弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役八月に処する。
     ただしこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
     原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
     「被告人はAと共謀の上昭和二十三年一月二十六日頃茅部郡a村自宅に
於て函館市b町c番地のdBに対し、魚油を買付してやる意思がないのに拘らず宛
も有之ものの如く装い同人に対し、a村C方にある魚油十五本を買つてやると申向
け同人をして其の旨誤信せしめ其の頃同人より魚油十五本の内金名下に現金六万円
を交付せしめて之を騙取した」との公訴事実は無罪。
         理    由
 弁護人大坂久之助の控訴趣意の(一)は、
 一、 原審ハ虚無ノ証拠ニヨリ事実ヲ認定シタ違法ガアル。
 (イ) 原判決第一摘示事実ニ
 被告ハ魚油ヲ買附シテヤル意思ガナイノニ不拘恰モ有之モノノ如ク装イ云々魚油
十五本買ツテヤルト申向ケ云々ト認定シ其ノ証拠トシテ
 一、 Bノ公判ニ於ケル供述
 一、 検察事務官ノ被告人ニ対スル供述調書
 ヲ援用シテ居ル然シB供述記載ニヨルニ其レデ私ハ現場ヲ検ベル為メDヲ現場ニ
行ツテ云々、鱈油ダト判リマシタ云々始メ私ハ十本買フ予定デアツクノデスが云々
十五本デ買フコトニシタノデアリマス(記録二五、二六頁参照)云々トァツテ当時
売買物件ハ現存シアツタノダカラ売買契約シタトノ趣旨デ被告ハBニ魚油ヲ他カラ
買附ケテヤルト云フタメダトノ供述記載ハ少シモナイ。唯最後ニ
 併シ品物ハ仲々来ナイノデ云々当ノCガ私ノトコロニ来テ品物ハ自分ノモノダ売
ルコトニ付イテ相談ガアツタ訳ケデモナシ文金ヲ受ケ取ツタ訳デモナイカラ渡スコ
ト出来ナイト云ツテ来マシタ。其レデ私ハ金ヲ請求シマシタトコロ云々私ニ戻ツテ
来マセン結局私ハ騙サレテシマツタノデス(記録二六裏参照)トノ供述記載がアツ
テ此ノ供述ハ被告が欺罔シタモノダト見ラルル向キァルカモ知レナイがBが金十六
万円也ヲ被告ニ交付スル際如何様ニ欺罔サレタカ具体的ナ供述デナイカラ原判決認
定ノ如ク買附ケシテヤル意思がナイノニ不拘恰モ有之モノノ如ク装フタト認定スル
コトハ出来ナイ。
 仮リニ万歩ヲ譲リ此ノ供述記載ハ原判決摘示ノ欺罔手段ダトスルモ前記CがBニ
対シ云フタコト即チ売ルコトニE被告カラ何等ノ話ガナカツタトノBノ供述ハ刑訴
第三百二十条後段ノ公判期日外ニヲケル者ノ他ノ供述ヲ内容トスル供述即チ伝聞証
言ニ該当シ此ノ部分ノBノ供述ハ証拠トスルコト禁止サレテ居ルノダカラ此ノ供述
ヲ削除サレタBノ其ノ他ノ供述デハ被告が同人ヲ欺罔シタトノ事実ヲ認定スル何等
ノ証拠ガナイワケデアル。
 又検察事務官ニ対スル被告ノ供述調書ニヨルト只今読ミ聞ケノ通リBニ魚油ヲ世
話シテヤルト云ツテ現金十六万円ヲ受取リ云々預ツタ金ヲ横領シタ事ハ間違アリマ
セン。(記録第四四頁参照)
 トアツテ如何ニモ詐欺ノ点ヲ是認シテ居ル様ナ供述デアルケレドモ其ノ後ニ於ケ
ル供述ニヨルト魚油ハCヨリ買附ケテアツタ云々被告留守中Cガ魚油ヲ他ニ売却シ
タノダ(記録第四四、四五頁参照)
 ト供述シテアツテ寧ロ犯意ヲ否認シテ居ルノデ原審第一摘示事実ノ証拠トナラナ
イ。
 (ロ) 原判決第二摘示事実ニ
 現金十万円也ノ一時保管方ノ依頼ヲ反ケ之ヲ保管中云々、自己ノF旅館方宿泊代
金ニ支払イ以テ横領シ
 ト判示シ証拠トシテ是亦前記Bノ供述、検察事務官ニ対スル被告ノ供述調書ヲ援
用シテ居ル。然シBノ供述ニヨルト十万円預ケタガ四五日経ツテ宿屋ニ受取方云々
ト小切手デ三万円ヨリ返サナカツタ、三万円ノ点ハ宿屋デGノ宿泊料ヲ引イク残り
