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平成14年6月26日判決言渡平成13年(ワ)第15125号 損害賠償等請求事

主文
 1 被告は,原告Aに対し,200万円及びこれに対する平成13年8月5日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告Bに対し,200万円及びこれに対する平成13年8月5日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 被告は,原告らに対し,「2ちゃんねる」と題するホームページ(アドレス
http://www.2ch.net)における別紙発言目録1記載の文言(ただし,番号764,
872の文言を除く。)及び同目録2記載の文言を削除せよ。
 4 被告は,原告らに対し,前項のほか,「2ちゃんねる」と題するホームペー
ジ(アドレスhttp://www.2ch.net)における別紙発言目録3記載の文言を削除せ
よ。
 5 原告らのその余の請求を棄却する。
 6 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの,その余を被告の負担とす
る。
 7 この判決は,第1,2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 1 被告は,原告Aに対し,250万円及びこれに対する平成13年8月5日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 被告は,原告Bに対し,250万円及びこれに対する平成13年8月5日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 被告は,原告らに対し,「2ちゃんねる」と題するホームページ(アドレス
http://www.2ch.net)における別紙発言目録1及び同目録2で示した文言を削除せ
よ。
 4 被告は,原告らに対し,前項のほか,「2ちゃんねる」と題するホームペー
ジ内における各掲示板において別紙発言目録1及び同目録2で示した文言と同一の
文言を削除せよ。
第2 事案の概要
1 本件は,原告らが,被告の運営するインターネット上の電子掲示板「2ちゃん
ねる」(以下「本件掲示板」という。)において,原告らの名誉を毀損する発言が
書き込まれたにもかかわらず,被告がそれらの発言を削除するなどの義務を怠り,
原告らの名誉が毀損されるのを放置し,これにより原告らは精神的損害等を被った
などとして,それぞれ被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,損害金
250万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5
分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,民法723条又は人格権とし
ての名誉権に基づき,本件掲示板上の名誉毀損発言の削除を求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠等の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)
  (1) 原告Aは,動物病院の経営等を目的とする有限会社であり,原告Bは,原
告Aの代表取締役であって,獣医である(弁論の全趣旨)。
    被告は,インターネット上で閲覧可能な電子掲示板である本件掲示板を設
置・運営し,そのシステムを管理している者である。
(2) 平成13年1月16日以降,本件掲示板の「ペット大好き掲示板」内の「悪徳
動物病院告発スレッド!!」と題するスレッド(以下「本件1のスレッド」とい
う。)において,別紙発言目録1記載の文言(以下「本件1の発言」という。)
が,本件掲示板の「ペット大好き掲示板」内の「悪徳動物病院告発スレッド-Pa
rt2-」と題するスレッド(以下「本件2のスレッド」という。)において,同
目録2記載の文言(以下「本件2の発言」という。)がそれぞれ書き込まれた(甲
1,2,21,弁論の全趣旨)。
(3) 原告Aは,平成13年6月21日付けの通知書をもって,被告に対し,本件1
の発言の番号16,18,32,35,36,96,425,427,457,6
62,664,669,677,678,682,683,686,696,69
7,761,764,765,772,773,788,789,811ないし8
15,817,823,826,828ないし831,833,848,872,
874ないし876,882,912,918ないし922,925,929,9
30の各発言及び本件2の発言の番号6ないし8,10,23の各発言並びに本書
面発送日以降に原告Aについて記載されたと特定し得る発言で,原告Aを中傷する
ものを,書面到達後10日以内に削除するよう求め,同通知書は,同月22日,被
告に到達した(甲4
,5)。
(4) 本件訴訟の係属後,本件掲示板の「法律勉強相談掲示板」内の「a動物病院v
sひろゆき」と題するスレッド(URL:(略)。以下「本件3のスレッド」とい
う。)が作られ,本件3のスレッドの番号93には,本件1の発言の番号662,
682,683,812の各文言と同一の文言(以下「本件3の発言」という。)
が書き込まれている(甲9,乙3)。
(5) 被告は,本件掲示板上の発言を削除することは技術的に可能であるが,現在に
至るまで,本件1ないし3の発言は削除されていない。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 被告の削除義務違反の有無
【原告らの主張】
 ア 本件1,2の発言及び本件掲示板内の各掲示板における本件1,2の発言と
同一の文言(以下,一括して「本件各発言」という。)は,原告らの経営体制,施
設,診療態度,診療方針等に関し,事実に反し,原告らの社会的評価を低下させる
ものであり,原告らに対する名誉毀損に当たる。
 イ 被告は,本件掲示板を設置・運営し,その内容・システムについて管理して
いる者であり,本件掲示板上の発言を削除する権限を有している。
   被告は,IPアドレスを原則として保存しないことを約束し,本件掲示板
が,完全に匿名の掲示板であり,発言を書き込んだ者が誰であるかを特定すること
