弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告は棄却する。
         理    由
 抗告人は「原審判を取り消す。未成年者A、同Bの後見人に抗告人Cを選任す
る。」との裁判を求め、その抗告理由の要旨は「抗告人は昭和十九年にDと婚姻
し、同人との間に長女A、二女Bを挙げたが、昭和二十七年八月十二日Dを未成年
者両名の親権者と定めて協議離婚した。ところがその後間もなくDは死亡した。父
を失つた子の養育の主体となるべきものは母であり、母の親権又は後見の下で成長
を願うのは親子自然の入情であるから、母を未成年の子の親権または後見の任に当
らすべきである。よつて抗告人は原審家庭裁判所に後見人選任の申立をなし、その
呼出を受けたとき、抗告人はA、Bの両名に対する情緒纏綿の心情を披瀝し、抗告
人を後見人に選任せられたいと懇請した。ところが原審は右両名とは無縁の他人で
あるGを後見人に選任する審判をした。思うに、原審は後見人は親族であろうと他
人であろりとそれは問題外で何人を選任するも自由であるとして右福原を選任した
ものであろう。
 しかしながら、父を失つた子の求めてやまない実情は実母のそれに勝るもののな
いことは真理であり、又父を失つた子に対する母の愛情は痛切で、子の財産、環
境、身上、心境に種々思いを廻らし、母後見の下に慈愛を施し養育しようと欲する
のは親子自然の人情である。結局母と子のつながりという何よりも重要な自然的事
実を基盤として後見人は選任せらるべきである、抗告人には後見人となるべき欠格
事由はない。この抗告人を排斥して無縁の他人を選任したのは、前述の人間に共通
な親子自然の人情を無視し、父を失つた子に対する養育の主体を母とする思想を顧
みないもので、父母共に生存しない場合に無縁の他人を選任することとは大いにそ
の趣を異にするのである。本件の場合において敢て無縁の他人を選任したのは甚だ
失当であるから、原審判を取り消し、これに代る裁判を求める。」というにある。
 そこでまず父を失つた未成年の子は母の親権に服すべきものであるという抗告人
の主張について考えてみる。父母はその婚姻中は相共に平等の立場において未成年
の子に対する親権者であり、共同してその親権を行使し、その間にいずれか一方が
死亡したとしても、その後は生存する父又は母が単独で親権を行便する(民法第八
一八条)のであるが、父母が離婚した場合には事は自ら異つて来る。すなわち父母
が協議離婚又は裁判上の離婚をするときは自主的な協議或いは協議に代る審判もし
くは離婚判決によつて、父又は母のいずれか一方だけを子の全員或いは一人もしく
は数人の子に対する親権者と定めなければならない(民法第八一九条)のであるか
ら、その反面において、離婚は共同親権者てある父母のいずれか一方にとつての従
前有していた親権を関係的に喪失するとを意味するのである。この親権を失つた父
又は母は再婚して元の鞘に納まるか、他方の親権者に服している子を養子に迎える
かすれば再び親権者となることは民法第八一八条の規定上明白であるし、又民法第
八一九条第六項の規定に基く親権者変更の審判によつてその者が親権を回復する場
合もある。元来離婚による一方の親権喪失はその考が親権者たる資格の点で不適当
であるからではなく、全く夫婦共同体の破壊に伴い子の利益のためにする円満な親
権の共同行使が期待されないことを民法が顧慮した結果に外ならない。このことだ
けからすれば離婚後親権を行使している父又は母が死亡したときは、生存する母又
は父に親権が当然移行するという抗告人のいうような考え方も成り立たないでもな
い。しかしこの考え方を是認すべき成文上の根拠は外にない。むしろ民法は反対の
態度を採つていることの一端を親権者変更の規定を置いたことによつて明らかにし
ていると思う。けだし親権者の変更はそれを相当とする事情の存することが肯定さ
れる場合に子の親族の請求に基く家庭裁判所の審判によつて形成されるものであつ
て一定の事由の発生に伴う当然の帰結として招来されるものではない。そこには子
の利益のために慎重な手続と態度が要求されているのである。
 そして右親権者の変更は親権を行使している父又は母の生存中に限つて行われ、
その死亡後にはその行われる余地のないことは自明である。なお右親権者の死亡に
よつて当然生存する他の一方に親権が移行するものとすれば折角の親権者を一方か
ら他方へ変更する審判がなされたにかかわらず、元の一方が再び親権者になること
になる不都合な場合も考えられるのである。思うに、民法は離婚後親権を行使して
いる者の死亡したときには、離婚後の事態が進展変化することも新たな事情の発生
することも十分に考えられるので、子の利益のために、これに適応するよう、それ
がためには、かつての親権者の存否のみに捉われず、事を改めて合理的に処理<要
旨>する必要がありそうすることを妥当としたものといわなければならない。 旨>以上の観点から、未成年の子の父母が離婚し、その一方である父又は母が単独で
親権を行使している場合に、その者が死亡したときは、たとえ他の一方である母又
は父が生存しているとしても、親権は右生存者に移行することはなく、従つて未成
年者に対して親権を行う者がないときとして後見が開始するものと解する。これと
反対の抗告人の主張は採用しない。
 よつて進んで、抗告人を後見人に選任しなかつた原審判は失当であるという抗告
人の主張について判断する。抗告人は事件本人である未成年者A同Bの実母であ
り、世に子を思わぬ親はなく、母を慕わぬ子のないことは抗告人のいうとおりであ
ろう。しかしながら、未成年の子の後見人は諸般の事情に照して子の利益のために
最もふさわしい者を選任すべきであつて、この観点からして、母はその有力な存在
であることも多いが、時としてそうでない場合もあるわけであるから、父を失つた
子の後見人には欠格事由のない限り母を選任すべきであるという理はないのであ
る。原審並びに当審での事実の調査及び証拠調の結果によつて認められる、Dは抗
告人と京都市に居住していたが、昭和二十七年八月抗告人の行状に因して協議離婚
することになり、Dは追い出されるようにしてABの両名を伴い帰郷したものの、
思いなやんだ末、同年九月十一日鉄道自殺を遂げたこと、Dには先妻との間にE
(昭和五年生れ)F(昭和八年生れ)の両名があり、現にEがA、Bの面倒を見て
いること抗告人にも先夫との間に生まれた子供があり、その二人と一緒に暮し現在
ハウスメイドとして働いているものであること、その他諸事情に照せば抗告人を
A、B両名の後見人に選任しなかつたことを不当ということはできないのみなら
ず、以上の事情を考慮して、第三者の立場にある者の中から後見人を選ぶ方針を樹
て、右両名の居村の寺院の住職でかつ教職にあるGを後見人に選任した原審判は妥
当というべきてある。
 よつて本件抗告は理由がないから、主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 田中正雄 判事 神戸敬太郎 判事 平峯隆)

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