が乙に対する事情聴取を行い,
乙から同様の供述を得,上告人の渡航歴等も把握していること等について裏付けを
取っているのであり,さらに,上告人は,時期は異なるものの,昭和56年ころ以
降,大麻を吸っていたことがあることを自認していること等に照らして考えれば,
被上告人が本件配信記事に摘示された事実を真実と信ずるについて相当の理由があ
ったものというべきである。
 3 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 本件配信記事中の,上告人が昭和52年から同53年にかけて,自宅の冷蔵庫内
に大麻を所持していたとの事実について見ると,前記認定事実によれば,丙記者が
乙からその旨の供述を聞き,さらにE記者が警視庁の捜査官から確認を取っている
のであるが,E記者が同捜査官から聞いたのは乙が警察でその旨の供述をしたこと
のみであり,結局は,乙の供述以外に上記事実の裏付けとなる資料が全く存在して
いないということができる。
 しかも,乙は上告人と離婚し,他の男性と再婚している者であり,現在の夫の手
前,状況によっては上告人に関して殊更悪感情をもって話すこともあり得ること,
丙記者の乙に対する取材が週刊G誌で「疑惑の銃弾」連載報道が開始され,上告人
の行動が注目されていた時期にされたものであること等にかんがみると,捜査の対
象にもなっていないような7,8年前の大麻所持という犯罪事実について報道する
には,より慎重な裏付け取材が必要であったというべきである。
 乙の供述が具体的であること,その供述態度に不自然な点がないこと,乙の供述
が丙記者の2度の取材及び警視庁での事情聴取において一貫していること,上告人
が大麻との深いかかわりを自ら認めていること,本件配信記事作成の時点では上告
人が既に逮捕されており,上告人に取材して確認することが不可能であったこと等
の事情が存する場合であっても,上告人の友人や上告人が経営する会社の社員,取
引先等他の関係者から昭和52,53年ころの上告人と大麻とのかかわりについて
取材することが不可能であった状況はうかがえないのであるから,本件において更
に慎重な裏付け取材をすべき義務が軽減されることにはならない。
 また,本件配信記事中には,上告人が大麻を自宅で所持したとの犯罪事実を捜査
機関が突き止めたという本件配信記事の確実性を読者に強く印象付ける重要な事実
も摘示されているところ,この点についても,E記者が警視庁の捜査官から取材し
て確認したのは,乙が捜査官に対し丙記者にしたのと同じ供述をしたということ及
び捜査機関が上告人の渡航歴等を把握していたことのみであり,その他に捜査官が
上告人の大麻所持についていかなる事実を把握し,どのような心証を持ち,どのよ
うに判断しているのかについて,E記者がした取材内容は全く明らかにされていな
い。したがって,本件において,捜査機関が上告人の大麻所持を突き止めたとの事
実についても,これを真実と信ずるについて相当の理由があったことをうかがわせ
る事情は何ら認められない。
 【要旨】以上によれば,本件の事情の下においては,被上告人に本件配信記事に
摘示された事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があるということ
はできないというべきである。
 4 そうすると,原審の判断には,不法行為に関する法令の解釈適用を誤った違
法があり,この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり
,原判決は破棄を免れない。そして,被上告人の損害賠償責任について更に審理判
断させるため,本件を原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁判所第三小法廷
(裁判長裁判官 金谷利廣 裁判官 千種秀夫 裁判官 奥田昌道 裁判官 濱田
邦夫)

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