が困難又は不可能であることを保証している。また,被告は,本件掲示板におい
て,「気兼ねなく,会社,学校,座敷牢からアクセスできるように,発信元は一切
分かりません。お気楽ご気楽に書き込んで下さい。」と発言し,違法行為を誘発し
ている。このような被告の行為により,本件掲示板において,名誉毀損等の違法な
発言がなされ,損害が生じ得べき危険状態が惹起されたといえる。
そして,実際に,平成13年には,本件掲示板に日本生命保険相互会社の従業員を
誹謗中傷する書き込みがなされたため,同社は,被告に対し発言の削除を求める仮
処分を東京地方裁判所に申し立て,同裁判所は,同年8月28日,被告に対し,発
言の削除を命じる仮処分決定をしていること,また,同年に起きた西鉄高速バスジ
ャック事件においては,逮捕された少年が,本件掲示板において犯行予告をしてい
たことなどから,被告は,本件掲示板において上記のような違法な発言がなされる
危険性について認識していたといえる。
ウ よって,被告は,本件掲示板において違法な発言がなされないように最大限の
注意を払い,然るべき措置を講じ,違法な発言がなされた場合にはこれを直ちに発
見して,違法な発言を削除するなどして損害の発生拡大を防止すべき条理上の義務
を負っているというべきである。
しかるに,被告は,これらの義務に違反し,本件各発言を発見し削除することを怠
った。
【被告の主張】
ア 本件掲示板における情報は,当該情報の公共性,公益目的,真実性の有無が不
明な段階では,他人の権利を侵害する違法な情報であるか否かも不明であり,この
ような場合には,被告において削除義務を負うとはいえない。そして,本件各発言
についても,その内容が真実であるか否かは不明であり,原告らの権利を侵害する
違法な発言かどうかも不明であるから,被告は本件各発言の削除義務を負わない。
なお,「削除依頼@2ch掲示板」において「削除の最終責任は管理人にあります」と
の記載があるが,これは,削除した場合の責任についてのものであり,削除義務の
根拠とはならない。
 イ 原告らは,被告が本件掲示板において匿名性を保証していること,被告自ら
違法な発言を助長していることなどをもって先行行為とし,被告はこれに基づき条
理上の損害防止義務を負うと主張するが,匿名による発言も表現の自由の一環とし
て保障されるべきであり,匿名による発言の場を提供することを先行行為というこ
とはできない。また,被告は,本件掲示板において違法な発言を助長してはいな
い。
 ウ 被告は,本件掲示板上の発言について,物理的には削除できるが,投稿者の
表現の自由等との関係で,法的に自由に削除できる訳ではない。
   平成13年11月30日,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及
び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダー責任法」という。)が公布
され,同法は,同日から起算して6か月を超えない範囲内において政令で定める日
に施行されることとなっている。
   プロバイダー責任法にいう「特定電気通信役務提供者」には,電子掲示板の
管理者も含まれるため,被告も「特定電気通信役務提供者」(以下「プロバイダー
等」という。)として,同法の適用を受けることになり,施行後は,本件について
も同法が適用されるものと解される。
   プロバイダー責任法は,プロバイダー等の責任を明確化し,他人の権利を侵
害する情報の流通に対して迅速かつ適切な対応を期待するものとして制定されたも
のである。そして,同法によると,プロバイダー等は,違法可能性情報の存在を認
識した場合には,違法可能性情報により他人の権利が侵害されているかどうかを判
断する必要があり(3条1項),かつ,違法可能性情報を削除する場合には,違法
可能性情報によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理
由があること,すなわち,違法可能性情報に違法性阻却事由をうかがわせる事情の
ないことが必要である(3条2項)ところ,本件においてそのような事情のないこ
とは認められない。
   このようなプロバイダー責任法の制定経緯,規制範囲等に照らすと,被告が
本件各発言を削除しなかったことにつき削除義務違反はなく,不法行為は成立しな
い。
(2) 被告によるその他の不法行為
【原告らの主張】
ア 被告は,本件各発言を削除するなどの措置を講じないまま放置するだけでな
く,原告Bが本件掲示板において削除を依頼する旨の書き込みをしたのに対し,削
除依頼の方法が間違っているなどとして,インターネット及びコンピューターに不
慣れな原告Bを嘲笑い,原告Bに対し,更に深い精神的苦痛を与えた。
 イ 原告らが本件訴訟を提起した後,被告はその発行するメールマガジンにおい
て本件訴訟の内容を公開した。これにより,原告らに対する更なる中傷発言が誘発
され,また,原告Aに対し,多数の無言電話及び脅迫電話がされるようになるな
ど,原告らに対する損害が拡大した。
 【被告の主張】
  被告が,本件1,2の発言を削除していないこと,メールマガジンにおいて本
件訴訟に関する記載をしたことは認めるが,その余の原告らの主張は否認する。
  憲法は裁判の公開を制度的に保障しているから(憲法82条),本件訴訟に関
する情報を公開することは何ら禁止されるべきものではない。
(3) 原告らの損害
 【原告らの主張】
  原告Bは,獣医であり,獣医学会でも評価の高い著明な存在であるところ,本
件各発言により,社会的地位,獣医としての評価を傷つけられ,多大な精神的苦痛
を被った。また,原告Aは,小規模の動物病院であるものの,その治療方針,医療
技術等が評価され,日本各地から多数の飼主が来院しているところ,本件各発言に
より,動物病院としての社会的地位・評価を傷つけられ,経営上の損害を受けた。
  本件各発言の中には,原告らを極端に揶揄,愚弄,嘲笑,蔑視するものが多い
ことからすれば,原告らの損害額は,通常の場合よりも高額となってしかるべきで
あり,原告らが本件各発言により被った損害は,各250万円を下らない。
 【被告の主張】
  原告らの主張は争う。
(4) 本件各発言の削除を求めることの可否
 【原告らの主張】
  原告らは,民法723条又は人格権としての名誉権に基づき,本件各発言の削