デアル様ナコトヲ云ツテ十万円渡シテ呉レマセン(記録二七頁参照)デシタトノ供
述記載デ被告ガ返サナイノヂハナイGノ宿料ヲ引イタト云フテ宿屋デ返サナカツタ
トノ供述デアル残金七万円ノ返還ヲ受ケナイカラ被告が横領シタト云フ供述デハナ
イ許リデハナク原判決認定ノ如ク金額十万円也ヲ横領サレタトノ供述記載ハ何処ニ
モナイ。
 又検察事務官ニ対スル被告ノ供述ハ前記ノ様ニ冒頭ニ横領ヲ是認シタ様ニナツテ
居ルガ其ノ後ニ於ケル供述デ十万円預ツタガ三万円ハBニ返シ四万円ハウイスキー
ヲ買附ケ三万円ハ自己ノ宿料ニ何レモB承認ノ下ニ費消シタ(記録第四七、四八頁
参照)
 ト供述シテ居ルノデ横領ノ事実ヲ認メテ居ル供述デハナイノデアル。
 以上原審第一、二ノ事実ハ何レモ証拠ニヨラナイデ事実ヲ認定シタ違法デアル。
 というのである。原判決は罪となるべき事実の第一として「被告人はAと共謀の
上昭和二十三年一月二十六日頃茅部郡a村自宅に於て函館市b町c番地のdBに対
し魚油を買付してやる意思がないのに拘らず、宛も有之ものの如く装い同人に対
し、a村C方にある魚油十五本を買つてやると申向同人をして其の旨誤信せしめ、
其の頃同人より魚油十五本の内金十六万円を交付せしめて之を騙取し」たと判示し
その証拠として、「Bの当公判廷に於ける供述」と「検察事務官の被告人に対する
供述調書中判示第一に符合する供述記載」を援用したことは原判決により明らかで
あるが、右証人Bの供述中に「其事があつてから当のCが私のところに来て品物は
自分のもので売ることについて相談があつた訳でもなし又金を受取つた訳でもない
から渡すことは出来ないと云つて来ました」との部分がある。而して原判決の判示
事実と原判決が挙示している証拠内容とを比照すると、右証人の供述中Cが述べた
こととして述べられている右の部分は事実認定に重要な影響を与えていると思料さ
れるのであるが、右は被告人以外の者の公判期日における供述で被告人以外の者の
供述をその内容とするものであるから刑事訴訟法第三百二十四条第二項に該当し、
同法第三百二十一条第一項第三号が準用されるので右Cが公判期日において供述す
ることが出来ない場合でなければ之を証拠に採ることが出来ないのに、同人は原審
公判期日において供述することができない事情にあつたとは認められないから(当
審においては呼出に応じて出頭し証言している)この部分を証拠に採用する<要旨>
ことはできない。尤も伝聞事項の供述でも当事者が同意すれば証拠にすることがで
きることはいうまでもないが、証人を取調べることについて同意をしたこと
が、直ちに証人の供述に現われた伝聞部分をも証拠とすることに同意したことにな
るものとはなし難く、右部分を証拠にするについてはさらに明示若くは黙示の同意
を要すると解するのが相当であるが、本件においては右証人を取調べることについ
て同意があつたことが認められるだけで、右伝聞部分をも証拠とすることについて
は明示の同意は勿論黙示の同意もあつたと認めることはできない。従つてこの部分
をも含めた前記証人の供述全部を証拠に採用した原判決は標記の法則に違反してお
り右証拠を除くと他の証拠は検察事務官の面前における被告人の供述を録取した供
述調書だけであつて、右調書中には原判決が摘示するような判示第一の事実に符合
する供述記載はないので、これだけでは原判示事実を認定することはできないか
ら、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。
 而して本件記録並びに原審及び当審において取調べた証拠を調査しても右第一の
公訴事実を認めるに足る証拠がないばかりでなく、被告人の司法警察員及び検察官
の面前における供述を録取した各供述調書中の被告人の供述記載、当審第二回公判
調書中の証人Aの供述記載、当公判廷における証人Cの供述、原審第二回公判調書
