弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄し,第1審判決中上告人の敗訴部分を取り
消す。
前項の部分につき,被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人小泉一樹ほかの上告受理申立て理由について
1本件は,新潟県情報公開条例(平成13年新潟県条例第57号。以下「本件
条例」という。)に基づき,実施機関である新潟県警察本部長(以下「新潟県警本
部長」という。)に対し,「凶悪重大犯罪等に係る出所情報の活用について」と題
する行政文書(以下「本件文書」という。)の公開請求をした被上告人が,本件文
書中,「出所者の入所罪名」,「出所者の出所事由の種別」及び「出所情報ファイ
ルの有効活用」に係る情報(以下「本件情報」という。)等の記録された部分を公
開しないこととし,その余を公開する決定(以下「本件決定」という。)をされた
ため,本件決定のうち上記部分を不公開とした部分の取消しを求めている事案であ
る。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)本件条例7条は,「実施機関は,公開請求があったときは,公開請求に係
る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「非公開情報」という。)のいずれかが
記録されている場合を除き,公開請求者に対し,当該行政文書を公開しなければな
らない」と定め,その4号において,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又
は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすお
それがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を掲げている。
(2)本件文書は,警察庁刑事局刑事企画課長から新潟県警本部長に対し送付さ
れた文書であり,同課長が庁内各課長,各管区警察局広域調整部長,警視庁刑事部
長,警視庁組織犯罪対策部長,各道府県警察本部長にあて平成17年8月31日付
けで発した通達(以下「本件通達」という。)が記載されたものである。
本件通達の要旨は①警察庁において,平成17年9月1日から,殺人,強盗
等の凶悪重大犯罪やこれらと結び付きやすく再犯のおそれが大きい侵入窃盗,薬物
犯罪等に係る出所情報の提供を法務省から受け,犯罪捜査に活用することとした,
②上記出所情報については,出所情報管理システムを構築し活用する予定である
が,それまでの間,法務省から提供を受けた出所情報を警察庁が整理,編集するこ
とにより作成した電磁的記録(以下「出所情報ファイル」という。)を送付するこ
ととしたので,本件通達の示すところに従い,その有効活用及び適正な取扱いの確
保を図られたいというものである。本件通達は,出所情報ファイルに関し,犯罪の
捜査のために利用するものとすること,警察庁から送付する月の前月中に出所した
者及び送付する月中に出所予定の受刑者を,「入所罪名」及び「出所事由の種別」
によって更に限定した上で対象とし,出所者の氏名,生年月日,性別,本籍,入所
罪名,入所年月日,出所者が出所した年月日又は出所予定の年月日,出所者が出所
する行刑施設の名称,出所事由,出所者ごとに付与された管理番号,法務省からの
提供の年月日を記録するものであることなどを示している。
(3)前記の出所情報の提供は,平成17年9月1日から実施されている。その
対象罪種が二十数罪種であること,その対象者が出所者全体の8割程度に及ぶこと
などがそのころ報道された。
(4)上告人は,新潟県警本部長において本件情報が本件条例7条4号所定の非
公開情報に該当すると認めた理由として,次のとおり主張している。
ア「出所者の入所罪名」及び「出所者の出所事由の種別」に係る情報を公にす
ることは,出所者に対し,同人の出所の事実を警察が把握していることを教示する
のと同じ結果となる。
イ出所情報ファイルを利用した捜査手法は,既に公表された,犯人の絞り込み
というもののみにとどまらないから,「出所情報ファイルの有効活用」に係る情報
を公にすることは,警察が出所者に対しどのような捜査を行おうとしているのかを
教示するのと同じ結果となる。
ウそして,出所者は,犯罪を企図する場合は検挙を逃れるために最大限の注意
を払うものであるから,自分が出所したことを警察が了知していることなどを知れ
ば,出所後の行動や犯行手口等の選択をより注意深く行い,周囲に対する警戒を強
め,更には出所情報ファイルを逆手に取った対抗措置を講ずるなどして,出所情報
を活用した捜査の実効性を著しく低下させるおそれがあるから,本件情報を公にす
ることにより犯罪の捜査等に支障を及ぼすおそれがある。
3原審は,上記事実関係等の下において次のとおり判断し,本件決定のうち本