除を求める。
 【被告の主張】
  原告らの主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実について
 (1) 本件掲示板の概要
   本件掲示板は,被告が開設し運営しているインターネット上の電子掲示板で
あり,何人でも使用料等を支払うことなく,本件掲示板を閲覧し書き込みをするな
どして利用することができ,本件訴訟提起時においては,1日当たり約80万件の
書き込みがあった。
   本件掲示板の利用者が,本件掲示板において書き込みをする際には,氏名,
メールアドレス,ユーザーID等を記載する必要はなく,また,被告は,発言者が
本件掲示板に書き込み等をする際に電子掲示板の運営者である被告において把握す
ることができるIPアドレス等の接続情報を原則として保存していない。そして,
被告は,本件掲示板の「使い方&注意」と題するページにおいて,「気兼ねなく,
会社,学校,座敷牢からアクセスできるように,発信元は一切分かりません。お気
楽ご気楽に書き込んで下さい。」と記載し,本件掲示板の利用者の情報が一切秘匿
されていることを強調している。
   本件掲示板には,平成13年9月の時点において,特定のテーマごとに個別
の掲示板が約330種類存在し,各掲示板には,個別の話題ごとに数百個のスレッ
ドが存在しており,各スレッドに書き込まれた発言は,日時の古い順に1から番号
が付けられている。利用者は,各掲示板の各スレッドに書き込まれた発言を閲覧す
ることができるほか,既存のスレッドにおいて発言を書き込んだり,新しくスレッ
ドを作って発言を書き込むことができる。
 (乙1,3,7,8)
 (2) 本件掲示板における発言の削除方法等
  ア 本件掲示板における発言は,「削除人」ないし「削除屋」(以下「削除
人」という。)と呼称される利用者によって削除される場合がある。削除人は,い
わゆるボランティアであって,それを業とする者ではなく,後記の削除ガイドライ
ンに従って本件掲示板における発言を削除することができるが,削除すべき義務
や,削除をし,又は,しなかったことについて責任を負わないものとされている。
本件掲示板の「いろいろな決まり」と題するページ中の「削除する人の心得」と題
する項目には,本件掲示板の全責任は「管理人たる被告」が負い,削除人が行った
削除等の行為についても,被告が責任を負う旨記載されている。また,「削除依頼
@2ch掲示板」において「削除の最終責任は管理人にあります」との記載がある。
   削除人になろうとする者は,その旨を被告に対し電子メールの送信により連
絡し,被告が適任であると判断した者を削除人に任命し,登録することとされてお
り,現在,約180人の削除人が存在する。
  イ 被告は,本件掲示板内の「いろいろな決まり」と題するページにおいて,
削除人が削除する場合の基準として,「削除ガイドライン」を定めている。
   上記ガイドラインによると,電話番号,地域・人種等に関する差別的発言,
連続してなされた発言,重複して作られたスレッド,過度に性的で下品な発言,著
作物に当たるデータの存在する場所のURLの書き込み,宣伝を目的としたURL
の書き込み等が削除対象とされている。また,個人に関する発言については,対象
となる個人を,「一群 政治家・芸能人・プロ活動をしている人物・有罪判決の出
た犯罪者」,「二類 板の趣旨に関係する職業で責任問題の発生する人物 著作物
or創作物or活動を販売または提供して対価を得ている人物 外部になんらかの被害
を与えた事象の当事者」,「三種 上記2つに当てはまらない全ての人物」の3種
に定義して分類した上,「個人名・住所・所属」に関する書き込みは,「一群:公
開されているもの・
情報価値があるもの・公益性が有るもの・等は削除しません。削除の可否は管理人
が判断します。」,「二類:外部から確認できない・責任や事象に無関係な情報は
削除対象です。公開されたインターネットサイト・全国的マスメディア・電話帳で
確認できる・等,隠されていない情報については削除しません。」,「三種:趣旨
説明も公益性も無い・誹謗中傷の個人特定が目的である・等の場合は削除対象にな
ります。」と記載され,誹謗中傷の書き込みについては,「一群:管理人裁定の無
い限り削除しません。」,「二類:公益性が有り板の趣旨に則した事象・直接の関
係者や被害者による事実関係の記述・等が含まれたものは削除しません。」,「三
種:個人を特定する情報を伴っているものは全て削除対象です。」と記載されてい
る。また,法人に関
する書き込みについては,「社会・出来事カテゴリ内では,批判・誹謗中傷,イン
ターネット内で公開されている情報,インターネット外のデータソースが不明確な
もの,は全て放置です。その他のカテゴリ内では,掲示板の趣旨に関係があり,客
観的な問題提起がある・公益性のある情報を含む・その法人・企業が外部になんら
かの影響を与える事件に関係している・等の場合は放置です。」などと記載されて
いる。
   また,被告は,上記ページ内の「削除依頼の注意」と題する項目において,
本件掲示板における発言の削除を求める場合の方法について定めており,本件掲示
板内の「削除依頼掲示板」において,削除を求める発言がなされたスレッドのUR
L,削除を求める発言のレス番号,削除を求める理由等を記載したスレッドを作る
などして,削除を求めることが必要とされ,このような方法に従わない削除依頼は
無視される可能性がある旨を記載している。
(甲3,6,乙1,2,7,8)
 (3) 本件1,2の発言の書き込みとその後の原告らの対応等
ア平成13年1月14日,本件掲示板内の「ペット大好き掲示板」におい
て,匿名の者により,本件1のスレッドが作られ,同スレッドにおいて,同月16
日から同年6月8日にかけて,いずれも複数の匿名の者により,本件1の発言が書
き込まれた。また,同年6月11日,上記と同様に匿名の者により,本件2のスレ
ッドが作られ,同スレッドにおいて,同日から同年9月21日にかけて,いずれも
複数の匿名の者により,本件2の発言が書き込まれた。
  イ 本件1のスレッドは,診療態度,診療技術等に問題のある動物病院を挙げ
て批判することを建前として作られたものと解されるが,スレッドを作った者の発
言内容は,「悪徳動物病院をこの世から滅殺しよう!!。pにある某動物救急病
院!あそこはちょっとテレビでとりあげられたからといって調子にのっている!!
