弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
原判決中上告人の被上告人B1及び同B2に対する金員支払請求に係る部分を破棄
する。
前項の部分につき、本件を高松高等裁判所に差し戻す。
上告人の被上告人B1及び同B2に対するその余の上告並びに同B3に対する上告
を棄却する。
前項の上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
一 上告代理人隅田誠一の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論
難するものにすぎず、採用することができない。
二 職権により、原審の判断の適否につき判断する。
 本件訴訟において、上告人は、被上告人B1に対し、原判決別紙家屋目録二記載
の建物(以下「本件建物二」という。)の収去及び原判決別紙土地目録一、二記載
の土地(以下「本件各土地」という。)のうち本件建物二の敷地部分の明渡し、右
収去等までの間の地代相当額の金員の支払並びに本件各土地の登記済権利証の引渡
しを、被上告人B2に対し、右家屋目録一記載の建物(以下「本件建物一」という。)
の収去及び本件各土地のうち本件建物一の敷地部分の明渡し並びに右収去等までの
間の地代相当額の金員の支払を、被上告人B3に対し、本件建物一からの退去を、
それぞれ請求している。その請求原因として、上告人は、(1) 上告人の亡夫であ
るDが昭和三一年一二月二五日及び同三三年三月一八日に国有林の払下げを受けて
本件各土地を取得し、同五九年一二月四日にDが死亡したことにより上告人がこれ
を相続により取得した、(2) そうでないとしても、Eが前記各日に本件各土地の
払下げを受け直ちにこれらをDに贈与し、Dの死亡により上告人がこれらを相続取
得した、などと主張している。被上告人らは、上告人の所有権取得を争い、被上告
人B1は、本件各土地の払下げを受けてこれを取得したのはFであり、被上告人B
2は、本件各土地の払下げを受けてこれを取得したのはEであると主張している。
原審は、上告人の右(1)の主張事実のうちDが本件各土地の払下げを受けたことは
認められず、右(2)の主張事実のうち、本件各土地の払下げを受けてこれを取得し
たのがEであることは認められるが、EからDが贈与を受けたことは認められない
として、第一審判決のうち上告人の建物収去土地明渡し及び建物退去の請求を認め
た部分を取り消して、右請求及び原審で拡張した本件各土地の登記済権利証の引渡
請求を棄却し、同判決のうち上告人の金員支払の請求を棄却した部分に対する上告
人の控訴を棄却する趣旨の判決をした。
 しかしながら、原審は、Eが昭和四二年五月二二日に死亡したこと、Eには妻F
並びにD、被上告人B1及び同B2の三人の子があったこと、Dが同五九年一二月
四日に、Fが平成四年五月二四日に、それぞれ死亡したこと、Eが昭和二九年ない
し三〇年に本件建物一及び本件建物二を建築してこれらを取得した上、同四二年四
月ころにFにこれらを贈与し、同五三年四月一〇日にFから被控訴人B2に本件建
物一が同B1に本件建物二が各贈与されたことを併せて認定している。以上の事実
によれば、特段の事情のない限り、Eの死亡に伴い、法定相続人の一人であるDが
本件各土地の九分の二の持分を相続により取得したはずのものである。そうすると、
上告人がDの右持分を相続により取得したというのであれば、上告人は、同様にE
及びFの死亡に伴い本件各土地の持分を相続により取得した共有者である被上告人
B1及び同B2に対して本件各土地の地上建物の収去及び本件各土地の明渡しを当
然には請求することができず(最高裁昭和三八年(オ)第一〇二一号同四一年五月
一九日第一小法廷判決・民集二〇巻五号九四七頁参照)、同B1に本件各土地の登
記済権利証の引渡しを請求することや同B2の所有する本件建物一に居住している
同B3に対して退去を請求することもできないものというべきである。しかし、【
要旨第一】同B1及び同B2が共有物である本件各土地の各一部を単独で占有する
ことができる権原につき特段の主張、立証のない本件においては、上告人は、右占
有により上告人の持分に応じた使用が妨げられているとして、右両名に対して、持
分割合に応じて占有部分に係る地代相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を
請求することはできるものと解すべきである。そして、【要旨第二】上告人は右の
Eの死亡によるその持分の相続取得の主張をしていないが、原審としては、前記各
事実を当事者の主張に基づいて確定した以上は、適切に釈明権を行使するなどした
上でこれらをしんしゃくし、上告人の請求の一部を認容すべきであるかどうかにつ
いて審理判断すべきものである(最高裁平成七年(オ)第一五六二号同九年七月一
七日第一小法廷判決・裁判集民事一八三号一〇三一頁参照)。そうすると、原審の
前記判断には、法令の適用を誤る違法があるというべきであり、この違法が原判決
の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって、原判決のうち上告人の被
上告人B1及び同B2に対する金員の支払請求に係る部分は破棄を免れず、右部分
につき、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 福田 博 裁判官 北川弘治 裁判官 亀山
継夫 裁判官 梶谷玄)

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