件情報の記録された部分を公開しないこととした部分を取り消すべきものとした。
(1)本件通達に基づく出所情報活用の制度の対象が二十数罪種に及び,対象者
は出所者全体の8割程度の数になること,すなわち,出所者の大部分が上記制度の
対象にされていることは,報道等により公表されているのであるから,重い犯罪を
犯して刑に服したという自覚のある者は,「出所者の入所罪名」及び「出所者の出
所事由の種別」に係る情報が公にされるのを待つまでもなく,自分がこの制度の対
象とされていることを当然に認識し又は認識し得る状況にあるものと考えるのが自
然である。そうすると,上記情報が公にされることによって初めて,重い犯罪を犯
して刑に服したという自覚のある出所者が警察への対抗措置を講ずることになると
は認め難い。
(2)本件文書のうち「出所情報ファイルの有効活用」に係る情報の記録された
部分は,わずか3行程度にすぎず,本件通達が警察内部の運用指針を示したもので
あり,個別具体的な犯罪の捜査に関するものではないことを考慮すると,上記情報
に,これを公開すると犯罪の捜査等に支障を及ぼすおそれのある内容が含まれてい
ると考えることは困難である。
(3)したがって,本件情報が本件条例7条4号所定の非公開情報に該当すると
した新潟県警本部長の判断は,その予測的判断を支える事実の基礎を欠くか,又は
その前提とした事実に対する評価が明白に合理性を欠くものとして,社会通念に照
らし著しく妥当性を欠くことが明らかというべきであり,合理性を持つ判断として
許容される限度内のものと認めることができない。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)前記事実関係等によれば,本件通達による出所情報の活用は,殺人,強盗
等の凶悪重大犯罪やこれらの犯罪に結び付きやすく再犯のおそれが大きい侵入窃
盗,薬物犯罪等に係る出所情報の提供を法務省から受け,これを整理,編集するこ
とにより作成した出所情報ファイルを犯罪捜査に利用するというものであり,その
対象罪種が二十数罪種あるというのであるから,本件文書の「出所者の入所罪名」
の項には,上記の対象罪種とするのが相当であると判断された罪種が,犯行の態様
等を考慮してより具体的に特定されたものを含め,二十数種にわたって記載されて
いると考えられ,また,「出所者の出所事由の種別」の項には,出所者の出所事由
のうち出所情報ファイルの記録対象とするのが相当であると判断されたものが記載
されていると考えられる。そうすると,「出所者の入所罪名」及び「出所者の出所
事由の種別」に係る情報が公にされた場合には,出所者は,自分が出所情報ファイ
ルの記録対象となり出所情報の活用の対象とされるかどうかなどについて,単なる
推測にとどまらず,より確実な判別をすることが可能になるということができる。
(2)さらに,前記事実関係等によれば,本件通達は,提供された出所情報を犯
罪捜査に利用することとし,その有効活用等を図ることを求めるものであるから,
「出所情報ファイルの有効活用」に係る情報を公にすることは,一定の限度におい
てではあるとしても,出所情報ファイルを活用した捜査の方法を明かす結果を招く
ものといわざるを得ない。
(3)そして,犯罪を企てている出所者が,自分が出所情報ファイルの記録対象
となっていることなどを確実に知った場合には,上記の入所罪名等の情報が広く送
付されていることをも知ることとなって,より周到に犯罪を計画し,より細心の注
意を払ってそれを実行しようとする可能性を否定することはできない。また,犯罪
を企てている出所者が,その出所情報を活用した捜査の方法をその一端でも知った
ときは,その方法の裏をかくような対抗策に出る可能性があることも否めない。
(4)そうすると,本件情報を公にすることにより犯罪の捜査等に支障を及ぼす
おそれがあると認めた新潟県警本部長の判断が合理性を持つものとして許容される
限度を超えたものということはできず,この判断には相当の理由があるから,本件
情報は本件条例7条4号所定の非公開情報に該当するものというべきである。した
がって,本件決定のうち本件情報の記録された部分を公開しないこととした部分を
取り消すべきものとすることはできない。
5これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,本件決定のうち
本件情報の記録された部分を公開しないこととした部分の取消しを求める被上告人
の請求は理由がないから,第1審判決中これを認容した部分を取り消し,同請求を
棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官涌井紀夫裁判官甲斐中辰夫裁判官宮川光治裁判官
櫻井龍子裁判官金築誠志)

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