動物の命よりもまず「金」を請求します。」というものであり,その表現からし
て,およそ相当の根拠を持って事実を摘示して病院を批判する内容のものではな
く,特定の動物病院に対し侮蔑的な表現をもって誹謗中傷するものにすぎない。そ
して,その後,本件1のスレッドには,動物病院や獣医を誹謗中傷する発言が多数
なされ,その中には,動物病院の病院名や所在場所を特定して誹謗中傷する発言
や,病院名の一部を仮名にし
てあるものの,その所在場所等から病院名を容易に特定することができる発言も多
く存在した。
  ウ 原告Bは,インターネットに不慣れであり,本件掲示板において発言を書
き込み,閲覧するなどして利用した経験もなかったところ,平成13年5月ころ,
本件掲示板に原告らに関する本件1の発言が書き込まれていることを友人から聞か
されて知り,同月22日,同月25日及び同月28日に,本件掲示板の削除依頼掲
示板にスレッドを作って,原告らの名誉を毀損する発言の削除を求めた。しかし,
原告Bがインターネットに不慣れであり,本件掲示板を利用したことがなかったこ
となどから,本件掲示板内に記載されていた削除依頼の方法に従ったものではなか
った。そして,上記削除依頼にもかかわらず,一部は削除されたが,大部分は削除
されず,かえって,本件1のスレッド及び削除依頼掲示板内のスレッドにおいて,
原告Bによる上記削
除依頼を揶揄・侮辱する発言が書き込まれた。
  エ 原告らは,平成13年7月18日,本件訴訟を提起し,同年9月19日に
第1回口頭弁論期日が開かれたが,その後,被告は,「a動物病院裁判報告の第1
回です。」などと記載した上,本件第1回口頭弁論期日における原告ら代理人と被
告代理人との間のやりとり等について記載したメールマガジン(以下「本件メール
マガジン」という。)を発行した(被告は,不定期でメールマガジンを発行してお
り,購読者数は,平成13年9月の時点において,約7万人存在した。)。
  オ 本件1,2のスレッドの各URLは,当初,それぞれ(略)及び(略)で
あったが,平成14年4月ころまでには,本件掲示板内の「ペット大好き掲示板」
の「過去ログ倉庫」へデータが移動され,それぞれ(略)及び(略)へと変更され
た。
  カ 本件訴訟の係属後,本件掲示板内の「法律勉強相談掲示板」において,
「a動物病院vsひろゆき」と題するスレッド(本件3のスレッド)が,「イベン
ト企画掲示板」において「ひろゆきまた裁判-」と題するスレッドがそれぞれ作ら
れ,原告らが被告に対し本件訴訟を提起したことが話題とされた。そして,本件3
のスレッドの番号93には,本件1の発言の番号662,682,683及び81
2の各文言と同一の文言(本件3の発言)が書き込まれており,また,「ひろゆき
また裁判-」と題するスレッドには,本件1のスレッドのURL(略)が記載され
リンクが貼られるなどしている。
  (甲1,2,9ないし12,21,22,27,乙1,3ないし6,弁論の全
趣旨)
 2 争点(1)(被告の削除義務違反の有無)について
  (1) 被告の削除義務
ア 前記1で認定した事実及び前記第2の2(5)の事実によれば,次のようにいうこ
とができる。
 (ア) 被告は,本件掲示板を設置し,本件掲示板上の発言を削除する際の基準,
削除依頼の方法等について定めるなどして,本件掲示板を運営・管理している。そ
して,本件掲示板においては,削除人は削除ガイドラインに従って発言を削除する
ことができる旨が定められているところ,削除人は被告によって適任であると判断
された者が任命されているのであるから,被告は当然に本件掲示板における発言を
削除する権限を有していると認められる。
 (イ) 本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がなされた場合,名誉を毀
損された者は,その発言を自ら削除することはできず,本件掲示板において定めら
れた一定の方法に従って,本件掲示板内の「削除依頼掲示板」においてスレッドを
作って書き込みをするなどして発言の削除を求め,削除人によって削除されるのを
待つほかない。
  被告が定めた削除ガイドラインは,個人に関する書き込みについて,個人の性
質に応じて3種類に定義して分類した上,発言の内容について,「個人名・住所・
所属」に関する発言,誹謗中傷発言等に分けて,上記各分類ごとに削除するか否か
の基準を定めているが,そもそも個人の性質に関する3種類の定義が不明確である
上,各分類ごとの削除するか否かの基準も不明確であるほか,管理人である被告の
判断に委ねている部分も存在する。また,法人に関する発言の削除の基準について
も,電話番号を除き,削除されない場合についてしか定められておらず,削除され
ない場合についても,その内容は不明確である。結局,本件掲示板の削除ガイドラ
インは,その表現が全体として極めてあいまい,不明確であり,個人又は法人を誹
謗中傷する発言がい
かなる場合に削除されるのかを予測することは困難であるといえる。
このように,削除人が削除する際の基準とされている削除ガイドラインの内容が不
明確であり,しかも,削除人は,それを業としないボランティアにすぎないことか
ら,本件掲示板における発言によって名誉を毀損された者が,所定の方式に従って
発言の削除を求めても,必ずしも削除人によって削除されるとは限らない。
(ウ) 本件掲示板においては,管理者である被告において,利用者のIPアドレス
等の接続情報を原則として保存せず,その旨を明示していることにより,匿名で利
用することが可能であり,利用者が意図しない限り,利用者の氏名,住所,メール
