弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原略式命令を破棄する。
被告人は無罪。
理由
1網走簡易裁判所は,平成19年6月12日,「被告人は,Bが行政書士でな
く,かつ,法定の除外事由がないのに,同人と共謀の上,業として,別表記載のと
おり,平成18年6月25日から平成19年3月6日までの間,前後3回にわた
り,北海道斜里郡(以下省略)同人方において,Cほか2名から依頼を受け,事実
証明に関する書類である家系図合計3通を作成し,その報酬として合計33万86
85円の交付を受け,もって行政書士の業務を行ったものである。」との事実を認
定した上,行政書士法21条2号(平成20年法律第3号による改正前のもの),
19条1項,刑法60条,18条,刑訴法348条を適用して,被告人を罰金50
万円に処する旨の略式命令を発付し,同略式命令は,同年6月29日確定した。
2しかしながら,一件記録によると,次の事実が明らかである。
(1)本件行政書士法違反被告事件の共犯者とされたBは,被告人との共謀によ
り別表記載のとおり家系図3通を作成し報酬の交付を受けた旨の上記行政書士法違
反と同一の公訴事実及び他の者との共謀による同種行政書士法違反の公訴事実につ
いて,平成19年6月6日起訴され,その作成した各家系図が行政書士法1条の2
第1項にいう「事実証明に関する書類」に該当しないと主張したが,第1審裁判所
は,各家系図は「事実証明に関する書類」に該当するとして,Bを懲役8月,2年
間執行猶予に処し,控訴審判決もこれを維持した。同判決に対しBが上告したとこ
ろ,平成22年12月20日当裁判所第一小法廷は,各家系図は,個人の鑑賞ない
しは記念のための品として作成され,対外的な関係で意味のある証明文書として利
用されることが予定されていなかったとして,「事実証明に関する書類」に当たら
ないと判示し,Bに行政書士法違反の罪の成立を認めた控訴審判決及び第1審判決
には,法令の解釈適用を誤った違法があるとして,控訴審判決及び第1審判決を破
棄し,Bに対し無罪の言渡しをした。
(2)本件は,共犯事件であって,被告人において,Bが家系図を作成すること
を知りつつ,行政書士が使う「戸籍謄本・住民票の写し等職務上請求書」をBに有
償で提供し,Bがこれを利用して不正に入手した戸籍情報により本件各家系図を作
成したという事案であり,別表記載の家系図に係るBの上記行政書士法違反被告事
件と本件は家系図の作成に関する証拠が共通で,認定できる事実も全く同一であ
る。そして,本件において,家系図の作成につき,法の適用に関しBの行為と別個
に評価され得るような事情はなく,Bの行為について法律上犯罪行為に該当しない
とすれば,被告人にも家系図作成については犯罪が成立しない関係にあるというべ
きである。
3上記の事実関係の下では,原略式命令は,その審判が法令に違反したことに
帰し,かつ,被告人のため不利益であることが明らかである。
よって,本件非常上告は理由があるから,刑訴法458条1号により原略式命令
を破棄し,同法336条前段により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決
する。
検察官佐藤崇公判出席
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官竹内行夫裁判官須藤正彦裁判官
千葉勝美)

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