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○ 主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
○ 事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人Aに対し金一万五、〇〇〇
円を、控訴人Bに対し金一万五、〇〇〇円をそれぞれ支払え。訴訟費用は第一、二
審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の
判決を求めた。
当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠の提出、援用、認否は、次のとおり付
加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。
(控訴代理人の陳述)
昭和四四年法律第八六号による改正前の国民年金法(以下、改正前の国民年金法と
略称する。)第七九条の二第五項に規定する夫婦受給制限は、老令者が夫婦者であ
るという社会的身分により経済的関係において施策の上で差別的取扱をするもので
あり、何ら合理的根拠のないものであり、憲法第一四条に違反し無効である。
被控訴人は、老令者が夫婦者である場合には、共同生活における生活費の共通部分
の節約が可能であるのに、単身老令者についてはそれがないという差異があり、こ
れを調整し、両者間の均衡を図るため支給額に差等を設けても不合理な差別ではな
い旨主張するけれども、そのことをもつて直ちに夫婦受給制限規定の合理性の根拠
とするのは早計である。夫婦受給制限規定の合理性は、老令福祉年金の性格、年金
受給対象となる老人の生活実態等を総合的に検討して判断されなければならない。
夫婦受給制限規定が合理性を有しないことは左記の点からも明らかである。
(一) 「共同生活に由来する生活費の共通部分の節約」なる考え方は、当初の立
案当局においてすらこれを有していなかつたものである。すなわち、昭和三三年よ
り国民年金制度の企画立案を担当したCは、夫婦受給制限の根拠について「一般的
に、財源を税に仰ぐような無拠出の年金の場合、夫婦ともにこれを受けるときは、
支給額を若干少くするという例があるということが、その理由であつたと思う。し
かし、普通の消費体において一人が二人になれば消費単位が若干減ずるということ
を右制限の理由にした記憶はない。」旨述べ(乙第一〇号証の三)、当時、右のよ
うな生活費の共通部分の節約が可能であるとの考え方は、立案当局自身これを有し
なかつたことを明らかにしている。
(二) 夫婦受給制限規定が設けられたのは、主として財政的な理由からである。
老令福祉年金を含む国民年金法の立案実施に参画したDもそのことを明らかにして
いる(乙第八号証)。すなわち、老令福祉年金制度の実施に当つては、なによりも
まず予算の枠が優先的に定められていたのであり、そして受給制限は、右年金制度
の実施に伴う国庫支出を右の予算枠内にとどめる手段として行われたものであるこ
とは明らかである。
(三) 本件老令福祉年金の如きいかなる意味においても年金の名に値しない程の
極度に低額の制度においては、その中に生活費の共通部分を指摘しうる現実的余裕
は到底見出すことができない。もともと、生活費の共通部分を論じ得たのは拠出制
の老令年金額についてであつて、無拠出制のそれとは無関係であつたのである。前
記Cもこのことを明言している(乙第一〇号証の三)。
四 本件年金月額は、もともと共通経費を除いた上で算出されたものである。拠出
制の老令年金の最高額を月三、五〇〇円と定めるについては、社会保障制度審議会
の答申並びに政府案のいずれにおいても、共通経費を除いた老人の生活費が右月額
の算出基礎ないし参考とされているのである(乙第一七号証)。
そして、老令福祉年金の月額については、社会保障制度審議会答申並びに政府案の
いずれにおいても、「むしろなんらかの意味をもつ額としては、月二、〇〇〇円程
度であるが、全額国庫負担である関係上当面その半分程度でやむをえない」として