アドレス等が公表されることはない。したがって,本件掲示板における発言によっ
て名誉を毀損された者が,匿名で名誉を毀損する発言をした者の氏名等を特定し,
その責任を追及することは極めて困難である反面,発言者は,自らの責任を問われ
ることなく,他人の権利を侵害する発言を書き込むことが可能である。そして,こ
のような匿名で利用できる電子掲示板においては,他人の権利を侵害する発言が数
多く書き込まれることが容易に推測され,証拠(甲1,2,21)によれば,現
に,本件1,2のスレ
ッドに限っても,原告らのほかに,多くの動物病院,獣医等の名誉を毀損する発言
が書き込まれていることが認められる。
(エ) 本件掲示板は,約330種類のカテゴリーに分かれており,1日約80万件
の書き込みがあること,削除人はそれを業とする者ではないいわゆるボランティア
であることからすると,被告が本件掲示板において他人の権利を侵害する発言が書
き込まれているかどうかを常時監視し,削除の要否を検討することは事実上不可能
であった。
 イ 以上のような諸事情を考慮すると,被告は,遅くとも本件掲示板において
他人の名誉を毀損する発言がなされたことを知り,又は,知り得た場合には,直ち
に削除するなどの措置を講ずべき条理上の義務を負っているものというべきであ
る。
ウ この点につき,被告は,本件掲示板における発言の公共性,公益目的,真実性
等が明らかでない場合には,削除義務を負わないと主張する。
  ところで,事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関
する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘示され
た事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには,上記行
為には違法性がなく,仮に上記事実が真実であることの証明がないときにも,行為
者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過
失は否定され,また,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀
損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら
公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし論評の前提としている事実が重要
な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見
ないし論評としての
域を逸脱したものでない限り,上記行為は違法性を欠くものとされ,上記意見ない
し論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも,行為者にお
いて上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否
定されると解されている(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法
廷判決・民集51巻8号3804ページ参照。以下,合わせて「真実性の抗弁,相
当性の抗弁」という。)。
  被告の主張は,被告において上記の真実性の抗弁,相当性の抗弁について主
張・立証責任を負うことはなく,むしろ原告らにおいて反対の事実を主張・立証す
ることを要求するものと解される。
  しかしながら,本件掲示板における発言によって名誉権等の権利を侵害された
者は,前記のとおり,被告が,利用者のIPアドレス等の接続情報を原則として保
存していないから,当該発言者を特定して責任を追及することが事実上不可能であ
り,しかも,被告が定めた削除ガイドラインもあいまい,不明確であり,また,他
に本件掲示板において違法な発言を防止するための適切な措置を講じているものと
も認められないから,設置・運営・管理している被告の責任を追及するほかないの
であって,このような被告を相手方とする訴訟において,発言の公共性,目的の公
益性及び真実性が存在しないことを削除を求める者が立証しない限り削除を請求で
きないのでは,被害者が被害の回復を図る方途が著しく狭められ,公平を失する結
果となる。
  このことからすれば,本件において,本件各発言に関する真実性の抗弁,相当
性の抗弁についての主張・立証責任は,管理者である被告に存するものと解すべき
であり,本件各発言の公共性,公益目的,真実性等が明らかではないことを理由
に,削除義務の負担を免れることはできないというべきである。
  よって,この点に関する被告の主張を採用することはできない。
エ また,被告は,この点に関連して,匿名の発言も表現の自由の一環として保障
されるべきであり,匿名による発言の場を提供していることを先行行為として条理
上作為義務を認めることは許されないとも主張する。
 しかし,表現の自由といえども絶対無制約のものではなく,正当な理由なく他人
の名誉を毀損することが許されないのは当然であり,このことは匿名による発言で
あっても何ら異なるところではない。しかも,被告は,本件掲示板について,IP
アドレス等の利用者の情報を一切保存していないので,本件掲示板にいったん掲示
された発言については事実上被告以外に管理者はいないから,被告が管理者として
その責任を負担するのは当然というべきであり,被告の上記主張は採用することが
