弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 弁護人中野義定、同伊藤利夫、同小風一太郎の上告趣意第一点同第二点について。
 記録を調べて見ると、証人A並びに同Bに対する各予審訊問調書中の各供述記載
によれば、Cの診断はA医師自身がしたものでなく、B医師にさせたものであつて、
A医師は富山市D病院の外科主任として責任者たる地位にある関係上、所論診断書
は同人の作成名義としたものであることは所論の通りである。しかしCが右D病院
で外科部のB医師の診断を受けたとしても、それは同病院外科部主任A医師の指揮
監督の下に、外科部の構成員たるB医師が外科部のために現実に外科的仕事をした
に過ぎないものであつて、責任者が必要に応じ自ら手術をし又はその部下をして手
術せしめることは通常あり勝ちである。後者の場合でも対外的には外科部の責任者
である外科部主任が診断したと見るのを相当とする。従て診断書も責任者名義をも
つて作成するのは社会通念から見ても国民医療法第一〇条第一項の趣旨に適合する
ものである。果して然らば本件においてCを診断したものはD病院外科主任Aであ
つて、Cの診断書を右A名義にて作成したのは正当である。されば原判決が右A医
師作成の診断書を証拠にとつたことは、所論のように虚無の証拠によつて事実を認
定した違法ありということはできない。又原審裁判長が証拠調にあたり所論診断書
の作成者たるA医師の訊問請求をすることができる旨を告げたのは正当であるから
所論のような違法ありということはできない。論旨はすべて理由がない。
 同第三点について。
 記録に依れば、原審公判廷において裁判長は被告人Eに対する身上取調書に基き
同人の前科について取調べているが(記録九八八丁)右身上取調書(記録四六四丁)
によれば所論の前科欄には被告人が昭和二〇年四月一七日富山区裁判所において国
家総動員法違反並に屠場法違反により懲役四月に処せられた旨の記載があり屠場法
違反の罪に対する法定刑は昭和二三年七月一二日法律第一四〇号に依る改正前には
罰金刑のみであつたから、右記載によれば被告人の右前科は国家総動員法違反と屠
場法違反との併合罪として処されたものではなく想像的数罪もしくは牽連犯として
処断されたものであることがわかり。又右身上取調書にも大赦された旨の記載を欠
いている。従つて所論のような大赦令により被告人の右前科が赦免されなかつたこ
とは明白である。なお昭和二〇年四月一七日富山区裁判所が被告人Eに対して言渡
した国家総動員法並びに屠場法違反の罪に関する略式命令を調べて見ると、被告人
Eは(一)昭和一九年一二月中旬頃牛二頭を食用に供する目的を以て譲受け(二)
同年一〇月中旬頃から一二月中旬頃迄の間三回に亘り牛二頭、馬二頭を何れも食用
に供する目的で屠場外で屠殺解体したものであつて右の所為は国家総動員法第八条、
屠場法第三条に違反するものとして、刑法第五五条同第五四条第一項が適用されて
いる。然らば右犯罪は昭和二〇年勅令第五七号によつて赦免されなかつたものであ
ることが明である。これによつて見れば原審は右身上取調書に基いてこの点の取調
を為したものであることが窺われるから論旨は理由がない。
 同第四点について。
 しかし被告人Eが原審公廷で「昭和一八年二月二三日富山区裁判所に於て竊盗罪
に依り懲役六月に、昭和二〇年四月一七日同区裁判所に於て略式命令を以て国家総
動員法違反並びに屠場法違反罪に依り懲役四月に処せられました」と供述した趣旨
は、特に反対に解すべき供述がない限り、その執行を終つたものである趣旨である
ことは経験則上明である。論旨は採用することができない。
 よつて刑訴施行法第二条、旧刑訴法第四四六条により主文の通り判決する。
 右は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 橋本乾三関与
  昭和二四年一二月一〇日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    藤   田   八   郎

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