月額一、〇〇〇円と定められたことが明らかである。ところで、ここにいわゆる
「むしろなんらかの意味をもつ額としては、月二、〇〇〇円程度」というその金額
は、右審議会答申が老令年金の最高月額につき「生活保護における老令者の基準額
が共通費を除き農村地方である四級地で月二、〇〇〇円程度であることも考慮し」
て算出していることと密接不可分の関係にある。なぜなら、いずれも同一答申の内
容であること、老令年金と老令福祉年金との関係からみても、月額算出の基礎ない
し方法につき区別すべき特段の合理的理由も存しないからである。
このように、老令福祉年金の月額算出に当つては、そもそも共通費が除かれている
以上、右共通費に着目した減額調整を受給制限の理由とすることは、論理上破綻し
ているものといわねばならない。
(五) それらに加えて、老令者の生活実態に鑑みると、夫婦受給制限の合理的な
理由は全く見当らない。
(1) 現代の貧困の中心は、「生活問題」と「医療問題」であり、その解決がさ
し迫つた課題である。とりわけ老令人口の急激な増加と人口老令化、家族の扶養意
識の変化と核家族化、社会保障とくに年金の所得保障の未成熟、定年制と高令者の
就業問題が老令者の生活問題を一層深刻なものとしている。
医学、医療の進歩により、死亡率が低くなり、このため中高年令層の人口比率が急
激に大きくなり、出生率は逆に低下し、一五才以上人口中に占める六五才以上人口
の構成比は高くなつてきている。
わが国の老令者生活問題の特徴は、自己の収入で自活できる人が非常に少ないこ
と、子供と同居して子供の扶養を受けている老人が相当多いこと、また働く高令者
が増えており、有病率が高く相当無理をして働いていることがあげられる。
(2) 自活不能
昭和三八年度高令者生活実態調査報告(甲第二九号証)によれば、六五才以上で、
はつきり食べてゆけないと答えたもの六六・八%、七〇才以上では六八・四%、七
五才以上では七六・〇%、八〇才以上では八〇・八%と高令者ほど高くなつてい
る。
(3) 稼働老令者の実態
年令別の稼働率は、男子では、六五~六九才で六〇%、七〇~七四才で三一%、七
五~七九才で一七%、八〇才以上で一一%、女子では、六五~六九才で二九%、七
〇~七四才で一八%、七五~七九才で八%、八〇才以上で六・五%と漸減している
(甲第二九号証、表5の1)。稼働の理由は、働かないと生活に困るとする者が圧
倒的に多い(甲第二九号証、表5の4)。
健康状況別にみれば、いうまでもなく「元気」な人の就業率が高いが、「弱い、病
気がち」の人でさえ、男子一七%強、女子八・五%が就業しているのは、まことに
悲惨である(甲第二九号証、表5-1)。高令者が病気をもつたまま働いている人
のいることは、それだけ生活の厳しさを反映したものといえる。
最も深刻なのは、身体の調子が悪いと自覚していながら、治療を受けていない者
は、二三・一%あり、その理由は、治療しても治らない二八・〇%、家族に迷惑が
かかるから三・七%、お金がかかるから四・三%となつている(甲第四八号証)。
(4) 自活不能者の生活保障
自活能力のない者のうち、大部分(七八・二%)は、子供と同居して扶養されてい
る(甲第四八号証)。しかし、低所得階層では子供自身の生活が苦しいので同居扶
養は困難になるケースも少くない。
(5) 老令福祉年金受給者の生活実態
七〇才以上の老令者のうち、老令福祉年金を受けている人は、昭和三八年で二四八
三、〇〇〇人で六八・八%、昭和四八年で三六九五、〇〇〇人で七三・九%となつ
ている(甲第四九号証の三)。
そこで、老令福祉年金の経済的、社会的効果についてみると、昭和三五年東京都墨
田区の効用調査によれば、直接これを生計費に用いたものは、四七・三%(甲第三
一号証第四〇図)となつている。
七〇才以上で老令福祉年金を受けている者の増加は、昭和四〇年に二四八三、〇〇
〇人であつたものが、昭和四五年には三〇一二、〇〇〇人となり、昭和四〇年の受
給者を一〇〇とすると、昭和四五年のそれは一二一となる。ところで、被保護世帯
の年令階級別による割合をみるに、六五才以上の高令者で生活保護を受けている人
