弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人小林優が差し出した控訴趣意書に記載してあるとおり
であるら、これを引用し、これに対して当裁判所は、次のように判断をする。
 一、 控訴趣意第一点法令の適用の誤について、
 所論は、原判決が本件A鉄B駅ホームは、「公共の場所ないし少なくともこれに
準ずる場所に当る、」として昭和二五年東京都条例第四四号集団行進及び集団示威
運動に関する条例第一条の規制の対象となる、と判断したことは、法令の解釈適用
を誤つたものであり、その誤は判決に影響を及ぼすことが明らかである、と主張す
る。
 <要旨第一>右条例第一条は、集団示威運動について「場所のいかんを問わず」そ
の規制を受けるかのような文言を用いているが、その趣旨とするところ
は「公共の場所」に限定して解釈すべきことは、所論指摘のとおりである。そこ
で、本件A鉄B駅ホームが果して右「公共の場所」に該当するかどうかについて判
断する。
 本来集団示威運動は、共同の意思、目的を有する多数の者が、一定集団の威力、
気勢を示して、集団外の不特定多数の公衆に対し、集団の意思、目的を訴えるため
の示威行動を内容とするものであるから、公権によるその規制は、一面憲法の保障
する国民の集会、表現の自由を侵害しないように、また、他面、公共の安全と秩序
の維持のため適切に行われなければならない。集団示威運動の規制を受くべき場所
を「公共の場所」としたのも、それが、前記集団示威運動が有効にその意図する目
的を達しうるところであると同時に、反面、集団示威運動によつて、公共の安全と
秩序の維持が危険にさらされる虞れが極めて大きいからである。したがつて本件条
例により集団示威運動が規制を受くべき「公共の場所」をさらに具体的に定義づけ
れば、それは、一般公共のための利用施設ないし場所として、一般公共が直接これ
を利用するため、有償または無償にて出入りすることの可能な公開の場所であつ
て、集団示威運動のためには格好な場所であるが、同時に公共の安全と秩序の維持
が直接そこなわれる虞れの大きい場所といえる。本件A鉄B駅ホームは、乗客とい
う一般公共のための利用施設ないし場所であつて、右公共の場所に該当することは
明らかである。原判決が、本件駅ホームは乗車券あるいは入場券を購入しさえすれ
ば自由に誰でもが出入しうる場所であり、いわば不特定多数の公衆が自由に出入
し、また利用し、集団示威運動によりその生命、身体、自由、財産に直接の危険を
及ぼす虞れのある場所であるから「公共の場所」または少なくとも「これに準ずる
場所」に当る、と解釈したのも必ずしも失当ではない。
 所論は、原判決の右論理を展開してゆくならば、入場券さえ購入すれば誰れも入
れる劇場内や不特定多数の者が自由に出入しうるビルの屋上、ビル内の広場、大学
構内広場もすべて条例の適用を受け、警察権力の跳梁を許す結果となり不当である
と主張する。
 右のような場所がすべて前述の一般公共のための利用施設として公開された場所
であり、それが果して集団示威運動の場として通常利用されうる場所であるかどう
か一概に肯定し得ないが、もしそれが集団示威運動の格好の場として利用され、し
かも、そこにおける一般公衆のための安全と秩序がそこなわれる虞れのあるとき
は、これを公共の場所または少くともこれに準ずる場所とし規制が行われるのも已
むを得ない。
 所論は、昭和四二年五月二九日の広島高等裁判所の判決が、広島県庁正面玄関前
構内が昭和三六年広島県条例第一三号第四条に定める「道路、公園、広場その他屋
外の公共の場所」に該らないと判断したことを支持し、本件も右判例と同趣旨の解
釈をすべき旨主張する。
 しかしながら、右判決は、県庁正面玄関前構内は、県庁自体の用、すなわち県庁
職員及び県庁を利用する特定の者の利用に供することを目的として設けられたもの
であつて、仮に右構内に県庁利用者以外の一般公衆が出入し、管理者がこれを黙認
している事実があつても、右施設場所は、本来公用の施設場所であつて、右条例に
いわゆる「公共の場所」に該当しないとしているものである。このような関係は独
り官公庁に限らず一般民間商社等にも共通して言えるのである。官公庁、商社の舎
屋施設は、官公庁、商社自体の用、すなわちそこに属する職員、そこに用務のある
一般公衆の利用に供する目的をもつて設けられたものであつて、当該官公庁、商社
に用のない一般大衆のため利用に供されるものでない。すなわち直接一般公衆のた
めの利用施設としての公開の場所ではない。(記念行事等のために臨時場内を公開
する場合があるにすぎない。)したがつて、このような施設構内に偶々一般公衆が
出入し殊に構内通路を便宜通行し、それを管理者において黙認している状況があつ
てもこれをもつて「公共の場所」と解することはできない。広島高等裁判所が広島
県庁正面玄関前構内、その間における通路を、前記条例の定める「公共の場所」に
該らないと判断したことは正当である。本件A鉄駅ホームの如き一般公共のため利