できない。
 (2) 以上を前提に,被告が本件各発言を削除しなかったことが上記削除義務の違
反に当たるかどうかについて以下検討する。
  ア 本件1の発言の番号16,32,35,36,96,427,457,6
23,662,669,678,682,683,685,686,696,76
1,765,772,773,788,811ないし813,815,817,8
26,828ないし831,833,848,874ないし876,882,91
2,918,921,922,925,929,930の各発言,本件2の発言の
番号6ないし8,10,23,297,308,312,320,344,60
5,711,712,791,792,801の各発言は,いずれも,「悪徳動物
病院告発スレッド!!」又は「悪徳動物病院告発スレッド-Part2-」という
題のスレッドの下で,原告らあるいは原告A又は原告Bのいずれかの名前を挙げ,
又は,原告らの名前の
一部を伏字等にするものの,原告らを指し示すことが容易に推測される文言を記載
した上,「ブラックリスト」,「過剰診療,誤診,詐欺,知ったかぶり」,「えげ
つない病院」(本件1の発言の番号16,32,35,36,96),「ヤブ(や
ぶ)医者」(本件1の発言の番号678,811,882,本件2の発言の番号7
92),「A’」(本件1の発言の番号773,912,918,921,92
5,929,本件2の発言の番号711),「精神異常」(本件1の発言の番号4
27,848,),「精神病院に通っている」(本件1の発言の番号812,本件
2の発言の番号801),「動物実験はやめて下さい。」(本件1の発言の番号6
23),「テンパー」(本件1の発言の番号669),「責任感のかけらも無い」
(本件1の発言の番号
682),「不潔」(本件1の発言の番号683,761),「氏ね(死ねという
意味)」(本件1の発言の番号685),「被害者友の会」(本件1の発言の番号
696,761,788,930,本件2の発言の番号23),「腐敗臭」(本件
1の発言の番号696,788),「ホント酷い所だ」(本件1の発言の番号81
5),「ずる賢い」(本件1の発言の番号817),「臭い」(本件1の発言の番
号826)などと侮辱的な表現を用いて誹謗中傷する内容であり,原告らの社会的
評価を低下させるものであることは明らかである。
また,本件1の発言の番号18,425,664,677,697,789,81
4,823,919,920の各発言は,その発言自体には原告らを特定する文言
はないものの,本件1のスレッドの他の発言と併せ読めば,これらの発言がいずれ
も原告らに向けられていることは,その内容に照らし明らかであり,原告らの社会
的評価を低下させるものであるといえる。
 さらに,本件3の発言は,本件1の発言の番号662,682,683,812
の各文言と同一の文言が書き込まれたものであり,これも原告らの社会的評価を低
下させるものである。
 したがって,上記各発言(本件1の発言〈番号764,872を除く。〉,本件
2の発言,本件3の発言。以下「本件各名誉毀損発言」という。)は,原告らの名
誉を毀損するものというべきである。
なお,原告Aは,動物病院の経営等を目的とする有限会社であるところ,本件各名
誉毀損発言は,いずれも悪徳動物病院の告発を目的とするスレッドにおいて,原告
Aの経営体制,施設等を誹謗中傷するとともに,代表者・獣医である原告Bの診療
態度,診療方針,能力,人格等をも誹謗中傷するものであり,原告Aと原告Bの両
名に対して向けられ,原告らの社会的評価を低下させるものというべきである。
イ 以上に対し,本件1の発言の番号764,872の各発言については,これを
本件1,2のスレッドの各スレッド名及び他の発言と併せ読んでも,いずれも原告
らの社会的評価を低下させる内容のものということはできず,原告らに対する名誉
毀損には当たらない。
ウ そして,前記第2の2(3)記載のとおり,原告Aは,被告に対し,平成13年6
月21日付けの通知書をもって発言の削除を求め,同通知書は,同月22日,被告
に到達したから,これにより,被告は,本件各名誉毀損発言のうち,本件1の発言
の番号16,18,32,35,36,96,425,427,457,662,
664,669,677,678,682,683,686,696,697,7
61,765,772,773,788,789,811ないし815,817,
823,826,828ないし831,833,848,874ないし876,8
82,912,918ないし922,925,929,930の各発言並びに本件
2の発言の番号6ないし8,10,23の各発言について,本件掲示板に書き込ま
れたことを具体的に
知ったものと認められる。また,原告らは,本件訴状の別紙発言目録1において,
上記通知書で削除を求めた発言の他に,本件1の発言の番号623,685の各発
言についても削除を求め,本件訴状は平成13年8月4日,被告に送達されたの
で,被告は,同日までに,上記各発言が本件掲示板に書き込まれたことを具体的に
知ったものと認められる。さらに,本件3の発言が記載された甲第9号証は,平成
13年11月5日に被告代理人が受領し,同月7日の本件第2回口頭弁論期日に提
出されたから,被告は,同日までに,本件3の発言が書き込まれたことを具体的に
知ったものと認められる。また,原告らは,平成14年1月30日付け「請求の趣
旨訂正申立書」において,被告に対し,本件2の発言の番号297,308,31
2,320,344,