は、昭和四〇年で二一三、六二三人、昭和四五年には二六七、〇一七人であり、こ
の増加率は昭和四〇年を一〇〇とすると、昭和四五年は一二五となる(甲第四九号
証の二)。
以上のように、老令福祉年金受給者の増加率よりも、生活保護を受ける高令者の増
加率が高いということは、老令福祉年金によつて被保護者層に転落する高令者層の
増加をくいとめ得ないことを意味する。これをいいかえると、老令福祉年金には防
貧的な効果はないということになる。同じようなことは、昭和四〇年には六五才以
上の高令者の中で被保護者は三四・六%であつたものが、昭和四五年には三六・三
%と保護率そのものも高くなつている点からも首肯しうる。
以上のように、高令者の生活実態、老令福祉年金の果している役割をみれば、夫婦
受給制限規定には何らの合理性も有していないことが明らかである。
(被控訴代理人の陳述)
控訴人の主張は、すべて争う。改正前の国民年金法第七九条の二第五項にいわゆる
夫婦受給制限は、決して老令者が夫婦者であるという社会的身分によつて不合理な
差別的取扱をするものではない。
(一) 憲法第一四条にいう「平等」には、人々の受ける利益や負担を算術的平均
によつて機械的に均等に分つ「形式的平等」と名誉や財産や不利益などを各人の値
する分に応じて配分する「実質的平等」とがあり、最低生活保障の原理にたつて救
済的に最低限度の生活を保障すべき公的扶助においては実質的平等によつて給付が
実施されねばならないが、最低生活を予防的に保障しようとする狙いの社会保険給
付を支配するものは形式的平等をもつて足ることになる。そして、老令福祉年金制
度においても一応原則的には形式的平等がとられてはいるが、無拠出であり全額国
庫の負担において給付がおこなわれるところから、必ずしも形式的平等に徹底せ
ず、その受給の要件として本人の所得並びに配偶者または扶養義務者の所得が一定
額以下であることが要求されている面では実質的平等の視点が斟酌されている。
このように、一定の限度内においては、老令福祉年金は老令者の各々の個別的需要
を捨象して一律に一定の経済的利益を平等に支給する方式がとられてはいるが、一
律平等に一定の経済的利益を各個人に支給することを厳密に徹底するためには、特
定個人間の特殊事情によつて重複してくることとなる分が生ずる場合には、右の過
大分を調整する方がむしろ真に平等を確保する所以となる。
ところで、一般的に、夫婦が共同生活を営む場合、その生活費に何らかの共通部分
(以下、共通経費という)が存することは明らかであり、ほゞ同様の生活水準にあ
る単身者と夫婦者とを比較した場合には、このような共通経費の節約がなされるこ
とは、理論上のみならず実態としても真実である。
控訴人らは、本件の如き老令福祉年金は極度に低額であり、その中に共通経費を指
摘しうる現実的余裕はない旨主張するけれども、仮に現実に支給される老令福祉年
金が些少であり、共通経費節約の余地が僅少であつても、それは単に量の多寡の問
題であつて、共通経費の節約そのものを質的に変更するものではない。
したがつて、老令者の夫婦者が、もしそれぞれ単身者である場合に支給されるべき
ものを一定の共通経費の節約に対応する分たけ支給停止されたとしても、むしろそ
の方が却つて平等であるとみられるから、かかる立法的措置も事柄の性質に応じた
合理的理由によるものというべきであつて、憲法第一四条の禁止する不合理な差別
的取扱をなすものとすることはできない。
右のとおり、共通経費の節約可能という点から夫婦受給制限に一応の合理的理由が
ある以上、その給付の絶対額及び夫婦受給制限額をいかほどとするかについては立
法政策上の当不当の問題であつて、差別的取扱などの違法の問題は生じないという
べきである。
なお、夫婦者であつても別居中の者については共通経費の節約ということがないの
は当然である。しかし本件で問題となつているのは一つの規定の制度としての合理
性である。無拠出の年金は、社会保険等と同じく定型的な給付をなすものであるか
ら、対象をある程度類型的に把握し、これを全体的平均的に考察してその取扱を決
め、その適否を判断すべきである。夫婦についてもある程度類型的な把握が可能で
