弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人弁護士山崎一郎、同岡部秀温の上告理由は別紙のとおりである。
 上告理由一について。
(1)論旨は要するに、本件選挙の不在者のための投票用紙及び投票用封筒の交付
手続に違法はない旨を主張するに帰する。
(イ)原判決の認定するところによれば、天王町選挙管理委員会委員長は、選挙人
D外一二名に対し、公職選挙法施行令五二条三項による証明書を提出することがで
きない理由記載欄に「証明者なし」と記載した右選挙人等自身の作成した疎明書と
題する書面を徴して投票用紙及び封筒を交付したというのである。所論のように、
法令は疎明方法については何等の制限、方式を規定していないけれども、単なる「
証明者なし」との記載によつては、何故に証明書を提出することができないかを疎
明したことにならないのは明白である。
(ロ)原判決の認定するところによれば、Eに対しては、F作成名義の不在証明書
によつて用紙、封筒を交付したのであるが、右の証明書には右Fの住所の記載もな
く不在事由の記載もなかつたというのである。
 かかる証明書の提出によつて不在事由の証明があつたといえないことは原判示の
とおりである。若し所論のように、右Eが北海道旭川市に住所を移したことが明ら
かであれば、同人は本件選挙に選挙権を有しなかつたはずであり、かかる者に対す
る用紙、封筒交付の違法は一層明白であるといわなければならない。
(ハ)原判決の認定するところによれば、選挙人G外二名に対して、証明書を提出
できない理由の記載欄に「証明者なし」と記載した選挙人自身の作成した疎明書を
徴して用紙、封筒を交付したというのであつて、かかる事実をもつてしては、証明
書を提出できない事由の疎明があつたといえないことは、(イ)で説明したとおり
である。
(2)論旨は、本件選挙の不在者投票の受理手続に違法はないというのである。
 公職選挙法施行令六三条によれば、投票管理者は、投票箱を閉ぢる前に、投票立
会人の意見を聞いて、不在者投票を受理すべきかどうかを決すべきであるが、原判
示一三票については、投票用封筒の表面及び裏面またはそのいずれかの記載を欠い
ているというのであつて、かかる不在者投票については、投票管理者としては受理
を拒否するよりほかはない。しかるに投票管理者がこれらの投票を受理したのは違
法であるのみならず、そもそも、かかる結果を生じたのは、不在者投票管理者の事
務処理の違法に原因があつたものというべきである。
 選挙の投票は、選挙人が選挙当日投票所に赴き投票するのが原則であり、公職選
挙法は不在者投票を例外的に規定しているのであるが、不在者投票制度は、ややも
すれば不正行為の手段に利用されるおそれもあるのであつて、法令がその手続につ
いて相当厳密な規定を定めているのもそのためと解すべきである。不在者投票に関
する規定は、所論のように軽々に考えるべきではなく、その違反は、場合によつて
は選挙全部の無効原因にもなり得るものといわなければならない。
 論旨は、本件選挙において違法な不在者投票は三〇票に過ぎず、当選無効の原因
になることがあつても選挙全部を無効とすべき理由にはならないというのである。
もとより、他に選挙無効の原因がなく、しかも違法な不在者投票の数が限定できる
場合においては、よつて必ずしも選挙全部を無効とすべきではないということもで
きる。しかし、本件選挙においては、後述するように、選挙の手続全般にわたつて
厳正に行われたかどうかを疑わしめるものがあり、上述不在者投票の違法管理も、
選挙全般にわたつて疑惑の念を抱かせるような事務処理の一環としてあらわれてい
るものと見ることができ、また、後述の違法事実との間に因果関係のないとも断定
し難いものがある。所論のように違法不在者投票の数が限定できるからといつて、
直ちに選挙の効力に関係がないということはできない。論旨は理由がない。
 上告理由二について。
 原判決が確定するところによれば、本件選挙の開票に際しての投票数は投票者数
に比して二三票多く、町選挙管理委員会が異議申出に基いて投票の点検をしたとこ
ろ、当選者原告Aの投票数は三一票少く、当選者Hの得票数は二票増加していたと
いうのである。また開票に際し、投票箱の中から不成規の紙片一一八枚も発見され
たというのである。
 論旨は、かかる事実があつたからといつて、選挙の自由公正が阻害され選挙人に
疑惑の念を生ぜしめたものというべきではない旨を主張し、この点に関する原判示
を非難するのである。
 開票に際し、投票数が投票人数より若干多いことがあつても、それだけで直ちに
選挙を無効とすべきではない。しかし、本件選挙において、その過剰投票が二三票
の多数に上つた事実と、異議決定に際して上述するような多数の得票数の増減があ
つた事実が確定されているのである。投票数の計算は候補者の当落に直接つながる
問題であるから、いずれの選挙においても、誤りのないように厳正に計算されるの
が常であるが、それでも、なお、ときに誤りのないことを保し難いことは論旨のと
おりであるが、本件のように、その総数が二度にわたつて増減されるという事実は、
選挙事務従事者に悪意はないとしても、少くとも、その事務処理が著しく厳正を欠
いた結果と見るよりはかなく、このことと、前記不在者投票に関する規定違反とを
あわせ考えれば、かかる選挙の結果について選挙人が多大の疑惑の念を抱くのはむ
しろ当然であつて、上告人秋田県選挙管理委員会が本件選挙を無効とし、原判決が
これを是認したのは十分に首肯することができる。なお不成規の紙片一一八枚が投
票箱から発見された事実については、所論のように、選挙事務従事者において阻止
することが困難であつたものといえないことはないが、上記のような本件選挙の事
態から見れば、原判決が右紙片の投入行為に組織的集団的な計画性ありとし、選挙
の事務処理が適正を欠き、選挙の自由公正が阻害されたとする一事由としたのも肯
けないことはない。
 以上説明のとおり本件上告は理由がないからこれを棄却することとし、民訴三九
六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で主文のとお
り判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介

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