605,711,712,791,792,801の各発言の削除を求め,同申立
書は,同日,被告に送達されたので,被告は,同日までに,上記各発言が本件掲示
板に書き込まれたことを具体的に知ったものと認められる。
エ しかるに,被告は,前記のとおり,本件口頭弁論終結時である平成14年4月
17日においても,本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置を講じていないので
あるから,被告には作為義務違反が認められ,原告らに対する不法行為が成立す
る。
オ なお,被告は,本件にはプロバイダー責任法が適用され,同法の制定経緯,規
制範囲等に照らすと,被告が本件各発言を削除しなかったことにつき削除義務違反
はないと主張する。
プロバイダー責任法は,平成13年11月30日に公布され,本件口頭弁論終結後
の平成14年5月27日に施行されたことは,当裁判所に顕著な事実であり,本件
に直ちに適用されるものではないが,その趣旨は十分に尊重すべきであるところ,
同法は,3条1項において,特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵
害されたときは,プロバイダー等は,権利を侵害した情報の不特定の者に対する送
信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって,当該プロバイダー
等が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていること
を知っていたとき,又は,当該プロバイダー等が,当該特定電気通信による情報の
流通を知っていた場合であって,当該電気通信による情報の流通によって他人の権
利が侵害されている
ことを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ,当該
プロバイダー等が当該権利を侵害した情報の発信者である場合を除き損害賠償責任
を負担しない旨定めている。
しかしながら,被告は,前記のとおり,本件掲示板上の発言を削除することが技術
的に可能である上,通知書,本件訴状,請求の趣旨訂正申立書等により,本件1な
いし3のスレッドにおいて原告らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発言が書き込ま
れたことを知っていたのであり,これにより原告らの名誉権が侵害されていること
を認識し,又は,認識し得たのであるから,プロバイダー責任法3条1項に照らし
ても,これにより責任を免れる場合には当たらないというべきである。
 3 争点(2)(被告によるその他の不法行為)について
  (1) 原告らは,被告は,原告Bが本件掲示板において発言の削除を求めたのに
対し,削除依頼の方法が間違っているなどとして原告Bを嘲笑ったなどと主張する
が,前記のとおり,原告Bの削除依頼に対し揶揄・侮辱する発言が書き込まれたこ
とは認められるが,被告がそれらの発言を書き込んだことを認めるに足りる証拠は
なく,原告らの主張は理由がない。
  (2) また,原告らは,被告がその発行するメールマガジンにおいて本件訴訟の
内容を公開したため,原告らに対する更なる中傷発言が誘発され無言電話等がなさ
れたなどと主張する。
    証拠(甲10,21,24,27)によれば,本件訴訟の提起後も本件掲
示板において原告らを誹謗中傷する発言がなされていたことが認められ,また,原
告Aに対し無言電話が多数回かかってきたことがうかがわれる。しかし,本件メー
ルマガジンには本件第1回口頭弁論期日における両当事者の発言等について記載さ
れているにすぎず,原告らに対する誹謗中傷に当たる記載,あるいは,原告らに対
する中傷や嫌がらせを誘発する記載は認められないことからすれば,被告が本件メ
ールマガジンを発行したことが原告らに対する不法行為を構成するものということ
はできない。よって,この点に関する原告らの主張も理由がない。
 4 争点(3)(原告らの損害)について
(1) 本件各名誉毀損発言については,その内容が真実であることを認めるに足りる
証拠はないし,専ら公益を図る目的のためになされたものであることを認めるに足
りる証拠もない。そして,本件各名誉毀損発言において用いられている表現には,
「ヤブ医者」,「精神異常」,「動物実験」,「氏ね(死ね)」,「臭い」などと
激烈かつ侮蔑的なものが多数含まれている。
 本件掲示板は,誰でも自由に閲覧することができ,極めて多数の利用者がある著
名な電子掲示板であり,本件掲示板内の「ペット大好き掲示板」における本件1,
2のスレッド及び「法律勉強相談掲示板」における本件3のスレッドに書き込まれ
た本件各名誉毀損発言は,動物病院の利用者,獣医等を含む不特定多数の者が認識
し得るものであり,その影響は大きい。しかも,被告は,原告らが通知書や本件訴
状等をもって本件各名誉毀損発言の削除を求めた後も,現在に至るまでこれに応じ
て削除することがなく,本件各名誉毀損発言が書き込まれた本件1ないし3のスレ
ッドは,現在も,本件掲示板に存在しており,不特定多数の者が閲覧し得る状態に
置かれている。
 原告Bは,昭和58年に動物病院を開業し,現在まで,原告Aの代表者・動物病
院の院長として動物病院を経営し,獣医として診療を行い,日本獣医学会,日本臨
床獣医学会等にいくつかの論文を発表しており,そのため,上記動物病院は,日本
各地から多数の飼主が訪れる病院であること(甲27ないし32)からすれば,本
件掲示板に本件各名誉毀損発言が存在し続け,現在まで不特定多数の者の閲覧し得