ある。すなわち夫婦は法律的に同居・協力・扶助の義務を負つているばかりでな
く、事実上も大多数の・夫婦は同居し生計を共にしている。真にやむを得ない理由
によつて別居を余儀なくされている老人夫婦はごく少数であり、同居の可能な夫婦
がたまたま勝手に別居している場合にまでそのために生ずる余分な費用を理由にし
て、同居している夫婦以上の給付を要求することは許されない。したがつて、別居
中の夫婦について別段の考慮をしていないからという理由で夫婦受給制限規定を非
難することはできないというべきである。
(二) ところで、控訴人らは、夫婦受給制限規定は、主として財政的な理由から
設けられたものであるに過ぎず合理性を有するものではない旨主張するけれども、
前記のとおり、夫婦受給制限の考え方には合理的根拠があるのみならず、夫婦受給
制限に限らず、国民年金制度の創設そのものが予算に関係するものであり、その財
源が一般国民の税負担で賄われていることを考慮すれば、財政支出の見通しをたて
た上で政策を決定すべきことは当然であり、むしろ立法者の義務というべきである
から、右主張は失当である。
しかして、右の如き合理的根拠を有する受給制限により浮いた財源を他に給付する
ことによつて、より多数の国民層に公的給付を受けられるようにすることは、限り
ある財源を効率よく公平に活用する見地からも相当のことというべきである。
(三) 更に、控訴人は、本件老令福祉年金の月額は、もともと共通経費を除いた
上で算出されたものであるから、共通経費の存在を理由とする減額調整を夫婦受給
制限の根拠とすることは論理の破綻である旨主張するけれども、当らない。
控訴人らが指摘する「生活保護における老令者の基準額が共通経費を除き農村地方
である四級地で月二、〇〇〇円程度である」との引用部分(甲第三五号証、C著
「国民年金法の解説」中の記述部分)は、乙第一〇号証の二(証人Cの証人調書)
によれば、記述自体の誤りであつて、「月二、〇〇〇円程度」というのは共通経費
を除かない場合の金額であることが明らかである。老令福祉年金額は、前記の如き
共通経費を除いた老令者の生活費を算出の基礎としたものではなく、控訴人らの右
主張は失当である。
○ 理由
一、当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却を免れないものと
判断するものであつて、その理由は、左記のとおり訂正、付加するほか、原判決の
理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
(一) 原判決一一枚目裏一〇行目に「至つて」とあるのを「亘つて」と、同一三
枚目表三行目に「その生活費の一部を補助」とあるのを「その所得の一部を保障」
と、同四行目に「しようとするもの」とあるのを「することを目的とする社会保障
施策である」と、同五行目に「また」とあるのを「そして」と、同一七枚目表八行
目に「至つたのであつて」とあるのを「至つたことが明らかであつて」と各訂正
し、同一四枚目表八行目の「支給するという」の次に「均一拠出・均一給付の原則
がとられており、」を、同一七枚目表五行目の「考えられ、」の次に「成立に争い
のない甲第二四号証の一ないし六、同第二五、第二六号証によれば」をそれぞれ加
える。
(二) いわゆる無拠出制の老令福祉年金は、拠出制を基本とする老令年金制度が
発足当時、既に老令であつたり、また拠出能力を欠くために国民年金法の適用によ
る同法の利益を受けられない者に対しても、国民皆年金という社会保障制度を均霑
させ年金的保護を得させようとの政策的配慮に基づき設けられた経過的、補完的な
制度である。
しかして、右老令福祉年金は、老令という、一般的に稼得能力の喪失ないし著しい
減退を来たすであろうと想定される事故の発生した場合に年金給付を行うことを建
前とするものではあるが、その資源は国庫の負担によるものであり、かつ、その受
給には若干の所得制限も設けられており、これらの点よりすれば公的扶助的色彩の
強い制度となつている。しかしながら、典型的な公的扶助の制度である生活保護
が、専ら憲法第二五条第一項の趣旨に基づき、生活に困窮した者に対し最低生活を