中の証人Bの供述記載を総合すると、被告人はCからドラム罐入魚油の販売方を依
頼され、之を自分が買受けて他に転売しようと考えBと共に右品物の存在を確認し
た上、同人に一本二万円の割で十五本を売却する契約をなし、内金として十六万円
を受取り所有者Cも右魚油を被告人の手を経てBに売却することを承諾したのであ
るが、間もなく魚油の値上りのためCが右魚油を他に売印してしまつた結果遂に被
告人は前記契約を履行できなくなつたのであつて、被告人には詐欺の犯意がなかつ
たことが認められるから之を有罪と認定した原判決には事実との誤認があるといわ
ねばならない。
 次に原判決は罪となるべき事実の第二として、被告人は「同年三月七日頃函館市
F族館に於て函館市b町Bより現金十万円の一時保管方の依頼を受けて之を保管中
其の頃擅に同所に於て自己のF族館方宿泊代金に支払い以て消費横領し」たと判示
し、その証拠として「証人Bの当公判廷に於ける供述」と「検察事務官の被告人に
対する供述調書中判示第二に符合する供述記載」を採用したことは原判決により明
らかである。然るに右証人Bの証言は被告人は預つた金をさらに同旋館に預けた
が、後に右証人が旅館から金を取ろうとしたら被告人が宿泊料等に一部使つてしま
つたので三万円しか返してくれなかつたというのであり、右供述調書中の被告人の
供述記載は、預つた金の内宿屋の宿泊料金に三万円、ウイスキー五十本買うのに四
万円費消したというのであつて、右証拠によつては原判示のように被告人が十万円
を費消した事実を認められない。即ち原判決の認定した右事実とその証拠とには矛
盾があるので、原判決の理由にくいちがいがあるといわねばならない。
 以上の通りであるから原判決は破棄を免れず、論旨は結局右と同旨に帰するので
理由がある。
 よつてその余の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条、第
三百七十九条、第三百八十二条、第三百七十八条第四号に従い原判決を破棄し、訴
訟記録並びに原審及び当審において取調べた証拠により直ちに判決することができ
るものと認めるから、同法第四百条但書に従い被告事件についてさらに判決する。
 (一) 罪となるべき事実
 被告人は昭和二十三年三月七日頃函館市e町F族館でBから現金十万円を預り、
之を保管中、その頃同所で勝手に右金員中からウイスキー五十本買入代金として四
万円同旅館に対する自己の宿泊料として三万円合計七万円を支払つて之を横領した
ものである。
 (二) 証拠の標目(省略)
 (三) 法令の適用
 被告人の判示所為は、刑法第二百五十二条第一項に該当するからその所定刑期範
囲内で被告人を懲役八月に処し、情状刑の執行を猶予するのを相当と認め、同法第
二十五条を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、刑事訴訟法
第百八十一条第一項に従い原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
 本件公訴事実中「被告人はAと共謀の上昭和二十三年一月二十六日頃茅部郡a村
自宅に於て函館市b町c番地のdBに対し魚油を買付してやる意思がないのに拘ら
ず、宛も有之ものの如く装い同人に対しa村C方にある角油十五本を買つてやると
申向け同人をして其の旨誤信せしめ其の頃同人より魚油十五本の内金名下に現金十
六万円を交付せしめて之を騙取した」との点については前記の通り犯罪の証明がな
いから無罪とすべきである。
 よつて主文の通り判決する。
 (裁判長判事 原和雄 判事 井上正弘 判事 村上喜夫)

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