る状況に置かれていることは,原告Bに多大な精神的苦痛を与えたほか,原告Aの
経営にも相当の影響を及ぼすものと認められる。
(2) 以上のような諸般の事情に鑑みれば,本件各名誉毀損発言がなされた時点にお
いて,電子掲示板を運用・管理する者が掲示板上の発言を削除する際の指標となる
べき法令等が存在しなかったこと,本件各名誉毀損発言の書き込みをしたのは,複
数人と思われる匿名の者であり,被告自身が本件各名誉毀損発言の書き込みに直接
関与したものとは認められないことなどの事情を考慮しても,被告が本件各名誉毀
損発言を削除するなどの措置をとらなかったことにより,原告らが被った精神的損
害,経営上の損害は,各200万円を下らないものと認めるのが相当である。
 5 争点(4)(本件各発言の削除を求めることの可否)について
  (1) 人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観
的評価である名誉を違法に侵害された者は,損害賠償及び名誉回復のための処分を
求めることができるほか,人格権としての名誉権に基づき,加害者に対し,現に行
われている侵害行為を排除し,又は将来生ずべき侵害を予防するため,侵害行為の
差止めを求めることができる場合がある(最高裁昭和56年(オ)第609号同61
年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872ページ参照)。
  (2) そして,前記のとおり,被告が本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置
を講じなかった行為は,原告らの名誉を毀損する不法行為を構成するのであり,こ
れに加え,本件各名誉毀損発言の内容は,真実と認めるに足りず,その表現も極め
て侮辱的なものであり,獣医である原告Bの受けた精神的苦痛の程度は大きかった
ものと認められ,原告Bの経営する原告Aもその経営に相当の影響を受けたものと
認められ,さらに本件各名誉毀損発言が削除されない限り,原告らに継続して損害
が生じると予想されること,被告は,通知書,本件訴状及び請求の趣旨訂正申立書
において本件各名誉毀損発言の削除を求められた後も,これに応じて削除をするこ
とはなく,本件各名誉毀損発言は現在も本件掲示板に存在し,不特定多数人の閲覧
し得る状態に置かれ
ていること,本件各名誉毀損発言を削除すべきものとしても,その内容及び匿名で
発言していることに照らし,発言者が被る不利益は少なく,また,被告が被る不利
益も少ないといえることなどの諸事情を考慮すると,原告らは,それぞれ,人格権
としての名誉権に基づき,被告に対し,本件各名誉毀損発言の削除を求めることが
できるものというべきである。
  (3) 以上に対し,本件1の発言の番号764,872の各発言については,前
記2(2)イのとおり,原告らの名誉を毀損するものとは認められないから,これらの
発言の削除を求めることはできない。
  (4) また,原告らは,被告に対し,本件掲示板内の各掲示板における本件1,
2の発言と同一の文言の削除を求めており,その趣旨は必ずしも明らかではないも
のの,現に書き込まれている名誉毀損発言の削除を求めているものと解される。
    そして,前記のとおり,本件3の発言(本件3のスレッドの番号93の文
言)については,人格権としての名誉権に基づき,削除を求めることができると解
するのが相当である。しかし,上記以外には,本件掲示板内のいずれかの掲示板に
本件1,2の発言と同一の文言が書き込まれていることを認めるに足りる証拠はな
く,上記以外の発言の削除を求めることはできないというほかない。
    仮に,原告らの請求が,将来生ずべき侵害の予防として削除を求めている
としても,本件記録中に本件掲示板内の各掲示板に本件各名誉毀損発言と同一の文
言が記載される具体的なおそれがあるものと認めるに足りる証拠はないから,本件
掲示板内の各掲示板において本件各名誉毀損発言と同一の文言の削除を求めること
はできない。
 (5) なお,原告らは,民法723条を根拠としても本件各発言の削除を求めてい
るが,同様に,本件各名誉毀損発言以外の各文言の削除を認めることはできない。
 6 結論
  以上によれば,原告らの請求は,各200万円及びこれに対する訴状送達の日
の翌日であることが記録上明らかな平成13年8月5日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに本件各名誉毀損発言の削除を求める
限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文
のとおり判決する。なお,削除請求及び訴訟費用の仮執行宣言については,相当で
ないから付さないこととする。
   東京地方裁判所民事第24部
         裁判長裁判官  山   口       博
            裁判官伊   東       顕
 裁判官寺   尾       亮
別紙発言目録1(各番号はレス番号 スレッド題名「悪徳動物病院告発スレッ
ド!!」 URL「(略)」)
(略)
別紙発言目録2(各番号はレス番号 スレッド題名「悪徳動物病院告発スレッド-
Part2-」 URL「(略)」)
(略)
別紙発言目録3(番号はレス番号 スレッド題名「a動物病院vsひろゆき」 U
RL「(略)」)
(略)

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