保障することを目的とするものであつて、貧困者に対する事後的、補足的な救貧制
度であるのに対し、老令福祉年金は、専ら憲法第二五条第二項の趣旨に則つて、未
だ生活困窮の状態までには立到つていない国民層に対し、その所得の一部を保障し
て生活設計に目途を与え、生活の安定に寄与しようとするものであり、いわば防貧
的制度の範ちゆうに属するものというべく、この点において公的扶助とは異るもの
といわねばならない。
すなわち、生活保護においては、対象者につき個々的な収入認定、資産調査を行う
ことによつて具体的な困窮度を測定し、その需要度に応じて給付額を調整するのに
対し、老令福祉年金は個々の老令者の経済状態や生活程度の差異を捨象して、これ
を大量的、類型的に観察し定型的生活者としての老令者を想定し、その平均的な需
要に着目して一律に定額を給付するものとなつているのである。
これを要するに、無拠出制の老令福祉年金は、公的扶助的色彩を有するけれども生
活保護と同一に論ぜられるべきものではなく、本来は社会保険類似の社会保障制度
であると解するのが相当である。
したがつて、本件老令福祉年金を生活保護と同一の公的扶助と解する観点より立論
を展開し、老令福祉年金の給付額、夫婦受給制限規定等を論難する控訴人らの主張
は失当といわねばならない。
(三) ところで、夫婦は本来一体として共同生活を営むものであり、このような
夫婦の共同生活においては生活費に共通部分が生じ、それらが節約可能であること
は見易い道理である。そして、かような夫婦がともに老令福祉年金を受ける場合
は、夫婦が一体として生活保障を受けていると考えるのが実際的であり、かくして
給付されたもののうちにも、右と同様に共通費用的な部分が存在するものというべ
く、このようなことの生じえない単身老令者との均衡上、右共通費用に相当する部
分につき夫婦老令者に対し多少調整を加えることは妥当な措置であり、却つて夫婦
老令者と単身老令者とを実質的な平等の下におく結果ともなるものと考えられる。
したがつて、いわゆる夫婦受給制限措置は、給付する年金額において、夫婦老令者
を単身老令者と差別して取扱うものではあるが、これをもつて不合理な取扱とする
ことはできないものであり、むしろ事柄の性質に即応した合理的な差別的取扱とい
うべきである。
(四) 控訴人らは、本件におけるが如き夫婦受給制限規定は、専ら国の財政的理
由によるものであつて、何ら合理性がない旨主張する。
しかしながら、夫婦受給制限規定は、夫婦老令者の共同生活から生ずる共通費用の
節約可能性に着目すると、夫婦老令者と単身老令者との間において年金支給額の調
整、均衡を図るのが事柄の妥当な筋道であるとの理由を根拠とするものであり、合
理的な措置であることは前叙のとおりである。そして、老令福祉年金が無拠出制で
あり国庫に依存していることよりすると、国庫の効率的な運用を維持し、国庫の負
担によつて受けるべき年金受給者間の利益の公平化を図ることが当然要請されるの
であり、夫婦受給制限が右の要請を満たすための一方策として採られた措置である
ことは否定し難いけれども、右の点をもつて、控訴人ら主張の如く、専ら国の財政
的理由のみが夫婦受給制限措置の根拠であるとすることはできず、また前記の如き
夫婦の共同生活に由来する生活費の共通部分の節約可能性に着目した受給制限の合
理性を失わしめるものともいえない。
控訴人らの右主張は理由がない。
(五) 控訴人らは、老令福祉年金額は極めて僅少、低額であり、その間に夫婦の
共同生活に由来する生活費の共通部分なるものを考える余地はない旨主張する。
しかしながら、老令者の所得保障という所期の機能を満し得る年金額としては幾何
の金額が相当であるか、すなわち老令年金の給付水準、給付額を如何にすべきか
は、立法機関が国民経済の進展、国家財政の状況等を総合考慮して合目的的な裁量
をもつてなすべき問題というべく、年金額の多寡あるいはその是非は当不当の領域
にとどまり、夫婦老令者の受給制限という調整措置そのものを違法ならしめるもの
ではないといわねばならない。
のみならず、成立に争いのない甲第三五号証、乙第三号証、同第一〇号証の二、三