用施設として公開されている場所と、右判例に示された場所とを同一視して原判決
を非難する論旨は失当である。
 次に、「公共の場所」と、その管理権との関係について判断する。
 所論は、駅庁舎及び駅ホーム上は、すべてA鉄道の管理下にあり、もしその場所
に不法な侵入者があれば庁舎管理権に基いてこれを排除すれば足り、その排除に当
つて警察官の力を必要とする場合始めてこれを借りれば足るのであつて、右管理権
をだしぬいて本件の如き条例を適用することは不当である、と主張する。
 <要旨第二>ひとりA鉄道に限らず、すべて管理者のある施設はその管理者が当該
施設を維持管理し、施設本来の目的に従つてこれを保全する権限と職務
を有することは言うまでもない。ただこれらの諸施設の中で、特に公共のための利
用施設すなわち公衆が直接利用すべき公開施設における集団示威運動の適正を期す
るために、これらの場所を特に条例規制の対象としたものであつて、その施設に対
する前記管理者の管理権を否定するものではない。道路は建設大臣ないし地方自治
体の長、公園広場等はそれぞれ国有財産法所定の事務分掌者等の管理に属し、A鉄
駅のホーム等の公開諸施設は当該駅の長等の管理に属し、管理者はこれら公共用施
設本来の目的に従つてこれを維持管理保全すべき管理権を有するのであるが、同時
にこれらの諸施設は公共の場所として集団示威運動の規制の対象となるのである。
 したがつて、右公共用施設以外の施設、前記広島県庁舎前構内等の公用施設ない
し民間諸施設は直接集団示威運動規制の対象とならないから、当該施設の管理権者
がその管理権に基いて処理すべきものであり、これら条例の適用のない構内につい
ては公安委員会は、そこにおいての集団示威運動について拒否の決定をすること自
体できない。ただ、この構内に不当に侵入して集団示威運動の行われた疑いのある
ときは、住居侵入罪として、検挙の対象となりうることはいうまでもない。前記広
島高等裁判所判決が県庁舎前構内は広島県知事が広島県庁内取締規則によるその庁
舎管理権に基き規制措置を講ずれば足り右構内が前記広島県条例の対象とならない
と判断したことは正当である。所論は右判決の趣旨を理解せず公共用施設ないし公
共用の場所である本件B駅ホームについても、駅長の庁舎管理権の故もつて本件条
例の適用を否定するもので、当を得ない。
 以上、原判決に法令の解釈、適用に誤りがあるとする諸論旨はすべてその理由が
ない。
 二、 控訴趣意第二点事実誤認の主張について、
 原判決挙示の証拠によれば、被告人を含む学生約二百名は、A鉄B駅前広場にお
いて、米軍タンク車輸送に対する抗議集会をするため同駅ホームに到着したが、同
駅前広場における機動隊の警戒が厳しいため、予定を変更し次の列車で立川駅に引
き返えそうとしたが、その間同駅ホーム上において原判示無許可の集団示威運動を
行い、被告人がこれを指導した事実が明瞭である。
 所論は、被告人は、右立川駅に引き返えす迄の十五分間、ホーム上の乗降客の混
乱を避けるため学生集団をホーム上乗降客の支障にならない氷川駅寄りに誘導した
にすぎず、これは被告人として採り得る唯一の方法であり、緊急避難行為に準ずべ
きものであつて、少くとも可罰的違法性を欠く、と主張する。
 なるほど被告人が学生集団を三列の隊型に整え、到着したホームの位置より氷川
駅寄りにこれを誘導した事実は前掲証拠上これを否定し得ない。しかしながらその
集団移動の往きも掃えりも原判示の如き示威行進をし、その移動の前後にもシユプ
レヒコール等を繰り返えして集団示威運動を行つているのであつて、集団を移動せ
しめたこと自体は、乗降客の混乱を避けるためのものといいうるのであるが、B駅
長より直ちに解散するよう警告されているのを無視して、前記集団示威運動を行う
ことは、ホームにおける混乱を避けるために已むを得ないことでもなく、被告人と
して採るべき唯一の方法でもない。駅長の警告に従つて直ちに解散して正常な状態
において次の列車を待つべきであることは多言を要しない。被告人の行為が緊急避
難に準ずるものと主張し、また、可罰的違法性を欠くとして、その主張を排斥した
原判決を非難し事実誤認ありとする論旨は採用することができない。被告人を含む
学生集団がB駅ホーム上に滞留した時間が僅か十五分にすぎず、その間被告人が駅
長と和気靄々のうちに上り列車の時刻を尋ね立川駅に引き返えすことになつたとい
うような事実関係は、右判断を左右しうるものでもなく、原判決の事実誤認を主張
する論拠ともなしえない。
 以上原判決の事実誤認を主張する論旨もこれを採用することはできない。
 よつて刑事訴訟法第三九六条により本件控訴を棄却すべきものとして主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 関谷六郎 裁判官 寺内冬樹 裁判官 中島卓児)

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