及び同第一一号証によれば、老令福祉年金制度の発足に当り、当初年金額として算
定された月に金一、〇〇〇円という額は、当時における国民生活の状況、国家財政
等の諸般の事情よりみて、無拠出制の年金額として意味のある額として算出された
ものであることが認められるのであるから、本件老令福祉年金額が前記の如き夫婦
受給制限という調整措置を不当とする程の低額であるとすることはできない。
そして、老令福祉年金は、前叙の如く生活保護と異り、防貧的な所得保障の制度で
あるから、その給付年金額の妥当性や合理性について生活保護の次元または基準を
もつて論ずるのは正当でないといわねばならない。
控訴人らの右主張は当らない。
(六) 控訴人らは、老令福祉年金額は、既に共通経費的な部分を控除して算出さ
れているのであるから、更に右共通費用に着目して減額調整することを夫婦受給制
限措置の理由とするのは論理として破綻している旨主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第三五号証(国民年金の解説)には、年金額の
算定につき右と同旨の記載が存するけれども、成立に争いのない乙第一〇号証の二
(証人Cに対する尋問調書)の供述記載に徴すると、甲第三五号証中の右記載部分
は、著者の記述誤りであることが認められるから、右主張を認める証拠とはなし難
く、また成立に争いのない甲第一七号証(゛証人Eに対する尋問調書)にも右主張
と同旨の供述記載があるけれども、右部分はその記載自体からみて甲第三五号証の
前記記述部分を援用していることが明らかであるから、甲第一七号証も控訴人らの
主張を認める資料となし難く、他に控訴人らの右主張を肯認するに足る資料はな
い。
したがつて、老令福祉年金額が共通経費的な部分を控除して算定されたということ
を前提とする控訴人らの主張は理由がない。
(七) 控訴人らは、控訴人ら主張の如き老令者の生活実態に徴すると、老令福祉
年金には防貧的効果はなく、夫婦受給制限規定は何ら合理性がない旨主張する。
案ずるに、老令福祉年金は、前叙の如き目的と内容とを有する防貧的制度であると
ころ、本来、福祉年金等の防貧制度は、生活保護等の救貧制度と相俟つて憲法第二
五条の要請する社会福祉、社会保障、及び公衆衛生の向上及び増進に寄与すべきも
のであり、相互に有機的に補足し合つて社会保障制度全体を効果的ならしめるべく
予定されているものであるから、控訴人ら主張の如き老令者の生活実態が存すると
しても、これのみをもつて、夫婦受給制限規定を含む制度としての老令福祉年金
が、所期の機能を果しているか否かを論議するのは妥当でない。
しかして、前叙の如く、老令福祉年金につきその給付額、給付水準を如何にすべき
かは立法機関の合目的的な裁量に委ねられているものというべきであるところ、夫
婦受給制限の規定は、前記の如く、夫婦老令者については共同生活に由来する生活
費の共通部分の節約がなされうるのに対し、単身老令者についてはそれがないとい
う差異を調整し、夫婦老令者と単身老令者との間の支給の均衡を図らんとする措置
であり、国家財政の都合のみをもつて設けられたものではなく、立法機関の恣意に
よるものということはできないのであるから、老令者の生活実態が控訴人ら主張の
如きものであるとしても、これをもつて直ちに右減額調整措置を論難するのは当ら
ないというべきである。
控訴人らの右主張も採用し難い。
(八) 以上の次第であつて、本件夫婦受給制限規定は、憲法第一四条にもまた同
法第一三条にも違反するものではなく、これを無効と認めることはできないものと
いわねばならない。
二、よつて、右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、民事訴
訟法第三八四条第一項によりこれを棄却し、控訴費用の負担につき同法第九五条、
第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 本井 巽 坂上 弘 諸富吉嗣)

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